きみがすき
リクエスト☆TOSクラトス夢
「ヒカル」
『な、なんですか…?』
低く落ち着いたテノールボイスが私の耳を擽る。
それだけで心臓が飛び跳ねるというのに、彼は表情を変えぬままこちらに近づいてくる
「…怪我をしている」
『っ!』
先ほど敵と戦った時に擦り傷を負った足を、クラトスさんがまじまじと眺める。
触れているわけでもないのに、どんどんと顔が熱くなっていくのが自分でもわかる
そう、私はクラトスさんが好き。
どこが好きかと言えば、全部と答えられる位に好き。
でも、それを言えるわけもなく─
『だっ、大丈夫です!…自分で治せますから』
「そうか、あまり無理をするなよ」
そう言って彼と距離をとる。
あぁ、またやってしまったと後悔するが、時すでに遅しと言うやつだ。
好きなのに、素直になれない。
いつも後悔して反省して、次こそはと意気込むのに、
口から出るのは心と裏腹の言葉だらけ。
そんな自分に、ヒカルはいつも頭を抱えていた。
**
『……素直になりたい…』
もう何度目かのため息をついた。
今日だってクラトスさんが食料探しに出かける時、着いて行けばよかったのに。
せっかくジーニアスがそれとなく言ってくれたのに、口から出た言葉と言えば…
《嫌です》
もちろんイヤだったわけじゃない。
むしろ一緒に行きたかったのだけど、緊張しすぎてしまったのだ。
『…はぁ…』
「ん?どうしたんだヒカル、溜息なんてついて」
『ロイド…』
ロイドは底抜けに明るい。
それに自分にも周りにも素直で、見ていてとても尊敬する
恋愛感情ではないが、私は彼のそんな所が好きだ
…彼に話せば、少しは楽になるだろうか。
『…ロイド、あのね』
秘密のお話
『…と言うわけでね、私、どうしたらコレットみたいになれるかなぁ』
「えー、ヒカルがコレットみたいに…?」
とりあえず漠然と、素直になりたいとだけ話した。
そしてコレットみたいになりたいと言ったら、ロイドは酷く怪訝そうな顔をした
「いやぁ…ヒカルとコレットは違うからなぁ…」
『ふーん、どうせ私は可愛くないよーだ』
「そうゆうことじゃないだろ?
なんていうか…ヒカルはそのままでいい気がするけどな。だって…」
ロイドが口を開いた瞬間、誰かに腕を引っ張られた
「…ヒカル、来い」
『クラトス、さん…?』
「ロイド、お前は宿に戻れ」
私の話を聞かず、クラトスさんは私の腕を引きながらどんどんと歩いていく。
何時もよりも、少し声が低かった。
あれは、怒っているのだろうか
私は、また彼を不愉快にさせてしまったのだろうか
もしかして、このパーティから抜けろと言われるのだろうか
そう考えると怖くて仕方が無い。
あぁ、最後にあなたが好きだと伝えればよかった。
そんな事を考えながら黙ってついて行くと、
星のよく見える丘についた。
「…ヒカル」
私の目を見据えたまま、ゆっくりと口を開いた
「ロイドと、何を話していたんだ」
『…え?』
「言いたくないことなら無理には聞かない。
しかし…できれば言ってはくれまいか」
何時ものクラトスさんらしくない、歯切れの悪い物言いだ。
『…どうして、そんなこと聞くんですか?』
「わからないか?」
『わかりません…私、クラトスさんの事なんて、わかりません…』
涙を零しながら、最後かもしれない会話をする。
いつもは好きなクラトスさんを見るのが、今は辛い。
「…すまない」
謝らせたいわけじゃなかったのに。
クラトスさんのそんな顔は見たくないのに。
複雑そうな彼の顔から、思わず目を逸らす
…不意に、身体に温もりが走った。
「…そんな顔をさせてしまって、すまない。」
近くからクラトスさんの声。
布越しの体温
これは…抱擁…?
『っえ、あの、クラトスさん…?』
「ヒカル、私が君の事を好いていると言ったらどうする」
『へ…?』
頭が回らない。
『え、えっと…』
「ロイドとはなしているヒカルを見てわかった。
…私はヒカルが好きなんだと」
『……あ、あの、苦しいです…』
「…すまない」
やっと体温が離れる。
クラトスさんの顔は、よく見れば少し赤くなっている
そして今彼の口から聞いた言葉。
…私もしかして、クラトスさんに告白された?
いやいや、そんなわけない、きっと幻聴か何かだ。
『…クラトス、さんは…私の事、好きなんですか…?』
「あぁ」
『……痛い』
頬を引っ張ってみると、当然のように痛かった。
その痛みを引き金に、今まで止まっていた思考が無駄に回転する
『…っ…』
私、クラトスさんに告白された挙句抱きしめられた…!
「…ヒカル」
『っはい!?』
「その…答えを、くれないか」
『こ、答え?』
「ヒカルは、私が嫌いか…?」
ほぼ反射的に、首を横に振る
そして無意識のうちに、彼に抱きついていた
『…私も、好きです…っ』
あんなに言えなかった言葉が、スラスラと出てくる
『恥ずかしくて、いつも素直になれなくて…
でも、私っ…好きなんです、クラトスさんが、好きです!』
「…そうか、私もだ」
優しく頭を撫でる彼の手は、ずっと触れたいと思っていた彼の手は、
思ったよりもとても優しくて、暖かかった。
End
*おまけ*〜その後〜
※キャラ崩壊(?)なクラトス注意※
「…ヒカル」
『なんですか?』
二人で留守番をしていた時、彼が私の名を呼ぶ。
声をした方に向き直ると、思ったよりも近くに顔があった
『っ!ち、近いです!』
「私と口付けをするのは嫌か?」
『い、…嫌じゃない、ですけど…』
「ならさせてもらおう」
『あぁあぁぁロイドたちが帰ってきたらどうするんですかっ!
教育上よろしくないしダメです!』
両思いになってからと言うもの、クラトスさんからのスキンシップが増えた…気がする。
毎日のように頭は撫でるし、今みたいに接近することだって一度や二度じゃない。
私がダメと言えば辞めるが、正直いつも断ってばかりでは申し訳ない気持ちもある
…よし、ここは腹を決めよう
『…く、クラトスさん』
「なんだ?」
『その……髪にゴミが付いてますよ』
「どの辺りだ?」
『あ、目に入りそうなので、少し目をつむっててください』
言われた通りに目を瞑る。
よし、今がチャンスだ。
ゆっくり深呼吸して、顔を近付ける
…ちゅ。
「!」
『と、取れましたよ!じゃあ私は洗濯物してきますっ!!』
思ったよりも恥ずかしく、早口でまくし立ててその場を去る。
死ぬほど恥ずかしい。
でも、部屋を出る時視界に入ったクラトスさんの顔は、嬉しそうだった。
『…また今度してあげよっかな…』
今度は眠ってる時にでも…ね?
おまけ 終わり。
きみがすき