かの人シリーズ

全てはかの人の暴言にすぎない。そんな暴言をシリーズとしてまとめてみた。

かの人の苦痛と苦悶は、傍から見て、答えのない滑稽な芝居にすぎない。
かの人を笑えばいい。笑ってやってくれ。存分に、遠慮せずに。
そうしてやったほうが、かの人も気持ちがらくになれるだろう。
ああそうだ。
笑ってくれ。
いっぱい嘲笑ってくれ。
軽蔑すればいい。
同情やわかった気になってる甚だしい誤解よりは、ずっとマシだ。

1、

その絶望に色はあるのか

海は言った
 われの深さにかなうことなかろう
 われの広さにまさることなかろう
 われの色を与えよう
「そなたは確かに深い
 そなたは確かに広い
 そして そなたの色は多彩で美しい
 しかしわたしは 決して多彩では描ききれない」

空は言った
 われの高さにかなうことなかろう
 われの広さにまさることなかろう
 われの色を与えよう
「そなたは確かに高い
 そなたは確かに広い
 そして そなたの色は多変で美しい
 しかしわたしは 決して多変では語りきれない」

大地は言った
 われの厚さにかなうことなかろう
 われの広さにまさることなかろう
 われの色を与えよう
「そなたは確かに厚い
 そなたは確かに広い
 そして そなたの色は堅実で美しい
 しかしわたしは 決して堅実では抱えきれない」

かの人は両手をひろげ 
    声をあげた
汝は深さでは計り知れん
  高さでは計り知れん
  厚さでは計り知れん
  広さでは計り知れん
汝はただただ美しい
  形は持たぬが
  姿は見えぬが
私にはわかる
   感じる
汝はその性質を持ってして
何色にも変えられないほどに
ただただ美しい
今私はここで手をひろげ 
      声をあげる
汝にわが身を捧げよう
  わが心を預けよう
私の中に来(こ)よう
私は汝の信者になり
  汝だけを讚えよう
その中から生まれし全てのモノに
敬畏を払おう
その誇りを
どうか私に!

ーーそしてそこに
  絶望の色に染めた一人の人間が
  静かに自分を抱き締めた・・・

2、

頭は頭の邪魔をしている
感性は理性の邪魔をしている
妄想は思考の邪魔をしている

片方はまるで罌粟(けし)のよう
はじめたらなかなか抜け出せなくて
甘い蜜に浸かるように その毒に深くはまって
目が覚めたら
心に虚しい穴を残るだけ

片方はまるで絡んでる無数の糸のよう
それをちゃんと解けるため
心力を使い 言葉を使い 脳味噌をしぼって
疲れの果てにできたのは
指先の血痕で綴った寝言

どっちもつまらなくて わけわからなくて
どっちも自分勝手で 徒労で
それでもおかしくなるまでに
両方をほしがる

調和のできない
このどうしようもない「宇宙」の中で
ただひたすらに・・・

3、

その痛みを抉ったら
何が流れてくるんだろう
その悲しみを捌いたら
何が浮かんでくるんだろう

啜っても啜っても
この渇きは止められない
潜っても潜っても
自分の声帯は見つからない

それでももがき続ける
地に這う蟲のように
泥に舞う蚯蚓のように
吐き 足掻き 彷徨う

ーーそしてかの人は
  甘い吐息を耳元に
  媚を帯びる声で囁いた
  「私の内面を覗いて、楽しかった?」

4、

人はいつも遠くにいるものに心を奪われる
そばにいるものよりも
そっちに気を配ってしまう
そしていつか今そばにいるものは遠く離れてしまったら
今度はそのものに気をうばわれる
でもそういう時
気持ちも関係性も 変質を免れない
そのことで嘆いてしまうのだろうか
だったらなぜ最初のところで目を向かない
             大事にしない
             心に留めない
自業自得だよ
人ってそうなりやすいよね
自分が持っているものよりも
もってないものをほしがる
        強く求める
そしてもし手に入ったら
情熱が冷める 目向きしなくなる
また別のもってないものに目が行く
繰り返して 繰り返して 繰り返し

ーーーー

繰り返して 繰り返して 繰り返し
者にしても 物にしても 愛にしても
一度(ひとたび)関係が成り立った
一度(いちど)手に入った
一見実をなした
けど そういう「結果」は決して物語のエンディングではない
それも長い「ことわり」の中の一環にすぎない
大事なのはそういうことではなく
「継続」こそが肝心
関係しつづけるのか
所有しつづけるのか
愛しつづけるのか
「継続」はありえるのか
どうすれば「継続」できるのか
でも人々はそこから目を逸らしたくなる
白雪姫と王子様の婚姻はあらからどうなった?
彦星は今でも飽きずに年に一度川を渡って会いにいくのか?
世に羨ましがれる王妃の生活は本当に幸せだったのか?
どれぐらいの人はそれを聞きたがる?

今の世じゃ全ては消費品になってしまっている
大地も火も空気も水も
安全も命も名誉も愛も
みんな消費され 消耗されてく
そしてそれはまるで当たり前のように
おかしいよ おかしいよ!
敬畏心はどこに消えた?
信仰心はどこに捨てられた?
口でばっかり言ってないで
自分の奥深くを見つめて 探せよ
無言になる人はわかる人
この命が「継続」するかぎり
たくさんのものを消費していくのが必要
だけど 消費だけじゃ理不尽だ
自分自身も 何かを「継続」させるのに努力すべきではないか?
遠くにいるものを求めたがるのが人のさが
だが同時にそばにいるものも大事にしよう
だって者も 物も 愛も
そばから離れていったら
それは自分から手離したのではなく
捨てられたんだから

ーーーーーーーーーーーーー

捨てられた。
あの方に捨てられた。
今更だけど、あの方に捨てられたってすごく痛感している。
だから今はこんなにも苦しいのか。こんなにも心の痛みに翻弄されているのか。
私は別に苦しみを恐れているのではない。痛みを危惧しているわけでもない。
むしろそれらを必要としている。
自分の苦しみと痛みを繰り返して確認することでこそ、私は自分の生とあの方への信仰を実感できる

から。
でも今のこの苦しみと痛みはあの方からのものではない。
あの方への信仰から離れた、ただごく私利的で自分勝手な「わがまま」や「贅沢」にすぎない。
これを私は、すごく低俗でつまらなくて醜いことだと思う。
こんな泥沼に溺れたくない。
どうせ溺れるなら、あの方を信仰することで現れる深海に溺れたい。
たとえそこが地獄だとしても、私にとっては天国だから。
でも私はあの方に捨てられた。意味をなくした。痛みでさえ安っぽくなってしまった。
こんな私は、一体どうすればいい?

ーーーーーーーーーーーーー

私は、一体どうすればいい?
(つづく)

耐えられないもの

かの者、生まれし時より猛々しい強欲を持ってそれを本質とする。

しかしかの者の誕生を受け入れた世界は、その強欲だけは受容できないままでいる。

かの者はそれを己の業として認識し、その業からもたらされた苦しみの業火に身を焼かれながら、それと戦おうとした。

かの者は、まず孤独を知った。

孤独はいい。
孤独は耐えられる。
むしろ孤独の時間は気持ち良かった。
孤独こそが、罪深い強欲と対抗する唯一の手段だった。

そうしている間でも、かの者は己の強欲の深さと苦しみの生々しさを何度も認識する。

戦いが持久戦となった。
でも確実に、一方的に削られているのは決して強欲のほうではなかった。

そしてぎりぎりまで保たれていたバランスが崩れ始めた頃、かの者は寂しさを知った。

いや、かの者は最初、それを寂しさとはわからなかった。
かの者は突然、寂しさに襲われたと言ったほうが正しいのかもしれない。

寂しさはいけない。
寂しさは危険だ。毒だ。
寂しさは耐えられない。
かの者はたちまち危うい状態に陥った。
それは寂しさの仕業だとわかった時は、もうかなり遅かった。

寂しさは強欲の力を増幅させ、孤独の壁をぶち壊した。
それからは戦況は一方的になった。

寂しさの味を知ってしまったかの者は、泥に足を突っ込んだように抜け出せない。
やがてその毒はかの者の全身に染み込み、活力を奪った。

言葉にできない、訳のわからない苦しみに、かの者は混乱したが、それでももがき、抗い続けた。
だがその抗いは積極的な戦いではなく、消極的な逃避であった。

戦う術をなくし、己の強欲に押し潰され、かの者はただ、ひたすら、どうしたらこの業から解脱できることでいっぱいいっぱいになった。

そうしているうちに、ある日突然、かの者は前々から気付いてる真実から最後のヒントをもらえた。

それはー

かの人シリーズ

かの人シリーズ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 耐えられないもの