救いはどこに?

第一部「ミクロの防人」

 OL生活がすっかり板について二十年、ハルミはやっと訪れた春にうきうきしていた。今まで男に無縁だった長い月日、思えば切ない日々、私だってと思うことすら諦めていた長い月日だった。
 鏡を見てにんまりと笑うハルミ、なにしろこれから生まれて初めてのデートなのだ。もしかしたらこの唇が奪われてしまうかもしれない、そう思うだけで胸がドキドキしてしまう。後輩OL達がこっそりと『ボーリングピン』なるニックネームを付けているでぶっちょが鏡の中でにやけているのだが、有頂天のハルミは腰をくねくねさせてご満悦なのだった。

 そしてデートのクライマックスでついに唇を奪われた。待ちに待ったファーストキス、これで私も大人の女ね、ハルミは天にも昇る心地になった。
「嬉しいわ、私今幸せ」
 彼氏は激しく咳き込んでいてどうにも熱っぽいからとても心配だ。でも、そんな体調でもデートしてくれるなんて、とても私を大事にしてくれているんだわ。ハルミはとても満足していた。


 ハルミの口腔内に億単位の病原体が侵入してきた。通称キス病の原因であるEBウイルス、虫歯の原因となるミュータンス、そして……。
 キスをする、それは大量の病原体をやりとりする行為でもあるのだ。しかし不潔と恐れるなかれ。この行為が多いほど複数の病原体と接触する機会が増えて、結果的に高い免疫力を獲得して強くなれるのだ。病原体が強すぎる場合があるのが問題ではあるが。
 ハルミの咽喉部に達したウイルスが俄かに増殖を開始すると、異変を察知したNK細胞とマクロファージが駆けつけてきて攻撃を開始した。
「撃て撃て~!」直接攻撃部隊のNK細胞は活性酸素を放出して侵入者に攻撃する。彼等が勝てばそこで戦闘は終了するのだが、今回の敵は手強いようだ。武器として使用する活性酸素は正常な細胞をも破壊してしまうが、そんな事はおかまいなしに戦い続ける。
 一方、武力偵察部隊のマクロファージは侵入者に覆い被さって食べていく、そしてその情報を読み取って、司令官であるヘルパーT細胞に伝達する。
「後は頼んだぞ!」役目を終えたマクロファージ達は屍を重ねていくのだった。


 翌朝、目覚めたハルミは身体のだるさを感じた。
「きっと恋の病ね、でも、あの人に会いたいから頑張って出社しなきゃ」
 ふらつく足取りで出社したハルミはがっかりした。なにしろあの人が休んでいるんだもん。なんで休んでいるんだろう? 課長に聞いてみた。
「あのう、部長はなんで休みなの?」
 口ひげにバーコード頭の課長は、ハルミを心配する眼差しで答えてくれた。
「部長? インフルエンザだってよ。お前も気をつけろよ」
 部長さん大丈夫かな? 心配だよう、逢いたいよう、ハルミは切なくなったのだった。


 マクロファージからの情報を得たヘルパーT細胞は、ついに侵入者の正体がインフルエンザウイルスであると突きとめた。ヘルパーT細胞こそ免疫の司令官だ。強敵であるインフルエンザウイルスと戦うために檄を飛ばす。
「発熱開始だ、体温を上げろ! キラーT細胞部隊戦闘配置に付け! B細胞は抗体の製造にかかれ!」
 免疫細胞は体温が高い方がより活発に戦えるから、戦闘中は体温の上昇は必須なのだ。
 キラーT細胞は特殊な訓練を受けたエリート部隊であり、特定の相手を的確に撃破するのが得意だ。
 B細胞が作る抗体とはまさにミサイルであり、特定の相手を徹底的に破壊できるのだ。しかし配備して運用するのに時間がかかるのが難点だ。


 ばたん! 
 ハルミは突然倒れた。びっくりした課長が抱き起こす。
「おい、どうした、しっかりしろ。……お前、凄い熱があるじゃないか」
 課長に揺さぶられたハルミは、無意識のうちにうわ言を言ってしまう。
「部長さあん、逢いたいよう、心配だよう」
 ハルミの言葉を聞いた同僚達に衝撃が走った。あの部長は好色エロ親父、女と見れば手当たり次第に食い散らかす淫獣。ビヤダルが細く見えるほど芳醇な胴体に艶やかに禿げあがった頭部、女性を見つめる眼差しは猛禽類、なぜもてるのかは社内最大の謎なのだった。毒牙ににかかった可哀そうなハルミちゃん。
「と、とにかく救急車を呼ぼう」
 課長さんが呼んでくれた救急車に乗せられて病院に行ったハルミは、インフルエンザの薬「タミフル」を処方されて帰宅したのだった。

 安いアパートに一人暮らし、エントロピーが増大しきったような散らかり放題の室内、肉付きの良い干物女の異名を取るに相応しいハルミの部屋。
「お腹すいたあ、ノド乾いたあ」
 ふらつく足で台所を物色するハルミ、残念、発見したのはコーラとカップメンだけだった。とりあえずカップメンにお湯を注いでおいてコーラを飲むのだった。
 冷蔵庫に入っているのは甘い清涼飲料水とお酒とコンビニで買ってきたスイーツ、戸棚にあるのはインスタント食品だけ、これだけの食糧で療養するハルミなのだった。


 免疫細胞達は物資不足に悩んでいた。強敵インフルエンザと戦うには大量のビタミンCとタンパク質が必要だ。それなのに慢性的に不足している。それに折角のタミフルだが、これはインフルエンザウイルスの増殖を抑える効果しかないわけであり、既に大量に増殖してしまった後では効果はないのだった。
「戦え! 戦え!」
 必死で指揮を執る免疫の司令官たるヘルパーT細胞の下、NK細胞とマクロファージは果敢に感染した細胞を攻撃して破壊し、自らも死んでいく。いかに物資が乏しくても全力で戦うしかない、何しろ敗北は死なのだから。
「負けるもんか! 俺達の戦いはまだまだこれからだ……」
 インフルエンザウイルスの怖さはその感染力、勇猛果敢なるNK細胞とマクロファージであるが、彼らだけでは足りない。屍の山を築き、旗色が悪くなった時、やっと増援部隊が到着した。
「待たせたな、俺達に任せろ」
 ついにキラーT細胞とB細胞が実戦投入されて総力戦となった。戦いは一進一退、ヘルパーT細胞は祈りたくなった。
「畜生、ご主人様がもっと協力してくれさえすれば」


 ふと気が付くと、ハルミは見知らぬ世界にいた。
――ここはどこだろう? 見渡す限りのオレンジ色の世界なのだが、遠くから爆音が聞こえる戦場のようでもあり、不安感は増すばかりだ。
「落ちついてください。私はあなたを守る軍の司令官です」
 突然の声に愕いて目を凝らせば、軍服を着た男があたかも最初からそこにいたかのようにたたずんでいた。面食らっているハルミに彼は話を続ける。
「今、我々は侵略者との交戦中であり、戦況は芳しくありません。そこであなたにも協力していただきたいのです」突拍子もない事を言っているが、なぜか彼の言う事は信用できるのだった。
「何をすればいいの?」
「私に着いて来て下さい。そしてともに武器を持って戦ってください」
 ハルミは無言でうなづき、彼とともに戦場に赴いた。味方は敵の侵略を受けて壊滅寸前であり、味方の兵士の死骸がうずたかく積みあがっていた。その光景を見て激しい闘志が湧き上がり、気焔を漲らせたハルミは、肩にバズーカ砲がある事に気付いた。あたり前のようにそれを敵陣に向かって撃ち込む。敵陣が崩れた。今だ、ハルミは味方を鼓舞しながら敵陣に斬り込んだ。いつしか手にはハンマーが握られていて、それで敵を叩き潰していく。
 いったいどれだけ戦ったろう? いつしか敵陣は壊滅していて周囲には双方の死骸が散乱している。ふと傍らを見ると見覚えのある男が倒れていた。彼は、ああ、なんということか、先刻の司令官ではないか、抱き起こして介抱し、声をかけた。
「ねえ、しっかりして!」
 司令官はかすかに目を開けて、わずかに微笑むと、ささやき声で語った。
「勝利です。我々の勝利です。死に逝く我々の事を忘れないでください。私はヘルパーT細胞、死んだ兵士達はNK細胞とマクロファージとキラーT細胞、あなたが使った武器はB細胞、ここはあなたのノドです。死んだ我々はタンとなって去っていくのです」
「死なないで!」
「私は多数の私の一人ですから……私の代わりはいくらでもいますから……でも、最後に言わせて下さい。しっかりと栄養摂取と、そして感染源に近づかないで……」

 じりじりじりじり

 ハルミはけたたましい目覚ましによって強制的に起こされた。パジャマは汗だくだし、ノドに違和感がある。思いっきり欠伸をすると、昨日まで痛かった頭がスッキリしていることに気付いた。どうやら熱が下がったようだ。
 洗面所に行ってタンを吐いた。そのタンを見て、昨夜の夢を思い出したハルミは、タンに向かって手を合わせた。
「ありがとう、私のために頑張ってくれたのね。お陰ですっきりしたわ。これでまた部長に逢えるわ」

 
 職場復帰したハルミは、そそくさと人目を避けて部長に逢いに行くのだった。周囲の目を隠れてこっそり逢うのも疲れるけど、オフィスラブは恥ずかしいから二人だけの秘密にしようって部長が言うわけだし、ハルミは部長の言いなりなのだし、実は周囲にばれているのを知らないわけだし。
 そしてついに、週末のお泊りデートに誘われたのだった。
――ついに、本当の女になってしまうかも! ハルミは期待と興奮で頬が赤く染まるのだった。

 そして週末の夜、ついにその時が来た。
 初めて異性の前で裸になるハルミは、恥じらいで目を開けることすらできないのだった。一方、百戦錬磨海千山千の部長は、熟練の手練手管でハルミを蕩かしていくのだった。快感で脳髄が蕩けて夢心地になったハルミは、ついにその時を迎えた。
「ぐへへへ、生はええわいのう」


 ハルミの秘所には、多種多彩な病原体団体御一行様が殺到してきていた。粘膜と粘膜が激しくぶつかり合い、その都度億単位で病原体が流れ込んでくるのだった。
 休む間もなく戦場に駆り出される免疫細胞達、マクロファージが自らの命と引き換えに読み取った情報を受け取ったヘルパーT細胞が檄を飛ばす。
「敵は梅毒、HPV、B型肝炎ウイルスだ。戦え! 戦え!」
 戦国時代に広まり感染した武将の鼻が腐り落ちた事で有名な梅毒、子宮頚ガンの原因となるHPV、慢性化すると肝硬変に移行する恐れのあるB型肝炎、それだけでも危険極まりないのに、ヘルパーT細胞も気付いていない最強の敵がいたのだった。エイズウイルス、ヘルパーT細胞に感染することで免疫力そのものを破壊する最強最悪のウイルスだ。しかし感染成立にはある程度の数が必要であり、この段階ではまだ感染するか微妙なところだ。
 このままでは危ない、ヘルパーT細胞は祈りたくなった。


 ハルミは自分が見渡す限りのオレンジ色の世界にいることに気付いた。周囲には見覚えのある兵士達がいて、慌ただしく走り去って行く。声をかけようとしたハルミの肩を、後ろから誰かが叩いた。
「感染源には近づくなと言ったはずです。即刻退避してください」
 軍服を着た男が、やや苛立ちを感じさせる面持ちでそこにいた。
「ああ、司令官さん、生きていたのね。あの時はありがとうね」
 見慣れた顔を見て、ハルミはすっかりリラックスした。それを見て司令官は苛立ちを隠せなくなった。
「あなたは今、未曾有の感染源と接触しています。迅速に退避しないと危険なのです」
「感染源ってなんの事? もしかして……まさかとは思うけど、部長さん?」
 ハルミは思い出した。今まさに部長さんとアレの真っ最中なのだ。折角のいいところに水を差されてなんだか腹立たしくなった。
「今いいところなんだから邪魔しないでよ」
 ばっち~ん
 いきなり平手打ち一閃。堪忍袋の緒が切れた司令官の一撃を食らってひっくり返ったハルミに覆いかぶさり、司令官は溜まりに溜まった激情をぶちまける。
「いい加減にしろ! 俺達は命をかけてあんたを守っているんだよ。少しは俺達の事も考えろ!……ぐは」
 仰向けになったハルミは激しい怒りを込めた蹴りを司令官の下腹に打ち込んだ。さらに両脚で司令官の首をはさみこんで締めあげる。
「うるさい! 人の恋路を邪魔すんなあ!」


「く、苦しい……助けて、たす」
 ハルミは呻き声を聞いて我に返った。目の前には愛しい部長さんの顔、そしてその首を締めあげる自分の脚が見えた。驚いて飛び退って見ると、部長は白目をむいて泡を吹いて昏倒していて、下腹部には痣が出来ていた。
――このヒトが感染源? そうかも。あれ? ……私いったい何やってんだろう。こんな不潔な人となんて。
 無残な姿の部長を見てすっかり熱が冷めたハルミは、そそくさと服を着て何食わぬ顔をしてその場を立ち去るのだった。

第二部「痛みを知れ」

 ここはどこだ? 俺は生温かくて不定形の赤黒いものどもに囲まれていた。
 そもそも俺はいったい誰なんだ? 自分が何者なのかを考えようと思った時、上の方から苛立ちに満ちた声が聞こえてきた。
「おい、さっさと噴門開けろよ。いつまでもこんなのにひたされていたらこちとら糜爛しちまうぞ」
 食道の声だ。俺は咄嗟に入口である噴門を開けて、食道から流れてくる飲食物を俺の中に流しこんだ。何故だかは知らないが、声の主が食道であることを知っている。食道からは大量のアルコールと、ろくに咀嚼されていない脂ぎった食物が流れ込んできた。
 ――痛い、凄まじい痛さだ。至る所が潰瘍化していてしみて痛い。駄目だ、我慢できない。俺は出口である幽門を開けてアルコールと食物を問答無用で十二指腸に送りだした。
「なんだよ胃袋、未消化のものを送ってくるんじゃねえよ。俺は潰瘍ができていて痛いんだぞ」
 案の定、十二指腸が文句を言いだした。こいつはいつも文句ばっかり言いやがる、気に入らない野郎だ。
「喧嘩かい? 大変だあねえ」
 俺の後ろから脾臓の間延びした声が聞こえてきた。気楽な野郎だ。
「やってらんねーや。俺もこんなアルコールはさっさと流しちまおう」十二指腸もなげやりな気分になったようだ。
「何やってんだお前ら。仕事しろよ! 未消化じゃないかよ」すると小腸が怒りだした。まあそりゃそうだよな。
「喧嘩だね。大変だあねえ」脾臓の気楽な声が耳障りだ。一言なにか言ってやろうかと思った時、食道が苦痛に呻き始めた。
「ぐああ、タールだ。タールが来やがった」
 身構える暇もないうちに、黒くネバネバしたタールが俺に流れ込んできた。畜生、主人の野郎、タバコを吸いやがった。痛い、あまりにも痛い、俺は苦痛に身をよじった。逃れることの出来ない苦しみ、呻き声をあげることすらできない。すると周囲の臓器達も一斉に苦しみ始めた。一斉に酸欠になっているようだ。
「血液が来ないぞ、酸欠だ! 何をやっているんだ心臓」罵声が飛ぶ。
「ひい、ひい、ひい、苦しい、俺も酸欠だ。冠動脈が閉塞していて壊死しかけてんだよ。おい、肺、もっと酸素送ってこいよ」心臓の泣きそうな声が状況の深刻さを物語っている。
「無理だよ。COPDで換気機能かなり低下してるもん。ってか僕の奥の方、もしかして腫瘍化してるかも。僕って痛み感じないからわからないんだよね。それにしても何が起きたんだろうね?」
 肺の質問に脊髄が答える。
「喫煙によって血管の収縮が発生し、血流が滞ることで酸素の供給量が低下したのだよ。おわかりかな? 諸君。そうそう、肺君、君の推測は当たっているよ。肺がんが発生している」
 なんだって? 肺にガンが出来ているだって。俺は苛立ちを込めて言う。
「おい、肺、そういう重要な事は早く言えよ」
 それを聞いた脊髄がしたり顔で俺に言う。
「そんな事を言っていいのかな胃君。君に出来たガンが播種性転移で飛び散って肺に転移したのだよ。つまり君が悪いというわけだ。おわかりかな?」
 ――そうなのか。俺ってガンになっていたのか。物凄く痛いはずだ。
「胃のせいで肺もガンになったのかい? 大変だあねえ」脾臓の間延びした声が腹立たしい、ぶっ飛ばしてやろうか? 俺は苛立ちを込めて喘動し、後ろにいる脾臓に一撃を加えた。
「痛えな。貴様、この俺様に何をしやがるんだ?」しまった、隣の膵臓を殴ってしまったようだ。こいつは苦手なんだよな。
「言わせてもらうがな、俺だって厳しいんだぞ。インシュリンいくら出したって血糖値下がらないしよ。炎症が起きて痛いしよ。自分だけ苦しいと思ったら大間違いだぞ胃袋野郎」凄まじい剣幕に、俺はたじたじとなった。
「喧嘩だね。大変だあねえ」誰か脾臓をなんとかしてくれ。
「インシュリンが効かないか。糖尿病のようだね、膵臓君。末梢神経が機能不全を起こして下肢末端部の状況が不明なのはそれが原因のようだな」脊髄が取り澄まして言う。「諸君、状況は芳しくない。各自不都合があれば申し出るように」
「じゃあ言うよ。言わしてもらうよ。糸球体が壊れて血液を濾過できないからおしっこに糖分ダダ漏れなんだよ、膵臓がしっかりインシュリン出さないのがいけないんだ。血圧を下げるホルモンも出せなくなってきたし。もう駄目だ、駄目なんだ」
 腎臓の泣き声が聞こえてきた。
「なんだよ、俺のせいにするのか」膵臓が怒りの声をあげて「喧嘩だね、大変だあねえ」脾臓の間延びした声が聞こえてきた。
 まったく、どいつもこいつも満身創痍じゃないか。主人が悪いんだ。俺達を大事にしないと自分が苦しむってのに。そういえば肝臓は平気なのか? ちっとも声が聞こえないが、ちゃんとに生きているんだろうな? 心配になった俺は聞いてみることにした。
「おい、肝臓、お前は平気なのか?」
 肝臓はしばし間を置き、重厚な声で話はじめた。
「……私か、沈黙こそが美学ゆえ語るまいと思ってきたが、問われたら語るしかあるまいな。随分前から脂肪肝になり、一部が線維化している。どうやら肝硬変になってしまったようだ。アルコールの分解に常時全力で取りかからねばならず、その他の業務が滞ってしまうのが問題だ。潰瘍化している箇所もあるが、ふ、心配無用だ。この肝臓、この程度の試練はものともしない。寡黙に働くのが私のやり方だ」
「おい! 肝臓、そういう重要な事は早く言えよ。お前が壊れたら皆死んじまうんだよ」あくまで冷静な肝臓に、俺は全力で突っ込んだ。
「ちくしょう、俺達をこんな酷い目にあわせやがって。主人の野郎、何を考えているんだ。こんなに痛みを与えるなんて、絶対にやっちゃだめだ」俺は誰にともなく呟やく。
「そうだ、そうだ! 許せない。どんな奴だか顔を見たいぜ」いつもは仲が悪い膵臓も俺に賛同してきた。すると他の臓器達も一斉に不満の声をあげるのだった。

「ほほほ、どうやら痛みを思い知ったようですわね」
 ――誰だ? どこかで聞いたような声だが思い出せない。
「なんだ、お前は?」戸惑いながら聞いてみる。
「ほほほ、忘れてしまったとはお笑いですわね。今日一日の事を思い出させてあげましょう」

 今日も朝一番に出社だ。突き出た太鼓腹を揺らして我が社を見上げる。この俺がたった一人で築いてきた会社だ、誰の手も借りずにこの身一つでだ。
 近頃腹がチクチクと痛むが、そんな事にかまっている暇などない。いつだって前を見て戦い続ける、それが俺の誇りだ。気合いを入れて会社のドアを開けた。
 ――誰もいない。いつもそうだ。うちの社員どもは怠ける事ばかりしか考えていない。イライラしながら掃除を始める。職場にゴミがあるような会社はダメだ。
 ほどなくして専務の倉内が来た。奴は相変わらずオドオドして挨拶してきた。
「あ、社長、おはようございます。今日も早いですね」
 この倉内は創業時から一緒にやってきたのだが、気が利かない野郎でホントに使えない。最近どうやら娘が離婚したようでそのストレスから胃炎を患い、胃薬が手放せないうえに毛髪の減少に拍車がかかっている。こいつのしおれた顔を見るとイライラしてこっちまで腹が痛くなってきた。
「早いじゃないだろうが。どこに社員が社長より遅く出社する会社があるんだ」
 わかっていない奴を相手にするのは疲れる。いい歳した野郎に教育してやるなんて、俺も優しいものだ。
「でも社長、まだ七時じゃないですか。出社時刻は八時ですよ。自分が早く来るからって……」
 なんだこいつは……、この俺に対して意見する気なのか、何様のつもりなんだ。強烈な怒りがこみあげてくると同時に突き刺さるような激痛が腹を襲い、思わず腹を押さえてうずくまってしまった。
「大丈夫ですか? 社長、ストレスがたまり過ぎなんじゃないでしょうか?」
 誰のせいでストレスたまっていると思っているんだよ貴様と思いつつも、声をたてることすらできない。
「そうだ、この胃薬を飲んでくださいよ。僕はこれで胃潰瘍を押さえているんですよ。あ、あ、そんなに飲んじゃ駄目ですよ。ちゃんとに使用上の注意を読まないと。お互い若くないんだから体を大事にしましょうよ」
 奴の手から胃薬をむしりとって口に放り込み、熱いお茶で流し込む。よし、これでいい。腹痛なんてのは薬飲めばすぐに治るに決まっている。ポケットからタバコを取り出して一服するとやっと落ち着いた。近頃はどこもかしこも禁煙禁煙で困ったものだ。タバコで税金払っている俺達をないがしろにしていいと思っているのか。うちの会社でも女子社員どもが禁煙を求めているようだが、この俺の目の黒いうちはそんな横暴許さない。
 そんな事をやっているうちに他の社員も来はじめた。奴らに弱いところなど見せられん。気合いで腹痛を押さえて仕事を開始する。今日は夕方から大事な接待がある。お客様を招いての宴会、営業における重要な要素だ。昔はちょっと呑めばすぐにベロンベロンに酔っぱらってしまった俺だが、今じゃいつだって宴会部長だ。日々浴びるように呑んで鍛えたんだ。酒も呑めない奴なんてのは社会人とは言えないね。
 矢継ぎ早にタバコに火をともしながら今日も仕事をバリバリとこなす俺。女子社員がその都度ゴホンゴホンとセキをしている。どうせ彼氏とイチャついて寝不足で風邪ひいたんだろう、けしからん奴だ。
 時間も十八時になり、接待の時間が近づいたきた。腹が痛むが、腹が痛むわけにはいかない。腹が痛いなんてのは弱い奴のいいわけだ。
 会社を出て歩くと、どうにも疲れやすいし目がかすむ、すぐ息切れがするし、脚が痺れてうまく歩けない。それでも俺の意思は挫けない。
「断じて敢行すれば、鬼神も之を避ける!」
 俺の口から出る言葉はいつだって前向きだ! ガキの頃の俺は嫌なことがあるとすぐに腹が痛くなって学校を休んでいたし、いじめられていたんだ。強くならねば、強さを見せなければ、誰も俺を認めてくれないんだ。俺は戦い続けてここまで来たんだ。立ち止まる暇などないんだ。
 なんとか宴会場があるビルに辿りついた。靴を脱いで廊下を歩くとふらついて柱の角に足の小指をぶつけてしまった。
 ――痛くない、どうしてだ? そう言えば最近足の感覚が鈍い気がする。以前は突き刺さる様に痛かった足の指の関節の痛みもなくなっているし。靴下を脱いでつま先を見てみる……、なんだ、このつま先は? つま先はドス黒く変色して悪臭を放っていた。
 いつの間に? なぜ痛くも痒くもないのか? だが今はそんな事にかまっている場合じゃないんだ。靴下をかぶせ、何もなかったように宴会場まで歩く。かすむ目、ふらつく脚、胸は苦しく腹は痛い。なにくそ、俺はいつだって、どんな困難も気合いで乗り越えてきたんだ。病気なんてのは軟弱者のあかしだ。俺が病気になるはずがない。さあ、この接待を成功させて会社を大きくするぞ。俺一人で作った会社をだ!
 かくして宴会は始まった。自他ともに認める大食漢で酒豪の俺だ。まずは当然のように御酌してまわり、当然何度も何度も乾杯してはグラスをカラにして、御馳走だって軽くたいらげる。食後の一服がうまいんだ。
 ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ
 なんだ? 懐の携帯電話がふるえている。誰だ? 便所に行きがてらに携帯を掴んで耳元に押しつけると、女房の暗い声が聞こえてきた。
「あなた、急いで帰って来て欲しいの、実はハルミが……」仕事を邪魔された事で一気に苛立ちがこみあげてきた。今までは俺のやる事を理解してくれていて何も文句を言わないでいたのに、最近何かと意見を言うようになった女房、黙って俺の言う事だけを聞いていりゃいいのに。
「仕事中だぞ、おい! 余計な事で俺の邪魔をするなと何度言えばわかるんだ!」
「仕事仕事って、家の事はほったらかしじゃない! ハルミが、ハルミがね、性病伝染されたていたのよ。相手は不倫らしいのよ。会社の上司らしいのよ。重い病気らしいのよ。あなたが……」
 娘が性病伝染されただと? しかも不倫だと? 
「うるさい! お前の教育がなってないからだ! 今は大事な接待しているんだぞ。誰のお蔭で生活できていると思っているんだ。だいたいお前が……」
「もおっ! 人の話を聞いてっ! 接待ですって? またお酒呑んでいるの? だめよ、健康診断の結果見ていないの? ここにあるから読み上げるわよ。高血圧、高脂血症、通風、COPD、下肢閉塞性動脈硬化症、糖尿病と糖尿病による腎臓障害と網膜障害と末梢神経障害、精密検査が必要だって随分昔から言われ」
「やかましい! 誰のために俺が体削って働いていると思って」
「もおっ! 最後まで人の話を聞きなさいよ! 少しは私の話を聞いてよ、私を見てよ。私だって寂しいのよ。いつも接待接待でちっともかまってくれな」
「なんでもいいから後にしろ! 今忙しいって何度言えばわかるんだ! ……っく、う、う」
 激しい苛立ちにまかせて怒鳴った瞬間、激痛が全身を貫いた。息をするのもつらく、声を出すことすらままならない。
「そうなんだ、私なんてなんでもいいんだ……、う、う、う、私はいつもあなたの事を思っていたのよ。それなのに、それなのに」
 なんとか女房に助けを求めたいが、声を出せないのではいかんともしがたいし、女房は嗚咽するばかりで気が付かない。気が利かない女房だ。
 周囲が暗くなってきた。ざわめきも無くなり、静かになってきた。そして痛みがやわらいできた。そして苦痛も無くなって、……って、おい、俺死んじゃうのか? おいおい冗談じゃないぞ。
 すると、上の方がなにやら白く光って、そこから変な女が出てきた。白い衣裳を着ていて背中に羽がある。最近まで学校通っていたような若い女だ。その女は高飛車に話はじめた。
「私は裁きの天使、罪深き者を裁く者。他者に苦痛を与えてきた者は、死ぬ間際にもっとも苦痛を与えた者となりて、その罪の深さを知らねばならない」
 なんだこの女、何を言っているんだ。でもよく見ると結構いけるじゃないか、ほう、よく見りゃいいバディーをしておる。いい女見れば下心、これぞ男の心意気ってもんさ。それにしても、この俺様に意見するとは片腹痛いにも程がある。
「おいおいちょっと待てよ、俺は誰にも苦痛なんて与えていないぞ。誰もが俺を頼りにしているぐらいだ」
「ほほほ、言っても無駄なら実力行使あるのみです。懺悔することができたら執行猶予ということで、罪を償う時間をあげます。さあ、痛みを知りなさい!」
 天使とやらが近寄ってきて俺を凝視する。その目が強く輝いた……。

「主人の野郎! 許せないぞ」
 臓器達の合唱が響く中、俺は全てを思い出した。俺は、俺の胃袋になっちまったんだ。
 すまない臓器達、俺だよ、俺が俺達を苦しめる張本人だ。
「ごめんよ、俺だよ、俺が悪かった。皆が苦しいのは俺のせいなんだ」
 俺は泣きながら詫びを入れた。許してもらえるかはわからない、でも、謝らずにはいられない。

「ほほほ、ようやく懺悔しましたね。いいでしょう、許してあげましょう」
 目の前に輝く天使の瞳が見えて、俺は一瞬意識が遠くなった。

「そうなんだ、私なんてなんでもいいんだ……、う、う、う、私はいつもあなたの事を思っていたのよ。それなのに、それなのに」
 電話から女房の泣き声が聞こえてくる。誰だ、俺の大事な恋女房を泣かせた野郎は、俺が恋焦がれてモノにした大事な女を泣かせたのは?
 ――俺だよ、俺が泣かせているんだ。俺は猛烈にすまない気持ちになった。
「ごめん、俺が悪かったよ。もうお前を泣かせやしない。一番大事なのはお前だ」
 今まで言えなかった言葉が、自然と口から出てきた。
「ああ、あなた。あの頃のあなたに戻ったのね。私が好きだったあの頃に」女房の泣き声、もう、こいつを泣かせないぞ。依然としてあっちこっち痛いが、気合いで乗り越えてみせる。
 
「ほほほ、盛り上がっておりますけど、あなた余命いくばくもないの忘れてしまったのかしら? まあ、いいでしょう。今回は特例として猶予期間を延長してあげましょう」
 天使とやらの声がどこかから聞こえた。すると、ふうっと痛みが消えてきた。俺は早く女房に逢いたい一心で、接待会場を後にして走り出した。

第三部「救いの女神」

 靴を履いて立ち上がったユウタは、ふと、玄関脇の鏡を見た。鏡には背が低くてずんぐりしていて、頭が禿げ始めている風采のあがらない中年男の、しょんぼりした顔がうつっていた。嫌な所は全部父親から受け継いだもの、でもそんな父親をユウタは最近までは尊敬していた。
――僕はイケメンじゃないし、どうせ不細工なんだろう、でも、人一倍努力してきた自信はある。実らない努力はないと信じてきたし、中身を見てくれる人がいるものだと信じてきた。頑張っていれば、きっといつか女神様が現われて僕の我慢が報われるはずだと信じてきた。手を差し伸べる聖女はきっといるはずだと信じていたんだ。
 いつもの癖で、目を閉じて物思いに耽り始めたユウタは意を決して目を開けて、いつも持ち歩いているセカンドバッグを肩にかけ、シャツをズボンにたくしこんで、黙って家を出て一人梅雨空を見上げた。心まで湿らせてしまいそうなどんよりとした空に、歩いて行く気力すら奪われそうな気がして下を向く。少し歩くと、何かに引っ張られるように振り返って家を見てしまった。もう帰ることのない家。そこには、半身不随となった父が一人寝ているはずだ。振り払うように前を向き、雨の中、傘をさして歩き始めた。この雨が、心の闇を洗い流してくれるなら喜んでこの傘を捨て去るだろうに。
 早朝の木更津駅は相変わらず閑散としている。奇妙な逆さ狸のモニュメントに笑われているように感じたユウタは、足早にバスを探した。駅近辺には観光バスが数台いて、日帰り温泉ツアー、グルメツアーなどの表示が見えた。幸せそうな人達の群れは、ユウタには醜い欲望の権化にしか見えないのだった。
 あった、目的の観光バスは存在を憚るようにひっそりと佇んでいた。今にも壊れそうなポンコツバス、乗ってしまえば帰ることのないバス。
 ユウタは立ちつくし、目を閉じて思い耽る。
――ずっと思い焦がれていたミユキ、その微笑みだけで僕は魅了された。彼女を見てから僕は変わった。彼女に慕われたい、その一心が僕を前向きにしてくれた。それまで何に対しても熱くなれない僕が、生まれて初めて本気になったんだ。男としての魅力を身に付けて、必ず思いを遂げたい、三十路を越えてやっと青春が訪れた。勇気を振り絞ってのアタック、ようやく実ったはずだった。彼女こそが僕の女神様、彼女こそが手を差し伸べる聖女だと確信した。それなのに。
 悲しみの感情に背中を押されてバスに乗り込むと、既に大半の席が埋まっていた。誰もが俯き、お互いを見ることもしない人の群れ。
 ユウタは、どこからか入り込んだ排気ガスの臭いに軽く咳き込みながら指定された席に座った。健康に悪いな、などと今更思ってみても無意味な事を思いながら。
 ふと時計を見ると、既に出発の時間を過ぎている。絞りかすのように痩せこけた運転手が苛立ち始めると、苛立ちはいつしかバス全体を覆った。

どたどたどたどたどた

「ごっめーん。寝坊しちゃった。だって目覚まし鳴んないんだもーん」
 重低音を響かせてイノシシのような女がバスに乗り込んできた。どっしりとした団子っ鼻の顔が太い猪首で、出るべきところが平坦で出ちゃまずい所がどっしりとした体に繋がっている。ボーリングピンを連想したユウタはミユキを思い出した。美しいプロポーションを誇るミユキはよく言っていた「女はプロポーションよね」そんな美しいミユキを見るのがユウタは好きだった。
 
どたどたどた

「私ハルミ、よろしくね」
 最近目に見えて太ってきたユウタをも軽く凌ぐであろう体重を示す重い足音を響かせながら、ハルミと名乗ったその女はユウタの隣にどかっと座った。そして一瞬驚いたようにユウタの顔を覗き込んできた。ユウタの眼前に迫るイノシシみたいな顔。ユウタは何も言えずに硬直するのみ。
――うわ、イノシシに食われる……。
「あら、あなたって私の初恋の人に似てるわ……不思議な縁があるみたい。今日はたくさん食べましょうね。しっかりとお腹すかしてきたんだあ」
――ないと思うけど、縁なんか。それにしても何を言っているんだイノシシ女。このバスの意味を分かっているのかよこのブス? 生きることを止めたい人が集まり、一緒に冥府に旅立つバスなのに。秘密を守るために乗り込んだが最後、絶対に生きて帰れない掟があるのに。もしやこのデブ、乗り込むバスを……。

びりっ、ばりばりばり、ばりばりばり

 ハルミはポテトチップを食べ始めた。しかも飲み物はマックスコーヒーだ。
――たくさん食べるためにお腹すかしてきても、いきなり間食したら意味ないじゃないか……いや、そういう問題ではなく。
「あら、ごめんね。私一人で食べちゃってた。はい、これ」
――うわ、え、くれるの?
 ポテトチップを手渡されたユウタはなんとなくほんんわかとしてしまう。そういえば朝飯食べていなかったな、と思いながら口に入れた。
――辛い! ハバネロじゃないか。こんなの食わすなよ……何でこいつは平気でばりばり食べてんだ?
 バスは苛立ち混じりに出発した。ユウタが前を見ると、運転手の険しい顔がミラーに映っていた。ハルミはきょろきょろと周りを見渡すと不意に立ちあがった。
「何よこのバス、皆暗いわね。そうだ、一人ずつ自己紹介しましょうよ。今思っていることとかも言ってよね。ほら、あんたから。ちゃっちゃとやっちゃって」
 いきなり指名されたユウタは狼狽した。
――僕から? ちょっと待ってよ。いきなりそんな自己紹介なんて。そうだ、どうしてここに来ることになったのかを思い返してみよう。
 三十路を越えた頃、僕は生きる意義を見いだせずに悩んでいた。
 目を閉じるとミユキの笑顔が浮かんできた。初めて本気で好きになった女性、初めて人生に意義を感じたあの頃、僕は男としての価値を高めるために努力をしたんだ。彼女を振り向かせるために頑張ってきた。彼女こそが、僕を虚しくて退屈な毎日から救い出してくれる女神様だと信じて頑張ってきた。そして想いは叶った、二人でデートしたあの日の事は忘れない。ずっと幸せが続くものだと信じていたあの日。どんなアイドルだって叶わない抜群の可愛らしさとプロポーションを誇るミユキ、僕の唯一の自慢の彼女だったのに。それなのに……。
「な~にぼんやりしてんのよ。ったくもう、ばかみたい。じゃあ後ろの人から順番に自己紹介して」
 いきなり思考を中断されて苛立ちを感じたけど、最初に言わなくてよくなって安堵してしまう小心者のユウタ。

 ハルミに指刺された初老の男性は明確に狼狽し、目をしばたかせながら語り始めた。
「あ、あの、私ですか、私は大田区で機械加工をやっている田上といいます。倅を大学に行かせていましてね、まあ馬鹿息子なんでとにかく金かかるんですわ。一緒に仕事していた弟が去年ガンで死んだんです。ずっと背中が痛いって言っていてね。不況で仕事減って会社赤字だったんでろくにいい医者にも診せられなかったんで、見つかった時にはあんた、そりゃ手遅れでしたよ。倅の学費だって足りないから、借金借金の繰り返しでね。家族に内緒で借金していてね、督促状片付けるのも大変でね。友達に借金して、返すあてもないし。そしたらあんた、私も背中痛くなっちゃってね。きっとガンですわ、もうお終いですわ。もう……」
 初老の男性は堰を切ったように泣き始めた。その泣き声につられてすすり泣く声がそこかしこから聞こえてくる。折からの不況に加えて震災によるさらなる不況、そして異常な円高、中小零細の経営者達は日々、経営難という津波と戦っているのだ。そして健康に対する不安は精神を蝕み、時に死を選ばせる。
「何言ってんのよ。倅に仕事手伝わせばいいじゃない。一人で背負いこんで自爆なんてばかみたい。無理して大学行かすなんて、全然教育になってないじゃないの。あんたの生き様を見せつけてやんなさいよ。家族守る為に戦ってんでしょ、自信持ちなさいよ。ホントにバカ息子だわね。まあ、美味しい物食べてすっきり忘れちゃえばいいわ」
 ハルミの明るい声が響くと、バスの中は見事に凍りつく。田上と名乗った男はハンマーで殴られたような表情だ。 

「はい、じゃあ次、そこのおばちゃん」
 ハルミに指刺された中年女性は明確にむっとした。歳はハルミとそれほど変わらないだろうに、誰がおばちゃんだよ。しかし言い返す気力もなく、大人しく自己紹介を開始した。
「私は石塚といいます。私ね、パチンコにはまっちゃって。最初は遊びのつもりだったんです。でも一回勝ってからもう止まらなくなっちゃって。あの快感が忘れられないの。ばかよね。生活費全部つぎ込んで隠れて借金して。一回勝てば取り返せると思って何度も何度も。夫にも子供にもこんな事言えないわ。私って本当にばかよね」
 石塚がそう言って涙ぐむと、「俺もはまった」「私も」と、同病パチンコ依存の声がちらほらと聞こえてきた。
 たった二人が話しただけで、バスの中はすすり泣く声で満たされ……。
「ははははは、本当にばかね。自分が悪いだけじゃん。そんなの美味しいもの食べて忘れちゃえ」
 ハルミの明るい声に、バスの中は一瞬にして静寂につつまれた。突刺すような視線が降り注ぎ、ユウタはただ隣にいるだけでいたたまれなくなってきて恐る恐るハルミを見た。ハルミは平然として仁王立ちとなり、後部座席を指刺すのだった。
「はい次、そこの暗い顔したにいちゃん」
 どう考えても場違いなハルミに対して誰も押しとどめることができないままに自己紹介は続くようだ。顔面蒼白な男が気の毒なぐらいに狼狽している。彼はしばしの沈黙の後、消え入りそうな声で語り始めた。
「鈴木です。僕は生きていて何も面白くないんです。全てが義務に感じるんです。両親の期待が重いんです。結婚とか仕事とか、面倒だし、やりたくないんです。なんの為に生まれてきたんでしょうか? 生きる意味って何なんでしょうか? 苦痛と虚しさしか感じないままに三十路を迎えてしまうんですよ。もう嫌だ、こんな惨めな人生はもう嫌だ。こんな、夢も希望も愛も友情も努力も成功もない、時の淀みに漂うような人生はもう嫌なんだ。この気持ちを誰にも言えない、親に言えない、誰も僕の気持ちを分かってくれないんだ」
 誰にも言えなかった鬱屈した気持ちを吐き出して、鈴木の表情が和らいだ。苦痛や悲しみを語りあえる仲間がいない彼は孤独だったのだ。
「何言ってんの? 言わなきゃ分かりようがないじゃない、ばかみたい。やりたくないんだったらやらなきゃいいじゃない。なんの為に生まれたですって? 意味なんかあるわけないじゃん。両親がエッチしたから生まれただけに決まってんじゃん。なんにも考えないで美味しい物食べれば元気になるわよ。元気になったらやりたいことやりゃいいじゃん。はい次、ちゃっちゃと行くわよ。そこのガキんちょ」
 ハルミが指刺した先には小学生ぐらいの太った男の子がいた。こんな子供までが人生を放棄するとは世も末か。
「ボクはケンタといいます。ボク学校で苛められてます。デブだとかブタだとか言われてます。お父さんとお母さんはケンカばかりしていてボクの事はほったらかしです。誰も助けてくれないし、女の子はキモいって皆でばかにするし。いじめっ子のあいつさえいなければ、あいつが言いだしてから皆一緒になって言うようになったんだ。あいつを呪い殺してやりたい。お父さんとお母さんだって、ボクが死ねば気が付くはずだ。思い知らせてやる」
 小学生男子は真っ赤になった眼を潤ませて虚空を睨みつけている。その先には何が見えているのだろうか。
「ばかみたい、死んだら負けじゃない。死ぬ勇気があるんなら殺しちゃえばいいじゃない。太ってるぐらい気にすんな。両親なんかほっといて好きなことやっちゃえばいいのよ。好きな物たくさん食べて元気になればへっちゃらよ。はい次、隣の女の子」
 小学生男子の隣には、見事なまでに不細工な中学生ぐらいの女の子がいた。学年に一人いるかいないかぐらいの不細工だ。
「私は小山田マサミ。こんな顔に生んだ親が憎い。私をブスだからって笑ったあいつらが憎い。どうせいくら頑張ったってこの顔じゃ一生彼氏できない。死んで生まれ変わった方が早い。可愛く生まれ変わりたい。アイドルみたいに私もちやほやされたい!」
 女の子はおいおい泣きだした。アイドルは何故アイドルなのか、それは生まれつき容姿に恵まれているからだ。努力では達成できない領域、頑張っても届かない境地。生まれた瞬間、否、受精着床した時に既に人生の大半は決まってしまっている。配偶者の選択肢、周囲の待遇、さらには年収、そこに平等はなく理不尽な差別あるのみ。
「ばかみたい、死んだって生まれ変わらないわよ。死んだらお終い、あんたの負けよ。あんたを笑う連中に負けて悔しくないの? 美味しい物たくさん食べて幸せになれば、私みたいに可愛くなれるわよ」
 ハルミはそう言ってにやっと笑い、腰に手を当ててくねくねと軽く踊った。
――誰が可愛いって!? バス内の全員が心の中で突っ込んだ。しかし内気な彼らは誰もが声に出せないのだった。ユウタも思う、曙とか小錦に紛れれば可愛いんじゃないか。
 バスは木更津を出てアクアラインを渡って西を目指している。目指す先は富士の樹海だ。ネット文化が生んだ最悪のコミュニティ、自殺サイト。一人では踏み出せない最後の一歩を集団で踏み出す愚かな群れ。ユウタは目を閉じて思い耽る。
――僕がこの世を去ったら、父はどうなるだろうか? ラブホテルで頸椎損傷状態で発見された父親、不倫をしていたことは明白だった。多数の性病と腹部の打撲傷もあって昏睡状態が続いて今では寝たきり、怒った母親は寝転んだままの父を足蹴にして飛び出していった。父親に重傷を負わせた犯人については、恥かしいので被害届を出せずに結局わからないままだ。そういえば父の会社の課長さんから、不倫相手についてなにか書かれた封筒が来ていたはずだ。たしか僕が持っていたはずだが。
「運転手さん、海老名サービスエリアには寄るんでしょ! あそこは美味しい物たくさんあるんだあ! 皆で食べに行きましょうね。たくさん食べるぞお」
 ユウタはハルミの声に驚いて思考を中断させられた。至近距離で大きい声を聞くのは心臓に悪い。

 ぽりぽりぽりぽりぽり

 ユウタが目にしたのは、ケロッグ「チョコワ」の大箱に手を突っ込み、鷲掴みにして口に放り込んでいるハルミだった。
――それって牛乳かけて食べるものでは……、っていうか、海老名でたくさん食べるんじゃないのか? いや、もうどこから突っ込めばいいか分からないよ。
 驚くユウタを見てハルミはにやっと笑った。
「はい、あんたの番よ。自己紹介ちゃっちゃとやっちゃって」
――きた、ついに僕の番だ。
「僕はユウタといいます。僕は見ての通りあまりイケメンではないですし、むしろ不細工に近いと思います。僕はずっと何に対しても熱くなれず、ぼんやりと生きてきたんです。でも好きな女性ができて、頑張ったんです。最初は相手にもされなかったけど、ついに付き合ってくれたんです」
 ここまで語ったユウタは、天を仰いで目を閉じた。
――あの日のミユキの事を思い出すと涙が出てくる。あの日、ミユキは言った「やっぱり不細工って無理。あなたと私じゃやっぱり釣り合わないと思わない? 私やっぱりイケメンがいい」そして軽薄そうなイケメンと手を繋いで去っていった。不細工はいくら頑張ったって無駄なのか? そんなバカな事があっていいのか? イケメンに生まれたらそれだけで女入れ食い状態か、そんな不平等が許されるのか? 天道是か非か!
 迸る思いが堰を切ったように口から出て行く。
「不細工だからって振られたんだ! こんなに頑張ったのに。仕事にも自信つけたのに、たくさん勉強したのに、誰も僕の頑張りを見てくれないんだ。報われない努力はもう嫌だ」
 人目を憚らずに泣いてしまうユウタ、しかしこのバスにはそれを笑う人はいない。同憂、相憐れむのみだ。
「何よ、そんな人を見た目だけで判断するバカ女、相手にしない方がいいわよ。努力したなんてあんたの方がよっぽど立派じゃない。大丈夫! きっとあんたの方が幸せになれるわよ。ほら、もうすぐ海老名よ、たくさん食べて元気出して!」
 ハルミはそう言ってユウタに手を伸ばしてきた。ユウタは、ハルミの笑顔が一瞬眩しく見えて放心状態のまま手を出す。その手にはたくさんのチョコワが載せられた。
――だからさあ、これからたくさん食べるんだろ。
「やっと私の番ね。私はハルミ、こう見えてOLやってんだ。こないだやっと恋人できたんだけど、変な病気うつされちゃってさ。蹴っ飛ばして帰って来ちゃった。お父さんとお母さんはずっと仲が悪かったんだけど、こないだやっと仲直りしたと思ったらお父さん死んじゃってさ。お父さんが死ぬ間際に凄い怒られた、変な男と付き合うなってさ。ほっとけっつーの。変な病気は気合いで治すから気にしない、今日はたくさん食べるんだあ」
――意外と重い過去じゃないかハルミ、もしかしてこのバスに乗ったの本意なのかな?
「見えてきたあ。海老名だあ」
 バスはハルミに押し切られるように駐車場に停まった。
「さあ、行きましょ。夕張キングメロンパンと名物メロンパンとプレミアムメロンパンを食べるぞお!」
――メロンパン三つも食べるんかい?
 ユウタは心の中で突っ込みながら、イの一番にバスを降りるハルミに引きずられるようにバスを降りた。雨は止み、空には太陽が姿を現していた。
 ユウタはハルミの真意が気になっていた。それに、さっき言われたことが胸に刺さっていた。気持ちを踏みにじられたような、きれいに洗い流されたような、なんと言えばいいか分からない気持ちに捕らわれていた。つい物思いに耽りそうになり、ハルミが見えないことに気付く。
 ユウタは大急ぎで歩いてやっとハルミを見付けた。ハルミは両手に肉まんを持っていた。
「この皇肉の肉まんとチャーシューまんが美味しいんだあ! 一緒に食べましょ、はい」
――メロンパンはどうしたんだ! 
 手渡された肉まんを一口かじったユウタは、その美味しさに感動した。そして美味しそうに食べるハルミを見ていてなんだか和みそうになったが、さっきの気持ちをぶつけることにした。
「あのさ、僕のさっきの話だけど。僕の元彼女のミユキのことだけどさ」
「ああ、あのバカ女ね。それがどうしたの」
「とても素晴らしい女性だったんだよ。可愛くて」
「どこが? 人を見た目で判断するバカ女じゃん。あんたもそうなの? 人を見た目で判断するの?」
 ユウタは頭をハンマーで殴られたような気がした。
――僕もそうなのか? 人を見た目で判断していたのか? 人間は見た目じゃないなんて言いながら、ミユキの見た目に心奪われていただけだったのか。そんなの嫌だ! 人間は心根が一番大事なんだ。前向きに生きる姿が一番美しいんだ!
 ユウタの心の中にいた可愛いミユキの姿が、たちまち醜く歪んで破裂して消えた。
「僕? そんなわけないだろ。人間は心根が一番大事だよ」
「よかった。あなたって私の初恋の人に似てるんだあ。あなた見てるとちょっとドキドキしちゃうかも」
 ハルミの満面の笑顔を見たユウタは心の闇が洗い流されていくのを感じた。肉まんってこんなにも美味しかったのか? 美味しく食べるってのは、これほどまでに心を癒すのか? 
 ユウタは美味しそうに食べるハルミの横顔に見とれている自分に気付いた。その優しい眼差しを見ていると、心が穏やかになってくる。
「そうよね、心根が一番大事よね。あんたいい事言うじゃない。私も好きよ」
――僕は何をしたかったんだろう? 僕が探し求めていたのはなんだろう?

「あのハルミとか言う太った女をなんとかしろ!」
 バスの中では運転手の倉内の怒声が響いていた。ワンマン社長にこき使われた挙句にその社長は突然死して会社は倒産、出戻りの娘と鬼嫁にいびられて自暴自棄になり、自殺バスの運転手という最悪の再就職を果たし、一世一代一回のみの仕事に従事して折角心静かに死んでいこうというのに、こうまで心かき乱されては我慢ができないというわけだ。絶対に死のうという決意、それが僅かに崩れつつあることに対するなんともいえない気持ちが、ハルミをなんとかしろという言動に込められていた。バスには練炭とロープが積んである。皆を縛って一緒に逝くための道具だ。

 一足先にバスに戻ったユウタに、バスの運転手が言う。
「ハルミが戻ってきたら皆で押さえつけてロープを巻きつけるからお前も手伝え。余計な事を喋るあいつは邪魔だからな」 
 ユウタは驚いてバス内を見渡した。どの顔も暗く、消極的に同意をしているようだ。ユウタの心は揺れていた。このバスに乗る時には確かに死ぬ決意があった、バスに乗っているのは同志だけだと思っていた。ハルミはどうなんだろうか? 
 ユウタは目を閉じて思い耽る。
――きっとハルミは死ぬ間際に食べまくっているんだろう。あんな容姿だ、女を捨てているんだ。最後にたくさん食べてきっとあいつは幸せだったに違いない。……本当にそうなのかな? 違うんじゃないかな。死んだら負けだってあいつ言っていたじゃないか。そうだ、あいつを助けないと。でも、僕一人でできるだろうか? そんな勇気、僕にあるだろうか?

 どたどたどた

「ごっめーん。だってメロンパン買おうと思ったら凄い並んでんだもん。皆の分も買ってきたから一緒に食べましょうね」
 大量のメロンパンを両手にぶら下げたハルミが何も知らずに帰ってきた。
 ユウタは微かな勇気を振り絞ってハルミに言う「来るな。このバスから逃げろ! お前は生き伸びてくれ!」
「へ? 何言ってんの? それよりほら、このメロンパンが美味いんだあ」
 まったく状況を理解していないハルミに駆け寄ろうとしたユウタにバスの乗客が襲いかかった「貴様、裏切るのか?」無慈悲な拳がユウタに迫る。
 後頭部に衝撃を受けたユウタは、為すすべもなく倒れ伏した。
「ちょっと、何すんのよ!」ユウタは意識を失う瞬間、ハルミの声を聞いた気がした。

 初老の田上が泣きながらハルミに襲いかかった。
「貴様ごときに何が分かるんだ。俺だって頑張ってきたんだ」
 運転手の倉内も続く。手は震え、足腰は不安定だ。
「会社が潰れて給料貰えなくなった辛さがお前に分かるか? 女房と娘にばかにされる悔しさが分かるか?」
 恵まれない容姿の女の子マサミも泣きながら後に続く。
「不細工で苦しんでいる私の悲しみがどうしてわからないの?」
「うるさーい! 考えたってしょうがない事は、考えたってしょうがないでしょ!」ハルミの大声が全てを飲みこんだ。

 ユウタが目を覚ますと、目の前に手を差し伸べる聖女が見えた。その手は柔らかくて触れているだけで心の傷を癒してくれて、その笑顔は心の穴を埋めてくれた。
「ねえ知ってた? このバスって自殺者が乗るバスだったんだって。あはははは、びっくりよね、私間違えて乗っちゃったみたい。グルメツアーのつもりだったんだけどね。あんたもそうでしょ。さっきは有難うね。私を助けようとしてくれたのね」
――ハルミが女神に見えた、だと? どうしたんだ僕は。それにしてもやっぱりそうか、やっぱりバスを乗り間違えていたのか?

 バスを見渡したユウタが見たのは、泣きながらメロンパンを食べている面々だった。ハルミに言われた言葉を反芻しながらメロンパンの甘味を味わう彼らは、死ぬ決意が確実に薄れていた。
 足元には運転手と田上が頭を押さえて唸っていた。ユウタが驚いていると、ハルミは照れ笑いして喋り出す。
「あ、ちょっと押したら倒れちゃった。頭打ったかも。あはははは、だってばかみたいに襲いかかってくるんだもん。私の魅力に引き寄せられたかな? それよりさ、皆! メロンパン美味しいでしょ! だから死にたいなんて気持ち捨てちゃえ! さあちゃっちゃとグルメツアー行くわよ」
 マサミと名乗った不細工な女の子は、ハルミに抱きついて泣きじゃくっていた。「私もハルミさんみたいに強くなりたい、死ぬなんて悔しい、幸せになってあいつらを見返してやるんだ!」
――ついに見つけた。僕の女神、手を差し伸べてくれる聖女。
 ユウタは胸が熱くなった。死にたかった気持ちがばかみたいに思えてきた。涙が止まらない。ハルミと一緒に美味しい物を食べる日々を想像するだけで心がときめいてきた。止めどなく溢れる涙。ハルミと一緒に生きて行きたい、前向きな気持ちで力強く前進する姿勢こそが美しいんだ。そんなハルミを僕は好きになったんだ。ユウタは溢れる涙を拭うためにセカンドバッグを開けてタオルを取出した。
 はらり
 見知らぬ封筒がタオルの隙間から落ちた。ユウタは何の気なしに封筒を破って中の便せんを読んだ。
『君のお父さんの不倫相手について。君のお父さんは、うちの会社のハルミと不倫していた。君の父親に重傷を負わせたのもきっとこのハルミだ。だけど、そっとしておいて欲しい。このハルミは、心優しい純真な女性なんだ。親の仇だなんて思わないでほしい』
 封筒には写真も同封されていた。その写真には、まさに今目の前にいるハルミが写っていた。
――なんてこった! このバスに乗る前に見たら、きっと不細工なブタ女に見えたであろうその顔、でも、今では女神に見える。父親の仇だって? そんなの関係あるもんか、さあ、美味しい物たくさん食べて幸せになるぞ。

救いはどこに?

救いはどこに?

ギャグ三部作です。 自己評価☆☆☆☆☆

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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