童話(津田葵)

幼い頃、童話や絵本を読み聞かせてもらった経験がありますか? この童話の登場人物である少女は……なさそうです。

 現代社会の片隅で、ひとりの少女が檻の中で飼われていました。
 檻の中は冷たくて暗くて居心地が悪かったのですが、檻の外の世界を知らない少女は、ほかにどのような世界があるか知らずにいました。その苦痛はいたって普通のことだと体や心に刷り込まれていました。少女は飼い主の指示に従う意志をなくすことを余儀なくされた生活を強いられ続けました。飼い主の指示に従わなければ餌がもらえずに死んでしまうからです。餌のもらい方なんてほかに知らなかったのです。当たり前です。そんな方法が思いついたり、学べたりする生活を送っていないのですから。
 檻の中でしていたことは、もともと容量の足りない小さな容器に少女には理解できないものを詰め込む作業でした。餌を食べ、体を洗い、少々の睡眠時間以外はずっとその作業をしていました。飼い主は少女に餌を与えるほか、罰や冷遇、傷を与えました。少女はなんとかして愛されようと、気に入られようと、言いつけられた作業に徹します。一生懸命に詰め込みます。しかし容器は小さいので上手く詰められないのです。すると、飼い主は少女に罰を与えます。仕方ありません。罪には罰が下るものです。彼女の生活に色なんてありません。
 そのうち彼女に檻の外の住人が近づいてきます。少女はその住人と話すうちに自分の住んでいる世界とは別の世界を知ります。そのせいで混乱していくのです。もっと外の世界を見たいと彼女は檻の外へ出ることを望みます。しかし、少女は首輪や足かせ、手錠で飼い主に繋がっているし、檻を壊したら自分の命がどうなるかわかりません。少女にとって抵抗することは死を意味しているのです。
 でも、自分の中の自分をとうの昔に捨てた少女は生きている意味を見失いました。外に出ることすらもはやどうでもよくなり、このまま人生という時間を容器にものを詰め込む作業に費やすのなら、自分の手で終わりにすることも厭わなくなったのです。そこで彼女は遠く遠く別の世界へつながっている天へと手を伸ばします。力いっぱい。最後の力を振り絞って。そうして檻の中に残ったのは少女だった冷たいかたまり。
 これが歪んだ親子の物語です。

童話(津田葵)

こんな童話、寝る前に親から聞かせられたら眠れないですよね。もちろん概要で書いたことはフィクションです。

童話(津田葵)

これは幼い頃、寝る前に読んでもらった童話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-03

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