お仕事上手なあの子
リクエスト*檜佐木夢
1
「おい萌恵、次こっちも頼めるか」
『え、あっ…はい!』
「悪い、もうすぐ締切で手がまわらなくて」
『いえ、だ、大丈夫ですっ』
既に他の隊員は寄宿舎に帰っている頃だろう時間帯に、九番隊の平隊員である萌恵は、副隊長の檜佐木修兵と共に居残って仕事をしていた
理由は多分、九番隊で一番仕事が早いからだろう。
萌恵は戦闘が苦手だ。
鬼道はそれなりにできるが、剣術や歩法はあまり得意ではない。
そのため最初は4番隊に入隊を希望していたのだが、同じ年度に卒業した子達は何故か4番隊入隊希望が多かった。
そして、萌恵は自ら身を引き、4番隊ではなく9番隊に入隊することに決まったのだ
「…おい、ここ、確認頼めるか」
『は、はいっ』
9番隊の副隊長、檜佐木修兵。
萌恵は、彼を尊敬していた。
いや、萌恵だけじゃない、9番隊の誰もが彼を尊敬しているんだろう。
隊長がいなくなり、混乱に陥った9番隊をここまで持ち直した。
隊を安定させ、副隊長の責務と同時に隊長の仕事も請け負っている。
本当にすごい人だ。だけど…
『(檜佐木副隊長、かっこいいけど怖いんだよなぁ…)』
仕事もできるし戦闘も強いし、優しくて格好良い。
でも同時に、少し怖い存在でもある。
「…萌恵?どうした、具合が悪いなら医務室に…」
『へ?あ、なな、何でもないですっ!』
思わずじぃっと見つめてしまい、目が合う。
慌ててそらすが、修兵はその後も萌恵のことをジッと見つめていた。
**
「…おい、萌恵」
『は、はいっ』
「今日はこのあと空いてるか?」
『え?…えぇと、…』
思いがけない問いに押し黙ってしまい、困ったように微笑む萌恵。
「そんな怯えなくても、取って喰いやしねーよ。
ただ、いつも手伝ってもらってるからな。空いてるんなら奢ってやる」
『いいんですか?…あ、で、でも…』
実はかなりの空腹だったため思わず顔を輝かせてしまった。
恥ずかしさに俯くと、檜佐木が笑いながら頭をぽんぽんと撫でる
「お前、腹減ってるだろ?今日はこれくらいにして、行こうぜ」
『…はいっ!』
(空腹には勝てませんでした。)
2
『あ、あの、ごめんなさい本当に奢ってもらっちゃって…』
「いいっていいって、気にすんな!」
あの後ご飯をおごってもらい、
もう夜も遅いので送っていくよと言われたはいいものの、檜佐木はお酒を飲んでいい感じに酔っ払っている
『…檜佐木副隊長、私なら一人でも…』
「だーめだ、ここで帰られたら俺が困る」
『え?』
「せっかくこの数日萌恵と残業してやっとこのチャンスが来たのに…」
『え?ええ?』
本人は気づいていないのだろうが、多分いっちゃいけないことを自らバラしている。
『ちゃ、チャンスって…?』
「そりゃ、萌恵に告白してあわよくば……」
『告白!?』
「…って、あれ……萌恵?」
思わずバラしてしまった檜佐木が、自分の言葉にハッとしてとなりを見ると
そこにはリンゴのように顔を赤くした萌恵の顔があった
『ひ、檜佐木副隊長、今のは…』
「あー……」
ここまで来たら腹をくくるしかないと決意した檜佐木は、萌恵に向き直りまだ赤い顔で。
しかし真っ直ぐな瞳のまま、伝える
「…酒の力借りなきゃ腹くくれねーなんて、すっげぇ情けねぇけど聞いてくれ」
『は、い…?』
「俺は、お前が好きだ」
『へ…』
「だからこの数日間立場を利用してお前ばっかり居残らせて、こうやってチャンスを待ってたんだ」
少し申し訳なさそうな顔をしながら、ぽりぽりと頭をかく
「こんな情けない男は嫌かもしれねぇけど…
お、俺と…付き合ってくれないか」
『それは、本当ですか…?』
「こんな時に嘘なんてつくかよ」
『…嬉しい…!
わ、私も檜佐木副隊長のことずっと見てました…
私も、大好きです』
嬉しさに頬を染めて言うと、檜佐木は力いっぱい萌恵を抱きしめた
『ひ、檜佐木副隊ちょ…』
「…修兵、って、呼んでくれないか」
『…修兵』
「あぁ、そのほうがなんか、いい」
照れ笑いしながら、萌恵にキスをする
『!?』
「ははっ、いいだろ?俺たちもう両思い…恋人同士なんだから」
『あ…う、うんっ…』
「……言っておくけど、本気だぞ。
酒の力を借りたことは認めるけど、好きなのは酔った勢いでも何でもない。
本当に、好きだ」
『…は、恥ずかしい…』
「照れてる顔も可愛い」
くすっと笑い、今度はさっきよりも少し長くキスをする。
口の中には、大人の味が広がった
『しゅ、修兵、好き…っ』
「あぁ、俺も好きだよ、萌恵」
End
お仕事上手なあの子