恋愛バス

恋愛バス

すごく、すごくすごく好きな人がいる。
どうしてもどうしても、どうしても手に入れたい。
この手に抱いて、彼女の存在をめいっぱい確かめたい。
午前7時56分。
バスがやってくる。
今日はいるだろうか。
髪を胸まで伸ばしたあの子は。
・・・いる。
いつものようにスマートフォンをいじっている。
なにを見ているのかわからないけど、
手の動きから察するにツイッターかラインをやっているようだ。

8時2分。
バスがバス停に着く。
駅が近くにあるのでここから乗ってくる客は多い。
後ろの方へ、自然な形で場所を移動する。
彼女は目の前だ。
画面を見る。
やはりラインだ。
流れるような指の動きは、
相当やり込んでいるのだろう。
好きだ。
彼女の、まず顔と体が好きだ。
今時の子と違って、すれてない感じもすごくいい。
大きな瞳でこちらを見て欲しい。
白いその手で俺に触って欲しい。
なにか、やばい気配を感じるのでその気配を消すために
俺もスマートフォンをバッグから取り出す。
今日のニュースを一通り見る。
人が殺された。火事。事故。台風。
自分にいつ降りかかるかわからないこれらのことを、
でも人は他人のことであると何も考えずに見ていられる。
8時20分。
降りる時間だ。
「バイバイ。またね」
心で彼女にそう言って俺はバスを降りる。


朝から生理痛でだるい。
頭も痛くって、ほんと、なんとかしてくれって感じ。
7時40分。
バスの中は人がまばらだ。
家が郊外に建っていることの利点は、
こういうところにあるのかな、と思う。
ラインのポップアップが出てくる。
「おはよ。テストやばい、死ねる」
友人からだ。
「私も死ねる。2秒で死ねる」
「ちょw50分頑張ろうぜ」
仲間が加わる。
「今日も来るかなぁ。どきどき。めろめろ」
「お前そればっかな」
「声かけたら?」
「無理!無理無理。だってかっこいいもん。てへ」
「はいはい。そのスタンプもういいから」
「そいつの特徴わかる?聖学だろ?
友達いるけど」
「まだそういうのはいい」
「彼女いるし」
「卑屈になるなよ」
7時56分。
バスがあの人の乗ってくる停留所に止まる。
胸がドキドキする。
高まる。
「よし、今日もかっこいいぞっ」
「ちょwそれほんとにやめて」
「もうお前のその話飽きた」
「じゃあいい」
「あ、怒った」
「ちょwそれ使うなってwww」
「どうしよう、こっちに来る!」
「ぎゃーす!目の前!」
「ID渡せ」
「むり」
どうしよう。恥ずかしすぎて顔が上げられない。
どうしよう。どうしようどうしよう。
彼の顔も雰囲気も大好きだ。
身長が高いところもいい。
お兄ちゃんと同じくらいだから180はあると思う。
スポーツバッグを持ってないってことは、
なにもクラブはやっていないんだろうか。
不思議と帰りに会うことはない。
ま、私も帰りはこの路線のバスにはあまり乗らないけど。
香水だろうか。
すごくいい香りが、多分彼から漂ってくる。
「し、しぬ」
「生きろ」
「生きろそなたは美しい」
「それなw」
8時20分。
バスが停留所に着く。
彼はいつもと同じように降りていってしまう。
はぁ。
ため息をつく。
彼の名前とか、学年とか、はっきり言ってどうでもいい。
ただあの腕で私のことをぎゅっと包んでくれたら、
ほんと、ほんとそれだけが、今の私の願い。
届かないけど。
8時25分。
バスが学校近くの停留所に止まる。
同じ制服を着た人がみな降りていく。
私も降りる。
バスが何事もなかったように発車する。
さようなら、また、明日。

恋愛バス

親友には続きは書かない方がいいと言われたんですが・・・
書いてしまいました。
たまに覗いてやってくださいませ。

恋愛バス

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-07

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND