螺旋迷宮 標的はひとり

舞台は昭和初期。見習い探偵の少年と元凄腕探偵の少女が時に協力し、時に反発しながら事件に挑みます。

  【 序章 】

 それは、夕暮れ時を少しだけ過ぎた時刻。夕闇が迫る下町の裏路地を、小さな影が歩いていた。影の正体は年若い少女。それも街灯一つない、薄暗い夜道を歩くには相応しくない、まだ一五、六才の女学生だ。少女はまるで自分の影に怯える様に、明かりを避け、びくびくと歩いている。その訳を、少女の姿を目にした者ならばすぐに理解するだろう。
 顔色は青を通り越して真っ白。少女らしく短く切り揃えられた髪は乱れ、全身泥にまみれていた。手足はおろか頬や額にも蚯蚓腫れの様な擦り傷ができて、赤い血が滲んでいる。いたいけな姿は、その身に何が起こったかを如実に表していた。
 「気の毒に」心ある者ならばそう言って同情するだろうか。
 「命だけでも助かって良かった」そう言って慰めるだろうか。
だが今、此処に居るのは少女1人。優しい声を掛けてもらう事もなく、暖かい手を差し伸べてもらう事も無い。
少女はただ怯えながら、歩き続けるしかなかった。それは彼女にとって、或いは救いだったんかもしれない。今、彼女が求めているのは見知らぬ他人の同情でも慰めでもない。彼女が求めるのは自分を暖かく抱き締めてくれる筈の家族だけだったのだから。

 昭和一五年 まだ冬の明けきらぬ時期。その頃、東京の街は深い暗闇で覆われていた。
昨年の初冬から、突如として十代の少女ばかりを狙う猟奇事件が頻発していたのだ。標的となった少女達には、年齢、性別以外の共通点はみられない。それゆえ帝都に住む十代の少女達は、こぞって外出を控え、災厄がいつなんどき己の身に降りかかるか分からない、そんな不安と恐怖に怯えていた。
 最初の犠牲者が出てから数カ月。警察の必死の捜査を嘲うかの様に犠牲者は増え続け、既に五人の少女がその毒牙に掛かっていた。犯人逮捕はおろか、僅かな手がかりさえ掴めない。警察にとっても、市民にとっても、手詰まりの日々が無情に過ぎる。
 丁度そんな頃だった。一人の少女が、とある探偵事務所の扉を叩いたのは。

  【 第一章 依頼人 】

「兄さん……」
 薄暗い寝室に弱々しい声が響く。
「……どうして」 
 少年は夢を見ていた。酷く懐かしく悲しい儚い夢を。
「……あ……」
 やがて、自分だけがずっと抱えている、凍えるような寒さの中で少年は目を覚ました。まだあどけなさの残る顔が青ざめ、少しだけ日焼けした肌に冷や汗が浮いている。見開いた瞳は何を映しているのか、呆然と前だけを見つめていた。
「またか」
 呟きも又、いつもの事。
「馬鹿だな、俺は」
 胸が苦しい、目頭が熱い、鼻の奥がツンと痛い。
「ただの夢なのに」
 無意識の中で触れた先、頬が冷たく濡れていた。
「こんな……」
 これは悲しみの涙か、苦しみの汗か。もしも、こんなところを兄が見たら、弱虫だと笑うだろうか。それとも慰めてくれるだろうか。
「馬鹿だな。なのを今更」
「聖さん。起きていらっしゃいますか」
 暫し暗い想いに囚われていた聖は、寝室の扉をノックする乾いた音と、途惑いながらも自分を呼ぶ声を聞いてはっと我に返った。
「美桜か」
 ああ、そうだ。今、此処にいるのは自分一人ではない。こんな情けない姿を、心配性の声の主に見せるわけにはいかない。笠原聖(かさはらひじり)は意識して深く息を吸い、そして吐き出す。それを何度も繰り返し無理矢理に気持ちを落ち着けると、平静を装いながら返事をした。
「大丈夫、起きている。何だい美桜」
 思った以上に冷静な声が出せたことに聖は安堵する。
「おはようございます」
「おはよう」
 開かれた扉から見慣れた藍の着物が見えた。遠慮がちに小さく声を掛けて、そっと寝室へ入ってきたのは、聖の秘書である井原美桜(いはらみお)だ。
「すみません、起こしてしまって。そろそろお約束の方がいらっしゃいますので」
「もうそんな時間か」
「はい」
 そういえば。今日は珍しく朝から仕事が入っているのだ。壁の時計に目をやれば、依頼人が来るまでの猶予は後三十分もない。
「大丈夫ですか?。ご気分が優れないのであれば、予約を変更する事も出来ますが?」
「いや大丈夫だ」
 化粧けのない、清楚で色白な優しい美桜の顔が心配そうに歪んでいるのを見て、咄嗟に瞳に浮かんだ涙を拭う。完全には吹っ切れはしない。夢の残像はまだ聖を傷つける。だが、今は平気な振りをしよう。
「心配させて悪かった」
 役職を越えて自分の身を案じてくれる優しい美桜。聖は彼女を不安にさせた事を心から詫びた。
「珈琲を頼む。いつもの砂糖とミルクをたっぷり入れたやつを」
 とびきりの笑みを浮かべ、精神安定剤代わりに毎朝欠かさず飲むお気に入りの珈琲を頼む。
「はい」
 そんないつも通りの言葉に安心したのか、美桜もやっと普段と同じ笑顔を見せた。
「さむっ」
 雪が降っていないのが奇跡的に思える程に、寒い冬の午後。だが、日当たりの良すぎる、しかも美桜の心遣いの行き届いた事務所は聖の寝室とは別世界のように暖かいはずだ。だが今の聖にそんな温かさを感じる事は出来ない。
『寒いのは心が凍えているからじゃないの?』『暖かい想いに囲まれてるくせに贅沢ね。お坊ちゃま』そんな戯言を言っていたのはいったい誰だっただろう。
「暖かい想いか。感じたいとは思ってるんだけどな」
 自分ではどうしようもないんだ。申し訳なさを言い訳で隠して、聖は応接室に足をすすめた。

「こちらへどうぞ」
 部屋では丁度、美桜が笑顔で依頼人を迎えている所だった。
 今日の依頼人は十代の少女。年には似合わない、暖かそうで豪奢なコートに身を包んでいる。側についている青年が、着古されたジャケット一枚だけを着ているのとは正に対照的。不似合いの二人を御座なりに見やりながら、聖は殊更ゆっくりと自分の定位置である探偵事務所所長の席へと着いた。
《笠原探偵事務所》
 ここは半年前から聖の仕事場になった場所。
 元々は、聖の兄である笠原義文(かさはらよしふみ)の事務所だったのだが、義文は一年前、何の前触れもなくこの場から失踪してしまったのだ。その後、兄の失踪の手掛かりを得る為に、そして兄の意思を継ぐ為に、聖は兄と同じ探偵になる道を選んだ。高い競争率を勝ち抜き入ったばかりの高校を周囲の反対を押し切って中退してまで。

    ★

「お待たせしました」
 短く切りそろえた茶色い髪が、未だに引かない冷や汗で額に張り付いている。煩わしさに少し眉を顰めながら、自分の黒い瞳が濡れていない事だけを確認する。
「……」
 そんな聖を見つめるのは事務所の所員二人。一人は勿論、井原美桜。もう一人は紫条忠(しじょうただし)
 二人は元々、義文と共に事務所を切り盛りしていた義文の友人だが、義文の失踪後も変わらず聖に力を貸してくれる、彼にとってはかけがえの無い、頼りになる仲間達。そんな仲間の視線と依頼人の視線。そのどちらもを受け止めて、聖は目の前のソファに座る依頼人達に飛び切りの笑顔をみせた。
「ようこそ、笠原探偵事務所へ」
 瞳の隅に紫条が満足気に頷く姿が映る。
 この事務所へとやって来るのは皆、まだまだ知名度の低い探偵に縋りつかなければならない程の悩みを抱えた人間達。そんな人達に対して、少しでも不安と緊張を解す為に必ず初めは笑いかける。それが世間知らずだった聖が、紫条に叩き込まれた最初の処世術だった。聖はその教えを忠実に守っている。
「私が所長代理の笠原聖です」
 紫条の後押しを受け聖が挨拶をする。その姿に依頼人達は驚いた様に顔を見合わせた。
「何か疑問がありますか?」
 呆気にとられたその表情は、事務所の面々にとってはもう既に見慣れた光景。聖も側で控えている紫条も美桜もただ苦笑するしかない。
「すみません。あの、貴方が本当に?」
 二人のうち、人の良さそうな青年が、しどろもどろに言葉を捜す。
「予想以上に若いから不安ですか?」
 それに助け舟を出す様に、聖は笑みを浮かべたまま言葉を掛けた。
「……ええ」
 青年と少女は顔を見合わせたまま同時に頷いた。
「つい、探偵小説に出てくる様な方を想像してしまいまして…」
「ははっ」
 探偵が貴方のような子供とは。決まり悪げに、しかし思いの外素直にそう言った青年。その瞬間、耐え切れず声を上げて笑ったのは紫条だ。
「……気にしないで下さい」
「でも、あの」
 紫条の隠そうともしない笑いに、青年がますます焦っているのが分かる。
「良いんです」
 少しだけ聖の口調が低められた。依頼人の言葉にではなく、紫条の態度に面白くないものを感じる。だが、これは聖が所長代理の地位についてから、何度も何度も繰り返された光景だ。今更、気にしても仕方が無い。
「本当に大丈夫です。慣れていますから」
「すみません」
「ごめんなさい」
 いたたまれなくなったのか。青年と隣に座る少女が、頭を下げてほぼ同時に詫びの言葉を口にした。
「本当に」
 綺麗な顔立ちの少女だった。
 そしてきっと、自分でも其れを知っているのだろう。所作の端々に見受けられる自信に溢れた態度がそれを物語っていた。そんな少女に心から謝罪され、機嫌を損ねる男はいない。勿論、聖も例外ではない。
「気にしないで下さい」
言葉と共に浮かべた笑みは、営業用以上の意味を持って少女へと贈られた。
「そんな事よりも、御用件をうかがいたいですね。天津凛(あまつりん)さん」
「まあっ」
 聖の言葉に、凛の大きな瞳が更に大きくまん丸に開かれる。
「何故、私の名前を?」
 驚きに身を起こした拍子に、凛の綺麗に切り揃えられたおかっぱの髪が肩口で揺れた。
「他人に素性を知れれたくないと言うのであれば、身嗜みには気をつけたほうがいい」
「身嗜み?」
「そう、貴女は迂闊すぎますよ。探偵相手なら尚の事です」
「どういう事ですか?」
 不躾な言葉の数々に気を悪くしたのか、凛は眉を寄せ声を潜めた。だが聖はそんな態度は気にしないとばかりに淀みなく続ける。
「まずその制服。それは斉城学園のものですよね。良家のご息女のみが入学出来るという」
 海軍の軍服に影響を受けたといわれる、大きな襟の付いた上着と白いスカーフ。それに襞つきのスカートという組み合わせは、知らぬ者のほうが少ない、有名高等女学校の制服だ。
「それに貴女の指に光る指輪」
「指輪?」
「見覚えがあります」
「……」
「私はそれを、天津家の血筋に代々伝わる物だと認識しています。違いますか?」
「……」
「そうだとしたら、貴女の正体は一つです」
 その指輪を持つ者は、聖の知る限り日本で只一人。
 男爵天津家の一人娘・天津凛だけである。
「……その通りです。隠すつもりはありませんでしたが」
 すみません。そう謝る凛に、聖は気にしていないと云う様に首を振る。
「私の名前は天津凛。そしてこちらは如月克哉(きさらぎかつや)。天津家の書生です」
 凛の言葉を受けて、彼女に付き添っていた青年が無言で会釈をした。言われてみれば男の様子は大人しく人当たりの良い、まさに天津家の理想の書生といった風情だ。
「探偵さんに、ご依頼したい事があります」
「お伺いしましょう」
「今、この街を脅かしている暴徒を、探偵さんの手で捕まえていただきたいんです。お願いできますか」
 上目遣いで縋るように見つめる瞳を見ただけで、普通の男なら一も二も無く凛の願いを聞くだろう。
 しかし、聖は違う。
「ほう」
 その依頼内容は彼にとって、俄かには頷けないものだった。
「暴徒。それは連続少女暴行魔のことととってよろしいのでしょうか?」
「今のこの街に、彼以上の暴徒がいるとでも?」
 凛は聡明な瞳で聖を真っ直ぐ見つめ言い切った。
「確かに。しかし何故貴女が依頼を?。それは警察に任せておけばいい事ではないですか」
「お嬢様は…」
「確かにっ」
 如月が口を挿もうとするのを、聖が言葉を被せて止める。
「連続少女暴行魔に対して、貴女は身の危険を感じていらっしゃるのかもしれない。だが、犯人探しなどしなくとも、貴女なら身を守る手段などいくらでも考えられる筈だ。例えば、今のように常に彼に傍に居てもらうとか。探偵を使い、暴徒を見つけるなど、いくら金が余っているとはいえ、天津家が身銭を切ってやる事では無いのではありませんか?。お嬢様の暇潰しだとしても、あまり行儀のよろしい趣味とは思えませんね」
 少し意地の悪い表現を選び語りながら、聖は視線を横に流した。視線の先に居るのは、助手である紫条忠。長身痩躯の端正な顔立ちの男。年齢は二十代後半だが、軽く癖のかかった柔らかい髪と、意外に人なつっこい笑顔が、彼を年よりも若々しく見せていた。紫条は助手とはいえ、聖よりも年長で探偵としての経験も長く、その洞察力、行動力は義文でさえ一目置いていた。今は影になり日向になり、常に聖を助けてくれている優秀な男だ。
 もし依頼人に対する聖の態度が、度を越して失礼に当たる時は紫条が止めてくれる。
「……」
 紫条は聖の視線に気付くと、了解を示す様に少しだけ口元を緩め頷いた。それを見て、聖は再び口を開く。紫条に止められないのであれば、遠慮は要らない。
「それとも、何か理由がある?」
 真っ直ぐに凛と視線を合わせ、質問を続けた。
「理由があるとすれば、それは何ですか?」
「答えなければ、依頼は受けてもらえませんか?」
「ええ。その通りです」
 聖は畳み込む様に言葉を投げ掛ける。
「私は暇潰しの玩具になるのも、何も知らずに道具になるのも、御免ですからね」
「そうですか」
「ええ」
「……父の」
 暫しの沈黙。
「父の命令なんです」
 聖の言葉に何を思ったのか、凛がポツリと言葉を洩らした。
「御父上。天津男爵ですか」
「はい」
「それは…」
「ですから勿論、お金なら父が…」
 聖の無言をどう解釈したのか。理由ではなく報酬の話をする凛を聖が遮る。
「いや、ならば尚の事」
 実を言えば、美しく聡明で、尚且つ財閥の御令嬢である凛を目の前にして、聖は半年前に初めての依頼人を迎えた時以上に緊張していた。
「俺は依頼内容は依頼人から直接聞く事にしている。そして俺の考える依頼人は金を払う人間だ」
だが聖の男としての自尊心も、探偵としての自尊心も動揺を表に出すのを良しとはしない。それを隠す為に、ついはったりの一つもかましたくなる。
「あんたは依頼人じゃない。俺を雇いたいのなら、此処に父親を連れてくるんだなっ」
「!!」
 聖の怒声は必要以上にきつめに部屋に響いた。凛が驚いた様に目を見開いている。
「まあっ」
 しかし怯えて泣き出すか、それとも屈辱に怒りだすかと思った彼女は、大方の予想に反して次の瞬間、大声で笑い出していた。
「なんて素敵」
 その笑い声は本当に楽しそうで、聖も側で見守っていた紫条も言葉を挟む事も出来ない。
「分かりました。依頼料は必ず私がお支払します。理由もお話します。ですから私の依頼を受けて下さい」
「お嬢様っ」
 意外な言葉に驚き制止しようとした如月を、凛は完全に無視した。
「それでも駄目ですか?」
「それは」
 笑いと共に何かを吹っ切ったような凛の態度。それに今度は聖が押されていく。
「先に1つ質問させて下さい」
「何ですか?」
「貴女は、見ず知らずの少女達の為に、自分の金を使うんですか?」
「いけませんか?」
「……もう一つ。さっきも言いましたが、探偵などではなくて警察に任せようとは思いませんか?」
「思いません。警察には任せられません」
「何故?」
「それは」
「お嬢様、それ以上は」
 咄嗟に如月が発した鋭い制止。それは書生がお嬢様に掛ける言葉としては、不似合いな程の大声だった。
「いいのよ」
「ですが」
「いいの。別に隠しておく事でもないわ」
 二人の間だけで交わされる会話。それに口を挿む事無く聖はただ待つ。
「分かりました。お嬢様に従います」
「ありがとう。如月」
 結論は付いた。凛は佇まいを整え、聖と向き合った。
「今、街を脅かしている連続少女暴行魔……」
 話し始めた凛の表情が、少しだけ苦いものに変わる。
「その犯人は多分……半年前に私を襲った男と同一人物です」
 衝撃の告白。だがその声に、緊張はあっても怯えはない。
「警察は私の身に起こった出来事を知りません。父は……いいえ私は自分の手で犯人を捕まえたいと考えています」
 きっぱりと言い切った凛に、今度は聖と紫条の瞳が驚きに見開かれた。
「私には探偵さんの他に、頼れる人がいないんです」
「……嘘だろ」
 誰にも聴かれない様に小さく呟く。聖には咄嗟に凛の話をどう扱ったらいいのかわからなかった。
 否、本当はわかっている。この場で聖のやるべき事は一つ。凛と如月を連れて、顔見知りのいる警察署に行けば良いのだ。天津の名だけでなく、笠原の名もあれば、警察でもそう邪険にされはしないだろう。
「協力していただけませんか?」
 しかし、にこりと微笑む凛の表情に聖と紫条は引き込まれた。
「あんた」
 二人の不躾な視線に晒されても凛の笑みは消えない。姿勢を正して、真っ直ぐに二人を見つめる。それはまさに名は体を表す凛とした態度だった。
「いや、貴女は」
 一年前までこの事務所を背負っていた義文の胸には正義の炎が燃えていた。極悪非道の犯罪者、法の目を掻い潜る悪党共。そいつら身を探し、罪を暴き出す。全てを白日の元に晒す。それが義文の考える彼の使命だった。
「そうだな。兄さん」
 そして今、この事務所を継いだ聖にも同じ正義の血が流れている。そうでなければ、それまで進んでいた平穏な人生を投げ打ってまで、今の生活を選んだりはしない。
「分かりました」
「引き受けて下さるんですかっ」
「はい」
 期待に身を乗り出す凛に、にっこりと聖は笑みを向ける。
「ご依頼、『笠原探偵事務所』が確かにお受けいたします」
「ありがとうございます」
 視線を合わせ二人、微笑みあう。探偵という職業は他人の隠された秘密を暴き立てるという点で非常に神経を使う必要がある。だからこそ聖は、探偵になってから自分が相手に好感を持たれているか、不信感を持たれているかが分かるようになった。
 どうやら聖は天津凛に好かれたらしい。そして聖も又、彼女の態度に好感をもった。それは聖にとって、この仕事を引き受ける充分すぎる理由になる。

「さーて、何処から探そう」
「そうだな、まずは情報収集か」
 凛と如月が探偵社を後にすると直ぐに、聖と紫条は捜査会議を開始した。何しろ二人はこれから警察が束になっても探し出せない犯人を、たった二人で探しださなければいけない。それは決して簡単な事ではないのだ。大体現実的に考えて、警察の捜査でも割り出せない刑事事件の犯人を、たった二人の探偵が見つけ出す事など不可能だ。所詮、人探しは人海戦術と人脈がモノを云う。そして、実を言えば、コレは今まで犬猫探し位しかした事の無かった聖が手掛ける初めての『刑事事件捜査』でもある。
「よし、やるかっ」
 しかし、聖には依頼を完遂する自信があった。この依頼は相手にとって不足は無い。沸き立つ闘志を胸に、聖は行動を開始した。

  「 第二章 捜査開始 」

「よーし、やるぞ」
 まず手始めに。やる事は決まっている。
 翌日から聖は、手に入るだけの古新聞をかき集め調べだした。どんなに小さな事でもと、アングラ系出版物にも目を通す。とにかく事件を扱った文章を、片っ端から読み尽くす勢いだった。事件の内容が内容だけに、その中には眉をひそめる程に猥雑な物も、どう考えても好奇や中傷から発せられたであろう噂話もまれている。それだけに、この事件における一般大衆の理解度も知れた。
「酷いな」
「そうか?]
「酷いだろう!。何なんだよっ、コレ」
「被害者は皆、裕福な家の娘達だ」
「だから?」
「平たく言ってしまえば、御貴族様達ばかりだからな」
「だから、それが何だってんだよ!」
 聖の剣幕に紫条は暫く黙って何かを考えていたが、やがて静かに話し出した。
「金や権力に対する欲求は、人間が自然と持つものだ。しかし求めたからといって全ての人が満たされる訳ではない。だよな」
「それは。まあ、そうだろうな」
「豪邸を構え、個人で車を持ち、旨い物を食う。そんなものは一部の権力者だけの特権。今の日本の資本主義とはそういうものだ」
「まあな」
「だからこそ、金や権力に縁の無い人間達は、裕福な人間の醜聞を好むんだ。それが下世話なものであればあるほど大衆は喜び、この手の読み物は売れる」
 紫条の言葉を聖は無言で聞いていた。
「勿論、大方の庶民は善良な世間の常識の範囲内で生きている。歳若い少女への同情もあるだろう。だが善悪とは無関係に、人は深層心理の中では嫉妬、羨望、憧憬、憎悪といった感情を常に感じでいるものなのさ」
「つまるところ」
 分からないでもないが、あまりにあからさまな言葉の数々に、聖の口から溜息が漏れる。
「コレは、その感情の表れだって言うのか」
「まあ、そう言う事だ」
口元に微かな笑みを浮かべる紫条を見て、聖の眉間に皺が寄った。仕方の無い事なのだと受け流す紫条の態度が気に入らないのだろう。しかし、聖も感情のままに反論を繰り返すほど世間知らずではない。
「被害者達には会えるだろうか」
「難しいだろうな」
 様々な感情を胸に押し込んで悲しげに呟く聖に、困惑気味に紫条が告げる。
「直接話が聞きたいんだ。こんなもの読むだけでなくて」
 聖は忌々しそうに雑誌を放り出した。
「気持ちは分かる。だが気持ちだけで動けるほど、探偵っていう職業は万能じゃない」
 音を立てて床にばら蒔かれた雑誌類。その一つを手にして机に戻すと紫条は顎に手を当てて考え込む。時折耳にかかる長髪を、煩わしげに弄びながら。
「あの子に頼む気は無いか?」
「あの子?」
関口糖子(せきぐちとうこ)だ」
「嫌だっ!」
 紫条から告げられた名前を聞いた途端に、聖の顔色が変わった。元々不機嫌そうだった口調が、更に荒々しいものとなる。
「冗談じゃない。何を今更」
「そう、冗談じゃない。本気だ」
 しかし、紫条はそんな聖の豹変ぶりにも一切、動じはしない。
「男であるお前が、今、被害者達に会ったところで良い結果を生みはしない。それくらいは分かるだろう?」
 おそらくは会わせてもらえない。よしんば会えたとしても、怯えられるのが関の山。
「それは。でも、何故ここでよりによって関口が出てくるっ」
「アレは女で、尚且つ被害者達よりも幼い。ただでさえ警戒心を抱かれ難い上、他人の懐に入り込むのが馬鹿みたいに巧い」
「あいつは外面が良いだけだ」
「そうだな。だが、被害者達から口に出したくも無いだろう過去の話を聞き出すのに、アレ以上の適任者を俺は知らない。お前もそうだろう」
「それは……」
『関口糖子』それは一年前、笠原克弘が失踪する直前まで克弘の片腕として探偵社で働いていた人間。あの当時の克弘が、紫条が、そして聖が一番の信頼を寄せていた存在。
「アレの実力は、お前もよく知っている筈だ」
「だか、関口は俺達を裏切って探偵を辞めた。今はたかが場末の娼婦だ。役に立つとは思えない」
「いいや、役には立つさ、間違いなく」
「どうして言い切れる」
「肩書きが探偵じゃなくなっても、アレの気質や能力が変わる訳じゃないからな。アレは根っからの探偵なんだよ」
「なっ!」
 腹が立った。あくまでも関口を認める発言を繰り返す紫条も。紫条にここまで信頼されている関口も。
「嫌だ」
「聖」
「今の所長は俺だ。捜査方針は俺が決める。関口に協力依頼なんて絶対にしないっ」
 そのせいか、紫条に返した声は必要以上に辛辣なものになった。
「それが、事件の早期解決の為でも嫌か?。依頼人の為でも妥協は出来ないのか?」
「……明日、被害者達には俺が会う。反論は認めない」
 そう言い切って、聖は紫条の返事を待たずに部屋を出た。声を聞かなくても、態度を見なくても、紫条が不満気でいる事は分かっていたが、振り返る事もしなかった。
「嫌なんだ。それだけは。本当に」

 意見の相違があっても、提案を無下にされても、決して感情を滲ませない。そんな有能な助手から、「翌日三時に被害者の一人と面談の約束を取り付けた」との連絡が入るのは、それから数時間後の事だった。


 その喫茶店があるのは、銀座の表道路から一本脇道に入った目立たない場所。古びた雑居ビルを四階までトントンと上がれば、意外な程真新しい扉が客を出迎える。薄暗い店内では、最新の真空管アンプがノイズ交じりに、店主の趣味でもあるクラシックの名曲を奏でていた。
 静かな店内の一番奥。一際静かで一際暗い、其処だけ周囲から隔離された空間。そこに聖と凛、そして一人の少女が座っている。二人はここで、連続少女暴行事件の被害者と会う約束をしていた。事務所に呼ぶと警戒されて、素直に来てくれるか分からない。今までの経験からそう判断した紫条が自分達の行きつけの喫茶店を指定したのだ。
 ここのマスターとは克弘が探偵所長をしていた頃からの付き合いだ。気心も知れている。そして此処なら、困難なお願いを受けてくれた少女に対する礼も出来る。この店は外装とはうらはら、中々旨い紅茶と洋菓子を出すのだ。勿論被害者への配慮から、成人男性である紫条と如月は席を外している。
「そろそろいいかな」
 そんな紫条の心遣いが効をそうしたのか、聖の目の前では、凛と被害者の少女がお茶と菓子に舌鼓をうちながら雑談を繰り返している。この雰囲気ならば、話を聞きだす事もそう難しくないかもしれない。
「お願いします。お嬢さん」
 聖は和やかな空気を壊さないように、慎重に少女へと語りかけた。
「どうか全て聞かせてください。あの日の事を」

  ★

 夕闇迫る繁華街の人混み。その中を聖と凛は二人、肩を並べて歩いている。
 あの後、少女は意外なほど沢山の情報を聖に伝えた。当日の足取りから襲われた場所。犯人の服装。身体つき。話した内容までも。それは聖でさえ、よくもまあ此処までと半ば呆れる程の情報量だった。少女は今まで警察にも何も話しはしなかったと言っていた。否、今まで刑事と会おうと思った事も無かったと。
 しかし、もしかしたら。彼女は誰かに、全てを話してしまいたかったのかも知れない。饒舌だった少女に、ふと聖はそんな事を思った。
「黒猫庵って店、この辺にないですか?」
 暗い雑踏を掻き分けて進む内、どうやら道に迷ってしまったらしい。考え事をしていたのも悪かったか。聖は仕方なく手近な女に声を掛けた。
「黒猫庵?。何だい、それは」
「甘味処です」
 『黒猫庵』それは被害者から聞き出した、当時の彼女の行きつけだった甘味処。事件当日、彼女はその店からの帰り道に暴漢に襲われたという。犯人が店で獲物を物色していた可能性も充分ある。調べるなら早いほうが良いと、二人は少女と別れたその足で、店まで足を伸ばしていた。
「……あんた、この辺をどこだと思ってるのさ」
「繁華街ですよね」
「馬鹿だねこの子は。ここは玉の井、銘酒屋通りよ。」
 銘酒屋。字面から考えればただの呑み屋だが、実際にその名を冠する店が売っているのは女。それは聖も知識としては知っていた。道を教えてくれた親切な女は、良く見れば豊満な身体に薄い着物一枚しか身につけていない。厚化粧で塗りたくられた顔は黙っていれば若い女にも見えたが、実際はかなりの年齢だと予想がついた。その姿は典型的な娼婦にしか見えない。そして、女に言われてあらためて辺りを見渡せば、周囲には似たような格好の女性達が数多く立っている。
「まいったな」
 確かにここは私娼街なのだろう。
「ああ、魅力的な女性が多いとは思いましたが。どうやら道に迷ってしまったみたいですね」
 動揺を悟られないように呟きながら、聖は徐々に歩みを早くする。自分一人ならば別に構わないが、凛を連れていつまでもこんな所にいるわけにはいかない。
「口が上手いね。あんた」
「そうですか」
「しょうがないね、ついておいで。仲間に聞いてみてあげるよ。」
 聖の後をついてきた女の、そんな言葉に安易に頷いたのはやはり凛の為だ。しかし、焦りが冷静な判断を狂わせた。いつもなら見抜ける筈の女の嘘が見抜けなかった。
「おいで。こっちだよ」
 資金が潤沢にあり、体力も知恵もそこそこある。そんな聖の捜査方法は、良く言えば豪快。悪く言えば雑だった。金や物をばら撒くような情報収集に目を付けられたのだろうか。それとも、凛の美貌が目を引いたのか。女が聖達を案内した先に待っていたのは、いかにもガラの悪そうな五人の男達だった。それぞれが角材や鉄パイプ等の得物を手にして哂っている。
「探偵さん」
 凛が怯えた瞳で聖を見た。
「大丈夫。こっちへ」
 華奢な身体が、寒さとは別の理由で震えている。周囲を警戒した聖が咄嗟に凛を抱き寄せようとしたが、その時にはもう遅かった。
「なっ」
 聖よりも頭二つ以上は背が高い一人の男。その男が瞬時に聖の腹に角材を撃ち込んできた。
「ちっ」
 直撃は避けられたが、結構な衝撃を受ける。
「甘いな」
「くそっ」
 ぐらついた足元が災いし次の攻撃は避けられなかった。吹っ飛ばされた勢いで背後の壁に背中を打ち付ける。そのまま息つく暇もなくもう一発を肩にくらった。
「んんっ」
 声も出せない衝撃。激痛と痙攣が身体を襲う。
「きゃっ」
 突然聞こえた声に目を向けると、男が凛の腕を摑んでいるところだった。助けようとするが体が動かない。頭を打った所為か意識すらも曖昧になる。
「いやっ。放してっ」
「てめえ」
 男に拘束された凛の悲鳴を耳にしながら、聖の身体は何も出来ずに地に沈んだ。
「だあれ?」
 そんな聖達に、暗がりから微かな声が掛けられた。涼やかな声がどろりと濁った闇を震わせる。不躾な声に咄嗟に聖が顔を上げると、暗闇の向こうに小さな影が一つ見えた。あまりにも小さな影は女か子供か。近づけてはいけないと、咄嗟に聖は叫んだ。
「逃げろ。来るな」
「誰か其処にいるの?」
 だが聖の必死な声は小さすぎて相手に届かない。闇の奥からゆっくりと、壊れ物の様にほっそりとした身体付きの子供が近付いてくる。頭から漆黒の薄衣を被っているので顔は見えないが、年は一五、六だろうか。その年の子供が着るにはひどく不似合いの、だが、目の前の不思議な雰囲気の子供には似つかわしい、喪服の様な黒の着流しを身に付けている。
「喧嘩してたの?」
 闇の中響く声。聖だけでなく男達までもが子供の存在感を無視できないのは、その強い気迫のおかげだろうか。
「は?」
 直接声を掛けられた聖は勿論、周囲の荒くれ共でさえ、一瞬、気押された様に手を止めた。
「喧嘩かって聞いているんだけど?」
『鈴を転がすような美声だ』子供が近づいてきたお陰で、初めてはっきりその声を耳にした全員が、喩えではなく心の底からそう思った。
「!」
 そして夜風に冷やされて、少しだけ冷静になった頭で不意に聖は思い出す。この声を、自分は確かに知っていると。
「……関口」
「当たり。気付くのが遅いわよ、お坊ちゃま」
 態と呆れた風を装いながら告げられる言葉。病的までに細く白い指が、優美な動きで薄衣を外す。
「なっ」
 瞬間、聖以外の周囲の人間が、揃って声を失くした。凛でさえ、男に組み敷かれているという自分の状況を忘れて少女に見入る。
「お久しぶりね。別に懐かしくはないけれど」
 静かに微笑む少女は、それ程までに美しかったのだ。
 薄衣の下から表れたのは、しなやかな長い黒髪。日本人では決して持ち得ない、まるで満月を思わせる様な金の瞳。
 間違いない。
 その姿から少年だと予想した子供は、意外にも聖の良く知る少女だった。
 元探偵で、今は娼婦。
「関口糖子か、本当に」
「たった一年でもう私の顔を忘れたの?。薄情ね、お坊ちゃま」
 聖よりも年下のくせに、少し眉根を寄せながら母が悪さをした子供を咎めるように言うその様子は昔のまま。
「まあ、随分と似合わない場所での再会で、こっちも驚いたけど」
 昔のように夜遊びを叱る。
「驚いたのはこっちだ」
「そう?」
 とっさに飛び出した聖の反論も、糖子は受け流す。
「で、その行為は合意なのかしら?」
 糖子の視線は、無残に組み敷かれた凛に向けられていた。そんな糖子に答えたのは聖ではなくて男達だ。
「こんな街だ。当たり前だろ」
 金縛りのような驚きから立ち直った男達は、あわよくば糖子の事も捕らえる気になったのだろうか。新たな獲物の登場を歓迎する様に、ニヤつきながら糖子を見る。
「あんたらには聞いてないって」
しかしそれに返されたのは、顔に似合わぬ辛辣な口調。蔑むように男達を見る金の瞳。
「何!」
「どうなの、お坊ちゃま」
「てめえっ」
「お前も同じ目に遭いたいか!」
 並みの人間なら震え上がりそうな男達の怒鳴り声にも、糖子は微塵もたじろがない。
「ねぇ、どうする?」
「俺はお前が嫌いだ」
「知ってるわ」
「お前も俺が嫌いだよな」
「そうね」
「お前には関係ない」
「そう?」
「おいっっっ!。お前らっっっっ!。状況忘れてんじゃねえのかっ」
 糖子の登場で無視されまくっていた男の叫びが暗闇に響く。それなりに緊張感の漂っていた筈の空気を置き去りに、まるで痴話喧嘩の様な会話を繰り返していた聖と糖子は、怒りに肩を震わす男のその声に我にかえった。
「あっ御免。本気で忘れてた」
「お前…」
 呑気な少女の声に、怒りで浮き出た男の血管がピクリと引き攣る。
「少し痛い目見て反省しなっ!」
 怒りも限界だったのだろう。言葉と同時に男は糖子に襲い掛かった。
「ふーん」
 しかし糖子の直前で、男はピタリとその動きを止める。
「遅いな」
 男の攻撃に先んじて糖子が腹に足蹴りを入れたのだ。
 動き辛い筈の、和服の不利さをまるで感じさせない動き。一切の溜めも無く、軽々と蹴り上げられた右足。男は自分に何が起こったのかも気付かぬうちに崩れ落ち気を失った。
「私は関係ないみたいなんだけどな」
「お前何者だ」
「ただの娼婦?」
 笑いながら軽口を叩く糖子を見て聖は天を仰いだ。
 紫条の言葉は正しかった。糖子は昔のままだ。何も変わっていない。ならばこの邂逅は天の助けか。過去の確執を考えて躊躇したのは、ほんの一瞬。聖は自分の為では無く、凛の為に叫んでいた。
「助けてくれ。頼む、関口っ」
「良い子ね。よくできました」
 その答えを待っていたのだろう。嬉しそうに笑い、糖子は足早に男達の元へと近づく。
「まずは一人」
 凛を抱え込んでいる男の身体を片足で弾き飛ばした。
「何しやがるっ!」
「決まってる。その子を返してもらうのよ」
 糖子の動きに驚き、鉄パイプで殴りかかる男がもう一人。それを軽くかわしつつ、手首に向けてほぼ垂直に掌底を叩き込んだ。
「うおっ」
 一見軽そうに見える攻撃だが、全体重を乗せたその一撃は、男の手から得物を奪うのに充分過ぎる威力を持っていた。
「ぎいいっっ」
 悲鳴が闇に響く。呻き声に紛れて微かに、骨の折れる鈍い音がした。
「なんて………」
 数々のおぞましい音。それを聞きながら聖と凛は、戦う糖子から目を離せずにいる。
 喧嘩は醜い。
 育ちの良さも手伝って、今まで二人はそう思っていた。否、今でも変わらず思っている。しかし、糖子の戦いは。
 淡い月明かりの中で長めの袖を翻しながら、無駄の無い動きで的確に男達を倒していく華奢な身体。
「なんて綺麗」
「ああ」
 まるで踊り子が舞を舞うかのようなその姿に、二人は目を奪われていた。
「少し下がっててね」
 半ば放心していた聖と凛に糖子が声を掛ける。はっとしながらもその声に従い、移動を始めた二人を目の端で捉えると、糖子は思いっきり腕を振り上げ、小さな黒い塊を男達に投げつけた。
「これでお仕舞い」
「なっ」
「何だ、これ」
 身体を煙が覆うのと同時に、男達がいっせいに咳き込み涙を流し始める
「糖子ちゃん特製爆弾だよ」
「爆弾っ!」
 悶絶しながら怒鳴る男達を見下ろしながら、糖子は平然と答えた。
「胡椒と山椒と唐辛子の粉を混ぜてみた。結構効くでしょう」
 凄いでしょう。えっへん。そう胸を張る姿は子供そのもので、今まで華麗に闘っていた人物と同じとは思えない。
「関口、お前馬鹿だろ」
「えー、酷い。お坊ちゃまの好みに合わせたのに」
「好み?。何の事だ」
「殺傷能力が無いけど、多数の敵の動きを止める事に対しては威力甚大。自分は傷ついても人を傷付けたくないって甘ちゃんには、ぴったりの武器でしょう」
「……」
「まあ、材料費が馬鹿っ高いのが珠に瑕だけどねぇ。必要経費だと思えばいいわ」
 文句ある?と云わんばかりに、糖子は残りの球体を聖に向けて放り投げる。その威力を目の当たりにした聖が、落としては大変とばかりにあたふたと受け取った。それを横目で流しながら、糖子は悶え苦しむ男達に止めを刺して気絶させるのも忘れない。
「流石というべきなんだろうな」
「お褒めに与り光栄です」
 聖の言葉を受けて、全てを終えた糖子は、芝居がかった仕草で深々と一礼をする。これで、当面の危機は去った。感謝していいのか、呆れていいのか、微妙な気分を味わいながらも、胸に広がる安堵感に聖と凛は顔を見合わせて微笑んだ。
「!」
 しかし次の瞬間、聖の全身に悪寒が走る。反射的に振り返った聖が見たのは、突きつけられた銃口だった。
「動くな」
 新たな男の出現。
「全く、情けない奴等だ」
 糖子が瞬く間に地に伏せた輩の仲間か、否、彼らの上役といったところなのだろうか。男は意識に無い彼等を冷ややかに見下ろしている。
「あ~あ、これって形勢逆転?」
「判ってるじゃないか」
 カチリと聞こえた小さな機械音は糖子と聖に、目の前の銃の撃鉄が起こされたことを教えた。後一瞬で、銃からは弾丸が発射される。
「飛び道具はずるいよ。おじさん」
「詰めが甘いな、ガキ」
 銃口は、この場にいる者の中で一番の弱者である、凛に向けられていた。
「おっと、そのふざけた爆弾は使うなよ」
「使えるわけないじゃない、こんな場面じゃ」
 今、銃を向けられているのが自分なら、何とかする自信が糖子にはあった。だが、銃口は真っ直ぐ凛に向いている。しかも男は三人からみて風上に立っているのだ。いくら糖子でも、下手な真似は出来なかった。
「忠告だ。余計な事に首を突っ込むな」
「余計な事?」
 聖の尤もな疑問に答えたのは問われた男ではなく、側で話を聞いていた糖子だった。
「馬ー鹿。今お坊ちゃまが抱えてる事件は一つだけでしょ」
 軽口をたたきながらも猫のような糖子の瞳が煌きを増して、男をじっと見つめていた。
「おじさん、警官?」
「何故そう思う?」
「それ、南部式でしょ」
「ああ、そうだ。良く知ってるな」
「娼婦と警官は仲良しだからね。見慣れてるのよ」
 まるで世間話をするかの様に会話を交わす男と糖子。聖は不思議なモノでも見るように、じっとその様子を眺めていた。
「よく言うぜ」
 自分が警官に襲われた。その奇なる事実に咄嗟には動けない聖に代わり、会話を続けながらも糖子が他二人を守るように場を移動する。
「で、それを聞いてどうする?」
 自分の勝利を確信しているのか、男が糖子の行動を咎める事は無かった。銃口を凛に向けたまま、余裕を見せる様に楽しげに哂う。
「こんな所で撃ったら、音を聞きつけて誰か来るよ。不味いんじゃない。正義の味方のお巡りさんが」
「他人はそんなに親切じゃないぜ。お嬢ちゃん」
「そうかしら」
「こんな街で暮らしているんだ。分かってるだろう、お譲ちゃんも」
 その言葉を実証するように、男は銃を一発撃った。弾は糖子の頬を掠めると、背後の壁にめり込む。
「弾丸の無駄遣いはやめるのね。それって所詮は国の財産じゃない」
 頬を流れる鮮血を拭いもせずに、あくまでも冷静に糖子は告げる。
「黙れ餓鬼。公務執行妨害で逮捕してもいいんだぞ」
「呆れた。子供を襲うのが公務なの?」
「目障りで礼儀知らずな探偵に、分をわきまえてもらおうと思ってな」
「礼儀知らずはそっちだと思うよ。お巡りさん」
 こんな場面でも相変わらず落ち着いた声。危機に際しては逆に腹をすえ、冷静になる。それも聖の知る、糖子の変わらない美点の一つだ。
「五月蠅い。お前に用は無い。とっとと消えろ」
「出来ないな」
「ぶち込まれたいのか」
 互いに睨み合う刑事と糖子を、聖はただ見つめていた。
「出来れば遠慮したい」
「お前はム所でも人気者だろうからな」
「看守にも囚人にもね」
「判ってるじゃないか」
 冷たい銃に、聖は嫌悪感と云い様のない恐怖をおぼえる。そういえば兄はそれを人の本能と言っていた。簡単に人の命を奪う武器を前に、無意識に身体は震える。一番の部外者である糖子に、会話の全てを任せている無様さにも気付いていない。
「全く、娼婦風情が偉そうに」
 あくまでも糖子を貶めようとする刑事の言葉。
「日本人にとって性は淫靡であり、密室の秘事であり、貞操は美徳であり、処女性は女の宝である」
「突然、何よ」
「娼婦は最低な職業だ」
 その断罪する様な男の口調。一瞬言葉を詰まらせた糖子に代わり、叫んだのは凛だった。
「来る男がいるから、仕事が成り立つのではないの?。自分の身内を売るような家でも息子をそういうお店に連れて行く習慣がある。女性を馬鹿にした話だわ」
 その内容に聖が顔を顰め、糖子が驚いたように視線を向ける。だが凛はその全てを見ない振りで話し続ける。
「女の性を商売にしてるのは男の方です」
「言うじゃないか。お前もそう思ってるのか?」
 男は凛には目もくれず、糖子に問う。
 刑事の言葉の目的は明らかだ。『これ以上、自分の邪魔をするなら、お前は無認可娼婦として檻の中だ』言外に込められた意図に糖子が気付かない筈は無い。しかし糖子は動揺一つしなかった。
元々、見ず知らずの人間の言葉など耳に入れてはいない。その上、今は予想外な味方までいるのだ。負ける気はしない。
「そうだな」
 糖子は凛を横目で捉え、にやりと笑う。
「うん、思う。案外と刑事さんも娼館の常連なんじゃないの。随分と女をいたぶるのがお好きなようだし」
 それでも、男の嘲りの言葉もまた止まらなかった。
「見苦しいな。大体にしてお前は、探偵社の連中と肩を並べてつるめるような人間じゃないだろ。したり顔でものを言っているがね」
 今まで口を挿まずにいた聖だったが、話題が探偵社の事になれば黙ってはいられない。その気持ちが態度に表れたのか、刑事の視線が聖に移る。
「笠原さん、貴方も貴方だ」
「俺がなんです?」
「気付いていないんですか。貴方にくっついていれば何か良いことがあるかもしれない。そう考える輩がいる事を」
「それは…」
「この女も其れが目的で、貴方の周りをうろちょろするんだ。そもそもコレは、貴方のお兄さんに取り入って、いつの間にか探偵社に入り込んできた屑でしょう。それなのにお兄さんがいない今でも貴方の傍から離れない。それだけでも、充分軽蔑の対象になるだろうに」
 聖に語り続けるその顔は、嫌味で歪みきっている。
「結婚以前に、複数の男性達と関係を持ってみたり、妊娠中絶、もしくは出産を経験してみたり、そんな、阿婆擦れの一人なんですからな。この女は」
 糖子を貶める男の顔は卑しかった。男の言葉を聞く内に怒りが膨れ上がり、、聖は今度こそ糖子を庇おうと決心する。凛も同様だ。
 目を合わせ、頷きあう。
 しかし二人が口を開くよりも先に、その声が皆の耳に届いた。
「そんな事、貴方などに口出しされるいわれは無いですよ」
 いつの間に近づいて来ていたのか。声と共に現れたのは二十半ばの青年。どこから見ていたのか。青年はこの場の状況を完全に把握しているらしくい。
「糖子は義文が、自分自身で選んだ相棒なんですからね」
 落ち着いた低音に動揺は無く、近づく動きにも隙が無い。
「差配さん!?」
 反対に、糖子の声は驚きに満ちたものになった。
「どうして、ここに」
「それはこちらの台詞だ。家を抜け出したと思ったら、こんな時間にこんな所で大立ち回りとはな。驚いたよ、糖子」
「ごめんなさい」
「謝るくらいなら、こんな事初めからしないでほしいな」
 突然の顔見知りの出現。動揺ゆえか、今まであれほど冷静さを保っていた少女のものとは思えない程、糖子の声は震えていた。驚いたと言いながら、全く動じていない青年とは対照的に。
「おまえ、藤堂か?」
「おや、僕をご存知ですか」
 凛は先程から次々と展開される不慮の出来事が、自己の処理範囲を超えたのか、流石に口を挿む事も出来ず、ただ呆然としている。しかし、聖はもう驚きはしなかった。
「遅いぜ。藤堂さん」
 何故なら糖子と再会した時から、藤堂伊織(とうどういおり)と出会う事は聖の中では想定済みだから。
「それならば話は早い。それ以上、この子を貶めるのは止めていただけませんか。刑事さん」
 藤堂伊織は、馬鹿が付く位に関口を大切にしている今の彼女の保護者であり、婚約者なのだから。
「なっ」
 静かだが確かな怒気を帯びた声に、刑事は声を失いその場に立ち尽くした。聖、凛、糖子。それぞれに能力や肩書きを持ってはいても、所詮は子供である三人とは違う。自分よりも社会的地位がある藤堂の出現に、刑事も己の不利を悟る。
「おぼえてろ!」
 月並みな台詞を吐き、急にその場を去ろうとする。そんな男に藤堂が、殊更静かに声を掛けた。
「刑事さん、お名前は?」
「お前に名乗るような名は無い」
「おや、残念。名前でも知ってれば、多少は手心を加えてさし上げられるかもしれないのに」
「俺は職務を遂行しただけだ」
 慇懃無礼の見本のような藤堂の皮肉に、男は意味の無い捨て台詞を吐いただけで逃げるように立ち去っていった。


  ★

「どうしてこんな事に」
 いけすかない刑事が去った路地裏で、暫し呆然としていた聖がようやく口を開く。義文と一緒の時には、相手が刑事であれ誰であれ決して、こんな扱いは受けなかったのに。言外にそう訴える聖に、糖子は苦笑いをしながら言葉を返した。
「笠原家当主の名が無ければ、こんなものよ」
「名前?」
「うん。笠原家の権力って言い換えてもいいかもしれないわね」
 義文は笠原の名を継ぎつつ、探偵をしていた。聖は笠原から勘当されている。階級や権力を何より重んじる警察や国にとって、その差は歴然だ。
「でも、同じ探偵さんなのでしょう?」
 警察と探偵は協力関係にあるのではないか。やっと普段の自分を取り戻したのか、憤慨しながらも冷静さを保ち、そう言った凛に答えたのは藤堂だ。
「探偵を持ち上げるのは庶民だけですよ。警察から見れば所詮は邪魔者ですからね」
「そうなの?」
「ええ。そうだ聖君、君がこの先も探偵を続けてくのなら……」
「続けるさ、勿論」
 言葉途中で勢い込んで答える聖を、藤堂は微笑ましげに見つめる。
「ならば、もう少し周りを良く見た方が良い。そしてもう少し上手く立ち回った方が良い」
 藤堂の目には常にない労わりの光が宿っていた。
「さっきの刑事さんの言葉、全てが偽りと言うわけでもない。老婆心ながら忠告させていただきますよ」
「分かった。覚えておく」
 即答する聖は藤堂の言葉の本質を、おそらくは半分も理解してはいないのだろう。だが、素直にそう答えた彼を藤堂も糖子もからかうこと無く見つめていた。
「……今日は悪かったな」
 助かったよ。
「本当よ。今日はまあ、不可抗力だけど、次からは自分から危険に飛び込んだとみなして、絶っ対に助けてあげないからね」
「次はない」
「そう願うわ。本当に」
 襲われた衝撃と、罵倒された衝撃。それは思ったよりも聖に傷を与えたらしい。糖子にまで素直に詫びと礼を言う態度は、正直少々気味が悪い。わざとらしい軽口にも乗ってこず、目を合わそうともしない悪友。そんな聖に、全く仕方ない子供ねとばかりに糖子は肩を竦めた

「あー、もう。疲れたー」
 凛と聖を順番に自宅に送り届けた後、糖子と藤堂は夜更けの街を歩いていた。強い夜風に煽られて糖子の長い髪がばさばさと揺れる。
「そういえば、差配さんはどうして此処にいるの?。取材旅行は?」
「ああ」
 包帯代わりの手拭いで頬を巻かれた糖子が、話し辛そうにくぐもった声を出した。手持ち無沙汰に煙草をふかしていた藤堂は、少女の今更な質問に呆れる程に呑気な答えを返す。
「今日帰ってきたんだ。早く土産を渡したくてね。探してた」
「お土産?」
「ああ。ほら」
 放り投げるように渡されたのは大きな白い紙袋。中に入っていたのは、糖子の顔よりも大きくまん丸な茶色い物体。
「これ……座布団?。枕?」
「三笠焼だ」
「……おっきいね。こんなの初めて」
「そうか」
「まるで月みたいだよ」
 漂う甘い香りに、袋の中身は菓子だと予想をつけていた。だがその予想外の大きさに、ついまじまじと凝視してしまう。
「好きだろう?」
 見てないで早く食べろ。優しげな声でそう促がされる。
「うん。大好き」
 本当は見た瞬間からかぶりつきたくてたまらなかった。立ち食いのお許しが出たなら遠慮は要らない。
「ありがとう」
 食べようとして大口を開ければ、包帯代わりの手拭いが邪魔になる。糖子は片手で少し乱暴に頬の手拭いを外した。血痕は残っているが、血は止まっているので問題は無い。
「いただきます」
 そして改めて大きく口を開け、思いっきりそのまん丸に齧り付いた。
「美味しい」
「そうか」
 一口頬張り、思わず叫んだ糖子に、藤堂は満足そうに微笑んだ。
「凄いよ、これ」
 甘い餡にふわふわな生地。大きいが決して大味ではない。繊細な和菓子の風味が口いっぱいに広がる。
「君の眼鏡に適って良かったよ」
「本当に美味しい」
 並ぶ影は長身の男と小柄な少女。
 先程の荒事の余韻など微塵も見せず、糖子は自分の顔より大きな三笠焼に齧り付く。そんな糖子の仕草は父に甘える幼子の様にも、飢えた獣の様にも見えた。
「本当に嬉しそうだな」
「美味しいからね」
「それだけか?」
「差配さんが、わざわざ探しに来てくれたのも嬉しいよ。たとえそれが美桜さんのお願いだったとしても」
「……」
 ぽんぽんと交わされる会話。別に嫌味のつもりではなかったが、糖子の言葉に藤堂が声を呑んだ。
「差配さん?」
 意外な反応。糖子は不審そうに藤堂を見上げ首を傾げた。
「嬉しそうだな。糖子」
 足を止め、藤堂も糖子を見下ろす。ただでさえ身長差のある藤堂に、意味有り気に見下ろされては、流石の糖子も多少の威圧感を感じる。視線の意味の分からない、こんな場面では尚更だ。
「……そりゃ、嬉しいよ。やっと行動を開始してくれたんだから」
 仕方なく、糖子は早々に口を割る。
「私を騙して壊した人達がね」
「そうか」
 三笠焼を頬張りながら、笑みさえ浮かべて呟いた糖子の言葉。そしてそれなりの覚悟の元で発したそんな言葉を、藤堂はやはりそうかと当然のように受け止めた。
「あの頃とは違う。今の私には何の柵も足枷も無い。自由に思う存分動ける」
「自由に動いて何をする?」
「とりあえず会いたいかな」
「会ってどうする?」
「さあ?」
「分からないなら、会うべきではないのかもしれない」
「やる事は決まってる。許すか、もしくは殺すか、どっちかしかない」
「どっちか、決めてないんだろう」
「会えば。相手が目の前に現れれば。その場で決まる」
「そうか」
「うん。そう」
 聖や凛が聞けば、それなりに衝撃を受けるだろう糖子の言葉。それを藤堂は驚く事も聞き返す事も無く聞いていた。胸の内にほんの少しの失望はあったかも知れないが、彼はそれを表に出すような失態もしなかった。
「破傷風には気をつけろ。怪我や病気で相手に会えなくなったら、つまらないだろ」
「うん、そうだね。あのね…」
「何だ?」
「ありがとね」
「っ」
「感謝してる。藤堂さん」
 糖子は何かを真剣に伝えたい時にだけ、藤堂を本名で呼ぶ。その言葉に込められた想いに気付き、藤堂はようやく歩き出していた足を再び止めて、無言で糖子を見つめた。
「お前」
 言葉に詰まったのは困ったからではない。胸を衝かれたのだ。
「差配さん?」
「そのくらいのお土産くらい、礼を言われる程の事では無いと思うが。どういたしまして」
「うん。お礼は素直に受けるものだよ」
 言うだけ言って気が済んだのか、糖子は再び三笠焼に齧り付く。
「これから満月を見たら、この大きくて美味しい三笠焼を思い出すのかもね」
 そっと、独り言の様に呟く。藤堂はそんな糖子から視線をそらし、皮肉気な笑みを浮かべる。
「お前は時々可愛いな」
「何よ、その似合わない言葉。気持ち悪い」
 糖子もそれを受け、照れもせずに即答で皮肉を返す。
「何だ、つれないな」
「差配さんに素直に褒められると、何だか死にたくなるよ」
「そうか」
「そうよ」
 二人きりの賑やかな帰り道。
「折角の夜だ。今日は死ぬには勿体無い」
「それは同感。それにまだ会いたい人に会っていない」
「違いない」
 酷く甘くて苦い夜。
 糖子と藤堂にとって、それは日常でもあり特別でもあった。

螺旋迷宮 標的はひとり

螺旋迷宮 標的はひとり

昭和初期を舞台にした探偵小説です。 「この事件で警察は信用できません。私は自分自身の手で犯人を見つけたいと思っています。協力してもらえませんか」 事件の被害者である少女の依頼を受けて、見習い探偵の少年と元凄腕探偵の少女が時に協力し、時に反発しながら連続少女暴行事件に挑みます。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • アクション
  • ミステリー
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-09-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 舞台は昭和初期。見習い探偵の少年と元凄腕探偵の少女が時に協力し、時に反発しながら事件に挑みます。
  2. 2