SS27 親身になって

私は彼女の身になって考えることにした。

「これと同じにしてもらえますか?」と写真を見せたら、さすがに無理だと笑われた。ここは美容院であって整形外科じゃないんだからと。
「もちろん髪型だけですよ」と言い返したが、それも無理難題だという回答。いくら髪が伸びたといっても、肩まであるわけじゃなし。ないものを付け足すのは私たちの仕事じゃないということらしい。
 仕方がないのでヴィッグをレンタルすることにして、それに合うよう髪を少し弄ってもらい、色味も馴染むように染めてもらった。
 さて、髪はこれで完成だ。
 となれば、次は顔。
 幸い輪郭はそんなには違わず、どちらかと言えば丸に近い。骨格は変えられないにせよ、痩身の私がふくよかになるのはそう難しいことじゃなさそうだ。
 口に幾らか綿を含んで三面鏡と向かい合い、今ある眉を残らず剃って、下地の肌に丁寧に印影をつけていく。
 目指すのは素顔だ。
 写真を見ながら眉を描いて目を大きく見せる為の工夫を施すと、あら不思議、自分でも驚くほどの清楚な美人が現れた。

 ***

「ただいま」帰宅した彼女の口調は出掛ける前と変わらずぶっきらぼうで、まだまだ怒りは収まっていないらしい。
 しかし私がぬうっと姿を現すと、右手を突き出した彼女の口は窒息寸前の鯉のように開いたり閉じたりを繰り返した。
「あなた、何……してるのよ?」
「だって出掛けに言ったじゃない? 私の身になって考えてみてよって」
「……」
「だからまず形から入ることにしたの。苦労したけど、結構そっくりに仕上がったでしょ?
 でね、私考えたんだけど……」
 しかし私の言葉はそこで強制的に遮断された。
「あなた、私をバカにしてるの?」妻は張り手を食らわして、二度と戻ってこなかった。

SS27 親身になって

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私は彼女の身になって考えることにした。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-20

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