明日、また欲情する

明日、また欲情する

 作品はすべてノンフィクションとなります。更新は不定期です。

明日、また欲情する

 女である。

 独り身である。

 雨の降る日はどうしてか、寂しさが心に滲む。

 まだ十代の頃は、様々な異性との出会いがあった。肌を触れ合わせる機会が、ふと横を向くだけでどこにでも転がっていた。

 今、二十代の半ばを過ぎて、鏡を覗いてみると、仕事に明け暮れ疲れた顔をした、もうどう贔屓目に観察しても、十代の少女には見えない女がそこにいた。ただ生きているだけで人は、老いてゆく。そんな当たり前のことが受け入れ難く、悔しさが滲んだ。

 鏡で入念に顔をチェックする。いや、皺はできていない。まだ間に合うと、目元が訴えてきている。しかし艶の失せつつある肌が、そんな目元を嘲笑う。

 潤いが欲しい。異性の肌が欲しい。つまりはセックスがしたい。焼き尽くされてしまう程の情熱と、ぐずぐずに溶けてしまうくらいの快楽を求め、頭の中は常に妄想で忙しい。

 そんな自分を浅ましいと思う気持ちには、幾重にも紐を巻いて。

 わたしはこのエッセイを書くことに決めたのである。

 眠る前に、ベッドの中でこそりと自慰をする。そんな女性は割りに多いのではないだろうか。それともこれは、わたしだけの特性なのか。わからないが、それをすると寝つきの悪さが呆れるくらいにアッサリと解消されるのである。

 ふと、気がついた。いつしかそれは眠りにつくためだけの儀式となっており、そこに快楽を求める気持ちや楽しさが失せていることに。

 このままではいけない。わたしの中の、まだ若々しくありたいという気持ちが心へそう囁いてくる。しかし、恋人などいない。そんなものは現実に必要としていない。何故ならば、共に過ごせる時間の多くは仕事に吸い取られているからだ。更には数々の趣味が、恋人へ裂く時間などないのだと口々に叫んでいた。

 そこでまずは、その眠りにつくためだけの儀式となってしまった自慰を、もっと潤いのあるものにしようと考え付いた。ベッドに潜り込み、もう流れ作業のように股へ伸びる手をスマホへ向け、ネットサーフィンをする。この歳の女がエロスについて思いつくものといえば、大人の玩具だ。いいや、やはりわたしだけのことかもしれない。

 大人の玩具を取り扱っているサイトは、男性向けが多いように思う。サイトデザインはけばけばしく、誇大広告かと思えるような誘い文句がずらずらと並んでいて、女性の立場から見るとつい物怖じしてしまう。詐欺や、情報漏えいも怖い。そこでわたしは、まずそういうサイトの女性向けがないかどうかを検索してみた。

 ああ、あった。さすが、そううたっているだけあってサイトは柔らかく落ち着いたイメージのデザインだ。使ってみた声も書かれており、男性と寝る為のムード作りに利用できそうなグッズが揃っていた。ただ、わたしにそれは必要ないので、まずクリックしたのはバイブレーター。男性器の形をしたあれだ。初心者向け、中級者向け、上級者向けとそれぞれあって、どれにしようか悩んでしまう。

 色々と見ているうちに、自分の愚かさを知った。そういえばわたしは、膣よりも外の方がいいのだと思い出したのだ。バイブレーターから一旦離れ、今度はローターを探してみる。そこには様々な形のローターが並んでいた。デザインも、一見してローターだとわからないようなものがある。リップクリーム型のものが気に入ったので、それをカートへ入れた。

 注文はなるべく一度に済ませたい。そこで、ついでにやはりバイブレーターも購入しておこうと先ほどまで見ていたページに戻る。もう何年も男性とセックスをしていないのに、いきなり極太のものを入れるわけにはいかない。緩くなるという心配はさほどしていなかった。わたしのそこが活躍していた当時、よく、締め付けがすごいと言われていたのだ。残念なことに、その当時は今より更に膣で快楽を得られなかったので、それは痙攣をするような締りではなかったはず。婦人科に行った際、単純につくりが狭くて浅いと女医から言われたことがある。きっとそれだからだろう。

 バイブレーターは、初心者にお勧めというマークがついているものを選んだ。男性器というよりは、柔らかい線を描く細い雲のような形である。水色だったのでそう連想させられたのかもしれない。使う際はコンドームを被せた方が衛生的によいとあったので、それもカートに入れる。薄さは全く気にしなかった。コンドームにはローションが塗られているとあったが、それでも念のため安いボトルをカートに入れ、合計四千二百八十円を注文する。クレジットカードはネットで使わないようにしているから、代引きで。

 四千二百八十円が、届いた日からわたしを潤してくれるのだ。その金の、紙が、つつっと、腹部を滑り落ち。陰部を撫で回して、あそこをくすぐる。期待に背筋がぞわりとした。

 *
 寒い日ほど、人肌は恋しくない。むしろ暑い日の方が求めてしまう。汗で湿ったその肌、上昇している体温。触れてみると、ああ、今わたしは人と接しているのだとわかる。自分のさほど高くない体温が更に上昇し、息苦しくなる。ただ、服を着て抱き合うだけで、セックスをしているような高揚感が湧き立つのだ。

 さて、大人の玩具が届くまでには日数が掛かる。しかし、わたしの乾きは朝起きたとたんに癒されたいと疼く。

 いつもアラームが鳴る前に目が覚める。ああ、今日も、朝日は無常に昇る。何ら知らん顔をしながら、次の日が訪れることを怖がる人々を嘲り笑い、眩しい光を届けてくる。

 目が覚めたらすることは一つだ。

 まずは指をしゃぶる。丁寧に、関節の皺一つ一つへ唾液が行き渡るよう、ねっとりとしゃぶりながら、期待にぷっくりとしている肉粒をもう片手でにちゅにちゅと転がす。始めは、ゆっくり、根元から。

 舌を人差し指と中指で挟む。肉厚なそこをぐにぐに揉み、先までずずっと擦り、また、唇をすぼませてじゅるじゅると音を立てて指をしゃぶる。

 そうこうしているうちに肉粒は、根元だけの刺激では物足りなくなってくる。微かに被っている皮を剥いて中身を弄るのは痛いし、後に腫れたりして後悔をするので、皮の上からまるで亀頭を擦るかのように弄る。指の動きは次第に速くなってゆき、吐く息も乱れてゆく。

 ああ、ああ、いい。身体がじっとりと汗ばんで、頭の中に霞がかかってゆくこの快楽。

 肉粒だけでイくことはもちろんできるのだが、中も搔き回したい。唾液に濡れた指をそっとあそこに入れてゆくと、養生したことが阿呆らしくなるくらいにそこはびしょびしょになっていた。

 薬指では長さが足りない。ファック、と立てた中指を、薬指と交代させる。まずは入り口付近のざらついたところをくにくにと押し、擦ると、あそこは喜びにひくり、蠢く。

 肉粒はどんどん膨らんでゆく。あっ、と出そうになる声を噛み殺した。わたしはそういう行為の時に甘い声を上げたくないのだ。そうなると、はっ、はっ、と犬のように息を吐くことしかできない。この時、この瞬間わたしは、メスだ。いいや、それはそうなのだが、人間とか、そういう枠ではなく、ただのメスとなる。

 意識は次第に下腹部へ集中してゆく。頭の中では自分が二人の男からどろっどろに犯されている想像が繰り広げられる。ペニスを口に無理矢理ねじ込まれ、雄の汁を啜りながら、中を乱暴に突いてくる硬い肉を味わっている、わたし。喘ぎたいのに口の中にあるペニスが邪魔をする。胸のふくらみに舌が這い回って、赤い先端をちろちろと転がされ、油断した頃に強く吸われて、ああ、中の湿り気がどんどん増してゆく。

 入り口付近から、奥へと指を移動させる。なるべく腹側を擦るようにし、奥の、ほんの手前にある少し盛り上がっているところまで指を入れてゆく。そこを押すようにくにくに弄ると、肉粒もひくひく喜ぶ。

 わたしは、指を出し入れしたりしない。ずっとそれは中にいて、外に出すと湯気が立つくらいだ。指先で引っ掻くように、押すように、擦るようにとぐちゃぐちゃに濡れた肉をこねくり回す。肉粒を弄る指は動きをこれでもかというほどに速め、弄るレベルも最大級まで強くなる。

 いっ、と、鼻から声が漏れた。その瞬間は、何も考えることができない。ほんの、一瞬の空白。

 びくびくとしている中をゆるゆると指で擦り続ける。肉粒はもう、触らない。そこに触れたら痛いくらいの電流が身体に流れ、辛いのだ。だから余韻は中で楽しむ。息が整うまで、ぬちゅる、ぬちゅると聞こえてくる自分のいやらしいそこを、ゆっくりと、ゆるりと弄り続ける。

 そうして、ぶわりと噴き出した汗が引いてゆき、鼓動も通常時と同じものに戻った頃、そっと指を抜いて、枕元に置いているティッシュで湯気の立った指を拭くのだ。さも、指先にケチャップがついてしまったと言わんばかりにしれっと。

 丸めたティッシュを持ってトイレへ行く。イった後の小水は、中々出てこなくて困る。

 用をたしてからいやらしいの匂いが残るそのティッシュをトイレへと捨て、水に流す。

 ほら、こうして、人はきっと、自分の淫靡な姿を隠してゆくのだ。この、渦に吸い込まれてゆくティッシュのように。

 そんなことを考えながら、大きく伸びをし、トイレから出て洗面所に行く。顔を洗ってから見た鏡には、もう、先ほどの余韻など残っていない。

 わたしが日々、どんな事を考え、どんな妄想をしているのかなんて、誰にもわからないし、誰にわかって欲しいとも思わない。

 気持ちよくなることを、親からはよくないことだと教わってきた。小学生の頃、何もしらずにまだ小さい肉粒を弄っていて、物凄く叱られたことがある。それはよくない。恥ずべき行為だと。その教えから、自分のこういうところは浅ましいと感じている。

 けれど、浅ましくて何が悪いのか。大人になった今でもさっぱりわからない。気持ちよいことは、気持ちよいのだ。

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明日、また欲情する

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女性だって、いやらしい。指を常に濡らし、恍惚のため息をつきたいと願うのはそんなにいけないことだろうか。エッセイ風妄想。

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更新日
登録日
2015-01-30

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