スイミー・アント・ジャイアント

 ぽっかり浮かんだ島に 赤子が一人
 産まれてすぐに捨てられて
 幸せになれよと流されて
 赤子は人知れず育った 誰もいないその島で
 そして彼の父が死に
 母は恨まれ殺されて
 猫が百万を生きた頃
 彼の体は四〇メートル
 彼は巨人になったのさ
 寂しい巨人になったんだ!
 
 やがて島は海の底
 暗く深く沈み行く
 巨人は泣く泣く海渡る
 見ていたのは月だけさ
 たどり着いたはどこかの国
 人の暮らす国
 巨人はあわてて山に潜む
 何もかもが嫌になったね
 しかしそのとき 彼を呼ぶ声
「あなた 一人? トモダチになりましょう?」 スイミー・アント・ジャイアント!

 声かけたのは蟻の娘 
 体長わずか一センチ  
 巨人はひどく驚いた
 蟻も驚いたが しかし
 すぐさまニッコリ微笑んで
 同じ言葉を繰り返す
 それから二人離れずに
 春夏秋冬を生きたね
 巨人は幸せだった 生きて良かったと思った
 巨人は恋に落ちたのさ
 三九・九九メートルの恋に!
 
 だが幸せは長くは続かなかった
 限りない欲望を持った人間が 領土を求め
 山を侵略しはじめたのだ
 楽しかった日々が 山と 思い出とともに
 音を立て崩れ落ちる
 奇しくもふたりの結婚式の日
 巨人は彼女を踏み潰されたのだ
 その後山は火をつけられ
 蟻は骸さえ残らなかった
 巨人は泣いた! 泣いた! 泣いた!
 泣き明かした!

 そうしてひとつの湖が形成されたころ!
 巨人は泣くのをやめた!
 そして呪った!
 呪った! 呪った!
 人間を!
 神を!
 運命を!
 自分を!
 世界を!
 巨人は壊してやろうと決めたのであった!
 スイミー・アント・ジャイアント!

 巨人は隠れることを止め
 唯一人で山を降りた
 人間達は大騒ぎ
 助けてくれと命乞う
 そんな言葉などは聞かずに
 人間が蟻を潰す様に
 車も家もテロリストも
 町も夢も愛も明日も
 巨人はただひたすら歩く
 足下なんか見ていない
 巨人は鬼になったのさ
 考えることなどやめたのさ!

 やがて人間は反撃に
「あの鬼を殺してやれ」
 銃口が彼へ向けられて
 切先が彼に向けられて
 巨人には幾つもの傷が付き 幾つもの穴が空き
 ついに倒れたやったぞと
 人間達の叫ぶ声
 薄れ行く意識で巨人は
 目の端に映るものを見た
 そこには幼い少女が ひとり
 あの日の様に 潰れていた
 スイミー・アント・ジャイアント!

Ⅳエピローグ~仮説~

 神様に、
 おまけの一生をもらった娘がいるとして。
 
 彼女の本当の優しさ、可愛さ、悲しさに
 誰が気づいてあげられただろうか。
 彼女の瞳が、口調が、愛する人が、
 昔と何一つ、変わっていなかったとして。
 
 彼女は最期の最期にこう言ったのだ。
「あなた 一人? コイビトに戻りましょう?」
 ニッコリ微笑んで そう言ったのだ。
 それを 誰が証明できる?

 彼女には幸せになる未来があった。
 それを誰が証明できた?

 彼女は生まれ変わっていて、
 しかし、彼女であった。
 それを、誰が。

「それでも
 
 あたし
 
 幸せだったのよ」

 誰が。
 誰が。
 誰が。
 それを。
 それを。
 それを。
 彼女を。
 彼女を。
 彼女を。
 誰が
 だれが
 ダレガ
 僕は

スイミー・アント・ジャイアント

スイミー・アント・ジャイアント

16歳の時の作品。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-20

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  1. Ⅳエピローグ~仮説~