エンジェルフィッシュ

luzさんのエンジェルフィッシュを
物語にしてみました。

皆さんのご想像と違うかもしれないのですが
一つの解釈としてお楽しみください!

第一夜

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…ねぇ、あなたが好きよ

こんなに好きなのに こんなに求めているのに

満たされない 満たされないの

もっと もっと 貴方が欲しい…




………


コツコツコツ…


自分の足音だけがあたりに響きわたる

ギラギラと眩しいくらいにネオンが輝く繁華街を抜けると
だんだん暗くなっていく

さすがにこのあたりは人通りが少ない

時計を確認すると午後11時56分

あと4分…

「少し急がないと…」

私は少し足を早めた





コンコンコン…

いつものようにドアをノックする

カチャリ

「こんばんは…待ってたよ」

愛しい顔が微笑む

それだけで私の鼓動は高鳴る

あぁ…欲しいの…
貴方がたまらなく欲しいの…

そんな欲望を胸の内に潜めて微笑み返し、
そっと中に入った



いつもと変わらない薄暗い部屋
あなたの匂い…


コポコポコポコポ…

水槽で泡が消える音だけが響く


「おいで…」

ずっと欲していたあなたの声…

早く…早く…

焦る気持ちを抑えて彼の隣にそっと腰下ろす

「何か飲む?」

そんなのいらないのに…

内心はそう思いつつも彼の優しさが嬉しかった


「光煌(キラ)さんは…?」

「俺は…水しか飲まないから」

「じゃあ、私も水を…」

それを聞くと彼は立ち上がった


彼の名前を呼ぶのは緊張する

一瞬だけ ほんの一瞬だけ
自分のものにしたような錯覚に陥る


声震えてなかったかな…
そういえば、私、光煌さんに名前を…


コツン

そんなことを考えているうちに
目の前には水の入ったグラスが置かれていた

「どうぞ」

「あ、いただきます」

グラスの水を一気に飲み干した
渇いた体に水分が行き渡る


隣を見上げると美しい横顔がすぐそこに…

きめ細かい肌、長い睫毛、
筋の通った鼻、白く透けるような肌…

どこをとっても完璧で、
時に恐ろしくなるほど端正な顔立ち

この美しい仮面に何人の女性が虜になり
何度夜を過ごしたのだろう


でも、そんなことはどうでもいい

何番目でも、何十番目でも、
貴方の隣にいられるなら…


ふと彼と視線が重なった


色素の薄い、髪と同じキャラメル色の瞳…
その瞳で見つめられると私の欲望はもう抑えられない


貴方が欲しい…



唇をそっと近づけてみる


でも、彼の顔は近くならなかった



「素敵な色のドレスだね」

あなたにつり合いたくて無理して買った
海色のドレス


そっと顔を引き寄せられ、耳元で囁かれる


「この真珠のピアスもよく似合っているよ…」


この先を期待して体が強ばる



「壊さないように気をつけるから…」



焦らしているのだろうか
いつも以上にゆっくり響く貴方の声



早く…早く…




「好きだよ…君が欲しい…」


その言葉でなにもかももうどうでもよくなる

壊れたって死んだってかまわない
私には貴方以外何も必要ないから


早く欲しい…

早く…早く…あなたで満たして…




………


「…ん…き…らさん…好き…です…っ」


「俺も…だよ」



彼はまたこの言葉でやり過ごす



彼が好きだと言ってくれるのはいつも一度だけ


欲しいものを手に入れるためだけに囁いた
偽りの愛の言葉

手に入ってしまえば彼にとっては
愛などどうでもいい戯言 …


冷えきった恋人ごっこが続く


でも…そんなことはどうでもいい


あなたとの繋がりを手に入れた
それだけで十分だから…



今夜あなたの下で踊り続けているのは私…
それだけで私は…


そう言い聞かせるように呟き
意識を手放した…

第一朝

_




ピピピピピ…

聞きなれたアラーム音が鳴り響く
セットしておいたアラームが6時を知らせていた

少しの期待を胸にそっと寝返る
しかし、そこはいつもの空白


いつものこと...いつものこと...
そう言い聞かせてベットを降りる


もしかしたらまだ奥に…



しかし、その期待はいつものように
目の前に置かれた鍵に砕かれた


朝は嫌いだ
期待と喪失感とが眩しい光に入り混じって
苦しくなる



ふと、彼の飼う熱帯魚の水槽が目に留まった


「いいな…君たちはずっと側にいられて…
夜も…朝も…」


この檻に閉じ込められた彼らでさえ
羨ましく、妬ましく思う



訪れた時よりも虚無感に体を蝕まれている気がする


いつものように鍵をポストに入れ
呻くほど眩しい地上へと帰る




………



~♪


彼からのメール


昨日と同じ愛しいメロディー



2日連続でくることなどなかった


僅かな望みを抱いて開く


『忘れ物』

添付された画像には真珠のピアスが光っていた

第二夜

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コツコツコツ…



ネオンの光に煽られながら昨夜と同じ道を歩く



コンコンコン…

カチャリ

「こんばんは…待ってたよ」

いつもと同じリズムで彼が現れる



そっと中に入るといつもと違う匂い


「あぁ、魚が一匹死んだんだ」



私が顔をしかめたことに気づいたのかそう教えてくれた


「ごめんね、この匂い、吐き気がするよね…
すぐに処理するから」


その言葉には無機物を扱うような
冷たさを含んでいた


彼は力なく浮かんだ物をすくうと
躊躇いもなく無機物の中に葬った


「綺麗だったのに…かわいそう…
埋めてあげないんですか?」



そう言うと彼は嘲笑うかのように
鼻を鳴らす



「かわいそう?なにが?

命なんていつか終わりが来るんだよ?

その時が来ただけでしょ…

終わったらまた別のものを
手に入れればいいだけなんだし…

代わりはいくらでもいる」


気づくと彼は私を見つめていた


「一つのものに固執する意味なんてある?」


そう言い放った言葉は
まるで私に向けられているようで苦しくなる


いや、きっと私もあの熱帯魚と同じ


彼の一時のコレクションに過ぎない


「ごめんなさい…」


「なんで謝るの?」



そう言っていつものように優しく微笑む



時計を確認すると午後10時24分


今夜ももしかしたら…



そんな淡い期待に踊らされて
そっと彼に歩み寄った



「今日は約束があるから…零時前には帰ってね」



その言葉で全てを悟る


他の人と…



やり場のない嫉妬が体中を駆け巡り
どうにかなりそうだった



彼が自分だけのものだったら
どんなによかっただろう


そう期待していなかったわけではない


しかし、どこかでわかっていた気もする


永遠に私だけのものにはならないということを…


「いえ…もうそろそろ帰ります…」


別の人の匂いに変わるこの空間に
少しでも自分を残しておきたくなくて、


足早に地上への帰路についた




………



好き…好き…好き…好き…



欲しい…欲しい…欲しい…欲しい…



欲望が溢れて止まらない



身も心も貴方にすべて捧げてしまった

貴方なしでは生きていけない

私には貴方しかいないの

貴方が必要なの

貴方が…貴方が…


「光煌さん…」


ネオンの光で貴方の名前はかき消された

最終夜

_




~♪

貴方からのメール

『今夜、空いてる?』

予想通りの定型文が届いた

『はい』

私もいつもと同じ文で応える




コツコツコツ…

ネオンの森を抜ける

コンコンコン…

3度ノックをする

カチャリ…

「こんばんは…待ってたよ」

いつもと同じ貴方の顔 同じリズム
いつもと同じように私も微笑み返し、中へ入る

でも、これで最後
今日で終わらせるって決めたから…



「光煌さん…!」


貴方が早く欲しくて
焦って声が上擦る

「なに…?」


いきなり距離を縮めたためか
少し困惑した彼の声が頭上に響く


「今日で終わりにします…だから…私を…」

言いかけた言葉を指で遮られた


「分かった…」

そう呟くとそっと押し倒された



………


優しい口づけ 優しい指先 愛しい貴方
いつもと変わらない恋人ごっこ


でもこれも今日で終わり


「光煌さん…」

「ん?」

「キスして下さい」

「……」

彼はいつもこの行為を拒む
それは恋人ごっこの私達には
似つかわしくない行為だから


そんなこと分かってる

でも、もう終わりにしたかった

この空白をあなたで埋めたかった

もう嫌われたってかまわない

どうせこれで終わるんだから…



「これで最後だから…お願いします」



「……分かった」


哀れな懇願に同情するかのような
少し触れるだけのキス

それだけで十分だった

もうなにもいらなかった


「…っ…ありがとうございます」

彼は何も応えずに
立ち上がって奥へと吸い込まれていった


どうせ貴方なしじゃこの体は生きていけない
貴方以外もうどうでもよかった


「はい…」


水の入ったグラスを差し出される

それはまるで今までのことを全て水流して
と言われているようだった


そのつもりでここに来たんだし…


目の前に差し出されたグラスが
キラキラと光っていて眩しい

グラスの向こう側に貴方の顔が揺らめく

その光に目を細めながら水を飲み干した



………



ピピピピピ…



聞きなれた機械音がまだ薄暗い朝を知らせる



なんて清々しい朝だろう


隣には…愛しい貴方が寝息を立てている


それだけで全てが満たされている気がした


自分の唇に指をそっと滑らせて
昨夜のキスを思い出す



上唇にだけ添付した睡眠薬

あのキスでそれがあなたの中に溶け込んだことを
隣の整った寝顔が示していた


どうせ終わるなら自分から終わりに…


私はそっと、貴方の首筋に手を添える


手に力を込めると白い首筋が踊り出す



あぁ…愛しい貴方…

ずっとこのまま私の手の中で踊り続けていて…


私の下で踊り狂う貴方を見ているだけで
頬が紅潮し、鼓動が速くなる



これからはずっとずっと私のもの

そう思うと心も体も満たされていく



しばらくすると貴方はあの夜の熱帯魚のように
力をなくした

でも、私は貴方をあの熱帯魚-エンジェルフィッシュ-のようにはしない


愛しているから…

これからは私がずっと側にいるからね…

貴方はずっと私のものよ…



愛しい貴方を抱きしめて
朝日に煌めく水で口内の錠剤を流し込んだ




fin

エンジェルフィッシュ

エンジェルフィッシュ

歌い手のluzさんのアルバム『tWoluz』書き下ろし曲 Nemさんの『エンジェルフィッシュ』を元に制作いたしました。 luzさんのエンジェルフィッシュ⇒ http://www.nicovideo.jp/watch/sm24593668

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-16

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 第一夜
  2. 第一朝
  3. 第二夜
  4. 最終夜