Kの死

ふと、時計を見ると四時過ぎだった。僕は真新しい鞄を下げ、帰りの電車へと歩き始める。
この学校に入ってからもうまる二年になる。中学の頃は、呑気なものだった。家で勉強するのは、試験前とだけ決まっていた。それ以外の時間は、ひたすら友達との遊びに過ごした。部活でテニスをしたり、家で共にテレビゲームをしたり・・・しかし高校に入って二年もたってみれば色々違った。大学に進学するための厳しい受験戦争があるし、周りはみんなライバルだった。どれだけランクの高い大学に行くか。そのことに皆あくせくしていた。
僕はそんな生活が嫌で、かといって勉強を止めることはできないので、毎日を憂鬱な気持ちで送っていた。
しかしそんな生活にも一筋の光がともることもある。僕のそんな生活を変えてくれたのは、僕と同じ塾に通う、ある友人だった。名前をKという。Kと僕は同じ塾の同じ教室で席が近かったという理由で知り合った。
そうして僕達は仲良くなり、行動を共にするようになった。話もいくつもした。憧れの女の子のことや学校の授業のこと、受験戦争の大変なこと、それらの話の中で僕達は一層、友情を深め互いに刺激しあうライバルとなった。
そうして高校三年の夏が来て、勉強や模擬試験はますますひどくなっていった。僕はなんとか平気だったが、Kはその大変さから、一種のノイローゼになりかけていた。
僕達ふたりは励ましあってその夏を乗り切ろうとした。
僕はあまり頭がよくなかった。そしてKも僕と同じくらいだった。しかし、Kも僕も両親は共にいい大学に入らせたがっていたので、S大やK大に合格することを、目標にされた。
どうしてこんな勉強しなければいけないのか、僕は将来、自分が就職する仕事場を想像した。そうして使い走りや上司に怒鳴られることを考えるとうんざりとするのだった。
 ある日の帰り道、Kに僕はこう言ったことがある。
「僕達、ちゃんといい大学に入れるかなあ。そうして就職できるかなあ。サラリーマンってきっと大変だよね」
「僕はそんなのはごめんだ。何か自分の好きなことを職業にしたい。大学だけは親の言うことを聞いて、いいとこに入るさ。でもその後は僕の勝手だ。まあがんばるさ」
そうKは言ってまた歩きはじめるのだった。それから冬が来て、受験の季節になった。僕もKも共に寒い中試験を受けた。雪が降る中、試験会場までKと共に行ったことを僕は今でも覚えている。
 そうして結果が出た。僕は第一志望のS大に受かり、Kは落ちた。しかしもちろんそんなことがあっても僕達の友情は変わらなかった。しかし春が来て、僕が大学に入学することになった時、事件は起きた。Kが自殺をしたのだ。
 それはショッキングな出来事だった。彼の母親からの連絡と続いて起こった、葬式のことを僕は忘れられない。Kは受験が苦となり自殺したのだ。彼の遺書にはこう書いてあった。
「僕は若くして死ぬ。これ以上の苦しみには耐えられない。受験はもうだめだ。僕は生きていく気力を失くした。さようなら。みんな。ありがとう」
 その遺書を読み、僕はもしKが受験で受かっていたらと思うと悔しい気持ちになる。そうして受験戦争が憎くなる。そしてそれから十年以上の日がたった今でも僕は冬が来るたびにKのことを思い出す。若くして亡くなった彼のその思いと彼の苦しみとを。

Kの死

Kの死

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-02-02

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