目を見ては言えないから(カノ×キド)
今日のアジトには俺意外誰もいない。
セトはアルバイト、マリーはキサラギと一緒に遊園地に。ちなみにキサラギのスマホにはエネも同伴である。シンタローはそのまた親代わりの同伴で三人?についていった。(無理やりに引きずられてだが。)
ヒビヤはあのヒヨリとかいう女の子の元へ、コノハ同伴で走って向かって行った。
珍しくあいつ、カノもアジトにはいなかった。いつも俺をいじって遊んでるくせに今日は朝からどこかに行ったようだ。まぁ、あいつのことだからまた何処かでふらふらしているのだろう。
俺はみんなが帰っている間に干していた洗濯物をたたんでいた。今日はいやというほどに日差しが強かったから早く乾いた。
みんなのを順にたたんでゆく。みんなと入ってもこのアジトに住んでいるのは四人だから四人分の洗濯物である。
マリーの白いエプロン。セトのつなぎ。俺のズボン。
マリーのことはよく知らないが、セトの俺もずいぶんあの頃と比べて成長した。服の大きさがあの頃とはまったくと違う。あの泣き虫だったセトはいつの間にか俺の身長を超えていて、見下ろせるくらいになっていた。少し、悔しいな。
セトのつなぎをたたみ終えると、俺は次の洗濯物を取った。
カノのフードだった。
カノは相変わらず男にしては小柄である。いまだに俺の身長にとどいてはいない。
なんとなくカノのフードを広げてみた。何かが違う。
俺のほうが背丈は高いのにカノのフードは私より大きいような気がしたのだ。広げてみるとやはり、俺のよりの大きい。
「あぁ、肩幅が違うのか・・・・。」
なんだかんだ言っても男なのか。そのフードを見てふと、そう思った。
カノだって成長していないようで成長している。いつかは俺の身長も追い越してしまうのだろうか。あまりにも身近にいた存在過ぎて、成長過程なんて考えもしなかった。
時間は流れている。今、こうして成長しているということは大人に近づいているということだ。
大人になったらこのアジトはあるのだろうか。そう考えると少しだけ寂しさを感じた。
少しだけ感傷的になっていると何処からか香るいいにおいがした。いいにおいというか、落ち着くような心地のいいにおい。
「まさか・・・これからか?」
手に持っていたカノのフード、鼻を利かせてみるとやはりそこから心地のよい香りが香っていた。
洗い立ての服なはずなのに洗剤のにおいよりも強く、そのにおいは香っている。でも、いやじゃない。むしろ、少し寂しかった心を満たすかのような暖かなにおい。
「あいつ香水でも使っていたのか?」
しかし、あいつが香水を使っているところなんて見たこともない。ましてや、香水なんて買うようなやつでもない。
「・・・・あいつのにおい・・・。」
懐かしいにおい。暖かで安らぐようなにおい。あいつのにおい。
俺は吸い込まれたかのようにカノのフードにほほを寄せた。
「・・って!気持ち悪いだろ!!俺っ!!!」
自分がしたことにかなりの恥ずかしさを覚え、俺はそのフードを投げ捨てた。
においにつられて感情的になりすぎてしまった。普段ならこんなこと絶対にしないのに。
投げ捨てたフードを拾い上げる。俺よりも小さいくせにそのフードは大きくて、同じ洗剤を使っているのにあいつのにおいがして。
『キド。』
「うわーーー!!!うわ、うわぁぁああーーーー!!」
再び、俺はフードを投げ捨てた。今度はもっと遠くに投げ捨てた。
「どうかしてるぞ!?俺!?なんなんだ!?・・・こんなのも、こんな気持ちになるのも全部、全部あいつのせいだ!!俺が、俺がこんなになるはずなんてないっっ!!!」
頭を抱えて一人で叫んだ。酷く混乱していた。何なんだこの胸を締め付けられるのは!?なんでこんなにも顔が熱いんだ!?第一、なんでこんなにもあいつのことを考えてるんだ!!俺っ!?
「なっ、なんなんだよ。もう・・。」
とりあえず、一呼吸おいて俺はまた遠くに投げ捨てたフードを取りにいった。
そうだ、俺はただ洗濯物をたたんでいたはずなんだ。そうだ、ほかの事など考えずにたたむことだけに専念しよう。
座ってまた、洗濯物をたたみ始める。カノのフードはひとまず置いておこう。
目の先にそのフードがあることだけでも落ち着かなかった。
しかし、俺は思いのほか疲れていたようで最後に残っていた洗濯物に手をつけた時点で目を閉じてしまうのであった。
その懐かしく、優しいにおいに誘われながら。
「ただいまー」
久しぶりに外へ外出してみたものの特に何することもなく帰ってきた。左手にはキドが好きなケーキを片手にして。
「キドー?あれ、いないの?」
せっかくケーキを買って来て驚かせようと思ったのに残念。ケーキの箱を冷蔵庫に入れ、俺はソファへと向かった。
するとそこにはすやすやと断続的な呼吸音を繰り返し、安らかに眠っているキドがいた。周りにはみんなの洗濯物。きっとたたんでいるうちに疲れて寝てしまったのだろう。
幸せそうに眠っている。いったいどんな夢を見ているのだろう。幸せな夢ならそれに越したことはない。僕は自分の部屋へ行き、毛布を取りにいった。
「風邪、引くよ。キド。」
そう、聞こえない声でつぶやいて毛布をかけてあげる。その毛布に包まり、キドはさらに幸せそうな笑みを浮かべた。
そのとき気がついた。キドの胸の辺りにしっかりとつかみ、放さない何かがあることに。
「?」
僕は気になってそっとのぞくと、思いもよらないものをキドは手にしていた。
「・・・僕のフード!?」
驚きのあまり声を上げてしまいそうになったのを必死にこらえた。キドは相変わらず、安らかに眠ったままだ。
「どうしてキドが俺のフードなんか持ってるの・・・・?」
この状況、まったくとして理解ができない。あわてて周りを見渡すとそこにはたくさんのたたみ終えた洗濯物が山のようにあった。洗濯物たたみの途中だったのかーーーーーーー、しかしそれだけではこの状況になったのは納得はできない。
頭の中がパニック状態だ。
ごそっ・・。
その音に酷く敏感に感じ取ってしまった。いったい僕は何をやっているのだろう。その音はキドが寝返りをうった音だった、幸せそうに寝てはいるがもう一度寝返りをしてしまえばキドは落ちてしまいそうだ。
そのときだった。
「・・・ほ・・・。」
「ほ?」
キドはなにやら寝言を言っていた。僕はさっきまでのパニック状態を忘れ、キドの寝言に聞き入った。面白いことだったらからかってやろうと、そう頭の中でいろいろな考えを膨らませて。
「・・・・あほ・・・。」
「あほ?」
「カノのあほ・・・・・・。」
そういってキドはさっきの幸せそうな寝顔とは裏腹に苦々しい顔を浮かべた。夢で僕はいったい何をやっているのだろうか。少し笑ってしまう。
そのときだった。再びキドは寝返りをうってしまったのである。僕はすぐさまキドの元へ駆けつけ、ソファから転落したキドを両腕で支えた。俗に言う、お姫様抱っこの体制で。
えっと。この状況はいったいなんだろう。キドをお姫様抱っこで支える僕と、僕のフードをいまだにつかんでははなさないでいては健やかに俺の中で眠っているキド。しかも、キドは俺の夢を見て寝言を言っている。
重いというよりも何よりも、もしこの状況のときに誰か来てみろ、僕はなんて説明すればいいんだ!
僕の胸の中ですやすやと寝ているキドを見た、子供の頃からきれいだったその顔はいつしか大人の女性の美と変わっていて。大切な家族、でもこの感情はきっと家族ではない別の感情。
キド、君は知らないでしょ。
「・・・・・・・・や。」
寝言が多いなと思いつつ、口から出る言葉に耳を澄ました。
「修哉・・・。」
ああ、それは卑怯だよ。キド。
カノと呼ばせたのは僕からだけど、不意打ちは酷いって。
「修哉。」
呼ばれたのは二回目。
「はーい?何ですか?眠り姫様。」
小声で起こさないように俺は返事をした。
すると、キドは俺の体にしがみついて笑顔でいったんだ。きっと、起きてなんて一度だって言わないのに。
「・・・・いつもそばにいてくれてありがとう。」
「どういたしまして、姫君。」
寝ていてくれてよかった、僕もキドを抱きしめ返せるから。
「大好き、修哉。」
小さな唇から聞こえるその言葉に一瞬驚いて、でもその言葉に僕の心はめいっぱい満たされたんだ。
「僕も好きだよ。」
あぁ、優しい声が聞こえる。聞きなれた、でも大好きで安らぐその声。
あぁ、温かいな。いつも香るにおいなのにそれに触れたことはない。でも、今だけは触れていられる。
これは夢だから。
「蕾。」
久しぶりに呼ばれた自分の名前に嬉しくて俺は笑った。
夢はとても幸せで。
でも夢でよかった。
目を見ては言えないから。
その後、起きた俺は数日間カノと目を合わせることはできなかった。でもカノはいつもと変わらずに俺をからかったのだった。
何処となく嬉しそうなカノの真意を俺は知らない。
おまけ
「ねぇ、キド。」
ソファーに座りながらカノは笑いながら声をかけてきた。
「何だ?」
俺はまた、あの日と同じくみんなの洗濯物をたたんでいた。その様子をカノは楽しそうに眺めている。猫目の目と開いた口を上に持ち上げて。嘲笑ってなどはいない・・・ようだ。しかし、その瞳の奥は何かをほくそ笑んでいる模様。怪しい、怪しすぎる。
「・・・・何もしないからな。」
カノが口を開く前に前置きをした。完全防御体制である。
するとカノはあからさまに大きくニヤついて、
「えー、キドひどいなー?僕まだ何のも言ってないんだけど?」
「言う前にその顔で何かをたくらんでいることくらいわかるからだ!!」
いやな顔して洗濯物をたたみ続ける俺にカノは、まあまあ、と笑いながらなだめて一応聞いてよ、という。その後、何度もカノに粘られてはいやだといい続けるのが続いた。それが洗濯物をたたみ終えるまで続いて、
「ああ!!もう!うるさい、聞いてやる!!」
と、俺が根負けしたのであった。
「あ、やったー!!」
ニヤニヤしながら喜ぶカノ、いったい何なんだ?
「い、一応いっておくが。聞くだけだからな!」
「はいはい、わかってますよ?」
まるで子供をなだめるかのようにカノにしてやられた俺。悔しいにもほどがある。・・・俺より背が低いくせに。
「でもキドは。」
悔しそうな顔をする俺にカノは優しい笑顔を浮かべて、
「なんだかんだで、僕のいうこと聞いてくれるよね?」
と、最後の追い討ちをかけたのだった。
「う、うるさい!!・・・もう、聞いてもやらないからな!!」
「あ、あー!!それはなし!!勘弁して!!」
手を合わせて謝り倒すカノはその後、やっと本題へと入ったのだった。
「で、何なんだ?その話って?」
「話というかお願いみたいな?」
すると、カノは今まであげていた寝込めと口角を急に下げ、真剣なまなざしで俺を見た。一瞬だけ怖気づいた。そしてその後にまた口角をあげて、また笑ったのだ。笑ったというか、微笑んだのだ。
その微笑に魅入られて俺はカノの口にした言葉をうまく聞き取れなかった。いいや、聞かなかった不利をしたのかもしれない。
カノの口からはこう言葉をつむがれていた。
『僕のこと、もう一度だけ修哉って呼んでよ。』
その後、俺がカノの洗濯物をカノ自身に投げつけたのは言うまでもない。
それでも粘るカノに俺は仕方なくいってやったのだ。目の前にあった大きなセトのつなぎに顔を隠して。
目を見てはいえないから、どうしても、恥ずかしくて。
ちなみに呼んだカノの名前の後ろには馬鹿とおまけにつけてやった。
そんな俺にカノはそれでも嬉しそうに笑ったのだった。
「ありがとう、蕾」
と、少し頬を染めて。
嬉しそうなカノの顔を見て俺も少しだけ笑った。
ああ、同じなんだと。
たまには名前を呼ぶのもいいかもしれない。
・・・・・本当にたまにだけ。
目を見ては言えないから(カノ×キド)
カノ×キドの恋物語でした。
いかがだったでしょうか?お互いに好きなのにお互いに恥ずかしがり屋だったらかなり大変ですよね、思いを伝えるときに(笑
カノ×キドの場合は尚更ですよね。
カノ×キドの恋愛を好まない方はすみません、どちらかというと家族として好きのほうが正しいのかもしれませんがこれはひとつの仮のお話なのでこのエンドで終わらせていただきました。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。次の作品、連載作品もぜひとも読んで頂けたら幸いです。
※おまけを追加しました!