アタシ君アシタ

やられたことは倍にしてやり返す。
それが私のやり方。

午前4時。

隣では昨日声を掛けてきた男がひっそりと石のように眠っている。
彼氏はいるけど関係ない。
やられたらやり返す。
私はこういう人間。

まだイライラする。
というより時間が経つにつれてイライラが増していく感じがする。
ふざけやがって。
昨日は「それ」が来るまでは気分よく1日を過ごしていた。
バイト仲間と2軒目に行くか行かないか話している時にラインが鳴った。

「健輔浮気なう」

友達からだった。
次に写真。
電車の中で盗撮したかと思われるその写真には健輔と友人である
及川未来が写っていた。
手は繋いでいないが寄り添うその様は
全く知らない人から見たら恋人同士に見える。
ふわふわに酔っていた思考回路がカシャンカシャンと
音を立てて正しい形に戻っていく。

「追っかけて」

それだけ打った。
すぐ既読がつく。

「おっけー」

世の中には正しいことと正しくないことがあって、
それの基準はまあ人それぞれなんだけど、
でもやってはいけないことのラインはだいたいみんな似たり寄ったりだ。
未来が何を思って「そう」しているのかは知らないけれど、
許さない。
絶対に許さない。

裏切られたのはこれが初めてじゃない。
中学生の時は仲のよかった子が好きだった男の子が
私に告白してきて、次の日学校に行ったら
グループから外されていた。
仲のいい子たちも、先生も、遠巻きに私たちを見ている子も、
みんな私には触れちゃいけない人のように
扱ってきて、おかげで半年間で5キロ痩せた。
今思えば稚拙な恋心が生んだ嫉妬心に私は翻弄されたわけなんだけど、
それでも当時は必死だった。
自分よりランクが下の子たちにどうにか仲間に入れてもらえたけれど、
それでも教室には居場所がないように感じた。

むしゃくしゃする。
2本目の煙草に火を点ける。

スマートフォンをいじるがこの時間はみんな寝ているからつかまらない。
ふいに未来の顔が頭に浮かぶ。
そう、未来のあの目が私はいつも気に入らなかった。
なにもかもを見透かしているかのような、あの大きな瞳。
可愛さでは私が勝っていると思うけど
なぜか未来は男に人気がある。
みんな表には出さないけど。
どこがいいんだよあんな女。

くそっ。
思考回路がちゃんと定まってくれない。
冷静に。
冷静になって、私。
なにが未来にとって一番苦痛であるのか、
よく考えて。
よく考えたうえで、行動して。
軽率になってはいけない。
ここであからさまに未来をはぶってしまったら、
私の株も下がるし
もしかしたら私がまた一人になってしまうかもしれない。

人から見たらグループから孤立することを気にするなんて
バカげてるように見えるかもしれない。
だけど私たちが円滑に学生生活を送る上で、
どこかのグループに属しているということは
とてもとても大事なことだ。
大学生になったらそんなこともなくなるのかな、
と高校の時に漠然と思い描いていたけれど、
そんなことはなかった。
かえって群れる感じが強くなったような気が私はする。
広い大学のキャンパスで一人学校に行って、
1人でご飯を食べて、
1人で授業を受けて、
1人で帰る。
そんな生活、多くの女の子には耐えられないと思う。
できるだけ人脈を広げて、一人にならない時間を
必死に作ってる。
少なくとも私はそんな人間だ。

表が明るい。
男を起こして早くここから出なければ。
私がこんな風に考えている今この瞬間にも、
健輔と未来は仲良くいちゃいちゃやっているんだろうか。
ていうか、いつからなんだろう。
全然気が付かなかった。
キャンプの時だろうか。
海の時だろうか。
それともいつだかの飲み会の帰りなんだろうか。

どうしよう。
気持ちばかりが暴走して一つの所に留まってくれない。
間違いなく私が優位な状況なのに、なぜか焦る。
これからの展開次第では健輔と未来が仲良くおさまって、
私がグループから出ることになるかもしれないなんて
考えすぎだろうか。

男が寝返りを打つ。
仕事もあるだろうしもうそろそろ起こしてあげてもいいかもしれない。
午前5時。
キャンプの時の写真をタップして拡大する。
スマートフォンに映ったみんなの笑顔が、
なぜだろう、やけに、まぶしい。



アタシ君アシタ

アタシ君アシタ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-10

CC BY-NC-ND
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