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手紙が届いていた

手紙が届いていた。海外の切手は可愛らしいものが多い。
鼻歌混じりに手紙の封を開けて、小夜子はコーヒーカップに口をつけた。

…わたしは昨日まで、コンクリートで出来た大きな水槽のなかで大勢の仲間たちと静かに暮らしていました。
その前は、空から降る無数の雨粒のうちの一つだったこともあります。いくつも並んだ色とりどりの傘へ向かって、滑空していく雨粒です。とりわけ美しい花模様の傘へ着地したわたしは仲間たちから羨望のまなざしをうけました。
その前は、校庭の土を湿らすスプリンクラーの散水であったこともあります。秋の良く晴れた日でしたから、それぞれが一生懸命に光を反射してキラキラと舞っておりました。綺麗な虹ができると子どもたちが歓声をあげました。
その前は、市民プールの飛沫であったこともあります。夜、忍び込んだ少女が飛び込み台からゆっくりと舞い降りてくるのをじっと眺めていたことがあります。月の大きな夜のことでした。
その前は、干されたばかりの洗濯物とともに春の風に踊っていたこともあります。やがて湯気になって空へ昇っていくとき、ワイシャツの袖がそっと手を振ってくれたような気がしました。
その前は、ある女性の涙であったこともあります。遠く離れてしまう恋人を想う、悲しみの涙であったこともあります。

「あら、」小夜子は驚いた表情でカップを机に戻した。カップの中で小さく波を立てているコーヒーに向かって「久しぶりね」と優しく語りかけ、そして眩しいものを見るような表情で開封した手紙を読み始めた。



++超能力者++
霧島小夜子(きりしま・さよこ)
ESP:口に含むことで、水の記憶を読み取る

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2分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

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更新日
登録日
2014-10-02

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