夜道にて

ひょっとやって来たのではないかと思い、縁側の外の様子を探るのである。来る日も来ない日もある、でも来る日には猫はひょっとやってきて、苦しそうな声でエサをねだるのである。僕は猫のことは好きであるが、この猫には好かれないのである。そうして悲しい片思いは、数週間にも渡って続けられた。するとある日からふっつりと猫は来なくなったのである。
僕はその猫のことが心配で心配でならなかった。しかし、ふと外を歩いている時、たまたま近所の人がその猫を連れて散歩の出ているのを見かけた。猫は生きていたのである。そのことを知って嬉しく思いその日の夜は安眠できた。猫にもいろいろある。僕がエサをやっていたのは、ただの三毛猫だが、毛の長いのや色が驚くほど白いのやいろいろある。
いっそ猫を一匹買ってみようか、そのことを母親に相談したら、一喝された。あなた一人でも手がかかるのにこの上、猫まで!とても面倒を見きれません。どうしても飼いたいなら働いて一人暮らしをしなさい。ニートもいい加減にしなさい。しかし、僕は作家とかスポーツ選手になるのならともかく、働くのは嫌なのである。働いたら負けと思っているという言葉があるけど、あれと同じである。
働いたら負けなのである。このままいつまでもニートでいいのである。でもこのまま二十代が去って行っていつまでも働かないわけにもいかないので、何かできそうな仕事を考えてみる。コンビニの店員は嫌だ。それはもうやったことがある。だったら漁師なんてどうだろう。体力的にはきつそうだけど、一度慣れれば、うまくいくかもしれない、その他あれやそれや色々考えてみる。それよりももっといい方法もある。どこかの資産家の養子になればいい。一生楽して暮らせるだろう。でも僕の近くに資産家は無し、たとえいても養子になるように説き伏せる自信も無し。で最初に戻ってしまう。とにかく、働きたくないのである。一生楽して暮らしていたいのである。それと、若死にしたい。三十の後半くらいで死んでしまいたい。年は取りたくないのである。
ある日、とことこ街を歩いてみる。それも深夜の街並みである。冬のことである。誰もいない街並みを巡り、自販機のおしるこで、温まる。これでいいのである。一人でも僕は平気だ。大学時代には、何人かの友達も居たが、今は声をかけてくる人も居ない連絡しあう相手もいないのである。そうして、毎日が過ぎていき過ぎていき、僕も一つ年を取る。
今年はいい年になりますように。そうして遊んで暮らせますように。そう神様にお願いするのである。

夜道にて

夜道にて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-14

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