SS31 予告

目の前に現れた男は言った。「もうすぐあなたは死にますよ」と。

「……だから言ってるじゃん。あんたは午後三時に俺たちの、な、か、ま、い、り、するんだって」見知らぬ若い男はそう言って肩を竦めた。
「仲間入りって、何の?」
「……それは見れば分かるだろ? 足がないのは幽霊の証拠」
「それはつまり……、俺は今日死ぬってことか?」
「ようやく分かってくれたか」
「なんで? どうして死ななくちゃならないんだ? この間の健康診断段でも随分良くなってるって褒められたばかりなんだぞ」
「いくら内臓脂肪が厚くたって、さすがに車に撥ねられちゃ助からねぇだろ」
「かぁあああ! よりによって交通事故かよ」
「事故で死ぬのはイヤなのか?」
「あったり前だろ! 俺は重度の糖尿で死ぬほど愛してる甘いものをずっと我慢してきたんだよ。痛風が悪化したから酒も飲めねぇし。だからイライラしてんだよ。毎日毎日毎日……」
「そりゃ、お気の毒様」
「お前、確か三時って言ったよな。あとたったの一時間しかないじゃんか」
「そうだな」
「それは確かなんだろうな? 絶対間違いないんだろうな?」
「間違いないよ。残念だけど運命には逆らえないんだ。……俺もそうだったからね」ふと曇ったその表情が出任せじゃないんだと確信させた。
「ああ、大変だ。まずは母ちゃんに連絡して。それから片思いの美貴ちゃんにも告らなきゃ。あとはケーキだ。大福だ。ビールだ。焼酎だ!!」

 そして彼は親切な男の予告通りに亡くなった。
 フラフラと車道を彷徨っていた彼は明らかに泥酔状態だったという。

SS31 予告

SS31 予告

目の前に現れた男は言った。「もうすぐあなたは死にますよ」と。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-17

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