ミルクティー、君特製。

あったかくてすこしだけにがみのある、すこしふしぎなホットミルクティーの話。

きみは→←きみは

からんからん、とベルがなった。
それだけで世界が変わって見えるのは、私が単純だから?
冷えた体を温かい空気が包む。

「………」

きみはいつものようにお湯を沸かし始めた。
何も言わなくてもなんでもわかってるよと、もしそうだったらどんなに良かっただろう!
残念ながら私がここに来たときはいつも同じものを飲むと決まっているだけだ。
そのルールが決まっただけでもどれだけ嬉しかったことだろう。
それは二人だけの暗黙の了解というか、秘密のようでとてもむず痒く不思議な感覚だったのに。
私はどんどんわがままになる。

コト、と置かれたマグカップからは白い湯気がフラフラと立ち上っている。
少し水を混ぜて冷ましているのも、砂糖の量も、全部君特製だ。
以前熱いミルクティーを飲んで舌を火傷してからは必ず少しの水で冷ましてある。

ちびり、とミルクティーをすする。

他にきみしかいないこの空間で、きみのその柔らかい瞳に見つめられて。
きみのかみ、きみのめ。

君特製のミルクティー。

私の世界は君でいっぱいだ。

一番好きだったものはもう2度とてに入らないけど。
それでも私の世界できみは特製。
何もかも特製。

あたたかい、きみ。


とてもやさしい、きみ。

だから、つらいんだ。


「今日はとっても寒いですね」

こくり、と微笑んで頷くきみ。

ああ、もうないんだ。
空になったマグカップ。

なくなったらもうもどらない

「おかわり、いいですか?」



*〜+⚪︎


からんからん、となったベルは同時に冷たい空気も飲み込んだ。
きみは北風を連れてやって来た

「……」

お湯を沸かし始める。

きみが来た時はきまっていつも、同じもの。
君専用の、君特製ミルクティー。

きみが昔から欲しがってたものはもうあげられないけど。

ことり、と机にカップを置く。

少し冷ましたミルクティー。

君専用。

どんどん歳を重ねるごとにきみは僕の中で大きくなる。

小学生の時からそうだった。

手をつないで一緒に帰っていた。

中学生の時からそうだった。

その時はまだあげられていた。

高校生の時からそうだった。

そしてあげられなくなった。


「おかわり、いいですか?」



了承の意を込めて頷いた後、きみにあげられなくなったものでつぶやく。



だいすき。


きみにこのこえはもうあげられない。

ミルクティー、君特製。

ほしかっただいすき、もうきみのこえでは聞けない。

ミルクティー、君特製。

ミルクティー、きみ、おみせ、マグカップ、きみのめ。 全部やさしくてそれが全部つらかった。

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更新日
登録日
2014-08-30

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