平成26年度『楓』 夏季号 詩歌俳諧随筆批評集

信州大学文藝部楓機関紙『楓』の平成26年度『楓』夏季号詩歌俳諧随筆批評集です。

収録作品

『From spring to summer』 柊木智著
『The party in the fog』   水柿匠著
『ブレブレ』 宇佐野優介著

『From spring to summer』 柊木智著

丸き文字懐かしむなり遅桜

春泥にスパイクの跡探しけり

木の芽吹くベンチの上の日記帳

古本の頁めくりし桜東風

あの人の筆跡探し猫の恋

はじめての紅をさすなり石鹸玉

春眠や指と指との触れる音

夏はじめ連立方程式を解く

初夏や鞄にソプラノリコーダー

南風の膝小僧を掠めけり

緑陰やカメラの奥の君の笑み

網戸越しワイシャツを干す母のをり

えぞ菊やあなたと同じペンを買ふ

ペン先を回す周期や青嵐

指先の色は鮮やか梅の雨

葉桜や音楽室に笑い声

火取虫終バスを待つ二十二時

梅の雨窓際に置く参考書

雲の峰シャトルコックの放物線




『The party in the fog』   水柿匠著


“ The party in the fog ”

Fog flow from the flute

The broken clocks dance with lamps

The blue birds play with the fox

The clown hide in the box

The little sheep laugh to see such play

And the crown of queen fall in the swamp

Written by MIZUGAKI Takumi(水柿匠)



『ブレブレ』 宇佐野優介著


死ぬ事について、昔から考えていた。

どうせいつか、人は死ぬ。

今いる人も、みんな死ぬ。いつか死ぬ。

そう思ってきた。

そして、生き長らえるべき人間と、そうでない人間がいる。

いつもそう思っていた。

自分は生まれてからずっと後者だった。

生きていても仕方のないような人間だった。

自分の事は、自分がよく知っているつもりだ。

だから、断言する。

自分は生きるべき人間ではない、と。

自分はずっと、下を向いて生きてきた。

他人と目を合わせることが出来なかった。

誰かと目を合わせたくなかった。

自分以外の人間が、たまらなく恐ろしかった。

自分の価値観がいつも他人と少しずれている事に、自分は気付いていた。

誰かと何を話していても、共感することが出来なかった。

同調しなければならないとき、そういう人間を演じなければならず、面倒くさかった。

いちいち人を演じるのは、もう疲れた。

自分はいつも、少数派だった。

人に合わせるという事が出来なかった。

何をするにしても、反対の事ばかりしていた。

協調性のない人間だと、よく言われた。

つくづく天邪鬼でいる自分が嫌いだった。

まともな会話というものが、長く続いた試しがない。

会話自体、それほどしたことがない。

話し相手すら、あまりいなかった。

友達と呼べる人間は、一人もいなかった。

自分は孤独だと、思い込んでいた。

実際、自分は孤独だった。

心の底から優しくなれなかった。

感謝されたこともあまりなかった。

本当に優しい人間は、誰からも感謝されるはずだ。

恩着せがましい自分は、やはり偽善者だった。

たとえ偽善者でも、好かれる人間は好かれていた。

自分は偽善者ではなく、ただの嫌われ者であることに気付いた。

好かれたいと思うよりも、嫌われたくないと思う事が多かった。

だが実際、何もしなくても自分は嫌われ者だった。

何もしないから嫌われる。

それくらいの事、自分でも分かっていた。

ただ、何をすれば人から好かれるようになるのか。人とどう接したらいいのか。

自分はその術を知らなかった。

自分勝手な人間が嫌いだった。

自分がそうであるからだ。

嫌う事自体、自分勝手な事だが、私には嫌いな人間が大勢いた。

やはり、自分は自分が嫌いだった。

自分は自分にまで嫌われていた。

自分と時間を過ごした人間が心から笑う姿を、自分はまだ、一

度も見たことがない。

一人になるのは、その誰かの持つ時間を無駄にさせないための、せめてもの配慮だ。

そう思う事で、自分は自分を慰めていた。

誰かに対し、好意を持つことが出来なかった。

好意を持たれた相手が迷惑するに決まっているからだ。

嫌われ者の分際で、誰かを愛する事など出来るはずもなかった。

愛されるはずもなかった。

自分は、人になりたかった。

人はむやみに人を虐げたりしない。

人は誰かに愛され、誰かを愛するものだ。

人はむやみに何かを壊したりしない。

人は何かを生み出したりするものだ。

人はむやみに迷惑をかけたりしない。

人は誰にでも優しいものだ。

人という字は、人と人とが支えあって成り立っていると、昔、偉い先生が言っていた。

自分はいつまで誰にも支えられないまま、ないがしろにされ続けるのだろう?

何に対しても、期待が持てなかった。

期待された事もなかった。

望みなど、最初から持ち合わせていなかった。

将来にも希望が持てなかった。

こんな自分なのだから、やはり自分は生きるべきではないとつくづく思った。

平成26年度『楓』 夏季号 詩歌俳諧随筆批評集

平成26年度『楓』 夏季号 詩歌俳諧随筆批評集

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-17

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