仮面ライダーW  Zを継ぐ者/悲しきピエロ

w最終回を見て感化されまして、こんな最終回もありかな~と思い、オリジナルで小説にしてしまいました。登場人物の設定や細かいところは突っ込まないという事で。好き放題やってますが、ご感想お聞かせ頂けると嬉しいっす。ちょっと長いかも。
追記 2012年12月に講談社から三条陸著・本家仮面ライダーWの小説が出るようです。その名も「仮面ライダーW~Zを継ぐ者~」!まさかパクられた!?(笑)

プロローグ

古ぼけた建物。空には怪しげな三日月。そこはずいぶん前に閉鎖された病院だった。

二人は今、忍び足で廊下を進んでいた。

「亜樹子、しくじるんじゃねえぞ」

「翔太郎君こそドジ踏まないでよね。第一こんな仕事くらいで私が・・・・」

「シッ!いやがった!!」

今回のターゲットにようやくたどり着いた。あとは捕獲するだけだ。

「ようし、この鰹節で…」

「どいてどいて!美人所長特製のこのネットガンがあればイ・チ・コ・ロ・よ❤」

「ちょおま・・・・」

「ってええええええ!!!!」

どばっしゅうううううう

「ふぎゃあああああああ!!!!!!!」

驚いた三毛猫はその場から猛スピードで逃げだした。

「だーーーーもう!あにやってんだよ!」

「んなこといったって!あんなに素早いなんてあたし、聞いてない・・・・」

「言い訳すんな!だからお子ちゃまはついてくんなっつったんだよ!」

「だーれがお子ちゃまよ!!!!」

 パコーン!!!!

「いってーな!」



ここのところ、ドーパントによる怪事件はすっかり鳴りを潜め、鳴海探偵事務所は迷い猫探しなどこれまでに比べれば「小さな」事件の依頼ばかりを受けていた。

フィリップが消滅してからの左翔太郎は、所長の鳴海亜樹子が逆に心配してしまうほどに「普通」だった。探偵業の依頼は普通に受けたし、風都の住民とも今までどおりに明るく接していた。

ただ一つ「異常」だったのは、フィリップについてだった。

彼の事は一切口にしなかったし、まるで最初からいなかったかのように振舞っていた。その様な態度はお互いを相棒と呼び合う仲であった二人を知っていた人からすると、冷たいとも取れた。

男は歩いていた。その足取りは鉛のように重く、今にも立ち止りそうである。

それでも男は、あてどなく止まることなく歩き続けた。目はうつろで、まるで痴呆症の老人が徘徊しているようであった。

男は目指していたのだ。在りし日のミュージアムを。




十数年前。とある学会。

園咲琉兵衛は「地球の記憶」に関する論文を発表していた。

「ガイアインパクト!地球の記憶に触れることによって、我々人類は新たな段階へ進む事が出来るのです!」

実の息子を研究現場の事故で亡くして以来、彼の言動は異常なものがあった。

「遂にここまで狂ってしまったか…」

会場に居合わせた人々は彼に憐みの目を向けながら、一人また一人と席を立って行くのだった。

「なぜわからないのだ!人類は死をも超える非絶滅危惧種となるのだ!!愛する者を失う悲しみから永遠に解放されるのだ!」

主催者側の一人が叫んだ。

「もうやめたまえ!君はこの学会から除名する!さっさと立ち去りたまえ!」

琉兵衛はなお叫んだ。

「どうしてわからない!現に私の息子は…っ!」

会場にはもう聞いているものはいない。そう思った彼は資料を乱暴に掴み、カバンに押し込むと憤りながら建物の外へ出た。

しかし彼は知らなかった。その会場には多大なる関心を持って彼の発表を聞いていたものが二人いた事を…




うつろな目をした男は、現実に戻りつぶやいた。「教授…あの論文は素晴らしかったです…」

その男の名は結城譲二という。J大学で助教授をしている。年齢の割には白髪が多く、痩せぎすでいかにも病弱という体つきであった。そのように見えてはいても、意外と健康なのか遅刻や欠勤はしたことがない。いわゆる平凡な日常を送っていた。

ミュージアムが崩壊する日までは…

園咲邸が謎の大爆発を起こし、街中が大騒ぎとなった日の夜、彼は忽然と姿を消した。無断欠勤を続ける彼を大学側は不審に思い、連絡しようとしたが彼には家族も親類もいなかった為、警察に捜索願を出すことにした。

捜索願を受けた警察は彼のアパートを調べたが、殺風景な部屋には荒らされた形跡もなく、書き置きもない。まさに蒸発といった状態であった。

最近は激減していたものの、風都において住民が行方不明になる事は日常茶飯事的な事件であり、警察も対応しきれないでいた。そんな状況ということもあり、結城の場合には事件性がなく天涯孤独の身であることから、彼の捜索はあっさりと打ち切られたのである。


―――――――― 結城は今、焼け崩れ廃墟と化した園咲邸の地下にいた。火災によってセキュリティシステムなどすべて機能を失っており、簡単に侵入する事は出来た。だが崩れたガレキの山をかき分けて進むうちに、彼の衣服はズタズタに破れ、腕や脚からは数条の血が滴り落ちていた。

しかし彼はそれを意に解する事もなく進み続け、ようやく屋敷のいちばん奥深い場所「神殿」に辿り着いた。

「っ…泉は…泉は無事なのか…」

目を開けているのか閉じているのかもわからないほどの闇の中を結城は手探りで進み始めた。しかし気力とは裏腹に、疲れと出血のため彼の意識は朦朧とし、そして徐々に薄れていった

聴衆の反応に憤慨した琉兵衛は会場を後にし、入口付近に停めてあった自家用車に乗りこもうとしていた。

乗りかける彼をふと背後から二人の男が呼び止めた。そのうち一人の男は、全身白づくめで異様な雰囲気を漂わせていた。男は財団Ⅹの者だと名乗り、琉兵衛の研究に対し非常に興味を持ったという。詳しい話の内容によってはスポンサーになってもかまわないと無表情に言った。

もう一人の男は若い研究者である。やはり琉兵衛の研究に心惹かれたという。学会の発表の場で力説をしていた「死を超越する力」なるものが見てみたいと、取りつかれたように琉兵衛にせまった。

琉兵衛は、少し考えるように二人の顔を交互に見比べたあと、高らかに笑い声をあげた。

「よろしい!お二人にご覧にいれましょう。星降る谷の『泉』を。地球の記憶を!!」



「…そう、この場所だった」

結城は、はっと目を覚ました。「この場所で私は目撃したのだ…死を超越する力を!」

過去に琉兵衛に連れてこられた時の記憶をたどり、ガレキを踏みしめながら、結城は暗闇の中を何かに引き寄せられるように歩き出した。

しばらく進むと水平線に沈む夕陽の閃光のごとく、うっすらと緑色に光る一条の光を見つけた。

その光は結城が近付くとなぜか輝きを増した。

「おおおお、泉は無事だったか!」

輝く泉には、重くのしかかるように岩が蓋をしていた。結城はあらんかぎりの力でその岩をずらした。無理に岩を動かした為、両手の指先からは血が滲んでいたがそれに気付かないほど興奮しているようだった。

地鳴りと共に光は辺り一面にあふれ、結城ごとその一帯の空間を飲み込んでしまった。

疲れきった体に、結城は神々しい力が隅々までみなぎったような感じがした。

「教授、ガイアインパクトは必ず私の手で…」



超常犯罪捜査課課長、照井竜はとある事件の現場にいた。真夏だというのにその部屋は
凍えるほどに寒かった。凍りついた部屋を調べながら、照井は忌々しい過去の記憶がよみがえるのを止められずにいた。家族を皆殺しにされた記憶。井坂真紅朗によって引き起こされた、思い出すだけでも震撼する殺人事件。

「井坂は死に、ウェザーのメモリは破壊したはず…なのにこれは…」

どう見てもウェザーの能力による犯罪。幸い被害者は軽い凍傷ですんだのだが。

「何者かがまた…動き出していると言うのか…」

照井は再び街に潜む悪意、憎悪の様なものを感じた。

{nekoha bujini hogosita}「――っと」

翔太郎はいつものように愛用のタイプライターで報告書を仕上げると、顔に恍惚な笑みを浮かべながら、淹れたてのコーヒーの入ったカップを口に持って行った。

「ブフゥゥゥゥゥ―――!」

「にゃんじゃこりゃああ!!亜樹子ォォォォ!!」

「ほほほほほ、優しい亜樹子さまの黒酢入り健康コーシーよ!翔太郎君には頑張ってもらわないとね~。ちゃんと飲んでよ!」

「ったく…おまえなあ!」

と口では言いつつ、翔太郎は亜樹子の気持ちをちゃんと分かっていた。

この街は彼を必要としている。またこの事務所を守っていかなければならない。だからこそ明るく振舞っているのだということを。



ブオオン!!!

いつものように、翔太郎と亜樹子が漫才をやっていると、これまたいつものように照井の赤いドゥカティが轟音とともにやってきた。

ドーパント絡みの事件がないため、しばらくの間、照井は事務所を訪問する事はなかった。

そんな彼の久々の訪問に、明子は胸をときめかせ瞳を輝かせた。

「左、調べて貰いたい事がある。」

「…ドーパントか…」

「やはり知っていたか。ならば話は早い。俺たちが今までに倒したドーパントの能力を使った犯罪が多発している。おそらく何かが…何者かが動き出している…」

翔太郎は帽子を目深にかぶった。表情を隠そうとしたのだろうか。そして憮然と言い放った。

「今回の案件がドーパント関係っつーんなら、それは専門外だ。帰ってくれ」

翔太郎があっさりと断った事に驚いた亜樹子は思わず声を荒げた。

「どうしたの!翔太郎君!竜君がせっかく依頼に来てくれたのに。今までだったらすぐ…」

「何言ってんだ。今までとは違うんだぜ…………なにしろもうダブルはいない…」

一同は沈黙した。

「……そうか、邪魔したな。」

静寂を破るように照井はそう言うと、早々に事務所を後にした。

あわてて後を追った亜樹子が照井を呼びとめる。

「…ごめん竜君、翔太郎君はまだフィリップ君がいなくなったショックから立ち直っていなくて…」

「わかっている。だがやつは必ず来るはずだ」

と言いながら、事務所入り口のドアを見つめた。

「俺はこれからここへ行く。ドーパント達のパーティがあるとタレこみがあったのでな。すまないがこれを左に渡しておいてくれ…」

一枚のメモを取り出し、亜樹子に渡した。そして素早く真っ赤な愛機にまたがると颯爽と走り去って行った。

メモを受け取った亜樹子は悩んだ。これを翔太郎に渡していいもなのかどうか。照井は信じて待っているようだが、ドーパント関連の事象を全て拒絶している翔太郎の姿をいつも見ている亜樹子は、以前のようにおいそれと照井の加勢に行くとは思えなかった。

園咲若菜は警察病院にいた。園咲邸の謎の爆発の後、翔太郎に保護された。

その後警察に連行された若菜は、ガイアメモリを使った犯罪に加担していた園咲家、その最後の生き残りとして取り調べを受ける為、警察病院に移送されていたのである。

若菜の病室を訪れた刃野刑事は、深いため息をもらしながら部屋を出た。保護されてからというもの、彼女は放心したように一点を見つめたまま何も語ろうとしなかった。

医師の診断では彼女の体に異常はなかったのだが、何か強い精神的ダメージを受け心を閉ざしている、とのことであった。

{お父様もお姉さまも、そして来人まで失ってしまった。私にはもう何も残っていない・・・}

フィリップはその体を消滅させる直前、

「姉さんには秘密にしておいてくれ」

と言い遺し、翔太郎もその約束を守り若菜には伝えなかった。だが、星の本棚でつながっていた彼女には、フィリップが消えてしまった事実、存在が失くなってしまった事を否応なく感じていたのである。

父親は夢半ばにて業火の中に消えた。姉や弟は自分を助けるために命を投げ出した。そして母親はいずこかへ姿を消している。今までこの街、風都やその人々に対し園咲家が行ってきた所業への報いとしては当然だったのであろうか。結局ガイアメモリによって幸せになったものは一人もいなかったのだから。

生きている事さえ空しくなり、若菜は心を閉ざしてしまった。もう二度と傷ついたりしないために。もう誰も傷つけたりしないように…。

J大学大講堂。小高い丘にある構内において最も大きな建造物であり、他の棟とは少し離れた林の中にひっそりと建っている。有名教授の講義や著名人の講演だけでなく、コンサートなどのイベントにも使われていた。

ある日の深夜。真夜中だというのに大講堂は、人いきれでむっとするほどの人々で溢れかえっていた。それだけの人間が集まっていながら、なぜか物音一つたたない。

その集団は老若男女、統一感はまったくなかった。彼らの眼窩は暗く落ち込み、幽鬼のように一点を見つめたまま立ちつくしている。

そして彼らの手にはガイアメモリが握られていた。

照井は大講堂に集まった人の数に驚愕していた。彼は今、講堂のいちばん隅の大窓にかけられているカーテンに隠れて、異様な様を目の当たりにしていた。

「この人たちは一体…」

おおおおおおおおおおおおおおおお………

急にどよめきが起こる。地に響き渡るような低い不気味な声だった。

どうやら講堂に集まった人々が、待ち望んでいた人物が現れたようだ。

「黒幕のお出ましか…」

照井はその正体を見極めるべく目を凝らした。

するとその刹那、講堂内前方のステージにまばゆいばかりの光があふれだした。


『…人々よ、悲しみながら苦しみ、それでも生きる人々よ…』


光の方からその声は聞こえてきた。優しくそして穏やかなトーンのその声は、心の奥深くに静かに安らぎのように響いてくる。

『…もうすぐだ…もうすぐ我々は解き放たれる…巫女を蛮族の魔城より奪回し、我々は悲しく醜い過去と決別するのだ…』

「巫女?…一体何の事だ…」

照井にはその言葉の意味することが分からずに困惑した。声の主は何者で何をたくらんでいるのだろうか。

『…今宵、神聖なる儀式の幕を開けよう…まず手始めに、この神聖なる場に潜り込んだ、穢れた虫を儀式の生贄として捧げるのだ!』

「むっ!!」

講堂のステージに備え付けられたスポットライトが照井の潜むカーテンを一斉に照らした。

「っ…罠か!!!」

集まった人々は一斉に照井の方へ向き直った。そしてガイアメモリを高く掲げる。個々のメモリが鳴り響く。

「ウェザー!」 「マグマ!」 「アイスエイジ!」 「バード!」 「ナスカ!」
……………

各々の体のコネクタにメモリを差し込んだ。全員、異形の姿「ドーパント」に変化する。


照井は素早くカーテンから姿を現すと、アクセルドライバーを腰に装着した。

「貴様らの悪夢、俺が終わらせてやる!…変……身!!!」

「どうして?翔太郎君!」

照井が去った事務所に亜樹子の声が響いた。

「この街を泣かせるものは許さないって、いつも言っていたじゃない!!」

照井の残したメモを亜樹子から受け取ったまま、翔太郎は背中を向けて押し黙っている。

「そんな翔太郎君の姿を見たら、フィリップ君だってきっと悲しむよ!」

ピクリと翔太郎の指が動いた。

それだけ言うと、居ても立っても居られない様子で亜樹子は事務所を飛び出していった。

「おい亜樹子!…」

翔太郎が呼び止めたが、亜樹子は振り返りもしなかった。

誰もいなくなった事務所内で、翔太郎は立ちつくしていた。亜樹子に言われずとも、翔太郎はすぐにでも照井の後を追いたかった。再びドーパントが動き出しているとなれば、街の平和は再び乱される。誰かが食い止めねば、また誰かが悲しみの涙を流すことになる。

だが……

「…俺にはどうすることもできねえ…」

翔太郎は皮膚が青白く変色するほどにきつく拳を握りしめた。

今、照井の元に行ったとしてもドーパントが相手では足手まといになるだけだ。

自分の無力さに翔太郎はワナワナと打ち震えた。

「……ちっくしょおお……っ!!!」

翔太郎は思い切り自分のデスクに拳を叩きつけた。椅子に身を投げ出し、ぐったりとうなだれる。床にはデスクにあった本や書類の山が散乱した。ふと翔太郎はその中の一つの箱に目を止めた。

その箱は、フィリップが最後の戦いに臨む直前に、翔太郎にとプレゼントしたものだった。

翔太郎は今までその箱を開けられずにいた。箱を開け中身を見てしまったら、悲しみや寂しさ、切なさが爆発してしまいそうだったからだ。自分が弱くなってしまう。

翔太郎は自分を保つため、彼の事を心から消した。消したつもりだった。

「……」

一瞬ためらったが、何かに惹かれるように箱の蓋を開けてしまった。


そこには一冊の辞書のような分厚い本が入っていた。


「これは…?」

翔太郎が一枚ページをめくると、そこには夥(おびただ)しいほどの写真が貼ってあった。



それはフィリップがこの事務所にやってきてからの全ての記録であった。



他愛のない日常、事件の記録、調査したもの、証拠、そして解決した後の依頼人の笑顔。

ウォッチャマンやサンタちゃん、刃野刑事や真倉刑事の顔まで。おそらくフィリップが関わったであろう全ての人々の写真があった。いつの間にか彼は、デジカメ型ガジェット[バットショット]によって、ひっそりと撮影していたのだ。

「俺が報告書を書いてる間に…あいつ、こんなことを……」

それはまるで、フィリップがこの街風都で翔太郎たちと共に生きていた証しのようであった。


ページをめくるごとに、翔太郎の脳裏にフィリップと共に駆け抜けた日々が蘇る。

辛く悲しい事もあったが、フィリップとみんながいたからこの街を守って来れた。


最後のページに辿り着くと、そこには亜樹子と翔太郎、そしてフィリップの三人で撮った写真が一枚だけ貼ってあった。

そして……



《僕は忘れない、君たちと過ごした素晴らしい日々を。
     君たちと出会えた事を誇りに思う。
        翔太郎、素敵な思い出をありがとう!この街の平和、君に託すよ。》
           


とフィリップの直筆であろう文字が記されていた。



「…………フィリ……プ………」


翔太郎は流れ出る涙を止めることが出来なかった。その存在を消滅させてもなお、相棒は語りかけてくれる。この街を守ってくれと。翔太郎はフィリップの魂が己の中に生きている事を感じた。これからも二人は一緒だ。

「…そうだったな、相棒。この街は俺たちが守ってきた街。これからも俺たちで守り続けようぜ!」

溢れ出る涙をぬぐい、翔太郎は立ちあがった。もう迷わない。


デスクのいちばん端の引き出しを開け、古ぼけた鍵を取り出した。

「おやっさん…形見、使わせてもらいます!」

重いソファを引き摺るように動かし、その奥に隠してあった金庫に鍵を差し込むと、勢いよく扉を開け放つ。


籠もった空気がホコリと共に噴き出し、翔太郎はたまらず咳込んだが、それに構わず手を伸ばした。すると何か硬いものに手が触れた。それは疵だらけで所々が欠けているドライバーであった。翔太郎たちのWドライバーとは違い、メモリを装填(そうてん)する部分が一つしかない。それは鳴海壮吉が、仮面ライダースカルに変身する為に使っていた「ロストドライバー」であった。


「こいつにジョーカーメモリを差し込んだらどうなるか…」


ロストドライバーを手にし、翔太郎は戸惑った。


「…だああああっ!迷ってる場合じゃねえ、一か八かだぜ!」


翔太郎は一人そう叫ぶと、ヘルメットを掴んで表に走り出た。

そして軽やかに、愛機「マシンハードボイルダー」に跨った。

「待ってろ、照井。今行くぜ!!」

エンジンを荒くふかすと、タイヤとアスファルトの激しい摩擦で煙を巻き起こしながら、ゴムの焦げるニオイの中を猛スピードで翔太郎は現場へ向かった。

仮面ライダーアクセルは苦戦していた。

「…なんという数だ!」

ここに現れたドーパント達の個々の能力は、以前現れたものに比べかなり劣っていた。ウェザーやアイスエイジの凍気やバードの跳躍力、それらにほとんど脅威はなかった。

変身したアクセルは、あっという間に数体を切り倒しメモリブレイクさせた。

だが!

彼は圧倒された。それは多すぎる程の人数。また、倒しても倒しても次々に襲いかかって来るドーパント達に。

目の前で仲間が倒されても、彼らは少しもひるむ様子はなく狂ったように向かってくる。

その様は、アクセルに北欧神話のバーサーカーを想像させた。

講堂内は広いとはいうものの、この数に囲まれては手も足も出ない。



「ぬぅおおおおおお!!」



アクセルは、マグマドーパントが発する火炎をエンジンブレードで巧みにはじき返しながら、隙を見て窓ガラスを打ち破って外に飛び出した。

乱れる呼吸を整えながら、ドーパント軍団と間合いの距離を取る。

このままではやられてしまう。体勢を立て直し作戦を練らなければ…

彼の背筋に、ツッ…と冷たいものが走った。

林の中を走るアクセルに、コックローチドーパントが瞬間移動さながら素早く追いついた。

「チイッ」

アクセルは、ここはいったん引くべきだと判断し、アクセルトライアルに変身すべく、トライアルメモリを取りだした。しかしその刹那、上空から急速に襲ってきたバードドーパントにそれを奪われてしまった。


『無駄なあがきはやめたまえ……我々の前には君の力などまったくもって無に等しい。おのれの運命を受け入れ、その魂を天に還すのだ……』


謎の声は、どこからともなくアクセルに語りかけた。


「…だ、黙れええええ!!!!」


くじけそうになる自分の心を奮い立たせるように、アクセルは声を嗄らさんばかりに叫んだ。


そんなアクセルをドーパントが何重にも取り囲んだ。彼らの間に緊張が走る。

ドーパント達がジリジリとその距離を縮めていく。


「……振り切ってみせる!この街は…かならず俺が守る……!」


自分自身に言い聞かせるように、闘志を鼓舞するように言い放つと、アクセルはパワースロットルを限界まで一気に開いた。

アクセルドライバーがそのエネルギーに耐えきれず、キリキリと悲鳴のような音を出してきしみ始める。


「お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!!」


目が眩むほどの光を放ちながら、アクセルはレッドゾーンまで力を高めていった。



「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

力を溜め、輝きを増し続けているアクセルに臆する事なく、ドーパント達は次々と彼に飛びかかっていった。

Tレックスドーパントが獣の唸り声をあげ、その巨大な顎でアクセルの肩口に噛み付き、バイオレンスドーパントが、右腕の鉄球でわき腹を何度も殴りつける。殴られたわき腹から鈍い音がし、その音は彼の体に重く響いた。そして、アームズドーパントが大腿部を力任せにその巨大な剣で切りかかった。


次々と覆いかぶさるように、ドーパント達は一心不乱にアクセルに飛び付いた。既にアクセルの体が見えないほどだ。


「……もっ…と……もっと…だ……全員…集まって…こい……」


体中に広がる激痛。しかしその痛みが治まる前にまた次が重なって、更なる激痛が走り続ける。アクセルは、それでもなおスロットルを回し続け力を溜めた。


遂に、殆どのドーパントがアクセルに飛び付き、または飛び乗って一つの巨大な塊となった。異様な形のオブジェと化したその塊は、あたかもアクセルの墓標の様であった。


「…っいくぞ!!!!」



一瞬の静寂の後、アクセルの青い円状の複眼、フェイスフラッシャーが激しく光り輝いた。


そしてレッドゾーンにまで高めた力を一気に解き放つ。


その瞬間、そこに居たすべての者たちの耳の奥でキンッと音がしたような気がした。金属の当たったような、空気が張り詰めたような、そんな不思議な感覚だった。


「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」



ドーパントの塊を突き抜け、アクセルは天を突くように空高く飛翔した。

みる間に大地が遠くなる。墓標は既に塵のように小さくなった。


限界の高さまで到達すると、アクセルは体を反転し大地に向き直った。月の光を背に受けシルエットが浮かび上がったのも一瞬、今度は真っ逆さまに急降下する。

ドーパント達は、頭上で真っ赤に燃え滾る流星を仰ぎ見ていた。その輝く星は、ものすごい勢いで大きくなる。


すさまじい落下速度による空気との摩擦で、アクセルは己の体を高熱で燃やしながらエンジンブレードを深く構えた。

そしてその切っ先で、必殺のアルファベット「A」の文字を真下に向けて描く。

「ぐぉあああああああああああああああああああああああっつ!!!!」


叫びとも、咆哮ともつかない声が辺りに響き渡る。

アクセルは業火のAの文字となった。そして墓標にその文字を刻みこむように、ドーパントの群れへ臨界点を超えたまま突っ込んでいった。

10

亜樹子はJ大学の駐輪場に、乗って来た原付バイクを停めていたところだった。

その瞬間、地響きと共に激しく地面が揺れた。おもわず耐えきれずに体がよろめく。と同時に構内の林で大きな火柱が上がった。

「…な、なんなの?……まさか…竜君…っ!」

妙な胸騒ぎを感じた亜樹子は、火柱を目がけて走り出した。




辺りは一面、焦土と化していた。墓標のオブジェは跡形もなく消え去り、周りにはメモリブレイクをされて気絶した人が何人も横たわっている。一応、息はしているようだ。


すり鉢状に深く抉られた地面の中央に、照井はうつぶせに横たわっていた。既に変身は解けてしまっており、黒焦げている部分が多数にあった。また裂傷による出血が殊更に酷く、生々しく傷が口を開けていた。

だが最後の力を振り絞り、照井は痛みに呻きながらもゆっくりと立ち上がった。しかし、まともに立っている事が出来ず、思わず片膝を落としてしまう。

一番酷く痛む左のわき腹を右手で押さえながら辺りを見渡すと、ドーパントの姿の者たちは一体も残っていなかった。どうやらあの一撃で一掃する事ができたらしい。


「竜くーんっ!!」


振り向くと、何度も草や茎に足を取られながら、林の奥から亜樹子がこちらに近づいて来た。


「所長…」


照井は亜希子の顔を見て、安堵のため息を漏らした。


「!」


が、次の瞬間、照井は息をのんだ。


草むらに潜んでいたウェザードーパントが突然姿を現したのである。

差し向けられた手には、電撃が込められているようだ。しかもその照準は、何故か自分ではなく亜希子に向けられている。


「井坂!…貴様なのか!貴様はまた…また俺から大切なものを奪うのか!!!!」



そう叫ぶや否や、照井は走り出した。


走り出したと同時に、ウェザーは電撃を放った。勢いよく放たれた電撃が亜希子に向かっていく。



照井の目は記憶していた。殺された妹、春子を―――

照井は見てしまった。亜希子に妹の姿が重なるのを―――


「…春子…もうお前を傷つけさせたりは…しないっ!!!!」



照井は左足を引き摺り、わき腹を押さえながらも、全力でまた全身で亜希子の前に身を投げ出した。


その刹那、電撃が照井の背中を焼いた。


所々が裂け、土や血で汚れてしまった真っ赤なライダージャケットの革と、皮膚の焼ける臭いが照井と亜希子の鼻につく。


「だい・・じょ・・ぶか、しょ・・・ちょう・・・・・・」


照井は亜希子に向かって優しく微笑むと、膝から崩れるように倒れ込んだ。


「りゅ、竜君!!!竜君!!!竜く―――んっ!!!!」



亜樹子は照井を抱き抱え、何度も呼び起こそうとしたが、照井はピクリとも動かなかった。


『…よろしい…邪魔な虫は息絶えた。ついでにそのゴミを片付け、我々の神聖なる儀式を始めるのだ!』



謎の声が鳴り響くと、土の中からナスカドーパント、岩陰からホッパードーパントが姿を現した。アクセルの攻撃から難を逃れ隠れていたのだ。

ウェザーを合わせた三体のドーパントが、照井を庇うようにして抱きかかえる亜樹子を威圧的に取り囲んだ。


「…もう…ダメ…」


亜樹子は照井の頭を護るように抱えると、その場にうずくまった。


絶望感が亜樹子を支配した次の瞬間、聞き覚えのある音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。

11

恐怖のあまり幻聴がしたのだろうか。亜樹子は一瞬自分の耳を疑った。


…まさか、そんなはずは…


また同じ音が聞こえてくる。その音はだんだんと大きく、さらに近くなって聞こえてきた。

もはや、幻聴だと疑う余地はなかった。

鬱蒼とした草木をかき分け、轟音と共に緑と黒のボディが宙を舞い颯爽と現れる。

翔太郎のハードボイルダーが、バイクで走るには困難すぎるほどの林の中を突っ切って来たのだ。


強引にドーパント達を遮るようにして、翔太郎は愛機を草の露で滑らせながら亜樹子と照井の前に停めた。


「待たせたな、亜樹子!照井!」

「っ…遅いよ!翔太郎君!」

亜樹子は涙ながらに、しかし笑顔で翔太郎に向かって叫んだ。その胸には絶望感に変わり、安心感と希望がみなぎる。翔太郎の姿は神々しくさえ見えた。


「照井を連れてはやくここから逃げろ!あとは俺がなんとかする!」


ドーパントに向かって身構えた翔太郎は、振り返りもせずに亜樹子に言い放った。


「でも、どうするの?翔太郎君…もうダブルには変身できないんだよ!」


「相棒と約束したんだ。この街を守るってな…それに俺は一人じゃあない!」

そう言うと、翔太郎は鳴海壮吉の形見である、疵だらけのロストドライバーを取りだした。


「…おやっさん、フィリップ、俺に力をくれ…」



呼吸を一瞬止め自分の中で思いを整えると、覚悟したように翔太郎はロストドライバーを取り出し素早く腰に装着した。

もう使う事はないだろうと思っていたジョーカーメモリをゆっくりと構える。


「……変・身……!」


メモリをドライバーに装填する。翔太郎の体がまばゆい光に包まれた。

12

翔太郎の体に稲妻のような力が駆け抜ける。

その全身が全ての光を吸収するような漆黒の闇と化した。

四肢は大樹の根や幹のごとく強靭になった。

目にはふたつの燃えさかる太陽が宿る。

一陣の風を受け、純白のマフラーが宙を舞った。


「……仮面ライダー……ジョーカー…?」

亜樹子は茫然とジョーカーの頼もしい漆黒の背中を見上げた。


ジョーカーになった翔太郎は、まるで歌舞伎のように大袈裟に見得を切る。



(…これなら、行ける!)


ジョーカーは拳を握りしめ、その感覚を確かめた。



その刹那、ジョーカーの右半身に異変が起こった。


「ぐううああああ……」


苦痛が全身を駆け抜けた。痛みのあまり身をよじる。すると、徐々に足先から右半身だけが、壊れたアナログテレビのようにノイズが走り出し、見る間にジョーカーの姿を留めなくなってしまった。

「…右手に…右手に力が入らねえ!」


ノイズが入るだけでなく、偶に透ける右手。思うように動かせず痺れもし、まるで自分の手ではないように感じられた。その痺れは激しい痛みを伴い、思わず庇うようにうずくまった。

隙だらけとなってしまったジョーカーに、三体のドーパントが一斉に襲い掛かった。


殺気を感じたジョーカーは、寸でのところで地面を転がり攻撃をかわす。


「クソ!…変身は出来たが、やっぱりこのドライバーだと俺には無理なのか…っ!」


「翔太郎君っ!」

亜樹子は心配そうに叫んだ。

「…気にすんな。大丈夫だ。さあ、早く照井と安全なところへ!」


ジョーカーは自分の不安を隠しながら、精一杯に強がってそう言った。


気付けば右からはナスカが、また左からはホッパーが攻めてくる。避ける方向を定めようと正面に素早く目をやると、ウェザーが今まさに飛び掛かろうとしていた。


勢いよく突っ込んできたホッパーに、苦し紛れで放ったやけくそなキックがみぞおちに炸裂した。

しかしナスカが華麗に抜き、そして放った刀がジョーカーの無防備な右わき腹をとらえる。

そこへ間髪を入れずにウェザーが電撃を放ち、辺りを明るく照らし出す。

その電撃をジョーカーは正面からまともに受けてしまい、爆音と共に彼の体は2~3メートル先に吹っ飛んだ。

吹っ飛んだ先に木の幹があり、それに背中を激しく打ち付けた。衝撃で体がくの字に曲がり、一瞬呼吸が止まる。しかしすぐに空気が肺に入って来たため、ジョーカーは激しくせき込んだ。


そんな状況でも、だからこそ尚迫るドーパント。


依然、力の入らない儘ならない右側の胸を左腕で激しく叩く。


「…ちっくしょおお、なんでこっちは動かねえんだ!」


ジョーカーは絶望に打ちひしがれてしまった。このままでは街を守るどころか、亜樹子たちさえ守れない。守ることが出来ない―――


意識のない照井を引き摺るように連れ、どうにか林の中に身を潜めた亜樹子は、心配で心配で堪らなかった。このままでは翔太郎さえも照井と同じ運命をたどりかねない。やはりダブルでなければ――― 彼がいなければ勝てないのだろうか…

13

ホッパーの強烈なキックを肩に受け、ナスカの鋭い斬撃を胸板で受け止める。ウェザーはあざ笑うかのように遠距離から激しい電撃を放った。

ジョーカーは何もできず、猛攻撃に耐え、立っているのがやっとであった。

意識が遠く薄れていく…


消え入りそうな意識の中、翔太郎の瞼に鳴海壮吉の姿が浮かんだ。


「…すまねえ、おやっさん。どうやら俺はここまでみてえだ。あんたみてえにハードボイルドに、やれそうにもねえ…」


翔太郎は幻の鳴海壮吉に左手を伸ばした。彼のいる世界に連れて行ってほしいとでも言うように。

鳴海壮吉も手を伸ばした。優しく穏やかな、包容力のある笑顔をたたえながら。


「おや…っさ…ん…」


自分の頑張りを認めて貰えたようで、翔太郎は嬉しかった。

しかし、鳴海壮吉は力強く翔太郎を引き寄せると、反対側の手でその顔を思い切り殴りつけた。


「!?」


衝撃でジョーカーは目を覚ました。


「…そうだなよな…おやっさん…」


「へこたれてる場合じゃねえ!!」


ジョーカーは力が入らない、誰もいない右側を支えるように、また庇うようにしてゆらりと立ち上がった。


「たとえ半分の力でも、俺のありったけをぶつけてやる!」


動く左半身だけで攻撃を仕掛けようと考えた翔太郎は、左腕で反動をつけ、同じ側の足で力強く地面を蹴った。片方だけの力で跳び上がった為に軸がブレ、空(くう)で一瞬バランスを失った。だが、左腕と左足を器用に使いかろうじて体を保った。

そのまま左足を踵落としのように振り下ろし、ジョーカーは思い切り前方に回転した。

落下をしながら回転し、その遠心力で速度をぐんぐんと上げる。ジョーカーは黒い竜巻と化した。まるで、ブラックホールのように暗黒で、飲み込まれそうな風の渦。

高速回転の竜巻が、ホッパーとナスカを捉える。真空の風を纏った左足のキックが二体のドーパントに炸裂した。

二体は大爆発を起こし、元の姿―――人間に還った。


ウェザーはそれでもなお、立ち向かってくる。仲間を倒された怒りからか、取りつかれたように狂気を孕んで襲い掛かってきた。

「くっ…」

力を使い果たしたジョーカーは、もう立ちあがる事も出来なかった。

14

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


翔太郎の絶叫が辺りにこだました。苦しい叫びが夜空に切なく吸い込まれていく。


ウェザーの伸縮自在の武器であるウェザーマインが、ジョーカーに今まさに襲いかかろうとしていた。

その瞬間―――――

ロストドライバーのメモリースロットが、ジョーカーの意図なくひとりでに閉じ、そして再び開いた。変身音が辺りに鳴り響く。

だがその音は、聞きなれたジョーカーの音ではなかった。

鳴り響く音の中で、痺れて動かなかった右手が眩く光り輝きだす。

その光に、思わずウェザーは怯み攻撃を止めた。


ジョーカーは光に包まれていた。その手には暖かいぬくもりが感じられ、戦いの真っ只中にいるというのに穏やかな気持ちになった。また誰かに握られているような、励まされているような感触がした。

光が治まると、彼の右手には見覚えのある一丁の銃が残った。

「これは…!」

その銃は、仮面ライダースカルの武器「スカルマグナム」であった。

なぜこれがここにあるのか不思議でならなかったが、鳴海壮吉の意思であると、救いの手を差し伸べてくれたのだと、彼は瞬時に理解した。


「おやっさん…っ!!ありがてえ!!!」


ジョーカーは動かない筈の右手で、素早くスカルマグナムを構えた。

そして、左手でジョーカーメモリを形見であるマグナムに装填する。


――――――――――――――マキシマムドライブ!!!!―――――――――――――


光に怯んでいたがなおも飛び掛かろうとするウェザーに、至近距離からのスカル・ジョーカーショットが着弾した。

青白く、時折紫を帯びた閃光が辺りを包みこむ。

轟音と共にウェザーは勢いよく後方に吹っ飛んだ。地面を転がりながら人間体に戻っていく。なんとかメモリブレイクに成功したようだ。

力を使い果たしたジョーカーの変身は、すっかり解けてしまい、そのまま起き上がる事も出来なかった。

スカルマグナムと右手の輝きは幻のように、まるで役目を終えたかのようにゆっくりと消えていった。

泥だらけ、傷だらけになりながらも勝利を得た翔太郎は、仰向けに倒れながら右手の拳を天に突き上げる。


「やった…ぜ…おやっ…さん…フィリ…プ…」

15

ジョーカーの戦いを見ていた亜希子は、照井のそばにへたり込んで放心していた。

「翔太郎君が…仮面ライダーが、勝った…」


戦いの後、静寂がその場を支配していた。


翔太郎は崩れるように気を失った。もはや動ける者はだれもいない。


林に静かな夜が戻った。


「こざかしい虫どもが…」

大講堂の屋上で事の顛末を見届けていた結城は、仮面ライダー達とドーパントの戦いを見届けると一人つぶやいた。

「…まあいい、おかげで巫女は無事に奪還出来た…」



同じ頃、警察病院は混乱していた。

ジュエルドーパント率いる、マスカレイドドーパントの一団による襲撃を受けていたのである。


「刃さん!一体なんなんすか!これは!!」


緊急出動で借り出された真倉刑事は、状況が把握出来ずに苛立って叫んだ。

「俺に聞いたってわかるもんか!ただ事じゃねえってことは確かだが…」

刃野刑事も動揺を抑えるのが精一杯という様子であった。


「ぎゃあああああ!」


ジュエルドーパントが警官隊を次々にクリスタルの人柱へと変えていく。

ダブルと戦った時のジュエルは、人間を指輪などの宝石に変えてしまう能力を持っていたが、今ここにいるジュエルは能力が劣化しているのか、警官をその姿のままでクリスタル状の膜で固め、オブジェにするまでが最高能力のようだ。

絶叫と苦悶の声が真夜中の病院内にこだまする。その喧騒は最上階に位置する薗咲若菜の病室まで届いていた。


「何の騒ぎ…?」


目を覚ました若菜は、騒がしい部屋の外の様子が気になり、病室のドアを恐る恐る開けた。そこには警官を蹴散らしながら進む、ジュエルとマスカレイドのおぞましい姿があった。


「っ…!!!」


若菜は思わず息を飲みドアを慌てて閉めた。何ヶ月か前の―――――忘れたくても忘れられない、哀しくそして恐怖の記憶が一気に蘇り、自分の意思に反してワナワナと小刻みに震えだした。


「…もう嫌…嫌なの…っ」

彼女はがむしゃらに頭を振り、悲惨な過去の記憶を頭から消し飛ばしてしまおうとしていた。

「ドーパントなんて…もうたくさんっ!!!」


そう叫ぶと、彼女は頭を抱え何も聞きたくないとでもいうように、耳を腕で塞ぐようにしてその場に座り込んだ

16

そうしている間にも、ドーパント達の足音は若菜の病室に近づいてくる。

あきらかにこの病室を目指している。


若菜の全身が言いようもない不安で震えだした。喉が引き攣り声を出す事もできない。


刃野と真倉は先回りして薗咲若菜の病室の前に辿り着いた。


「ちっ…やっぱりここが狙いか…」


「刃さんっ薗咲家が崩壊したのに、なんでドーパントがまた出てくるんすか!」


「だから!俺に聞いたってわかるかってんだよ!それより銃を構えろ!来るぞ!」


ドーパント軍団は、既に刃野達の目の前にまで迫って来ていた。


「撃てえええっ!」


刃野の叫び声と共に、二人の持つ拳銃が金属音と共に火を噴いた。銃声が病院の廊下に鳴り響き、一気に硝煙の臭いが辺りに立ち込める。近付きつつあったマスカレイドたちに2発、3発と命中した。


しかし、ドーパント達に全く怯む様子はない。


「ちきしょう!やっぱり駄目か!」


刃野は吐き捨てるように言うと、覚悟を決めたように居住まいを正した。


「真倉、若菜姫を連れて逃げろ!…そうだな、翔太郎んとこ連れてけ!」


銃口をドーパントに向け、キツく目線も向けたまま刃野は言い放った。


「っ…そんな!刃さんはどうすんすか!」


真倉は心細さを隠そうともしない情けない顔で叫んだ。


「たまにゃあ、俺にもカッコつけさせろや」


一瞬、真倉に目をやると、ヘッと口の端を上げて皮肉気に笑った。


「いいか!俺が合図したら彼女を連れて一気に走れ!決して途中で足を止めたり、振り返ったりするんじゃねぇぞっ!」


「ハ、ハイイイイ!!」


ジリジリと距離を縮めてくるドーパント。


二人の刑事の全身から脂汗が止めどなく溢れだした。空気が張り詰め、緊張が走る。


「…いち、にの……」


「…さんっ!!!」


刃野の合図と共に、真倉は病室のドアを勢いよく開け、うずくまる若菜を抱きかかえた。


「走れっ!走れぇっ!!ぜってー捕まるんじゃねぇぞっ!!!」


「じ、刃さあああん!」


真倉は、頼りなくおぼつかない足取りで、猛ダッシュをかけ非常口へと走った。


「…真倉、死ぬんじゃねえぞ……」

17

覚悟を決めた刃野は、猛然と襲い掛かってくるドーパントに銃口を向けた。


「ロートルをなめんじゃねえ!!!」


そう叫ぶと、刃野はわざと照準をずらして発砲した。


その途端、激しい破裂音と共に白い粉が辺りに充満する。


「どうだ!消火器爆弾の味は!」


弾丸によって穴が開いた消火器は、回転しながら消火液を撒き散らした。

それが煙幕となり、一同は一瞬動けなくなった。


しかしそれもつかの間、煙幕が消え始めると侵入者たちは再び向かってきた。


「たいして効果なしか…それならこれでどうだっ!」


今度はドーパントの頭上に向かって発砲した。


パアンと破裂音がした後、天井から勢いよく水が噴き出す。


病院内の防火システムが作動し、スプリンクラーから放水が始まったのである。

それと同時に廊下を閉鎖する防火シャッターが下り始めた。


「ここでしばらくおとなしくしてて貰うぜ。じゃあ俺はこの辺で…」


封鎖される前にと、急いでその場を離れようとしたその瞬間、刃野の右足が廊下の床から離れなくなった。右足から徐々にクリスタル化し始めていたのである。


刃野は一度足元を見、その光景が一瞬信じられなかったのか、二度見をすると叫び声を上げた。


「な、なんだと!」


ジュエルの光線が、いつのまにか刃野を捉えていたのだった。


彼は逃れようともがいたが、足元から徐々に固まり出し、それが腹部までくるとさすがに観念してしまったのか、動くことをやめてしまった。


「くそったれえ…こんなところで殉職とは予定が狂っちまったぜ。細く長~くがモットーだってえのによ…」


彼の背後で、防火シャッターの完全に閉まる音が重苦しく鳴り響いた。



ドーパント達と刃野は、そこへ完全に隔離されたのである。



体が硬化していく時の、ビキキッという不快な音が耳元まで迫って来た時、刃野は光彩窓に輝く満月を見上げた。


「…きれぇな月だなぁ…」


呟きながら、溜息とも吐息ともつかないような息を吐き出す。


「この街を守ってくれよぉ。なあ、真倉…そして頼んだぜ、翔太郎…いやさ、仮面ライ……」


最後まで言葉を紡ぐ事が出来ないまま、刃野はクリスタルに全身を固められた。

18

その頃、真倉は停めてあった覆面パトカーの助手席に若菜を乗せ、エンジンをかけるところだった。

病院から火災報知機のサイレンが、けたたましく鳴り響いてくる。


「刃さん…?」


妙な胸騒ぎがしたが、真倉はそれを気のせいだと振り払いエンジンをかけて車を発進させた。

一つ目のカーブを曲がり、次の信号を左折すると国道に出た。

その道を20分も走れば鳴海探偵事務所に辿り着ける。


「でも、なんだって探偵のとこなんかに連れてかなきゃならないんだ?」


真倉は独り言を漏らし、何気にバックミラーに目をやった。

そこには、黒い影が蠢くように映っていた。


「な、なんだありゃ!」


黒い物体が巨大な塊となってどんどんと迫ってくる。

目を良く凝らすと、それはマスカレイドのバイク軍団であった。

各々のバイクはヘッドライトを点けず、暗闇の中を突き進んで来ている。


「う、うわあああああああああ!」


恐怖した真倉はアクセルを勢いよくベタ踏みした。

タイヤが高い悲鳴を上げ、猛然と加速を始めた覆面パトカーであったが、排気量が違いすぎるのか、暗黒のバイク隊はますます迫りくる。

あっという間に四方を囲まれると、真倉は狂ったように叫びながらハンドルを右へ左へとがむしゃらに切った。

不規則に動くパトカーに体当たりされ、バイクは次々に転倒して消えていった。

「ざまあみやがれぃっ!!」

真倉は自分自身の予想外とも言える活躍に興奮し、ハンドルを両手でバンバンと叩いた。

「俺だってやりゃあ………ひっ!!!」

喜んだのも束の間、真倉の表情に恐怖が戻った。

フロントガラス上部に3体のマスカレイドの顔が貼り付いていたのである。

どうやらバイクから車に飛び移り、屋根にしがみついていたようだ。


「くそっ!落ちろ!落ちろ!落ちろ―――――!!!」


再びハンドルを激しく切る真倉。

しかし、マスカレイド達はビッタリと張り付き、一向に振り落とされる気配はない。

それどころか窓ガラスを割り、車内に侵入してきた。


「ひゃあああああああああああああ!!!」


真倉は慌ててハンドルを切ったが、勢い余ってガードレールに衝突してしまった。その反動で覆面パトカーは豪快に横転した。

気が付くと、ボンネットは激しく潰れ煙が上がっていた。このままでは爆発してしまいそうだ。

真倉は、はっと我に返り現状に気付いた。助手席に居るはずの若菜の方に急いで目を向ける。

すると、マスカレイド達がぐったりとうなだれている若菜を車外に引き擦り出すところであった。

真倉のこめかみから顎にかけて、生温かく流れ伝うものを感じる。頭部から出血をしているようだった。

朦朧とした意識の中、それでも若菜をそして刃野との約束を守ろうと車の外に必死に這い出た。


「ま、待て…彼女をどうする、つもり…だ…」


若菜は一人のマスカレイドの肩に担がれ、淡々と運ばれていく。

そのマスカレイドが他の軍勢の奥の暗闇に消えた途端、一斉に倒れていたバイクに跨りエンジンをかけた。

二人が消えた奥の方から、窓までも黒く隠された真っ黒な車がゆっくりと現れた。

真倉は、そこに若菜が乗っていると感じ手を伸ばすも、力尽きて前のめりに倒れ込んでしまった。

気を失いつつある真倉の耳に、不思議な声が入り混んで来た。


「よろしい…巫女を本来あるべき彼の場所へ、聖なる泉へお運びするのだ」


「い…ずみ…?…」


訝しみながら、真倉は意識を完全に手放し瞼を閉じた。

19

――――――動乱の夜が明けた。


翔太郎は、病院のベッドの上で目を覚ました。

亜樹子が呼んだ救急車で翔太郎は、戦いで重傷を負った照井やメモリブレイクされた人達と共に、風都総合病院に運ばれていたのである。

「ここは…ツツ!」

上体を動かそうとした瞬間、痛みを思い出したように翔太郎の全身に電撃が走った。

「目、覚めた?翔太郎君」


お見舞いにと、松の盆栽を持って病室に入って来た亜樹子は、明るく呼び掛けた。


「おう…すまねえな、亜樹子」


激闘の後を物語るように、翔太郎の体は包帯でぐるぐる巻きになっていた。


しかし痛みはあるものの、そう重篤な状態ではないようだ。


なんとか戦いに勝つことができたことと、皆が無事だったことに翔太郎は心から安堵した。


「なんとかなった、か…」

翔太郎は傷だらけの拳を見つめ、小さく呟いた。

とその時、荒々しく病室のドアを開ける音がした。

「な、なんだ!?」

同じく全身を包帯だらけにした真倉刑事が、翔太郎の病室になだれ込んで来たのだ。

「た、探偵!刃さんが…刃さんが!!」

興奮気味な真倉は、息を切らしながらも無理やり何かを伝えようとしてえづいた。

「オイッ、落ち着けマッキ―!刃さんがどうしたってんだ!」

先程までの安堵感は消え失せ、変わって得体の知れぬ不安が翔太郎を支配した。


「…刃さんが…ドーパントの奴らに、やられちまった…」


「な!なんだって?」


自分の耳を疑った。そんな筈はない、ドーパントは自分が退治したはずだ。


「俺と…薗咲若菜を逃がすために…」

真倉は言葉を詰まらせ、大粒の涙を落した。

「それなのに…彼女も連れて行かれちまった…」


「!」


声にならない叫びが翔太郎から漏れた。


「まだ、戦いは終わってなかったのか…!」

20

照井と自分が命を懸けた戦い。ギリギリだったとはいえ、なんとか勝利を上げたはずだった。


しかし、それでもその悪夢に終止符は打たれていなかった。


翔太郎は茫然とベッドの上でうなだれた。


「…本当の敵は、まだ他にいるってこと…?」


亜樹子も沈んだ顔になって誰に言うでもなく呟いた。


重苦しい沈黙が部屋全体を包む。


「…泉だ…」

真倉は絞り出すように言った。

「…泉、だって?」

「ああ。不思議な声がそう言っていたんだ。『巫女を泉に連れて行け』って」

不思議な声、それは翔太郎たちにも聞き憶えがあった。あの戦いの場で聞いた謎の声。

心の奥底に深く語りかけて来るような声。その声の主が本当の敵なのだろうか。


「泉なんて、風都にあったか?」


都市と自然が融合した近未来都市の風都であったが、翔太郎には泉というイメージに当てはまるような場所は頭に浮かんでこなかった。


「ないよ…でも、あたし…心当たりがある!」

亜樹子は確信したように言いきった。

「どこだっそれは!」

翔太郎と真倉は、ほぼ同時に叫んだ。

21

結城譲二は満足そうに笑みを漏らしていた。

計画は順調に進行している。

「もうすぐ…もうすぐだ…」

真夏だというのにトレンチコートに身を包み、微笑みながら歩く彼の姿。

すれ違う人はみな気味悪そうに距離を取った。

「それにしても寒い。今年は異常気象なのか…」

彼の体はその心とは裏腹に冷え切っていた。

絶えずガタガタと震えているのは、冷えの為か武者ぶるいなのか…彼自身にも分からなかった。

それにしても背中の荷物が重い。

結城が背負う登山用のリュックサックには、食料品がはち切れんばかりに入っていた。

ここ数日は極端に腹が減る。

食べても食べても空腹は収まらず、今では二時間おきに食事するほどだ。

それでも彼の体は以前よりも痩せ細っていた。

「もうすぐだ…もうすぐ君に会えるんだ…」

呟きながら結城は、薗咲邸の廃墟へと入って行った。

屋敷の地下に入るとそこは暗闇だった。

日光が一切差し込まない闇の廃墟を小走りに進んでいく。

まるで明りが付いているかのように、結城はつまづく事もなく軽快に奥へと向かった。

走りながらも、両手には食パンの塊と魚肉ソーセージが握られており、忙しなくそれらを口に運んでいた。

食パンは切られてないままに、魚肉ソーセージは周りのフィルムも外さずにそのまま嚙り付いている。

目を爛々と光らせ、貪り食いながら進むその姿は、まるで野獣のようであった。


最深部までたどり着くと、ようやく落ち着いたように荷物を下ろし深く深呼吸する。


次の瞬間、サーチライトが一斉に点灯し結城の傍の一ヵ所を照らし出した。怪しく光り輝く泉が現れる。


そして、泉の真上にはおぞましい装置に繋がれ、うなだれた薗咲若菜の姿があった。

22

「ダメだよっ翔太郎君!そんな体でどうしようっていうのよ!」

入院病棟の一室から、悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。その声は廊下にまで響き渡る。

亜樹子は体を張って、必死に翔太郎を引き留めていた。

もちろん退院の許可など下りていない。全治3カ月と診断されたばかりなのだ。

それでも翔太郎は、全身の包帯をがむしゃらにむしり取り、苦痛に顔を歪めながら着替えを済ませ、傷だらけの身体に鞭を打って出掛けようとしている。


その目は使命感に燃えているというよりも、何かに取りつかれたように爛々と鈍く光っていた。


「若菜姫が易々と攫われたってことは、敵は半端な奴じゃねえってことだ…」


帽子を目深に被り、翔太郎は病室のドアを開けた。


「俺が…俺がやるしかねえんだっ!」


亜樹子が翔太郎の背中に必死にしがみ付く。


「もう…もう嫌なの!仲間を…ううんっ、大切な家族を失ってしまうのは……」

「……亜樹子……」

翔太郎は目をつぶり、深くそして何度も深呼吸する。

何度目かの深呼吸をした後、ふいにくっと唇を結び呼吸を一瞬だけ止め、ゆっくりと振り返って亜樹子の肩にそっと両手を置いた。

置いた後、意思を伝えようと力を込める。

「俺は、必ず帰ってくる。必ず…必ず勝って戻ってくっから!」


「っ…で、でもっ!」

亜樹子は下唇をぎゅっと噛みしめ、必死な表情で翔太郎の顔を見上げた。そして瞬きもせずに見つめる。

「…翔太郎君。きみは一人じゃダブルにはなれないんだよ!しかもそんな体で…っ」


翔太郎は優しく、そして一瞬悲しそうな眼をした。


「なぁに平気さ。俺は半分でも仮面ライダーだからな」

そう言った後、なにかが吹っ切れたのか只の強がりなのか、不敵に笑った。

「仮面ライダーはこの街の希望だ!絶対に負けやしねえって!」

言いながら翔太郎は、傷だらけのヘルメットを抱え病室のドアを開けた。

急いで亜樹子がその後を追う。

翔太郎があらかじめスタッグフォンで呼び出した、高速移送装甲車[リボルギャリー]が病院の駐車場に待機していた。


「分かってるよな、亜樹子。ここは俺一人で行く。おまえは俺の帰りを待っていてくれ!」

リボルギャリーの中からハードボイルダーが現れた。

きしむ体を引き摺りながら翔太郎は愛機に跨る。


「…うん…絶対帰って来てね。約束破ったら、百叩きだから!」


スリッパを握りしめ、大粒の涙を流しながら亜樹子は笑ってそう言った。


「おう!…んじゃ、行ってくら!」


轟音を響かせて翔太郎は泉に向かった。


「翔太郎君!絶対、絶対帰って来てね!わたし、待ってるから!待ってるから―!!」


亜樹子は翔太郎の影が見えなくなっても何度も叫び続けた。翔太郎の帰還を祈りながら。

23

若菜は深い眠りに落ちていた。けれども感覚だけは妙にはっきりしている。

ゆっくりと落下していく感覚。まるで暗く大きな井戸の中をどこまでも落ちていくような感覚だけが彼女にはあった。

ドーパントに攫われた。それは覚えている。


運命という名の鎖が、またも自分の望まない道を彼女に強いてきた。


もう彼女には抗う気力もない。


自分の生死の事さえどうでもよくなっていた。


もう考える事すらやめた――――その時、何かが近付いてくる気配があった。


とても温かいくて


とても懐かしくて


とても心地のいいもの―――――


それは…


いつのまにか自分の周りを取り囲んでいた光なのだと気が付いた。


その光はやがてゆっくりと若菜を包み込んでいく。



「…あったかい…この感じ…」

若菜は心地よい光に身を寄せるように任せ、静かに息を吐いた。

「そして…懐かしい…」


若菜の心が不思議な安心感で溢れた。


「お母…さま…?」



若菜の母――――――シュラウドが若菜の心にアクセスをしたのだった。

24

結城譲二は装置につながれた若菜の前でほくそ笑んでいた。


うなだれたままの若菜はピクリとも動かない。


「さあ早くその力を開放するのだ。そして私に希望の光を…」


高揚した彼の頭にある想い出が蘇る。忘れる事の出来ない、美しくそして哀しい想い出。



彼は結婚していた。

若い夫婦は幸せだった。お金はなかったが心は満たされていた。


生活は苦しくとも未来への希望があった。


やがては子供も生まれるだろう。そして家族の幸せな生活がこれからも続いていくはずだった。


だが。


悲劇は突然やってくる。予告もなしに、理不尽に。
妻の純子が突然倒れたのである。


白血病であった。骨髄移植も間に合わないほど進行していた。



末期がん患者などが入院している終末医療病棟に入った純子は、それでも明るく振舞っていた。


「私は大丈夫。絶対治して帰るから」


彼女の口癖であった。


結城は病気の妻から生きる気力を貰っていた。

この病気が本当に治るのではないか、そんな気さえしていた。


それでも現実は残酷にも、そのけなげな命の終わりをあっさりと告げる。


結城には何もなくなってしまった。


なぜ考古学ではなく、医学を専攻しなかったのか。自分を呪った。

もっと妻にしてやれることはなかったのか。自分がもっと早く妻の病気に気づいていれば、ひょっとして妻は助かったのではないか。自責の念が募った。


妻が死んだのは自分のせいだ。


なぜ自分は生きているのか。妻の代わりに自分が死ねばよかった。自分の命で妻が救われるならば、今すぐにでもそうしたい。


彼は生きる気力を無くし、茫然自失の毎日を送っていた。


そんな時だった。


勤務先の大学の教授に促され、ある学会の研究発表会に参加した。


園咲琉兵衛の悪魔の研究との出会いであった。



そして、泉=ガイアゲートから死亡したはずの園咲来人が復活するのを目の当たりにして、結城は確信した。


妻は生き返る、と。


仮面ライダーと名乗る者たちの為、薗咲流兵衛の計画は潰えた。ガイアインパクトにより人類を地球と一体化させ、非絶滅種族にする計画。


純子を取り戻すため、結城はその計画を受け継ぐ決意をしたのだ。



もうすぐ夢にまで見た計画が発動する。

結城は改めて妻・純子の再生を遂げることを自分自身に誓った。

「zany(ザニー)」のメモリを握りしめながら。

25

「翔ちゃん、大丈夫かい?」

「サンタちゃん」というあだ名を持ち、季節はずれのサンタクロースの格好をした男は心配そうに翔太郎に言った。

「ああ、なんてこたねーよ」

無理やり笑顔を作って翔太郎は答えた。

「頼まれたもの、用意しておいたよ」

男はサンタクロースさながらの白く大きな袋から、翔太郎に頼まれたという物を取り出した。

「すまねえな、無理言って」

「何言ってるんだい翔ちゃん。俺と翔ちゃんの仲だろ?」

「しっかし、さすがだなサンタちゃん」

並べられた品々を見て翔太郎は感心し、うなった。


「急だったからね、こんなもんしか用意できなかったけど…」


ずらりと並べられたものは、手榴弾、サブマシンガン、ハンドガンなど物々しいものばかりだ。

「十分すぎるぜ。これがみんな偽物だなんてな…」


「武器マニアの奴らにとっちゃ朝飯前らしいよ」


翔太郎から依頼を受け、男は大急ぎで手を回し武器をかき集めたらしい。

「金は今度事務所に請求してくれ」

「お金なんていいよ。それより翔ちゃん、ずいぶんヤバイ事件みたいだね」

翔太郎は袋ごと武器を受け取り、無言でヘルメットをかぶった。

「お互いの商売だから口は出さないけどさ、翔ちゃんに何かあったら留学してるフィリップちゃんだって亜樹ちゃんだってきっと悲しむぜ?」

「そうだな…」

翔太郎はバイクに跨り、エンジンをかける。

「そうだ!今度の事件片付いたら、みんなでパーティしようよ!ウォッチャマンとかエリザベス、クィーンなんかも呼んでさ!たまにゃ刃さんたちも呼んでやるか!」


「そりゃいい!楽しみにしてるぜ!」


バイクのエンジンがひときわ大きな音を出した。

「それじゃあ、サンキューなサンタちゃん!」

翔太郎は走り去った。


「またね翔ちゃん!パーティーの準備しとくからね!」

男は翔太郎の背中に向かって叫んだ。

26

風都総合病院。ICU(集中治療室)の前に亜樹子はいた。

部屋の中には先の戦いで重傷を負った照井竜が収容されている。

「…竜くん…」

未だに意識が戻らないという照井に、亜樹子は祈りをささげることしかできなかった。


出来るならば代わってあげたい。


何もできない自分が歯がゆかった。


翔太郎は町の為に一人で戦いに行った。


照井は自らの命をつなぎとめようと一人、戦っている。


自分には二人の無事な帰還を祈ることしかできない。


「私、なんやねん!!!!!!!」


涙を流しながら亜樹子は地団太を踏んだ。あまりにも自分は無力だ。



沈黙が流れる。



時計の秒針が刻む音だけが空しく無機質に響いていた。


「あ!」


素早く顔をあげ、亜樹子は走り出した。



「私も戦うよ!私だってこの街を守りたい!」


総合病院のエントランスを勢いよく飛び出すと、亜樹子は自分のスクーターに飛び乗る。


「やれることをやるんだ!」


絶体絶命のこの状況に亜樹子は勇猛果敢に宣戦布告したのである。

27

「亜樹子、どうやらビンゴだぜ…」

翔太郎は倒壊した園咲邸に忍び込むなりそうつぶやいた。


屋敷の崩れかかった大広間には所狭しと異形の影があった。

大多数はマスカレイド。

その中に混じって数体のドーパント。

ビースト、トライセラトップス、ジュエル、アノマノカリスが顔をのぞかせている。


「一体どういうこった…」


翔太郎はサンタ袋をまさぐり、手榴弾を手に取った。


「出来るだけ傷つけたかないんだがな…」

柱の陰から顔を出し、ドーパント集団の様子を観察する。


階下に続く階段周辺にはジュエルが陣取っていた。

「あの井戸に行くにはあそこから行くしかねえな」

ふううっと大きな深呼吸の後、腹を決めた翔太郎は勢いよく手榴弾のピンを抜き放った。

そしてジュエルに近い一の柱に目がけ手榴弾を放り投げた。

柱に着弾するかしないかの瞬間、激しい破裂音と共に光と爆風が一面に広がる。

ガスマスクをつけ、翔太郎は身を低くして駈け出した。

ドーパント達はいきなりの襲撃にうろたえ彼に気付く余裕はない。

「わりいな、もうしばらくおとなしくしてて貰うぜ」

階段の手前で振り返り、身の安全を確認してそっとつぶやいた。

だが階下へ向かおうとした翔太郎の肩を強引につかんだ者がいた。

ジュエルドーパントである。

「なっ」

余裕さえ感じていた翔太郎は自分の甘さを後悔した。

「腐ってもドーパントってわけかい!」

言いながらサンタ袋から今度はサブマシンガンを取り出す。

肩を掴まれたまま無理やり振り返り、至近距離からマシンガンをぶっ放した。

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!!!!

激しい震動に体が痺れる。腕が自分の物でなくなっていくようだ。

「全く物騒な武器マニアだぜ!こんな状況じゃかえってありがてえがな!」

ジュエルが銃撃に怯み、後退する。

殺傷力の程は計り知れないが、効いてはいるようだ。

「今だ!」

翔太郎は階段を駆け降りた。


ガスマスクを捨て、振り向きざまロケットランチャーを取り出す。

「これでラストだ!」

片膝をつき、上階に標準を定め発射する。

耳をつんざく爆音。

階段はもろくも崩れ去り、完全に上階と遮断された。


「よおっしゃああ!・・・・っく」


ガッツポーズを決めた翔太郎だったが、傷の痛みに耐えかねうずくまってしまうのだった。


「・・・・っそお、親玉はどこだ・・・」


身体を引き摺るように翔太郎は暗闇の中を進み始めた。

28

精神世界に沈みこんでいた若菜は母親の気配を感じ、自我を取り戻しつつあった。

それと共に自分たち家族から離れていった母親に対する怒りもまた再燃した。


二人は若菜の心のイメージの世界で向き合った。


体を支える大地もなく、全方位が暗雲に囲まれた空間。それは暗澹たる若菜の心を現しているかのようだった。



「なんなの!今更現れてどういうつもり?もとはと言えばあなた達親の勝手でこんなことに…!」


シュラウドは何も語らない。ただ若菜に近づいてきた。


人の体温という物がこんなに温かいものだったのか、若菜はその温もりに怒りを忘れかけていた。


眠気を振り払うかのように頭を激しく揺さぶると、若菜はもう一度叫んだ。


「近寄らないで!あなたは私を、私たち家族を捨てた!もう何の関係もな・・・・」


若菜はシュラウドに対する不満をぶちまけたかった。罵って罵って付き放してやりたかった。

しかし。

何も出来ずに立ちつくしてしまった。


シュラウドが若菜を抱擁したのである。


若菜は何か言おうとしたが、うまく言葉が出ない。

かわりに涙があふれ出た。とめどなくあふれ続ける涙を若菜は止める事が出来なかった。



「ごめんなさい、若菜…、あなた達には辛い思いばかりさせてしまったわね。子供たちにこんな思いをさせるつもりはなかった…」



反論したい気持ちでいっぱいだった。謝ってもらいたくはない。運命に翻弄された形となってしまったが、自分で選んだ道だ。



『私の生きてきた道を否定しないで!』


そう叫びたい。


しかし、嗚咽が漏れるばかりであった。


シュラウドは若菜の現在も過去もそして未来さえも受け入れるような優しい抱擁を続けた。

全身をかたく包み込んでいた包帯は今や跡形もなく消え、かつての懐かしい普段着姿の優しく美しいままの園咲文音へと変わっている。


「こんなことで私の罪は消えない…そして犯した罪を償っていくには私に遺された時間は短すぎる。けれどこの命、せめてあなたたちのために使わせて…」



そうつぶやくとシュラウドはポケットから輝く一つのかたまりを取り出した。


眩い光を放つ、-REBIRTH- のメモリだった。

29

「どこにいる!出てきやがれ!」

ミュージアムの最下層、神殿と呼ばれる広い空間に翔太郎の声はこだました。

痛む体を引き摺りながら、なおも続ける。

「こうして出向いてやったんだ、顔ぐらい見せてくれたっていいじゃないか」

辺りに静寂が訪れる。

「だんまり、か。それなら!」

翔太郎は持ってきた白い袋の中から手榴弾を取り出した。

そして安全ピンを抜き放つ。

「適当に投げてみるか!」

野球のピッチャーの様な大きなモーションで、翔太郎は手榴弾を持ちながら振りかぶった。


『待ちたまえ』


そのとき、不思議な声がこだました。

「おいでなすった」


『ここで騒いでもらっては困るな』


不思議な声は優しく語りかけた。


「それじゃあ交渉と行こうじゃないか」

翔太郎はその場にどっかりとあぐらをかいて座り込んだ。


『いいだろう…君の望みは何だ』


「へっ、話にならねえな。相手の顔もわからねえのに交渉もないだろう」


そう言うといきなり立ち上がり、翔太郎は手に持った手榴弾を暗闇に向かって思い切り投げた。


轟音と共に何かか崩れる音がする。偽物とは言え大した破壊力だ。

思いがけない爆音に自らも驚いたが翔太郎はつづけた。


「はったりじゃねえんだ…何ならありったけのもんをぶちまけてもいいんだぜ!」


翔太郎は袋をぶんぶん振り回してすごんだ。


『良かろう』


頭上から声がすると、一斉にライトが点灯した。


見ると祭壇の様な大きな岩の上に、痩せたトレンチコート姿の男が一人立っていた。


「てめえが…」


翔太郎の言葉を遮るように男はしゃべり出す。

「結城譲二41歳、AB型、右利き、宮城県出身、独身、j大学助教授…」

しゃべりながら、男は岩の祭壇に設置された階段を下り、翔太郎に近づいてきた。

「好きな食べ物はミモザサラダ、酒・タバコはやらん、週末には映画などを見、たまには買い物などを楽しむ」


「おい、なんのつもりだ!」

「君が言ったのだろう、相手の事も分からず交渉は出来ん、と。左翔太郎君」

結城は旧友にでも語りかけるように優しい笑顔で接してきた。

訝しみながら翔太郎は距離を取る。


「で、薗咲若菜をどうするつもりだ。あのドーパントの集団は一体。何をおっぱじめようとしてやがる」


「質問は、一つずつだよ左君。まず薗咲若菜さんの事だが、あれは生贄だ」


「!?」


「神聖なる儀式への生贄さ。君も知っているだろう、ガイアインパクトの事を」


結城は歩きながら語り続ける。


「そしてあのドーパント達は私が作り上げた偽物だ。そう、君の持ち込んだその物騒な代物と一緒さ。本物と比べて威力はないが、使いようによっては本物以上の効果を発揮する」


「街の人達を利用したというのか!」



「利用?彼らはすすんで集まってくれたのだよ。人生を憂いている人のなんと多い事か」


結城は地面につばを吐き、岩を蹴りはじめた。


「殺人、自殺、いじめに自然破壊。私利私欲に満ちた社会、そういう物にみんなうんざりなんだよ!」

語気が急に荒くなってきた。結城は狂ったように足元の岩を蹴り続ける。


「そうだ、社会が悪いんだ!妻が、純子が死んだのもこの社会のせいだ!全て壊し、ガイアインパクトで再生するのだ!!!そして純子との生活を私は取り戻す!!!!」


ようやく静かになった結城のその足は、革靴が壊れ血が流れ出していた。


「分かったかね、左君。私の好きなようにさせてくれはしないか」


汗だくの顔に引きつった笑顔を作り、結城は翔太郎に向き直った。


「哀しいな、結城さんよ。メモリの魔力に取りつかれたか。そんな事をしても奥さんは生き返らない」



「ふはははははは…お前に何が分かる!ガイアインパクトこそ私の、いや、苦しみ生きる人々の希望!貴様なんぞにそれを止める権利はないのだ!!」


言い放つと結城は[zany]のメモリを取り出した。


「いや、止めてみせる!この街の涙も!あんたの哀しい暴走も!」

翔太郎はロストドライバーと[joker]のメモリを取り出した。


「ザニイイイイイイッ!」

「ジョオオカアアアッ!」



「変身!!!!」



二人は各々の意思を貫くべく、戦う異形の姿に変化した。

30

結城譲二がメモリを己の心臓部分に直差しし、変身したザニードーパントは一見すると「道化師」(ピエロ)の様であった。

結城のそれは遊園地にいるようなカラフルなおどけたピエロではなく、白と黒のツートンカラーの古いタイプのピエロに見える。

頭にはベレー帽のような黒い布。

真っ白な顔に紅を走らせたように異様に燃えるくちびる。

小さく黒い両目は落書きの様にアンバランスな位置にあった。

その表情は笑顔にも泣き顔にも見える。

身体はゆったりとした白い上着に覆われており、胸の部分には不格好なほど大きなボタンが3つ付いていた。

白い手袋と黒いシューズにはぬめりとした光沢がある。


変身を終え、ザニーはゆっくりとした口調で話し始めた。


「おまえと遊んでいる時間はない。一刻も早く聖なる儀式を…」


ザニーの言葉を遮り、翔太郎はジョーカーに変身しながら一気に間合いを詰めた。


(時間がないのは俺も同じ!また半分になっちまう前に一気にけりを付ける!!)


ジョーカーは覚悟の一撃をザニーの胸元へ放った。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


黒い稲妻。そう形容するにふさわしいほどの残像を残しながら放たれた右腕からのライダーパンチは見事にザニーへ命中した。

ジョーカーの拳に肉体が砕け散る感触が残る。


「やった!」


ザニーの身体はまるで陶器の様にこなごなに砕け散った。


次の瞬間、ジョーカーの右半身に激痛が走った。

「くそっ、もう時間切れか。しかしどうやら滑り込みセーフってとこだな…」


痛みに耐えながらジョーカーは安堵の溜息を吐いた。

「しかし、派手にぶっ放し過ぎたのか?奴の体まで吹き飛んじまった。そこまでやるつもりは…」


ジョーカーは言葉に詰まって息をのんだ。


こなごなに砕け散ったはずのザニーの身体が修正していく。

破片の一つ一つが集まり、もとの身体へと完成した。


「ふふふふふ…、素晴らしい決断だったな。しかも私を殺してしまうかもしれないという迷いが全くなかった。君こそまさに正義の使者・仮面ライダーと呼ぶにふさわしい。だが!」


ザニーは手品のように手に平からひとつのメモリを取り出した。

「それは!」

「相手の能力の分析が足りなかったな。私はあらゆるメモリをコピーできるのだ!」

ジョーカーに戦慄が走った。

31

ジョーカーの決死のパンチを受けても無傷であったザニーは、笑い声を洩らさずにはいられなかった。

「くくくく、これは[Clay doll]のメモリ。元々はー、ほら、見たまえ。あそこにいる園咲若菜の物だったな。」


上機嫌のザニーは二人の頭上の岩で作られた祭壇を指差した。


「!」

ジョーカーはその目を見開く。

園咲若菜がおぞましい装置に囲まれ、ぐったりとうなだれて座っているのであった。


「…一刻の猶予もならねえって雰囲気だな…」


ジョーカーはにえたぎる熔鉱炉の様な熱視線をザニーに向けた。


(ガイアインパクトをおっぱじめようというのは、はったりじゃねえようだ…)


余裕のたたずまいでその熱い眼差しを受け流すと、ザニーは[Clay doll]のメモリを軽く投げ捨てた。


「ふはははははは…これだけではないのだよおぉぉ!」

そう叫ぶと、ザニーは怪しい光沢を放つ両掌から魔法のようにメモリを取り出した。

その数は十本。


「分かるかね、仮面ライダー。この能力の前に君なんぞ相手にはならんのだよ」


手の中でメモリを弄びながらなおも続ける。


「私が見聞きし、そして実際に存在したメモリは完全にコピーできる!そう!このザニーこそ地球に選ばれた能力というわけだ!!」


恍惚に身をよじりながらザニーは叫んだ。


「だったら、奥さんを生き返らせるメモリでもコピーすればいいじゃねえか。何もこんな大騒ぎしなくてもよぉ…」


痛む右半身を庇いながらジョーカーは言った。


「ふん!知ったような事を言うな。探したさ、必死でな。ミュージアムの資料、財団Ⅹの情報、ガイアメモリに関するありとあらゆる可能性を!」

ザニーは天を仰いだ。

「…しかし無いのだ!あれだけ探したのに!死者を生き返らせることのできるメモリはどこにも!どこにも無いんだよ!!!くっそぉぉぉっっっ…」


絶叫が暗い洞窟内をこだました。


「だから!私はガイアインパクトを起こさなくてはならない!!地球の記憶の中から我が妻、純子を生き返らせることのできる能力を引き出してみせる!!そう、薗咲来人が蘇った時のように!」


ザニーは痛みで身動きできなくなっているジョーカーに向き直った。


「分かったかねぇぇぇ、カメンラアァァァイダァァァ…。わぁぁたしぃぃの崇高なぁる計画にぃ、君ぃはじゃぁまぁなぁのだよおォォォォ」


ザニーは自らの身体を抱き締めるようにして、ぶるぶると震えだした。


(来る!)

ジョーカーは相手のむき出しの殺気を感じて身構えた。


「死ね!」


「スミロドォォォォーン!!」

ザニーの取り出したメモリの一つが起動した。

32

防戦一方の仮面ライダージョーカーは遂に片膝をついてその場にうずくまった。


「どうした、仮面ライダー!その程度か!ふはははははははは…!」


サーベルタイガーの怪人に変身したザニーはすさまじい動きで移動しながら、不敵な笑いをもらした。


ジョーカーに近づくや否や、その鋭い爪で攻撃を加える。


(焦るな…一瞬でいい、隙を見付けるんだ…)


ジョーカーはザニーの猛攻に耐えながら、反撃の隙をうかがっていた。


「お前に構っている時間はない。そろそろ終わりにしてやる!」


いよいよザニーはそのスピードを上げ、ジョーカーの周りを目まぐるしく飛び回った。


無数の残像がジョーカーを取り囲む。


「覚悟!」


残像が一斉にジョーカーの飛び掛かった。


隙のない攻撃にジョーカーは身動きが取れない。

「!!!!」


ジョーカーの身体にサーベルタイガー怪人の毒牙が迫るまさにその瞬間、ザニーの動きが止まった。

「グゥゥゥゥゥ…」

身悶えるザニー。


「今だ!!」


ジョーカーは左半身のあらんかぎりの力でジャンプした。


その跳躍は洞窟の天井すれすれまで到達した。


「うおおおおおおおおおおお…」


踵落としの体制で前方に回転する。


ナスカとホッパーを倒したブラックホールキックである。


黒い竜巻はますます回転数を上げた。



「タァァブゥゥゥ―ッ」

ジョーカーのキックが迫る中、ザニーは新たなメモリを自分自身に差し込んだ。


タブーメモリの飛行能力でその体は急上昇する。



次の瞬間、轟音と共に土煙が舞い上がった。



二人は力尽きたように地面に転がる。



「くそッ、切り札が……!」


ジョーカーは悔しさにガックリとうなだれた。


「ふふ、力を使いすぎたようだな…、私の命、どこまでもつか…」


ザニーは虚空を見上げ、うわごとのようにつぶやいた。


ザニーのガイアメモリを生みだす能力。

それは自らの生命力を削って作りだされるものであった。


「しかし…純子を取り戻すまでは…私ぃぃはぁ死なぁぁぁん!」


道化師の姿に戻ったザニーは勢いよく立ちあがった。


「君の最後にはこのメモリがふさわしかろう!!」


震える手から、ザニーはまた一つメモリを取り出した。

そのメモリを自らの脳天に突き刺す。


「スカァァァルッ!!!」


ザニーは骸骨の仮面の戦士に変身した。

33

翔太郎は目を見開いた。

目の前には死んだはずの鳴海壮吉・仮面ライダースカルが立っているのである。


「お、おやっさん……じゃ、ねえよ、な…」


ザニーが変身した姿と分かっていても、翔太郎はその姿に見入ってしまった。


スカルはゆっくりジョーカーに近づいてくると、いきなりスカルマグナムを構えた。


「この姿と戦う事は出来ないかね、左翔太郎。やはり貴様は正義を名乗るには甘すぎる!中途半端な半人前なのだよ!」


スカルマグナムが青白く妖しい光を放ち始めた。


「覚悟のないものは、去れ!!」


微動だにしないジョーカーにスカルショットが迫った。


「はっ!」


ギリギリの間合いでジョーカーは回し蹴りを放つ。


スカルマグナムを構えていた右手にジョーカーの蹴りがヒットした。


マグナムが宙を舞う。


虚を突いた一撃に、ザニーは戸惑いをみせた。


「…何を驚いている。てめえはおやっさんじゃねえ!んなこたわかってんだよ!おやっさんのスカルを汚す奴は許さねえ!!」


右側の身体を引き摺るようにしながらも、ジョーカーは猛然とザニーに向かってきた。


「このメモリを使ったのは間違いだったか…」



闘志を燃やして向かってくるジョーカーに、再度ザニーは新たなメモリを取り出した。

「ウィィスパァァ!」


道化師のいでたちに戻りメモリを喉元に差し込むと、ザニーは大きく息を吸い込んだ。



そして地の底からわき起こるような、それでいて優しい響きの良く通る声で語り始めた。


『盲目の迷い人たちよ…我のもとに集い、この汚らわしき虫を排除するのだ!!』



二人の頭上から歓声とも悲鳴ともつかない声が響いてくる。


声は次第に大きくなっていった。


翔太郎が粉砕した上階へ続く階段付近が、カタカタと音を立てはじめる。


「まさか!」


入口を塞いでいた岩はこなごなに砕け散り、暗闇の中からジュエルドーパントがゆっくりと顔を出した。

34

「こいつは、やべー、かもな」


ジョーカーは過酷な現実に対し、苦笑いを漏らした。


見る見るうちに岩のバリケードは崩れ、ドーパント軍団が乗り込んでくる。


「こういう場合はぁ、四面楚歌?いや、孤立無援が正しいか!」


独り言をつぶやきながら、ジョーカーはくるりと踵を返しザニーに向かってダッシュした。


「孤軍奮闘!獅子奮迅!大将の首取っちまえば、戦は勝ちだ!!」



隙だらけのザニーは棒立ちでゆったりと構えている。


「ふん、甘いな。悪あがきかね、仮面ライダー」


「うるっせえ!!覚悟!!」


ドーパント達との距離はまだ4,5メートル。


全体重を乗せたジョーカーのパンチがザニーに迫った。


決着の瞬間、ジョーカーの身体はくの字に折れ曲がって吹っ飛んだ。


「グハッッ」


「見たまえ、私の駒はもうチェックメイトだったのだよ!!」


トライセラトップスが放ったエネルギー光弾。


ジョーカーの動きを止めるには十分な破壊力があった。



「馬鹿な…」



「さあ!迷い人の願いを踏みにじる、この罪深き咎人に裁きをあたえよ!」


ジュエルが宝石化光線を構える。

トライセラトップスが棍棒を取り出す。

ビーストが巨大な爪を広げる。


「あきらめねえ、俺は絶対にあきらめねえぞ!」


ジョーカーの気概とは裏腹に、ドーパント達は目前に迫った。


「最後だな、正義を語りし哀れな夢想家よ…」


「っく!!!」

ジョーカーは無念に苛まれ、地面に突っ伏した。


「消えろ!……ん?」


無防備のザニーに向かって何かが飛んでくる。


一同はあっけにとられ身動きが出来なかった。


パコン!


ザニーの頭に軽くヒットする。


「な、何だこれは…」


ザニーが手に取ったそれは、緑色のビニール製のスリッパであった。



「ほほほほほほほ……!そこまでよ!悪党ども!!!」



ドーパント達が乗り込んできた瓦礫の奥から高飛車な笑い声が聞こえた。

「鳴海亜樹子さんじょーーーーーーーーーーーッッ!!!!」


ジョーカーは目を見開いた。

「亜樹子、お前……」


「ふん、ゴミか。今更何の用だ!」


「アーーーーーンド!風都市民仮面ライダー隊(別名フートリアンラブリーライダースクワッド)!カモオオオオン!!」


「おうううううう!!!」


掛け声と共に大勢の人々がなだれ込んできた。


「おめーら……」


見れば各々思い思いに武装(?)した風都の住民であった。


ウォッチャマン、サンタちゃん、エリザベスにクウィーン。その他大勢。


ジョーカーには一人一人に見覚えがあった。


「仮面ライダー!!助けに来たわよォォォォ!!!!行くぞおォォォォ!!!!」

亜樹子はジャンヌダルクよろしく、住民軍を率いて突撃した。

35

混戦。それも泥沼であった。

敵味方入り乱れて戦うにはそのフロアは狭すぎた。

むしろ亜樹子率いる住民軍・風都市民仮面ライダー隊(H・L・R・S)には好都合だったかもしれない。


ドーパント達はその限られた行動範囲の中で十分に能力を発揮できなかった。


そのドーパント達にライダー隊のメンバーは次々に体当たりをかます。


危険を顧みない破れかぶれ殺法。体を密着させてなりふり構わず手に持ったもので殴りつける。


金属バットやホウキ、思い思いの武器で市民たちは闘った。


「無理しないで!そして相手も風都の人たちだってこと、絶対忘れないで!」


サンタちゃんと風麺の親父、そしてウォッチャマンの三人に騎馬戦の騎馬を組ませ、その上に悠然と騎乗した亜樹子は人々をかき分けながら仲間を勇気づけ、そして励まし続けた。


(みんなありがとう・・・絶対に無事で帰ろう!!)


亜樹子は数時間前の事を思い出していた。


仮面ライダーの決戦を前に自分が出来る事、それは風都のみんなに協力を頼むことであった。

無論、上手くいくとは限らない。上手くいくどころか一人として協力者は現れないかもしれない。それでも何かせずにはいられなかった。


仮面ライダーに、いや左翔太郎一人だけにこの街の平和をゆだねること、それは同じ風都に住む亜樹子にとってあまりにも無責任に感じられた。



「私だってこの街を守りたい!みんなだってきっと・・・・」



そんな思いを胸に秘め、拡声器を片手にスクーターで街中を走り回ったのである。


そして協力者が一人も現れないかという亜樹子の不安は、豪快にはずれた。


スクーターで走る亜樹子の後ろから、手に手を取り合って風都に住む人々が陸然と連なって付いて来たのである。

亜樹子は夢中で仮面ライダーのピンチを訴え続けたが、サイドミラーを見て思わず涙ぐんだ。

皆必死の形相で付いてきてくれるのである。

一見チャラチャラした愚連隊風の若者や、お固いサラリーマン風の中年男性、腰の曲がったお年寄りまで。みんなまじめな顔をして付いてくる。


「翔太郎君、フィリップ君、君たちの戦いはこんなにも人々の心を打っていたんだよ」


亜樹子は泣きじゃくりながらスクーターのアクセルを吹かした。

36

「おのれウジ虫どもめが!!」


ザニーは思わぬ伏兵の出現に戸惑い、激しく憤った。

「私がやろうとする事にはいつも邪魔が入る!すべて、何もかも無くなってしまえばいいのだ!!」


ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、ザニーは右腕に力を込める。

新たなメモリを生みだそうというのだ。



「そうは、させる・・・かあ!」


全身に走る激痛ごと身体を引き摺りながら、仮面ライダージョーカーはザニーに迫った。



「仮面ライダー!今のうちに敵の親分やっちまえ!!」



ちりとりとホウキを振り回しながら床屋の主人が叫んだ。



「おう!!みんながくれたチャンス、ぜってーに無駄にしねえ!!!」



「その身体で何ができるというのだ!ゴミどもと一緒に消え去るがいい!」



ザニーは今まさに鈍く輝くメモリを練りだそうとしている。


「ちくしょう!届かねえか!」


もがくようにジョーカーは左腕を伸ばす。



「これを使えええええっ!」


絶叫と共に赤い閃光を伴った塊がジョーカーの前に出現した。


フロアのむき出しの岩場に深々と突き刺さる。


「これは!」


激闘の末重傷を負って集中治療室にいるはずの、もう一人の戦士。


仮面ライダーアクセル・照井竜の愛用の剣、エンジンブレードであった。


「照井!!てめえって奴は!!!」


群衆の向こうに赤いジャケット姿の男を確認し、ジョーカーは叫んだ。


真倉刑事に抱えられながら、ミイラ男のように包帯ぐるぐる巻きの照井は震える手でゆっくりとサムズアップして見せた。


「ありがてええ!」


アクセルから授かったエンジンブレードを渾身の力で握り、既に装填されているエンジンメモリを発動させるために、イグニッショントリガーを力強く引いた。


『ジェット!!』


メモリの力が解放され、エンジンブレードから強力なジェット気流が噴射される。


その気流を推進力に、ジョーカーはブレードごとザニーに突っ込んだ。



「うおおおおおお!結城いいいいい、覚悟しろおおおおおおおおおおお!!!」


アクセルとジョーカーの思いを込めた一撃がザニーに迫る。


「残念だったなあ!!既に全ては終わっているのだよオオオ!!」


ザニーは完成したメモリを高らかに掲げた。


『テラアァァァッ』

37

絶望が部屋中に充満した。

ドス黒い液体がザニーが変身したテラードーパントからあふれ出したのである。


ライダー隊の面々はもちろん、ドーパント達まで次々とその底なし沼の様な液体に飲み込まれていった。



「やめろ結城!!これ以上関係のない人たちを苦しめるんじゃねえ!!!」


地面と平行に飛行するエンジンブレードにしがみつきながらジョーカーは懇願するように叫んだ。


「関係のないだと?生きてこの社会を構成する者たちはみな等しく罪びとなのだ!お互いがお互いを傷つけあい殺し合う。忌み嫌い憎み合う。一人一人が悲しみの連鎖の鎖の一つ一つにすぎないのだ!!」


天を仰いだ姿勢のまま、ザニーは両の拳をきつく握り締めた。


「だから!私が全てを無に帰してやる!ここにいるものをすべて消し去り、ガイアインパクトでこの虚無の世界を変えてやるのだ!!」


ザニーは泣き叫ぶように言い放った。


その場にいる全員が恐怖の声を上げる。

自分の命の終わりを一人一人がはっきりと感じ取った。


「ウグゥォォォォォォォォォ・・・・!!」

ジョーカーから声にならない音が漏れる。



それでもなおブレードの切っ先をザニーに向け続け、絶望の海の上を飛び続けた。

38

温かい光に包まれた[REBIRTH]のメモリを、シュラウドこと薗咲文音は両手に抱きながら高々と天にかかげた。



「希望の光よ!今一度この大地を、この冷え切った大地を、温かく照らしたまえ!!」



そう叫ぶと文音はメモリを自らの胸に突き刺した。


メモリはゆっくりと文音の体に埋没していく。



「お母、様・・・・・!」


若菜は母に駆け寄ろうとしたが、目に見えぬ圧力に阻まれ近付く事は出来なかった。


「若菜・・・私はあなたたちに可能性を残しました。それが結果的にあなたたちにとって過酷な運命を背負わせる事になるかもしれない・・・」



文音の身体が徐々に半透明になっていく。


「行かないでお母様!!私にはあなたに話したい事がもっとあるの!!」



「ごめんね、私の可愛い、若菜」


文音は微笑みながらゆっくりと涙をこぼした。


「・・・・親は勝手なものね・・・この世界には辛く悲しい事がほとんどだというのに、それでも我が子にはこの世界で生きていてほしいと願うのだから・・・・・だからお願い、生きて!若菜!!!来人!!!」



文音の体は眩い光に包まれ、そして消え去った。


その場に泣き崩れた若菜には見えた気がした。


天に召されていく文音と、それを迎える琉兵衛と冴子の姿が。


朗らかな笑顔をたたえた『家族』の姿が。

39

見慣れた顔が恐怖にゆがみ、暗い液体にのまれていく。


ジョーカーは怒りと悲しみに耐えかね、唸り声を上げながらザニーに突進した。



「ふははははははは!邪魔だァァァァッ!!」



ザニーは気合と共にテラーの能力による衝撃波を放つ。



ブレードごと弾かれ、ジョーカーはフロアの壁面に勢いよく激突した。


「グハッ!」


血を吐き、その場にうずくまったジョーカーはそれでもなお燃えさかる視線をザニーへ向けた。


「貴様にはもう希望はない!!もう意地を張らずに絶望に身をゆだねたまえ!」


ジョーカーに暗黒の海が迫る。


「俺はあきらめねえ!どんな状況になろうと、俺自身がみんなの希望なんだ!!」


ジョーカーは立ちあがった。


「哀れな!!貴様が守るべき人間はすべて死んだ!!貴様の存在意義など既に無いのだ!!!!」


ジョーカーは左足でふわりと飛んだ。しかしザニーへの距離はあまりにも空きすぎている。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


ジョーカーは力の入らない拳を振り上げ、ライダーパンチを構える。


叫び声がフロアにこだました。



ジョーカーの魂の叫び。

それに呼応するかのごとく、もうひとつの叫びが重なった。



「来人おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」



それは覚醒した園咲若菜から発せられたものであった。



ふたつの叫びが重なった時、ジョーカーの身体が眩い光に包まれた。


同時に密閉された地下に起こるはずのないすさまじい疾風が巻き起こる。


その荒々しい暴風にテラーが発した暗黒の海はかき消されていった。


「ヌウう、これは・・・・・!?」



塵の舞い上がる中でザニーは状況を把握しようと目を凝らした。



フロアのライトに照らされ、塵がダイヤモンドダストのように輝く。


「光が・・・」


ザニーの狂気が一瞬かすむほど、一層輝きを増しながらダイヤモンドダストは一点に向かって収束し始めた。



信仰の厚い人であればその光景は天使の降臨を思わせたに違いない。



その天使が降り立ったであろう地点に、一人の男が現れた。



「あ、あれは!!!!」


疾風によって暗黒の海から救い出された亜樹子は大きく目を見張った。


思わず涙がこぼれる。



「仮面ライダーダブルゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


辛うじて死から免れたライダー隊の市民たちも皆歓喜の声を上げた。


傷つき疲弊した身体に不思議と勇気と希望が湧き上がる。


「そ、そんなバカな!!!」


ザニーは初めて狼狽の色をあらわにした。



仮面ライダーダブルは自らの体を確かめるように両手を握ったり開いたりしている。



いつの間にかロストドライバーははずれ落ち、いつものダブルドライバーがその腰に収まっていた。



「待たせたね、翔太郎」

右側の身体が話しかけた。


「ちと早すぎだな、これからが俺の見せ場だったのによ」

左側が嬉しそうに悪づいた。



そして、ザニーへ向けて素早く左の人差し指を突き付ける。


「さあ!おまえの罪を数えろ!!!!」

40

「な、なぜだ!!貴様は消滅したはずだ!!園咲来人!!!」


テラーの能力を解除したザニーは動揺して叫んだ。


「僕はある人の命をもらってこの世界に戻ってきた。いわば、もう一度生まれたんだ」


フィリップの声には深い悲しみと決意がこもっていた。


「園咲文音!!あの女だな!その様な能力のメモリがあったというのか!!」


ザニーは憤怒しぶるぶると震えた。


「そのメモリだ・・・私ィがァァもォォとォォめていたァものばァァァ!!!」



「まずい!!暴走する!!」


ザニーの身体が一回り大きくなった。全身が赤黒く変色し、筋肉が膨張する。



「偽装メモリを使いすぎたことによる副作用だ。メモリブレイクしない限り彼の体はメモリ自体に食われて崩壊してしまう!」


フィリップは冷静に分析した。


「止めて見せる!!最初から飛ばして行くぜ!ついてこいよ、フィリップ!!!」


「わかっているよ!君こそ遅れを取るな、翔太郎!!!」


ダブルはザニーに向かって猛然と突進した。



「よおォォォォごぜェェェェ!そのメェェモリィィィをォォォォ!!!!!」



ザニーの絶叫と共にその全身からガイアメモリ状の突起がつき出した。


「ギャぁァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


叫びながら丸太のように野太くなった腕を振り回し、ダブルを捕まえようとする。


紙一重の所でダブルはその攻撃をかわし続けた。


「くそ!なんて風圧だ!あんな攻撃くらったら、ひとたまりもねえぞ!!」


ダブルの身体能力を手に入れ、格段に動きやすくなった筈の翔太郎にも戦慄が走った。


結城譲二は朦朧とする意識の中で必死に訴え続ける。



『なぜだ!!貴様らと私に何の違いがあるというのだ!!愛する者の再生を求める心に差はない筈だ!!だのになぜ貴様らだけが幸せを手に入れる事が出来るのだ!!!!』



「グオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」


既に人の物でない咆哮をザニーは漏らした。



それはあまりにも悲しげで、聞くものに憐憫の情すら抱かせるのだった。


薄れゆく意識の中で、彼の脳裏に浮かぶのはやはり死んだ妻の純子の顔であった。


『純子、俺が必ず君を生き返らせてやる・・・・・・』


純子は黙って微笑んでいる。


「ヌォォォォォォォォ!!!」


最後の力を振り絞るようにザニーは腕を振り回し続けた。



「結城!もうやめろ!!!このままじゃ死んじまうんだぞ!!!」


翔太郎は凶暴な獣と化したザニーにむかって叫んだ。


それでもなおその獣は向かってくる。すさまじい怨念。妄執。


ダブルは高く跳躍し、ザニーの巨大な背中に飛び付いた。


「止まれ!止まれっつってんだろオオオ!!!」


首にしがみつき、耳元に叫び続ける。

しかし、その声はザニーの耳には届かない。

ダブルをひきはがそうとザニーはじたばたともがいた。


「結城譲二!僕は生きる!母の命や父の罪!姉の無念を背負って!君の様な悲しい人を一人でも多く救うために!」


フィリップも必死に訴え続ける。


「君も生きるんだ!!!奥さんが亡くなった悲しみごとすべて背負って生きて行くんだ!!!」


「戻ってこい結城!!!あんた達夫婦が愛しあったこの世界に!!戻ってこい!!!」


「ウガァァァァァァァァァァ!!!!」


ザニーは苦しそうなうめき声を上げた。


『私は純子を、純子を!!』


結城は見る。

純子の微笑みを。

純子は微笑みながら、しかし首を振った。

『!?』


結城は不安に駆られた。


『なぜだ!なぜだ純子!!!』



純子は微笑む。


『ありがとう、あなた。あなたの気持ち、本当にうれしかった』

純子はゆっくりと語る。


『あなたと出会い、一緒に暮らした日々・・・・そして、あなたに看取られながら逝けた事も・・・・全てがわたしの宝物よ・・・』



『あなたの愛の中で死ねて、私は幸せ。だからあなたも、私の死ごと私を愛して・・・そしてその愛を胸に、生きて!!!!!!!!!!!!!!!』



純子は満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと消えて行った。



『純子!!!!!!!!!!!!』



ザニーは涙を流し、だらりと脱力した。



「今だ!!!!!!!」


[マキシマムドライブ!!!!]


ダブルの周りに緑色の竜巻が起こる。白いマフラーが風に激しくたなびいた。



ダブルの身体が宙に舞う。



「結城いいいいい!!生きるんだああああああああ!!!」



二人は絶叫しながら急降下した。


「ジョーカーエクストリーム!!!!!」



ダブルの身体が左右二つにずれる。



黒と緑のキックが時間差でザニーに炸裂した。


轟音と共に辺り一面を爆風が襲った。

エピローグ

鳴海探偵事務所プリティー所長日記♡


○月×日


あの事件からちょうど1カ月が過ぎた。


そんなわけで今日はパーティー!!事件の無事解決とフィリップ君が戻ってきたことと我が風都ラブリープリティーライダー隊(だったっけ?)の勝利、そして何よりも竜くんの退院!!!!を祝して行われている。やっと落ち着いてきたからね。


この事務所に入りきれないほどの人たちが集まって、もう大変!!!!


ライダー隊のメンバー・サンタちゃん、ウォッチャマン、エリザベスやクィーン、その他大勢に加え、呼んでないのに刃野刑事やマッキ―まで来ている。この二人はいつも暇だなぁ。

そんな刃野さんも一時は大変だった。あの事件の時の後遺症で全身ガチガチ。それをほぐすのにマッサージ師と化したマッキ―が苦労してたっけ。刃野さんだけじゃない、ドーパントにやられた人達はもちろん、ザニーによってドーパントにされていた人たちも皆、重軽傷を負いながらも助かった。だけど、彼らの心にはとてつもなく大きな傷が残ってしまった。中には今でもトラウマに悩まされている人も多いという。戦いはまだ終わっていないんだ。


そして相変わらず包帯だらけの竜くん!!!!彼はお医者さんの制止を振り切って現場に駆け付けちゃった為、症状が悪化してしまい、全治6カ月の重傷に(泣)。しかーし!私の愛の祈りと献身的な看病で見事10日間で退院!!!!ホントは竜くんの人並み外れた回復力のおかげらしいけど。ほんとによかった。よかったよかったよかった!うれしーよー!!!!



そうだそうだ、若菜姫について。彼女はミュージアムの地下に備え付けられていた装置から無事に救出され、警察に保護された。今は警察病院も退院し、一連のガイアメモリ事件の重要参考人として警察の取り調べを受けている。

マッキ―の話じゃ、すんっごく素直に自分の知っている事を洗いざらい話しているらしい。彼女もいろんな事があって改心したんじゃないだろうか。それにしても、家族を立て続けに失って本当はすごく辛いはず。

唯一の肉親のフィリップ君もいるし、今日のパーティーには是非とも参加してほしかった。でも私、きっといつか若菜姫も笑顔でここにきてくれる、そんな気がする。私の予想って結構当たるんだ。そんな日が早く来るといいな。



気になるのは結城譲二。彼も助かった。一応は。人間の姿にもどった彼の体はヒドイ状態だったらしい。餓死寸前みたいに痩せ細っちゃって、辛うじて生きている、そんな感じみたい。そして意識も未だに戻っていない。ICUは出る事が出来たけど、目を覚ますのはいつになるのか・・・。命はなんとか救われたけど、彼の心はどうなんだろう。わが探偵事務所としては彼が元気になるまで見守っていこうと思う。



そして、翔太郎君とフィリップ君は―――――――――――――――――――――




「亜樹ちゃん何してんの!!!こっち来て飲もうよ!!!!!」


ライダー隊の親父メンバーに呼ばれて、亜樹子は日記を書く手を止めた。

「あいよおおおおおっ!!!もう、忙しくって日記付ける間もないよ!!!」


といいながら、久々の朗らかな時間に亜樹子は酔いしれていた。


怪我をしてしまった人や心を病んでしまった人のケアも大変だったが、それよりもみんなでこの街を守れたこと、その事が亜樹子には素直に嬉しかった。



大賑わいの事務所からようやく抜け出し、翔太郎とフィリップは近くの河川敷に腰を下ろした。


「まったく、いくらめでてえからって大騒ぎしすぎだぜ」

翔太郎が大きく背伸びしながら草の上に大の字で寝転がった。

「でも翔太郎、みんな実に楽しそうだ。いや、幸せそうといった方がいいかもしれない」

フィリップは眩しそうに蒼い空を見上げた。


このひと月というもの、二人も忙しかった。

偽装メモリを使った人々の副作用を抑えるため、フィリップは昼夜寝ずに検索をし、翔太郎はその検索結果をもとに人々のもとへ走った。

また、ザニーが作った偽装メモリは想像以上に街中に広まっており、その回収にも随分骨を折った。

ようやく1か月がたち、それらに目途がついてきたのである。


翔太郎は帽子を顔にのせ、眩しすぎる日差しを遮った。


そんな様子をほほえましく見てフィリップはゆっくりと語る。



「翔太郎、僕はこれから若菜姉さんを支えていくつもりだ」


翔太郎は黙って聞いている。


「父や母が、そして冴子姉さんがしてきたことへの贖罪とでも言うんだろうか。とにかく、僕は姉さんと一緒にこの街を幸せにしていかなくてはならないんだ」


フィリップは拳を握りしめた。


「それが僕の責任だと思う。母から命を託され、この世界に戻ってきた僕の。そして、それは結城譲二へのメッセージでもある」



「・・・よっ!」


翔太郎は反動を付けて立ち上がった。


「んなに気張るこたねえさ。フィリップ、お前が笑顔で暮らしている。それだけでいいんじゃねえのか」



言いながら翔太郎は小石を川に投げた。


「親ってな本来そんなもんだと思うぜ。とりあえず、子供が幸せに笑ってりゃいいかってな」



「んで!」


もうひとつ、今度は力強くもっと遠くへ石を投げた。



「子供たちが安心して笑っていられる世界、それを守るのが俺たち大人の仕事さ」



「ふふ。やけに達観だね、翔太郎。とても鳴海壮吉の受け売りとは思えないよ」



「うっせえ」



翔太郎はふくれてどっかり腰を下ろした。


「だけどなフィリップ、俺はほんとにそう思うんだ。おやっさんや霧彦、大道や園咲家の人達・・・みんなに託されたのは、生きて行くことだって思う」



翔太郎も空を見上げた。


「どんな辛い事があっても、生きて行く。ただそれだけでいいんだ」


「そうだね。でも、それが一番難しい」


「そうだ。だから人はいろんなものにつまずく。俺は、そんなとき手を差し伸べてやれる存在でありつづける」


「俺たちは、だろ?」


二人の周りを一陣の風が舞った。



「もう!!二人ともこんな所にいたの!?早く戻ってこーーーーい!!!」


へべれけになった亜樹子とその他大勢の上気した笑顔の面々が二人に向かって駆け出す。


「いくか!フィリップ!!!」

「ああ、翔太郎!!!」



二人はみんなの笑顔の輪に向かって走り出した。



END

仮面ライダーW  Zを継ぐ者/悲しきピエロ

思えば仮面ライダーW放送当時、「この最終回じゃ前回の涙を返して!と言いたくなる!!」

との思いで、自分なりの最終回を考えようと書き始めたわけでした。


フィリップのあっさり復活、薗咲若菜の死亡、仮面ライダージョーカーの存在、そのあたりをいじくり倒しました。


その挙句、ダブルの後継作品オーズが終わっても小説の方が完結しないという体たらくが続き、発表が今になってしまったわけです。


書き進めて行く中で、死生観について自分自身、考える良い時間を持つことが出来ました。


「辛くとも生きて行こう」


という事をメッセージ的に織り込んだのですが、そうやって生きて行く先に何かいい事あるの?と質問されると「う~ん、そうともいえない」と言わざるを得ません。


結城がいうように、フィリップだけが生き返ったのは理不尽とも言えるかもしれません。



それだけにフィリップは普通にただなんとなくしゃ-わせに暮らしていてはいかんなとも思います。



データ人間であるはずの彼の苦悩を、新作のダブル続編等があるとすれば見てみたいです。


最後まで読んでいただいてありがとうございました。

仮面ライダーW  Zを継ぐ者/悲しきピエロ

仮面ライダーW もう一つの最終回。あんなに面白かった仮面ライダーW。もっと感動的な最終回はできなかったのか!?という思いのみで書き殴りました。皆さんの心に何かが残れば幸いです。

  • 小説
  • 中編
  • アクション
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-07

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