おとぎばなし

おとぎばなし

むかしむかし、あるところに双子の姉妹がおりました。
双子の姉妹の名は、キィナとミィナ。
キィナは昔から歌が大好きで、
皆に好かれる人気者でした。
ミィナはとてもいい子なのに臆病者で
人と上手く話ができません。
キィナはミィナに言いました。
「ミィちゃん、私に話しかけるように人と接してごらん/すっげぶす」
そうは言われたものの、
ミィナは人と上手く話をすることができません。
人の目が怖いのです。
キィナには知らないことがありました。
ミィナには不思議な力があります。
それは、人の思っていることがわかる力です。
ミィナはその能力が故に毎日もがき、
ある時は太り、ある時は痩せ、
気が付けば22歳になっていました。
「キィちゃん、どこに行くの?」
「友達とお買い物/彼氏とやりにいくんだよぶす」
ミィナは思わず目を閉じます。
目を閉じることでミィナは自分の心をコントロールすることが
できるのです。
「お母様とお父様にちゃんと言わないとダメだよ」
「わかってるって/うるせーよ豚」
「帰り遅くならないように気をつけてね」
「はいはい/まじくせぇこいつ、口臭も体臭も最悪だな」
「いってらっしゃい」
「いってきます/早く死ねばいいのに」
ミィナは静かに目を閉じます。
小鳥のさえずりがうれしい。
「ピチチチチチ/ピチチチチチ」
小鳥は嘘をつきません。
「好きだよ、愛してる」
ミィナは目に涙を貯めてそっと耐えます。
ミィナに新しい能力が芽生えたのは、つい先日です。
目を閉じると誰かはわからない、
遠くの国の王子様が辛い顔をして泣いています。
耳にはずっと
「愛してる」
の言葉ばかりが響きます。
「そんなこと、困るし」
ミィナは自分の部屋に戻ります。
ミィナはここ10年鏡をまったく見ていません。
髪の毛はミィナの母親が切ってくれるので、
いつもおかっぱ頭です。
「ちょっと伸びてきたね、切ろうか?/ミィナ、綺麗よ」
「はい、お母様」
ミィナの母親がミィナの髪の毛をジョキジョキと
切っていきます。
「はいできた/本当に、なんて不憫な子」
ミィナの父親が帰ってきました。
「ただいまミィナ/ただいまミィナ」
「おかえりなさい、お父様」
「これ、プレゼントだよ。/これ、プレゼントだよ」
「わぁ綺麗!」
「それは綺麗に細工が施された、手鏡でした。
「さぁミィナ、これで自分の顔をおのぞき/さぁミィナ、これで自分の顔をおのぞき」
ミィナはドキドキしながらも、ガラスの蝶のモチーフのついたそれを
自分の顔の前に持っていきます。
「どうしよう・・・怖いわ」
「大丈夫だよ/彼を助けてあげなさい」
「よく見なさい/早く見るのよ!」
「だめ、やっぱりだめよ。怖いもの」
そう言ってミィナは泣き出します。
「そんなに泣かないで。お願いだから、見ておくれ/あの人を、助けたいんだろう?」
「ミィナ、泣かないで/父親にまで媚びへつらって、なんて嫌な女だろう!」
ミィナは目を閉じながら繰り返し繰り返し唱えます。
お願い。お願い。お願いです神様。
あの人がもう辛い涙を流さないように、あの人の心を強くして下さい。
「その心、あいわかった/その心、あいわかった」
ミィナの目が思わず開きます。
開いた先にミィナが見たものは、
10年前のままの、自分でした。




おとぎばなし

おとぎばなし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-11

CC BY-NC-ND
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