戦国BASARA 7家合議ver. ~雨と月夜語り~
はじめまして、こんにちは。
どうぞよろしくお願いします。
これは戦国BASARAの二次創作作品です。
設定にかなりオリジナル色が入っている上、キャラ崩壊が甚だしい・・・。
別物危険信号領域。
かなりの補足説明が必要かと思いますので、ここで書かせて頂きます。
まず、オールキャラ。
の気配がありつつの、
カップリングとしては、長曾我部元親×毛利元就 からの、豊臣秀吉×毛利元就。
左近さんも、チラッと出てきます。ホントにチラッと。
前提としては・・・。
まず、家康さんが元親さんに、こういう提案をしました。『天下人が1人じゃなきゃいけないって縛りが、戦国が終わらない元凶じゃね? 日の本を7つに分割して代表家を決め、その7家の合議で政治をしてけばいんじゃないの?』という提案です。
元親さんが乗り、慶次さんが乗り、『中国地方は我の物』が口癖の元就さんが乗り。
九州→島津家、四国→長曾我部家、中国→毛利家、近畿→豊臣家、中部→前田家、関東→徳川、東北(奥州)→伊達家、という担当で、7家同盟が成立している状態です。
謙信公と信玄公も理想に共鳴し、助力してくれてます。
合議制なんて反対だっ! って言ってる人たちを武力で纏める段階は、
いつの間にか過ぎてます。
過ぎてます。いつの間にか。
みんな、内政も頑張ってね☆
そして鶴姫さんが元就さんの事を、何故か『兄様』って呼んでスーパーブラコン状態発動です。
元就サンも『明(あかる)』ってオリジナル名前で呼んで、スーパーシスコン状態発動です。
実は2人は『陰陽8家』という、術者を纏める裏組織の西ツートップ。
幼い頃から色々あって、2人で生きてきた的な部分がかなり強く・・・という、設定があります。
えぇ、オリジナルです。
『陰陽8家』の設定は、今回、全然、出てきません。スルーしても読めますので、ご安心下さいませ。
今回投稿したこのお話は・・・。
つまりは、アレですよ。
秀吉さんと元就さんが、イチャパラしてるだけのお話ですよ、ホント。
短いし。
強いて言うなら、秀吉さんが、元就さんに惚れた理由、みたいな?
元親さんの事もあり、惚れ初めはこんなでした、みたいな?
元就さんお医者さん設定。
忙しくて試験受ける暇は無かったけど、知識も実技もプロレベル、という人。
半兵衛さんと大谷さんも診てます。
こんな感じでオリジナル設定てんこ盛りのお話ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
本当に、この上なく幸いです。
チキンハートに石を投げないでっ。
戦国BASARA 7家合議ver. ~雨と月夜語り~
「困ったな・・・。」
腕の中に、麗人が居る。
男にしては柔らかい肢体を胡坐の膝に預け、正面から逞しい胸に甘えかかり、側頭を押し付けるようにして、眠っている・・・ソレが何より、秀吉を困らせる。
戦から戻って着替えぬままの秀吉は鎧でも、半日ずっと、調べ物をしていたらしい元就は平服なのだ。蒸し暑い夏の事、薄い布を纏う高めの体温が、鎧越しでも伝わってくる。
「・・・・・。」
『長すぎるのも短すぎるのも好まぬ。』と言うサラサラの、少し長めに整えた髪。
戦場に張った天幕の中でなら聞いた事のある、小さな寝息。
炎天下をどれだけ馬で駆け回っても焼けない、健康的な白さを保つ肌。
意識が行ってしまうのは、そんな所ばかりで。
「・・・・・・・・・・・。」
いっそ今夜が新月だったら、見なくても済むのにと。麗人を煌々と照らし出す満月を恨めしく思っても、秀吉は・・・元就から目が離せない。
その細身を、温もりを、手放す事が出来なかった。
「毛利、元就・・・。」
戯れに、舌の上で名を転がしてみる。
詭計智将。謀神。日の本一の策略家。親友の半兵衛を差し置いて、そう天下に名を轟かせていた男が、どんな豪傑かと興味はあった。ソレがこんな・・・親友以上に女性的な面立ちの、華奢な体躯を持つ男だったとは。
そっと頭を撫でると、珍しい紫茶色の髪がスルリと指の間を流れていく。
また、だ。
また・・・よからぬ欲望が頭をもたげそうになる。籠手を脱ぎ捨てて、素手で触れたくなる。髪に、肌に・・・唇に。
「・・・・・・。」
ここは図書室で、腕の中の麗人は、盟友と定めた1人・長曾我部元親の恋人。
毛利元就の身を手放せぬまま、秀吉は己にそう言い聞かせて最後の一線を保っていた。
戦には普通に勝ったのだ。
規模としてもそんなに大きな物ではなく、秀吉自身が出陣したのは、麾下の主だった武将たちが全員出払っていたから、というそれだけの事である。三成は例の如く物凄く心配したのだが、『コレも賢人の策の内だから』と吉継に諭され、引き摺られるようにして出陣していった。
大阪城には左近を残してあるし・・・それに。
手筈通りなら、来ている筈なのだ。
『日の本一の智将』が。
「お帰りなさい、秀吉様♪」
「あぁ。留守居、ご苦労だったな。左近。」
夜中に帰るのも、予定の内。
順調に帰ってきた総大将を出迎えた凶犬は、妙に機嫌良くニコニコしている。直属の主君である三成が見たら、問答無用で斬滅しそうな緩んだ笑顔だ。
城中を移動しながら、報告を聞く。その緩み顔、秀吉には心当たりがあった。
「いえいえ♪ それより戦勝、おめでとうございます。
飲むでしょう? 宴の準備、バッチリ出来てますよ♪」
「あぁ。
留守中、変わりはなかったか? 毛利軍は?」
「変わりはありませんでした。どっこも攻めてきませんでしたし♪
毛利軍も予定通り、秀吉様たちと入れ違いに来て、きちんと警備の手伝い、してくれました。軍規イイッスね、あそこ。ちょっと覇気は無い感じしますけど。落ち着き過ぎっつーか、役割分担はっきりし過ぎっつーか。
でも問題は報告されてないし、ウチの連中とも概ね上手くやってくれてるみたいです。
人数足りてないのはマジだったんで、助かりましたよ。」
「そうか、幸いだな。
それで、その毛利軍を率いてきた本人は?」
「昼過ぎに来て配置の指揮を執って以来、図書室に籠もりっきりッス。『我の計算に狂いはない。何処も攻めて来はせぬよ。』とか言っちゃって、鎧も脱いじゃって。
ウチが手薄になるのを心配してくれた前田公の提案で、人手が出せる毛利公に来てもらった訳ですけど・・・『利家は心配性過ぎる』って。」
「それでも、軍は動かした。
以前の頑なさも、少しは変わってきたのやも知れぬな。」
「秀吉様が言うなら、そうなんでしょうけど。
いや~、でも毛利公って、ホンッッッット、美人ですよね~~♪♪ 目の保養どころの話じゃないっつーか、なんつーか。あんな美人、ホントに実在するんだって。初めて見た時、目が釘付けになっちゃいましたもん。
見飽きないタイプの美人って珍しいッスよ♪」
「初めて毛利を見た時のお前は、話しかけられても気付かない程凝視していたからな。
問答無用で腹に一発叩き込まれて、ようやく正気に戻った。」
「しかも笑顔で。しかも笑顔で♪♪
あんな超絶美人な上、手も早いとかっ。『あの』西海の鬼・長曾我部公と長年争い続けて一歩も引かなかった武闘派智将っ♪ 更には可愛い妹なんか居たりとかしちゃって。
美人兄妹♪ たまりませんて♪♪」
「・・・くれぐれも新しい扉は開けてくれるなよ、左近。」
「は~い♪」
お調子者らしくカルい返事をする左近に手伝わせて、2、3の用事を簡単に済ませる。鎧から平服への着替えも手伝おうとする彼を下がらせると、秀吉は自室に置いておいた文箱を持って図書室に向かった。
着替えなど1人で出来る。それより先に、済ますべき大事な『小用』があった。
「毛利? 灯りは付けないのか?」
半兵衛が精力的に集めた膨大な量の蔵書は、別のもっと広い図書室に収めてある。そちらではなく秀吉は、もうひとつの小さな『図書室』に来ていた。
半兵衛が集めた中から、部屋の主が更に厳選して抜き出した本。この城に居る時の元就は、大抵こちらの『自分で作り出した図書室』に居る。
灯りが点いていなかったので、別の図書室か、あるいは私室として提供している客間の方へ移動したのかと思っていたが・・・何の事は無い。読書の最中に眠ってしまったらしく、元就は油の切れた紙燭の傍で横になっていた。
部屋の広さは8畳程。少し大きめの格子窓があるきりで、四方の壁、全てに本棚が設えられている。床は冷たい木張りだが、唯一、格子窓の下に畳が1枚。この部屋を好きに改造した本人は、その畳の上に華奢な体を横たえていた。
妹から贈られた華やかな打ち掛けを、掛け布団のように肩に軽く引っ掛けている。
格子窓の影が落ち、満月の光を浴びる美しい寝顔は幻想的な絵のようで。
「・・・・・・。」
思わず見入っていた秀吉は、我に返ると軽く頭を振って現実に立ち返った。
「起きてくれ、毛利。
欲しがっていた資料が手に入ったぞ。」
「・・・・・ひで、よし・・・?」
「あぁ。」
切れ長の澄んだ瞳を開けて、秀吉を見返す元就。
彼の側近くに片膝をつき、細身を揺り動かした秀吉は、安堵すると同時にドキリと心臓を跳ね上げた。寝起きの瞳にいつもの怜悧な色は無く、秀吉の巨躯を裏心なく見上げてくる様は、そぐわぬ程の無邪気さを纏って見える。
季節は夏の盛り。寒い筈は無いのに、何となく、元就の足許に溜まった打ち掛けを取って薄い肩に掛けてみる。彼はまだ眠いらしく、その瞳は傍から見ても明らかに夢幻を彷徨っていた。
まずい。
「毛利。」
何がどうマズいのか、自分でも判然としないまま、秀吉は直感していた。
まずい。
このまま此処に居ては・・・・・・自分の中の何かが、変わってしまう。
「資料は、此処に置いておく。明日にでもゆっくり読んでくれ。
毛利?」
「・・・・・・。」
秀吉の声が、届いているのかいないのか。
うつらうつらとするばかりで、フリーズしたまま動かない元就。秀吉は自分を見て欲しいような、このまま立ち去るのが賢明なような複雑な気分で、彼の肩に触れようとして・・・。
結局、やめた。
後者を選ぶのが一番無難なのは、男として、一常識人としてよく判っている。自分が抱く心中の靄は、知られてはいけない代物だ。目の前の本人には。それに、盟友の1人にも。
こんな想いを抱く事自体、何より誰より、自分自身が一番自分を許せない。
これは・・・邪念だ。
「おやすみ、毛利。」
一言、コレも聞こえていないであろう挨拶を残して、立ち去ろうとしたのだが。
そういう時に限って・・・片膝を解いて立ち上がる、その、一番体勢が不安定な時に限って、元就が動いた。有り体に言うと・・・拙い様子で座り込んでいた上体を倒して、秀吉の腕の中に倒れ込んだのだ。
「ちょ、ま、・・・毛利っ?!」
咄嗟に座り込んで受け止めたが、秀吉は物珍しくも動転し、一瞬声が上擦ってしまった。
どうやら体調不良などではなく、単に寝惚け状態から睡眠状態に移行しただけ、らしいが・・・秀吉の胡坐の膝に華奢な体全体で甘えかかり、側頭を逞しい胸板に預け、覇王の腕の中で無防備に深い眠りに落ちている、詭計智将の艶姿。
誤解される。絶対に。
他のメンバーが見たら・・・否、誰が見たって誤解するに決まってる。
彼を信頼し、心を開いて無防備に眠る天使な元就に、その信頼を平然と踏み躙り好き放題に触りまくり、これから更にイケない悪戯を施そうとしている悪魔のような秀吉の図。
そうとしか見えないこの状況。
誤解され・・・え? 誤解されるか、コレ?
「いや、まぁ・・・普段が普段だからな・・・俺は大丈夫か。」
むしろ、毛利が俺を嵌めようとしたとか誤解されそうでそっちの方がコワい。
嘆息と共にそんな結論に達してしまう、秀吉に達しさせてしまう辺り、元就の普段からの邪悪っぷりも大概だと思う。まず間違いなく、秀吉は大丈夫だ。誤解されない。むしろ誤解させようとしたとか誤解されそうで、元就の身の方が心配になる。
コイツはただ単に、眠いだけだと思うんだが。
「・・・・・・・。」
熟睡してるし。
警戒心が強いし眠りは浅い方なのかと思いきや、鶴姫曰く『一度寝たら中々起きない人』だとは聞いていた。暗殺が日常に入り込み、死と隣り合わせの生活。大人たちからそういう日常生活を与えられた中で生き残れるのは『熟睡して良い時かどうかを見極める目と、実際に熟睡できる胆力を持つ子供だけ』なのだそうだ。
元就にはソレが出来た。妹に平穏な眠りを与える事すら、やってのけた。
秀吉には、想像を絶する生活だ。彼はごく普通の一般的な子供生活が送れたし、この戦に明け暮れる生活も、充分に成長してから、覚悟して自分で選んだ道だ。
武家の名門に生まれたとはいえ、10歳で庇護者を失った毛利元就という男の心中。察し切れるものではない。
「お前は何も言わぬし、な・・・。」
頬にかかる紫茶色の一房を、撫でつけて柔らかい耳にかける。
西海の鬼は・・・この髪が気に入りらしい。
元々が海賊、海の男である。スキンシップの一環としてのボディタッチに慣れた男の事、戦勝に限らず日常的に、何かにつけて元就を構い付けて身に触れたがる。髪にも、肩にも。元就とは戦で競り合う時が長かったから、合議同盟という大きな傘の下で隣り合える事がひとしお嬉しいのだと。他のメンバー相手に、本当に嬉しそうに話していたのが、何かの宴で聞こえてきた事があった。
本人はアルコールの匂いに触れただけで眠くなるような、筋金入りの下戸である。だから元就は、その言葉を聞いてはいなかったであろうが。
彼は最初に『我が侭を通させてもらうぞ。』と宣言した通り、その手の宴には一切出て来ない。本当に避け得ぬ時だけ短時間。それ以外は妹の鶴姫か、彼女の都合がつかない時には小早川家の秀秋まで引っ張り出してきて、代理参加で通していた。
その埋め合わせのつもりなのか、茶の方には、例外なく付き合ってくれる。
まぁ、茶請けに出される甘味目当て、というのもあるのだろうが。
日常の日向ぼっこも、茶会のようなフォーマルな場も。
一度、半兵衛が亭主を務める予定の茶会当日に、当の亭主が倒れた事があった。内輪なら中止も通ったろうが、生憎と公家相手の接待要素が強い茶会。誰もが一瞬、思考停止した中、咄嗟に代理を申し出たのが元就だった。
人嫌いの詭計智将。仲間の輪を、いつも遠くから眺めているような男。
そんな男が『公家相手の接遇など容易き事。天才軍師より上手くできる自信があるぞ。』と。公家の血を持ち、悪徳高利貸しとして公家流の駆け引きも知っていた男が親友の代わりに亭主を務めた茶会は、色々と大成功で。
多方面に譲歩を引き出して終わり、その後しばらく『あの』半兵衛が珍しく落ち込んでいたものだった。
つらつらと思考を遊ばせているうちに、腕の中の麗人が身じろぎする。
「毛利? 起きてくれ。
眠るのなら、ちゃんと布団で眠った方が良い。」
「ん・・・ひでよし・・・。
戦から戻ったのだな。お帰り。」
「あぁ。ただいま。」
秀吉の腕に収まったまま、可愛らしく寝惚け眼を擦る元就。先程より更に意識がはっきりしているらしく、言葉も的確だ。
元親と間違えている訳ではないのだな、と、妙な所で安堵してしまう秀吉の心中までは、察していないようだが。
コレも、秀吉含め他のメンバーには意外な一面だった。
元就は、挨拶は欠かさない。お帰りとも言うし、ただいまとも言う。但し、本当に親しい相手にだけ、という条件付きだったし、そして、今まで元就の『本当に親しい相手』は鶴姫だけだった故に、知られていなかった訳だが。
17の年に『精神年齢0歳・肉体年齢8歳』の妹を育てる事になり、その生活指導の一環として言うようになったのだとか。だから捨て駒は勿論、元親相手にも言った事は無かった、らしい。
こうして秀吉ら主要メンバーにも言うようになったのは、合議同盟を組んでから。元親があまりうるさくゴネるものだから、珍しく元就の方が折れたのだ。
彼には、妹限定の習慣が多過ぎる。鶴姫と話している時の元就は、殆ど別人だ。
「欲しがっていた資料が届いたので、持って来たぞ。
ある医者の家で保管されていた、50年ほど前の患者の診療記録だ。清書はされていないし、欠損もある。元々走り書き程度のモノだったようだが・・・。
こんなモノが、半兵衛の病に本当に役立つのか?」
「立つ。
実際の診療記録は貴重ぞ? 対象の患者と竹中とは、体質が違う事。ソレを差し引いてもな。どんな治療を施した結果、どんな効果が得られ、同時にどんな副作用が生じたのか。
それ以外にも色々と、得られる情報はある。
丸きり同じ治療を施す心算は、元より無い。我が知りたいのは『実』と『可能性』ぞ。」
「そういうものか。」
「そういうものだ。
うん。流石に豊臣の情報網よな。我が予想しておったよりは、遥かにまともな記録だ。」
つい今し方まで秀吉の腕の中に居た事は、当たり前のようにスルーして。
元就は彼の腕から淡々と出て行くと、背を向けて、秀吉が持って来た文箱の中身を検分している。
秀吉にとって最も大事な、得難き友・竹中半兵衛・・・己の病を主君兼親友に隠していた、仮面の天才軍師。秀吉が半兵衛の病を知ったのは、だから、意外と最近なのだ。
あの茶会で代理を『務めてやる』条件として元就が出したのは、半兵衛の主治医になる事だった。豊臣軍属の軍医にはもちろん診せるが、それと同時に、定期的に自分にも診察させよ、と。所謂『セカンドオピニオン』というヤツだ。
あの時は茶席の設えなど、事前に世間話半分で半兵衛と共有していたのが元就だけだったし、豊臣サイドに不利になるような条件には聞こえなかったので、イチもニもなく頷いたが。
やはりよく考えても、豊臣に不利になる条件ではない。半兵衛の毒殺を企んでいるとしても・・・毛利方ではなく豊臣方の軍医が付いている以上、その目をかいくぐるのは不可能だ。たとえ詭計智将でも。
それに実際、見る限りでは真面目に快癒させようとしているように見える・・・『死病』と軍医が断じ、本人すらそう納得していた病を、完治させようとしているように。
いや、勿論嬉しいのだが。半兵衛が生きてくれるなら、生きられるなら、特殊な機材でも何でも用意するし、薬代だって幾ら掛かったって構わない。
ただ・・・ただ『何故、毛利元就という男がソレをするのか』。してくれるのか。ソレが判らないというだけの事で。
不思議な奴。妙な奴。
そう思う度に、秀吉は壁にぶち当たる。
『あの』詭計智将が、と何度も思わされてきたが、そもそも己は、彼の事をどれだけ正確に知っているのかと。『あの』とは『どの』彼だ、と。
「竹中半兵衛の様子はどうだ? 豊臣秀吉。
竹中隊は予定通り前田軍と合流したのだろうが・・・。軍医が出した薬は、指示通り服薬しておるか? 吐血や咳の回数に変わりは? 記録付けるのサボってないであろうな?」
「飲んでいる。
長曾我部が作ってくれたカラクリ時計が気に入ったらしくてな。便利なタイマー付きだとかで、ソレを使って時間を管理しているとか。妙に楽しそうだったぞ。
回数に、今の所変化はないようだが・・・記録を取るのは苦ではないから、地道に付けると笑っていた。」
「ソレは僥倖。海賊めの道楽も、たまには役立つ時がある。
こういうのは、何処かに楽しさがないと続かないからな。我が明の為の薬を開発した時も、おのずと進んで飲みたくなるような味にしようと苦心致したものよ。」
「・・・・・・。」
白毒症(はくどくしょう)。
体内の火の霊力が暴走し、激痛や臓器の火傷、高熱、失明などを引き起こし、最終的には人体発火に至る病。高位の操炎能力者、特有の病。
火気を鎮める特効薬を開発したのは、他ならぬ元就なのだと。
そう教えてくれたのは、皆に愛でられる彼の妹だった。自分の為に情報もデータも無い、全くの無から創り出してくれたのだと。
ソレを聞いて・・・液剤を飲みながら、信頼し切った笑顔で話す彼女の言葉を聞いて、友の病を任せてみようか・・・携わらせてみようかと思ったのは、確かだ。
「なぁ、毛利・・・。」
「ん?」
「・・・・・半兵衛は・・・何故、俺に病を隠していたのだろうな。」
「・・・・・・。」
訊きたかったのはもっと別の事だった気がするが、秀吉の口から出たのは溜め息にも似た質問だった。質問という名の、愚痴に近い。
「理屈は判る。俺に心配を掛けまいとしてだとか、情報が外に漏れるのを警戒してだとか、頭では判っている。別に怒ってる訳じゃない。
ただ・・・な。やり切れぬというか、何というか。」
「・・・我は、半兵衛の全てを知っている訳ではない。病以外は過去も覚悟も、そなたの方がよく知っていよう。その病ですら、半兵衛自身に惚れ込んでの治療、ですらない。
妹が同じ病にかかった時の、生存モデルにしたいだけだ。」
「そうだな、すま・・ん? 生存モデル?」
「半兵衛個人の味方をする訳ではない、という前提に立った上で言わせてもらえば。
許してやれ・・否、譲ってやれと言うべきか。
忠義もあれば責任もあろうが・・・何よりアレは、最期の時までを、己の理想とする己で過ごしたかった。それだけであろうよ。
半兵衛にとってのそなたは、友であり、それ以上に己が夢の体現者である。己が身が病の宿りとなっているのなら、尚の事。秀吉に向けられる憎悪も嘲笑も呪いも無理解も、全て、体に詰め込めるだけ詰め込んで、両手一杯に抱き締めて、背負い籠にまで詰め込んで。忘れ物が無いか確認した上で、本物の冥府に旅立つ所存であった筈。
ソレを、他ならぬそなたが認めてやらなくては・・・立つ瀬があるまい。」
「・・・・・・。」
「豊臣秀吉。そなたにとって半兵衛が、真実、特別なのは見ているだけでもよく判る。
アレの病を知れば、そなたは問答無用、簀巻きにしてでも病床に叩き込み、ヤンデレ状態で監禁してでも、命を保とうとするだろう。心の臓を術で動かし、魂を冥府から呼び戻し、結界の中にすら閉じ込めてでも、この世に留めようとするだろう。」
「いや、流石にそこまでは・・・やらなかったと思うが。」
「そうか? 我は妹相手に、半ば本気でやろうと準備しようとしたものだが。
当の明に諌められたがな。こういう時、なまじ魂に関わる術理に詳しいと簡単に道を踏み外してしまっていかん。妹の心の強さに助けられたわ。」
「・・・・・・・・。」
「半兵衛にとって理想の自分とは、そなたの右に立ち続けられる自分。
同じ人として、最期まで戦場に立ち続ける事。戦場以外で永らえたとして、あるいは理想の成就を経ずして病床に叩き込まれても。それは冥府に繋がれたと同じ事。
生きながら死ぬを厭うのは、ごく自然な感情であろう。」
「そうか。病床は、冥府か。」
「いくら本人の望みだからとて、目の前で喀血している病人に、戦場に立つ事を平然と許可する医者も我くらいのものであろうがな。」
「あぁ、うん。まぁな。
ソコを許可した時点で、半兵衛は自軍の軍医より、長年謀略を巡らせ合い、虚ろな同盟で張り合ってきた他家の武将の方を頼りにしているくらいだ。
『延命だけの治療より、戦場に立ちながら延命する治療が受けたいんだ、ボクは。』と。」
「そなたの所の軍医も、間違った事は申しておらぬ。腕が悪い訳でもない。他の何処の軍医に下問致しても、同じ断を下し、同じ指導を致すであろう。
ただ、此度の患者が度を越して我が侭だというだけの事。
我は『生活の質』は大事にする治療方針ぞ。
我にも明が居る。死に物狂いで命を留めたがる、そなたや三成、難病患者の家族の気持ちは判らぬでもない。だが同時に、戦場に立ちたがる半兵衛の心持ちも、判らぬでもないのだ。我自身、半兵衛や大谷ほどではないにしても、病を隣人として戦場に立つ身故、な。」
「? 幼少の折、喘息を患っていたとは聞いたが・・・。
治ったのだろう?」
「・・・再発する可能性は、常にある。特に寒暖の差が激しく、血気と死臭で空気の淀む、戦場などという場所に居てはな。不規則な生活リズムや、精神的ストレスも悪いか。そして大人になってから再発した喘息は、ほぼ治らぬ。
元々が喘息という病態自体、病と申すより、体質に近いのだ。
肺腑の弱さは如何ともしがたい。今ですら油断すると、すぐに咳が出る。肺腑の分まで働きを与えている心の臓も、いずれは病みつくようになるのだろうと思う。そういう病なのだ、それはもう、致し方なき事。そういう、体なのだから。
手近にある呼吸器関係の病を、あらかた網羅し切った時には笑ってしまった。7人の中で最も身体虚弱なのは、間違いなく我であろうな。
ホレ、体温も。そなたのような壮健な者に比べると、随分と低いであろう?」
背を向けながら話していた秀吉に、元就はクルリと体ごと向き直って、彼の手を取る。
その手をいきなり薄い胸板に押し付けられて、秀吉の心臓が再び、ドクリと跳ね上がる。表情の変化をどう捉えたか、元就は小首を傾けると彼の掌を鎖骨へ、そして満月の明かりで艶めいて見える首筋へ。更には柔らかいく照らし出された頬や、おとがいへと導いた。
服の上からでは、体温など伝わるまいと思ったのだろうか。
秀吉が本当に釘づけられたのは、無自覚故に色気の際立つ、その仕草だというのに。
「戦働きの後、というのも、あるのだろうな。温かくて心地よい。冷え切った身に染み渡るようだ。」
「? 寒い、のか? 夏だというのに。」
「? あぁ、寒いな。そなたは寒くない、か。普通の体とは、そういうモノなのだろうな。
明が打ち掛けを寄越したのは、我の体温の不安定さを見越しての事よ。」
「すまん。俺はどうにも・・・そういう事に気が回らぬ性分のようだ。半兵衛の病の件からこちら、身につまされている所でな。大谷相手には、見た目に判り易いからまだ気遣いようもあるんだが。」
「そなた程に壮健ならば、致し方あるまいよ。
フフッ、健康な者を妬む大谷の気分もな、判らぬではないのだ。我などはもう『こういうもの』と納得して、諦め、受け入れているが。アレにはソレが出来ぬのだろう。
なまじ異形が際立つ分、周囲から差別され、自然と、己から周囲へ負の感情も増幅される。悪い循環だが、そのストレスを向上心や努力に変えられたのは、大谷の美徳よな。」
「・・・毛利。気になっていた事がある。
何故、長曾我部と争い続けた?
奴は天下統一には興味が無かったと言っていた。その自分が、日の本の一翼を担う仕儀となったのが不思議だと。放っておいても、中国地方を攻める可能性は低かった筈。
他の家門に攻められて、中国を統一せざるを得なかったのは判る。
だが自ら他国を攻めなかったお前が、何故、四国だけは自ら攻めた? 欲した?
長曾我部がお前に惚れているのは、知っていた筈。お前もまた長曾我部に惚れているのだとて、透けて見える。生き方が気に入らないから、人生哲学が合わないから。そこに抵抗があって付き合うに至らなかったのだとしても、ソレで戦にまで発展させるようなお前とは、俺にはどうしても思えぬのだ。
病の宿る体で、敢えて惚れた相手と戦う。ソレが俺には、どうしても矛盾に見える。」
「・・・妹が・・・明が守れるなら、我が身などどうなっても良い。誰にどう思われようと構い立て致さぬ。それがたとえ惚れた相手からの憎悪でも、一身に受ける覚悟だった。
そうとしか申せぬわ。」
「判らぬ。
端的過ぎるのだ、お前の言葉は。俺にも判るように話せ。」
「・・・・・我には『毛利家』が必要だった。家名だの領だのは、この際、どうでも良い。諸般の七面倒くさい事情があってな。我ら兄妹が生きるには、どうしても『毛利家』という器が無くてはならなかったのだ。
そして家中の実権を握る政敵が・・・毛利家を食い荒らすシロアリが、ある日、我にこう望んだ。『四国が欲しい。』と。獲って来なければ、明を殺すと。
故に我は、長曾我部の愛情より、明の命を取った。
そこに躊躇いの生じる余地など無い。直接には10年以上も会っていなかった初恋相手より、眼前の妹を取るのは当然であろう? 共に辛酸を舐め、血と泥の中を這い回り、最も呼吸の苦しい時期に、互いに人工呼吸でも施し合うかのように支え合って、ようよう生き延びてきた妹なのだ。
明は泣いて止めたし、我の中にも、愛情の残滓があるのは自覚していた。
だが、現実は残酷だ。
当時の我では、妹を守れない事は自明であった。妹の力では自衛に足らぬ事も。長曾我部に物理的に助けを求める手立てすら、我ら兄妹は持ち得なかった。
三千世界から後ろ指を指されてでも守らずば死んでしまうモノと、捨てたくないと無様にしがみつき、引き剥がした手足から血を流して捨て去っても、どうにか生きていけるモノ。
我には『ソレ』がどちらか判っていたし、そして、その判断が誤りであったとは、今でも思っておらぬ。」
そこまで語って、元就は疲れたように重い溜め息を吐いた。甘えるというよりは弱るように、ぐったりと、秀吉の胸に側頭を預ける。
「我が欲しかったのは、四国でも長曾我部でもない。妹の命。
長曾我部については、むしろ、捨てたと申した方が正しい。己は一度捨てられているのだという事実を、海賊本人はまるで理解しておらぬようだがな。」
「だが・・・だが今は、違うだろう?
中国と四国の争いは止んだ。国主同士、同じ同盟の傘の下に居る。上辺の腹の探り合いに終わらせず、同じ物を目指そうと・・・。
だからこそ、俺は応える事を選んだのだ。友の命を預ける事も、信の証の内と。
だというのに、何故未だにお前は・・・こんな所で。弱る姿を見せる相手なら、他に居るだろう?!」
「なに、を・・・怒っている、秀吉・・・・・。
安堵せい。半兵衛の、病は、我が・・・。」
夢うつつの口調でそこまで言うと、元就は最初と同じように、深い眠りに入ってしまった。
秀吉の、腕の中で。弱みを知った後で改めて見つめれば、ひとしお嫋やかで、庇護欲を注ぎ込みたくなる体を・・・秀吉の身に添わせて。
「・・・・・・。」
そう。秀吉は元就を、守ってやりたいと思っていた。思いたくなかったが・・・それでもやっぱり思ってしまう。何をそんなに疲れている、こっちに来て休めと。
弱味など、元親に見せれば良い。自分には見せて欲しくない。否が応でも、この情を自覚してしまうから。嫉妬を飲み下すのも、結構大変なのだ。飲んだ事などないだろう? あの鬼は、昔から謀神一筋だという。指の一本でも元就が動かしたと聞けば、正室との約定など平気で放り出して尻を追いかけに行くと。
恐らく元就は、元親から愛されていないのでは、という一点に関しては、案じた事がないのではなかろうか。
「まったく、本当に・・・困らせてくれる。」
起きてしまうだろうか、否、いっそ起きてくれと念じながら、男にしては華奢な肩を引き寄せ、柳の細腰を抱き締める。
元就愛用の輪刀は、なまじな直刀などより余程重い。一度持たせてもらった事があるが、慶次の使う大太刀より更に重かった。その輪刀をいつも軽々と振り回す両腕に触れれば、袖越しでもやっぱり細腕で。あのような膂力が何処に、と密かに驚かされる。
紅い唇に、目を惹かれる。
「・・・・・。」
半兵衛が、いつの頃からか紫色の紅を使うようになったのは、今にして思えば唇の血色の悪さを隠す意味も含まれていたのだろうが。
紅を引かなくても赤い唇、というのを、秀吉は元就のソレで初めて見た。
籠手越しに、親指の腹で触れてみる。傷付けないように、そっと、優しく。穏やかな眠りを示す呼気は、鋼の籠手に温もりを吹き込んだ。
秀吉の眉間には、自ずから皺が寄っていた。過ちを犯す気は元より無い。欲を我慢する事も出来る。ただ・・・手放せない。
この温もりを・・・温かさを伝えてくる、この体を。
彼に穏やかな眠りを与えているのが、自分だと思っていたい。
元親ではなく。
「・・・毛利。」
微かな声で名を呼んだ、『男』の声に応えるように。
紫茶色の髪が一筋、彼の手の中に流れ込んだ。
そして、今。あの時と同じ『図書室』で。
最近替えたばかりの畳の優しい匂いが、共寝する元就と秀吉を包み込んでいる。
「っ、・・・ぁ、っぁあんっ、・・・ふ、ぁ、っっ、」
「もとなり・・・っ、」
秀吉の指先が、扇情的に身をよじる元就の肌を、尚も執拗に弄ぶ。白皙の美貌は艶めいた汗に縁取られ、色に霞む金茶の瞳は、既に快楽に溺れている。
あられもない嬌声で、否が応でも男の欲望を煽り立てる唇を甘く吸い上げると、秀吉の舌はそのまま咽を舐め、鎖骨を辿り、赤く色づいた胸の粒に至る。
吐息ひとつにも震え、感じてしまう素肌の上で、彼の肉厚の舌が美しい粒を舐めねぶる。いやらしく絡みつく舌触りに、元就の躰は愉悦の高みで打ち震えた。もうひと粒は右の手で、慈しむように揉み込まれている。
柳の腰つきを左の剛腕に閉じ込めて、秀吉の手淫はやりたい放題だ。
「ひ、でよし・・・ぁっ、・・だめぇ・・・も、出る・・っ、」
「イイぞ、元就・・・。
俺の手の中に、出せばいい。」
まだ繋がってもいない内から堪え性のない恋人に、その切なげに歪められた切れ長の瞳に。その色気に、秀吉は咽を鳴らして甘やかした。
元就の分身を、大きな掌で包み込んで揉み、扱き上げる。
「そら、」
「ぁ、・・あぁっ・・・ぅん、・・ぁんっ、―――っ、」
男なら誰でも、耳にするだけで勃ってしまいそうな。
淡やかで色気に満ちた声で達した元就の、その下半身に秀吉は躊躇いなく舌を当てた。
わざと派手に飛び散らかせた元就の白濁、それを一滴残らず丁寧に舐め取っていく。
両の膝裏に手を当てて、折り曲げさせ・・・はしたなく広げさせて、内股に散った白からじんわりと。水攻めで外堀から埋めていくように、緩急を付けて舌を使っていく。指先を尻に這わせ、腰を撫でて、叢をかき分ける。
その全てに過敏に反応しながら、元就は熱く吐息を荒げるばかりで、抵抗が出来ない。
淫蕩な紅に染まった上体を、畳の上に押し付けるようにして預け、手の甲で口許を押さえて、快楽を余す事なく受け止めている。
「っあ、っぁ・・よ、せ・・・、」
秀吉の口が自身を含んだのを察して、一際高い声が出る。
「ソレ、っ、だめだって・・・すぐイクから、ヤ・・・っ、知ってる、っクセに、」
『男』の呼気が、笑んだ気がした。それでも行為は止まず、彼の口中で弄り回され続ける。舌で突かれたり、巻きつかれたり。硬度など言うまでもない。熱い塊と化した己が分身など、扱い方は元就自身ではなく、誰より秀吉が最も心得ている事であった。
後孔を撫でられた筈なのに、前の分身が昂ぶっている。ソコを更に吸われて、元就は簡単に2度目の絶頂を迎えてしまった。
ゴクンと鳴った秀吉の咽の音まで、元就には聞こえなかったけれど。ナニをドウされたかは、想像がつく・・・初めてではないし。
「っの、痴れ者、が・・・。」
「可愛いカオで尖らないでくれ。もっとイジメたくなる。」
笑みを含んだ声音で、秀吉が元就の瞳、その左右の瞼に口づけを落とす。軽く、優しい。慈しみを凝縮したような、自然な仕草。2人の間だけで通じる、挨拶のようなものだ。
信愛と共に受けながら、元就は揶揄う形に口許を綻ばせる。
「我はそなたに、イジメられているのか?」
「そうだな・・・では『大人の悪戯を施して、俺の為だけの涙を引き出したくなる』?」
「言葉選びがエロ過ぎる。却下。」
睦言を交わしながら、秀吉は元就の華奢な体を胡坐の膝に抱き上げる。
鍛え抜かれた腹筋の山を、指先でなぞりながら。元就は自分から顔を上げて秀吉と、啄むようなバードキスを重ね合わせた。
黒々とした森の中央に屹立する、険山のような。
彷徨っていた元就の繊手は、そんな秀吉の分身に自然と添わされている。
「ココ・・・すごい事になっておるぞ?」
「お前の可愛いカオを、少々見過ぎたようだ。」
甘く囁くと、秀吉は軽く味わうように、元就の白い首筋に舌を這わせる。
その右手は既に腰を撫で回していた。
「どうする?
このまま突っ込むと、お前のナカが痛い目を見る気もするが。少し舐めてくれたら、小さくなるかも知れんぞ?」
「っ、ならない、のは・・・実証、済みぞ・・・。
良い、から・・、っ、早く、」
寄越せ、と。
紅に染まった目許を涙目にして、上目遣いに高飛車に。淫らに高潔に、そうねだる最愛の伴侶の姿に、攻め手の余裕など消し飛んでしまう。
夢中になって唇を吸うと、秀吉は騎乗位のまま、元就の躰を奪い尽くした。
「・・・雨・・・降っていたのだな。」
この部屋で重ねる情事は、いつも激しくなる。秀吉が元就の衣に指先を掛けた時分には、確かに降っていなかったのに。いつの間にやら、滝と見紛うような大雨が格子窓の向こうで降り続いていた。
さんざ啼かされて、未だ甘さの残る声音で元就が呟く。夜の雨は、音だけが鮮明だ。
秀吉の巨躯では、畳一枚では広さが足りない。大事にしている証のようにいつも畳を元就に譲る秀吉は、今も。綺麗な柄の打ち掛けに包まっている元就を、いつでも抱き締められる木張りの床に大の字で寝そべっている。鍛え抜かれた鋼の肉体は、鎧もなく裸だとしても威を纏い、武を感じさせる。見る者の方がむしろ憧憬を抱きそうな堂々としたものだ。
だが恋人としての秀吉は荒ぶる所も無く、心配性で情の細やかな、誠実な男だった。
今の打ち掛けも、彼が元就に贈ったものだ。
「雨は・・・好かぬ。
俺とお前の間に、冷たく入り込んで隔ててしまう気がする。」
「また、そのような。」
柔らかく苦笑する元就の細身を、抱き寄せる。最近になって少しばかり、痩せたような気がするのだ。たったそれだけの事で、秀吉の心には不安の蔭がよぎる。
かつてこの部屋で交わした言の葉が、脳裏を掠める。実際に元就の体は、季節の変わり目に弱かった。気温の変化で、割と簡単に咳を出す。雨との相性が悪い事など、とっくに盟友たちも気付いていた。
じきに、梅雨入りである。
「元就。寒くはないか?」
「平気ぞ、秀吉。そなたの傍らは温かい故。」
微かな声で言い交わして、唇を求め合う。
優しいキスの合間に、秀吉の大きな掌は元就の首筋を撫でていた。肌触り良く滑らかな、華奢で細い首筋だ。彼の剛腕なら、一掴みで縊り殺せるだろう。
その首筋が、今は何よりも愛おしい。
最愛の伴侶に気息を送り込む、欠くべからざる器官なのだから。
「そう案ずるな、秀吉。
半兵衛の事で、呼吸器系の病に敏感になっているのだろうが・・・我の方が半兵衛より、余程頑丈ぞ? 雨に打たれたとて簡単に喘息を再発させたりなどせぬわ。
した所で、すぐに死ぬような病でなし。」
「だが、治らぬのだろう?
友の病がほぼ治まったからこそ、余計に俺は、お前が治まらぬ病に侵されるのが怖ろしい。我が侭だと思うか?」
「思う。我の覇王は我が侭ぞ。」
自分の命を揶揄のネタにする元就も、大概人が悪い。憮然とする秀吉は、少々荒っぽく紫茶色の髪に手櫛を通し、同じその手で優しく目許を撫でた。
術で補完しているだけで、本来は殆ど光を映さない、重度の弱視。その澄んだ瞳を。
その瞳は今、穏やかな光を宿して笑っている。策謀を巡らせる時の、怜悧な光ではなく。
「秀吉。
我はずっと、傍に居る。共に居る。1人にせぬと言ってくれたそなたの傍に、我も居る。死して後も、魂魄となって守れるように手配して逝く。
術者の特権というヤツよ。
だから秀吉。恐れるな。肉体が有ろうが無かろうが、ずっと共に居られるのだから。」
「・・・心に・・・留めてはおこう。が・・・あまり、怖い事を言わないでくれ、元就。
こうしていつでも抱き締められる、手の届く場所に居て欲しい。」
「同棲願いのようだな。」
「無理なのも、判っているがな・・・我ながら少し、物判りが良過ぎると思う程に。互いに国を治める身。同じ城を日常の住まいになど、無理なのは判っている。
元就・・・いつもお前が俺に会いに来てくれる。安芸から大阪に。それは嬉しいが、たまには俺の方からも会いに行きたい。お前の体力が持たないだろう?」
「駄目だ。」
「元就。」
「我は・・・我の方こそ、怖れているのだ、秀吉。そなたを失いたくない一心で・・・。
我は己が家臣を、信じてはおらぬ。評価はしている。が、ソレは信ではない。父と兄一家を謀殺された日から、我の心根はあ奴らに対する信を失った。
有り体に申せばな、愚昧なる家臣どもが、そなたを傷つけんとするのではないかと疑っておるのよ。一度は派手な惨劇を見せつけられた身、そう易々と信じ切れるものではない。
故に・・・仕事以外で、安芸に来てはならぬ、秀吉。」
「それでお前の心を安んじられるなら・・・俺は良いのだが。
安芸に行きたいのではない。お前の体が心配なのだ。ソレに尽きる。」
「では甘えさせてくれるか、秀吉。
体調を崩した時、病を得た時は、この城で療養させて欲しい。この大阪城ならば、そなたの居城で常に気配が感じられるし、どこぞに参っても、必ずココに帰って参るであろ?
もし喘息が再発した時は、あるいは、風邪ひとつ引き込んだ時でも。
この城に参じて良いか、秀吉。」
「ふたつ返事で大歓迎だ。
だが、まぁ、移動によって、お前の病が悪化するような事にならなければ良いが・・・。」
「大事に至らぬよう、早めに移るとしよう。
フフフっ、本当に、そなたは心配性よな?」
「・・・・・。」
自覚があるだけに言い返せない。友相手といい、伴侶相手の時といい。たとえ部下が相手の時でさえ。豊臣秀吉という男の中では、武力を重んじる理念と同時に、愛情の対象はとことん溺愛する情の深さが矛盾なく同居しているのだ。
ゆっくりと髪を撫でた秀吉の、その裸の胸に、元就が柔らかい口づけを施す。
瞳を伏せて耳を寄せたその場所は、心の臓の真上だった。
「この音、鼓動・・・心地良いな。
強くて、温かくて・・・気が落ち着く。」
「・・・俺はお前の温もりが好きだ、元就。
こうして触れているだけで、痛みも苦しみもほどかれる。荒ぶる本能が、鎮まっていくのが判る。」
「嬉しい事を。
では、今宵はこのまま、触れ合ったまま眠るとしようか。」
「お前が風邪でも引かねば、な。」
「大事ないと言うておろうに。ほんに、心配性な男。」
揶揄う声音とは裏腹に、ギュゥッと身を寄せて、額を擦り付けて甘える元就。
秀吉はその仕草が愛しくて、尚更に手放せなくなる。
もし今、濁流に呑まれ押し流されたとしても。秀吉には、元就の体だけは守り切ってみせる自信があった。
~終幕~
戦国BASARA 7家合議ver. ~雨と月夜語り~
はい、あとがき。
個人的には、秀吉さんは隠れヤンデレだと思ってます。
慶次さんに恨まれる要因となった『ねねさん殺し』も、元を正せば早い話、
『敵に殺されるくらいなら自分で・・・!』って事だった訳で。
慶次さんは
『そんなん、敵に殺されるかどうかなんて判んねぇじゃんっ! 惚れた女は守り抜くのが男だろ?!』
とか言いそうですが。
そこら辺は、まぁ、スタンスの問題ですよ、愛し方の。
どっちが良い悪い、正か邪か、という問題ではないと思ってます。
そんな隠れヤンデレの秀吉さんは、
元就さんに対しても、すンごい心配性なイメージです。
元就さんの弱視、喘息という因子を、凄く心配してます。
とってもとっても心配してます。
弱視は術で補完しているから大丈夫だし、喘息も、治ってはいるのですが。
やっぱり、ね。
好きすぐる、故に心配、という。
ちなみに関係ないけど、漆黒猫も喘息持ちだったり。
ウチの病人三人衆は、
天才仮面 << 包帯軍師 << 詭計智将 の順に体が弱いです。
3人の中では、元就さんが一番体、強いんだけど。
他のメンバーからすると、大して変わらんわっ! と叫び出したくなる弱さ、という。
他の主要メンバー中、とりわけ身体頑強な部類の秀吉さんからすると、
もう心配で心配で心配で心配で。
心配でたまりません。
でも思うに、体、弱い子が好みだと思う。覇王は。
庇護欲そそられたいタイプと見た。
それでは、また次作で。