嵐の日に

BL/総統×宣伝相/第三帝国

「ん・・・・・・は、あ・・・・・・閣下・・・・・・」
「ずいぶん、出したな・・・・・・」

彼が白濁をハンカチに受けるのが視界に入る。体の火照りが静まってくるのを、私は感じる。

「今、何時くらい? ずいぶん暗い」

遅くなる前に帰らなければ・・・・・・仕事がまだ残っている。秘書が心配する。彼と体を交える間は時間の感覚が完全に狂ってしまう。ほんの少し、と思っても時間が経っていたり、その逆だったり・・・・・・今もそれが心配だ。

「大丈夫、来てからまだ一時間半くらいだ。もう少しゆっくりしていけ」

彼が指先で前髪を整えてくれる。今日の彼は優しくて、事後の疲れも手伝って眠りそうだ。でも・・・・・・

「嘘吐き。一時間半でこんなに暗くなるわけがないだろ」

来た時は明るかった。それがもう部屋の中が暗い。ずいぶんと長く交わってしまったとしか思えない。帰すまいと駄々をこねるのは毎度のことだが、こうも見え透いていると苛立たしい。

「本当だ、ほら」

右掌に冷たく堅い何かが載せられる。行為の前に外された腕時計だ。気だるく腕を曲げて見れば・・・・・・

「本当だ・・・・・・どうして?」

彼は、嘘は言っていない。でも部屋が暗すぎる。

「嵐だよ。日が隠れて暗く思えるんだ」
「あ・・・・・・」
「無理に帰ることもないだろ」

確かに窓を叩く雨と唸る風の音。気づかなかったが、かなり酷い嵐のようだ。これでは確かに暗いだろう。自分のオフィスまで帰ろうと思えば帰れるだろうが、塗れ鼠になることは免れないだろう。そんな逡巡を見透かしたように、彼は薄く笑いながら、私の服を整える。

「お茶でも飲んで行き賜え」

そう言って彼は机の上の電話で秘書にお茶を頼んだ。大事な話をしているから、部屋の外に置いておけという指示は今の自分にはありがたい。自分の秘書も有能だが、彼の秘書も中々のようで十分も待たせなかった。

彼がティーカップに注いでくれた紅茶に、角砂糖を一つ入れてレモンを一切れ浮かべる。これは自分の分。彼の分には角砂糖を二つ、ミルクをたっぷり。さっきまでベッド代わりだったソファに二人で腰掛ける。なんだか妙な気分だ。

「美味いな・・・・・・」
「うん・・・・・・」

体が温まるのはありがたい。ほのかな甘みが疲れを溶かしていく。彼はこういう時、演説中の姿からは想像もできないくらい穏やかだ。演説し国民を指導する彼が嵐なら、今の彼は今のこの部屋なのだろうか・・・・・・いや、違うな。

「欲望満たされたと見えて、ずいぶん穏やかですね」
「あぁ・・・・・・」

穏やかに答える彼に気づかれないように、小さく皮肉に笑い、故意に唇の端をつり上げる。部屋の中でも嵐のように猛り狂い、私を犯すのが彼だ。彼自身が嵐なのだ。

「そうですか。それは良かった」

嵐はいずれ過ぎ去る。でも、彼は違う。彼の衝動は消えない。恐らく彼が死ぬまで。私は、その嵐を鎮めることができる。彼の穏やかな面を支えるのは、この私だ。

「帰りますよ、閣下。嬉しかった」

微笑んで彼の頬に乙女のようなキスをして、立ち上がる。

「あぁ・・・・・・ありがとう、ヨーゼフ」

彼の穏やかな、温かい笑みと言ったら!! 嵐もたまには悪くない。



「帰りますよ、閣下。嬉しかった」

頬に少女のような甘いキス。彼はやっぱり甘い。

「あぁ・・・・・・ありがとう、ヨーゼフ」

その一言で彼はとろけるような笑みを浮かべる。彼は自分の表情に恐らく気づいていない。どれほど自分が歓喜しているのか、どれほどその一言を待ち望んでいたのかも。だって・・・・・・

彼の去って行った後に、私は上着のポケットから銀色の指輪を取り出した。彼と交わる間に、彼の手指から抜いた、結婚指輪。

「ヨーゼフ・・・・・君はいずれ戻ってくるね」

それも恐らく今夜の間に。その頃に嵐は一番酷くなるだろう。これくらいで鎮まると思って、今帰るのは誤りだ。

「楽しみだなぁ・・・・・・」

あぁ、嵐の日も悪くない。

嵐の日に

嵐の日に

  • 小説
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-22

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