この恋を手離すから、いいよね?

この恋を手離すから、いいよね?

アキラはいつも待ち合わせ時間に遅れて来た。

ごめんごめん、道が混んでいて。とかごめんごめん、電車が遅れていて。など嘘がばればれの言い訳をいつもした。

最初は信じていた私だけれど、付き合って三ヶ月も過ぎると、あ、この人はルーズな人なんだな、と感じた。時間だけでは無く、何もかもにルーズなのかもしれない。お金にも、人間関係にも。
そう思い始めると、何もかもが信じられなくなってくる。今度は海に行こう、何気ない約束も、好きだよ、と言う言葉さえも。

大学の同じサークル仲間のアキラは、真面目で誠実だった。だから惹かれたし、告白された時も本当に嬉しかった。けれど、付き合い始めてからのアキラは何もかもにルーズで、私の見る目がなかったのかな、と自己嫌悪に陥る程だった。

「どうしてそんなにいい加減なの?信じられない」
我慢出来なくなってそう言う私に、ごめんごめん、忙しくて…と誤魔化すアキラに益々腹が立つし、アキラを好きだと言う思いも徐々に薄れていく。

「二股かけられてるんじゃない?」
友人達は口を揃えて私に忠告する。アキラを信じたい私も疑心暗鬼になってくる。

そんな悶々とした日々を送っていたある日、アキラから綺麗な薔薇の花をプレゼントされた。そして別れを切り出された。
やっぱり二股をかけられていたのか…というショックと、別れを切り出すのにどうして薔薇の花をプレゼントしてくれるの?と訳が分からず呆然としている私に、アキラは言った。

「ユカと付き合い始めた頃に、親父の会社が倒産して、大変だったんだ。俺もバイト何個も掛け持ちして…時間が足りなくて…俺だって大学辞めたくないし、バイトで必死でユカの事まで思う余裕が無いんだ。ユカの事好きだから、大切にしたいんだけど、バイトで忙しいからユカの事を放ったらかしてる…そんな付き合いイヤなんだ。ユカを悲しませたくないし…だから今は一旦別れて欲しい。落ちついたら、絶対ユカの事大切にするから。…ダメかな?」
私は驚いた。そんな事情も知らずに、アキラをいい加減な人だとか、浮気してるんじゃないかと疑ってしまっていた。そんな自分が恥ずかしかった。

「お父さんの会社の倒産とか全然知らなかったし、なんで言ってくれなかったの」
「ユカの事好きだから、心配かけたくなかった」

何それ、ずるい。私の事すごく大切に思ってくれてるじゃない。私の方こそ疑ってごめん。信じられなくてごめんね。

「わかった…落ち着いたらまた私の恋人になってね、絶対だからね」
「もちろん。だから今はこの恋を手離すから、いいよね?」

いいに決まっている。手離しても、また絶対引き寄せてねこの恋を。

この恋を手離すから、いいよね?

この恋を手離すから、いいよね?

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-08

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