戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~

はじめまして、こんにちは。
どうぞよろしくお願いします。

これは戦国BASARAの二次創作作品です。
設定にかなりオリジナル色が入っている上、キャラ崩壊が甚だしい・・・。

別物危険信号領域。


かなりの補足説明が必要かと思いますので、ここで書かせて頂きます。

まず、オールキャラ・・・と言いたい所ですが。
今回は、かなりキャラが絞られます。

秀吉さんと元就さんの他は、話の最後にちょっとだけ、
元親さん、鶴姫さん、三成さん、吉継さんが出てくるだけッス。

そして、BLです。

カップリングとしては、豊臣秀吉×毛利元就。


久々登場、ドエロシーン満載話っ!


前提としては・・・。

まず、家康さんが元親さんに、こういう提案をしました。『天下人が1人じゃなきゃいけないって縛りが、戦国が終わらない元凶じゃね? 日の本を7つに分割して代表家を決め、その7家の合議で政治をしてけばいんじゃないの?』という提案です。

元親さんが乗り、慶次さんが乗り、『中国地方は我の物』が口癖の元就さんが乗り。
九州→島津家、四国→長曾我部家、中国→毛利家、近畿→豊臣家、中部→前田家、関東→徳川、東北(奥州)→伊達家、という担当になるの前提で、7家同盟が成立している状態です。

代表家になる予定ではないながら、謙信公と信玄公も理想に共鳴し、助力してくれてます。

この先は、合議制なんて反対だっ! って言ってる人たちを武力で纏める段階です。


そして鶴姫さんが元就さんの事を、何故か『兄様』って呼んでスーパーブラコン状態発動です。
元就サンも『明(あかる)』ってオリジナル名前で呼んで、スーパーシスコン状態発動です。

実は2人は『陰陽8家』という、術者を纏める裏組織の西ツートップ。
幼い頃から色々あって、2人で生きてきた的な部分がかなり強く・・・という、設定があります。
えぇ、オリジナルです。

『陰陽8家』の設定は、今回全く、出てきません。スルーしても読めますので、ご安心下さいませ。


今回投稿したこのお話は・・・。


舞台は、璃空帝国、という架空の南国。


・・・先に白状しちゃうと、琉球がモデルで、名前もそのまま『琉球王国』を使おうと思ってたんですが・・・『りゅうきゅう』という音が好きで。

思ったより王族連中の性格が悪くなったんで、変えました。
沖縄出身の人に怒られそうで・・・。

漆黒猫は沖縄を応援しています☆


で、『架空の国』の璃空帝国。

貿易の相談の為に、元就さんと秀吉さんで公式訪問いたします。
その異国の地で見舞われるアクシデント、2人の距離が急接近・・・。
悪役からのプレッシャーもあって、彼女は彼の格好良さに気付く、的な。


そんな話です。
まるで王道話みたいだな・・・。


こんな感じでオリジナル設定てんこ盛りのお話ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
本当に、この上なく幸いです。

チキンハートに石を投げないでっ。

戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~

 男のごつい指先が、練り絹の如き柔肌を撫で上げる。

「っ、ぁ、・・・はっ、っ・・・、」

「元就・・っ。」

 脇腹は生物の急所のひとつだが、それにしたって、今腕の中に居るこの男の反応は敏感だった。まるで、与えられる刺激を余さず受け切ろうとするかのように、鮮やかな反応を返してくる。
 騎乗位だと、抱いている相手の反応がより直接的に愉しめるから好きだった。
 のけぞり、離れてしまった彼の華奢な背筋に両腕を回し、抱き寄せる。

「・・ひ、でよし、・・っと、」

 もっと、と。
 色に掠れた声で確かにそう言って、彼の方からも太い首筋にほっそりした両腕を回す。2人の顔が近付くと、積極的に唇を重ねてきた。
 煽りに乗って、挿し入れた舌で我が物顔で口腔内部を蹂躙してやる。
 途端に怖じたように逃げようとするのを押さえつけ、抱き締めて、自分の下に組み敷いてしまう。
 色の白い首筋を強く舐め上げると、伝わってくる。柔肌がゾクゾク震えているのが舌を、そして肌を撫で回す大きな指を通して、ダイレクトに。
 元就の躰が、秀吉の愛撫に悦んでいるのが。

「・・っ、ん、ぁ、・・・やっ・・よ、せ・・・っ、」

「もっと、だろう?」

「・・ん、っ、―――っ、」

 しっとりと汗に濡れる乳首を吸って、口の中で粒を捏ね回す。いやらしい舌遣いをする男の分身は、優に倍以上に成長して、元就のソレを擦り上げていた。
 互いの先走りと汗で、茂みの中がむず痒い。

「ひでよし・・・じらすな・・・秀吉、」

「ちゃんと、馴れたか?」

「馴れた、から、・・言わすで・・ない、こ、な・・こと、」

「大事だぞ?」

 愛しげに左の瞼に口づける秀吉の、その優しい仕草に元就はたまらなくなる。何故だか泣きたくなるのだ。柔らかい熱だけ残して、繋がる為に一度だけ体を離す男の躰を、元就は何となく目が離せなくて追い掛けていた。
 だが、直後に侵入してきた質量に、目を開けていられない。

「あ、ああっ、―――っ、」

「いきなり、俺のは・・・大き過ぎたか?」

 そう言う秀吉の精悍な頬にも、快楽の汗が滴っている。苦悶の声を上げる上の口とは裏腹に、下の口はいっそ容赦のない程の強さで秀吉に纏いつき、吸い付いて、取り込もうと媚肉で嬲ってくるのだ。
 正直な話、これまで抱いた誰よりも気持ちイイ。

「半端に挿れたままより・・・全部おさめた方が楽だろう。」

「ん・・・任せ、る・・・もっと、滅茶苦茶にしても、良いの、だぞ?」

「馬鹿者。大事な奴にそんな事できるか。」

「フフッ、こんな時に、口舌を申すな・・・嬉しくなる。」

「口舌かどうかは、躰に教えてやる。
 これからたっぷり、な。」

 秀吉の鞘となった元就は、色に煙る金茶の瞳をゆっくり開くと、両の掌を秀吉に向けた。精悍で武人らしいその面を、頬を、優しい手付きで撫で回す。形を確かめるように。
 あやすように紫茶色の髪を撫でつけていた秀吉は、その動きに切なげに眼を細める。

「夜なのだ。月夜とはいえ、見えんのは致し方あるまい。」

「それでも、日の本では元親の顔が見えた。
 秀吉、我はそなたの顔が見たい。我を抱いている時の、そなたの顔が。」

「お前こそ、可愛い無理を言ってくれるな、元就。
 日の本に帰ってから、月夜の晩にまた抱いてやる。それまではお預けだ。」

 諭すように口説いて、元就の薄い唇に口づける秀吉。
 璃空帝国の夜空にかかる月だけが、2人の約束を眺めていた。



 異変は唐突だった。

「早いものだ。璃空まで船で5日、明日には港に着く。
 ココまで来ると、流石に星の配置が日の本とは違うな。」

「・・・・・・。」

 医術に限らず、自然科学全般を好む元就なら、乗ってくると思っていた。この話題に。
 今回の璃空訪問。
 今まで難破民くらいは辿り着いたかも知れないが、日の本からこの帝国へ。遣璃空帝国使を遣わすのは歴史上、初の試みである。
 三成が嬉々として仕立てた帆船の甲板、船縁に肘をついて夜空を見上げる秀吉。降るような満天の美しい夜空は、特段そちら方面に興味のない彼をして感嘆させ得るものだった。
 元就なら大喜びで見上げそうだと思ったのだが・・・彼の妹がそうであるように。
 当の元就は、船室に続く扉に凭れたまま動こうとしない。

「毛利?」

「ん? あぁ・・・そうだな。」

「・・・・・・。」

 俯き加減で上の空、夜目にも顔色が悪いように見える。
 不機嫌、とも違うように見受ける・・・彼は不平不満はストレートに口に出す方だから、そういう部分は判り易い。高飛車で嫌味皮肉に長けていて、どんな劣勢でも『何故我が我慢せねばならぬのか。』というスタンスを崩さない元就のブレない我が侭っぷり・・・もとい、高貴さも、秀吉の目を惹いたのだ。
 その元就が、ストレートに怒りも歓喜も示さずに、秀吉との会話を避ける理由。
 今の秀吉には、ひとつしか思い当たらなかった。

「毛利・・・怒っているのか? 俺が・・・お前に惚れた事を。」

「馬鹿を申すな。今更怒りを覚えるくらいならば、言われた時に速攻で断っておるわ。」

 間を置かずに、しかも穏やかに否定されても、秀吉の愁眉は晴れない。そういう穏やかさを示す人間ではない筈なのだ、元就は。望む言葉の筈なのに、違和感が拭えない。
 2日前。
 皆に見送られて日の本を出航して3日目の、やはり夜だった。三成や船長と航路の確認をして、余人が退出し、2人だけで過ごしていた時だった。
 秀吉は酒を、元就は果実を手元に置いて・・・元就の手の中で、果実の皮が水を弾いていた様を、秀吉は妙によく覚えている。
 静かな時間に、ふと、口をついて出た。

『なぁ、毛利。』

『ん?』

『お前に惚れた。』

『・・・・・・。』

 顔を上げた元就の、その、表情。『超意味不明』というより、『今ココで言われるとは思わなかった。』というカオだった。
 確信する。コイツは、俺が自分に惚れてる事には、薄々気付いていたのだと・・・親友の半兵衛以上に明晰な彼は、他人の感情にも敏感なのだ。自分への好意だけには、度を越して鈍感だと思っていたが。出航前に、誰か鶴姫辺りが教えたのだろうか。
 そして秀吉にとって、何より大事な確信・・・脈は、ある。

『元親をやめて、俺と付き合え、毛利。』

『・・・酒席の冗談にしては』

『冗談ではない。冗談には・・・しないでくれ。』

 重ねられた口説き言葉に、元就の白皙の美貌から表情が消える。
 迫力の増した視線に、秀吉も真っ向から彼を見つめ続ける。ややあって出された元就の声は、意識して感情を排しているのがよく判る、平坦なモノだった。
 喜んでいるのか、悲しんでいるのかも判らない。怒っているのか、どうなのかさえ。

『・・・我は・・・『女』扱いされる事が一番嫌いだ。
 ソレは、判っておろうな?』

『判っている。判っていて、男のお前に惚れた。
 おかしいと思うか? 仲間として出会った、しかも男相手にこんな感情を抱くのは。』

『・・・・・・とは、思わぬし・・・本気なのも理解した・・・が、俄かに信じろ、応えよと言われてもな。
 しばし、時間が必要だ。我には・・・多分、そなたにも。』

 平坦な声音で言い置いたきり、果実を持って退室し・・・それきり。翌日顔を合わせても淡々としていたし、アレ以来、2人きりにはなっていない。
 つまり、告白の返事は保留されている訳だ。心中を推し量る、何の手がかりも与えられないまま。
 ただあの時は、元就の目は確かに秀吉に向けられていた。真っ向から、真剣に、検討してくれていた。それが、今は視線を逸らされている、という事は・・・。
 フラれた、という事、なのだろうか。

「元親の事を気にしているのか? ヤツは、俺がお前に惚れてる事は知っているぞ。
 お前の心を賭けて、喧嘩しようと吹っ掛けられた。どちらが勝っても恨みっこナシだと。」

「で、あろうな。アレは・・・そういう男故。」

 静かな声音。知りたくなかった事を、読み切った故に受け入れざるを得ない、軍師の声音だ。時々、痛ましくなる。半兵衛も、吉継も・・・軍師という生き物が。今の日の本には、彼らにとって見たくないモノが多すぎる。

「毛利?」

「・・・秀吉。
 そなたが惚れたのは、強い我ぞ。そなたと対等に渡り合える我ぞ。例えば腕の1本、足の1本も捥げたとして、それくらいならまだ戦えようが。
 では、例えば視力を失った我はどうだ。そなたの気に召すであろうか?」

「視力・・・目、だと?」

 虚を突かれた表情の秀吉のカオが、見る間に愕然とした表情に変わっていく。
 そういえば、元就はこの2日というもの殆ど秀吉と目を合わせていない。それはてっきり、『こんな大事な時に余計な告白をしやがって』的な怒りのせいだとばかり思っていたが・・・・。
 違うとしたら。
 今も、元就は俯き加減のまま話す。一度も真っ直ぐに秀吉を見ないのだ。

「誰に、やられたっ。」

「秀吉。」

 大きな歩幅を最大限に生かして、一足に元就の傍に寄る。感情のまま腕を掴もうとして、ギリギリで踏み止まったのは元就の視力を気遣った故だ。震える指先でそっと元就の肩に触れたが、彼は瞳を向けぬまま。まず繊手で自分の肩に触れ、それから秀吉の指を探り当ててから、彼の指先を握り返す。
 見えていないのが明白な動きに、秀吉の体が震える。
 想い人の視力を奪った敵に。自分に何も言わなかった想い人にも。

「何故、すぐ俺に言わなかった・・・っ!」

「・・・落ち着け、秀吉。敵など居ない・・・敵にやられた訳ではないのだ。
 それより今は、話の途中ぞ。答えよ、秀吉。現状、我は全盲に限りなく近い弱視。ロクに戦えなくなった我でも。何がしかの術を通してしか、そなたの姿を見る事の叶わぬ我でも。
 そなたは、あの夜と同じ事が言えるか?」

「無論だ。問われるまでもない。
 むしろ惚れた相手が盲いたくらいで逃げ出すような、臆病者と思われる事こそ心外だ。試したくなる気持ちも、判らんではないが・・・。
 愛している。
 同格の仲間として、頼みに思う心も変わらないが・・・それより今は、守りたい気持ちの方が強い。」

「・・そ、うか・・・・。
 ふむ、困ったな・・・今、我は紛れもなく『安心』している。この気持ちを正直、持て余している・・・何故、我は『安心』などしているのだろうな。」

「? 俺の自惚れでなければ、俺が逃げ出さなかった事に安心した。それ以外に解釈が成り立たないが。」

「そうか・・・そうだな。」

「・・・毛利。」

 ゆっくりと、恐る恐る。抱き寄せて、抱き締める。何をされているかは判っているだろうに、元就は抵抗せずに秀吉の身に凭れ、むしろ安堵したように力を抜いて、逞しい胸板に側頭を預けている。
 初めて腕の中に収める想い人の髪からは、僅かに花の香りがした。

「教えてくれ、毛利。
 何がどうしてこうなった。敵にやられたのでなければ、今このタイミングで、何故お前の視力が奪われねばならない?」

「・・・申しそびれない内に、先に一言。元親の名誉の為に前置いておく。
 我が瞳の一件は、あ奴は何も知らぬ事ぞ。何か隔意や含む所あってわざと黙っていたとは、思わぬでやってくれ。自惚れかも知れぬが、我が原因でそなたと元親が拗れるのは本意ではない。」

「承知した。
 だが例えそうだったとしても、俺は別に構わぬがな。その程度は恋敵相手の駆け引きの内だろう。俺は奴と、お前の心を賭けて真っ向勝負の真っ最中なのだから。」

「我がイヤなのだっ。
 それと、そういう事を直截に申すなっ、・・その、・・どんなカオをしたら良いのか、迷う、受け流せる程に器用ではないのだ。」

「つまり、遠回しに言うよりも、ストレートな口説き言葉に弱い、という事だろう?
 可愛いと思うが。」

 やっぱり脈、あるよなぁ。
 夜目にもはっきりと真っ赤になってしまった元就の頬を、太い指でスリッと撫でながら、思う。
 彼の美しさは『身内の身贔屓』レベルに留まらない。万人が認め、そして度の多少はあれ、一度は必ず惹かれるレベルだ。当然、男女問わず、口説いてくる輩は後を絶たないが・・・本っ当、マジな話、見ている方が相手に同情してしまうくらい、顔色一つ変えずに斬り捨てるのだ、この毛利元就という男は。
 その元就が、こうも赤面したり目を逸らしたりしてくれるという事は、それなりに・・・否、秀吉が思う以上に、状況は進展している、と思って良いのだろう。
 うん、良いに違いない。

「・・・・・・・・・・・とにかくっ。
 仕切り直すっ。」

 真っ赤になった表情を冷まし切れぬまま、元就は無理矢理、話を元に戻していく。
 彼曰く、こういう事だった。
 彼は生まれついての弱視で、晴眼たらしめていたのは、亡父が掛けた術理故であったと。毛利家は武家であると同時に、術の系譜。どちらも『見る』能力が不可欠の家柄だ。家督は兄が継ぐとしても、次男も見えるに越した事はない。ましてや元就は、生まれつき兄を越える霊力を持ち合わせていたのだから。自滅する事なく正しく使いこなすには、やはり目の力が必要だったのだ。
 『解けない呪い』とも呼べるその術は、日の本の土に根差した力。
 故に、日の本を離れ、璃空の風や水に触れ始めた辺りから、徐々に解け始めた。そして留める術もなく、今や完全に解けた・・・解けてしまった。
 今の瞳が、視力が、元就本来の姿なのだ。

「我自身、己が重度の弱視者である事を忘れていた。この術が解けるまでな。
 父上が術理を掛けたのは、我が物心つく前であった故。己は『そう』なのだと、知識として教えられた事はあったものの、実感など持てる筈もない。弱視であった頃の記憶が無いのだから、致し方あるまい?
 璃空に参れば、研鑽を積んで得た力が使えなくなる事は予想していたが・・・。
 だがまさか、20年以上の長きに亘って我を守ってきた、父の力まで失われようとはな。
 文字通り盲点だったという訳だ。」

「何を悠長な。
 具体的には何日前からなんだ。」

「2日前。
 丁度そなたに、想いを・・・告げられた後。部屋に戻る途中で、急に視界が暗くなった。流石に、歩みを進めるのが怖ろしくなってな。そなたの部屋に行こうとも思ったのだが・・・時間を寄越せと言った直後に舞い戻るのも、なにか・・・。
 そういう甘え方は、卑怯な気がして。」

 無言で抗議するかのように、秀吉の腕に力が籠もる。
 彼の胸に顔を埋めている元就が、困ったように静かに微笑んだのが気配で判った。

「壁伝いに己の部屋を探り当て、寝台に横になった時は安堵したぞ。
 この2日で、この船の内部は把握した。元々図面は頭に叩き込んでおった故な。もう晴眼者と同じように歩けるから、船内での事は心配せずとも良い。」

「だが他国、それも初めて赴く宮殿や家屋敷では、そうはいくまい。
 今回の璃空行きは中止しよう、毛利。三成に知らせて、今からでも引き返す。使節は改めて俺1人か、あるいは地理的に近い島津か、貿易繋がりで伊達辺りに頼もうぞ。」

「否。」

「何故。
 失敗と捉えられるのが嫌なのか? お前の責とは言えまい。半兵衛や刑部、鶴姫への態度を見れば判るだろう。皆、案じこそすれ責めたりなどせん。
 三成に知られるのを厭うのか? アレは多少極端だが、義と忠誠心に篤い、口の固い良い奴だぞ?」

「皆に隠す気は無い。弱視を恥とは思わぬでな。
 三成への不信でもない。アレの美点は、我も把握している。でなくば、我が妹への執心を看過する筈があるまい。
 船は進める。コレが国事に関わる事だからだ。
 国同士の遣り取りで、『中途放棄』が最も忌むべき事ぞ。一度決めた事も満足に履行できない国、と軽んじられる。後々、他の条約を結ぶ時にも不信が尾を引いてしまう。
 日の本をそんな国にしたくない。」

「落ちた信用は、また取り返せば良い。
 あるいは璃空との国交など、無かった事にしても良い。」

「秀吉? 何、を・・・?」

 秀吉の腕の中で、元就の見えない瞳が瞠目する。
 あれほど海外進出に拘っていた男の言葉とは思えなかった。接し方が戦火を広げる方向ではなく、貿易という形に変わっただけで、『西欧列強と渡り合える強い国に』という理想自体はブレていなかった筈なのに。
 璃空を、その足掛かりにするのではなかったのか。

「それよりも今は、毛利。お前だ。
 成就の光が見えてきたとはいえ、合議は未だ道半ば。一翼を担う毛利家は、お前にしか率いられぬ。璃空一事で、お前を失う訳には」

「待て、秀吉。ひでよ、し・・っ、」

 キス、された。
 遮る為に顔を上げざま、待ちかねたように、秀吉から。男の欲望に火が付いた事を知らしめる、濃厚な舌遣い。
 男の名を呼ぶ為に開いていた唇は、男を招き入れる最上の扉になった。舌を絡め取られ、粘膜を擦られて、本能を直接揺さぶられる。元就の右頬に添えられた秀吉の左の掌。包むように撫で、耳後ろの柔らかい部分に指先を這わせるその動き。ビクンッと震えた元就の躰を見逃さず、執拗に弄び始めた。角度を変える度に、秀吉の舌が挿ったままの2人の唇に隙間が出来るが、元就は逃げる気になれない。
 初めて施される愛撫に、元就の背筋が快楽に震える。
 思考能力が、奪われる。

「ひで、よし・・っ、ぁ、・・も、よせ・・・、」

「元就。」

 熱の高まった声で名を呼び、耳朶を甘噛みする秀吉。吐息も水音もダイレクトに吹き込まれて、元就は、もう何が正しい選択か判らない・・・理性が飛ばされる寸前だった。
 子供じみた動きで、秀吉の首にギュウッと両腕を巻き付ける。
 その秀吉の両手は、左で元就の腰を撫で回し、右で双丘のラインを、崩すように揉み込んでいる。
 されるがままの元就の、その切れ長の瞳から零れそうになった涙は秀吉の舌が舐め取っていく。

「んっ・・・、」

「言ったろう、『男のお前に惚れてる』と。
 お前が俺の本気を甘く見ているようだったので、つい火が付いた。」

「つ、いで・・・済むか、馬鹿者っ。我は弱視で、実は気分も優れぬのだ。
 夜の甲板で目隠し同然プレイとか、時分を弁えよっ。」

 力の入らない体で抗議する元就に、その常に近い高飛車さに。
 秀吉の口許にも、自然に笑みが浮かぶ。『こういう』元就に、自分も元親も惚れたのだ。

「悪かった。拒絶されなかったものだからな。」

「・・・否定は、しない・・・。」

「許可なく触れておいて今更だが、怖くなかったか?
 目、殆ど見えていないのだろう。」

 巨躯を屈めた秀吉が、コツン、と元就の額に自分のソレを重ね合わせる。体温が、僅かに高い。その微熱が体調不良なのか、自分の愛撫によるものか。秀吉には判断しかねた。
 常より少しだけ光の弱まった、元就の茶瞳。血の繋がりはない筈なのに、鶴姫と同じ色調なのは本当に偶然だろうか。と、秀吉はその瞳を近くで見る度に思っていた。
 今は、色調よりも・・・その瞳に、眼球に、自分が映っている。それが嬉しくて、そして悲しい。元就の意識には、秀吉の姿が届いていないのだ。
 元就の左頬に、軽く触れた秀吉の右手。
 大きな彼の手を両の掌で包み込むと、元就は自ら首を傾けて、その手に強く、頬を擦り付けた。

「元就?」

「怖くなどないよ、秀吉。
 この掌が、そなたのモノだと判っているのだからな。手触り、触れ方、体の匂いに、気配や足音も。体温だって、同じ温度でも微妙に違うのだ。
 全てがそなたを示している内は、どんな感情、どんな行動でも恐ろしくはない。我は全てを、そなたに許しておるからだ。
 知らぬ人間に無遠慮に触られては、晴眼の時とは比較にならぬ恐怖となるであろうがな。」

「・・・触らせるものか。」

「あぁ。」

「璃空の人間に、お前に触れさせはしない。
 向こうに居る間は、俺をお前の護衛だと思え。通訳が良い口実になる。俺から離れるなよ、元就。」

「危険な夜を与えそうな護衛よな?」

「刺激と安息の同居と言え。」

「フフッ、そう呼称するのは構わぬが。
 それはつまり、このまま船を進める事に異論なし、という事だな?」

「・・・・・。」

「ん?」

「・・・お前、本っ気で夜の甲板で、足腰立たなくなるまで抱いてやろうか?」

「秀吉。」

 静かに窘める声音の元就を、その自分と違ってしなやかな細身を、秀吉は少々乱暴に抱き竦めた。
 紫茶色の柔らかい髪に、荒っぽく手櫛を通す。

「異論はない・・・同意はする。
 だが、三成にも情報共有する事が条件だ。何かトラブルが起こった時、三成の協力は必須となるだろう。いざという時、イチから全て説明する時間があるとも思えん。
 どの道、日の本に帰れば皆に知らせる事となるのだ。一足早く話しても良いだろう?」

「判った。その条件、呑もう。」

「本当は、三成をお前の世話役に連れて行きたい所なんだが・・・。」

「秀吉。」

「判っている。国事に私情を挟むなと、そう言いたいのだろう?
 判っているさ。」

 先方には『正使2人だけで行く』と、既に伝えてしまっている。世話役は帯同せぬと。今からその宣言を覆すのは、元就の意には染まぬ事。
 元就という男は、実は自分自身をこそ、一番『駒』扱いする傾向があると。義弘からそう聞かされた事はあったが・・・まさか、これ程徹底しているとは。

「部屋まで送っていく。」

「あぁ。」

 何が何でも守ってみせる。
 固く心に誓った秀吉の内心に、気付いている筈の元就は全ての結果を受け入れるように、やはり静かに微笑んでいた。



 翌日。
 日の本で初となる遣璃空帝国使は、目的の港に無事、入港を果たした。

「ようこそおいで下さいました、ヒノモトの方々。
 まずはご無事のご到着、お喜び申し上げます。」

「あぁ。世話になる。
 同じアジア圏の国同士、有意義な時間を過ごせると期待している。」

 出迎え役と型通りの挨拶を交わすと、秀吉はチラリと、同時通訳する元就を確認した。
 領海に近付くだけで視力が消えたのだ。実際に土の上に上陸したら、どんな痛みや不具合を伴うかと、三成も交えて3人で、それを危惧していたのだが。
 とりあえず今の所、肉体的苦痛は無いらしい。国許では考えられない程の営業スマイルは浮かべているが、顔色は良かった。
 ただ、やはり視力は弱いままのようで。

「っ、」

「元就。」

 何もない所で躓いた元就の体を、咄嗟に腕を掴んで引き留める。
 体勢を戻した彼の手を導いて、秀吉は強制的に手を繋いでしまった。

「秀吉?」

「慌てるな、元就。ゆっくりと、参ろうぞ。」

「あぁ。」

 フワリ、と軽く口角を上げた、その微笑の破壊力。
 出迎え役全員がノックアウトされたのを見て、秀吉と三成がこめかみを押さえる。今まで妹専用だったこの笑顔を、秀吉に向けてくれるようになったのは素直に嬉しいのだが・・・ちなみに三成は秀吉の『妻』が誰になろうと、一向に頓着しないらしい。全て秀吉の選択に間違いはない、という訳だ。
 だが危険だ。異国でこの美人度は、実に危険だ。自慢するより先に魔手を誘因しかねない。
 秀吉は思った・・・徹底的に『俺のモノ』宣言した上で、夜は手放さないようにしよう。

「あの、毛利卿。もしや、お目が・・・?」

「あぁ、申していなかったな。
 我は仔細あって、一時的に視力が弱まっているのだ。盲いているのとは違うが、物はよく見えぬ。だが案ずるな。導き手は必要とせぬ。委細、晴眼の者と扱いは同じに。
 豊臣卿の通訳も、我以外、用意には及ばぬ。」

「毛利卿は弱視こそあれど、日の本一の術者にして、我らの国の7人の王のお1人。お国の言葉に精通した知恵者であられる。
 軽侮は許されぬと心得よ。」

 仏頂面のまま璃空語で援護射撃する三成の、その日の本では秀吉と半兵衛限定レベルの敬語に、元就は笑い出しそうになるのを必死でこらえていた。
 しかしその元就の表情がまた、璃空側には元就と三成の、仲の良さの表れと映るらしい。
 三成の言を信じた出迎え役たちは、引き続き元就にも最上の礼を取る。

「かしこまりました、石田卿。
 それでは、豊臣卿、毛利卿。乗り物をご用意致しましたので、ご案内致します。」

「あぁ。宜しく頼む。」

 元就の視力の件、当然璃空には通告していなかったが、思い切って開き直る事にしたのは3人で相談した結果だった。
 どうやら正解だったらしい。
 三成たち随行員と船長以下船員たちとは、ココから別行動。彼らはこの港町に用意された迎賓館で起居しながら、元就・秀吉の帰りを待つ事になっている。

「元就、ココを。」

「ん。」

 用意された馬車に、秀吉は元就を先に乗せる。背後から肩を抱き、背中に密着して、掴むべき把手に利き手を導く。馬車の造りの何たるかは元就も知っているから、足を引っ掛ける踏み台なら自力で探し当てられる。
 ベルベットのソファ席の、奥に寄って秀吉の場所を作った元就は繊手を天井に差し伸べて苦笑した。秀吉の巨躯だと、大抵の馬車では天井が低い。
 柔らかく、彼の茶髪を撫でる。

「窮屈そうだな、秀吉。天井が頭のすぐ側だぞ。」

「ま、仕方あるまい。」

「申し訳ありません、豊臣卿。お出し出来る中で、最大の馬車をご用意したのですが・・・目的地まで1時間程、暫しのご辛抱を。」

「構わん。慣れている。」

 元就の同時通訳に返しながら、秀吉は、当の元就に視線を寄せた。紫茶色の前髪をかき分けて、額に触れる。
 反対側に座っている世話役の男が、驚いて身動ぎしたのが判った。

「??
 元就、今日の気分はどうだ? 顔色は良いし、声も張りがある。熱は無さそうだが。」

「大事ない、秀吉。この身は既に、この国の土に馴染んだ。
 目の調子も、昨晩よりずっと良いのだ。」

「そうか、なら良い。
 一日の中でも見え方にムラがあるのが、弱視という病態の特徴と聞く。今より見えにくくなったら、すぐ俺に言うんだぞ?
 疲れてきた証拠かも知れん。休ませてもらおう。」

「元親に負けず過保護よな、そなたは。」

「言ってろ。
 具合が悪くなったら、眠っていて良いぞ。」

「馬鹿を申せ。起きたばかりで、何が眠いものか。」

 秀吉に比べればずっと華奢で壊れやすそうな頭を右手で引き寄せて、自分の左腕にこめかみを押し付けさせる。元就は秀吉の戯れに苦笑すると、自分の左手を彼の右手を絡ませ、押しやった。
 2人のラブラブな空気に、高節季と名乗った世話役はたまりかねたように声を荒げた。

「豊臣卿、毛利卿っ!
 お控え下さい、ココをどちらとお心得かっ。」

「? 元就、通訳してくれ。何を怒っているのか、さっぱり判らん。」

「我にもよく・・・『ココを何処だと思ってんだ。』と言っているが。」

「毛利卿っ!
 貴女はお国許に婚約者がおいでと伺っておりますっ。片倉卿に何と申し開きなさいますのかっ。ヒノモトの女王は、他国に逃れて他の男性と不義を重ねるのですか?!
 豊臣卿っ!
 ヒノモトの高位の男性は、皆例外なく妻をお迎えと伺いました! ご妻女が哀れでなりませんっ!
 璃空を不義の場にされるのは不愉快ですっ!」

「お前の表情を見る限り、ロクな事ではなさそうだな、元就。」

「あぁ・・・後で説明する。」

 顔を真っ赤にしてまくし立てる節季の言葉が、進むにつれて元就の顔から血の気が引いていくのが判る・・・怒りで。
 秀吉は『任せる。』という意味で、元就の髪をクシャッと撫でた。
 更に節季が怒りを重ねようとするのを、『謀神』『インテリヤクザの大親分』の、唸るような璃空語が遮る。

「璃空の官吏は、日本語が出来ないどころか男女の区別もつかないのか?
 我は、男だ。
 片倉と婚約しているのは、我の妹。鶴姫ぞ。
 そして、我は独り身。豊臣卿も独り身。
 更に申せば、我と豊臣卿は、閨も共にする公私に亘るパートナーであるぞ。公衆の面前で裸を晒した訳でなし、恋人と多少睦んだくらいで何だその言い草は。
 ヒノモトの人間はモラルの緩い不義集団だと?
 馬鹿にするのも大概にせよっ!
 世話役とは名ばかりの、文化理解度の低さ。兄と妹を混同する情報力の乏しさ。思い込みで軽はずみに国賓を侮辱する、礼節の無さ。
 最低だな、璃空という国は。」

「あ、ああっ、そんな・・・・だって、どう見ても、」

「この上更に言い訳に走るか。
 あぁ、そうか。璃空人はヒノモトの人間を蔑んでいるから、素直に頭を下げられないのだろう? 良い、その狭量さは赦そう。
 だがしかし、そんな差別主義者の集団とは取引できぬな。
 貿易の話は、白紙に戻す。」

「お、お待ち下さい毛利卿っ、」

「ヒノモトの人間が作った財物を、嘲笑と共に買い叩かれる為に貿易するなど馬鹿げている。国許の仲間も納得するだろうよ、璃空人の狭量さを知ればな。」

「待って・・・豊臣卿、お助け下さい、毛利卿を止めて、」

「さて、俺は璃空語に疎くてな。
 元就、コイツは何と言っている?」

 秀吉の冷淡な声音に、元就は苦笑した。
 助けて。
 その単語と、それに類する言葉や言い回しだけには、秀吉は詳しい筈だった。求められた時に、ちゃんと助けてやれるようにしておきたい、と。
 目の前の世話役は、この男のそういう優しさを無に帰さしめたのだ。

「聞くに値せぬ言葉よ。
 秀吉、準備しておけ。御者に申し付けて馬車を止めさせるから、港まで歩いて帰ろうぞ。」

「承知した。
 そうだ、璃空の通貨には持ち合わせがある。折角来たのだ、途中に露店があったろう? 何か買って帰ろう。半兵衛や鶴姫向けに、土産話も仕入れねばな。」

「おお、それは良き考えぞ。
 三成の驚く顔が楽しみよ。」

「帰られてしまうのは、流石に困るな。」

 罵声と悲鳴の飛び交う馬車内に、一筋、涼やかな声が投げ込まれる。
 傲岸なまでの自信に満ち溢れた、少し高めで張りのある、若い男の声だ。その声は馬車の外、御者台から聞こえてきた。
 日本語だ。
 その尊大な物言いに無条件でムカッ腹が立って、元就の柳眉がきつく引き絞られる。
 秀吉も腕組みし、険しい目を細めた。

「日の本の言葉が判るなら、俺とも直接会話できる筈だな?
 もっとも顔も見せぬ輩など、会話以前の問題だが。」

「コレは失礼。」

 御者台に続く、申し訳程度に取り付けられた小さな窓が開いて、御者である筈の人間が顔を覗かせる。
 黒髪をオールバックにした、声通り若い男だった。印象的な翡翠の瞳には、面白がるような知性の光がある。

「璃空帝国・第78代目皇太子・夏文劉。
 お見知り置きを、ヒノモトの王たち。」

「ヒィッ! 文劉様っ!!
 あ、あなたたちも早く礼を、」

「礼を取る必要などない。
 皇太子という事は、まだ即位していないという事ぞ。日の本で申せば、跡取りと目されておるだけで、家督相続していないという事だ。
 この璃空に於いて、我ら2人と同格なのは璃空皇帝のみ。
 文劉とやら、近く寄る事を許す。我らはもう数刻で帰るが、その前に伏礼くらいはさせてやろう。」

「元就・・・こういう時、お前の高飛車さがホント、頼もしいぞ。」

「褒め言葉であろうな、それは。
 齢幾つであろうと、立場は年齢に先んじる。それが我らの生きる世界だ。皇太子だろうが口の利き方も弁えず、領土経営の難しさも知らぬ若造に舐められては、それこそ国辱というものぞ。」

 殊更に足を組んで見せると、元就は『インテリヤクザ』の目でギロリと睨みつけた。
 視力が弱っているとは思えぬ眼力がある。

「早う、馬車を止めよ、文劉。
 伏礼は外で受けてやる。」

「ご立腹はもっともです、毛利卿。
 ですがもう暫し、非礼を重ねさせてはもらえまいか。妹があなた方にとても会いたがっているのです。我が侭など言わない、大人しい妹です。初めて意思を示した。叶えてやりたいのですよ。
 卿にも妹御がおいでの筈。兄心を察しては頂けませんか。」

「我が慈愛は、我が妹のみが享受すべきモノ。
 他人の妹など、知った事ではない。」

「毛利卿。」

「その妹とやらも、我の事を鶴と混同しているのだろう? 友達が欲しいとかその程度の、世を知らぬ姫君の我が侭であろうが。
 兄と会っても意味はあるまい。泣き出されても面倒だ。我らは帰らせてもらう。」

「卿を女性と勘違い申し上げたのは、こちらの不手際。末端の部下は、半端な情報しか持ち合わせておりませんでした故、卿の美しさを見てつい勘違いを。
 我が妹は、毛利卿を男性と存じ上げております。毛利卿と豊臣卿、お2人にお会いしたいと。妹はシャーマン故、常人に見えぬモノが見えるらしいのです。
 何か、我が妹が、お2人共と出会う事。
 それがヒノモトと璃空、両国の未来にとって大事な分かれ目なのだとか。」

「分かれ目・・・未来視能力者、か。」

「鶴姫と同質の力だな。」

 秀吉の呟きに、元就の秀麗な眉がピクリと反応する。
 考え深げな瞳は文劉ではなく、秀吉に向けられていた。

「どう思う?
 明は出立前、何も申していなかった。つまりはアレの先見の瞳に何も映らぬ、その程度の『分かれ目』と解釈する事も出来る。あるいは、璃空のみの益であって、日の本には関わりなき事、利用され損なのかも知れぬ。
 必ずしも宮殿に馳せ参じ、ありがたく拝聴せねばならぬ道理もないと思うが・・・。」

「行って災いになるなら、鶴姫の目にそう出ている筈。そう出ていないという事は、行ってみても良いかも知れん。
 謙虚に精進を重ねるあの娘の事、我らの目で異国のシャーマンの術理や習慣を見聞して、帰ってから語り聞かせてやるのも、あの子の良き糧となるだろう。
 元々、その『妹』とやらと会談する為に来たのだしな。」

「そうか・・・そうだな。」

 小首を傾げるようにして、秀吉を見上げ、頷く元就。結っていない紫茶色の髪が、耳からスルリと流れて頬にかかる様が、たまらなく涼やかで美しい。秀吉がその一房を撫でつけ様に瞼に触れると、元就は無防備な表情で気持ち良さそうに微笑んだ。
 見えていない事も大きいのだろうし、有象無象を空気のように斬り捨てる気性のせいもあろう。今イチ、第三者が同席している事を意識し切れていないように見受けられる。
 まぁ、どうせ独占するのは自分一人なのだから良い訳だが。
 そう思いながら、秀吉は気付いていた。御者台の小窓から覗く、璃空皇太子の視線に。
 元就1人の横顔に注がれた、内向きに熱の籠もった渇望に。

「秀吉? 何を考えている?」

「いや・・・何でもない。」

 何となく警戒心を刺激されて、元就の華奢な肩に腕を回した途端に殺気をぶつけられた。送ってくれたのは勿論、皇太子だ。
 執着の対象が元就である証拠に、他ならぬ元就だけが、皇太子の殺気に気付かない。元就には知られたくない、という事だ。

「夏文劉。我らの寛大さを喜ぶが良い。
 そなたの部下の非礼を赦し、そなたの妹と会談を持つ事に決めたぞ。」

「慈悲深いご決断に感謝いたします、ヒノモトの王たち。
 時に毛利卿・・・。」

「何か?」

「この璃空に、我が妹の他に、謁見の栄に浴せる者はおりませんか?
 例えば、」

「おらぬ。」

「・・・・・・。」

「璃空皇帝には、表敬と入国の挨拶に伺う予定ではあるが。
 此度の訪問は、通商条約の下準備。限りなく非公式に近い公式の訪問である。名誉職とは申せ、その担当者としてのそなたの妹に、我らは会いに来たのだ。
 知り人がおる訳でもなし、国許も気にかかる。貿易に関わる以外の王侯貴族と誼を通じる時間はない。
 こうしてそなたと会話しておる事自体が、既にイレギュラーの不確定要素なのだ。我らがそなたの勝手に付き合わされているに過ぎぬ。その事を忘れるでない。」

「そ・・う、ですか・・・。」

 冷淡で取り付く島のない元就の物言いに、文劉の熱がジワリと上がったのを秀吉は確かに感じた。ソレは彼自身と同じ種類の熱で。
 秀吉に、言い知れぬ不快感をもたらす。

「・・・・・・。」

 秀吉の機微を察して、元就が黙って彼の袖を掴む。
 秀吉は安心させるように軽く微笑んで、元就の手を握り返した。
 ずっと『そう』だったならまだしも、予期せず急に見えなくなったばかりの彼にとって、秀吉の存在は大きい。元々が他人の機微に敏感で、敏感すぎて心を閉ざしてしまった傾向のある彼の事だ。彼が動揺すれば、元就にもダイレクトに伝わってしまう。
 折角、元就が心を寄せてくれているのだ。ここらでひとつ、元親への未練など消し飛ぶ程の『侠気』を見せねばなるまい。

「元就。先程より少しだけ、顔色が悪くなってきた気がする。
 疲れたのではないか? 宿泊先に着いたら、皇帝との会見前に横になった方がいい。」

「そうだな・・・やはり、晴眼から突然、見えなくなるのは・・・疲れる。
 眠い・・・。」

「眠って良いと言ったろう?
 来い、元就。」

「ん・・・。」

 大きな手でアイマスクの様に光を遮られて、元就の意識が自然と遠のく。
 言葉にして願わなくても、次に起きた時、秀吉は枕元に居てくれる気がした。



 光は、感じている筈だった。
 それなのに・・・起きたら・・・起きた筈なのに、目の前が暗い。目を、開けている筈なのに。視界が白から黒に。暗転している。
 自分は今、何処に居る・・・?

「ひ、でよし・・・秀吉。何処におる・・・?」

「元就? 起きたのか?」

 穏やかな声音の秀吉が居る。
 土や草の上ではなく、木の床の上を歩く足音。ギシッと、彼の大きな体が寝台に上がる音。そういえば、自分も柔らかい布団の上に居るようだ。
 凍り付いた恐怖が解け、少しずつ、理性が戻ってくる。
 馬車の中で眠ってしまった自分は、きっと、目的地に到着しても起きなかったのだろう。秀吉に姫抱きにでもされて、目的地・・・璃空宮殿の貴賓室、そのベッドの上に寝かされていた、と。
 目の状態が悪化したのは・・・きっと、ココが宮殿だから、だ。
 巫女姫の起居する聖地は、宮殿の中央。最深部に在ると聞く。その聖地に拒絶されているのだろう。元就が、外の術者である故に。

「元就。
 緊張で声帯が固いな。声がいつもより細い。目の状態に変化が?」

 優しく、ゆっくりと、秀吉の手が元就の肌に触れる。首の一番柔らかい部分を、労わるように撫でている。
 秀吉の手は常人より大きいから、すぐ判る。それに必ず一声掛けてから触れるから、心の準備が出来ていて、驚かずに済む。
 安心する。

「あぁ・・・悪化した。
 光は感じていたと申すのに・・・馬車の中では、おぼろげながら何とはなしに、色の変化、光の強弱は見えていたのに・・・。
 今は、何も見えぬ。真っ暗で・・・ココが何処なのかも、正直、掴みかねている。
 目的地に着いたのか? 予定通り、貴賓室に?」

「あぁ。全て予定通り、順調だ。
 ここは宮殿の貴賓室で、お前は寝台の上に上体を起こして座っている。俺はお前の傍に居て、寝台の端に横座っている。
 部屋には俺とお前しか居ない。
 すまんな、元就。目が覚めていきなり違う場所などと、驚いただろう? やはり馬車から降りる時、強く起こせば良かったか。」

「いや、良いのだ秀吉。
 起きなかったのは我が悪い。それに、宮殿に足を踏み入れた途端に視界が暗転したのだろうと思うと・・・平静でいられた自信がない。
 悲鳴をこらえて立ち竦み、震えて一歩も動けない。そんな醜態など・・・恥だ。外つ国の人間に見られたくない。眠っていて正解だった。」

 自然と溜め息が出てしまうのは、その時の自分を想像したくないからだ。自分の頑なさが強がりから来る事は、元就自身、ちゃんと気付いている。己の弱さにも。
 強がり切れない今の状況に、参りそうになっているのが良い証拠だ。
 両手で顔を覆うのは、心理的に守りに入っているサイン。そのサインを秀吉は、さりげなく本人の頬から引き剥がして、両の指先に軽く唇を触れさせた。
 はっとして目を瞠る元就の体を、強く抱き締める。

「お前は責任感とプライドの塊だからな、元就。
 この中では移動も多くなるだろうが・・・どこへでも、必ず俺が同道する。」

「ん・・・なんかもう、何処でもいい・・・どうせ見えないし。
 そなたが居てくれるなら、どの部屋でも・・・。」

「可愛い事を。
 その台詞が、日の本でも聞けると良いのだがな。」

「日の本に帰れば、視力は戻るぞ? 父上の掛けていた術には心当たりがあるから、同じ術を明に掛け直してもらえば、事は済む。前より良く見えるかも知れぬ。
 我が心胆までは変わらぬがな。」

「その心胆に、俺は居るのか?」

「当たり前の事を訊くな、痴れ者め。」

 ようやくいつもの元就らしい、『謀神』らしい笑みが口許に戻って来た。
 半兵衛などは『ボクを差し置いて日の本一とか呼ばれてるのに嫉妬する気になれないのはさ、毛利君の『ああいう』邪悪さを身に付けたくないからなんだよね~。』と。前にそうぼやいていた事があるのだが。
 その邪悪さもまた一興。可愛い。愛おしい。
 そう思ってしまう秀吉は、確かに『オンナの趣味が悪い』のだろう。

「何を笑っている? 秀吉。」

「いや・・・こういうお前も新鮮でイイと思って、な。」

「なんかエロいぞ、その言い方っ。」

 青筋を立てる元就の、閉ざされた瞼に口づける。ソレが挨拶代わりのようになってきた。
 右手を軽く左頬に添え、親指で、紅い唇を柔らかく撫でる。
 無言の合図に気配を察した元就が、少々ぎこちなく、軽く上向く。
 ゆっくりと、軽く。秀吉の唇が元就のソレに重なった。

「怖いか? 元就。」

「いや・・・。」

 小さな声で返して、元就の方からも指先で触れる。秀吉の口許を、そこまでの距離を指先で測り・・・背を伸ばすようにして、口づける。
 元就はそのまま力を抜くと、滑り落ちるようにして、秀吉の胸に寄り添った。
 軽く啄むようなバードキスを重ねるうち、見えぬ瞳が、色に煙っていく。

「秀吉・・・そなたの匂い、安心する・・・。」

「元就。このまま・・・いいのか?」

「あぁ・・・というか時間、大丈夫なのか? 次の予定は確か、」

「今は俺の事だけ、な?」

「ん・・・、」

 少し強めに舌を吸い上げると、元就は容易く陥落してしまう。
 潔癖な姿だけを余人に見せてきた男が、自分だけに見せる特別なカオ。その破壊力ときたら・・・たまらなくなる。

「何か・・・妙な事を考えたであろう?」

「お前の乱れた姿を想像した。そう言ったら怒るか?」

「想像で満足するそなたではあるまい?
 現実に、生身の、血肉の通ったこの体で。これから沢山、見られるだろうに。」

 元就が淫らに微笑む。上着を捲り上げて侵入してきた秀吉の、大きな掌に服越しに触れて・・・粒に導いて。
 ソコを絶妙の緩急で弄り回されて、息を詰めて、秀吉の鎖骨に額を擦り付ける。

「んっ、・・・んん、ぅ・・・・っぁ、・・」

「声・・・可愛いな。
 軍務とも日常とも・・・全然違う。」

「それ、は、な・・・ぁぅっ、・・・軍務中は、意識して・・・ひく、く、ぁっっ、作っておるのだ・・・。
 『この』見た目で・・ぁん、声まで高かったら、甘くみられる・・・統率、どころ、の、話ではな、いわ、っ、」

「甘く、というか・・・、」

「――っ、せ、なか、ダメ・・・よわ、っ・・・ん、」

「士気が、上がるかもな?
 ヤバい方向に・・・。」

「ぁ、・・ん、ゃ、・・・バカな、事を、・・・・。
 毛利軍を・・・、は、あぁ、・・んっ、っっ、色狂いの、集団に・・する気か。」

「俺の士気は、ダダ上がりなんだがな。」

「そなた、だけでいい・・・。」

「ん?」

「我を・・抱くのは、そなただけが、イイ・・・。」

「――――っ、」

 ある意味、決定的とも言える言葉の意味合いに、熱に侵された元就は気付いているのか、どうなのか。
 フワフワと寄せてきた元就の、その扇情的に火照った紅い唇。
 秀吉は思わず激情のまま重ね、侵入し、思うままに弄んでしまった。弾力のある舌が粘膜の内側で絡み合い、歯がぶつかり合い、互いに口腔を犯し合う。
 それがたまらない快楽となって、2人の脳裏に火花を散らす。

「ひで、よし・・・もっと、下も触って・・・もぅ、アツくて・・・おかしくなる、」

「悩ましいな・・・唇も欲しいが、肌もメチャクチャに舐め嬲りたい。」

「なめ、て・・・嬲りモノに、してくれたら良いのだ・・・。
 もっと、我をメチャクチャにせい・・・秀吉。」

「あぁ・・・してやるさ。俺の体温でないと、二度と満足できない程メチャクチャにな。」

 情熱的に囁き、裏腹に優しく背中に手を添えて、盲目の恋人をベッドの上に押し倒す。
 几帳の影に物音がしたのは、もう一度2人の唇が重なる寸前だった。

「? 誰ぞおるのか?
 おるのなら秀吉に姿を見せ、我に声を聞かせよっ。」

 不快と警戒心に尖った元就の、その叱声は毛利軍や豊臣軍の猛者たちを震え上がらせるもっとも鋭利な鞭なのだ。
 同盟軍中の将校たちに、不満の種類を聞き取るアンケートを取った事がある。最も多かったのは、『毛利様の声が怖い』だった。7家共通で、だ。
 そういう元就の声を真っ向から浴びて、震えながら几帳の影から出てきたのは。

「女? いや、娘、か?」

「若い娘の泣き声がするが・・・秀吉、誰ぞ心当たりはあるか?
 国賓の閨に先に忍び込み、睦言を盗み聞きする品のない巫女に。」

「おい、元就。」

「どう言い繕おうと、結局そういう事であろう?
 兄は御者のフリ、妹は遣り手婆のフリ。変な兄妹だ。」

「口が過ぎる、元就。」

 秀吉に少し強く窘められて、元就がやっと口を噤む。
 2人共、上体のみ起こして几帳に顔を向けていたのを、秀吉の逞しい腕に繊手を絡めて額をグリグリと押し付けた。途端に娘がビクリと怯えたのを、気配で察して鼻で笑う。
 なんだこのエロ展開。
 秀吉は怒るにも呆れるにも中途半端な気分で、元就に与えているのとは反対の手で、ガシガシと頭を掻いた。この絵だけを第三者が見たら、こう思うだろう。
 夫(秀吉)の浮気現場を押さえて泣き濡れる妻(目の前の娘)と、歯牙にもかけず愛され女の余裕を見せる妾(元就)。
 国許に残してきた半兵衛や吉継の、大笑いする顔が目に浮かんだ。三成ならきっと『流石に我が神、モテっぷりが一味違う・・・!』的に目を輝かせるのだろうが。

「あ~・・・雪月(せつげつ)姫?」

「ご、ごめんなさ、」

 日本語も出来てしまう訳ね。
 しゃくり上げながら謝る娘の名は、『夏雪月(か・せつげつ)』。現璃空皇帝の第二子で、あの文劉皇太子の妹姫である。元就・秀吉の会談相手だ。
 この国一番の能力を持つ巫女姫だと聞くが、文字通りの『深窓のご令嬢』である。
 睦言をどこまで理解出来ていたかは謎だが・・・男女のアレコレも知らぬお嬢様には、男同士で寝台の上に乗っている図だけでも刺激が強過ぎるだろう。その上自分が元就に向けていた、剥き出しの獣性を思うと・・・泣き出すのも道理。
 トラウマになったかも知れない。

「トラウマになったかも知れない、などと、気遣いには及ばぬぞ、秀吉。」

「元就。」

「そなたは優し過ぎるのだ。
 予定に変更が無ければ、巫女姫との会談は、璃空皇帝へ表敬訪問、歓迎の宴、日を改めて貿易関係の官吏との会議・会食と、順番に日程をこなしていき、それらの後に来る催事の筈。
 それを荒唐無稽に飛び越えて、賓客の私室に許しなく忍び込んだその娘が悪い。
 見聞致した事次第では、首を討たれても文句は言えまい。刺激の強い閨事を覗いた程度で済んで、むしろ幸運と申すべきであろう。」

「まぁ・・・正論なんだがな。」

「雪月姫。
 我はそなたを、特別扱いはせぬ。そなたの兄にも申し付けたが、我らと同格は、この璃空で璃空皇帝のみ。
 名誉職の貿易総督『候補』に過ぎぬそなたに、我らは膝を屈する事もなければ、恭しく手を差し伸べる事もない。先に無礼を働いた浅はかな己に、優しさを期待するな。
 分を弁え、改めて自己紹介するなり、釈明するなり、人を呼ぶなり。
 疾く、話を前に進めよ。」

「これも、正論だよな。」

 怒れる恋人を前に、秀吉はハラハラしながら見守るしかない。
 元就が怒るのも当然だとは思うが・・・相手は武将ではない。皇族、しかも外の世界などまるで知らない、閉ざされた特殊な世界だけで生きてきた『女の子』なのだ。
 チラリと、『雪月姫』を一瞥する。
 腰まで届く美しい黒髪は、あの爪の長さでは、元就と違って自分で手入れしている訳ではなさそうだ。複雑な編み方も、透かし彫りの美しい髪飾りも、白を基調にした裾長の服も。サンゴ色の化粧も含め、侍女の手が入っていない部分はあるまい。
 アルビノでもないのに紅い瞳は、巫女の証だと聞くが・・・。
 漆黒と真紅、身に纏う色は濃いというのに、どこか儚げで・・・印象の薄い姫だった。
 侍女たちが戯れに作った、砂糖菓子の皇女。
 ソレが、秀吉が『夏雪月』に抱いた第一印象である。
 活発な生命力に満ち溢れた毛利家の鶴姫や、落ち着いた美を纏う前田家のまつ、凛とした忠誠に生きる上杉家のかすが。日常接している女性たちとは、まるで違う。
 年の頃は鶴姫より上だと聞くが・・・日に当てたら溶けるんじゃないか、この子。

「ごめん、なさい・・・。
 わたし、皇太子殿下にご命令、受けました。お2人の、お世話役、申し上げるようにと。わたし、日本語、出来ます。通訳も・・・。
 毛利卿のお導きも、致します。
 それで・・・それで、えっと、それで・・・。
 先に回って、お部屋で、待つと・・・そうしたら、びっくりして、喜んでくれると、思って・・・。でも、毛利卿、お休み中・・・出れなくて・・・。」

「つまり、新しい世話役として、巫女姫自ら国賓の相手をするようにと、兄太子から達しがあった訳だな? 姫なら日本語も出来るし、と。
 大任に喜び勇んで、俺たちが来たら真っ先に挨拶しようと部屋に潜り込んだ。サプライズのつもりで隠れたが、元就は眠っているし、俺は少ないながら荷物を整理しているしで、出るタイミングを失ってしまった、と。」

「ひとつ、そなたの語学では通訳に足らぬ。誤訳されそうだ。
 ふたつ、我は今全盲状態とはいえ、導き手は要らぬ。小娘に手を引かれて歩くくらいなら、この部屋から一歩も出ない方がマシだ。
 みっつ、コレは質問だが・・・。
 別に我が寝ていても、秀吉に声を掛ければ良かったのではないか?」

「あ・・・大きな、男の人、苦手で・・・。」

「そなたは『我ら』2人の世話役であろ? 声も掛けられずに、秀吉の世話が務まるのか。」

「わたし、するの・・・毛利さまの、お世話」

「我が伴侶を蔑ろにする者を、我が世話役とは呼ばぬ。
 去れ、2代目。そなたもまた、我らの従者には不足であったと。兄に伝えるが良い。」

「――――――っ!
 忘れてしまったの?! 兄上様の事も、私の事も! 18年前の出会いをっ!」

「璃空語ではなく日本語で話せ。
 秀吉を蚊帳の外に置かれているようで、気分が悪い。」

「っ、」

「元就。」

 これ以上、攻撃的な意思が交差する前に。
 秀吉は元就の細い顎を上向かせると、強制的に唇を塞いでしまった。反射的に抵抗を示す細腕を、逆に捕らえて、大きな掌で肌を愛撫する。
 トロンとした、こなれた反応を返してくるようになってから・・・押し倒す。
 もう一度。

「秀吉・・・良いのか? 見られている・・・。
 この娘、トラウマになるかも知れぬぞ。」

「良い。砂糖細工がナニを見ても、どんな壊れ方をしても。構うものか。機嫌なら周りの者が取るだろう。
 それより俺は、お前の心が案じられてならぬ・・・きつい物言いには八つ当たりもあるのだろう? ストレス発散なら、もっと気持ちのイイ方法がある。
 先程の続きといこう、元就。」

「ぁっ、・・・この、後の、・・予定、は・・・?」

「晩餐の直前の璃空皇帝との接見まで、自由時間だ。なに、国事に私情は挟まんさ。
 今だけは、視力の事は忘れろ、元就。2人でゆっくり過ごそうではないか。」

「ん・・・っ、」

 思う通りの脱がせ方で着衣を乱し、大きな両の掌をいっぱいに使って、淫らがましく撫で回す。元就は抵抗もせず、むしろ物欲しそうに背筋を跳ねさせて、彼からの愛撫を享受していた。秀吉は本気で巫女姫の前で最後までする気らしく、自分も上半身を脱ぐとズボンの前を押し開く。
 カチャリと小さな、金具の音。
 その音で、硬直していた雪月姫は我に返ると、一目散に部屋を飛び出していった。

「半開きの音だ・・・扉くらい、きちんと閉められぬものかな。」

「構わん。使用中の貴賓室などという危険な場所、そうそう覗く者もおるまい?」

「ぁ、そ、こ・・、っ、」

 細い声で喘ぎ、紅い唇が秀吉の名を形作る。
 玉の汗が浮いた桜色の肌を、ねっとりした舌遣いで念入りに舐めていく。元就は手の甲で口許を押さえ、しかし、堪え切れずに淡くアツい吐息を漏らす。
 その時の、快楽に灼かれて陶然とした、しかし何処かせつない表情。
 それが秀吉の目には、たまらなく艶めいて映る。

「ひで、よし、っ、・・・その・・・・んぅっ、」

「ん? どうした?」

 男らしく低い声で甘やかされて、元就の頬に朱が昇る。胸の飾りを強めに捏ねると、色っぽい声を上げてギュッと目をつぶり、声を抑える。
 抑えても抑えきれない、その声をもっと聴きたい。

「した・・・が、アツい・・・ど、にか、ぁっ、」

「下・・・ココの事、か?」

「んんっ、そ、ぁ、んっ、・・・・っと、さわっ、っ、・・」

「カワイイな、元就。
 舌先でイジられるのと、指先で遊ばれるの。どちらがイイ?」

「いま、は・・ゆび、だ・・・・。
 そなたの太いので・・・ぐちゃぐちゃに・・なりたい。手・・ナカに、出てしまったら・・・許せ、っぁ、」

「っとに、お前は・・・この綺麗な唇で、そういうドエロい言葉を紡ぐのだからな。」

 ゴクリと生唾を飲んだ秀吉が、欲望の命じるまま元就の唇を吸う。彼にねだられた分身の方も、利き腕の指先で弄り回して蹂躙する。
 秀吉の左腕で、がっちりと柳の腰つきを抱き込まれて逃げられない元就は、しかし逃げる気もない証拠に、自ら進んで彼の背中に両腕を回し、隆々とした筋肉に繊手を這わせていた。長い指先で愛おしそうに、弾む血肉を撫で回す。
 秀吉の猛り狂った分身は、元就の柔らかく張りのある太腿に、強く擦り付けられていた。

「ひでよし・・・だめ、も、・・っ、ぁ、ぁあっ、」

「イきたいんだろう? いいぞ、イっても。」

「手、汚す、のが・・・恥ずかしい、」

「お前の太腿に嬲られてイきそうな俺の方が、恥ずかしいと思うが?」

「ひと、を・・ドS女王の如く、申す、でな、いっ、」

「一緒に外出ししよう、な? 元就・・・。」

「んっ、―――あぁっ・・!」

 元就の細首が、放出の快楽にのけ反る。同時に秀吉が出したアツい液体と、シーツの上で混ざり合う。微妙に色や濃さが違うのが、何ともいかがわしい。

「元就。」

 ゴロンと仰向けに寝転んだ秀吉は、でも元就を解放する気は全然なくて、ほっそりした腰つきに左腕を回して抱き寄せた。
 元就も心得たように身を寄せ、彼の身に指先を絡める。見えない瞳で探るように、鍛え上げられた彼の腰や腹筋、胸板や鎖骨を優しく柔らかく、撫で上げる。

「こら、元就。」

 悪戯が過ぎる指先に、秀吉が封をするように己が指先を絡め、口許に持っていく。
 西洋人が姫君にするように、恭しく口づけた。前に南蛮の船乗りが、冗談で鶴姫にしたのを見た事があるのだ。その南蛮人がどうなったか・・・否、小十郎にどうされたかは、推して知るべし、だが。
 元就がクスクスと微笑んだ。

「くすぐったいぞ、秀吉。」

「ん~?」

 まともに取り合わず、手を握ったまま、白皙の美貌に口づける。左右の瞼、両方に。
 そしてマメに自分で手入れしている、珍しい紫茶色の髪にも。元就自身は美髪にさほどの拘りはないのだが、彼の髪は乾燥する質で、少し手入れを怠るとすぐ、見苦しく見える程に荒れてしまうのだ。美というより、身嗜みに気を遣った結果である。
 優しく、甘く。
 秀吉の武骨な指先が、紫茶色の一房に手櫛を通す。

「髪が伸びたな・・・。
 このまま伸ばし続ける気は無いのか?」

「どうしようかと思案中よ。
 元親や明、近い所で軍神にも、散々『伸ばせ、伸ばせ』と言われ続けてきたがな。確かに短すぎるのも嫌いだし、実の所、伸ばすのも悪くないとは思うが・・・。
 伸ばすと、初見で我を女と勘違いする輩が更に増えるような気がして。『女』度が上がってしまうというか。」

「ソコは今更というか・・・ぶっちゃけ、実は今の長さが一番お前に似合っている気がするがな。なまじ長いよりも、遥かに色っぽい。
 白い首筋に絡みつく、数房の髪とか?」

「っ、」

 髪越しに首の筋をなぞられて、その指先の熱が、元就の背筋をじりじりと灼き焦がす。
 不意に元就は、秀吉の片腕にギュゥッと両腕を絡めて抱きついた。その口許には、寂しげで静かな微笑が浮かんでいる。

「元就?」

「・・・子供の頃は、長かった。姫として育てられたからな。『春風(はるぜ)』という姫名が好きだった。顔も覚えておらぬ母上から頂いた、数少ないモノだった故。齢5つで喪って・・・物に執着しない人だったらしくてな。遺品もあまり無かったのだ。
 10で父を喪ってより後は・・・伸ばしていたのではなく、切れなかった。刃物を持った者に、背後に立たれるのが怖かったのだ。暗殺者がどこに居るか、予想が付かなかったからな。
 今の長さに切ったのが、何歳だったか忘れたが・・・長曾我部家と争うようになってからなのは、覚えている。
 初めて戦場で立ち会った元親がな、本当に辛そうな顔をしたのだ。長髪の我に、昔の・・・7つの童だった頃の『春風』を重ねて。
 その顔を見た途端だ。途端に、物凄くイラッときた。
 気付くと持っていた輪刀で、その場でバッサリ髪を切っていたよ。適当に切って、ザンバラ髪で元親相手に大暴れして、帰ってから明に切り整えてもらった。」

「お前は・・・元親に、目の前の自分を見て欲しかったんだろう? 7つの、光り輝く思い出の中のお前ではなく。
 だが、そうはならず・・・お前と元親の仲は、その瞬間に狂い始めたのかも知れんな。」

「・・・最近、な。時々、思うのだ。
 あの時、もし、元親が目の前の我を見ていたら。あるいは我が早計に髪など切らず、元親の中の我の像を、修復する事に努めていたら。
 皆の間を飛び回って仲を取り持つ明を見ていると・・・そんな思いが胸を掠める。明だって、簡単に事を為している訳でないのは、見ていれば判る。
 当時の我がアレと同じ事を為すには、色々と足りぬモノが多過ぎた。精神的にも、性格的にも、色々とな。」

「元就・・・。」

「すまぬ、秀吉。このような話、不安にさせたか?」

「いや? それでも俺を選んでくれたのは確かだろう?
 お前の中で元親の事が、どう消化されているのか。むしろ聞きたい所だ。お前と元親に、険悪になって欲しい訳でもないしな。」

「言うものだ。
 男の自信というヤツか?」

「発言が公式見解になる相手に、アレだけ『伴侶』だの『恋人』だの、『閨も共にする』だのと言われてはな。
 これはもう、自信にさせてもらうしかあるまい?」

「っ、そなたという男はっ。
 ちゃんと聞き取れているではないか。ヒアリングが苦手とか申しておったヤツが。コレはもう、我の通訳は必要あるまいな?」

「こらこら、必要に決まっているだろうが。
 興味のある単語だけ、耳が引き抜いてるだけだからな、俺のは。話すのはからきしだし。」

 そう言うと秀吉は、元就の体を改めて抱き寄せた。
 左手を下に横向きに身を横たえると、大きな体全てで包み込むようにして元就に触れる。
 その穏やかで優しい、体の温度。

「愛している、元就。
 俺にはお前が必要だよ。」

「・・・っ、だから・・・直截に申すなと・・・、」

 真っ赤になって鎖骨のくぼみに額を擦り付ける元就に、秀吉は甘く苦笑した。ココで『私もよ♪』的に素直に返せるようなら、元就ではない。
 その後も幾つか、元就は元親との思い出を語った。
 秀吉も、自分が殺めた・・・殺める程に愛していた妻・ねねの事を、取り留めもなく語っていた。
 例えば、ねねにも少し、弱視の傾向があったのだとか。だから秀吉は、弱視には他の武将より詳しいのだ。元カノの為に学んだ事が今カノの役に立つというのも、何やら微妙な気分だと。そう静かに苦笑した。
 内湯を使い、身支度を整える頃には・・・侍従が呼びに来る頃には、雪月姫の一件など、2人共綺麗さっぱり忘れ去っていた。



 秀吉の指先が、リズミカルに帯を結んでいく。見る間に立体的で複雑な形が出来上がっていく様に、着替え専門の侍従すら驚きの気配を隠し切れないのを感じて、元就は小気味よく微笑んでいた。
 彼らは最初『外国人に我が璃空の着物の着付けなど出来るものか。』と、秀吉の器用さを甘く見ていたのだ。

「出来たぞ、元就。」

「礼を申す、秀吉。
 上手いものだな。苦しくもないし、着心地が良い。」

「昔散々、ねねの帯を結んでやっていたからな。
 今でも外身を見れば、大体の結び方は想像がつく。」

「流石だ。最初に女物の着物を用意され、女しかしない化粧をせよと言われた時には・・・此処に居る全員、ぶっ殺してやろうかと思ったが。」

 黒炎を背負う元就の怒りに、侍従たちが平伏して跪き、震えている。言葉は判らずとも、殺気や暴力の気配は肌で感じるのだろう。元就の放つ殺気はそういう、本能に直接働きかける種類のものだった。
 勘違いされ易いとは思っていたが・・・こうも国を挙げて『勘違い』されると、秀吉などはもう笑うしかない。平和ボケした国の人間とは、こうも人の表面しか見なくなるものだろうか。

「戦に出ているお前も好きだがな。この国に血化粧を施すには、まだ早い。
 行こう、元就。我らの歓迎の宴が始まっている。」

 右手で元就の左頬に触れる秀吉。
 彼の衣服は、流石に元から男性用だ。

「うむ。
 着替えひとつに手間取って、璃空皇帝との接見の時間がなくなってしまった。正式な会談は明日とはいえ・・・宴が初顔合わせというのも・・・段取りの悪い。」

「元就。」

「すまぬ、秀吉。判っておる。」

 嘆息の後は営業スマイルだ。
 だがしかし・・・否、『やはり』と言うべきか。
 詭計智将の激レア営業スマイルをぶち壊しにする事件が、その歓迎の宴で起こったのだ。

「遠来の客人よ、友よ、ヒノモトの王たちよ。
 よく来てくれたました。会えて嬉しく思います。」

「こちらこそ、お招きに感謝致します、璃空の皇帝よ。」

 型通りの挨拶。滑り出しは、確かに順調だったのだが・・・。
 この璃空は、世襲制の絶対帝政。65代目となる現皇帝は、中肉中背、茶髪に白いモノが混じり始めた、何の変哲もない、ごく凡庸で善良な王だった。息子の文劉や娘の雪月とは・・・あまり似ていない。瞳が翡翠色である事くらいか。
 華やかな宴の最中、高段に設えられた特等席に2人を迎えながら、親しく話かけてきた。
 特に、元就に。

「この度の大掛かりな貿易計画、期待しているのです。
 以前、毛利家の先代・・先々代になるのかな? と取引していた頃は、本当に小規模な、実験的な物でしたからな。」

「お心に留めて頂けていたとは、亡き父も喜びましょう。」

 その話は秀吉も知っていた。
 もう20年近くも前、元就の父が毛利家当主だった頃。小規模かつ短期間ながら、安芸と璃空で貿易まがいの事を行っていた事があるのだ。そうして多少なりとも内実を知っていた事が、元就が家康に、璃空貿易を提案した理由でもある。
 元就の父の死で、頓挫してしまったが。
 テンプレの挨拶を返すばかりで、元就はその頃の思い出に、あまり触れられたくないようだった。
 その理由に何となく察しがついて、秀吉はさりげなく話題を修正する。

「今回は、貿易品目を大幅に増やす予定です。
 何せ、我ら7家合議。日の本の北から南までカバーしておりますからな。京の都の雅な品、東や北の珍しき文物。
 色々とご用意できます。」

「我らも負けておられませんな。璃空は地政学上、大陸との交流も活発です。
 大陸の文物も、ヒノモトとの交易に生かそうかという話も出ているのですよ。」

「それは良いお考えです。
 我らも、東域の王の1人・伊達が、南蛮との貿易を始めております。こちらはもう随分と前からとか。
 南蛮にも幾つも国があります。蝦夷や、ロシアも近い。そういう北や西の国々の文物も、ご紹介は可能と。こちらではそう考えています。
 我ら日の本と、皇帝陛下のお治めになっている璃空。2つの国土を多彩な国々の文化交流の場に出来たら幸いです。」

「それはまた・・・壮大なお話ですね。」

「航路の開発や相手国との条約締結、国内の環境整備など、定めるべき事案は山積しております。ですが実現は、不可能ではないと思っています。
 日の本は長く内戦状態にあり、未だ完全に戦火が消えたとは申せませんが・・・。他国と貿易で繋がれる、風通しの良い、強い国造りを。
 ソレを目指して人も国土も整備していけば、復興など、存外簡単に出来てしまうのではないかと。よく、我ら7人でそう語り合うのです。」

「7人も王がおられると、意見の取り纏めも大変では?」

「基礎となる同盟を提案された時は、正直、私もそう思いました。
 やってみると、意外とそうでもないですよ。7人の王は、全員が武人。全員一度は、7人の内の誰かと本気の矛を交え、血を流した過去がある。」

「ならば余計に、憎悪が尾を引いているのでは?
 よく7人も揃いましたな。」

「ただ殴り合いの暴力の応酬をしただけなら、そうなのでしょう。
 しかし、我らはそれぞれ、国の為に剣を取り、天下統一を目指した身。武を通して心身を磨き、日の本を良き国にせんとして天下を望んだ。己や、己の主君こそがそれを為し得る器だと。
 欲望で動く人間なら、歯止めなど利かず、力で征服するしかない。
 だが国を思い、その為に戦ってきた者なら。国の形として『コレ』が一番良いのだと納得させられれば、自然と剣を置き、禍根を流すものです。
 7人共、戦の中で心胆は見せ合い、どのような気性かは互いによく理解しております。
 その上で交わした同盟であり、持っている、合議という話し合いの場。
 拗れる事は、殆どありません。」

「そ、ういう・・・ものでしょうか。」

「我ら7人だからこそ、為せた事と自負はしております。
 それに茶菓子の好みが激しく違いましてね。半月に一度の会議の度に、アレが食べたい、コレが良い、とうるさく言って、給仕役に叱られるんですよ。
 ソレが原因で7人全員、鶴姫の前に正座させられて、説教を食らった事があります。」

「なんと。ヒノモトでは、巫女姫が王に説諭するのですか?」

「巫女姫がというより、鶴姫が、です。彼女ほど上手に人を愛し、そして愛される姫もそうはいません。
 部下たちに納めさせた進物は、お手許に届いていますか? その中に、鶴姫お気に入りの菓子をお包みしたのですが。」

「はい。目録通りに。」

「その中に・・まぁ、コレはウケ狙いで紛れ込ませたような代物なのですが・・・。
 蝗の」

 そこまで通訳して、元就はとうとう我慢できずに噴き出した。璃空皇帝と秀吉の間に居た彼は、流石に声は殺したが、腹を抱えて肩を震わせて俯いている。
 秀吉はそんな恋人の頭を、軽くぞんざいに撫でて窘めた。

「失礼だぞ、元就。早く通訳してくれ。
 『イナゴの佃煮』、だ。」

「いや、その話はどうなのか・・・。
 明と半兵衛がノリノリで入れて止めようもなかったが、蝗の佃煮などと、日の本でも好き嫌いの分かれる食物ぞ?」

「俺は結構好きだがな。」

「我も好きだ。味はな。
 まぁ入れてしまったからには、バカにされたとか誤解を招かないよう、しっかり説明しておこう。こんなんで戦になったとか、史実にしても愚かし過ぎる。
 璃空皇帝よ、ご説明申し上げる。
 我が妹・鶴の好物に、蝗の佃煮という食物があります。野に跳ねる蝗を捕らえ、足などの鋭い部分をむしって除き、調味料、砂糖や醤油、水飴や、好みによっては塩なども使って、甘辛く煮て作る食品です。
 我がヒノモトの基盤は稲作。秋になって、水稲の田に大量発生する蝗を捕まえて作る食品で、秋の味覚です。東から西に掛けての内陸部、山間部でよく食べる習慣があり、タンパク質補給に効果的です。
 菓子というよりは、副菜に近い。炊いた白米や玄米と共に、食膳に供されます。
 庶民から我ら王まで広く親しまれ、卑しい食べ物とは認識されておりません。栄養価は高く、味も良いです。
 ですが唯一、見た目が悪い。ほぼ1匹丸ごと使っておりますから。混ぜ飯にさりげなく埋められているならまだしも、盛った白米の頂点に堂々と乗せられた日には・・・。
 少し、お召しになるのに勇気が要るかも知れません。」

「ほぅ。ちなみに毛利卿は、『蝗の佃煮』はお好きですか?」

「・・・味は好きですよ、私も。味は。目を閉じて・・・あぁ、私は、日の本では視力を保てるのですが・・・、目を閉じて、形を見なければね。
 兄妹喧嘩の翌朝、朝餉の白米に蝗が角突き出してた時は、妹を追い回したものですが。」

「朝餉?
 王の妹で巫女姫でもあられる女性が、自ら手を汚して煮炊きをなさるのですか?」

「巫女姫が、というより、我が妹が、と申す方が正確です。
 活発で、好奇心旺盛な娘なもので。食材の組み合わせ次第で、様々な味を作れるのが楽しいとか。ビーカーとアルコールランプでコーヒーを入れる、どこぞの学者のような事を申しています。
 同格の王の1人に、前田利家という男が居ます。この男の后は、日の本有数の料理上手。彼女に習って、妹の料理の腕も大分上がってきました。」

「鶴姫は我が部下・三成や半兵衛と同じく、璃空語が巧み。毛利家から豊臣家への人材貸与という形で、豊臣家で璃空語の翻訳や、使いの方々のお世話などもしてくれています。
 ゆくゆくは、璃空皇帝にお目通りを賜る機会もあるかも知れませんが・・・。
 アレを日の本の標準的な巫女姫と思われるのは困ります。破天荒で、型破りで、情熱的で、可愛らしい。
 とても魅力的な娘ですから。片倉が心捉われたのが、よく解る。」

 最後の一言までしっかり通訳させてから、秀吉は意味深な瞳で元就に視線を送る。
 対する元就は瞳を伏せているが、髪を撫でる秀吉の手も払わず、口許には美しい笑みを微苦笑の形に佩いている。
 璃空皇帝は、先程から2人の関係について触れ方に迷っているようで、今もさりげなく視線を逸らした。
 その間にも、秀吉は元就の世話に余念がない。

「話して疲れたろう?
 清水でもどうだ、元就。名水だそうだぞ。」

「ん。」

「爽やか系の揚げ魚。ジューシーな蒸し魚。
 どちらが好みだ?」

「蒸し魚。」

「ならば、甘味はこちらの葡萄を勧めよう。
 味が柔らかくて、後口がさっぱりする。」

「あぁ、そうする。」

 清水のグラスを握らせ、蒸し魚を取り分け、瑞々しい葡萄を引き寄せる。
 元就も元就で、楽しげに笑いながら、従順に世話を焼かれている。
 これは・・・もう・・・何というか完璧に・・・『親善大使』というより『新婚夫婦』。
 貿易交渉の為というより、睦まじさを見せつける為に来たのではという勢いである。

「父上。」

「お、おお、来たか、我が子らよっ。
 遅かったではない、か・・・?」

 元就・秀吉組の睦まじさに突っ込みかねていた哀れな璃空皇帝は、文劉・雪月組の雰囲気にも突っ込みかねて困惑している。
 風体が異様とか、そういう事ではないのだが・・・一国の皇女であり、巫女姫でもある娘の顔に殴打痕があるのは。そして、それを化粧で隠す事も許されず、唇から流れる血の跡も生々しいまま、祝宴の最中に引き出されるのは。
 異様としか、表しようがあるまい。
 しかも雪月姫を伴ってきた文劉皇太子は、妹の傷など目に入らないかのように、明るく人好きのする笑顔を浮かべている。兄の影でひっそりと俯く妹の存在など、初めから無いかのように。

「申し訳ありません、父上、客人方。
 野暮用を片付けていたら、遅くなってしまいました。非礼をお許し下さい。」

「あ、あぁ・・・。」

 視線を泳がせる父親に、黙りこくったままの妹。
 秀吉は周囲に視線を走らせた。たくさんの貴賓が笑いさざめいているというのに、誰一人として雪月姫を気遣わない。
 璃空宮廷の影の支配者は、皇太子・文劉。
 そう割り切ってしまえば、それまでだが・・・何処の宮廷も同じ・・・日の本の、天皇の宮も同じように冷たい所なのだろうか。
 文劉は妹と違って流暢な日本語で盃を2つ、掲げてみせた。

「毛利卿、豊臣卿。
 まずは一献。ご挨拶に献じよう。」

「待て。
 毛利卿はアルコールを受け付けない身。璃空皇帝からの賜杯も、代わって俺が受けたくらいなのだ。皇太子殿下の献杯も、俺が2人分、受けよう。」

「他国の宮殿まで来て、それでは通らないのでは?
 いくら下戸でも、一杯くらい良いでしょう。お飲みあれ、毛利卿。」

「断る。」

 間髪入れず、空気を吸うように自然な呼吸で言い切ると、元就は見えない目を引き絞って秀麗な眉を寄せた。

「そなたの纏った血の匂い、まだ新鮮できついな。それに雪月姫の、薄くて脆い独特の気配も致すが・・・その娘からも、同質の血の匂いが致すぞ。
 祝宴の前に妹を殴り、手当も施さずに引き摺ってくるのが璃空皇太子の流儀か? そのような種類の暴力を示す輩は好かぬ。
 この者の献杯など受けるに及ばぬよ、豊臣卿。我の分も、そなたの分もな。」

「・・・随分と、はっきり仰る。
 そこまではっきり言われたのは初めてですよ、毛利卿。」

「そうか。取り巻きに甘やかされているのだな。」

「・・・・・・・。」

「我らは実利主義。上辺や遠回し、儀礼的な遣り取りは好かぬ。特に人の血が関わっている時にはな。
 仮面を全て剥ぎ取られ、虚飾の塔の瓦礫を見る覚悟が無いのなら。
 我と秀吉の前に立つな、若造。」

「盲目の御身で、よくも仰る。敬服致しますよ、毛利卿。」

 文劉が、空の盃を持つ手に力を込める。
 投げたら殺す、その気概で身構えた秀吉を一瞥すると、文劉はその手を高々と差し上げると凛とした声を張り上げた。

「我・夏文劉の名において、我が杯を拒んだ者に決闘を申し込むっ!
 毛利卿、私と戦われよっ!」

「は? 何を唐突な。
 我は正式な国賓、外つ国の正使ぞ? 何が悲しくて流儀に従わねばならぬのか。」

「私が勝った暁には、卿には我が伴侶となって頂くっ!」

「はぁっ?!
 馬鹿も大概にせいっ!! 何故に男の我が皇太子妃っ?!」

「その決闘、俺が受けよう。」

「秀吉っ?!」

「毛利元就は、既に我が伴侶である。
 ソレを略奪すると宣言したのだ、この若造は。俺への挑戦以外の何物でもあるまい。
 我が『妻』を賭けたその決闘、日の本の覇王が受けよう。」

 てらいなく堂々と宣言した秀吉の、その男らしい台詞に、元就の白皙に朱が昇る。
 しまった、ちょっと、否、かなり格好イイとか思ってしまった。
 そんな顔でアワアワと口許を押さえると、どうして良いか判らないから助けて旦那様♪、という感じでギュッと目を瞑り、秀吉の腕に抱きついた。
 ソレがどれ程『可愛い』仕草かも知らず。
 秀吉が元就の髪を一房取り、口づけると、流石に注目していた貴賓たちから、どよめきと共に拍手喝采が沸き起こる。
 この璃空に於いて、髪に口づけるとは即ち求婚と同義なのだ。秀吉は文劉の『妃宣言』に対抗して、公衆の面前で元就に求婚した事になる。

「ったく、そなたという男は・・・あんな若造に蹂躙されるなぞ、我は御免だぞ。
 必ず勝て。良いな?」

「当然だ。
 100年内戦国家の武将の恐ろしさ、味あわせてやる。」

 見えなくても判る、今回は秀吉が黒炎を背負っているのが。
 賭けられているのは自分の運命だというのに、元就の心は妙に鎮まっていた。悪く言えば他人事、良く言えば冷静。
 それは今自分の運命を預けている相手が、秀吉だからだ。彼なら絶対に勝つと、無条件で、無意識レベルで、文字通り心から信じているから。
 だから元就は、秀吉の温かい胸に、穏やかなカオで額を擦り付けた。



                                    (第二章へ)

戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~

 璃空滞在・2日目。

「元就。粥が出来たぞ。」

 詭計智将は、寝台の上に病んだ身を横たえていた。
 フワフワの枕や掛け布団に埋まるかのようなその細身は、異様に体温が低くなり、顔色は青白く、べとついた汗が肌に纏いついている。
 辛うじて意識がある証拠に、薄っすらと目を開けた。
 穏やかに額を撫でた秀吉の指に、相変わらず見えぬ瞳を、気持ち良さそうに細める。

「食欲はどうだ、元就。少しでも口に出来そうか?」

「ん・・・頑張って食べる。
 代謝を良くして、とっとと毒素を出してしまわねば・・・。」

「おいで、元就。」

 緩慢にぎこちなく、ゆっくりと。上体を起こした・・・起こすのがやっとな元就の、その短時間に随分痩せてしまった体を姫抱きにすると、寝台に横座りになった秀吉は自分の膝の上に乗せてしまった。
 常人離れした体躯の彼なら、軽くなった今の元就の体など、扱うのは造作もない。
 身の穢れを恥じて身じろぐ元就を、叱るように腕に抱き締め直す。

「前にな、鶴姫が言っていた。生命力の強い人間がこうして抱き締めているだけでも、弱った人間には結構、治療になるものだと。
 生命力とは、強い方から弱い方に流れ落ちるモノなのだそうだ。
 俺の生命力を受け取れ、元就。」

「そう、か・・・明が。」

「それと、俺の代わりに毒を呷るなど・・・二度とするな。
 肝が潰れたわ。何だってあんなバカな事を・・・。」

 いっそ苦々しげなカオで吐き捨てる秀吉に、元就は淡く微笑むと黙って彼の胸に寄り添った。
 やらない、とは言わないのだ。
 今朝の朝食。秀吉の膳にだけ毒が盛られていた。文劉皇太子とは、昨夜の歓迎の宴で元就を巡って決闘する事になってしまった。まぁ全面的に向こうの横恋慕にしろ、敵対している訳だ。
 毒は皇太子一派の手によるものと思われる。というか、それ以外考えられない。
 貴賓室で朝食を共にしていた元就は、スープの毒を感じ取ると、迷いなく一息に飲み干したのだ。
 毒入りと騒ぐ事も出来た。誰か人を呼ぶ事も、少なくとも、秀吉に告げる事くらいは。
 それなのに、彼は。

「今の我は、こういう形でしか戦えぬからだ。」

「っ、」

「文劉は我の身柄に拘っている。ソレが正しい恋情に基づくものだとは、到底思えぬが。
 そなたに盛った毒を、我が呷った事で気付いた筈だ。毒など使っても、同じ事の繰り返し。気に入りの、我の容姿を損なうばかりだと。
 コレは抗議でもあり、警告でもある。お前の欲しいモノは、他の誰でもない、我が握っているのだというな。
 昼餉も同じように、我が毒見を務める。夕餉も、次の朝餉も。毒が盛られなくなってもだ。御殿医に掛かる気もない。治せると判っては、警告の意味がないからだ。決闘が終わった後も、安心は出来ぬ。報復という可能性があるからだ。
 あの坊やはいつまで保つであろうな。
 我の手足が動かなくなり、声帯が腐り溶け、肌が爛れ、髪が抜け落ちても。それでもなお昨夜と同じように秀吉に決闘を望み、今朝と同じように毒を盛るのだろうか。
 少々、見ものだと思わぬか、秀吉。」

「思わん・・・思う訳がない。」

「・・・・・。」

 抱き竦めたまま、紫茶色の髪に優しく手櫛を通す。いかなる毒を用いられたものか、たった1回含まされただけで、もう艶を失っていた。
 ソレがたまらなく哀しく、そして愛おしくもある。

「お前が自力で歩けなくなったのなら、抱えて歩いてやる。爛れた肌にだって、幾らでも口づけてやる。手が動かないのなら、代わりに何でも書いてやる。
 そういう意味では、お前がどうなろうと構い立てはせん。俺はな。
 ただ、自ら『そう』なるのはやめてくれ。自傷まがいの行為など・・・どう守って良いのか、判らなくなる。」

「すまぬ、秀吉・・・。
 昨夜は格好良かったぞ。文劉の突拍子もない強引さに、一歩も負けておらなんだ。惚れ直したわ。
 だからこそ、我もそなたに、何かしたかったのだが・・・逆に苦しめたか。」

「俺にも油断はあった・・・毒を盛られる可能性に、気付いていなかったのだからな。
 だが、もうお前の毒見は必要ない。毒見などせずに済む方法を考えた。
 簡単な話だ。俺とお前、2人の口に入るモノは全て俺が自炊する。下働きの子供に有り金全て渡して、市場で食材を買って来させた。有り金の内、3分の1を報酬として与えてな。
 中庭で焚き火をする許可は、璃空皇帝から得た。薪の調達先も確保した。
 この国を出るまで、ずっと。
 2人で楽しく、屋外調理して過ごそう、元就。」

「流石、叩き上げの戦国武将ぞ。逞しくも頼もしい。
 うん、そう致そう。楽しみよな。そなたの料理は、初めて食す故。」

「日の本とは食材が違うから、そう思い通りには作れんが・・・食べられる物には、仕上げられるつもりだ。」

「食べられるなら、文句は言わぬよ。名家だ何だと申しても、我も10歳以降は大概、色々と酷い暮らしをしておったからな。
 明と2人、食べられる雑草を真剣に吟味した事もある。」

「大丈夫だ、元就。流石に雑草よりはマシなモノが作れる。」

 大真面目に言った秀吉の言葉に、元就がクスクスと笑い出す。秀吉は彼の楽しげな声を、久し振りに聞いた気がした。
 粥を匙で掬い取り、口許に持って行って元就に含ませる。香りづけに青系の野菜でも使っているのだろうか。初めて食べた秀吉の粥は、元就の口いっぱいに爽やかな甘みが広がる、大変美味なものだった。

「美味であった。ご馳走様、秀吉。」

「どう致しまして。
 食欲はあるようで、安心した。」

「無かったが、出てきたのだ。料理上手だな、そなたは。」

「こんな形で披露する事になるとは、複雑だがな。
 もう一度眠るといい、元就。俺の事も国事の事も、何も心配しなくていいから。次の予定になったら起こしてやる。」

「ん・・・。」

 両の掌で元就の冷たい両頬を包み込み、左右の瞼にキスを落とす。元就は素直に横になり、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。
 次の予定は、璃空皇帝との会談。『あの』文劉皇太子の実父だ。
 予告された時間までは、まだ1時間以上ある。時間までに元就を車椅子に乗せ、秀吉自らが押して所定の会議室に出向かなければならないが、余裕だろう。
 結局、世話役は断ったままとなっているが、事ここに至ってはかえって幸いだった。どのような従者を付けられるにしろ、皇太子の意向に逆らえる人間とは思えない。元就も秀吉も、敵のホームグラウンドに居るのだ、2人きりで。
 本当は、元就はゆっくり寝かせておいてやりたいのだが・・・。
 限られた滞在日数で、予定された国事は全て終わらせねばならない。秀吉1人では会話にならないし、何より、元就を独りで寝かせておくのが心配だ。決闘を待たずに秀吉に毒を盛るような、卑劣な輩である。盲目で体力的にも弱り、術理も武器もない元就が、文劉一派に拉致される可能性は十二分にあった。
 簡単に食事を摂り、璃空皇帝から貸し与えられた車椅子を点検し、座布団などを整えた後は、机に向かって璃空語の辞書を開く。
 元就や部下たちだけに頼り切る訳にはいかないし、何が幸いするかも判らない。ゆっくりとでも、学び続けなくては。
 そうして勉学に集中しようと思っていたのだが・・・。

「いつまでそうしているつもりだ?」

 扉の向こうの気配。
 完全無視するつもりだったが、気が散って勉強に集中できない。攻撃的ではないが、故にこそ『薄くて脆い独特の気配』の持ち主が、何をしに来たのか読み切れない。
 この兄妹は、危険だ。秀吉は深い眠りに入っている元就をいつでも守れるよう、彼の寝台の縁に座り直した。
 扉ひとつも自分ではなく侍女に開けさせて、姿を現したのは案の定、雪月皇女だった。

「あ、あの・・・入っても、いいですか・・・?」

「侍女の帯同は許さん。壁の向こうに隠れている父親も離れろ。
 俺自身に異能の力はないが、対術者戦闘の訓練は受けている。お前が異能で俺を攻撃したなら、意思を示した時点で排除行動に移る。言葉の意味は解るか? つまりは、殺すという意味だ。
 皇族だから、巫女姫だから、あの兄の妹だから。そんな理由で手加減はしない。
 自分を守る盾が何ひとつない事を理解した上で。この部屋の敷居をまたげ。」

「っ、・・・。」

 雪月姫は、一度ビクッと体を震わせただけですぐ諦めたようだった。震える足で、一歩、部屋に踏み入る。
 父親の気配が離れていく。扉を閉めた侍女も、少なくとも気配は消した・・・アレは武装侍女、日の本で言う所の忍だ。
 扉の前で震えたままの皇女は、手の中に小瓶を握り締めていた。

「ソレは?」

「解毒の、お薬・・・お父様、から、毛利さまに・・・。」

 眉を顰めた秀吉の表情を、どう解釈したものか。その場に崩れ落ちた雪月姫は激しく泣き始めた。

「ごめんなさい・・・ごめんなさいっ!
 皇太子殿下・・・一番力、強い皇族。誰も止められない・・・言う事、聞いてくれない!」

「己が被害者の如き振る舞いはやめてもらおう、巫女姫。
 俺は今、とても失望している。後継者の暴走を止められない璃空皇帝に。皇太子を諌められない巫女姫に。
 国賓を性的な視線で眺め、男娼として扱う皇族。
 日の本では前例がない。」

「それはっ、豊臣さまだって・・っ、」

「失言だな。
 同意の許に恋人に抱かれるのと、内面を無視して性奴隷として飼われるのと。同じとは、思わないだろう? いくら世間知らずのお姫様でも。」

 音もなく、元就の寝台から秀吉が立ち上がる。
 震える皇女の傍に膝をつくと、わざとイヤらしい手付きで黒髪を弄んだ。欲望を浸み込ませるように頭を撫で、指の背で頬に触れる。親指の腹で唇をなぞると、若い娘らしいピンク色の口紅が、べっとりと指に付いた。
 不快そうに眉を寄せると、秀吉は蔑んだ眼で着物の袷に手を掛け・・・一息に引き摺り落とす。

「っ、きゃぁあぁぁ―――っ!」

「悲鳴を上げるのか? 同じ事を元就にしようとしている人間が。」

「ちがっ、皇太子、勝手に」

「同じだよ。見て見ぬフリとは、結局の所、同意と同じだ。違うというなら、同じになりたくないと言うのなら。
 奴を殺してでも止めてみせろ。俺の元就に近づかせるなっ・・・!」

「お待ち下さい、豊臣卿っ! どうか雪月は・・・失言をお許し下さい!
 私の不徳ですっ、息子も娘も導けなかった、私の・・・!」

 扉に縋って、父皇帝が必死に訴えているのが聞こえてくる。日本語で。
 冷たい怒りに脳裏を灼かれていた秀吉は、0.1度だけ冷静に近くなると、雪月姫を半ば引き摺るようにして扉の脇に突き飛ばした。
 黙って迎え入れた璃空皇帝は、真っ先に。
 秀吉に向かって土下座する。

「申し訳ございませんっ!」

「・・・・・・。」

「全て、私の責任です。
 文劉がお2人共に無礼を働いたのも、雪月が豊臣卿に失礼な物言いをしたのも、全て、我が教育の不行き届き。いかなる要求も私ひとりで」

「そういうのいいから。」

「っ、」

「元就が言ったろう、我らは実利主義だと。
 口先だけなら何とでも言える。こっちは100年内戦国家なものでな。謀も甘言も、少し前まで日常茶飯事だったし、今でも無縁ではない。
 聞き飽きてるんだよ、その場凌ぎの口先は。
 誠意を見せたいんだろう? 取り敢えず、その解毒剤とやらを飲んでもらおうか。」

「わ、たしが・・・?」

「ソレが毒ではないという証左が見たい。迂闊に飲ませて、元就の状態が酷くなるようでは困る。例えば精神を破壊する薬だって、見た目は水と変わらんのだ。
 現皇帝陛下御自ら、ソレを摂取して頂こうか。」

 覇王の眼力が、帝位を受け継いだだけの、ただの男の全身を射抜く。

「全て飲み干せ。その上で、同じ薬を雪月姫に取って来させろ。
 日の本は朝貢貿易をしない。奴隷も売らぬ。対等貿易を支配貿易に変えたくないのなら、言う通りにしろ。
 元就に何か異変が起ころうものなら・・・解っているだろうな?」

「は、はいっ!」

 親子によって秀吉の要求は速やかに叶えられ、元就には無事、正真正銘の解毒剤が与えられた。
 行儀よく小瓶を両手で握り締め、飲み干した恋人の、どのような些細な変化も見逃すまいと秀吉は真剣な瞳で見守っている。今、傍には誰も居ない。鶴姫も、元親も、他の仲間たちも・・・自分が、元就を守らなければ。皆に・・・特に、元親に顔向け出来ない。

「気分はどうだ? 元就・・・。」

「あぁ、大分良い。
 液剤故か、効きが早いな。呼吸が楽になってきたぞ、秀吉。」

「粘膜に作用する系統か?
 両の眼とも、白目が赤く充血しているぞ。」

「そのようだな。視力が戻った訳でもないのに、瞳が熱い。
 だが、出血する様子はない。薬効が馴染むと共に、充血は治まるであろう。」

「そうか。良かった・・・。」

 深い安堵に包まれた秀吉は、自然と元就を抱き締め、左右の瞼に口づけていた。
 症状が軽くなった事で、元就は普段の性悪さ・・・もとい、明晰さが戻って来たらしい。再び身を横たえながら、怯えた気配を発する皇帝と巫女姫に瞳を向けた。

「文劉は何故、我が身にココまで拘るのだ?
 26年生きてきて、随分と女に間違われてきた。一目惚れだのと口走る輩も多く見てきたが・・・あの皇太子の我への執着は、ソレらと引き比べても少々常軌を逸しておるぞ。
 秀吉に毒を盛るとは、正直申して我も予測の範囲外であった。
 文劉皇太子は、小奇麗な玩具ひとつの為に日の本と矛を交える気か?」

「息子にとって、毛利卿は『小奇麗な玩具』ではないのです。」

「璃空皇帝。」

「18年前の事を、本当に覚えていらっしゃらない?」

「・・・皇帝よ、そなたはひとつ、心得違いを致しておる。」

 だるい体に、見えない瞳。
 それでも元就の眼力だけは衰えない。卑屈な光を宿す璃空皇帝の瞳を、ギロリと睨み返した。

「文劉といい、雪月といい、そなたといい。18という数字を口に致す時、必ず『何で覚えていないんだ』と詰る気配が致すのだが。
 18年前、我は8歳。そして我は、10歳以前の記憶を、殆ど覚えておらぬ。
 我が10の年、毛利家内部で大きな政変が起こった。重臣の謀反で父上と兄上、義姉上は相次いで殺され、兄上の跡継ぎであった、幼い甥までもが殺された。
 戦の世の習いにしても惨い、それはそれは苦しみの伴う方法で・・・まだたった9歳の、幼い子であったのに・・・叔父として救ってやれなかった事が、今でも悔やまれる。
 我は幽閉されて、後々政敵の望むまま、異母弟と殺し合わされる羽目となった。
 側室腹の、仲の悪い子ではあった。だが死んで欲しいと思った事はなかったし、ましてやこの手で殺したい筈などなかった。
 我1人残されたのはな、政敵の家畜としての事よ。色々と珍しき血筋故。別名を愛玩人形とも申す。
 鶴とは・・・妹と我とは、血縁はない。全くな。
 恨みと汚濁のみを糧に雌伏していた、呪いの塊の如き我が、唯一人間性を守り得た理由よ。9つ年下のあの子を妹と思い、正しく導く事だけが、我の生きる意味であった。
 それで?
 そうして我が、ただ1人妹のみを心の支えに、血と泥の中を這い回っている間。そなたらは一体、何をしてくれたと申すのだ? 父が死んで使節が途絶えたら、それっきり。様子見ひとつ寄越さない。
 外つ国との絆など、この程度のモノかと苦く思ったものよ。
 我が死に物狂いで領国を統一している間も、他の術者の元締めのセクハラに、砂を噛んで耐えている時も。そなたらは、影1つ見せなかったではないか。
 10歳以前の記憶?
 そんな幸福感だけが取り柄の記憶など、持っていて意味などあるものかっ!」

「元就っ、元就、落ち着けっ。」

「忘れたよ、生まれてから10年間の記憶は、全てなっ!
 そんな状況でも、そんな薄情な国との記憶でも、覚え留めておかねばならぬ記憶があったと申すなら、述べてみるがいいっ。
 忘れた我が悪いと申す程、それはそれは御大層な催事なのであろうなっ?!」

「元就・・・。」

 抱き締めた秀吉の腕の中で、元就は歯を食いしばって震えていた。
 薬の影響や、盲目のストレスもあるのだろう。皇帝の一言を発端に、大分、精神が不安定になっている。

「今が、いい・・・今が一番・・、明は片倉を見つけた。元親は・・・いつか居なくなるが、まだ居る・・・我には秀吉が居る、から、平気・・・もう少しなのだ。もう少しで、戦わずに済むようになる・・・もう戦いたくない・・なかった・・・っ、」

「あぁ。もうすぐだ、元就。
 もうすぐ、医術や自然科学の研究にだけ、没頭できる日が来る。」

「んっ・・・っ、」

 秀吉は元就の頭を抱いて引き寄せ、紫茶色の髪を強く撫でる。額を自分の肩口に押し付けさせて、部外者に彼の泣き顔など見せない。
 誇り高い彼の弱い部分は、自分と元親だけが知っていればいい。

「璃空皇帝。そろそろ聞かせてもらおうか。
 18年前、元就と文劉の間に何があった? 文劉が元就を特別視する理由は何だ?」

 元就が落ち着いた頃合いを見計らって、秀吉は妹ではなく、父親に振る。
 文劉の父親は、力なく項垂れていた。

「・・・18年前、我が璃空帝国は荒れておりました。」

 当時の璃空皇帝は、文劉の祖父だった。
 内憂外患、様々な問題で家臣たちは割れ、相争い、そして祖父にそれを治める器量は無かった。最初に手間取った収束は更に難しくなり、大陸の介入も影を見せ始め、璃空は国土を戦火に晒す寸前まで来ていた。
 日の本は安芸・毛利家との貿易は、国の活路、その在り様を何処に見出せば良いのか判らなかった家臣たちの、模索の結果でもあったのだ。
 皇家は末裔たちを、国外に退去させねばならない所まで追い詰められていた。
 皇太子たる文劉の父=現皇帝は、務めの為に残った。
 3人の子は、全員が国土の外。
 第1子・文劉皇子、第2子・雪月皇女は貿易という伝手を辿って、安芸へ。
 第3子・文雷皇子は、人質として大陸の実力者の許へ。
 最終的に、文雷皇子を遣わした『大陸の実力者』の後援を得て祖父は璃空を纏め上げ、父に譲位した。
 乱れが鎮まって後は、すぐにでも3人共呼び戻される筈だった。
 だが大陸の預け先は文雷を大変に気に入り、養子として望む程だった。後ろ盾となるのも、『養子の実家』に対する援助だと。
 文雷皇子本人もそれを望み、そして安芸から文劉・雪月兄妹だけが呼び戻され、それぞれ皇太子・巫女姫の地位に就いて、今に至る、と。

「安芸では、毛利卿のご家族にとても良くして頂いたそうです。
 中でも次男の元就様には、よく遊んで頂いたとか。」

 兄妹は、森の中にひっそりと建てられた屋敷に匿われていた。その『森の屋敷』に、喘息の療養の為に先に住んでいたのが、8歳の元就だったのだ。
 広い屋敷の中、生活圏は別々だった。
 だが当時6歳だった流浪の次期皇太子にとって、同じ屋敷に年の近い子供が居る、というだけで、どれ程心強かったか。
 いつ故郷の土を踏めるか、国が無くなったら我が身はどうなるのかと、不安に駆られる夜でも、元就が編んでくれた花冠で心を慰めていたのだと。
 最も不安だった時に、拠り所にした相手。
 数ヶ月後、璃空に戻って皇太子の地位に就いてからも、文劉の中の『美しい幼馴染み』は特別で在り続けた。
 18年間、ずっと。
 恐らく文劉の中では、元就もまた己の事を想っていた、事になっている筈。
 秀吉は、悲鳴に近い怒号を上げた。

「これ以上ないってくらい典っ型的な、筋金入りのストーカーじゃないかっ!」

「ひとつ。この話を聞いても、我はまだアレの事を思い出せぬ。
 ふたつ。その境遇でヤツが心の支えに致すべきは、定めを分け合い、父母を同じくした妹であろう。
 みっつ。そんなに特別ならこの18年、何故に連絡のひとつも寄越さなんだか。
 結局、自分の中に作り上げたイメージだけで満足してしまっていたのであろう? ソレが偶然、目の前に現れた。周囲に置いている取り巻きとは毛色が違う。
 だから、欲しくなった。
 ほれ、やはり『小奇麗な玩具』ではないか。」

「返す言葉もございません・・・。」

「念の為、言葉として言い置くぞ。
 我が道行きは、秀吉と共に歩むべきモノ。文劉がソレを阻むのは許さない。
 明晩の決闘、もし文劉が死んでも騒ぎ立て致すな。日の本の王の1人が、璃空の皇太子を殺した。事実がそうだとしても、こちらにも言い分というモノがある。
 衆目の面前で我を侮辱致した罪。秀吉を毒殺せんと欲した罪。
 どちらかひとつでも、充分に璃空帝国を滅ぼす原因足り得るぞ。国力や軍備なら、日の本に長がある事を忘れるな。」

「御意にございます、毛利卿。」

 拝跪・拱手する璃空皇帝。雪月皇女も父に倣っている。
 それは璃空ではなく、大陸の作法だ。
 元就は、何故か気味の悪いモノを見た気分で深い溜め息を吐いた。璃空皇帝家の源流が、元々大陸にあるのは知っている。独特の文化が花開いたと言っても地理が近いし、大陸からそう乖離した風習にはならないのは、当然と言えば当然なのだが。
 歴とした民の礼儀作法が確立されているのに、何故、璃空皇家の人間から自然に出るのは、大陸の礼儀作法なのだろうか。
 どの国でも、礼儀作法とは国民性に深く関係している。『礼』とは『益』では譲れない、矜持に根差したものだからだ。それは策の為に散々『益』を利用してきた元就が、一番よく分かっていた。
 璃空皇家の人間が、璃空の民の作法に従わない。
 ソレが、この国の病理を端的に表している気がする。

「お下がりあれ、璃空皇帝、巫女姫。
 本来の予定であれば、皇帝と我らはそろそろ会談の時間なのだが・・・互いに、今は事務を執れる状態ではあるまい。
 諸々の話は、明晩の決闘の後、という事で。」

「かしこまりました、毛利卿。
 官吏たちにもそう申し伝えます。元々は我が愚息の悪行が発端。本日は全ての予定を取りやめと致しますので、豊臣卿とゆっくりとお過ごし下さい。
 この宮殿、城下とも、ご自由に散策して頂いて結構でございます。」

「そうする。」

 短く返した元就は、2人が退出すると、ばったりとベッドの上にうつ伏せに倒れ込んだ。相当疲れたらしい。

「大丈夫か、元就。」

「ん・・・。」

 背中を掛け布団で覆って暖め、優しく髪に手櫛を通して体温を移す。
 そんな秀吉の慈しみに、元就は見えぬ瞳を閉ざしたまま、謝罪の言葉を口にする。

「すまぬな、秀吉。
 共に船に乗ったのが、他の者だったなら・・・仕事の話も、もっと迅速に進んだであろうに。文劉めが執着致すは、我単品。他の者、それこそ義弘や政宗ならば、少なくともこんなトラブルには見舞われなかったであろう。」

「らしくもない事を言うな、元就。
 それにある意味、このタイミングで良かったのかも知れぬ。文劉は遅かれ早かれ、お前に魔手を伸ばしてきた筈。あまり貿易の仕組みが複雑になってから事が起こったのでは、身動きが取りづらくて、かえってお前の身を危険に晒したかも知れん。
 災いの芽は早くに炙り出し、叩き潰すに限る。」

「そう、かも知れぬ。」

「そうとも。
 それにな、元就。少なくとも島津は、トラブルが起こらぬ内に持ちかけても船には乗らなかった筈だ。固辞して俺を推薦しただろう。」

「?? 随分な自信だな。」

 秀吉は自身も横になり、掛け布越しに後ろから元就を抱き締める。元就の方も秀吉に向き直り、身を寄せた。
 右の繊手で頬に触れられて、秀吉は少しだけ体温の戻ってきた掌に頬を摺り寄せる。

「元就。お前は、島津に初めて会った時の事を覚えているか?」

「いや? いつ、の事で、あったかな・・・。
 西国武将の何かの集まり・・・否、そんなモノは無いし・・特に同盟らしい同盟も、持った事はなかったし・・・まぁ十中八九、戦に纏わる場であったと思うが。」

「正解はな、『島津が同盟を結んでいた相手を元就がフルボッコにした際の戦場。駆けつけた島津が血塗れのお前を一方的に目にして、あまりの迫力に声を掛けられなかった。』だ。」

「判るか、そんなモンっ。」

「初めてお前を目にした時、こう思ったそうだ。
 『瑶姫が蘇って、恨む相手を殺して回っている。』と。」

「・・な、に・・・?」

 瑶姫。ようひめ。
 頭の中で反芻し、元就の瞳が僅かに見開かれる。それは彼が5歳の時に毒殺された、母の名だったからだ。
 何故、義弘がその名を気にするのか。

「お前の父の生前、島津はよく酒を酌み交わしていたらしい。瑶姫殿にも酌をしても らっていたとか。
 髪色が違う以外は、お前は顔かたちが母に生き写しだそうだな。」

「・・・知らんぞ、我は。父上と義弘が一緒に居る所なぞ、見た事がない。」

「10に足らぬ童の前で酔っ払って、怪我でもさせてはと自重していたらしい。
 お前は体が弱くて、いつ行っても眠っていたそうだ。寝顔と、遠目に遊んでいる様子しか見た事はないそうだぞ。」

「・・・・・・。」

「意識した事はなかったが、お前の父とは、友と呼べる関係だったと。
 本当に無意識で・・・お前の父が倒れた時も、戦国の世の習いと突き放して・・・。
 戦場に立つ元就を見て、己の過ちに気付いたそうだ。」

「あやま、ち・・・何が、だ。」

「あの時、毛利家を突き放すべきではなかったと。お前1人でも掻っ攫って、島津家で保護すべきだった、と。
 そうしたら少なくとも、あんな・・・昏い目はさせなかった。全てを拒絶するようなあの目が、一番に責めているのは島津自身な気がして、怖かったそうだ。疚しい事がある者特有の、被害妄想だと判ってもいたらしいが。」

「・・・・・・。」

「お前と元親の関係が、見ていられなかったとも言っていた。真っ平らな玻璃の板を撓めて、少しずつ、自らの手でヒビを入れていっているようで・・・。
 このままでは2人共が危ういと。
 そうして案じている時に、俺がお前に惚れている事に気付いたらしくてな。」

「諸手を上げて応援してやる、とでも?」

「いや、逆だ。
 サシ飲みに誘われて『半端な覚悟で手ぇ出して、引っ掻き回して終わるようなら承知せんぞ。』と。据わった目で・・・物凄く真剣な目で、試された。
 お前を想う故だ、元就。」

「・・・だ、・・から・・・何だと申すのだ。」

「あぁ。」

「今更・・そんな事を言われた所で・・・された所で、昔の・・・我の苦しみが減るものか。我が、どんな思いで・・・どん、な・・・っ、」

「あぁ。そうだな、元就。
 いつか、謝りたいと。そう言っていた。」

「・・・知る、か・・バカ者・・・・。」

 細い声でそう言ったきり、あとは言葉にならず。肩を震わせる元就の背を、秀吉は穏やかな手付きで優しく撫でていた。
 鶴姫にも。秀吉は、正反対の言葉で同じ事を言われていた。曰く『長曾我部さんから奪っちゃって下さい☆』と。
 自分はいつか、奥州は伊達領の、小十郎の許へ行く。だがそれは同時に、兄を独りにする事でもある。ずっと傍に居ると言ったのに・・・共に生きてきたのに。元親もいつか、海に出てしまう。海賊としての彼の生き方に口出しも出来ないし、誰か兄の傍に寄り添ってくれる人は居ないものかと。
 そうして彼女が白羽の矢を立てたのが、秀吉という訳だ。
 元親だって、苦しんでいる。元就の傍で生きたい気持ちと、未知の海への愛着。間を取るような、器用な生き方が出来る男ではない。置いて去られる事に怯えている元就の、繊細な内心にも気付いている。
 そうして苦しんだ中で出した答えのひとつが、『元就の心を賭けた喧嘩』なのだ。

「秀吉・・・?」

 また泣いてしまった。
 そういう顔で瞼を擦る元就を、その身をギュッと抱き締める。秀吉自身も含めて、この身ひとつの中に、一体何人の人間の、どれ程の歴史と愛情が詰まっている事か。
 ソレを知らない、知ろうともしない輩が、無造作に触れて良い存在ではないのだ。

「大丈夫だ、元就。
 何も心配には及ばない。共に日の本へ帰ろう。」

「? あぁ。信じている、秀吉。戦も知らぬボンボン育ちに、そなたが負けるものか。」

「昼餉は何が良い? 当分、食材には余裕があるからな。何でも作れるぞ。」

「そうだな・・・。」

 泣きやんだ元就は、穏やかに笑っている。
 この笑顔を、秀吉は国許の仲間たちに見せてやりたいと思った。



 決闘は、璃空伝統の裁判方法だ。
 明文化された法理は勿論あるが、ソレでは埋め切れない感情的な部分の白黒をはっきりつけたい場合に用いられる。
 具体的に言えば、名誉棄損だの、恋人を取った取られただのという泥沼を無理矢理にでも決着させるには、腕力を示して見せるのが一番後腐れがない、という訳だ。
 まさに、今回の事案に相応しい。

「対戦者・ヒノモトの王・豊臣秀吉卿、璃空帝国皇太子・夏文劉皇子!
 経過文・豊臣卿の伴侶にして、ヒノモトの王のお1人・毛利元就卿に皇太子が求婚した。毛利卿に断られた結果、文劉皇太子が豊臣卿に、座を譲り渡すよう求め、決闘を申し込み、今に至る。
 挑戦者・夏文劉、応戦者・豊臣秀吉!」

 能書きは意外と公平なのだなと、元就は少しだけ璃空の習慣を見直した。
 神事の側面があるから偽りは許されないのであろうし、『余計な仕事増やしやがってあのバカ太子』的な、官吏たちの不満も多少はあるのだろう。
 璃空の主神は法を司る月の神。故に決闘も、神が見守り給う夜の斎園(さいえん)・・・日の本で言う所の、神社の神域内で行われる。
 見えぬ元就の耳に届くのは、焚かれた松明の火が爆ぜる音、少人数の気配、それに神官の使う聖水の水音くらいだ。
 地味に外交問題も孕んだ神事だけに、関わる人間は最小限らしい。

「両者、前へっ!」

「しばし、お前の傍を離れる。元就。」

「あぁ。
 我の事なら案ずるな、秀吉。そなたは、自由に戦えばそれで良い。」

 元就の車椅子の足許に、秀吉が跪いたのが気配で判る。
 彼の大きな右手は、元就の白皙の美貌、その血色の戻った左頬に触れていた。

「行ってくる。」

「武運を。」

 これから戦う男の拳、その両方に、元就は軽く唇を触れさせる。
 璃空の古式に則った作法で、妻が夫に示す、武勲祈願を表す仕草だ。
 そうまでして見せても、秀吉の前に立った文劉はまだ不敵な笑みを浮かべていた。

「略奪者に見せつけるのが、ヒノモトの作法ですか?」

「狩猟民族でもあるまいし、略奪するのが璃空の作法とは、思いたくないがな。
 夏文劉。
 18年前の経緯は、お前の父上から聞き出した。」

「あなたも仰いますか。父と同じように、『歪んでいる』と。」

「頭ごなしには、言わぬ。
 実の所俺も、アレの前の恋人から、元就を奪った面は否定できぬからな。」

「・・・・・。」

「問う。元就は、日の本に帰れば視力が戻る。本人も視力を欲している。
 それでもお前は、璃空に閉じ込める気か?」

「是。」

「元就には日の本に果たすべき責任が山積し、本人もソレを果たす事を望んでいる。
 それでもお前は、璃空に残れと言うか。」

「是。」

「元就を愛する人間が、日の本に沢山居る。長年絆を温めてきた相手、最近になってやっと誤解が解けた相手、伝えられなかった思いが伝えられそうな相手も。
 親しい者に別れも告げさせずに、一方的に奪う気か。」

「是。」

「最っ低だな、お前。」

 元就に毒を含ませた事すら、謝罪の対象とはしないらしい。
 取り敢えず一発殴っとこうコイツ。
 秀吉は何も考えずに思いっ切り、文劉の仮面の笑顔に拳を叩きこんだ。
 同じ頃、元就の方にも雪月姫が訪れていた。

「文劉がそなたと絆を結べなかった理由が、判る気がするぞ。」

「?」

「18年前の話だ。」

 雪月姫が黙って唇を噛む。
 取り囲んでいるのは雪月姫と皇太子の部下の方なのに、まるで動じていない元就は、心底からと判る余裕で車椅子の肘置きに頬杖をついていた。その見えざる視線は、近接格闘技戦となった秀吉・文劉から・・・秀吉から離れていない。
 雪月姫など、まるで映さない。

「日の本に7人の王あり。その1人に、徳川家康という男が居てな。
 絆だ仲間だと、まぁ小うるさい男よ。
 その徳川家康という男がな、申すのだ。
 絆とは、相手に対して何をしてやれるか。何が相手の為なのか。ソレを考え、また実行に移す事だと。大事なのは、ソレが双方向である事だそうな。
 自分が相手に何をして欲しいか、よりもな。」

「わたし・・・皇太子殿下に、何も望まない。でもちゃんと、ご命令に従う。それが皇太子殿下の為だから・・・。」

「だが、そこにそなたの意思は無い。命令されたから、こなしている。それだけぞ。
 絆とは申さぬ。ソレは無償の愛などでなく、単なる『隷属』だ。」

「だって・・・兄上がそうしろって言うから・・・お父様もそうしろって・・・。」

「家康の申す要は『自発的』という点ぞ。
 夏雪月。
 そなたには自分の意思というモノが無い。常に他人の傘の下。だけでも情けないが・・・傘としたその他人をすら、思い遣らず、親しまず、愛さず。責任逃れの理由にする為だけに、他人の傘下に降っている。
 6つの文劉にそなたの兄役は、いくらなんでも荷が重かったであろうよ。その点だけには素直に同情してやる。
 兄太子に従うは、本当に兄の為か? 立ち止まる勇気や自由を持った上の事か?
 己が命に刃が振り下ろされるその瞬間も、全ては兄のせい、で納得できるか?」

「なんで・・・そんな事、言うの・・・?
 18年前は、もっと優しかった・・・いっぱい折り紙、教えてくれたのに・・・!」

「折り紙、な。今の我は、鶴しか折れぬが。
 いっそ人違いではないのか?」

「!!」

 雪月の紅い瞳が光り、掌中から巻き起こった風は嵐となって元就に襲い掛かる。『璃空一の術者』という触れ込みは、満更嘘でもないらしい。
 だが『日の本一の術者』の方が、一枚も二枚も上手だった。何と言っても彼は戦国屈指の『謀神』、詭計智将なのだ。
 完全に風の球体に巻かれた元就は、しかしソレが収束してもまるで無傷だった。淡々と、呆れたように肩を竦めている。

「故国の風に見限られた巫女姫か・・・真実、かなり、情けないな。」

「ど・・して・・・毛利さま、ヒノモトの人・・・。
 例えば目が見えたとしても、璃空の精霊が遣える訳、ない・・・!」

「精霊、遣う・・・その単語は興味深いな。璃空の術者は、『森羅』をそう捉えるか。」

 術者の顔でそう呟くと、元就は不意に車椅子から立ち上がった。
 元々、足を悪くしていた訳ではないのだ。秀吉の過保護と、毒の名残りで立ちくらみなどしても恥ずかしいという見栄・・・もとい、誇りがあって、大事を取っていただけで。
 見えぬ証拠に瞳を閉ざしたまま、彼は虚空に両手を差し伸べる。
 まるで、何か大事な物を受け取るかのように。

「日の本では、そのように人に準え、人に引き寄せた考えは致さぬ。」

 その両の細腕を中心に、風が巻いていく。ゆるゆると、穏やかに。空気の流れが生まれ、小魚でも身を寄せ、戯れているかのように巻き付き、そして・・・見る間に大龍となった風は、宝珠の如き立体的な円形の結界を作り上げた。
 優雅な威を備えた元就に、半透明の龍が纏いつき、懐いて、従っている。
 風が発生させる静電気で、元就の細身全体が淡く発光しているようにも見えた。優雅で、儚げで、毅く、美しい。『女神』の如き、その威厳。

「風、の、王様・・・。」

 呆然とする雪月の呟きに、元就はいっそ優しげなくらいの微苦笑を見せる。
 彼我の差は歴然、彼にとっては彼女など、敵視にすら値しないのだ。

「風が、我を認めたのだ。」

「風・・・? 風の、精霊?」

「否。精霊ではない。ただの、風。
 敢えてそれに近い申し様を致すなら、『風という属性が強く出ただけの、ただの力』か。」

「??」

「力の流れを感じよ、雪月。
 風だの火だの大地だの、器に捉われずに、更にその根源を視るがいい。風だの火だのを形作っている、大元の力をな。
 その流れを正しく理解し、己が意思を添わせる事が出来れば。
 日の本だろうが璃空だろうが、あるいは南蛮だろうが。どの土地でも、森羅は力を与えてくれるだろう。」

「しん、ら・・・?」

「万象の源、世を形作る、大元の『力』だ。大陸では『龍脈』と呼称される力。日の本では古くより『森羅』と呼び、精霊というよりは・・・どんな土地、空間にでも等しく存在する力の・・・そうよな、『粒子』のようなイメージで捉えられておる。
 そなた、年は23であったか。
 その割に童のようだな。外国語である事を差し引いても、話の内容が幼い。自我が未発達で・・・まるで8つの頃の妹と話しているような心持ちになる。
 まぁあの子の方が数段、愛い子ではあるが。」

「・・・・・・。」

「申したくない、か。
 別に良いがな。我もそなたに、そう興味がある訳でなし・・・さて、秀吉の方はそろそろ終わったかな?」

 俯いた雪月をあっさり放り出して、元就は恋人の方へ意識を向ける。
 文劉が妹を使って元就の拉致を試みる事は、予想出来ていた。向こうには『璃空一の術者』が居る。元就もまた術者というのは伝わっていた筈だが、力を失っているのでは勝負になるまい。と、普通は考えるだろう。暴力で妹を支配しているあの皇太子に、彼女を使わないという選択肢は存在しない。
 元就VS雪月皇女。
 秀吉VS文劉皇子。
 そういう構図になる事は、判っていた。

「ふむ。
 今イチ『王子様役』になった気がせんな。」

「だから申したであろう?
 我は賭けに勝つと。」

 屍の山の麓で、秀吉は微妙に憮然とした顔で元就を迎える。その屍山は文劉の手下で築き上げたモノで、頂点にプリンのカラメルよろしく乗っかって伸びているのが、璃空の皇太子様である。
 策士・元就が、今回唯一仕掛けた『賭け』。
 それは他ならぬ自分自身が、璃空という土地の力を借りられるか。この世の万物の根源『森羅』を見抜き、物理的な力として引き出し、かつ、雪月の能力を圧倒できるか。
 その賭けに、元就は勝った訳だ。

「俺にはその凄さが、薄っすらとしか判らぬが・・・。
 本来は、生まれ育ったのでもない外国で力を使うというのは、無理なんだよな? 出航前にそう言っていたように思うが。」

「うむ、無理だ。
 天意レベルの例外の他は唯一、森羅を見抜く眼がない限り、という注釈が付くがな。
 どのような異能であろうと、扱うのが人間である限り、その器は人間の体だ。体に霊力を満たし、体に備わった特性を引き出して、物理的・精神的な作用を及ぼす。
 そして肉体を司る五行は『土』。
 どのような体も土で出来ているし、その土地で採れた作物や、育った獣を摂取し、取り込んで維持されている。どうしたって、土地から離れられないように、制約と無縁で居られぬように出来ているのだ。
 今回は限りなくマグレというか、力技よな。
 璃空の作物は摂取しておったとはいえ、時間的にはギリギリであった。我が肉体が真実、璃空の地に宿る森羅を視られるレベルで、この土地に馴染んだか。
 裏を取る暇がなかった。
 馴染んでいたとしても、我が『眼』が・・・感覚が、必ず璃空の『森羅』を見極め、従えられるか。これまで26年間の我が研鑽が、そのレベルに達しているか。
 土壇場にならねば判らぬ部分が多過ぎた。
 だから、やはり我は『賭け』に勝ったのだ。」

「戦闘中にランクアップ・・・。
 その手の熱血系少年誌的展開とは、最も無縁であろう詭計智将が・・・。伊達や真田辺りが聞いたら、地団太踏んで悔しがるんじゃないか? 自分がやりたかったとか、何とか。」

「はっはっは♪
 愚かな青少年共め。そんな少年誌的展開を体現するには、メンタル的に少年では居られぬという矛盾に早く気付くがいい♪
 いつ気付くであろうな。あ~、愉快愉快♪」

「お前、ホント性格悪いなっ。」

「フフッ、この程度は、覇王の伴侶として当然の嗜みだ♪」

「はいはい。」

 自由の身になった己を満喫し、はしゃぐ元就。別に手枷足枷で拘束されていた訳ではないが、精神的な負荷は相応に掛けられたのだ。誇り高く自律を尊ぶ元就が、解放感に満たされるのも道理ではある。
 手懐けたまま側に置いている風の龍は、動物の本能程度の知能はあるようだ。元就は龍の鼻先で璃空近衛の旗を振り、追い掛けさせて遊んでいる。
 秀吉はふと思いついて、屍の山に凭れ、片膝を立てたまま、元就を手招いた。

「おいで、元就。」

「秀吉?」

「元就。」

 風の龍を散らし、元就は素直に秀吉の声に導かれ、彼の正面に座る。
 秀吉は再度、愛しい恋人の名を呼ぶと、静かに口づけた。

「昂ぶっているのだな、秀吉・・・。」

 チュク、チュ、と唇でわざといやらしい音を立てて吸い上げる秀吉の口淫に、元就は陶然とした表情で応え、彼の股間にその繊手を伸ばす。
 ほっそりした綺麗な指先で、扱かれたり、撫でられたり。淫らな手技を施されていく秀吉の分身はムックリと勃ち上がり、ブルブルと震えると、見る間に両の掌に収まらないサイズに成長してしまう。
 我慢できない秀吉は、荒っぽく元就の腰を引き寄せると細身をひっくり返し、拘束するかのような強さで後ろから抱き竦めてしまった。
 首筋にかかった彼の獣のような吐息に感じてしまって、元就が首を反らせて色っぽい息を吐く。
 自分が育てた彼の分身に揺すり上げられて、柳の腰つきがねだるように跳ねた。

「ここ、が・・・何処だか、判っておろうな?」

「あぁ。屋外で、神域で、死体の傍、だ。どうせ明日の朝まで、誰も来ないが・・・。
 不敬だと思うか?」

「まさか。そなたの纏った血の匂い、ゾクゾクする・・・。」

 上物を全て剥ぎ取られて、白い柔肌が露わになる。秀吉という獣に食い散らかされる前の、瑞々しい果実のようだった。
 嬲るように耳朶を甘噛みされ、頬を舐められ、そして首筋に歯を立てられる。
 思わず声が出そうになるのを、元就は反射的に手の甲で口許を押さえて堪え切った。だが、感じ切った息遣いまでは止められない。
 後ろから優しく顎を撫でた武骨な指先は、咽の柔らかい部分を弄ぶと、鎖骨の縁をなぞり、すぐに胸の粒をいじり始めた。血潮の昂ぶりを示すように荒々しく、何処か男の色気を含んだ指先が、元就の敏感に尖りきった部分を攻め立てる。

「っ、ぁ、・・ぅんんっ、・・・・ひで、よし・・ひでよし・・・っ、ねだっても、良いか?」

「どうした? 元就。
 部屋に行くか?」

「いや・・・その、逆ぞ・・ゃっ、・・ココで、さい、ごまでっ、ひゃ、・・。
 最後まで、して欲しい・・・、な、かに、」

 舌を挿しこまれて唇を吸われるのは、何だってこんなに気持ちイイのだろう。
 対面座位に向き直らされ、色に霞む頭の隅で、元就は微かに考えていた。
 元親に抱かれるより気持ちイイのは、きっと多分、相性とかテクニックとかそんな表面的な事ではなく。一過性ではないから・・・刹那に通り過ぎる体温ではなく、どっぷりと馴染んで、安心して良いから。ずっと傍に居ると言ってくれたから、だ。
 自分の人生上、元親と『そう』なれたのなら、客観的にも主観的にも最も理想的な大団円だったのだろうけれど。
 今は、秀吉がイイ。
 秀吉と『そう』なりたい。

「元就・・・挿れるぞ・・?」

「んっ、ぁ、はぅっ、・・だ、め、うごかし、ちゃ」

「俺のを、動かしてるのは・・・、お前のナカなんだがな・・っ、」

「・・お、く・・・ぁ、あぁ、・・ゃ、っっ、そ・・んっ、」

「ココが、イイんだろう?
 ねだられる、までもなく・・・判る。お前の躰は、理性と違って正直だな?」

「ぁ、んっ、・・・ひ、とこと、多いっ、あ、また・・。
 ナ、カで・・・おっきく、なるのとか・・・はんそ、く、っぅんん、」

「一番大きな俺で、オクまで突いてやろう。元就・・・。」

「ぁっ、ダメ・・・っ、ちょ、ぁっ、ぁぁっ、」

 秀吉は元就の細腰を押さえつけて、自分の股間にまたがった恥ずかしい姿勢のまま、身動きを取れなくしてしまう。彼がリズミカルに突き上げる度、そして元就が自分で動く度に、ジュブッ、ヌチャッ、と、濁音交じりの淫らな水音が響いて2人の耳を犯していく。
 両手の10指全てで、しなやかな背筋を嬲るように撫で上げると、敏感に跳ね震えて身をよじる。その動きが乳首をすりつけて甘えているように見えて、たまらなくエロ可愛い。
 気に入った秀吉は戯れに、脇腹や、首筋にまで色に溺れた指先を伸ばす。
 特に強めにうなじを嬲られて、元就は一際甘く高い声を出した。

「っ、ゃ、も・・・こえ、だす、の・・・やぁっ、っんぅ、」

 彼の首に腕を回すと、熱く火照った唇を、同じ情熱を宿した秀吉の唇で塞いでしまう。
 声を出して愉しませる代わりに、上の口で奉仕する番だった。そして下で施されている淫らな侵入・・・その同時進行に、何処まで耐えられるか・・・色の滴るチキンレースだ。

「ひ、でよし、っ、もう・・ダメ・・・っ、い、ぁぅっ、」

「俺もだ・・・お前のナカ、気持ち良過ぎるぞ、元就・・・。」

「ぁ、ぁぁっ、」

 儚く艶めいた細い声で、元就が先に意識を手放す。
 耳に尾を引くその声を、堪能してからしっかりイった秀吉は、力の抜けた華奢な肩を抱き留めると、改めて抱き寄せた。
 色めいた汗に濡れる白い肌に、口づけを捧げて上着を着せ掛ける。

「元就・・・。
 日の本に帰ってから、お前を抱ける月夜の晩が楽しみだよ。」

 紙燭の薄明かり、古畳の匂い、柔らかい和布団。
 視力を得て、真っ直ぐに自分を見るであろう、恋人。
 故国で味わう元就の肢体は、また一味違う代物である気がした。



「それで、だ・・・。」

 文劉皇太子の魔手を躱し、無事に日の本へ帰国した元就はそれでもなお、半眼で溜め息を吐いていた。
 その理由については秀吉も、三成ですら遠い目になって苦笑せざるを得ない。

「何っっで、そなたまで日の本に居るのだ、雪月っ!!」

 璃空帝国第一皇女・夏雪月。
 大阪城内でのほほんと茶をしばく彼女は、実はかなりなVIPである。本人にその自覚がないのは、『気さくで隔てのない皇女』と好意的に取るべきか、『無邪気に傲慢で放漫な皇女』と悪意的に取るべきか。
 来たばかりで相変わらず日本語もたどたどしく、その真紅の瞳に宿す感情は幼い。

「わたし、毛利さまに敗けた。国を守れない巫女、要らない・・・退位。
 修行要るから、ヒノモトに留学っ♪」

「留学というのはな、優れた者がより一層の研鑽を積む為に致すモノぞ。
 そなたは故郷の術理を学ぶ方が先決であろうがっ!」

「だって、兄上様とお父様がそうしろって。
 わたし、負かした人が次の巫女姫。毛利さま、次の巫女姫。新しくて優れた巫女姫の許で修行するのは『理に適った事だ』って。
 わたし、新しい巫女姫の弟子っ!♪」

「知るかボケ―――――っ!!」

 魂の奥底から叫んだ元就に、聞いていた政宗と義弘は腹を抱えて笑い転げた。
 つまりは、まぁ、そういう事だ。
 皇太子・巫女姫が国賓に行った暴挙は、全て現皇帝の監督不行き届きで片付けられた。現皇帝自身は本当に普通の凡庸な、野心の欠片もないような男なのだ。後継者育成に失敗した責任は重大とはいえ、少々哀れではある。
 璃空滞在3日目の決闘。
 滞在期間は、5泊6日。
 残りの日程、元就と秀吉は下の官吏たちとの調整にだけ費やした。あの兄妹が離宮に謹慎させられている、ただそれだけでなんという安心感だった事か。
 一連の事件のせいで、璃空側はてっきり、日の本側が無理な条件を突きつけてくると思っていたらしい。弱味に付けこまずに、後々まで対等でいられるよう条件を詰めていく2人の姿に、むしろ『流石ヒノモト、サムライの国だ。』と、2人にとっては少々不本意な感動の仕方をされた。
 公私混同厳禁、プライベートで掛けられたちょっかいのツケを、ビジネスに還元はしない。しかも、何の罪もない官吏相手の交渉で。
 特に相談する事も無く、自然に振る舞いを一致させていた2人は、璃空側の態度でやっと互いの協調ぶりに気付き、苦笑の顔を見合わせたくらいだ。
 そうして最後は、璃空官吏の尊敬と自国への信頼、そして『返礼品』という名の多額の口止め料・・・慰謝料を船に山積みにして、帰ってきたのだが。
 後を追って出航した船が、もう一艘。
 皇族専用の御座船に乗っていたのは、誰あろう『前』巫女姫・雪月皇女だった。

「いや~、何度聞いてもウケるわ~、その話♪」

「一国の皇太子『妃』の次は、巫女『姫』として望まれるとは。
 『女』偏、付き過ぎじゃろ。安芸毛利の『美女』の血、恐るべしっ!」

「しかも、弟子まで女とか有り得ねぇしっ!
 いつもオレらの予想の斜め上を行くよな、アンタっ♪」

「既に璃空側には、『現』巫女姫として登録されとるんじゃろ?
 戦もせず、むしろ領土を『献上』させるその手腕! 流石ワシらの詭計智将じゃぁ♪」

「・・・よくぞ申した、義弘、政宗・・・。武には武で、術には術で対するのが安芸毛利の流儀である。
 そこへ直れ2人共ォッ!!!」

「お茶が入りましたよ~っと♪
 ヒノモトの緑茶、お代わりは如何? お姫様。」

「いただきます♪ このお茶、美味しい。璃空のより、好き。」

 盟友2人を刃物で追い回す『師匠』の姿を、スルーして湯呑に手を伸ばすのは皇族特有の鷹揚さなのだろうか。
 素直に佐助に手を引かれ、卓の前で正座の仕方から教わっている雪月姫を眺めながら。
 態度を決めかね、彼女に声を掛けかねている鶴姫は、秀吉の袖を引いていた。

「秀吉公・・・。」

「お前は気にしなくていいぞ、鶴姫。
 どうせすぐ璃空に送り返す娘だ。外交的に考えれば、アレは、金銀だけでは示し切れない謝罪やら信やら戦意のなさを強調する為だけに、皇族の身柄を預けられたと見るのが妥当だろう。
 この日の本で、我らが璃空で過ごしたのと同じ程度の時間。5泊6日にもう1日くらい色を付けて、6泊5日程度。一般的な礼節の許に日常生活を送らせて返せば、それで充分だ。
 向こうの機嫌取りの延長。主導権はこちらにある。
 位階でも鶴、お前の方が上だ。
 向こうは失態を犯して地位を失い、半ば国外追放の皇族の末席。
 こちらは毛利当主の妹にして、豊臣当主の義妹分。伊達当主腹心の婚約者で、日の本一の霊力と稀なる先見の瞳を持つ、屈指の巫女姫。語学に堪能で、日本語・璃空語・オランダ語・ラテン語・フランス語・英国語。6か国語で交渉をこなし、医学・薬学の専門家でもある。その上実戦に出れば、百中を誇る一流の弓使い。
 血統と従順さだけが取り柄のエセ先見など、比較になるまい。」

「秀吉公っ。」

「事実だが、何か? 言い足りぬ部分はあっても、偽りの部分はないぞ。
 世話役の侍女は豊臣で付けるから、お前は普通に仕事してろ。向こうから膝を屈して挨拶に来るまで、声も掛けなくていい。」

「責任重大すぎ乙・・・。」

「そうだ、璃空から貰った金銀で、何枚か着物を仕立ててやろう。
 お前はほうぼうを飛び回って仕事をしているから、着物の傷みも早いだろう? 袖口のほつれた打ち掛けなど着て出ては、相手に舐められる。
 女子なら洒落た物を身に付けるものだ。色は、ピンクが好きなんだったか?」

「・・・なんというか・・・兄様が秀吉公にオちた理由が、判る気がします。」

「??
 普通だろう、この程度の気遣いは。元就の妹は俺の義妹なのだから。」

「全然ですよっ。
 私、長曾我部さんに着物の心配とか、してもらった事ありませんものっ! 兄様の妹だって事、長い事内緒にしてたとしても、アレはナイっ!」

「をいをいをい、なぁんか聞こえたぞぉ?」

「長曾我部さんっ?!」

 ドロ~ンと淀んだ気配に黒炎を纏わせて、キュピーンと隻眼を光らせて。背後から鶴姫の肩を掴んだのは、誰あろう『元就の元カレ』、西海の鬼だった。
 引き攣った口許に青筋を立てて含み笑っている。
 彼と、彼の背後でニッコリとさりげなく距離を保つ小十郎は今の今まで、鶴姫の愛する薬草園で草むしりに従事していたのだ。

「元就のツレの座ぁブン投げても、俺ぁお前のアニキ分の座まで放り棄てた覚えはねぇんだがな? お兄ちゃんをそんな風に言うなんて悲しいなぁ?」

「だってホントの事じゃないですかっ!」

「なにっ?!
 服が欲しいならそう言えってんだっ!」

「言われる前に気を回すのが男の甲斐性なんですっ!」

「鬼ヶ島の鬼相手に、よく吠えたっ!
 過去ン10年分の着物、まとめて仕立ててくれてやらぁ!」

「残念でした、お着物は秀吉公から頂くので要りませ~ん♪
 先に言っちゃうと、髪飾りとか小間物は、片倉さんにおねだりするので要りません♪
 お化粧品も、習いがてら前田のまつ様から沢山頂いたから、当分要りません♪」

「?・・??・・・・・??????
 着物と小間物と化粧品以外で、女の喜ぶモノ??」

「あぁん、もぅっ! 沢山あるじゃないですかっ。
 もっとちゃんと、軍略レベルに真面目に考えて下さいっ。頭良いんだから使って!」

「物見遊山でも連れてってやったらどうだ?
 四国は風光明美で有名だろう。札所参りの関係で、宿や道も整備されているし。姫は伊予出身とはいえ、伊予に居た頃は殆ど神社から出ない生活だったと聞く。神社と、あとは戦場しか知らぬと。せっかく美しい土地と縁があってソレは、寂しい話じゃないか?
 改めてゆっくりと四国の美景を目に焼き付けるのも、新鮮で楽しかろう。」

「おぅ、そうかっ! そうだなっ!」

「秀吉公っ、答え言っちゃダメですっ。
 長曾我部さん、物見遊山以外のモノをお答え下さい。そんなんじゃ、ご正室様に惚れ直してもらう事なんて、一生かかっても無理ですからねっ?!」

「ソレ、お前が言ってるだけじゃんっ。」

「い・い・か・ら、考えるっ。
 ビバ男としての成長っ!」

 元親の耳を恐れげもなく引っ張る鶴姫は、兄と秀吉の仲を取り持った次は、兄の元カレの結婚生活の立て直しを図っているのだ。自業自得の面が強いとはいえ、結果的に1人になってしまった元親を、兄の代わりに孤独にくれてやる気は更々ないらしい。
 『勝敗』が決した後も、秀吉と元親の仲は鶴姫を接着剤にグダグダに・・・もとい、険悪になる事もなく上手に、繋がっていっていた。こういうのは一言目の会話が上手に成立すれば、案外、棘も生えずにむしろ固い絆が生まれるものである。
 もう秀吉と元親の間は大丈夫だろう。鶴姫が居ない場でも。
 通りすがりにその様を眺めていた三成は、傍らの吉継相手に嘆息した。

「巫女姫にも色々だな。」

「?」

「いや・・私がそちら方面に門外漢なのを、差し引いても。
 色々だなと思って、な。
 巫女として、国内に居ながらにして国外の兄の安否を把握し、のみならず、ああして人として出来る事にも片端から取り組む姫も居れば。
 兄太子に道具立てとされた事も、力を喪った事も、国土を追われた事すら恥とも思わず、物見遊山の感覚で冗長に暮らす姫も居る。
 外交の好機、故国への理解を自ら広める気は無いのか、璃空の巫女は。」

「ヒィッヒィッヒィ。
 我などは一目して、人とは思われなんだぞ。精霊か霊獣の如きモノと思うたらしくてな。無遠慮に頭を撫でられそうになったわ。
 太閤が間に入ってくれたがな。」

「刑部を動物扱いした挙句、秀吉様のお手を煩わせおって・・・あの娘、不快だ。」

 舌打ちする三成に、吉継は更に笑う。
 国内で留守居していた仲間たちは、鶴姫の瞳と占い盤によって、起こったイベント全てを把握していた。
 皇太子の邪な心、巫女姫の虚ろな心、父皇帝の無力。元就の弱視や服毒、秀吉の決闘。
 皇太子が意味ありげにチラつかせていた『巫女姫の予言』が、実は真っ赤なウソだった事すら、元就たちが帰ってくる前に知っていたのだ。
 元就の弱視を補う術についても、命じられる前に当たりを付け、自力で万端整えて、膝を揃えて待っていた。
 雪月皇女の力は、風を呼ぶ事のみ。操作は拙く、他に簡単な失せ物探しが出来るらしいが、精度は低い。しかもソレは璃空の土の上での事であって、日の本では使えない。
 元就がしてみせたように『森羅』を・・・万物の根源たる力を扱う事も出来なければ、鶴姫のように武芸の才がある訳でもない。
 叩き上げの武人であり、内政にも才を示す三成からすれば、雪月姫は『意志薄弱で、自ら努力する事を知らない、不快極まりない女』である。5歳の頃に一度亡命してきたと聞くが、だからこそ余計に『苦労から何の教訓も得られない三流バカ女』というイメージが強くなる。
 クルリと背を向けた三成に、吉継は答えの判りきった問いを投げかけた。

「会わぬのか? 一言二言、文句が言いたいのだろう?」

「興が削がれた。アレに時間を割いても意味は無い。
 秀吉様の御為に、為すべき事は他にある。」

「道理よな。」

 短く首肯して、吉継も後に続く。
 戦火は未だ止みきらず、勅許を得るべく、朝廷への工作も続いている・・・こちらはそろそろ実を結びそうだが。
 それに半兵衛の為の薬作りも、毛利兄妹の手で着々と進められている。
 何か事を為したいと思えば、今の日の本に・・・仲間内に、やれる事は沢山転がっているのだ。三成はソレを面倒どころか、誇らしいとすら思っていた。

「食事は肉も魚も豊富だったな。料理も旨かった。
 元就は、蒸し魚が一番気に入ったそうだが。」

「あぁ、アイツ、昔っから肉より魚が好きなんだよな♪
 どんな味だったんだ?」

「鮎の塩焼きを、もっと柔らかく水っぽくしたような味だった。
 スープに旨みが溶けているから、スープと身を同時に食べるのが旨い。宮廷料理で食べたのと同じようなのが、市場の屋台でも安く売られていた。
 ちゃんと匙も付いてたぞ。」

「面白いな。考える事は皆同じってか?」

「秀吉公、『鱗が石みたいに硬いお魚』は? ホントに居ました?」

「あぁ、居た居た。
 その蒸した魚料理がな、あんまり旨いんで、生きてるのを見る事にした。宮廷では断られてしまったから、生魚市場に行った。」

「すげぇなオイ、魚一匹の為にソコまで行くか。」

「だって気になるだろう? 次にいつ来れるか判らんし。
 見て驚いたぞ、その『鱗が石みたいに硬い魚』が、蒸し魚の原料だったんだからな。蒸し魚料理にも色々あるが、どれもソレで作るのが一番旨いのだと、市場の親父が言っていた。
 深海魚で、水圧対策の硬さなんだそうだ。」

「ちゃんと理由があるんですね。面白~い♪」

 秀吉と元就、2人は宮殿にばかり籠もらず、市井の市場にも足を向けていた・・・まぁ、自炊用の食料調達、という面もあったが。璃空の自然も文物もしっかりと見聞してきた秀吉の話を、元親も鶴姫も目を輝かせて聞いている。
 皇族個々の性格はともかく、国民の気性は総じて温和で、貿易相手としては申し分ない。それが、元就と秀吉の総合判断だった。
 主君秀吉の為、鶴姫の為。これから忙しくなりそうだ。
 三成は静かに、刀を握る掌に力を入れ直した。




                                    ~終幕~

戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~

はい、あとがき。


まさかの三成さんオチ(笑)。


書きたかったのは、オトナの恋愛です。
いや、別に小十郎さんと鶴姫さんがコドモって訳じゃないのだけれど。


まえがきには『豊臣秀吉×毛利元就』と書きましたが、
より正確には『秀吉×ねね、元親×元就 前提の、秀吉×元就』という感じでございましょうか。


秀吉さんと元就さん。
秀吉さんには『ねね』さんが居て、元就さんには元親さんが居る訳ですよ(チカナリ万歳)。

まぁぶっちゃけ、再婚同士みたいなモンで。
元親さんは生きて目の前に居る訳だし。

2人共、一門の長で、色々背負ってきた人で・・・。

そういう場合にね、どうなるのかっていう。


個人的には、元就さんが義弘さんの内心、その一端に触れて、秀吉さんの前で泣く。
一連のシーンが好きです。

7人の中で最年長の義弘さん。
長い人生の中で、魔王も知ってりゃ、覇王時代の秀吉さんも知ってる義弘さん。

子供時代のまだ幸せだった頃の、冷たくて頑なじゃなかった頃の元就さんも、
知ってんじゃねぇかな、この人、と思う義弘さん。

長く生きてりゃね、そりゃ後悔も色々とあるわ・・・。

秀吉さんは、人から人へ、そういう内心を伝えるタイミングが上手そうなイメージがあります。

『え? だから何?』的な感じで弾かれそうな時に、事実を『告げる』んじゃなくて。

事実を話す事で、わだかまりが少しでも解けるような時に『伝える』のが、
上手そうなイメージが。


それでは、また次作で。

戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~

久々登場、ドエロシーン満載話っ! BLです。そして、豊臣秀吉×毛利元就です。チカナリからのヒデナリ万歳。舞台は架空の国『璃空帝国』。貿易の話をしに来た2人ですが、皇太子に目を付けられてしまいます。元就さんが皇太子妃?! 更に予期せぬアクシデント、元就さんは今、視力を失っているというのに・・・! かねてから元就さんに想いを寄せていた秀吉さんは、部下も仲間も居ない異国の地で、その切れ長の美しい茶瞳を閉ざしてしまった元就さんを、最後まで守り切れるのかっ?! 島津さんの後悔が、泣ける、かも。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2014-09-08

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~
  2. 戦国BASARA 7家合議ver. ~南国の風は色を纏う~