SS33 怠けアリとキリギリス

おやつを齧りながらのんびり散歩していたアリは、キリギリスに声を掛けられた。

「アリさん、アリさん。そんなに働いてばかりいないで、少しはのんびり過ごしたら? 人生は一度切りしかないんだよ」
「ああ、キリギリスさんですか」
 見上げれば、秋の訪れを告げるよう少々赤味の混じった葉の上で、寝そべりながらのんびり煙草を燻(くゆ)らせる彼の姿が目に留まる。
「あなたはいつも優雅でいいですねぇ。実に羨ましいことです。
 でもね、僕らも息抜きはしてるんです。何を隠そう、ただ今僕はサボり中。おっと、このことは他の仲間には内緒ですよ」アリは手にしたオヤツをちらりと見せた。
「へぇ、意外だな。皆必死に働いてるのかと思ってた」
「知ってるでしょ? 冬は狭くて細長い地下でじっとしてなきゃならないんです。暖かい内に少しは羽を伸ばしておかないとね。
 ところでキリギリスさんのお住まいはどちらです? 広くて豪勢なお宅だって聞いた覚えがあるんです」
「へえ、そんな噂があるの? この先を真っ直ぐ行った叢を塒にしてるけど、特別立派なもんじゃないよ。でも興味があるなら来てみるかい?」
「そうですねぇ、話しのネタにちょっとお邪魔させてもらおうかなぁ」と心が動いたその矢先、視界の端で動いた物体にアリは背筋を凍らせた。
「どうかしたの?」
「ボスです。僕の上司がこっちに来ます。せっかくのお誘いなのに申し訳ないですけど、僕は消えます」
「宮仕えは大変だね。気を付けて」
 アリは大事なオヤツを抱えたまま、一目散に駆け出した。

 ***

「おい、お前。ちゃんと仕事をしてるんだろうな?」
 結局、アリは上司に追い付かれて捕まった。いや、捕まったわけじゃない。そう見せ掛けただけだった。
「もちろんです。今さっき有力な餌候補の情報をキャッチしたところです」
「詳しく聞かせてみろ」
 アリは叢を指さしながら、キリギリスとの会話を再現してみせた。
 手にしているのもオヤツではない、れっきとした収穫物で巣に持ち帰るものだった。
「なるほど、話しを合わせて塒を聞き出したというわけか」
「ええ。彼はじきに弱ります。もう少し寒くなったら、仲間を集めて向かいましょう」

SS33 怠けアリとキリギリス

SS33 怠けアリとキリギリス

おやつを齧りながらのんびり散歩していたアリは、キリギリスに声を掛けられた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-10-01

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