星空文庫

星空文庫

天女とハイド

おおいぬ座αシリウス 作

天女とハイド
  1. No.0001 エピローグ
  2. No.0002 羽衣を纏った赤子
  3. No.0003 鋸山の美しき天の乙女
  4. No.0004 ハイド現る
  5. No.0005 天の乙女姉妹とハイドの戦い
  6. No.0006 エンカウンター・アキラ
  7. No.0007 シコネ、旅立つ
  8. No.0008 ショッピングポルターガイスト
  9. No.0009 天女シコネ見参
  10. No.0010 シコネの右傷
  11. No.0012 北のDAICHIへ
  12. No.0012 富良野でFLY
  13. No.0013 ピラトストの対峙
  14. No.0014 夢の中で
  15. No.0015 幼馴染とのサイカイ
  16. No.0016 蛇ハイドとの遭遇

(鋭意制作中)

No.0001 エピローグ

No.0001 エピローグ

宇宙にはブレーンを隔てて二つの世界がある。
一つは真空のエネルギーが原子などを支配する銀河宇宙(人間の住む世界)。
もう一つは真中なる未知の作用のエネルギーが超対称性原子などを支配する世界もある。
そして真中エネルギーの作用する宇宙のシマタイサ星系、
惑星ヤマトのナデシコの秋津列嶋という所に一つのすばる王朝という国があった。
そこは昔話で云う天女の羽衣を身に纏い、特殊な力を持つ人々がおり、
互いに普通の人間や動物・自然と助け合って生きていた。
だがある日、
「ふっふっふ、ヘボいヤマトの奴等よ。
俺らにひれ伏すが良い……!!」
影や姿のないの部族・ハイドが空の彼方より現れ、そこを一夜のうちに乗っ取った。
これによって国王・オオクニは彼らに殺された。
彼の妃であるヤカミ妃は、
死んだオオクニとの間に宿した三つ子の兄妹を抱えたまま諸国を転々としていた。
しかし、その逃避行は間もなく終わりを迎えることになる。
衛星の天明が昇る時分、
彼女はヒビツ地方・あめふり国のチンダラ・バツマ川界隈に身を潜めていた。
そこで、
「匿って下さい、おおきにすんまへんね……」
彼女はまだ幼い三つ子たちをあやしながら匿ってくれたサカエ村の人たちに言葉を掛けた。
それに対し、
「いいえ。
すばる王朝のお妃様方と聞けば、私たちも見捨ることはできません……」
サカエ村の人たちも、頭を下げて口を揃えて彼女に答えていた。
そうしているなり、
「ふっふっふ、お前がヤカミか。
見つけたぞ……!!」
どこからともなく悍ましい言葉が木精した。
例の声を耳にし、
「ハイドや……!!
逃げへんと……!!」
彼女は慌てて双子の娘のタキリ・イチキとその姉妹の兄・スサハヤを抱え、
裏口から逃げて裏道を通ってカシノモリに逃げ込んだ。
だが、
「ヤカミよ。
消えるがよい……」
彼女は森の中にて待ち伏せしていたハイドら一同に取り囲まれた。
この為、
「あかん、このまんまやと殺されてしもうわ……!?」
ヤカミは慌てた様子のまま立ち止まり言葉を発した。
続けて、
「宇宙【そら】に浮かぶ星。
母なる大地を潤す水。
そして煌きを与える火、八百万の神々よ。
タキリ・イチキ・スサハヤを助けたまえ……」
彼女は自ら言葉や呪いを呟きつつ羽衣の発する光に包まれた。
それと共に抱えていた子供たち、スサハヤ・タキリ・イチキは、この光に包まれた。
また、
「逃がさんぞ……」
一人のハイドはスサハヤの腕を握り、引きづり出した。
なお残りのタキリ・イチキの姉妹は、彼に引きずられそうになるものの、
光の中に包まれてある世界に向かった。
なお、ヤカミは光に包まれるなり、羽衣などを脱ぎ捨てて八才の少女となり、
テレポーテーションでカシノモリの奥地に逃れた。
彼女はそこで長期間、質素な麻や麩衝などで衣を織り、山菜や茸を採取したり、
ヒヒシシなどの動物を狩ったりして飢えをしのいだ。
それから算えて二年、彼女は別の場所に逃げていた部下のカツノケタに助けられ、
あめふり国・シバンシ城に向かい、病床にいる国王ニニギの養女・ナデシコ姫になった。
そして、ハイドらは、彼女の羽衣などを箱に詰め、
ヤクモ城の近くにあるトサケタ湿原に投棄した。
後々、それは成長したスサハヤことハイドの傀儡国家・ヨモツ国の国王、
すなわちミタマの娘で彼女の遺伝子上の娘かつ孫にあたるシコネが拾うことになる。

用語解説
■超対称性粒子
→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E5%AF%BE%E7%A7%B0%E6%80%A7%E7%B2%92%E5%AD%90

■ブレーン
英語で「膜」の意味。
素粒子学や超次元宇宙論においては、今いる世界とその反対側に各々物質・反物質世界が存在するとされる。
それを隔てているとされるのが、ブレーンといわれるものである。
当作では、それをベースとし、物質側を真空世界、反物質側を真中世界としている。

■シマタイサ星惑星ヤマトナデシコ
真中世界の宇宙に存在する架空の惑星。
気候などの条件が地球と瓜二つであるが、空に現れる太陽の数は地球と異なる。

■秋津列島
ヤマトナデシコにある八つの島。
地球で云う日本列島に相当する。
(以下あとがき等鋭意製作中)

No.0002 羽衣を纏った赤子

No.0002 羽衣を纏った赤子

場所は変わり、ブレーンの反対側の真空・エネルギーが支配する世界。
その世界の辺境の天の川銀河内の太陽系・第三惑星地球。
また同地日本列島・日本国千葉県館山市の平砂浦海岸(日時は一九九六年一月二九日)、
そこで二人の幼馴染の夫妻が夜の月と布良星(カノープス)を見ていた。
まず、
「よっちゃん。
布良星と月、綺麗だね……」
妻にあたる広瀬美香、
「美香、そうだね……」
次いで夫の広瀬芳夫が共にそれを見て言葉を交わしていた。
そうして広瀬夫妻が星々を眺めているなり、
北極星の方向から白く輝く物体が自分たちの所に落ちてきた。
その為、
「美香、危ない……!?」
広瀬芳夫は咄嗟に妻である彼女を庇って倒れこんだ。
二分後、広瀬芳夫・広瀬美香共に起き上がって周囲を見渡してみた。
すると、広瀬美香の目の前に羽衣を纏った幼い女の子が戸惑う様子を見せて佇んでいた。
その女の子は、右手に季節外れなヤマユリの花。
また左手に綺麗な腕輪を持っていた。
この様子に、
「あれ、可愛い子だね……」
広瀬美香は思わず嬉しそうな言葉を発した。
また、
「けど、美香。
この子ってどこから来たのかな……?」
羽衣の少女を見た広瀬芳夫は、不思議な素振りを見せて妻の広瀬美香に尋ねた。
これに対し、
「よっちゃん。
私にも分からないわ……」
彼女は首を傾げる動作を交えて彼に答えた。
続けて、
「なんだかこの子、私のことが好きなのかな……」
「よっちゃん、この子。
私たちの子として育てない……?」
広瀬美香は、女の子が自らに懐く様子を見て養い子にしないか夫の広瀬芳夫に提案した。
それを受けて、
「たしかに彼女。
寂しそうで僕たちに助けを求めている感じがする……」
「美香、そうしよう……」
夫の広瀬芳夫は二言言葉を述べた後、
羽衣・ヤマユリを持つ彼女を広瀬家の子供として迎え入れることにした。
なおこの彼女こそオオクニ・ヤカミの間に生まれた三人兄妹の間っ子、
すなわちすばる王朝の第一王女・タキリである。
やがて広瀬家に迎えられたタキリは、養父母である広瀬芳夫・広瀬美香夫妻、
また養祖父・広瀬秀雄により広瀬百合子という名前を与えられて育っていった。

No.0003 鋸山の美しき天の乙女

西暦二○○四年一○月二六日の夜、
同月二三日に越後地方で大規模な地震が起きたばかりの頃。
場所は千葉県安房郡鋸南町と同県富津市の境にある鋸山。
ヤカミ(ナデシコ姫)によりボイド空間に送られて成長したイチキは、
自らの羽衣や護身用の武器の弓矢などを手に携え、鋸山の山頂に降り立った。
そして、
「ここは、何処なんかな……?
見たことあらへん場所やね……」
イチキはすばる語で言葉を呟きながら辺りを見渡し、
見覚えの無い場所に来たことを確認していた。
すると、
「ふっふっふ、見つけたぞ。
ヘボヘボなすばるの王女・イチキ……」
何処からともなくハイドの声が彼女の耳に木霊した。
この為、
「あんた、父君や母君に手ぇ出しはったハイドやろ。
うちが、両親の仇をうったるで……!!」
イチキは頭に浮かぶ考え通りに弓矢を構え、回りにいたハイドに対抗しようとした。
「痛い……!!」
だが、彼女は姿見えぬハイドが接近していることに気付かず、
それに思いっきり殴られたり頭を叩かれたりして気絶しそうになった。
これには、
「兄様・姉様、うちを助けてゃ……」
イチキも思わず挫けて大泣きし、兄や双子の姉にあたるスサハヤとタキリに助けを求めた。
その時、彼女が手に持っていた翡翠色の羽衣や、
それに結び付けられていた同色の首飾り・腕輪などが突如として光を発し、
彼女を優しく包み込んだ。
光に包まれた彼女は、羽衣を纏い、腕や首の付け根に腕輪や首飾りを身に付け、
白雪のような美しい肌、木櫛で束ねた栗色の髪、
すなわち母親であるヤカミと同じ特別な能力を持つすばる人「天女」として覚醒した。
これと共に、
「あんたは、うちというか弱き乙女に手を掛けた。
見るからにあるまじきこと。
しばいたるわ……!!」
彼女は憤りの言葉を彼に放った後、天女としての力を発動させ、
五〇(m/s)の台風並みの強風をおこした。
それを受け、
「ぎゃあ、目が目が。
気持ち悪い……!!」
ハイドは彼女の起こす猛烈な強風に巻き込まれ、目が回り吐き気をもよおした状況下、
苦しそうに言葉を発した。
続けて、
「ハイド、死をもって罪を償うがよい……!!」
イチキは左手に握りしめていた弓と三本の矢を構え、そのハイドに対して放った。
この直後、
「我ながら、なんたる不覚……!!」
ハイドは無念そうな表情を浮かべつつ、矢の餌食になって息絶え、
強い風に乗って東京湾に着水・沈んでいった。
「よっしゃ、うち宿敵を負かしたで……!!」
天女となったイチキは、痣や傷が出来ながらも、
自ら敵であるハイドを倒したことを喜んだ。
さっそく、イチキは茜(植物)の蔓や葉っぱを自らの傷口に当てたまま山を降り、
水で傷を癒す為、同町本郷上にある本郷貴船神社に向かった。
彼女は降りてくるなり羽衣などを外し、社殿傍の池において水浴びをした。
同じ頃、社殿と隣り合う家屋に一人の男がいた。
彼の名は、東郷裕和。
生まれ育ち共に千葉県安房郡鋸南町で、両親の遺した本郷貴船神社の神職をしながら、
昼間は東京湾フェリーの窓口氏として働いている。
さて、
「嗚呼、今日はとても肩がこったな……」
東郷裕和は疲れた様子で大好きなオレンジジュースを飲んだ後、
玄関より外に出て新鮮な空気を吸い、また言葉を呟いていた。
その時、
「あれは何なのかな……?」
東郷裕和は辺りを見渡した後、境内の池の方に目を向け、
淡く光る羽衣などがあることに気付いて近づいてみた。
すると、
「あんた。
うちの大事なもん、持っていこうとしたんとちゃう……」
イチキは彼が近づいてきたことを察し、自らの羽衣などを盗もうとしていると勘違いした。
この為、
「ちゃ、ちゃうよ。
僕はただ通り掛かっただけやから……」
東郷裕和はお笑い番組で覚えた片言の畿内語(すばる語と互換性あり)を用い、
彼女に言葉を返した。
その言葉に、
「ほんまなん……?
パチこいてたら、弓矢で撃ち抜いたるで……」
イチキは彼のことを睨み付け、
弓矢を使えるように準備をした上で嘘をついていないか問い掛けた。
これには、
「まずい、僕は天女の水浴びを見た。
ってことは、パンドラの匣を開けてしまったのか……」
東郷裕和も思わず両手をあげ、
頭の中で自らタブーをおかしてしまったのではないか考えた。
続けて、
「ほんま、僕はあんさんに何かしようとは思ってません……」
彼は再度身の潔白を彼女に訴えた。
しかし、
「いま、面白半分でうちを見ようとしてたやん。
それでもパチこいてるから撃ち抜いたるわ……!!」
彼女は東郷裕和の心を覗いていたらしく、先ほどの彼の考えていたことを口頭にて明かにし、すぐさま弓で矢を射ろうとした。
その直後、
「痛い……!!」
イチキは突然足や腕の各所にある傷を押さえて倒れ込んだ。
この為、
「君、大丈夫なの……?」
東郷裕和は怯えた様子から一変、心配そうな表情を見せて彼女に近づいて言葉を掛けた。
それに対し、
「腕と足がしみるねんやけど……!?」
イチキは痛そうな表情を見せ、引き続き腕や足の傷を押さえたままで彼に答えた。
「いけない、傷口が化膿してる……」
東郷裕和はその傷を確認するなり、化膿を起こして状態が悪くなっていることに気付いた。
これを受け、彼は苦しそうな彼女を何とか説得し、
隣の幼馴染みで医者の高坂浩介の所に連れていった。
早く医者に連れていったことが功を奏したのか、
彼女は細菌感染症や破傷風などには感染しておらず、打撲などの軽傷で済んでいた。
この翌日の朝、
「昨夜は、驚かせてしもうて申し訳ございません。
このことは、あんさんに仕えて今回の罪滅ぼしを致す次第でございますねん……」
イチキは東郷家の居間にて、昨日自らを介抱・面倒を見てくれた彼に対し、昨夜の悪態を土下座にて謝罪、
またその罪滅ぼしとして考えを改め、仕えることを申し入れた。
そのことに対し、
「いいよ、許してあげる。
だから、僕の娘になって贖罪をしてくれればそれで十分だよ……」
東郷裕和は顔を縦に頷かせ、条件付きで罪を赦した。
次に、
「そういえば、君の名前は何て言うの……?
ちなみに、僕は東郷裕和、二三才。
この神社の神主をしているんだよ……」
東郷裕和は自らの自己紹介を兼ねて彼女に名を尋ねた。
対して、
「うちは、イチキ、八才。
この世界とは別の天女の世界より来ました……」
イチキもまたはにかんだ素振りを見せ、元気良さそうに彼に自己紹介した。
これを耳にし、
「イチキ。
まるでスサノオとアマテラスの間に生まれた宗像の女神様みたいな名前だね……」
東郷裕和は古事記にある宗像三女神のような名ではないか言葉を呟いていた。
その後、彼女は正式に東郷裕和の養女となり、
名前も茜を身に纏っていたことから東郷茜と改名、
天女になった時に限り、元の名前・イチキを名乗ることにした。
彼の養女になった彼女は、一か月も経たぬうちに標準語を話すようになり、
簡単な計算・国語から小学六年生までの勉強内容をも簡単に記憶してしまった。
これ故に、イチキ改め東郷茜は小学校において歩く辞書なる渾名を名付けられていた。

No.0004 ハイド現る

No.0004 ハイド現る

それから月日が経って二〇一○年。
サッカーワールドカップ・アフリカ大会の年となった。
そして当時一才の赤子だった広瀬百合子(タキリ)は、
自らの正体を知らぬまま、周りの人間と共に学校へ行って友達を作り、
両親や養祖父と共になに不自由の無い生活を送っていた。
しかし、その平和で不自由の無い生活はそう長くは続かなかった。
野生の山桜が咲き誇り、
生き物・野草の息吹きが感じられるようになる二〇一〇年四月一五日の金曜日、
広瀬百合子は何時ものように目を覚ました。
そして、
「お父さん・お母さん。
おはよう……」
広瀬百合子は一階のリビングに赴き、
養父の広瀬芳夫・養母の広瀬美香にいつも通り朝の挨拶をした。
それに対し、
「百合ちゃん、おはよう……」
広瀬芳夫・広瀬美香共に嬉しそうな表情を見せて養い子の広瀬百合子に答えた。
そうして三人は言葉を交わした後で、朝食を摂った。
「行ってきます……」
続けて広瀬百合子は、さわやかな様子を見せて広瀬芳夫・広瀬美香の二人に言葉を掛けた。
対して、
「百合ちゃん、行ってらっしゃい……」
その二人も嬉しげに言葉を返した。
また、
「お爺様、いってきます……」
広瀬百合子は玄関で革靴を履きながら、下駄箱の上にある養祖父・広瀬秀雄の遺影に言葉を掛けた。
彼女は、毎日君津市北坂田の私立渡鍋学院中学校に通っていた。
その為、六時三○分に館山市長須賀町の自宅を出た広瀬百合子は、
六時五五分の内房線・千葉行きに乗るべく、館山駅へ急ぎ歩いだ。
(なお、この千葉行きを逃すと二時間以上列車は来ない)
歩いて二○分後、
「はぁ、間に合った……」
広瀬百合子はぎりぎり千葉行きの列車に乗り、一番後の車両の対面席で寛ぎ座っていた。
千葉行きは定刻通りに館山駅を発ち、
那古船形・富浦・岩井・安房勝山・保田と順調に対岸の三浦半島を見つつ快走していった。
やがて列車は、保田駅を発って次の浜金谷駅に向かうべく、
徐々に速度を上げて鋸山隧道に進入しようとした。
しかし、どういう訳だか鋸山隧道の目の前に解体用の鉄球と同じ大きさの岩。
また架線も切られていた。
その為、
「危ない……!!」
列車の運転士は咄嗟に非常ブレーキを掛けた。
だが、その甲斐無く列車は千葉行きの八両編成のうち、
千葉寄りの四両の車両が轟音と共に田畑に転落、残った館山寄りの車両は間一髪の所、
隧道手前の位置において停止した。
轟音を耳にした広瀬百合子は、
「何があったのかな……?
早くしないと学校に遅刻してしまうわ……!?」
「車掌さん、何があったんでしょうか……?」
突然列車が停車したことを不審に思いつつ慌てて車掌に尋ねた。
「どうやら、鋸山のトンネルの前に落石があって脱線事故が起きたようです……」
その尋ねに男の車掌は忙しそうな様子を見せたまま広瀬百合子に答えた。
こうして、
「もしもし、中学三年A組の広瀬百合子です。
只今、内房線の電車が浜金谷手前で脱線事故を起こした為、
学校に向かうことが出来ません。
どうか担任の上野先生に伝達願います……」
彼女は車掌の携帯電話で学校の留守電に連絡した。
その後、
「大丈夫ですか、助けに来ましたよ……」
彼女は一年前に受講した救命講習の知識を生かし、
怪我人を他の乗客と一緒に助け出していた。
そうして一〇分が過ぎた後、
「あれ、私たちの他に誰かがいる……」
広瀬百合子は不思議な感覚にとらわれた。
それは自分たち人間の他に何か目に見えないヒューマノイドが彷徨く感覚であった。
それを彼女が感じた直後、
「ふっふっふ、タキリ。
そしてサピエンス奴も、ミタマ様の生贄として死ぬが良い……!!」
何処からともなくおぞましい言葉が辺りに木霊した。
例の言葉が木霊するなり、
「ぎゃあ。
痛い……!!」
脱線した千葉行きに乗っていた一部の人々が突然腕の痛みを訴えて息絶えた。
様子を見た残りの乗客や車掌は、
「何かいる、逃げろ……!!」
戸惑った表情を見せながら海側に向かって逃げ始めた。
よって広瀬百合子も逃げようとした。
しかし、
「お母さん……!!」
線路脇で母親を探す幼い子供がいた。
その為、
「坊っちゃん、助けに行くわ……!!」
彼女は可愛そうなのか、いてもたってもいられず、彼の元に近寄った。
すると、
「ふっふっふ、タキリ。
お前とヘボ餓鬼をミタマ様の生け贄に捧げる……!!」
彼が悲鳴をあげるのと共に、先程と同じ姿なき声が彼女の背後できこえた。
ふと、
「どうすれば良いのかな。
これでは私たち、姿の見えない何者かに殺されてしまうわ……?」
広瀬百合子は困り果てて、それを打開する策がないか頭の中で考えていた。

No.0005 天の乙女姉妹とハイドの戦い

その三〇分前、
「ただいま内房線はこの先の浜金谷から当駅の間で起きました脱線事故によりまして、
上総湊・館山間で運休となっております。
なお現在バスの振替乗車を手配しております……」
けたたましく運休のアナウンスの鳴り響く東鉄保田駅。
そこに君津の渡鍋学院中学校へ向かおうとしていた一人の一三才の少女がいた。
彼女は先述した東郷茜・イチキ(一三才)本人である。
そこで、
「えぇ、電車動かないの……!?」
東郷茜は不満げな表情を見せて愚痴をこぼした。
そして、
「仕方ない、自転車で行くしかないわね……」
東郷茜はいても立ってもいられず、駅前に置いておいた自転車に乗り、
国道一二七号線を佐貫町・国道一六号線の大堀経由で君津に向かおうとした。
一〇分後、自転車に乗った彼女は元名海岸を過ぎようとした。
その瞬間、
「この近くで、何かが起きている……」
彼女の心の奥底に広瀬百合子と同じ感覚を感じ取った。
この為、
「これって、昔鋸山や向こうの世界で感じたような気がするわ。
取り敢えず行ってみよう……」
東郷茜は三浦口バス停の手前に自転車を置き、脱線事故の現場に向かった。
なお彼女は、そこに行く途中、久々に羽衣・腕輪などを身に付けた。
やがてそれを身に付けた彼女は、緑色の色鮮やかな衣と羽衣・弓矢。
また光り輝く勾玉の腕輪を身に付けた天女のイチキとなっていた。
場所は鋸山トンネル・保田側の脱線現場に戻る。
異常事態と見た富津湊警察のパトカー及び富津消防の車両も現場に駆けつけたが、
姿の見えぬ何者かに消され、さながら地獄絵図の様相を呈していた。
そして、姿の見えない何者かに追われている彼女は、
隙を見て男の子の手を引いて線路上で走り始めた。
「タキリって、何のことかな……?
私、分からないよ……」
彼女は走る最中、【タキリ】という言葉がどういうものなのか考えを巡らせつつ、
例の男の子と保田駅の方向を目指していた。
しかし、
「お姉ちゃん、痛いよ……!!」
「痛っい……!!」
思わず広瀬百合子・男の子共に踏み切りの板に足を引っ掛けて転倒してしまった。
「ふっふっふ、今度こそ逃がさない……!!」
姿無き人物たちはけたたましい声を発し、二人を包囲した。
「嗚呼、死にたくない……」
二人共に包囲されるなり肩を取り合い、絶望感に苛まれていた。
すると、
「宇宙をめぐる星、大地を潤す水 、
そして明かりを照らす火と日、生ける者に恵みを与える森よ。
吾が双子の姉・タキリを目覚ましたまえ……」
何処からとも無くイチキの唱える清らかな声の呪いが木精した。
それと共に、広瀬百合子は持ち合わせていた羽衣・腕輪の光に包まれた。
彼女は光の中でイチキとは色違いで茜色の出で立ち。
すなわち鋼剣を持った天女のタキリに変身した。
これと共に、
「タキリ姉様、お久しぶりです……」
東郷茜から変身した天女・イチキは、双生の姉・タキリ(広瀬百合子)に話し掛けた。
「イチキ、久しぶり……」
タキリは話し掛けられるなり、久しそうな表情を見せて妹の彼女に答えた。
続けて、
「姉様、私たちの父君・母君を殺め、
サピエンスたちを苛める憎きハイドを懲らしめましょう……」
「イチキ、わかったわ……」
タキリ・イチキの姉妹は、共に言葉を交わした後、
自ら持っている弓矢・剣、歌や炎で姿の見えないハイドらに立ち向かった。
なお余談だが、天女(フェーズ能力者)の彼女たちには、
姿の見えないハイドが見えていた。
そして、
「ぎゃあ、タキリ・イチキの姉妹だ。
逃げろ……!?」
タキリの剣、イチキの射る矢を受け、歌を耳にしたハイドたちは、
怖じ気づいて蜘蛛の子を散らすかの如く逃げ去ってしまった。
これには、
「悔しい、今度こそ懲らしめる……」
タキリ・イチキの姉妹は、悔しげな様子を見せて言葉を発していた。
また、
「お姉ちゃんたち、おとぎ話のようでかっこいい……」
傍らにいた幼い男の子は、彼女たちとハイドの戦いを見ており、
思わずタキリ・イチキの二人を誉めていた。
その直後、
「君、大丈夫なの……?」
天女・フェーズ能力の姉妹のうち、タキリは心配そうな素振りを見せて彼に言葉を掛けた。
言葉を掛けられた彼は、
「お姉ちゃん、僕は大丈夫だよ……」
彼女の元に近寄って答えた。
この後、天女のタキリ・イチキ姉妹は元の広瀬百合子・東郷茜の姿に戻り、
彼の母親を捜した。
だが、残念なことに彼の母親はハイドによって死んでいた。
その為、
「お母さん、目を覚まして……」
彼は大粒の涙を流して、死んだ母に言葉を掛けていた。
この傍らで、
「タキリ姉様、いや広瀬さん。
私としては彼らは絶対に許せません……」
「東郷さん・イチキ、このことと母君が殺されたことが重なって胸が苦しくなりそうだわ。
絶対にハイドを許せない……」
広瀬百合子・東郷茜は涙を流し、両手を合わせて合掌、
彼の母の冥福を祈りつつ各々言葉を発した。
それから広瀬百合子・東郷茜は、
悲しそうな様子のままで代行バスに乗って学校に登校した。
なお、脱線事故及びハイドの事件現場には、自衛隊が入って脱線した車両の撤去作業。
さらに富津湊警察が遺体の運び出し、現場検証を行っていた。
そして東鉄内房線は、鋸山トンネルに置かれた大岩の破砕作業と事故車撤去の為、
一週間ほど運休となった。
また例の出来事が契機となり、広瀬百合子・東郷茜は仲間になり、
以降、勉強や読書においても交流を深めて行くこととなった。

No.0006 エンカウンター・アキラ

脱線事故・敵のハイドの襲撃から数えて一週間後となる四月二二日の金曜日、
その日の始発電車から内房線の浜金谷・保田駅間の運転が再開された。
そして広瀬百合子は、何時ものように起床、出掛ける準備をして、
運転再開となったそれに乗って君津の渡鍋学院に向かった。
彼女を乗せた列車は、館山駅を出て君津方面へと快走した。
一五分後、保田駅で東郷茜が列車に乗ってきた。
そこで、
「広瀬さん、おはようさんございます……」
列車の向かい合わせの座席に腰掛けた東郷茜(イチキ)は、
目の前の席にいた広瀬百合子に言葉を掛けた。
それに対し、
「茜ちゃん、おはよう……」
広瀬百合子(タキリ)もまたさわやかな表情を見せて彼女に答えた。
そして彼女らは、君津到着まで楽しそうに雑談をしていた。
君津で降りた彼女たち二人は、駅から徒歩五分の場所にある渡鍋学院に向かった。
八時間後、
「広瀬さん、帰りましょう……」
「茜ちゃん、帰ろう……」
朝昼のホームルーム及び平常授業を終えた広瀬百合子・東郷茜は、
校門の前で落ち合って言葉を交わし、手を繋ぎながら君津駅から電車に乗った。
「茜ちゃん、今日の公民の授業。
とても面白かったわ……」
「広瀬さん、そうですか……」
午後四時四五分の館山行きに乗った広瀬百合子・東郷茜(タキリ・イチキの双子)は、
共にテニス部の練習を終え、とても楽しそうに雑談をしていた。
そうして雑談をしているうちに、館山行き列車は保田駅に到着した。
それと共に、
「広瀬さん、また明日……」
そこで降りた東郷茜は、いつも通り窓越しで車内にいる広瀬百合子に言葉を掛けた。
言葉を掛けられた彼女は、
「茜ちゃん、気をつけてね……」
満面の笑みを浮かべて東郷茜に答えた。
保田駅にて広瀬百合子と別れた東郷茜は、
駅前に置いておいた自転車に乗って自宅に帰宅した。
すると、鋸山のハイド事件の時、広瀬百合子の傍らにいた幼い男の子が自宅の居間にいた。
その彼は、
「あれ、あの時のお姉ちゃん。
おかえり……」
彼女が帰宅するなり、嬉しそうな表情を見せて言葉を掛けた。
ふと、
「そういえば君は、あの時の男の子だね……」
東郷茜は驚いた素振りを見せつつ彼に答えた。
さてその二人が話し合っていると、
「茜、おかえり……」
「晃、ただいま……」
養父の東郷裕和が勤務先の金谷港(東京湾フェリーの窓口業務)より帰宅し、
養い子の東郷茜と傍らの男の子にそれぞれ語り掛けた。
それに対し、
「お父さん、ただいま……」
「そういえば、この子どうしたの……」
東郷茜は不思議げな様子で答えた後、その男の子について彼に尋ねてみた。
その尋ねに、
「茜、彼は先週の脱線事故にて亡くなった僕の再従兄弟の息子で、
名前は明石晃だよ……」
東郷裕和は彼こと自らの再従兄弟という明石晃を彼女に紹介した。
続けて、
「茜お姉ちゃん、僕は明石晃。
晃って呼んでね……」
明石晃は嬉しそうな表情を見せ、改めて姉貴分の東郷茜に自己紹介をした。
次いで、
「晃、私は東郷茜。
イチキって呼ばれているわ……」
東郷茜も改めて弟分の明石晃に自己紹介をした。
そして、
「じゃあ、晃。
モノコリーで遊ばない……?」
東郷茜は親睦を深める意味も込めて、
家に置いてある【モノコリー】という双六をしないか明石晃に提案した。
それを提案された明石晃は、
「うん、茜お姉ちゃん。
遊ぼう……」
これまた嬉しそうな表情を見せて彼女に答えた。
こうして東郷茜・明石晃の姉弟分コンビは、楽しそうにモノコリーで遊んでいた。
なお、明石晃は翌日より東郷家の一員となり、東郷晃と名を改めていた。

No.0007 シコネ、旅立つ

時同じくして、ブレーンを隔てて真中のエネルギーが物理法則を支配、
地球よりも二倍の早さで年が進む世界。
そこのヤマト地方の元・すばる王朝ことヨモツノ国・アラガミ城では、タキリ・イチキ(広瀬百合子・東郷茜)ら三つ子の兄・ハヤスサ(ハイドらに捕まった後で洗脳、
操り人形のようにされた)がミタマと名前を改め、国王に就任。
またシコネという母親のヤカミに似た王女を設けていた。
ある日、
「ミタマ様・シコネ姫様。
報告がありまして、我々を駆逐する能力を持つタキリが惑星テラで覚醒。
それを幇助したイチキも同じ場所にいた模様です……」
神奈川県横須賀市の小型原子炉からブレーンを通り抜け、
逃げ帰ってきたハイドの一人が、
四月一五日の作戦の様子、
及びタキリ・イチキの出現などを国王であるミタマ(スサハヤ)や、
王女・シコネに報告した。
それに対し、
「ふむふむ、ご苦労だった……」
ミタマは頷いた表情を見せて彼に労いの言葉を掛けた。
続けて、
「お前ら、惑星テラに行ってタキリとイチキを始末してこい……!!
行かなければ斬首だ……!!」
ミタマは血相を変え、実妹であるはずのタキリ・イチキ姉妹を消すよう命令を下した。
だが、
「父君、仮にもタキリ・イチキは私の叔母様にあたりますねん。
どうか殺さぬようお願いしますわ……」
それを彼が下した瞬間、無表情でいたシコネは、
突如として叔母のタキリ・イチキ姉妹の粛清を止めるよう、
父親のミタマ(スサハヤ)や心の中で嫌悪感を懐くハイドらに嘆願し始めた。
しかし、
「シコネ、お前はあいつらの味方になろうとしているのか……?
だとすれば、お前も始末しなければならない……!!」
「皆の者、シコネは敵だ。
八つ裂きにして消せ……!!」
父親のミタマはこれまた怒り狂って娘のシコネを消すようハイドらに命じた。
その命を受け、
「シコネ姫様、いや我々ハイドを脅かす邪者よ。
消えるが良い……!!」
ハイドたちは、両手に弓と毒矢を持ちながら言葉を放ち、シコネに迫った。
この為、
「うちこそ、叔母様を殺そうとする奴は嫌いやねん……!!」
シコネは父親のミタマ、
また嫌悪感を懐くハイドらを恨むかのように睨み付けて悪口をいった。
続けて彼女は、自慢の跳躍力や木登りでハイドの包囲を潜り抜けて自室に向かった。
そこでシコネは、腹違いの二番目の妹・サグメとよく遊びに行くトサケタ湿原で見つけ、
密かに持っていた祖母・ヤカミの羽衣・腕輪などを身に付けた。
それと同時に、
「天を巡る星たち、大地を潤し生命を育む水・森、闇を照す火よ。
我がシコネに力を授けたまえ……!!」
シコネは夢で祖母・ヤカミ妃(ナデシコ姫)に教わった呪いを唱えた。
すると、彼女は羽衣・腕輪の発する光に包まれた。
その直後、シコネは叔母のタキリ・イチキとは色違い。
水色の衣・羽衣・腕輪などの出で立ち、
また鋼の長槍を持ったいわゆる戦闘天女・ヤカミにそっくりな姿となった。
そして、
「いたぞ、消せ……!!」
ハイドの一団は部屋にいたシコネを見つけるやいなや、毒矢を射った。
しかし、
「ハイドよ、いつまでもうちに毒矢が通用すると考えるんのは大間違いや……!!」
彼らがそれを射った瞬間、シコネは槍で二本の弓矢を切り刻み、
残りの毒矢を氷づけにして言葉を発した。
「ぬぅ、邪者よ。
謀ったな……!?」
それにはハイドの一団も跳ね返ってきた毒矢を受け、
恨むかのように彼女に言葉を返して息絶えた。
「叔母様方、今参りますねん……」
ハイドらを退治したシコネは地球に向かうため、時空間歪発生装置の中心部に近寄った。
すると、
「きゃあ……!?」
彼女の身体は例の装置の中に吸い込まれ、姿が見えなくなっていった。
まもなく、
「あれ、ここは何処なんかな……?」
真中エネルギーの世界から逃げてきたシコネはある場所に出てきた。
そこは、堤防の土手が楕円形に連なる不思議な場所だった。
この為、
「左側に大きな山が見えて緑豊かやね……」
彼女はその場所を不思議そうに見つめ、言葉を呟きつつ歩いていた。
すると、
「君、ここは一般人立ち入り禁止だよ……!!」
見知らぬ格好・出で立ち、所謂スーツ姿の警備員が彼女を不審者と思って言葉を掛けた。
これに対し、
「サピエンスよ、我は天女のシコネ。
安らかに眠りたまえ……」
シコネははにかんだ表情を浮かべ、彼を見つめて催眠術を掛けた。
「今のうちに逃げたろう……!!」
続けて彼女は彼が催眠術に掛かったのを見計らい、自らの能力を用いて空に飛び立った。
なお、彼女がボイド空間から出てきた所は、
茨城県つくば市大穂田にある電子物理科学総合研究所、
日時は二○一○年五月一日午前九時。
EPRやつくばの加速器とも呼ばれる場所である。
さて、茨城県つくば市を発ったシコネは、まもなく利根川を渡り、
木下・佐倉・高滝湖を経由し、叔母のタキリ・イチキのいる千葉県館山方面を目指した。

No.0008 ショッピングポルターガイスト

それと同日、同時刻。
広瀬百合子は仲間の東郷茜や彼女の弟分・明石晃改め東郷晃。
さらに養父の広瀬芳夫を伴い、
館山ベイシティーショッピングセンターに買い出しに行くことになった。
まず、
「お父さん、おはよう……」
「百合子、おはよう……」
その親子は、八時に起床してそれぞれ朝の挨拶をした。
次に広瀬芳夫・広瀬百合子は朝食を摂った後、長須賀の自宅から館山駅に向かった。
時刻は午前九時、広瀬百合子・広瀬芳夫が駅に赴いてみると、
喫茶店の前に東郷茜・東郷晃の姉弟分コンビがいた。
そこで、
「広瀬さん方、おはようございます……」
「お姉ちゃん、お久しぶり……」
東郷茜・東郷晃の二人は、
目の前に来た(姉の)広瀬百合子・タキリや広瀬芳夫に挨拶をした。
次いで、
「東郷さん方、おはようございます……」
「茜ちゃん・晃くん、おはよう……」
広瀬百合子・広瀬芳夫の二人もさわやかな様子を見せて東郷茜・東郷晃に答えた。
こうして館山駅前にて落ち合った広瀬百合子・広瀬芳夫・東郷茜・東郷晃ら四人は、
二○分ほど歩いてベイシティーショッピングセンターに向かった。
そこで広瀬芳夫と東郷晃の男コンビは、UFOキャッチャーのあるゲームコーナー。
広瀬百合子・東郷茜(三つ子のタキリ・イチキ姉妹)は、
ファッションコーナーに向かっていた。
場所は館山ベイシティに戻る。
初めに、
「茜ちゃん。
私、可愛いかな……?」
広瀬百合子はブティック・タカツで可愛らしい洋服を試着し、
満面の笑みを浮かべて東郷茜に言葉を掛けた。
対して、
「広瀬さん、とても可愛いです……」
東郷茜は微笑み、彼女に答えていた。
試着を終えた二人はレジで会計を済まし、
ブティックを出て東郷晃・広瀬芳夫のいるゲームコーナーに向かおうとした。
その瞬間、
「何がいる……!?」
二人とも何らかの気配を感じて立ち止まった。
すると、
「タキリ・イチキ、今度こそお前らを消す……!!」
各店舗のショーケースや棚に置かれていた貴金属・宝石及び文房具・玩具、
マネキンが独りでに動き出した。
それらはどういう訳だか言葉を発し、
回りにいた人々と広瀬百合子・東郷茜の二人に襲い掛かった。
これには、
「きゃあ、助けて……!!」
回りにいた人々は混乱し、揉みくちゃな状態になりながら外の出口に向かおうとした。
これを察した広瀬百合子は、
「茜ちゃん、緊急事態だわ。
変身するわよ……!!」
迫り来るそれらを避け、傍らにいた相方の東郷茜に姿を変えるよう指示を下した。
「広瀬さん、了解です……!!」
東郷茜もそれを受けて、真面目な眼差しで彼女に答えた。
「えぃ……!!」
まもなく広瀬百合子・東郷茜は、
心の中に浮かぶ呪文を唱えて天女のタキリ・イチキ姉妹となり、
独りでに動き回る玩具・貴金属に立ち向かっていた。
その五分前、
「広瀬の小父さん、叩こうっちで遊ぼう……」
「うん、いいよ……」
ゲームコーナーにいた広瀬芳夫と東郷晃はUFOキャッチャーの他、
エアホッケー・お菓子スロットで遊んだ後、
【叩こうっち】なる音楽の太鼓叩きゲームをしようと一○○円玉を投入した。
すると、
「葦の人間たちよ、我がヨモツノ国のミタマ様に従うのだ……!!」
先程までスタート画面(叩こうっち)が突如として、
ハイドらを率いるヨモツノ国国王・ミタマ(スサハヤ)の映像が投影された。
「お前に従いたくない……!!」
それを見た周りにいた人々及び広瀬芳夫・東郷晃ら一同は、
口々に画面に向かってそれを拒絶した。
だが、
「ミタマ様を冒涜したお前ら。
俺たちが消す……!!」
その瞬間、清掃・巡回をしていた小型ロボット・ログウェイが、暴走を始めた。
そのロボットらは拒絶したことに怒り狂っているらしく、
彼らに強く体当たり・足を踏みつけてきた。
この為、
「痛いよ……!?」
それらをされた人間たちは、傷口を押さえつつゲームコーナーの出口に赴いた。
しかし、
「開かない、ドアが開かない……!!」
どういう訳だかそこのドアが開かず、彼らは閉じ込められた。
この為、
「母さんを殺した憎き奴らよ、覚悟……!!」
一か八か東郷晃は足でロボットを潰した。
続けて彼は、持っていたマジックで監視カメラを塗り潰し、それを遮った。
するとロボットたちは動かなくなった。
それを見計らい、
「えぃ……!!」
広瀬芳夫・東郷晃ら閉じ込められた人々は、息を合わせてドアをやむなく破壊し、
ショッピング・プロムナードに出た。
そこでは先述の通り、ありとあらゆる商品(貴金属・玩具)が独りでに飛び回る現象、
すなわちポルターガイスト現象が起きていた。
それ故に、
「なんだこれ、痛い……!!」
ゲームコーナーから脱出した広瀬芳夫・東郷晃らは、飛び回るダイヤモンド石やピアスの穴あけなどで傷を負いつつ、匍匐前進で駐車場方面に向かった。
その途中、
「あれ、お姉ちゃんたちだ……」
東郷晃は無我夢中でポルターガイスト現象に立ち向かうタキリ・イチキ姉妹の姿を見つけ、そちらの方向に向かった。
「ふっふっふ、われぇがアキラ・トウゴウか……?」
東郷晃が彼女たちの元に向かおうとした瞬間、
背後から重厚な鎧の出で立ち、
タキリ・イチキ及びシコネに似た(二六才の)男が、
おぞましい表情を見せて言葉を掛けた後、彼を拘束した。
その為、彼は声を出してタキリ・イチキの二人に助けを求めようとした。
だが、
「あれ、声が出ない……!?」
どういう訳だか東郷晃は声を出なくなってしまっていた。
それと共に、
「ふっふっふ、吾の前でサピエンスは声を出せない。
すなわちお前はあいつらに助けを求められぬ……」
鎧の彼はこれまたおぞましい口調で東郷晃に話し掛けた。
それでも、
「百合子姉ちゃん・茜姉さん、助けて……!!」
東郷晃は目に涙を浮かべ、目の前にいるタキリ・イチキ姉妹に助けを求めた。
すると、
「タキリ姉様、あの辺りで晃が何者かに捕まっています……!!」
イチキは細かい破片になったそれらに立ち向かいつつ、
東郷晃の様子を案じ、すぐさま姉のタキリに知らせた。
これを受けて、
「イチキ、わかったわ……」
タキリも彼の様子を察していたらしく、振り返ってみた。
振り返るなり、
「ふっふっふ、お前が僕で我々を脅かす天女のタキリとイチキか……」
先程の鎧男が目の前におり、おぞましい口調で彼女たちに語り掛けた。
それに対し、
「もしや、そなたは兄君……?」
「もしかして、あなたはスサハヤ兄様……?」
姉のタキリ・妹のイチキ共に、
鎧男を自らの三つ子の兄・スサハヤではないか考えて言葉を掛けた。
それに対し、
「ふん、かつて吾はそのようだった。
だが今は、お前らを消さなければ我々の存在が危うくなる……!!」
「タキリ・イチキよ、消えるが良い……!!」
鎧男ことミタマは、おぞましい口調で自ら兄・スサハヤである事実を明かした。
続けて、
「荒神よ、このチビをハイドの仲間とせよ……」
彼は東郷晃を宙に浮かせ、仲間に引き入れる儀式を始めた。
「イチキ、例え兄君が敵でも私たちは戦う運命。
また彼を助けなければならない……!!
だからこそ行くわよ……!!」
「姉様、了解です……!!」
タキリ・イチキ姉妹も共に実兄が敵であることに戸惑いを見せ、
破片の舞う環境下で言葉を掛け合い、鋼剣・弓矢を持って彼の儀式を止めようとした。
しかし、
「あれ、羽衣と腕輪が……!!」
その瞬間、彼女たちの身に付けていた羽衣・腕輪が独りでに外れ、
いつの間にかミタマの手元にあった。
よって、
「えっ、元の姿に戻ってる……!?」
彼女たちは元の広瀬百合子・東郷茜としての姿に戻ってしまった。
その様子を見たミタマは、
「所詮、天女は羽衣・飾り物をとってしまえば普通の人間だ……!!」
「覚悟しな、お前たちを我らの前で跪かせる……!!」
三言言葉を放った折、刺叉で彼女たちに襲い掛かろうとした。
その為、
「嗚呼、誰か助けて……!!」
広瀬百合子・東郷茜共に絶望にも似た気持ちを懐いたままで助けを求めた。

No.0009 天女シコネ見参

そうしていると、どういう訳だかポルターガイスト現象はおさまった。
目の前に青色のヤカミの腕輪・羽衣・衣を纏った美しい天女、
つまり茨城県つくば市の加速器から来たシコネが現れた。
そして、
「父君、叔母様方をいじめるとは言語道断や。
うちが叔母様方の味方としてあんたを成敗しますわ……!!」
シコネは軽やかに宙を舞って言葉を発し、鋼の長槍で父親のミタマの刺叉と交えた。
対して、
「ふん、今度こそ。
我らを裏切ったお前を消す……!!」
ミタマは怒り狂った表情を見せて彼女に言葉を放っていた。
こうしてミタマ・シコネの親子で敵同士の二人は、
それらを交えつつ言い争っていた。
それを見計らい、
「タキリ、行くわよ……!!」
「姉様、了解です……!!」
広瀬百合子や東郷茜の二人は、
咄嗟に(傍らにあった某・吸引力の変わらない)掃除機を動作させ、
それをミタマに向けた。
すると、
「ぎゃあ、丸い小馬車に吸い込まれる……!!」
ミタマは忽ち彼女たちの操る掃除機の吸い上げ風に引き寄せられて油断した。
これを見計らい、
「隙あり……!!」
シコネは鋼の槍を彼の一ミリ手前で寸止め。
また、
「えぃ……!!」
東郷晃も決死の思いで彼に蹴りを入れた。
それには、
「お前ら、覚えていろ。
二度目は必ず消してみせる……!!」
ミタマは三口ほどおぞましげな表情で広瀬百合子らに悔しそうな言葉を放った後、
その羽衣・腕輪を置いたまま、煙幕と共に視界から姿を消してしまった。
これには、
「ミタマ・兄様よ、今度現れたら私たちや晃が懲らしめる……!!」
「父君、今度現れましたらこの鋼槍で叩ききって見せまんねん……!!」
広瀬百合子・東郷茜・東郷晃・シコネたちは、
それぞれミタマのことを頭に浮かべて決意を固めていた。
ふと、
「そういえば、あなた。
姿を変えた私たちのような出で立ちだけど、
何処から来て、どんな名前なの……?」
広瀬百合子は不思議そうにシコネのことを見つめて尋ねた。
その尋ねに、
「うちはヨモツノ国の国王・ミタマ、スサハヤの王女・シコネ、一二才。
すなわちあんさん方から見て、姪っ子にあたりますねん……」
シコネは自ら憧れていた叔母のタキリ・イチキ(広瀬百合子・東郷茜)らに、
自己紹介をした。
対して、
「シコネ、助けてくれてありがとう。
私はあなたから見ると叔母のタキリ・広瀬百合子で、彼女は妹のイチキ・東郷茜。
彼が東郷晃だよ。
よろしくね……」
広瀬百合子(タキリ)は自身や仲間の東郷茜・東郷晃の自己紹介混じりに、
シコネに言葉を返していた。
そうしているなり、
「東郷さん・百合子、大丈夫だったか……」
駐車場の方向から広瀬芳夫が現れ、そこにいた広瀬百合子らに語り掛けた。
語り掛けられた四人のうち、
「お父さん、特に怪我はなかったわ……」
「広瀬の小父さん、僕もこの通りだよ……」
広瀬百合子・東郷晃は、何もなかったかの如く彼に答えた。
すると、
「君、可愛いね。
名前はあるの……?」
広瀬芳夫は羽衣・腕輪を身に付けたシコネに興味を持ち、やさしそうに尋ね掛けた。
それに対し、
「うちは天女のシコネ。
どうかよろしくお願いしまんね……」
シコネも彼の目前で跪いて答えた。
シコネはその後羽衣・腕輪を外して普通の姿に戻り、御手洗で買った洋服に着替えた。
(2012/2/4 更新&編集済み)

No.0010 シコネの右傷

さて、館山ベイシティーで買い物などを終えた広瀬芳夫・広瀬百合子・東郷茜・東郷晃、彼らの味方になったヨモツ国の王女・シコネらは館山駅に向かった。
そこで、東郷茜と東郷晃のコンビは、保田に帰宅するため、
広瀬百合子らと別れて内房線の千葉行き電車に乗車した。
残りの広瀬百合子・広瀬芳夫・シコネの三人は、何か楽しそうな会話をしながら、
長須賀の広瀬家に向かった。
帰宅するなり、
「よっちゃん・百合子。
お帰り……」
広瀬美香が微笑ましい笑顔で夫・広瀬芳夫や養女の広瀬百合子に言葉を掛けた。
これに対し、
「美香、ただいま……」
「お母さん、ただいま……」
広瀬芳夫・広瀬百合子共に笑顔で彼女に帰宅の言葉を掛けた。
続けて、
「よっちゃん。
あの紺色の洋服を着た可愛らしい女の子が百合子の後ろにいるけど、どうしたの……?」
広瀬美香は広瀬百合子の背後にいるシコネの存在に気付き、すぐさま広瀬芳夫に問うた。
それを受け、
「美香、彼女は百合子と同じ世界から来たシコネって女の子で、
今日から僕たちの家族になるんだよ……」
広瀬芳夫は真面目な面持ちかつ身ぶり手振りを交え、
ヨモツ国の姫・シコネについて妻・広瀬美香に説明した。
次に、
「お母さん。
彼女曰く、私の兄方の姪っ子にあたるの……」
広瀬百合子も彼と同様に身体の動きと言葉を交え、
広瀬美香にシコネが姪にあたることを紹介した。
そして、
「シコネちゃん、初めまして。
私が今日からあなたの母親になる広瀬美香です。
よろしくね……」
広瀬美香は気前良さそうな表情を見せ、シコネに自己紹介をした。
対して、
「うちはシコネ、一二才。
ここにいてはる叔母様と同じ世界から来ましたねん……」
シコネは微笑みを浮かべ、自らの紹介と共に広瀬美香に答えていた。
この後、シコネは広瀬百合子に連れ添われ、家の二階にある百合子の部屋に向かった。
そこで、
「今日からあなたは、この部屋で私と寝起きなどを共にするよ……」
広瀬百合子は引戸を開けてシコネに部屋を見せ、
自分たちの生活する部屋となることを知らせた。
よって、
「ここがうちの暮らすとこなんやね……」
シコネは部屋を見渡し、二言言葉を呟いた。
次にシコネは部屋に入り、広瀬百合子と掃除などの身支度を済ました。
それが終わるのと共に、シコネは風呂に入るために広瀬百合子と浴室に向かい、
脱衣場で着ていた洋服を脱ぎ、
洗濯機の物置に置いてあったスポンジを取るために右手を伸ばした。
この時、
「あの傷、何なのかな。
転んで擦ったのかな……?」
広瀬百合子はシコネの右腕の付け根近くに二本か三本ある傷の縫合跡を見つけ、
どのような理由で出来たものなのか考えていた。
そうしているなり、
「叔母様、ボーッとしてると沐浴のお湯冷めてしもうねん……」
シコネはお湯を入れ終え、浴槽を指差しつつ広瀬百合子に入るよう促した。
この為、
「シコネ、気が利くんだね。
ありがとう……」
広瀬百合子は嬉しそうな表情を見せ、彼女を褒めていた。
まず、広瀬百合子がシコネの身体をシャンプーなどで洗い、
次にシコネが見よう見まねで広瀬百合子の身体を洗ってあげた。
そして、広瀬百合子・シコネは身体を洗い終えるのと同時に、
浴槽に身体を沈めて楽しそうに言葉を交わしていた。
この時、
「シコネ。
あなたの右腕に傷のようなものがあるけど、どんなことで出来たの……?」
広瀬百合子は先ほどより気になっていた右腕上部の傷についてシコネに尋ねた。
その尋ねに、
「叔母様。
この傷は四年前、うちが腹違いで天女の妹と湿原で花を摘んでいた時、
蛇に咬まれて出来た傷ですねん……」
シコネは右腕上部の傷を見つめ、妹と花摘中に咬まれた傷であることを彼女に打ち明けた。
次に、
「うちが腹違いの妹と花を摘んでて、めっちゃ可愛ええ茨の花を見つけて近寄ったら、
その花の下にいてはった毒蛇に咬まれてしもうたんや……」
シコネは蛇に噛まれるまでの経緯を包み隠すこともなく、広瀬百合子に話した。
この話に、
「その後、どうなったの……?」
広瀬百合子は相づちをしながら以後の経緯について彼女に説明を求めた。
その求めに、
「咬まれた後、うちは気ぃ失って倒れたんやけど、
腹違いの妹が天女やから全速力で飛ばし、
父君の所に連れていってくれはったんやって……」
「やけど、ヨモツ国の医療やとうちの蛇毒を消せへんことが分かって、
父君は敵のナデシコ姫いうあめふり国の人に助けを求め、
人質にしてた天女や下僕の帰国を条件に医師団を仕立て、血清もくれたんや。
そのお陰で、うちは死の淵から生還でけたちゅう話ですわ……」
シコネは腹違いの妹に背負われてアラガミ城へ帰り、
ミタマが敵のあめふり国の権力者(ナデシコ姫)に助けを求め、
医師団が派遣されて九死に一生を得るまでのエピソードを広瀬百合子に語った。
これを耳にするなり、
「へぇ、そういうことがあったの……」
広瀬百合子は顔を頷かせ、彼女に言葉を返した。
その後、シコネと広瀬百合子は楽しそうに言葉を交わしていた。
この中で、
「ねぇ、シコネ。
あなたは私のことを叔母様って呼んでいて、私はあなたのことをシコネって呼んでいる。
けれど、今日から私たちは姉妹になるんだから、呼び方を変えようよ……」
広瀬百合子はシコネが事実上の姉妹になったことを踏まえ、
呼称の変更について彼女に提案した。
それに対して、
「叔母様、ええね。
さっそく、考えましょうや……」
シコネは広瀬百合子の手を取って答え、呼称変更の提案を受け入れることにした。
まず、
「私はあなたのお姉ちゃんにあたるから、お姉ちゃんかお姉様って呼んでね……」
広瀬百合子は自ら姉貴にあたることを考慮の上、
シコネに対して二つの呼称で呼ぶように伝えた。
次いで、
「うちは、春に樹全体に可憐な花を咲かせはるサクラが好みやから、
さくらって呼んでや……」
シコネはこよなく愛するツチサクラから自らをさくらとして呼ぶよう広瀬百合子に伝えた。
よって、
「叔母様、いやお姉様。
よろしくお願いしますねん……」
「さくら、よろしくね……」
広瀬百合子とシコネ(さくら)は、
楽しそうな素振りを見せ、互いに言葉を掛け合っていた。
翌日、シコネは広瀬芳夫や広瀬美香により、広瀬紗久良と名付けられた。
同時に広瀬百合子の提案で天女名を宗像三女神の三番目・多岐都比売命から取り、
タキツと新たに命名した。
シコネ改め広瀬紗久良・天女タキツは、仲間の広瀬百合子・天女タキリ、
東郷茜・イチキと共に悪き帝王・ミタマや彼を担ぐハイドらに立ち向かうことになる。

No.0012 北のDAICHIへ

二○一○年六月一○日の午前二時の広瀬家。
広瀬百合子は眠そうな素振りを見せつつも、
大きな旅行用リュックサックに洋服、
寝間着・アメニティなど旅行に必要なものを入れていた。
そう彼女は、今日から学校の修学旅行で五日間ほど北海道に出掛けることになっていた。
この為、広瀬百合子は当日の未明から準備をしていた。
それから四時間後、
「はぁ、終わったわ……」
広瀬百合子はチェックシートとリュックサックの中身を確認し、
修学旅行の荷物準備を終えた。
これと共に、
「紗久良、起きて……」
彼女はこれまた眠そうな素振りながらも、妹分の広瀬紗久良(タキツ)を起こした。
それに対し、
「お姉様、おはようさん……」
広瀬紗久良はさわやかな笑顔を見せて起床し、姉分・広瀬百合子に答えた。
この後、広瀬百合子・広瀬紗久良姉妹は、朝御飯を摂り、お小遣いを貰い、
最後に制服に着替えて六時三○分に長須賀の自宅を出た。
館山駅に行く途中、
「お姉様、お土産仰山買うて来てください……」
広瀬紗久良はわくわくした様子で、北海道土産を買ってくるよう広瀬百合子に求めた。
その求めに、
「紗久良、ちゃんとあなたやお父さん・お母さん・茜ちゃん、
晃くんの分のお土産も買ってくる。
だから心配しなくてもいいわ……」
広瀬百合子は微笑みを浮かべ、その分の土産を購入してくる旨を広瀬紗久良に伝えた。
こうしているうち、広瀬百合子・広瀬紗久良らは、館山駅の東口に到着した。
そこで、
「紗久良、北海道に行ってくるね……」
広瀬百合子は六時四五分発・羽田空港行きバスに乗り、
窓を開けて遠くにいる広瀬紗久良に言葉を掛けた。
続けて、
「お姉様、行ってらっしゃい……」
広瀬紗久良も遠ざかり行く広瀬百合子の表情を見て、言葉を掛けていた。
広瀬紗久良は姉分である彼女を見送った後、
急いで館山駅のホームに向かい、何時もの千葉行きに乗車して君津の渡鍋学院に向かった。
さて、広瀬百合子の乗る羽田空港行きバスは、
途中富山楽郷・君津ターミナル・木更津羽鳥山に止まり、
二時間後の八時四○分に終点・羽田空港国内線フロアに到着し、彼女はバスから下車した。
すると、
「百合子ちゃん、おはよう……」
同級生で親友の中田綾子(木更津市大和町在住)が同バス停におり、
バスより降りた彼女に言葉を掛けた。
それに対し、
「あこちゃん、おはよう……」
広瀬百合子はさわやかな表情を見せ、中田綾子に朝の挨拶を兼ねて答えていた。
こうして広瀬百合子と親友・中田綾子はバス停で合流し、
集合場所である出発フロアのウイング待合広場に向かった。
そこで二人は、担任・上野秀夫の出欠を受けた後、
トイレに行ったり展望デッキで航空機の撮影をしたりして、
集合時刻の一○時まで暇潰しをした。
二時間後、広瀬百合子・中田綾子ら三年A組と三年B組を含めた一行は、
荷物検査や預かりなどのプロセスを経て、
AIR―h・五〇六便の一○時四○分羽田空港発旭川富良野口空港行きに搭乗した。
時間が経過し、一○時四○分になった。
それと共に五〇六便は3番滑走路に向かい、まもなく離陸した。
羽田を発った五〇六便・旭川富良野口空港行きは、
船橋市・守谷市・郡山市・面白山高原・三沢付近の上空を通過し、
一時間後に津軽海峡に差し掛かった。
その時、
「あこちゃん、あれが岩川さやかの歌に唄われる津軽海峡だわ……」
広瀬百合子は津軽海峡を見るなり、
有名な演歌女優の名曲を思い出して中田綾子に話し掛けた。
この話に、
「百合子ちゃん、確かに津軽海峡だね……」
中田綾子は恐山と戸井岬間に介在する津軽海峡を窓越しに見て、
広瀬百合子に言葉を呟いていた。
それから三○分後、五〇六便は定刻通り、
正午〇時五分に旭川富良野口空港に着陸し、乗降口に横付けされた。
これと共に広瀬百合子・中田綾子たち三年A組・B組の一同は、
乗降口のタラップを降り、カウンターで荷物を受け取った後、
団体バス乗り場に停車中のあさひ交通・貸切バス(二台)に分乗した。
時刻は正午〇時一四分、渡鍋学院貸切バスは、旭川富良野口空港を発ち、
一つ目の目的地・旭台どうぶつ園に向かった。
その道中、
「私は今回の修学旅行のバスガイドをさせていただきますあさひ交通の浜崎洋子、
浜崎洋子と申します……」
一号車のバスガイド・浜崎洋子は、
乗り合わせた三年A組の広瀬百合子・中田綾子たちや担任の上野秀夫に自己紹介した。
この時、
「あの人、どういう訳だかわからないけど、ハイドやハヤスサ兄様、
今のミタマたちと同じ気が漂っている……」
広瀬百合子(天女・タキリ)は、気前良く自己紹介をする浜崎洋子の様子を見て、
ミタマやその仲間・ハイドと同様な重々しい気を感じ取り、思わず身震いをした。
その為か、
「百合子ちゃん、どうしたの……?」
中田綾子は心配そうに身震いしていた親友の広瀬百合子に語り掛けた。
これに対し、
「あこちゃん、私は大丈夫だわ……」
広瀬百合子はまるで何も無かったかのように中田綾子に答えた。
そうしているうち、修学旅行のバスは、旭台どうぶつ園に到着した。
到着と共に、広瀬百合子・中田綾子らは仕出し弁当を受け取り、
団体口より旭台どうぶつ園に入園した。
さっそく、広瀬百合子・中田綾子の仲良しペアは、
蝦夷鹿・月輪熊などの行動展示園舎を早足ながらも見学した。
「テレビで見るより、実際に見ると迫力があるわ……」
白熊舎では広瀬百合子・中田綾子共に、
水路や水槽・岩の上で行動する白熊の様子を見て感銘を受けた。
そして、彼女たちは白熊舎を後にして、正門近くのお土産コーナーに向かった。
ここで、
「紗久良には可愛い白熊と北狐のストラップ、
動物好きの茜ちゃんには蝦夷鹿のコップを買っていこう……」
「私はお父さんとお母さんに、お揃いの白熊のハンカチを買っていくわ……」
広瀬百合子・中田綾子は、それぞれ品定めに迷い、
その末に土産として買うものを決めて購入した。
土産を買った広瀬百合子・中田綾子は数多ある動物舎に後ろ髪をひかれつつも、
集合時刻の午後二時五○分に団体口に戻ってバスに乗車した。
旭台どうぶつ園を発ったバスは、
北海道貨客鉄道富良野本線沿いの国道を進み、
次の目的地、道の特別名勝でCMによって有名になった美瑛の一本、
大蝦夷松を三○分程見学した。
その後、広瀬百合子・中田綾子らは、再びバスに乗り、
綺麗なラベンダー畑で定評のある富良野・平田ファームに一時間程立ち寄り、
一日目の宿泊先・富良野ロイヤルホテルに向かった。

No.0012 富良野でFLY

「あこちゃん、旭台どうぶつ園楽しかったね……」
「百合子ちゃん、そうだったね……」
広瀬百合子・中田綾子共に同じ部屋であり、楽しげに言葉を掛け合っていた。
同時刻、バスガイドである浜崎洋子は宿部屋の鍵を締切り、怪しげな水晶玉を弄っていた。
この中で、
「ミタマ様、ミタマ様。
ウョチクラウユです。
バスガイドに成りすまし、敵である天女・タキリを捕捉いたしました……」
浜崎洋子ことハイドの女・ウョチクラウユは、
水晶玉越しに映る主君・ミタマに状況報告をした。
それに対し、
「ウョチクラウユ、暫くは人間を装いつつ敵に揺さぶりを掛けてくれ……」
ミタマは二言言葉を呟き、タキリの監視などをウョチクラウユに命じて会話を終えた。
やがて日が沈んで夜八時となった。
広瀬百合子は中田綾子と共にホテルの牧場に出て、雄大な富良野の星空を眺めていた。
その時、
「あこちゃん、あれが春の大三角形だわ……」
「百合子ちゃん、綺麗だね……」
広瀬百合子・中田綾子共に、空に浮かぶ宝石のような星々を見て、思わず感銘した。
続けて、
「百合子ちゃん、天女の物語って知ってる……?」
中田綾子は芝生に仰向けに寝て、
何を思ったのか羽衣・天女の伝説について広瀬百合子に尋ねた。
それに対し、
「あこちゃん、たしか星空の彼方から来た美しい女性が、
若い男に羽衣を隠されて帰れなくなる話でしょ……」
広瀬百合子は、その話を付け加える形で中田綾子に答えた。
これに対し、
「百合子ちゃん。
この星空を見ていると、
何処からか美しい天女が出てきてもおかしくないと考えるわ……」
中田綾子は再度星を眺め、持論を交えて広瀬百合子に言葉を返した。
その為、
「あこちゃん、暫く目を瞑っていてくれないかな……?」
広瀬百合子は満面の笑みを浮かべ、一時目を閉じるよう中田綾子に伝えた。
これを受け、
「うん、わかったわ……」
中田綾子は頷いて彼女に返答し、まもなく目を瞑った。
それと共に、
「空を舞う七つの星、そして森羅万象の全てよ。
汝、我がすばるの天女・タキリに力を授け賜え……」
広瀬百合子はズボンの物入れにあった自分の羽衣や飾り物を身につけ、
心の中でお呪いを唱えて天女・タキリに変身し、空に舞い上がった。
この時、
「あれ、私の言ったことが現実のことになってる……!?」
中田綾子は遠くに見える天女・タキリの姿を見るなり、とても驚いた素振りを見せた。
続けて、
「私は天女のタキリ、遥か遠くの星の世界より参りました……」
タキリは自ら広瀬百合子であることを悟られぬよう丁重な口調で中田綾子に語り掛けた。
すると、
「でも、あなたは百合子ちゃんなの……?」
中田綾子は天女である彼女の雰囲気を察し、思わず広瀬百合子ではないか問い質した。
それに対し、
「えっ、分かっちゃった……!?」
「今まであこちゃんには隠していたけど、
私は元々天女の世界から来た人間のようなの……」
天女のタキリこと広瀬百合子は、少し驚いた素振りで彼女に弁解をした。
この言葉に、
「百合子ちゃん、そうだったの……」
「普通の女の子にしていえば、天女ってとても憧れる存在だから、
私も百合子ちゃんのことが羨ましいわ……」
中田綾子は羨ましそうな様子で天女・タキリに答えた。
そして、
「あこちゃん、私と一緒に空を飛んでみない……?」
天女・タキリは地に足をつき、気前良さそうに空を舞わないか中田綾子に提案した。
この提案に、
「ええ、もちろん……」
中田綾子も嬉しそうにタキリに言葉を返した。
まもなく、タキリは親友の中田綾子を抱えて一〇〇メートル上空に舞い上がった。
その時、
「私、空を舞ってる。
本当に空を舞っているわ……!?」
中田綾子はタキリと共に大空を飛んでいることに感服して言葉を呟いていた。
この後、二人は暫く空を舞ってから地上に降りて部屋に戻った。
なお、
「やっぱり、あいつは憎きタキリだ……」
ハイドのウョチクラウユこと浜崎洋子は数一○メートル先の落葉樹の雑木林に隠れ、
悪趣味にも彼女たちのことを監視していた。

No.0013 ピラトストの対峙

翌日、広瀬百合子ら三年A組と同学年のB組は、再度バスに乗車し、
青居湖街道や滝川市を経由して札幌に向かった。
そこで広瀬百合子・中田綾子の二人は、
午前一○時から午後四時までの自由時間に青い彼女ミュージアムやテレビ塔・旧県庁、
時計台などを見学してホテルに戻った。
三日目は、バスで白老アイヌ村・昭和新山を見学し、洞爺湖畔ホテルに宿泊した。
その日の夜、バスガイド・浜崎洋子ことハイドのウョチクラウユは、
手鏡の中に映る主君・ミタマに報告をしていた。
この中で、
「ミタマ様、ウョチクラウユです。
監視を続けているタキリについてですが、今のところ目立った動きは見られません……」
ウョチクラウユこと浜崎洋子は、広瀬百合子・タキリの監視の中間報告をミタマに伝えた。
それを受け、
「ウョチクラウユ、
最後のピラトスト修道院いう場所でサピエンスを操り、タキリを殲滅しろ。
作戦名は、わたつみ一。
失敗は許されないからな……」
ミタマは水晶玉越しに修学旅行における最後の見学場所、
ピラトスト修道院(函館市湯の川)で天女・タキリを粛清する作戦の指揮を彼女に任した。
この為、
「ミタマ様、必ずやそれを成功させて見せます……!!」
ウョチクラウユは、自信に満ちた様子で主君・ミタマに答えていた。
四日目、広瀬百合子ら三年A組は長万部漁協センターで海の幸を堪能し、
函館山の夜景を観賞し、松風町のホテルに入った。
そして五日目・最終日、広瀬百合子・中田綾子ら三年A組は、
朝方函館市街の自主研修をした後、
金杉倉庫前でバスに乗り込み、ピラトスト修道院に向かった。
この道中、
「皆さん、次の見学先を見終えますと私ともお別れになってしまいます……」
「お礼代わりにクッキーを持ってきて参りましたので、どうぞご賞味下さい……」
バスガイド・浜崎洋子(ハイドのウョチクラウユ)は、
渡鍋学院三年A組との別れが惜しいように語り、
狐色のクッキーを生徒たちや担任・上野昭宏に手渡した。
それと共に、
「いただきます……」
中田綾子は貰ったクッキーの封を切り、口に運ぼうとした。
これを見て、
「綾子ちゃん、このクッキーは食べないで……!!」
広瀬百合子は、それを口に運ぼうとした中田綾子を止めた。
それに対し、
「百合子ちゃん、浜崎さんがせっかく私たちのことを思ってくれたんだから、
私は誰に言われようが食べるわ……」
中田綾子は不満げな素振りで広瀬百合子に答え、クッキーを口にした。
なお、広瀬百合子はクッキーを食べず、座席のごみ袋に入れた。
こうしているうち、バスはピラトスト修道院の第二駐車場に到着した。
到着するなり、バスガイド・浜崎洋子は、左腕の指を鳴らした。
続けて、
「ふっふっふ、広瀬さん。
クッキーを食べなかったわね。
さっさっ流石は、ミタマ様の双子の妹で天女のタキリなんだな……」
浜崎洋子は、先ほどまでのやさしそうな表情から一変、
おぞましい素振りかつ林下清のような口調で広瀬百合子に言葉を掛けた。
この言葉に、
「薄々感ずいてはいたけど、あなたは兄様、
ミタマの手下・ウョチクラウユでしょ……!!」
広瀬百合子は彼女のことを睨み付け、また言葉を放った。
対して、
「タキリ、よう私の名前が分かったんだな。
だが、お前を消さなければ、君主・ミタマ様の権力が危うくなるんだな……!!」
浜崎洋子は化けの皮を剥いで元のハイド・ウョチクラウユの姿に戻り、おぞましい口調で広瀬百合子に話した。
この直後、
「下僕奴も、あらゆる手段にて思う存分タキリを穢してやれ……!!」
ハイドのウョチクラウユは、
上野先生や中田綾子たち三年A組の仲間を無慈悲にも広瀬百合子に襲わせた。
その様子に、
「思った通り、あのクッキーはみんなを操るの何かがあったんだわ……」
広瀬百合子も四方八方を塞がれた状況下、
自ら考えを巡らせながら羽衣を抱えてバスの窓から飛び降りた。
これと共に、広瀬百合子は羽衣を身に付けて天女・タキリの姿となり、
ハイド・ウョチクラウユとその操り人形と化した三年A組の仲間・上野先生、
駐車場にいる人々に立ち向かおうとした。
だが、
「私、やっぱりあこちゃんや先生たちを斬れない……!!」
タキリは、鋼剣や火炎を繰り出そうにも、
相手が中田綾子や上野先生といったクラスの同級生・担任また同じ人間であるが故に、
それを振り回したり出したりすることさえ出来なかった。
その様子を見て、
「ふっふっふ、タキリ。
怖じ気付いていないでこいつらの息の根を止めればよい。
ただし、お前は死ぬまで悪者のレッテルを貼られ続けるだけなんだな……」
ウョチクラウユは不気味な笑い声を発し、彼女を挑発した。
この挑発に、
「タキリ・百合子、どうすればこの場を切り抜けられるの。
絶対、誰も傷付けたくないわ……」
タキリは葛藤に苛まれ、困り果てた様子のまま、再度四方八方を取り囲まれた。
それと共に、
「あなたが天女のタキリだね。
痛みつけてあげる……!!」
中田綾子らは白老アイヌ村で作ったブーメランを勢い良くタキリに投げた。
この為、
「えぃ……!!」
タキリは羽衣を操って空に舞い上がり、飛んできたブーメランを避けようとした。
しかし、
「痛い……!!」
タキリは四方八方より迫るいくつかのブーメランを避けられず、
身体の数か所に傷や痣を負った。
それには、
「みんな・あこちゃん・上野先生、操られているわ。
目を覚まして……!!」
タキリもまた思わず涙を流し、ウョチクラウユの下僕・操り人形と化したクラスの仲間、
親友の中田綾子、担任の上野俊行に対し、綺麗な声にて歌を歌いつつ呼び掛けた。
すると、中田綾子は彼女の歌声に反応して足を止めた。
これに続き、クラスの仲間・上野先生らも中田綾子と同様にタキリの歌声に反応し、
攻撃を止めた。
その様子を見て、
「こっ、これはいけない。
操りが利かん……!!」
ハイドのウョチクラウユは、一同の制御が不能になったことを感知し、
怖じ気付いて逃げようとした。
この為、
「ウョチクラウユ、これが仲間を操り人形にした罰だわ……!!」
タキリは彼女のことを追い掛けながら鋼剣で切り掛かった。
「ハイドよ、鎮まるが良い……!!」
また鈴の音と共に何処からか真紅色の羽衣を纏った別の天女が上空に現れ、
ウョチクラウユに対して火縄銃で眠り薬の塗られた弾を発した。
それと共に、
「お前は、牛面のトヨタマ……!?」
「我ながら、あいつらにやられるとは……!?」
ハイドのウョチクラウユは眠気をもよおし、地べたに倒れ込んだ。
これを見計らい、タキリはウョチクラウユを捕らえる為、
地面に降り立って近寄ろうとした。
その瞬間、
「危ない……!!」
真紅色の羽衣の天女は、猛スピードでタキリの元に接近し、身体にのし掛かった。
時同じくして、空の彼方から銀色に輝く閃光が発せられ、
ウョチクラウユの身体を消滅させた。
この時、
「すばるのタキリ姫様、大丈夫でしょうか……?」
真紅色の羽衣の天女は、心配そうに同じ天女のタキリに言葉を掛けた。
対して、
「私は、怪我をしたけど大丈夫だわ……」
タキリは身体中の痣や傷口を押さえ、何もなかったかのように真紅の羽衣の天女に答えた。
この直後、タキリは辺りを見渡してみたが、
ハイドのウョチクラウユの姿を確認することは出来なかった。
その為、
「あのハイドがいないんだけど、どうしたのかな……?」
タキリはウョチクラウユの消息を真紅の羽衣の天女に尋ねた。
この尋ねに、
「タキリ姫様。
ハイドやミタマは、私たち天女や平民を下僕の奴隷、
または子を生ませるものとして働かせるのと共に要らなくなった仲間は粛清するの。
恐らく彼女は私たちに捕まったからミタマに焼き消されたわ……」
真紅の羽衣の天女はタキリの手をとり、
念写を用いてハイドのウョチクラウユがミタマによって粛清されたことを明かした。
その話に、
「赦せない。
使えなくなったハイドを粛清するなんて敵だとしても可哀想だわ……!!」
タキリはミタマやその配下らの顔を思い浮かべ、言葉を呟いていた。
まもなく、真紅の羽衣を纏う天女は、彼女に言葉を掛けぬままいなくなった。
また天女のタキリは広瀬百合子の姿になり、バスの前に戻った。
さて、彼女がバスの前に戻ると正気になった中田綾子がおり、頻りに手を振っていた。
この時、
「百合子ちゃん、ピラトスト修道院を見に行こう……」
中田綾子は嬉しそうな表情を見せ、親友の広瀬百合子に言葉を掛けた。
それに対し、
「あこちゃん、そうしよう……」
広瀬百合子もまた満面の笑みで親友の中田綾子に答えた。
こうして、広瀬百合子・中田綾子はピラトスト修道院を見学した後、
函館戸井空港発東京国際空港(羽田空港)行き四五一便に乗り、帰路についた。

No.0014 夢の中で

二○一○年六月一六日。
世の中では日本選抜のサッカーチームがアフリカのワールドカップで歓喜に沸いている頃。
時刻は深夜一○時、広瀬百合子はいつも通りに学校の科目の予習を終え、
自室のべットにて就寝した。
就寝するのも束の間、広瀬百合子は夢を見始めた。
例の夢は、まだ幼き日・四才の広瀬百合子の夢であった。
まず、
「お爺様、今日は楽しい海水浴日になりそうですね……」
「百合子、そうじゃな……」
彼女は嬉しそうな素振りを見せ、
中学一年生の頃に他界した養祖父・広瀬秀雄と近所の北条海岸に向かっていた。
その海岸には、自らに雰囲気の似た同い年の少年が浜辺でいじめられていた。
この為、
「こら、人をいじめるのはいけないことだわ……!!」
広瀬百合子はそれを放ってはおけず、意を決していじめっ子の元に向かった。
それに対し、
「女の子のくせに生意気な、こうしてやる……!!」
いじめっ子らは、広瀬百合子のことを睨み付け、また暴力も加えようとした。
しかし、
「私は、こんなことで負けやしないわ……!!」
広瀬百合子は真面目な様子で少林寺拳法を用い、いじめっ子らを懲らしめた。
これには、
「ぎゃあ、こんな奴見たことが無い。
逃げよう……!!」
いじめっ子らも広瀬百合子に降参し、蜘蛛の子を散らすかの如く逃げた。
それと共に、
「助けてくれて、ありがとう……」
いじめられていた男の子は、腕や顔に痣や傷が出来つつも笑顔で広瀬百合子に答えた。
続けて、
「それくらい、いいわよ……」
広瀬百合子はとても明るい笑顔を見せ、彼に答えた。
こうしているうち、辺りは真っ白になり、広瀬百合子は起床した。
その時、
「はぁ、夢か……」
広瀬百合子は今先ほど見た夢について考えを巡らせながら溜め息をついていた。
この後、広瀬百合子は妹分の広瀬紗久良や父母の広瀬芳夫・広瀬美香と共に朝食を食べた。
次に彼女と広瀬紗久良は、いつも通りに学校の制服に着替えて通学鞄を持ち、
朝六時五五分発八両編成の内房線千葉行きに乗車した。
この車内で、
「紗久良。
私ね、寝ている間に不思議な夢を見たわ……」
広瀬百合子は就寝中に見た夢の内容を妹分の広瀬紗久良に話した。
それに対し、
「お姉様、きっとそれは過去夢やと思います。
うちもたまにお婆様の過去の夢を見ることがありますねん……」
広瀬紗久良は、姉分の彼女の見た夢を過去夢であることを明かした。
このことに、
「紗久良。
もしかすると、近いうちに何かがあるかもしれないね……」
広瀬百合子は真面目そうな素振りを見せ、何らかのことが起きる前兆として捉えていた。
広瀬百合子・広瀬紗久良の姉妹は、保田駅にて乗車した東郷茜を加え、
七時五七分に君津駅に到着した。
それと共に、
「広瀬さん方、行きましょう……」
東郷茜は明るい表情を見せ、彼女たちの手をとって北口階段方面に歩み始めた。
こうしているなり、
「あっ……!!」
前を歩いていた広瀬百合子は不本意にも階段を踏み外し、転けてしまった。
その様子を見て、
「お姉様……!?」
「広瀬さん……!?」
東郷茜や広瀬紗久良は、彼女を助けようとしたが間に合わなかった。
これにより、広瀬百合子は階段の中程から体ごと地面に落ちそうになっていた。
その時、階段に一人の同い年らしい制服姿の男の子が現われ、
床に落ちそうになった広瀬百合子を受け止めた。
この為、
「何処の何方かは存じ上げませんが、助けて頂きありがとうございます……」
広瀬百合子は額に冷や汗を流し、助けてくれた彼に感謝の言葉を掛けた。
その言葉に、
「ゆりちゃん、これくらいいいよ……」
彼は彼女のことを知っているのか好意的に答えた。
続けて、
「僕は、急いでいるから行くね……」
彼は腕時計を見るなり、焦った様子で改札口方面に向かった。
この時、
「あれ、あの人。
以前、何処かで見た気がする……」
広瀬百合子は不思議げな素振りを見せ、
例の少年を見た記憶があることに気付いて後を追おうとした。
しかし、
「お姉様、ホームルームに遅れてしもうねん……」
広瀬紗久良は学校に遅刻する可能性を示唆し、広瀬百合子を引き留めた。
それを受け、
「紗久良・茜ちゃん。
私、気を取り乱していたわ……」
「さぁ、学校に行くわよ……」
広瀬百合子は彼のことを気に掛けながらも、
後ろ髪をひかれる気持ちを抑えて彼女たちとホームルーム五分前に登校した。
広瀬百合子はいつも通り学校の授業を受け、
部活動(テニス部)に参加し、電車に乗って帰宅した。
この時も、
「たしかに、あの男の子を何処かで見たような気がするわ……」
広瀬百合子は朝方助けてくれた彼のことを気に掛けつつ物事をおこなっていた。
やがて就寝時間となり、広瀬百合子はベッドに横たわり睡眠を始めた。
それも束の間、彼女は再び北条海岸の夢を見始めた。
初めに、
「私は広瀬百合子、知り合いや家族からは『ゆりちゃん』って呼ばれているわ。
あなたの名前を教えてくれる……?」
幼き頃の広瀬百合子は自己紹介を交え、いじめられていた男の子に言葉を掛けた。
対して、
「僕は、秋山白竜(あきやましらたつ)。
ゆりちゃん、助けてくれてありがとう……」
男の子こと秋山白竜は、いじめにより出来た傷口を押さえ、広瀬百合子に答えた。
なお、広瀬百合子の養祖父は、持ち合わせていた絆創膏を秋山白竜に三枚渡した。
この時、
「そうだ、思い出した。
お爺ちゃんといった時、出会ったのは幼馴染みのたつくんだった……」
一四才の広瀬百合子は遠くから様子を見て、幼馴染み・秋山白竜の存在を思い出した。
続けて、
「でも、たつくんは家族に連れられ、夜逃げして以来行方不明だったはず。
何故、今頃夢に出てきたのかな……?」
一四才の広瀬百合子は不思議そうな素振りで、
幼馴染み・秋山白竜の出てくる夢の意味を考えた。
そして、
「あっ、あの人はたつくんで間違い無いわ……」
広瀬百合子は朝方転けた時に助けてくれた少年、
そして幼馴染み・秋山白竜とが特徴に一致することに気付き、思わず驚いた素振りを見せていた。
この直後、周りが白い霧で包まれ、彼女は目を覚ました。
広瀬百合子は起床するなり、前日と同様に広瀬紗久良と朝食を摂って制服に着替えた後、館山駅から君津駅に向かう為、内房線千葉行きの電車に乗った。
その道中、
「たつくん、何処かにいるんだったら私に顔を見せて……」
広瀬百合子は広瀬紗久良や東郷茜といる時、
竹岡付近の車窓に映る紺碧色の東京湾(浦賀水道)、
また横須賀の町を幼馴染みである秋山白竜に重ねて思いを馳せていた。
この後、彼女はいつものように授業・部活動などに参加し、
一六時丁度に広瀬紗久良・東郷茜を伴い学校を出た。
彼女たちは一七時五七分の安房鴨川行き電車まで時間がある為、
君津市立図書館で本を読んで時間を過ごすことにした。

No.0015 幼馴染とのサイカイ

広瀬百合子・東郷茜・広瀬紗久良らは、図書館一階の閲覧室で席を確保した。
それと共に、彼女たちは一階・二階にある開架書棚で本を探し始めた。
まず東郷茜は、自然科学系の資料コーナーにおいて鳥類・哺乳類図鑑。
次に広瀬百合子は、物理系の資料コーナーで素粒子学・相対性理論などの雑学本。
最後に広瀬紗久良は、
若者向けの学習漫画コーナーにて西洋・日本のお伽噺の漫画を各自探した。
このうち、広瀬百合子は、
一階の『図解明快・あなたにもわかる相対性理論』というタイトルの雑学本を見つけ、
それを手にとろうとした。
しかし、
「あぁ、届かないわ……」
広瀬百合子は例の本を取ろうとしたが、高い位置にあるが故に届かなかった。
すると、
「ゆりちゃん、どうぞ……」
前日君津駅にいた少年が目の前に現れ、例の雑学本を取ってくれた。
この為、
「ありがとう……」
広瀬百合子は嬉しそうな表情で彼に言葉を返した。
続けて、
「そういえば、あなたは行方不明だった秋山白竜、たつくんなの……?」
広瀬百合子は首を傾げる動作を交え、幼馴染みの秋山白竜なのか彼に尋ねた。
その尋ねに、
「うん、そうだよ……」
彼こと一四才になった秋山白竜は、久しそうな様子で幼馴染みの広瀬百合子に答えた。
対して、
「たつくん、お久しぶり。
いま、何処に住んでいるの……?」
広瀬百合子は懐かしそうな表情を見せて彼に言葉を掛け、また住む場所を尋ねた。
その尋ねに、
「ゆりちゃん、久しぶり。
僕は、今青堀駅の近くに住んでいるよ……」
秋山白竜もまた懐かしげに幼馴染みの広瀬百合子に答えた。
こうして再会した幼馴染みの広瀬百合子と秋山白竜は、一階の閲覧室に向かった。

No.0016 蛇ハイドとの遭遇

時同じくして、東郷茜と広瀬紗久良は二階で本を探し終え、階段で一階に降りた。
だが、どういうわけか東郷茜と広瀬紗久良は、フラッシュのような光に包まれ、
二階に戻ってきてしまった。
同時に回りにいた人たちは、いつの間にかいなくなり、照明も消灯した。
これには、
「茜はん。
うちらどないな理由かわからへんけど、元の階に戻ってきてしもたわ……!?」
広瀬紗久良も驚いた様子を見せ、二階に戻ってきたことを東郷茜に伝えた。
それに対し、
「紗久良ちゃん、
多分私たちSF映画のように無限ループの世界に閉じ込められたんだわ……」
東郷茜は現状を察し、
まるでSF映画そっくりな状態にいるのではないか広瀬紗久良に答えていた。
まもなく、
「紗久良ちゃん。
もう一つ階段があるから、それで百合子さんの所に向かいましょう……」
「茜はん、了解です……」
東郷茜と広瀬紗久良は互いに声を掛け合い、
反対側にある吹き抜けの階段に向かおうとした。
この時、
「あーうー、イチキと寝返ったシコネがいた……!!」
辺りに怪しげな男声が木霊した後、本棚の両端から蛇の青大将の大群が現れた。
その為、
「青大将なんか、家の庭や神社の境内にしょっちゅう現れるから怖くないわ。
あと、あなたは何者なの……?
姿を現しなさい……!!」
東郷茜は現れた青大将を怖がる様子もなく、声の主に現れるよう言葉を放った。
また、
「あぁ、うち。
蛇嫌いやねん……!?」
広瀬紗久良は青大将の大群を見るなり、蛇嫌いのため身震いをした。
その直後、
「あーうー、私はミタマ様の手下・ンデンシ。
裏切り者のシコネ姫と敵のタキリ・イチキを粛清にきました……」
「あーうー、お前ら覚悟……!!」
大平総理のような口調かつざんぎり髪のハイド・ンデンシが現れ、
おぞましい表情を見せて東郷茜に答えた後、青大将を彼女たちに襲わせた。
それに対抗するため、
「紗久良ちゃん、変身して天女になるわよ……!!」
「あっ茜はん、了解です……!!」
東郷茜・広瀬紗久良は、再度言葉を交わしながら羽衣を身に付け、
天女のイチキ・タキツに変身しようとした。
これと同時に、青大将の大群は体ごとンデンシと融合し、
古事記のヤマタノオロチを彷彿とさせる八叉の大青大将(長さ・二○メートル、
径・○.四メートル)になった。
天女のイチキ・タキツに変身しようとした東郷茜・広瀬紗久良らを捕縛し、
羽衣と共に食べた。
それには、
「誰か助けて……!?」
「茜はん。
うちら、羽衣を持っていかれてしもうたんから、もう変身できひん……」
気の強い東郷茜と強がり気質の広瀬紗久良も蛇に飲み込まれたかれた状況下、
内臓中において思わず叫んだ。
対して、
「あーうー。
ミタマ様の仰せられた通り、お前らは羽衣がなければ普通の女子だな……」
大蛇のハイド・ンデンシは、
不気味な笑いを浮かべて胃にいる彼女たちに言葉を掛けていた。

SF関連の作品を作成しております。