お嬢様と爺や(ボランティア編)

お嬢様がボランティアをする話です。

お嬢様と爺や(ボランティア編)

「爺や、あたくしボランティアをしようと思うの。」
「ボランティア……でございますか。一口にボランティアと言いましてもいろいろありますが、具体的には何をするのですか?」
「テレビでやっていましたの。あたくしは知らないのだけれど、どこぞの有名人とやらがボランティアでゴミを拾っている所が。何故かよくわからないのだけれど……そのどこぞの有名人の評価がウナギ登りなの。」
「なるほど。テレビなどに出るようなお方がそういうことを進んで行うというのは確かに良い印象を与えますな。」
「そう。ですからあたくしもボランティアをして人気者になるの。というわけで爺や、お屋敷の人間を総動員してゴミを拾ってきなさい。」
「かしこまりました。しかしお嬢様はいかがなさるのですか?」
「?ここにいますわ。」
「それはいけません、お嬢様。それではお屋敷にお嬢様一人になってしまいます。警備の者がいなくなってしまいますと不届きな者が侵入してくる可能性が出てまいります。」
「この家の防犯設備は完璧ですわ。」
「そうですね。しかし所詮は機械にございます。電力の供給を断たれては起動もしません。」
「この家には自家発電のできる機械がありますわ。」
「確かに。ですがその機械があるところは地下の部屋でございます。もちろんお嬢様が起動させることはできますが……このお屋敷に仕える者一同、お嬢様にはあんな地下のじめじめした場所へ行って欲しくありません。お嬢様のお洋服などが汚れでもしたら……ああ、考えられません。」
お洋服が汚れる。このあたくしにはあってはならないことですわね。
「ではお屋敷の人間半分を残して半分はゴミを拾ってきなさい。」
「よい考えでございます。しかし……お屋敷の人間がたとえ半分だけでも、ゴミ拾いに行くと一般庶民が拾う分のゴミがなくなってしまいますな。このお屋敷に仕える者は優秀ですので一人で十人分の働きをするでしょう。」
「よいではないの。逆に全てのゴミを拾えばあたくしの人気はウナギ登りどころではなくなりますわ。」
「そうですね。ですがそれではゴミ拾いくらいしかやることのない一般庶民はひまになってしまいます。」
「なにか問題があるのかしら?」
「ひまな時間というのは恐ろしい現象を引き起こします。例えば電球を作ったことで有名なエジソンですが……彼はフィラメントに適する植物を探すため、多くの時間を費やして電球の発明に成功いたしました。なぜそこまでの時間をかけることができたのか?ひまだったからです。万有引力を発見したニュートンはなぜ落下するリンゴを眺めていたのか。ひまだったからです。ひまな時間は時としてその者の名を永遠のものとします。」
一般庶民がこのあたくしよりも目立つ。いけませんわ。
「爺や、何か妙案はないの?」
「ゴミを拾う人数が少なければ良いのです。」
「そうね。では選りすぐりの精鋭でゴミを拾ってきなさい。」
「了解いたしました。ですが……それではお嬢様が不満を抱くことになるやもしれません。」
「なぜかしら?」
「このお屋敷の人間は何かしらのプロでございます。例えばボランティアを行っている際にお嬢様が編み物をしたくなったとします。その時にボランティアを行っている者の中に編み物のプロがいたら……お嬢様は編み物ができません。」
「では編み物のプロは残しなさい。」
「わかりました。しかし今のはあくまで一例。お嬢様は自由なお考えをお持ちです。お嬢様のしようとすることを予測することは我々凡人の能力ではとてもとても……」
ふぅん。つまり……あたくしのしたいことのプロがボランティアに行ってしまうかもしれないということですわね。待たされるのは嫌いですし……
「爺や、何か妙案はないの?」
「選りすぐりの精鋭がお屋敷を出発する前から始め、精鋭たちが帰ってくるまでお嬢様が夢中にとりこめる何かがあればよいのです。」
「そうですわね。読書はどうかしら?」
「良いお考えでございます。ですが精鋭たちもゴミ拾いくらい1時間もかけずに終わらせるでしょう。そうなると折角読み始めた本を読み終わる前に帰ってきてしまう可能性が。」
「ああ、それもそうですわ。ボランティアの間に終わるような……いえ、帰ってくるときにちょうど終わるものでないと。爺や、何か妙案はないの?」
「そうですな。さすがにぴったりに終わるものはなかなかありませんが……終える時間を自由に決める事のできるものはあります。」
「なにかしら?」
「自分で行い自分で終えるもの……そうですね……ではこれなどどうでしょう。ちょうど今日でございます。」
「なにかしらこれは?」
「地域清掃の催しの知らせでございます。」
「《○月×日、一日使って地域清掃を行います!参加時間の指定はいたしません。時間の空いたときに来て街をきれいにしませんか?》あら、これはいいですわね。」
「選りすぐりの精鋭がボランティアを行う場所をその近くにすればいざという時にもすぐに駆け付けることができます。」
あたくしの安全も確保できる。素晴らしいですわ。
「では爺や、選りすぐりの精鋭をボランティアに行かせなさい。その間あたくしは地域清掃をしていますわ。」
「はい、お嬢様。」

 ここが地域清掃とやらの場所ですわね。なんだかやたらと庶民が多いですわ。きっとみんなボランティアでゴミ拾いをしにきたのですね。ひまな者が多いこと。
「さて、精鋭たちがゴミ拾いをしている間、地域清掃をしましょう。」
「お嬢様、地域清掃はあの辺りで行うようですよ。」
「わかりましたわ。では爺や、ボランティアが終わったら教えなさい。それまで地域清掃をしていますから。」

『あれ?あれってお屋敷の?』
『なんかスーツっぽいの着た人がいると思ったら……お屋敷の人を連れてゴミ拾いにきてくれたのか!?』
『そこまで力を入れるなんて……尊敬するぜ。』
『しかもちゃんと自分で拾ってる!』
『お嬢様なのにな。すごいよな。』


お嬢様の評判がまたひとつ上がりました。

お嬢様と爺や(ボランティア編)

小学校の時以来ですか。
地域清掃、やりました。

お嬢様と爺や(ボランティア編)

どこかのお屋敷に住むお嬢様と爺や。 お嬢様のお願いを……そこそこ大変なお願いを爺やが何とかするお話です。 形態としては終始二人の会話です。 これがこのシリーズの三作目です。 今日はボランティアをご所望のご様子……

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-30

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