例えば何処かでまた会っても

例えば何処かでまた会っても

ツン、と張った空気の中でも
すでに心は落ち着いていて寒さを感じなくなっていた。

今日は会社からの帰り、一時間半歩いてきていた。
手の暖かさもまるで無い。
仰向けになって寝ると、そこは
少し木々の間からなんともまあ綺麗な月を見上げられる絶景だった。
一人で死ぬのを選んだ。
家で裁縫用のハサミでも心臓をひとつきにできなかった。
家のことが気になって高いビルからも飛びおれなかった。
人にめいわくがかからないと思った。
それで そこで死ねば 少しして見つかって 家族や友人。哀しむ人を想像しなかった。

みんなありがとう。

想い

身体の中にある思いはとてつもなく大きくて、全て抱えきれずにいた。
思いかえすたびにたくさんの感情が溢れ出す。
好き、憎悪、刹那、愛
恋人、夫婦以上の感覚と忘れられない胸の中の想い。

短くも苦しくも儚くあった思いはいつも同じ気持ちではいられなかった。

新しいものへの不安
将来への期待
過去への執着
子にたいする、この世で最強の無償の愛。

一時でも離れて苦しくなるのなら会わない
幸せを願って
お互いの幸せを感じて
魂で共存する

障害を越えた生涯の想いを永遠のものにしたくて

常備薬

朝起きて、どうやってもすぐ布団からはでられない。
またもう一度、さっきの夢を見たいのに すっと眠りにつけない。
寧ろ入れたことがない。

昨日の夜だって中途半端にしかねていない。
そんな神経質な体質だと、自分の事をおもっていなかった。
となりでぐーぐー寝る人の例えば、家族や、
恋人の寝息や寝返りで結構起きてしまう性質らしい。
三十歳になって、そろそろ認めざるを得なくなってきた。

どうか細かいことは気にせず暮らしていけたら最高だと日々思っている。
仕方ない、年々歳をとってきているんだと考えてみる。
頭の片隅では、どうにも認めたくないようなことも多々出てきて、
独り言も必然とおおくなってしまう年頃のおばさんの仲間入りだ。

職場の同僚に
え?
とか、
あ、ごめん独り言。
とか言うだけの深入りしたくない女の子もいた。
いいんだ。
細かいことは気にしたくない。

その、勤め先の派遣先の職場にようやっとなれたある年の二月。
付き合った彼のアパート二階の窓は、
スースーと風がはいりこむもんだから非常に寒い。
まるで外に、マフラーも手袋もしないでいる状態とおなじだ。


朝、昼も夜も関係なく結露が出来ては、
窓の内側は水滴がしたたっている。
あー。
こないだしたばっかなのに、
また掃除するの大変だわーーー。
と、今日もやっぱり思いながら、
手と足を布団から出ないようにまるめてしまい込んでは、
また寝てみようと試みてもなかなか眠りつけない。
何時間か苦労してみて、
ようやっと一時間に一回起きたりしながら、
一生懸命眠りつき大会を催しているこちらの気は、
まったくわかってないであろう となりにいるその人は、
ぐゔぐう寝息をたてていたから、
じぶんだけ目覚めたのが余計にしゃくだった。

今度はちゃんとねたい。
ぐっすり寝息で起こされることもなくがっつりねてやりたい。
次こそは!
と思い、また眠りにつけるように励んだ。

これは眠れそうだ。
しめしめ、いいかんじだぞ。
この眠りの波に乗って自分の方が後に起きても、
バチは当たらないだろうと思った。
朝用に買った食パンの事も忘れて、
ロングブレスをして、さっきより固く目をつむってみる。


ブルブルブル
携帯がなった。
小学校、中学校が同じだった、幼馴染からのメールだ。


この度、結婚することになりました。
教会にてティーパーティを行います。
招待状をお送り致しますので、
住所確認と出欠確認のため、ご返信お願い致します。
親族一同、皆様にお会い出来ることを心待ちにしております。

おおお!そうか結婚式。
最近わたしの周りでは、結婚ブームが去り、
列席する機会も減ってたなあ。
懐かしい友達に会えるー!嬉しいなぁ。


「どうかした?」
「あ、ごめん起こした?
うんあのね、中学時代の幼馴染がね、結婚式するんだって。」
「へー。どんなひと?」

「うん。昔恋仲にあった人だねぇ。」
「へぇ。付き合ってた?」
「いや、付き合ってはないかなぁ。
あたしが気に入ってたときは向こうは別にで、
あたしが好きでなくなったら、
そのあとはずーーっとわたくしを好きで居てくれてたんだって。
ってゆうのを学校卒業の後とかだっけな、友達づたいに知った。
同時期に思えず、ご縁なくしてーって仲ですかね。」
「そう。それは残念だったねぇ」
「そーだねぇ。」
「ねみぃわ。おやすみ。」

なんてつまらない会話なんだろう。
朝だからってさ、もっとテンションを朝からあげてくれよ。
なんだ?
あ?なめてんのか?あなたの大好きなヒップホップでもかけてあげようか?
YouTubeで良く出てくる、
♪作業用絶対上がるアゲアゲ洋楽♪
でもながしますか?いかがでしょうか。


言ってもさ、相思相愛でここに私たちはいるんでないのかい?
その、相思相愛のタイミングをのがしたけども、
なかなかのロマンスで、掘れるであろう過去の話ができそうなのに。
このテーマの書き出しを、いまあたしは提示したぞ?と、
もう一向に瞼を開くことをしようとしないその人に唱えてみた。
そして興味をもちだした素振りは、お前が出しはじめたんだぞ?
君はいつテンション上がるんだい?
昨日君がテンションが上がってたことは、
テレビで芸人がかぶってるハゲのかつらをしているところだったね。
「ぎゃははは!
こいつはげなのにハゲツラ被ってんのかよー!
はー笑える。顎はずれるわーーーまじで。
あーっはははは!」


えーーーーー?
まじ?そこでめっちゃ笑うのがまじでなんだけど?
いいじゃないか!
彼は被りたいヅラがハゲのかつらだったんだろうよ。
取り立てて言えば、身体を張って素晴らしいじゃないか!
むしろそのハートの強さを讃えて拍手だろ!
許してやれよ、、、それは自由だよ。


きっと本質的なところの経験上の感覚だが、
わらいのツボがあわない男女はうまく行きづらい。
あたしは昨日、
そう思って寝たばっかりだったんだーと、思い出した。
だから別に、
やっぱりそんなに好きではない人と付き合うことは、
自分のためにも相手にも良くないなぁ、とも思って寝たんだ。
ああ、思い出した。
最近ほんとうに、すぐに色々忘れてしまうんだった。

有名人の名前も物の名前も、さっき食べた物も。
まず、十分前に話してたことも思い出せないくらいになると、
じぶんにショックを受けるんだけど、それにも少し慣れてきたなぁ。

あ、そうだ。
眠たかったんだった。
ほら、また忘れていた。

○○へ
おめでとう!
連絡ありがとう。
招待状は昔と変わっていませんので、
いま実家ですので住所は✳︎✳︎✳︎✳︎まで送ってね。
楽しみにしてるね!

列席することの確認メールを送ったら、
眠れそうになってきたのでそのまま眠った。


「ちょっと走ってくるわ」
「。。。あ、うん。いってらっしゃーい」

二時間ばかり眠ったかもしれない。
すごく心地よくて、現実とねむりの境目を久しぶりに行き来していた。

彼は鍛えていることもあって、とてもガタイがよい。
抱かれるととても気持ちがいい。
おっきい身体は、男らしいし、
ただでさえ女を喜ばす方法を備えているのに、
変態ならば、女の喜ばせ方は尋常ではない。
何回もしたいという彼を好きだし、
わらいのツボ以外では話もあう。
だから確か付き合ったんだ。それさえも忘れてしまっていた。
いつも、朝走りに行って帰ってきた後、
すぐに抱きしめられながら、
また二人して眠りにつく日も幸せだな、と思えた。


「はぁーー。走ったー!フロ浴びてくる」
あ?あれ?
いつもはぎゆーーーーっとくるんだけどなここで。

そのまま動かないでいたら、
「なんでお前ってそうなの?」
「ん? お風呂にはいるんぢゃなかったの?」
「さっきの 恋仲のやつとの話とか。いきなり朝からすんなよ
何も考えないわけねぇだろー。」

ええええぇー!!いま?
今までなんともなかったすって感じだったのはなんだったんだ?
「え、ごめん。ごめんなさい」
「いいよ。許す。今のお前を抱きしめられんのは俺だから」


そうだね、そうだよ。
でも、そんなに何も考えながら走ってきて、一人考えて。
でもどーしても言いたくなったから、言ってくるって。
めんどくさくない???

あぁ、そうか。
男の人はきっとそういうのが好きなんだな。

あたしは胸の上にある頭を撫でながら、母親気質なのを認めざるを得ない。
誰かに甘えたり、そーいうのはここ何年かはしていないなぁ。
そう、改めて感じて居た。

そのうち、熱くなってきて、いつもみたいにした。
彼の満足な顔で、あたしも気持ちよくなる。
そんなふわっとした関係で、誰かと誰かは付き合う。
それも誰かに頼りたいから、幸せになりたいから。

じぶんの近くにいる人はきっと、
同じ感覚で付き合ってるんだとおもって居た。その日まで。

次の日は朝からなんだか忙しくて、
まず小さな仕事を午前中でほぼ片した。
溜まっているファイリングや、その他の事務処理も進むかなぁと、
自分の仕事から周りの人の分まで、力を注いでやった。

大体の事を、あまりトラブルを起こす事なくできてたから、
誰にも文句は言われないし、ほんとうにマイペースな派遣として、
自分の範囲以上で頼られ、気楽に仕事ができていた。

隣の、年下だけどあんまり関わりたくない先輩のお嬢様も、
今日に関してはなかなか機嫌がよろしいみたいだ。

「ねぇ。お土産でさぁ〜、
イルカのキーホルダー買ってくる人ってどう思う?
今時ぜったいそんなのだめだよねぇ。
無いよぉ〜」
「そーお?結構かわいいんじゃない?
最近そうゆうの無いから余計にさ、
美味しくないお菓子とか適当に選んできたりするより。
考えてみました!考えた挙句ってとこが人間ぽくて良くない?」
つーか、じゃあお前は何がほしかったんだよ?とおもったもんだから、
「え、じゃあ何だったら喜んだ?」
と半笑いできいてみたら、
「バックとか指輪?とか?
あ、ストールとかでもうれしかったかも〜!あははは〜!」

あぁ、、、それは、
男が欲しがられたくないプレゼントにランクインするやつだね。
残念だけども、恋人候補じゃ無いともらえないやつかもだね。
っとさすがに言えないけど。
「そうか。
でもそれはさ、地方へ行ってきたお土産とはいわないね。」
女の子でも感覚が合うか、合わないかの点については、一瞬で分別ができる。
お嬢様でも何でも、難しそうだなぁ〜
と、一瞬でもおもったら、もうだめ。合わない。
だから、丁度いい距離感で頑張るんだと諦め決めた。

だから、月に三人くらいもの別の男の話が、
でてきたりするその子には無感情だったし、
温かい目で色んな事を教えてあげることにしたんだ。

「ご縁があるといいよね!
はい ✳︎✳︎✳︎部 吉川です。
はい お待ちください。」

仕事をして、お金を稼いだら、ある程度の幸せは揃っていた。
だからそれ以上望むこともなかった。


いや、決して望むべきではなかったのかもしれない。


毎日の何気ない幸せなんて、すぐそばにあって、掴むもんじゃない。
ふと気付くもんだ。っと、
ドコカノ利伸さんも歌ってくれてる。
音楽から得てきづくものは、年々増えていってる気がするが、
いざとならないと、本当にわからない。
そういう人生の先人の言うことは、
やっぱりとても大切にしていかないと、じぶんは損をする気がした。

其の後はとてもゆったり仕事が出来たから、
久しぶりに外にランチに出た。

会社のある麻布十番駅には、昔ながらの町も残っていて、
ビルの合間をぬって散歩するのがとても面白い。
タモリさんのブラタモリという番組に特集されていたし、
散策してたらゆうに一日過ぎてしまいそうなところだ。

会社のある日は毎日通う、会社の近くのタバコ屋さん。
そこにいるおばちゃんは、とても気さくな人で優しい。
いっつも行くと、談話からはじまって、井戸端会議になる。
隣のおばちゃんもきたり、しまいには、
マジシャン志望だったおじいちゃんまで集まってきたりする。
簡単に二〜三十分位過ぎて、
同僚に、吉川さんどこいってたの??と聴かれる事になる。
派遣としてあるまじき行為だ。
だが、この職場は私には合っていた。
四年も続くんだもん!!(エッヘン!)



今日は、ランチのついでにおばちゃんのところに寄った。
「あなたは、いいお話の人。いるの?」
「あぁ、おつきあいしているひとはいます。」
「あら、そう。
うちの上のおねいちゃんなんてね、
何年もお付き合いとかしてなくて、犬二匹の面倒だけして。
そういういい話がね、ないみたい。
あ、面倒だけしてっていっても全然なの。
わたしのところにワンちゃん預けにくるばっかりで、
すぐに気ままに海外とかいっちゃうような人なのよ。
まったく。
わたしの姉のお墓参りにも気やしないし。
なんなのかしら、あの子。
嫌になっちゃう。」
おばちゃんの言い分はこうだ。
自分も特別に扱ってほしい。
犬や他の面倒だけみておいて、と、
自分の勝手なタイミングで預けにきて。
わたしには自由はないのか。
手土産も毎回だっていいからもってきてもらいたい。
甘いものが食べたい。
もっと縁談とか早くから手をつけておけば、
きっといい人にも恵まれた筈で、結婚だって、
近いうちに出来てたんではないか?
もう四十歳前だからとても心配だ。
とにかく、甘いものがもっと食べたいし、
犬も預けっぱなしで、旅行に何度も出かけないで欲しい。
お願いします。
わたしのことも、旅行に連れていくような話だってしてきてほしい。
お願いします。

自分の事のように、人の振りみて我がふりなおせといった具合で、
おばちゃんの話を聞いた。
アラサーになった事もあって、自分の意見と人の意見とを、
同じ位に受け止められるようにすることが、良い生き方だと思えてきたし、
自分の悪いところは必ず見直したい!っと思うようになってきた。
おばちゃんの話は、少し我儘な部分もあった。
でも人間である以上、期待する気持ちがあるからこそ、
信頼関係を結ぶことができるのであって、
それは一番大切な条件である事もわかっている。
おばちゃんの長女であるのお姉さんのお話は、今後も期待ということで、
その日の午後は少し話過ぎた分スピードアップして仕事を進めた。


わたしは本当にマイペースである。
食事は好きでもなく、嫌いでも無い。
食べるのは遅い。
歩くのはふつう。
疲れている時なんかは、とてもゆっくり歩く。
犬や猫や道ゆくおこちゃんや、おじいちゃんやおばあちゃんと話す時は、
とてつもなく時間をかけたい。
それで楽しく対話することは大好きなので沢山費やして遅刻したりする。
相手は何を伝えようとしてくれているのか、
こちらの気持ちは伝わりそうか?
はたまた何があってここにいるのか。

その人を作り上げるものや、様々なストーリーだてをするのも好きだし、
妄想教としては楽しくてたまらない。
とは言っても別に現実派ではあるので、
とくに盛り上げるわけではなく、この人はこうでこうだ!
まで聞いたら、
こうでこうだったらこうだ!
の位置づけくらい。
最後に一番しっくりきそうな面白いことにして、その人を好きになる。

嫌いなところがある人には、分かりやすく嫌いアピールをする。
それは結構効果覿面で、
自分としては、無駄な付き合いはせず。
どうにかうまくポジティブに。とりまく環境や社会で、
いきるひとの中に生きてるなぁっと思う。

対人障害の人。
痩せよう痩せようとして、夢遊病発症して夜中に食べ歩きをする人。
人の話を聞かない人。
ヒモ。
なかなか認められない同性愛者たち。
そう言った色んなひとの話をきいてみると、
結構いろんな人生があって、百人いれば、
本当に百人のストーリーがあっておもしろいと思う。

そう。
だから、おばちゃんには、
『娘さん、こないだ誕生日にいい手袋買ってくれてたじゃないですか!
優しいですよ。
それと、おかあさんはルーク[娘さんが飼っている犬]にも会えて、
かわいいですよね。ルーク。
ほんと、羨ましいなあ!
お母さん、幸せものですね!
娘さんにご飯連れてってもらえるといーですね!』

うん、そうね。(ニッコリ)


そう言っておばちゃんは、
私に、今とどいたコープ生協のアイスをわけてくれ、
また別の話を三十分した。

副作用

こら!
またそんなことやってんのか。
お前んとこの派遣はいつまで経ったって同じこと繰り返すんだな。
成長ってもんしらねぇのか?
やり方がわるいんだよ、やり方が。
やり方を変えろーーー!

やり方、って何回言うんだよ。
また怒鳴られてしまった。
というよりは、私は派遣ですので、
やり方をそちらから提示され、その通りに従いましてはー、
行っているのです。
やり方を変えていただきとうございますのは、こちらなのでございます。
派遣は立場上、便宜上勝手に方法をかえる手順をふめません。
是非、そのあなた様の大いなる権限で、
縦横無尽にやり方をご自由にかえてくださいませんか?

「はい。承知しました。」
っと、一暼する。
派遣でなかったら、そのメガネを叩き割って、
目が見えない状態でおめえの後ろから蹴りを加えたあとに、
なんか得体のしらない爬虫類を背中から放り込んで、
その醜い汚ねぇ腸まで届くように、食い散らかせてやるのに。


たまに失敗すると、どうしてもこんな剣幕で怒られたから苛ついた。
というか八つ当たりだろうか。
さっき食されていたペヤング焼きそばに、
髪の毛でも混入してたのだろうか。
あたしは社員ではないのですが、
先に、このやり方についてご存知ではない、
貴方の部下を叱ってやってはいただけないですか?
そんな職場である。
そんなのにも、気づけば半年くらいで慣れる。
日頃は、
「お!
今日はいい感じのショートパンツ履いてるねぇ!オッケー!
似合ってるからオッケー!」
「お、その髪留め可愛いねぇ!
ちょっとカジュアルすぎるけど、似合ってるからオッケー!!」

確かに、ジーンズ勤務は駄目な会社の事務の分際で、
ターバンはきつすぎるかなぁと思ったが大丈夫だった。
そんな風に、いつもこの方は褒めてくださる。
だからあたしは、その日の気分で怒鳴りちらされても、
全く気にしないでいられた。

社内のドリンク自販機の前でも、
「お!
今日は透け透けのシャツ着てるねぇ!
気分が上がっちゃうから一本奢ってあげる!」
そんな、部長の次に偉い、
ゲイ説の流されているこのお方は、セクハラギリギリの事を平気でする。
あたしも気楽に、
「ありがとうございます!
ちょうど小銭がなかったのでとても嬉しいです。
甘えさせていただきます!!」
「わーははは!
そうだったのかぁ!!!奢り甲斐があるな!
わーっはっはっは」
多分昔から、人当たりに関してとても柔軟にできるタイプだと、
自分は思っていて、対して大きな問題になるほど、
人間関係のトラブルはなかった。
そして、今回の職場でもその類い稀な能力は存分に発揮されている。
そんなところは、自分で自分を好きなところであると同時に、
母と父に感謝の念でいっぱいである。

それでも、不憫な癖もあって、
デジタル化されたこの世の中は苦手になる事が多いので、頭を悩ませられる。
テレビも滅多につけないので、情報収集については特別苦手だし、
インターネットはたまに動画を閲覧する程度。
ジェーアールの人の多さは嫌いだし、
それを使うくらいなら歩くし、時間をかけても地下鉄にのる。
メールもよく返し忘れる。
そして、また。今日も再起動してもエラーが起きて、
パソコンがうまく立ち上がってくれない。

五度目の再起動で決めた。
よし!
タバコを吸いにいくことにしよう!
公園にいって、少し木々の匂いを嗅いでこよう。

すごい態度の派遣でも仕事に就かせてもらえることがあるなぁとおもう。

公園の手前でルークに会った。
おばちゃんはご満悦の顔で、
今日はお散歩担当を堪能中のようだった。
ルークは真っ白で、毛の長めのチワワ。
手の先だけ少し茶のまざった毛の少しぽっちゃりさん。
見ているだけで癒されるぱっちりとしたお目目で、
今日もこちらをみている。
尻尾を左右に揺らして、
今日は何で遊ぶの?と興味深々のお顔だ。


ルークと戯れてたら、何の仕事をやり残したか忘れてしまった。
忘れれる位だから、特に大きなやり残しは無い筈だ。
とりあえず戻ったら、もう早退しよう。
そう思って、そのまん丸のお目目の愛らしい子にキスをした。


ルークはその三日後に、尿管結石で短くしてこの世を去ってしまう。
それを知っていたら、あの時そのまま抱いて、
あと何時間でも戯れていたかった。
人間が美味しいものを選んで与えすぎて、
体に免疫力がなくなってしまったらしい。
そして、その後、沢山飲んだ薬の副作用で失神してしまったらしい。
本当に、可哀想に。
それを聞いて、本当に悲しかった。

あたしはあの子に何もしてやれてない。

先に知ることなんて出来ない恐怖。
身体の小さいルークは、
きっと注射やほかの治療だって身体には堪えたにちがいない。
ねぇ、ルーク。
この世に生まれてこれて幸せでしたか?

わたしは貴方の白い長い毛と、可愛いお手手とおめめ。
優しい泣きかた。すり寄ってくる歩き方。
その愛くるしい全てを憶えているね。
本当に温かかったよ。
貴方を抱きしめるたび、あたしは幸せ一杯な気分でした。
上から見えるこの土地は、その目にどんな風にうつるのかな。

身体にとけこんでいく薬品は、全てをコントロールできない。
一つの効能が効いても、別の作用で別の悪い特質を発揮する事も多々あるのだ。

先にそれがわかれば怖くないのに。
動物や植物と。人間も。
光と闇も。

この世に存在すること自体が神秘的で、素晴らしく綺麗で、奇跡である。
それだからこそ、感じる綺麗なものは、とても儚い。


綺麗なものが終わる瞬間にルークを想いながら、
私は天に向かい、こう約束した。

桜が咲いたら、貴方のお墓にそっとその花を持っていきます。
一歳を迎える事なく亡くなってしまったあなたに、
どうかその綺麗な桜をみせてあげたい。

どうか、ゆっくり眠ってください。
ルーク。ありがとうね。
短い間だったけど、私たちに幸せをありがとう。

再発

友達の結婚式が間近にせまっていた。
着ていく今回のドレスは、
あまり派手でない、シンプルな黒。
なんとなくかしこまっていきたかった。

今回の挙式、ティーパーティは厳かに行われる。
キラッキラのステンドグラスは無い教会での結婚式だ。
なんせ新郎である友人が、神父様の仕事をしているのだ。
それを知ってる上で、チャラチャラした着飾ったドレスは、
必要ないとおもった。


久しぶりに集う顔触れに、
懐かしさを感じながら式場へと向かう。

次々と懐かしいメンバーが揃い出して来る。
はじめ、見た目が分からないくらいにかわってる人もいれば、
まったくからわずに美人、イケメンのままの人も居る。

学生時代にはあまり交友のなかった彼もそこにいて、
比較的ちゃんと物事を考え、しっかりとしたパパになっていた。
何年経っても集いあえて良かったと、お互いかわったこと、
変わらないところを話す。
何人かづつで輪になる中で、むかしのバカみたいな話も、
変わらず同じトーンで話す事なんて中々ないから、
こうゆう縁は本当に大事だなあ と、いくつ歳を経ても思うことだ。


今日はとてもいい式だったね!
みんなでご飯をして、二次会は飲み屋。カラオケも行ったかな。
とても広い大部屋で円卓を囲むように、
二十人は座れるような部屋。
椅子にそれぞれが自由に間をあけて座っても、余裕があるような。
こんな人数では過去カラオケなんて行ってなかったね〜とか言いながら、
めちゃくちゃ盛り上がっている。
さすがに同じ中学、同年代だとカラオケの選曲も悩まなくて済む。
各々好きな曲をうたった。

気づけば隣にはやっぱり彼が居て、
自然に二人で話し出す。

みんなが歌ううたに口ずさみながら、
この曲懐かしい!とか、
あれ歌ってよとか。
そんなんもいいながら、
仕事の話。家族の話。趣味の話。彼の描く絵の話。音楽の話。
もうこれはいくら話しても足りない!
っとさえ感じていた。
時間を見れないくらい。
あっという間に、時間がすぎた。
それ位楽しくって、
でもこうやって話すのは当たり前の決まり事だったように、
二人で喋りつくした。

周りで酔っているみんなは、
あでー?くつしたが脱げちゃったよー。
誰か履かせてよー
とか。

あーー彼女ほしーーわー!
とか叫んでるやつとか。

ああ、帰りたくない。
とかいって床で眠り出しちゃう人もいた。

その輪の中でただ、刻々とすぎる時間を無駄にしないように、
二人で話をした。

朝になって帰りのタクシーで、
みんなで四人くらい乗り合いで帰る時もまた、
彼はずっと見ていてくれていた。
既に出ている始発電車で帰るみたい。

気をつけてかえれよ。

斜め上から見下ろされて、
ロックオンされた時、もう、
その時からあたしはこの人から目を離せないと感じていた。


明け方眠るまえに、お願いをした。

どうかお願い。
今日は夢の中で彼に遭わせて。
それでまた、さっきの話の続きをしたいから。
お願い、神様。
久々に神頼みってやつもした。

お願い、仏様。

そういって寝ることにした。


次の日。
起きて見たら、とんでもなく頭が痛かった。
あぁ飲みすぎたんだっけ?
と反省した。

他のみんなは、ちゃんと寝たかなあ?とおもってメールをみた。

もう一軒行きたい!
となって あのタクシーの後も行ってた者たちと、
カラオケ足りなーい!
と叫んでた人たち。
みんな仲良く帰ったみたい。
よかった、よかった。
楽しかったなぁー。
他にもメールがきていた。
まゆみさん、あなたが載った写真があげられています。

おぉ、誰だ!
仕事が早いなぁ!
フェイスブックも覗いてみよう!
かなり楽しい、たくさんの写真。
わたしもコラージュした写真をあげることにした。
そこにはもちろん彼ものっていた。

メッセージも届いていて、
差出人をみて、はっ!とした。
彼からだった。

昨日は沢山話ができてよかった!本当にありがと!
楽しかった。
職場近いならほんとまたご飯でもいこう!
帰りに店にネクタイ忘れたみたいだ。
あのねーちゃん、電話したのに無いって。
絶対あの店なのに。

またね!


昨日のお願いは、夢でなく現実として、
与えて貰えたようだ。
この日から、フェイスブックでのやりとりが始まる。

いわゆる病気だから

メール百五二通
一日でお互い何件おくったかも忘れた。
何について送っていたかも。
手が動くまま、伝えたい事を。
会いたい、会いたいと、心からの文字を打っていた。
頭で考えるより先に、手が動き出す感じ。

自分のことはとても好きになる。
あの人がとても好きでいてくれるからだ。
自分を人間として、とても強く大きな存在に感じるようになる。
二人でいることで、そんな気持ちになるからだ。
相手のこともどんどん知っていく。
目を見れば次にしたいことや、話したいこともわかる。
二人の間には、手にとるように伝わる愛があった。
現実に気持ちを掴むことができた。
本当に好きな人なんだなぁ、とおもった。

きっかけは何でもよくて、
はじまりは、彼からだった。

渋谷で飲んでるんだけど、いまから来ない?


そんなメッセージがきて、
「昨日はちょっと若かったな。すまん。
でも、青々しくってこんな気持ちになれた自分が、ちょっと嬉しい。」

そんな事を伝えてきてくれた。

そんな事を言われたら、こっちだって嬉しい。
それで、きちんと会いたいから、
携帯の連絡先を私からフェイスブックで打ち明けた。
お互いの気持ちは、もう既に合っていた。

この人と居たい。
この人の隣で色々な街を歩きたい。手をつなぎ永遠散歩しよう!
そう伝え合い、それをちゃんと確認しあいたかった。

握った手のひらから伝わるのを想像して、
まだきていない彼の連絡を待つ。
良く言われる、恋愛における、
いっちばんクソ楽しい時だ。

理由はない。
ただ出来る限り本当に彼との約束を優先させたかった。

別の日に、お互い都合のいい渋谷で待ち合わせをして、
時間どおりに到着。
ご飯は向こうが決めてくれていて、半個室の居酒屋さん。

初めからウイスキーのストレートを飲み干す彼に、
とても熱いものを感じて一人占めしていた。
視線をずらす事なく、見つめ合いながらご飯をした。
半個室の部屋なのにもかかわらず、彼の膝の間に座り顔をすり寄せて座った。
心臓の音が丸聞こえで伝わる。
どっちの心臓の音かも分からなくなると、気持ちが良かった。

ひたすら温度を感じていたかった。
まとわりつく息も、てのひらも。
そこにある時間、二人の身体、すべてが愛おしかった。

まだ時間があるというので、夜のお散歩に出た。
軽く二時間近く、手を繋いで散歩していた。
公園のベンチで休みながら、何箇所かの公園を渡り歩く。

家に帰り着くその時まで、彼は手を離さないで居てくれた。
彼もあたしを独り占めしてくれた気になって、気分がよかった。


何もしなくても会話が自然に出て、
お互いの呼吸が一緒で、
ただ当たり前にそこにいれる。
この世は二人だけで、周りはほんとにオマケのように感じてきて、
それでまた自分が、とても強くなっている様な気持ちになれる。
それでも時間は永遠では無くて、
一緒にいれない日はメールを履歴が入りきらなくなるほど贈りあった。
それも、また良いよね!と言っていた。

旅行という名の、福島の支援ボランティアに行くのも、
彼とならとても心強かった。
なんでも知りつくしている彼に、勇ましさをかんじた。
着いて行く私も、彼にとって かけがえのない存在になれてると感じた。

夜ずっと彼の声を聞き、手を確かめて握りながら、
一緒に寝れるのも堪らないなと。
これが、最初で最後の旅行になったけど。


あっという間の二泊三日は、人生のうちで、
濃い記憶だけ積まったものとなり、二人ニッコニコで終えた。
帰りの新幹線指定席でも、あるまじきラブラブさを放ちながら帰ってきた。

それで、また家に帰って。
一緒にいて全然メールしてなかった分、やっぱりメールも楽しいね!
とかいいながら、また履歴が埋まるくらいのメールを再開した。



手のひらは嘘をつかない。
緊張も気持ちも、イラつきも戸惑いも。
すべて相手に伝えてしまう。
だから好きだし、ずっと触れていたくなる。
疑うものが無かった。

ただ、疑うものがない時を過ぎた時にくる怖さ は知っておくべきだった。

カラオケに十回くらい行って、
お互い好きな曲をうたって声を脳みそに聴かせた。
離れていても声が頭に残るように。

飲んで話して。公園に行って。
手を繋いで、永遠話せた。

ホテルにも行った。
ベルベットの椅子の置いてある、
ザ、昭和。
というべき昔からあるホテル。

ご飯もそこで済ませることもあった。
三時間だったかな?
夜はちゃんと家に帰った彼の父親っぽいところも好きと思えたし、
限られた時間で尽くせる限り愛し合うと、
つま先から脳みそまで包んで溶け込んで、まるっきり一つになれる。
本当に心から溶けて、
でもなくならずそこにいるという表現が、本物で正しかった気がする。


この世で味わった素敵な感覚。
二人でしか創れない事の素晴らしさに涙が出た。
嬉しくて涙が出る事も知った。
大好きで泣けてくる事なんて無かった。
離れる寂しさを思い出してではない。

その場にいれるのがとても尊かったから、
単純にあの時涙が出たんだ。彼もそういった。

そういってたんだっけな。

こんな二つの大きな感情で混ざり合うのは、正直危ない。
とまでは感じれてはいた。
刹那と、狂気にも似た一緒にこのまま死ねる、っと。
そこの危ないレベルのところまでいく。限りなく近い。

外へ出れば、スケボーで街を颯爽と走るシティ派の彼も、
日本の昔からの、ザ、昭和ホテル を、
ちゃんと選んで好きなとこも好きだった。
夏は下駄を履き、渋いお茶を飲む。
日本の心を大切にする彼の作品の数々は、
富士をバックにアメリカの大統領が描かれてたり。
日本家屋にドクロがいたりする。
田畑を耕す人や、ひょっとこや、お爺さんお婆さん。
日本の文化と風習がちょくちょく登場していた。

自身を描くポートレートも、油絵も、ペンも、クレパスも、お子ちゃまを描く優しさのタッチも。
彼が創り上げてくれるものには必ず深い愛があった。
それをみたい欲望も、自分なりに貪欲だなぁ!
と思いもっと自分を好きになるための要素に変わるし、
彼にこれどう思う?
と聞かれるのは、私を信用して聞いてきてくれる という、
安心感が常にあって、私は彼の中の一で有りたかった。


唯一無二というのは難しい。
その時、その瞬間、という現実的時間要素を抜いても、
その存在になり続けるには、
こちらも相手に自分をさらけ出すこと、
全てを知っているという気持ちも越えた信頼性をも必要になってくる。

何を言っても大丈夫。
何を言われても大丈夫。
何をしてるかすぐわかる。
何をほしいか直ぐにわかる。

あたしは彼にとってその存在になり続ける必要があったのに。
あたしは自分を勝手に疑いはじめた。


こんな事を後で言っても仕方ないのだが、
彼には最愛の妻と子がいた。
私はどうしても、助けられていま彼と会っていられているのに、、、
っという事をすっかり忘れてしまう。

彼が一日一緒にいれなくても、ずーっとメールをしてくれるから。
彼が私への想いをずーっと伝えてくれるから。
会いたいと素直に言って、
帰らなきゃいけない時も、悲しい顔をするから。
気持ちを手紙にしてきた!
と彼が差し出した手紙に愛を連ねてくれるから。
わたしも、まるで同じタイミングで、
手紙にしてきたものを取り出し、渡しあったりした。

彼のお爺さんのお家にとまったり、
堂々と手を繋いで街を歩いたり。
彼も言ってくれた。
ここまで熱くなれたのが初めてで、
自分にびっくりしていると。
まるで恋愛覚えたての高校生カップルとなんら変わらなかった。
アツアツのラッブラブで、
それが一生のお互いの存在意義であると疑わなかった。
罪悪感もうまれるはずがない。
本気だった。
そういう、カタチの愛を二人でしていた。

事件と事故

一度信じたものを疑いだすのは難しい。
一度疑ったものを信じることも難しい。

彼はやはり既婚者であるというのを、
認識させられるような事件がおきた。

彼の携帯、パソコンから、
二人のやり取りが裁判所に送られることになった。
それを告知するメールがいきなり届く。

ごめん、やり取りがばれた。
もうメールができない。
パソコンメールもフェイスブックもだめだ。

またこっちから連絡するから。ごめん。愛してる。

何それ?
大丈夫なの?
不安はあったものの、前にも一回連絡出来なくなる事があった。
でも今回はなんとなく時間がかかりそうだな。

わかった。身体は大丈夫?
うん。
あたしも、愛してるよ。

実際彼に送ったのか、送らなかったのかは覚えてない。
楽しい気分でいた友達との旅行の帰りで、それは届いた。

その場で親友に打ち明ける。
疑わなかったことは、一気に心配へと変わった。


眠れない日も続いた。
ごはんは、食べれてたかな。
ちょっと仕事も休んだ気がする。

ダルダル過ごして考えるのは、
いま、彼が何をしているんだろうという身の安全ばかりを気にした。
大切な人が悪いやつに拉致されたような。
そんな事も遭ったことがないけど、きっとそんな感覚だった。
凄まじい恐怖の中にある大きな優しさと、
限りなく死に近いところでの生命の削りあい。
愛はたぶんものすごいエネルギーを感じるし、必要とする。

心と身体と魂の繋がりは一気にバランスを崩しながら、
わたしの心とともにやつれ不安で倒れこみそうだった。

それでも、職場を知っていたので彼に会いに行けば良いんだ!
という単純な気持ちになり、
会いに行ったのは連絡が出来なくなって十日目くらい。

彼は笑ってあたしを抱きしめた。
ごめん、といい更に何回も抱きしめた。
また手を繋いで、外を永遠歩いた。

そこで、離れていた十日ぶんの話をした。


多分違う。
本当は、わたしが冷静になって、
どういういきさつで連絡が取れなくなったとかの話を、
きちんと順をおって聞く事が出来ていたら。
もっと自分の置かれている立場を汲み取る事が、
ここで気づいているんだったら、この話は異なる方へ進んでいたかもしれない。
多分この時にようやっと気づいた。
あぁ、あたしは既婚者を好きになってたんだ。

いちばん必要にされたかった。
手放せる筈がないとおもっていた。
想いは変わらずそこにあって、
何があっても捕まえていれるとおもってた。
それを掴んでいるには、努力も必要だし、
信じる力も気力も、相手を大切に思うことも当たり前じゃなくて、
みんな積み重ねでできているのに。
なんでそんな簡単な事、解らなくなっていたんだっけ。

彼はやはり既婚者である。
その日から私の頭でそうリフレインしてしまうことが多くなった。


それでも、彼が新規アカウントでつくったGmail宛に、
メールをして連絡を取り合うことができた。
家でも開けない。
職場を利用してメールするから、、と。
何か話すにはその方法で、次の日の事を決めた。

九月、私の誕生日の日。
彼へ気持ちを全部向けないように、他の男性といた。
肩をだいてもらったら何か重いものは少しなくなった。
泣いている私をみてその人は、
本当に大好きな人なんだね、、
そう言ってただそばにいて寝てくれた。

その日はホワホワした気持ちのまま家に帰り、
その夜彼のところへ行き、誕生日を祝ってもらう事になっていたので向かった。

何時からという約束はしていなかった。
何時からでもいれたらよかったし、
忙しくなっていた彼から時間を作って会えた事が嬉しかったから。
心が満たされる日、にしたかった。
お互いの気持ちが同じかどうか?ばかりを気にして、
自分の気持ちも分からなくなり始めてた頃だった。

来るのは飲みが終わって九時頃になっていた。
さすがにどこかカフェにでも入っておけばよかったし、
だいたい何時ごろに着くかはじめから聞いておけばよかった。

七時からずっと建物の一階のベンチで待っていた。
トイレに行こうと地下に下ったら、彼が丁度いて、
おお!待ってた?とかいいつつ部屋へ入った。
ご飯は食べてきたみたい。
酒も飲んだ感じで、息がとても酒臭い。

飲み、というのは送別会で会社のだから仕方ないと思いながら、
待ったのに、こんなに酒臭くなってくる必要はないだろ?と思った。

月のやつがきていて生理でお腹の痛みもあったから、
それを理由にして帰るね。と伝えた。

もう、気づいた。
お互いに気持ちの差が大きく出ていた。
仕事を勤しむ彼は、私への気持ちまで薄くしていっていることには、
本人は気づかないようにしてるようだった。

ムカつくことはない。
そんなことで気持ちがふらつきはしないけど、
あたしは自分の気持ちを保つことに専念した。
過剰にならないこと、気持ちを落ち着かせて彼に対して考えすぎず
まるで誰かの話をきいて片方だけが想いを募らせるみたいなのは虚しいだろ、、っと客観視するように。

それから、少しだけ会わないでメールのやりとりをしてすごした。


今日は二人で行くライブ。
とても楽しみにしていたし、
なかなか時間のとれなくなっていた彼と一緒に、
たくさんの時間居れるのが久しぶりだった。

途中大音量に紛れて耳元で話すと、とても満たされた。
ライブを楽しみながら、
久しぶりにイチャつきたくなったので後ろからもたれ掛かり、
左の手、右の手、それぞれを彼の手の上に重ねぴったりくっついていた。
人間両面テープ状態である。

安心して一瞬眠りかけたけど、それは即座に起こされた。
彼の左のポケットからとても大きなバイブの振動を感じ取れた。

えっ?携帯電話??
使えてないって、壊れたっていってた。。。

音が反響して聞こえて来る。
頭がおかしくなったのかと思うほど真っ白になる。
五秒くらい時間が止まって、
トイレ行ってくるね。
それを言葉にするのが精一杯だった。

なんで?
何か理由でもあったの?
あたしには知らせられない、知らせたくない何か、、。
何それ?
どうしちゃったの??

外の廊下で一服していたら、何か察知したように彼が出てきた。
あたしは、言葉も少しだけ失った。
たださっき、身体の一部で感じた何かに疑問を抱きながら。


都合が悪くなってきた?
本当に忙しいの?何かはなしてくれる?
事情をききたい。
今日は本当にこの後仕事に戻るの?
だめだ。
こうなるともう、
何もかもがしんじれなくなって、あたまが混乱している。

でも、これは一人では解決出来そうにない。

携帯電話使えてるの?もってるの?
必死で靴下になってズボンの裾も開いて、
何もないよというその彼が、私には鬼にみえた。
嘘は一度でさえいらない。
嘘なんて、百個つくのも一個も同じだよ。
そう伝えた。
何もかもわからなくなる。

ほぼ耳元で、ざーーーと、
砂嵐みたいな雑音みたいなのも響いてきて、
彼の言葉はうまく聞き取れない。

今日は我儘を言ってみた。
もう少し一緒にいたい。
駄々をこねる子供のようにその場につっ立った。
ごめん!
タクシーを駆け足目で拾う彼の姿。
ごめん!
明日メールするから!

そうか、メール今日はしないんだね。

足がとてつもなく重い。
ちょっと車道にはいっちゃっていて、
ここは 動かないとちょっと危ないのに、動けない。
足が重たい。
なんで、なんで。どうしちゃったの?

あたしはもう、頭をしめるお互いの存在状況がまるで違う事に、
苦しさを感じていた。
たった一日でそれを核心的なものにしてしまうほど。
強く私の全身に知らせてくる。
さっきの出来事が、何度もなんどもよみがえる。

彼の初めて見る焦った表情。
口を必死で押さえる手。

目が少し泳いでいる。
それを、隠されないようにまじまじ見つめる私と、
嘘は一個もほしくない。と伝え、泣きじゃくる私。
タクシーに乗り込むまで。

最後は手をふることさえ出来ずにいた。
こんな寂しかったのは一度も無かった。
どうしたら良いかわからなくなる。
置いて行かれてしまったようだ。
はじめて、自分の立場を客観視するシーンに巡り会えた。

足が重たい。
それでも一歩ずつ歩いてみる。
どうも、歩き方がおかしい。
あぁ。なるほど。
すごい肩が震えるほどの大量の涙を流しながら、人間は歩けないらしい。
嘔吐しそうなくらい息づまったもんだから 、
そのまま交差点にうずくまって道行く人に大丈夫ですか?と
たくさんの人に声をかけられた。

最高の日から一転、
最悪の日にかわりそのままどっかお店に入る気にもならなくて、
三時間くらい地元の駅までずぅっと歩いた。
その日のうちに、これ以上悲しい想い出をつくらないように、
じぶんから言う彼へのお別れの言葉を探した。



その日の夜、
次の日するねといった彼からのメールは待たずに、
自分からメールをした。
寧ろ、きっと普通にいつもどおりの、
楽しかったね!
というようなメールは欲しく無かった。
それで済まされたくなかった。


ライブ楽しかったね。
次はもっと長く一緒にいよう。愛してるよ


携帯電話とかの話はいらなかった。
別れ際の事にも触れたく無かった。

返答はなんだったか忘れてしまったけど、
何てゆったんだっけなぁ。確か、

約束できない。満足にさせてやれない。
一緒にいれる日も限りがあるから、ずっとまゆみの満足いくように時間はとれない。ごめん。
そんな感じ。

もうすでにちがう感覚にズレがある事を認めずに、
同じ気持ちで居られることは無かった。

もう連絡もまともに取り合えない、
もはや、まともに取ろうと意志もなんとなく感じれない人に、
あたしはしがみつく力さえなくなった。

自分が大好きな人は、きっとこんな気持ちにさせない。
あたしはきっと色々傲慢に考えすぎた。

気持ちも抑えられなくって、高まりすぎた。

段々早くなる鼓動は、
六十年代に流行った、アメリカンカントリー名曲の、
ギターばりにスピードを増して速くなる。
それに、とてつもなく近い。

壊れた。
私は考え疲れ、確実に壊れてしまった。


不整脈のような動悸に襲われる日が増えた。
夏が終わって、事件のあった九月が過ぎていく。
それでもどこかでまた連絡して来るだろうという気持ちと、
でも来ないという自信もあった。
そんな軽い気持ちで会いには来れないだろうと思ったし、
何より時間に追われて仕事していたようだし、連絡はないと思った。

でも、メールで済ませないような、
会いにきたいと本能でやってきてくれるのはずっと待った。

メールを受け取った最後の日、
あたしは彼に宛てて長文を連ねた手紙を書いた。
心をこめて、誠意をもって。
綴った五枚ほどの、びっちり詰まった便箋の背景柄は、
見えなくなるんじゃないか?というほどに文字ばかりの手紙。
きっと読むのが大変だったに違いない。

その後また、別の共通の友人の結婚式があったりしたけど、
彼は仕事が忙しいからと欠席をしていた。

後で職場に渡しに行った。
何て言ってこの気持ちを伝えようかと。
結婚式の日、彼は身体を壊し自宅療養していた。
職場の人に誰ですか?と問われて何も言えなかった。

言葉では説明した事がない。

そのあと、彼とよくいた公園で本とかを読むのにふけったり、
歩いた道のりを一人で散歩したり。
通った店の辺りを歩きまくった。
足が歩くのをやめないから、永遠にそれは続いた。


哀しみと、バッドエンド以外の映画を、浴びるように見たり。
その時は、奥さんと仲睦まじく戻ったんだと思い、
そうゆうシーンが浮かんでしまうと頭がズキズキ痛みだして、
涙が止まらなかった。
携帯を見なくなったし、
外に出かけても、結局次の瞬間考えることが、
彼の事だったから、辛くなってずっと涙がでた。
美味しそうなものをみては、あぁ彼といってみたい!
ああ、彼に教えたい!と。大きめの地震がきたら、
連絡をしなくては!
と思った。

一番最悪な事は、
友達といても、突然泣きたくなるような時間が必ず出てしまい、
我慢して笑ううちに、本当に笑えなくなってしまった事だった。

正しく言えば、笑い方が分からなくなってしまった。
今まで普通にできていたことが、まるで記憶を失くしたみたいに。

段々と、一人で家に居る事が多くなり、
辛くなりすぎると外へ行き、ただただ散歩を半日し続けるようになった。
俗に言われる鬱 に近い、というかもう鬱かもしれない。

これではきっと地元駅もわかるし、
実家も職場にもすぐいける以上、
ゆくゆくストーカーとかにもなり兼ねない。
そんな、自分を嫌いになる方面に向かいたいわけではなかったので、
止める方法として色々した。

ストーカーにならない為に、、、のサイトをみる。
友達に話す。
ストーカー殺人が出てくる映画を繰り返しみて、
自分に似ている感情はあったら捨ててブレーキをかける。
目を覚ます方法があれば、すぐにでもやりたかった。
自分を守る為に、相手にあたしの記憶を塗り替えさせないために。

本当に一歩間違えれば、
自分は危険人物なんだという自覚が拭えなかったから。
そんなギリギリの生活をしていることさえ、
彼には解らないだろうという、イラつきも出た。
そうゆう時は、ストーカーにならない為に、、をもう一度見た。


そんな様々な感情と葛藤を四六時中する訳だから、
完全に精神的に参っていた。

クリスマス、イベントがやって来るのがとても怖くって、
その前に彼に電話を一度した。

出なくていい。
出なくていいから自分の気持ちを整理するために。

あたしがどう足掻いても彼はやって来ない。
それで自覚症状は少し元どおりになれる。
あたしなりの生きるやり方だった。

返答のない、パソコンメール宛てのメッセージはもうしない。
踏ん切りは、自分の引き起こした生涯の愛は自分で納める。

心に留めておくのは無償で、慈悲で、迷惑をかけないのなら。

何より、自分が勝手に信じきれなくなってしまっただけだ。
私の勝手なようにしよう。心に書き留める。


わたしは、その年の年末に区切りをつけるため、
彼とみたアーティストのライブを一人で聴いた。
もともと雑音のように聞こえなくもない音楽は、もっと雑音となり、
私は周りを気にせず泣けた。



〜彼に渡した手紙より〜
むーちゃん。
手紙は前に一度渡しあったね。
あの時は気持ちのこもった熱い手紙をどうもありがとうね。

今ね、思ったんだ。
わたしはやっぱり貴方のことが大好きで、
ずぅっとずっと考えて、一時も忘れる事がない。
わたしは心から一緒にいたい。
余すことなく愛をいつも渡していたい。
そんな日がくるといいな、と言ったら、
いつくるかわからない現実を待たせる訳にはいかない。
それがおれにとっての誠意だ。って言ったね。
待ってくれるんだと思った。望んで。
あたしは勘違いしましたーー。ごめんね、、。

あたしがさ、誕生日の日に 左手の薬指を指して、
指輪欲しいって言ったでしょ。
あんなのはね、本当はいらなかった。
本当に欲しいのは、むーちゃんとお揃いの、
星のスタッズのついたアディダスのスニーカー。
お揃いの同じ気持ち。
何よりずっと気持ちで繋がっていたかったんだ。
お互いにズレさせてしまったけど。
それに、一緒にそばでみながら、
暮らしていれる訳じゃない。
そんななかで嘘は必要無かったし、
それで、あたしも信じ続けてはいけなくなっちゃった。


奥さんと少しだけ仲直りしてね!

お子ちゃんを誰よりも愛してね!

あなたを好きになれて嬉しいです。


たとえば何処かでまた会っても、

私は貴方を見つけたら、きっと笑顔でいるから。

二人で大切に出来た想いと、時間と幸せな事自体を

永遠のものにしたいから いまね、

ここでおしまい。

心から愛しています。

わたしを、愛してくれてどうもありがとう。

人工蘇生

一緒に歩いた散歩道は年が明けると同時期くらいに雪で埋まった。
久しぶりにみる東京の雪はやわらかくて、
食べれそうなくらい綺麗に見えて、そして白く積もった。

相変わらず、会いにこなくなった彼の事は毎日、毎分考えていたけど、
自分の中で考えもかわっていた。
年末に聞いたライブは、やっぱりとても格好良かったし、
二人のお別れの日を決めるような、
きっかけの日になってしまったのは偶然で、
その一度で嫌いにもなりたくなかった。
それで嫌いにもなれないし、音楽があってほんとうに救われている。
まだ見ぬこの世も、
今まで生きていた三十と何年も全て音楽と歩いてこれたから。
それだけで感謝だ。
ただそれが故、想いのあるお互い好きなアーティストは必然と、
彼を思い出させて聞く事が出来ず、その曲、そのアーティストが、
ヘッドホンから聞こえそうになると即座に飛ばした。

心を和ませて、洗い流してくれるものに頼りたかったので、
身体を鍛え始めるようになっていた。
というのもだいぶ散歩慣れして歩くのも慣れたから、
このついでに身体はしっかりさせないと廃人にでもなってしまうから。

白い息をはきながら走っていると、
自分の弱いところや好きなところを考えることができたし、
次の角で泣く時間にしよう!とか。
そうゆう感情のコントロールをするのにもってこいになった。
そんな前向きな考えが出るのにも関わらず、
心と脳みそには措置を加えていなかった。

多分、その時はきっと手に追えない状況で、
すぐにでも病院カウンセラーが必要な精神状態だったのに、
自分ではきづかないで通り過ぎてしまった。

それは普通の生活に入り込んできて、
刻一刻と自分の決め事の様になり、思考が壊れた。
街を歩く時に、ずーっと考えていたことは、
一瞬で命を落とせる高いビルを探すこと。
出来る限り家族に、友人に、職場に、
迷惑がかからない地域で高いビルを探すこと。
いつの間にか、その思考だけ私の頭を支配し始めていた。

普通に会話をし、家族と友人に会い、ご飯を食べている中、
走っている時それを考えていた。
どう間違ったのか、普通の暮らし方がおかしくなって、
そこでたちどまることは無かった。

何でそこまで私を暗くさせたのか。
あたしは自分の事を自分では認識できないくらいの、
怖い人間だと恐怖でかたまる。

一人で死ぬことを決めた。


尖った刃先を胸の下の方にあて心臓の鼓動が直ぐ近くにあること、
すぐそこの皮一枚を隔てて隣あっているその鼓動を止められる刃先があること。
息をとめて、翌日目が覚めないようにと何十回祈った。

気を失って寝ても意味がないから、
確実な方法が何か、最後まで考えた。
既に、泣きすぎてでなくなった涙は、悲壮感も喪失感も哀愁もなくして、
甥っ子たちが遊びにきて、楽しく遊んだ後も笑うのを思い出せなかった。
方法を忘れてしまったから。
笑う事が出来ない人生なら、今まで笑ってきた分で充分だと。
どうしてそうなったのかも、考えることはなかった。
感情をなくしたら、彼の事も考えなくなってきていた。


その日。
つん、と張った空気の中でも
すでに心は落ち着いていて寒さを感じなくなっていた。

今日は会社からの帰り、一時間半歩いてきていた。
手の暖かさもまるで無い。
家はすぐそこの、
誰もくることの無い邪魔されないビルとビルの間の、
普段は猫くらいしかこの隙間を歩かないだろうというところを、
四つん這いになって奥まで入って行った。

仰向けになって寝ると、そこは、
左右から生えた木々の間から、
なんともまあ綺麗な月を見上げられる絶景だった。


家で裁縫用のハサミでも、心臓をひとつきにできなかった。
冬休みで、甥っ子たちがきていた。
甥っ子たちが翌日泣きわめいて、鬱になることを想像して、
登校拒否になっては困ると考えてやめた。
家のことが気になって高いビルからも飛びおれなかった。

人にめいわくがかからないと思った。
ここで死んでも、少しして見つかって、、。
家族や友人。哀しむ人を想像しなかった。


みんなありがとう。
あたしの人生ずぅーーっと楽しかった!
でもね、もう笑えない。
心がなくなってしまった。

わたしは身につけていたバックのひもを首に巻いた。
予習はしてなかった。
首を一周まいて 左右に引っ張る。
耳が遠くなって 目が霞んで行く。
まだ苦しくない。

息をしないのにも慣れていた。
家でずぅーーっとやっていたから。
心臓麻痺でも死ねるかもしれないと、こちらは家で経験済みだ。

紐は細いから余計に首で絡みつくのに丁度だった。
引っ張る力を強める。

誰があたしを見つけてくれるんだろうか。
きっと楽しいひとだった、明るい子だった。
みんなそういってくれる。

嬉しいなあ。ほんとみんなに出会えてよかった!


首に力をいれても息ができなくなってるのがわかる。
吸う力はもうない。

頭がスースーしてきた。

血がまわらなくなってきて急速に冷え出してるのだとおもう。
こんな時でも自分の変化にすごく冷静でいられた。

そんなことを決断しなくても、別に幸せだった。
笑えなくても、友達が周りに居てくれること。
満たしてくれる人がいること。愛は探そうとしなくても、直ぐあった。

大切な人を思った瞬間涙が出てきた。
いままでありがとう!と心から感じていた。
それ以外、ほんとうにない。

それで一層力をいれた。

頭が完全に冷たくなってきてるのがわかる。
このまま死ぬんだ、とおもったら、


次の瞬間、母と父の顔が浮かんだ。
何やってるんだろう。帰らなきゃ。
二人が待ってる。帰ろう。

その時浮かんだのは、彼では無かった。

すごくくるしいはずなのに、自然といれて、
普通に歩いて、むせることもなく普通に呼吸してサッサと帰った。
むしろいつもより早足だった。

ただいま!
おかえりなさい。
いつも通り帰ってきた。
わかってないかな?

さっきあたし死のうとしたけど。


ご飯が盛られ、いつもどおり食べた。
涙が出て止まらなくて、脱水症になるかと思った。
身体の震えが止まらない。
急に普通の生活を取り戻した身体は何故か痙攣しはじめた。
自分の部屋にいって疲れたといい、
気付かれないよう、顔だけ洗い直ぐにねた。

たぶん本当に疲れていたし、必要以上に家族と話してたら、
きっとまた涙がでてくるから。

さっき、顔を洗ったときに見た鏡にうつった私の首には、
ひどく赤く跡が残り、右耳から顎へ、また左耳にかけて細胞が壊れたのか、
ぷつぷつと鬱血の後がぐるりと一周していた。
いままで見た事のない自分の腫れぼったい顔だった。
明日は仕事を休もう。映画館にでもいればいい。
家に居ない方法を探した。


夜は、生きることを選択したことに泣いた。

ゆったりとながれる涙。

この時は、わーわーと流れる涙は体力的に出そうもなくて、
身体を横にすると、ゆるやかな線になってただ流れていく涙を、

それを頬が感じてるのだけで精一杯だった。


次の日もいつも通りやってきて、
また同じように寝て、涙を流していた。
その次の日も、また次の日も涙が出た。

ただ変わったのは、


もう高いビルは探すのをやめたことだった。

天国

走る事は引き続き止めなかった。
この世の素晴らしさを確実に自分に摂り入れる自分になりたいと、
また心から笑う事の好きな自分を信じ蘇らせたいと、
まずは富士登山を体験することにする。

友人も前から言っていて賛同してくれたので、
そのまま鍛えるのを続けてバスに乗りこみ、ツアーに参加した。

緊張や、迷いはなくただ自分を信じ上を目指してみる。
呼吸が薄くなる標高にくると、ふとあの日を思い出した。

それでも、少し笑いながらその日を、
自分の中で再生の日として受け入れる事の必要さを感じるまできていた。

牧師をしている友人の話によれば、
教会結婚式でよく聞かれるあの、
あなたはこれを妻とし、夫とし愛する事を誓いますか?の言葉。
あの愛する、、とは行動で
好き、嫌いとかの好意の部分、感情論の話ではないと。

愛し続ける行動を約束してもらっている。
という深い話を頭に反芻させながら私は、
命あるものは、出来る限りほぼ全てを愛するという行動をしようと、
そうしたいと思ったんだ。

だから、今日からまたその気持ちでまずは、
この山に挑んでその確固たる気持ちを確立させたいんだ。

友人には伝えていない。
それはそれは重過ぎる考えだったろうから。
理解してもらうべきことでも無いと思った。
そして何より、酸素を補給しながら登らないといけないんだから、
そんなんを語りながらの作業は困難、且つ迷惑だろう。

よみがえった身体は呼吸をして、普段より澄み渡った空の空気を吸った。
見渡せる雲海、見ず知らずの人と過ごす日、
山に挑んでいる様々な背景をせおった人達と。
生きているからこそ出会える様々なリスクと。
人間としての挑戦をしてきたひとたちに、
背中を後押しされながら。
少しでも自分のこれからを見つめていけるように。

頂上付近でも大好きなタバコを吸った。
その時ばかりは、
ウワーーー美味しー!
この感覚を自慢したい!!
っと彼に感じた。笑


笑えるようになった。
自然な事だった。ほんとうに。

わたしは
過去を忘れたりはしない。
もちろん、思い出せば辛くなる事も有るだろう。
それでも、辛いのをあじわったらもっと楽しくなる。
辛いときは想いを手紙にかいてヤギにたべてもらうか、
ふといっしょに鯉にあげてしまえばいい。
蓋をして隠さずに、背負って生きる事に決めた。



愛してるよ。
愛してるよ。
でもどうか夢に出てこないで、辛くなるから。
たまらなく会いたくなって 呼吸さえうまくできなくなるから。
わたしが我慢するのは 誰かを幸せにしてほしいから。
心からは願わない。
本当ならその幸せな時間をすべて共有して、一人占めしていたい。

心と身体がつながるとき意識は脳みそを占領していく。
麻薬に似たような依存性の強いもの。
もう頭で、脳でパニックはおこせない。
この身体をまた不必要にしてしまったら、 生きて行く意味がない。

この手、誰かを幸せにしよう。
この目、愛すべきものたちをみていよう。
愛せなくても、愛されなくても、
みていると愛すべきものはわかってくる。

愛することは行為。
私の中では、その気持ちで生き続ける。

それが手に取るようにわかれば、まわりを幸せにできるに違いない。

この身体に血が通う限り、わたしは永遠に愛を誓う。



勇気のいる、どんな後悔をも受け入れる決断は、
わたし自身を強くするエネルギーにかわった。

私の中でそれは、紛れもない。生きる事にしたという決断。

いづれ癖づけた、習慣は空気と同じ必要不可欠なものとなる。
そうやって、、この世界で一生懸命生きるんだ。
自分でそう決めた。


空に向かって突き上げた手は、
何をつかもうか?



答えは急がなくってもいい。
考える時間は、たっぷりある。

例えば何処かでまた会っても

ワン!
お腹減ったワン!



わたしをいつでも必要と呼んでくれる子がいる。
この子の為にも生きなくっては。
そう思ってるわ(ピース)



この世の素晴らしさ、日々失う色んなものへの愛を決して失くしたくないので今回の作品を、
過去の自分を信じ書きました。

人間の魅力、生き抜く様は人によって違うとおもっています。
愛してる。すべてへ

例えば何処かでまた会っても

ツン、と張った空気の中でも すでに心は落ち着いていて寒さを感じなくなっていた。 みんなありがとう。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 冒険
  • 成人向け
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2014-12-30

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  1. 想い
  2. 常備薬
  3. 副作用
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  5. いわゆる病気だから
  6. 事件と事故
  7. 人工蘇生
  8. 天国