戦国BASARA 7家合議ver. ~イケない社会科見学~

はじめまして、こんにちは。
どうぞよろしくお願いします。

これは戦国BASARAの二次創作作品です。
設定にかなりオリジナル色が入っている上、キャラ崩壊が甚だしい・・・。

別物危険信号領域。


かなりの補足説明が必要かと思いますので、ここで書かせて頂きます。

まず、オールキャラ。
カップリングとしては、片倉小十郎×鶴姫。
続くなら、まだ色々増えるかも知れませんが・・・。


前提としては・・・。

まず、家康さんが元親さんに、こういう提案をしました。『天下人が1人じゃなきゃいけないって縛りが、戦国が終わらない元凶じゃね? 日の本を7つに分割して代表家を決め、その7家の合議で政治をしてけばいんじゃないの?』という提案です。

元親さんが乗り、慶次さんが乗り、『中国地方は我の物』が口癖の元就さんが乗り。
九州→島津家、四国→長曾我部家、中国→毛利家、近畿→豊臣家、中部→前田家、関東→徳川、東北(奥州)→伊達家、という担当になるの前提で、7家同盟が成立している状態です。

代表家になる予定ではないながら、謙信公と信玄公も理想に共鳴し、助力してくれてます。

この先は、合議制なんて反対だっ! って言ってる人たちを武力で纏める段階です。


そして鶴姫さんが元就さんの事を、何故か『兄様』って呼んでスーパーブラコン状態発動です。
元就サンも『明(あかる)』ってオリジナル名前で呼んで、スーパーシスコン状態発動です。

実は2人は『陰陽8家』という、術者を纏める裏組織の西ツートップ。
幼い頃から色々あって、2人で生きてきた的な部分がかなり強く・・・という、設定があります。
えぇ、オリジナルです。

『陰陽8家』の設定は、今回あまり出てきません。スルーしても読めますので、ご安心下さいませ。


今回投稿したこのお話は・・・。

・・・なんだろう。
真っ直ぐすぎる幸村さんと、潔癖すぎる三成さんを心配した師匠たちが、
2人が清濁合わせ呑める器の大きな人間になるように、願ったお話、かな?

教育って大事だし、難しいよネ、って話です。


こんな感じでオリジナル設定てんこ盛りのお話ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
本当に、この上なく幸いです。

チキンハートに石を投げないでっ。


それでは。

戦国BASARA 7家合議ver. ~イケない社会科見学~

 およそ師匠という生き物は、弟子に対して愛情を注ぐ生き物だ。成長を願う生き物だ。師であるからには、ソレは当然の事。そしてココで言う『成長』とは、『清濁併せ呑む、器の大きな男に育ってほしい。』という事な訳だ。
 コレが女の子なら、蝶よ花よと可愛がって育てるだけで良いかも知れない。
 が、男の師・・・男親として、これからの日の本を背負っていくであろう我が子・・・男の子に望む事というと、才能を見込んでいるが故の欲目も手伝って、時に厳しい愛情の表出の仕方をするものである。

「ボクが言うのもアレだけど、ウチの子、イイ子に育ってくれたと思うんだ。
 刀の腕前は相当なモノだし、最近は将としての自覚も出てきたようでね。左近君に兵法書の解説してあげてるのとか聞くと、鋭い事、鋭い事。
 頭のイイ子さ。戦火が収まった日の本でも、きっと必要な人材になるだろう。」

「ワシが言うのは身贔屓になるのを承知で申すが・・・アレは中々に気骨のある男よ。槍に関しては日の本一と見込んでおる。槍で鳴らした前田利家にも引けは取るまい。
 気性が真っ直ぐで、人を謀る事を知らぬ男よ。その情熱は、必ずや日の本をより良き方向へ導く原動力となろう。」

「ただ、ね?」

「うむ。ただ、のう。」

「純粋で清らかなだけの国は、存在し得ない訳で。」

「真っ直ぐなのは良いが、それだけでは国は、人は導けぬのが道理というものよ。」

「濁って欲しい訳じゃない。
 ただ、国に濁りがある事、それは決して取り除けるものではなく、それもまた人の一部である事を学んで欲しい。」

「人とは時に、真っ直ぐで在りたくともそう在れないものよ。意に染まず歪んでしまった者を許し、導ける者であって欲しい。」

『さて、我らが息子たちに、どうすれば教えを施せるか。』

「借金の取り立てシーンでも、見せてみたらイイんじゃないですか?」

『それだっ!』

「どれだと言うのだ、一体。」

 白米を突っつきながらの半兵衛と、何故かワカメを朝の光に透かす信玄の『子育て上の悩み』に。魚の身を解した鶴姫があっけらかんと解を与える。
 味噌汁を啜りながら、元就はトラブルの予感にうんざりした顔を明後日の方向に向け、小十郎は苦笑しながら婚約者を見守っていた。



 安芸・毛利。
 中国地方を全てその掌中にしても、元就は一族元来の本拠から動かずに、今でもこの地を中国の要として使っている。
 それについては、地理的な事など色々と要件を揃えているからなのだが・・・。
 九州で義弘への援軍を終えて、久し振りに安芸に戻って来た元就を迎えたのは『最愛なる賢妹』鶴姫の他に、もう3人。
 鶴姫本人はいつでも大歓迎だし、今や妹の婚約者となった『竜の右目』片倉小十郎は許そう。だが。だが、だ。
 何故、居る。
 『豊臣の天才軍師』竹中半兵衛と、『甲斐の虎』武田信玄。
 半兵衛は、まだ解る。隣の近畿地方を領する(予定の)豊臣のナンバー2で、今は元就が主治医となって病を診ている人間だ。定期検診にイチイチ行き来するのも面倒だし、向こうから来てくれるのは助かる・・・ソレがたとえ、鶴姫への未練のせいであろうとも。
 信玄とのセット、というのが、違和感最高潮なだけだ。
 謙信と喧嘩でもしたのか、この猛虎は。

「ヒドイ・・・この腹黒智将ときたら、謙信と喧嘩でもしない限り、ワシ単品が安芸に来るのは罷りならぬという顔ではないかっ。
 娘よ、傷付いた父の心を慰めておくれ・・・!」

「はいはい、お父様♪」

「誰が父で誰が娘かっ、そなたも乗るでない、明っ。」

 朝起きたら、ちゃっかり朝食の席に居座っていた猛虎と軍師。ウソ泣きする猛虎に智将は半眼になった。周りから散々『キャラ崩壊』だ何だと言われる自分だが、武田信玄のキャラ崩壊は何故に誰も指摘しないのかと思う。不公平ではないか。
 別に朝食だろうが昼食だろうが、メシをたかりに来るのは構わない。
 合議は未だ試行錯誤している段階で、皆で色々意見を出し合っている所だ。一昨日の決め事より昨日の発想の方が有意義だから、今日になって関係する家門に単身、話を通しに行く。そういう『しきたり』すっ飛ばしの、今までだったら考えられないような手順も日常的に行っているのだ。
 『最低でも月1回は京都に集まって情報共有を』という話だったが、実際には半月に1回は9人で集まっている。
 ソレ自体は良い事だ。
 かく思う元就自身も、豊臣家で出される金平牛蒡に餌付けされてよく(食べに)行くし、九州や四国など、海だって簡単に超える。
 だが、しかし。
 政治に関わらぬ部分、『ウチの子自慢』スレスレの相談事まで、持ち寄らなくて良いのではなかろうか、と思うのだ。
 井戸端か、ココは。

「まぁそんな顔をするな、安芸の智将よ。
 聞けば17歳で8つの鶴姫と出会ってから、おぬしが彼女を育て上げたも同然だと言うではないか。
 今や彼女は、何処に出しても恥ずかしくない名門毛利の姫君であり、伊達腹心を務める男の心を射止めた婚約者。9つの家門を繋ぐ架け橋も同然。
 という訳で、だ。
 そんな鶴姫を育て上げた教育者・毛利元就を見込んで、相談があるのだ。」

「・・・・・・知らぬ。我は何も知らぬぞ。
 そのようにおだてて、策を引き出そうと致しても何も答えてやらぬからな。」

「ワシの所の幸村と、半兵衛の所の三成の事でな。
 2人共、中々の人材に育ってくれたものだとは思う。だがしかし、少々『綺麗』にまとまり過ぎたというか、純粋で真っ直ぐ過ぎる傾向があるというか・・・。
 ワシらとしては、『清濁併せ呑む』の『濁』の部分。人間の濁った部分をも受け止められる、器の大きな人間に育って欲しいのだが・・・鶴姫のような。」

「はい、ソコがおだてっ。やめんか、鬱陶しいっ。」

「今のままの2人に不満は無い。が、器を信じているからこそ欲が出るというか・・・。
 今のままの2人を壊さずに、人の世の濁りを教えるにはどうしたら良いと思う?
 今日はソレを訊きたくてな。」

「鬱陶しいと申すにっ! 人の話を聞かんか馬鹿者っ!
 大体、我はその2人の事を何も知らぬのだぞ? 真田幸村の事も、石田三成の事も・・・。せいぜいが猪突猛進と潔癖症、という程度だ。
 助言の申し様がないわっ。」

「じゃぁ、さ、毛利君。
 体験談を教えてよ。鶴姫君にはどうやって教えてあげたの? 人の世の理不尽とか、どうしようもない汚濁とか、それでも投げずに生きなきゃね、って事とか。」

「半兵衛・・・そなた、要するに惚れた女の幼少期ネタが知りたいだけであろうが。」

「フッ、否定はしない・・・。」

「イイ顔で格好良く肯定するな、このロリコンッ。」

「ひ、人聞きの悪い事を言わないでくれたまえっ。
 ボクも信玄公も心配なんだよ、可愛い『我が子』の行く末がさ。2人とも、良くも悪くも真っ直ぐすぎるんだもの・・・。ボクら2人が戦死したりしたら、それぞれがどれだけ嘆き悲しみ、歪んでしまう事か。
 その歪みを越えて、しっかりこの濁世を生きて行って欲しい、と。
 そういう思いは、君にだって覚えがあるだろう?」

「むぅ・・・。」

「ボクにとって三成君は、ただの部下じゃないんだ。弟みたいな存在でもある。
 息子と言う程、年が離れている訳じゃないんだけど・・・あの子が6歳だか7歳だかの時に、通りすがりの村で会った子でね。髪色の事で、他の子から投石されてイジメられてて。
 ホラ、ボクも同じ銀髪だから、他人事とは思えなくて。
 聞けば身寄りもないと言うし、ソコに居ても良い事ないだろうから、一緒においでって言ったんだ。
 それでそのまま連れて帰った。当時住んでたのは、独り暮らしですら手狭な小さな庵だったんだけど。
 中々に楽しかったよ。
 礼儀も学問も武芸も、一般常識も。基礎は全部、ボクがイチから教え込んだ。
 同じ布団で眠ってね。秀吉は布団くらいやるって言ってくれたんだけど、そもそも布団を2つ敷くスペースが無かったから。
 かっわいいんだよ? あの子、枕を抱えて眠るクセがあるんだ。だからボクの方が枕なしで眠るクセが付いてしまった。
 でねでね、三成君には他にも可愛い所が」

「わかったっ、判ったからとりあえず黙りおれ天才軍師っ! 幼な子をお持ち帰りとか、同じ布団で寝たりとか・・・。
 世を投げていた17の我でも、そこまで堕ちてはおらなんだわっ!」

「ヒドイっ、連れ帰った責任として、ちゃんと面倒見てただけじゃないかっ。
 とにかく!
 人間の綺麗な面なら、教えるのは簡単なんだ。優しくすればいいだけなんだから。難しいのは醜い面。汚れた面さ。下手に教えて、人間不信になっても困るし・・・怪我をさせたい訳じゃないし。
 ちょっと困ってしまってね。
 で、仲間内で教育者と名高い毛利君に、金言を仰ごうかと。」

「何が金言か。
 そういうのは、言葉にして教え込むものでもあるまいに。寺にでも隔離して純粋培養していた訳でなし、自然に感覚として『識って』参るモノではないのか?」

「ボクらもそう思って、これまで特に何もしてこなかったんだけど・・・。
 その結果が『アレ』だろう?」

「うっ・・・。」

 『アレ』とは、アレ。元就言う所の『猪突猛進』であり、『潔癖症』である。
 信玄と半兵衛、2人の言わんとする所は、元就にも理解できる。だが、だからと言って、『こうすればいい。』と教えられる類のモノではないのも確かだった。
 失敗した梅干を口に含んだような顔で数瞬、黙考した元就は、すぐに投げ出すと事もあろうに『賢妹』本人に振り下ろしたではないか。

「我とて自覚して教え込んだ事などひとつとしてないわっ。
 明っ! 当のそなたはどうなのだっ?! どうやってこ奴ら申す所の『器の大きな人間』になった?」

「えっ?! 兄様・・・そこを私にお訊ねになるんですか?」

「ぶっちゃけ申そう、我はそなたに、人の世の濁りなど教えた覚えはない。だと申すのに、いつの間にやら忍顔負けの諜報戦術やら、どんな人質からでも情報を抜き取れる拷問方法やら、船を下りたばかりの南蛮人にすら通じる程の南蛮語やら、身に付けて来おって。
 兄は悲しい。非常に悲しい。」

「兄様っ! 兄様、シィッ! 片倉さんの前でそういう事言っちゃダメですってっ。ていうか、語学に関しては褒めてくれていい所だと思うんですけどっ?!」

 半兵衛に琉球語を教わるのと同時進行で、政宗にも黙って、毛利文庫の埃をかぶった教本を参考に南蛮語を独学したのだ。ソレでモノになったのだから、妹の語学の才能に驚嘆し、もっと褒めてくれてもバチは当たるまい。
 チラッと、恐る恐る。隣で膳に向っていた小十郎を確認する。
 彼は微苦笑しながら鶴姫の髪を撫でてくれた。
 彼女の頬が一瞬で朱に染まり上がり、半兵衛の顔色が見る間にベタ塗りになる。

「琉球相手の通詞目指して、琉球語を学んでるのは知ってたが。
 南蛮にも興味があるのかい?」

「南蛮、への興味という、か・・・その・・・。
 伊達家は日の本の中で、南蛮との貿易が一番活発でしょう? その伊達家のナンバー2、『竜の右目』の妻が、南蛮に無知ではいけないんじゃないかな、と・・・。
 どうせなら南蛮語の通詞が出来るくらい、しっかり学んでしまおうかと・・・。
 そしたら、その・・・片倉さん褒めてくれるかな、お役に立てるかな、とか・・・。」

「おう。期待してる。」

「っ、♪ はいっ!」

「俺も勉強してみた事はあるんだが、どうにも語学は苦手でな。
 俺が向こうの人間と話す時には、鶴、お前が通訳してくれ。」

「はい、頼ってもらえて嬉しいです、片倉さんっ♪
 長曾我部さんのお友達とか、全然知らない、新しく入港して来る船乗りさんとか相手に、お話してるんです。通じるかどうか・・・。上達が早いのはそのせいもあるかも♪」

「気の荒い船乗り相手に、語学の勉強か? 相変わらず破天荒だな、お前は。
 あんまり独りで出歩くなよ、鶴。今度は俺も連れて行ってくれ。」

「はーい♪ 過保護だなぁ、片倉さんは♪」

 花が見える・・・大輪の花が、大気中に散りばめられている花が見える・・・!
 つまり彼女は、片倉家への嫁入りをガンガンに視野に入れて、現実的な花嫁修業の一環として南蛮語を習得した訳で。
 『婚約中』であって『結婚後』ではないのは、小十郎と鶴姫の間で『無事に合議が発効し、日の本が安定するまで。それまではお互いの家の為、日の本の為に頑張りましょうね♪』という約束が交わされているからだと、周囲はそう聞いているし、政宗も元就もそれで納得はしているのだが・・・政宗の場合、まだ諦めていないだけかも知れないが。
 意識の上では、鶴姫は既に立派な『竜の右目の妻』らしい。責任持って彼女を守らなければ、否、守りたいと思う辺り、小十郎もまた然り。
 実質、もう夫婦じゃね? という台詞は、誰あろう『豊臣の天才軍師』の為に皆が敢えて黙っているツッコミであった。
 顔の上半分がベタ塗りになっている半兵衛に、元就が底意地悪く追い打ちをかける。

「ま、アレよな。
 語学の習得に一番の近道は、想い人を作る事だというのはよく聞く話だが。恋い慕う相手が必ず外つ国の人間である必要は、確かに無いな。」

「片倉さん♪
 私、ゆくゆくは琉球と南蛮と日の本、3か国を言葉で繋げたいと思ってるんです。」

「そいつはイイ目標だ。
 そうして知り得た異国の話を、俺はお前の言葉で聞きたい。琉球や南蛮の文物、自然、人の暮らし。そういう話を、寝物語にして聞かせてくれ、鶴。」

「もぅ、片倉さんたら♪」

「毛利君の・・・毛利君のイジワル――――っ!!!」

 ウソ泣きする天才軍師の頭を、甲斐の虎は嘆息しながら撫でてやった。



 その後、元就への腹立ち紛れもあって、駄々をこねた半兵衛を見かねて。
 鶴姫がしたのが『借金の取り立てシーンを見せれば良いのではないか。』という提案だった訳だ。それも一般人相手ではない。西域の、最下層の、犯罪組織を取り纏める親分連中へ貸し付けていた金の取り立てを、である。
 幸村はともかく、三成のような人間にとっては確かにカルチャーショックだろう。

「さてもさても。逃げずに来おったか。
 正直、いかに主筋の命令とはいえ、拒否って良い時もあると思うのだが・・・。」

「お館様のお言葉は某の全てでござるぁっ!
 毛利殿っ、本日はどうぞ宜しくお願い申すっ!!!」

「貴様が言うな、毛利元就っ。
 半兵衛様は私の道っ! そのお言葉を、違えられなどするものかっ! 半兵衛様の深遠なるご配慮、私の糧として成長してみせるっ!」

「・・・そなたら2人、ノリが似てるな。」

 げんなりした顔を横に向ける元就は、自分こそ、妹の提案の一番の被害者なのではとすら思ってしまう。
 鶴姫の言い分はこうだった。
 人が本質的に持っている汚濁など、確かに言語化できる代物ではない。実際に濁りを見て、己が心で感じるしかないのだ。何も戦に出る必要は無い。社会の淀みなど、戦火で荒廃した街を歩けばすぐに行き当たるのが今の日の本なのだ。
 中でも金銭は、人の汚濁が最もよく発露するツールである。
 戦火で荒廃していながら、貨幣経済が機能している・・・『してしまっている』今の日の本なら、尚更だ。いっそ、物々交換主流にまで文化が後退してしまえば、まだ救われる者も多かろうに。
 生活必需でありながら、金銭ほど、生活必需でない欲望まで喚起するツールを彼女は知らない。
 だから、こそ。
 元就の取り立てに、幸村と三成。2人を同行させてはどうか、と。鶴姫は、兄と天才軍師、それに甲斐の虎に進言したのだ。
 後者2人が反対する筈も無く、幸村と三成は、それぞれ甲斐と大阪から迅速に招聘された。
 元就としては、なんというか、こう・・・・ここまでくると、妹は周囲から無駄に愛されているとしか思えない。
 そして無駄に好天に恵まれた今日、周り全てからお膳立てされた元就は若い(と言っても当の元就と大して違わない筈だが。)2人を連れて、港町を歩いている訳だ。

「よく聞け、2人とも。
 我にも責任感くらいの持ち合わせはある。こういう仕儀になったからには、ちゃんと面倒見てやる故、しっかりついて来い。
 昨夜の内に少し座学を施したが、もう少し具体的に話しておくぞ。」

「はいっ、毛利殿っ。」

「・・・我が安芸毛利には、大別して3つの顔がある。戦国武将としての毛利家。邪気使いの総元締、『西の陰』としての毛利家。そして商人、金融業者としての毛利家の3つだ。
 まぁ、平たく言って高利貸しだな。
 大元は、貧乏公家相手に少額を貸す程度だったらしい。当家にも一応公家の血が入っておる故、遠い縁戚やその知り合い程度の相手に、大した価値も無い骨董品を担保に、戻らぬを半ば承知の上で、少額を貸し与えておったそうな。
 それを『金融業』と言えるまでに業務化し、範囲を広げもしたのは、5代か6代ほど前の当主であったとか。
 長い時間と積極性が相俟って、今では日の本の西半分、近畿から九州にかけての金の流れは概ね毛利家が把握していると申して良かろう。」

「秀吉様の近畿・・・随分と手広いのだな。堺などとも?」

「多少はな。
 今『概ね』と注釈をつけたのはな、石田。我が毛利の金貸し業が、表より裏に特化しているからよ。
 表の流れは、当家とは別に複数の商家が取り仕切っておる。堺も含めて、だ。
 我が毛利の持ち合わせておる上客は、もっと裏の人間。得意分野は、」

 元就に連れられるまま、歩いてきた2人の前に、細い路地裏が真っ黒い口を開けている。歩いてきたばかりの表通りから首を90度横に向けるだけで、暗く、黒く、度を越して静謐な。およそ生命の気配というモノの存在しない、得体の知れない空間が広がっていた。

「この先の住人だ。」

「ええと・・・俗に『ヤクザ』とか『スジ者』とか呼ばれる人種でござるか?」

「否。
 真田幸村。恐らくそなたは今、元親や政宗のような人種を想定したであろう?」

「・・・いかにも。」

「確かに、長曾我部家にも金は貸しているな。
 だが『ああいうの』は、毛利家の客としてはごく少数だ。」

「主流は、ああいうの、以外・・・?」

「我が客は2種類に大別される。
 長曾我部家に対するのは、正式な契約書を交わして、期日を守って返済させて、担保の質を精査して問題なければまた貸して、きちんとした返済プランを事前に立てて、取り立てもそのプランに基づいて行っていく、というような代物である。
 互いの同意と法律に則った、ごく健全な、借金というよりローンだな。」

「借金とローンの違いが判りませぬ・・・。金を借りるとは、そういう『長曾我部公に対するモノ』のみと思ってござったが・・・。」

「ふむ。
 半兵衛も信玄も、『そなたら2人は『濁』の持ち合わせが少な過ぎる』と案じておった。確かに。その言葉に得心がいったわ。
 2種類の内の、もうひとつ。
 主流はな、この先の住人に対する貸し付けよ。
 この先に住まいするは、スリ、ゴロツキ、売人、ペテン師、売春婦。そういう犯罪者共よ。海賊の流儀も、任侠の心得もない。邪魔者は殺す、という発想しかないバカ共ぞ。説得だの距離を取るだの、平和的な発想は無い連中なのだ。
 そういう、およそ救いようのない連中。あるいはその元締め共。
 そういう連中に貸す方が主流だな。」

「・・・毛利元就。私は、秀吉様が半兵衛様の診察を許した貴様を、相応に信用しているつもりだったが・・・。
 私はよく人から潔癖だの何だの言われるが、ソレはお前も同じだろう?
 私は、お前は、その・・・『そういう人種』が目の前に居たら、反射的に斬り捨てる、位の人種だと思っていたのだが・・・。
 直接的に言う。何故、そんな連中に金を貸す?
 低レベルで下賤で、駒にすらならない、犯罪者と呼ぶのもおこがましい、濁りきった獣のような者たちなのだろう?
 お前の与えた金で生き、お前の与えた金で罪を犯す。
 お前の行いは、日の本の腐敗に等しい代物ではないのか? 秀吉様と一緒に目指している『7家合議』の動きに、逆らう行いなのでは?」

「石田殿・・・。」

 疑義に険しくなった三成の顔、見守る幸村の心配げな表情。
 『上客たち』と共に酷い言われようをした元就は、しかし常の彼らしくなく、静かに微笑んで受け流した。
 背後から睨みつける三成を振り返り、彼のその、師との縁ともなった銀髪を。
 腕を伸ばし、軽く掌を乗せるようにして撫でる。
 三成は瞠目した。主君と師以外の人間に、そのようにされた事に。それに対して反発が起こらない自分の心に。
 元就の、深い哀しみを薄皮一枚の優しさで包んだような、微笑みに。

「何故と訊かれれば、今は『汚濁の集大成故に』とでも答えておこうか。
 石田三成。
 そなたのそういう、抱いた疑義は直接本人にぶつける所。『何故そう在るのか』と、常に己の言葉で考える所。
 我は結構、気に入っておる。自分の頭で考え続ける者は貴重だ。」

「・・・・・・・。」

「付いて参れ、真田幸村、石田三成。そなたらの師の望み通り、『人の世の汚濁』を見せてやる。
 事前に申し付けた通り、『見る』だけだ。発言権も与えておらねば、自由行動も許してはおらぬ。心せよ、弟子ども。」

『・・・・・・。』

 流石の幸村も、緊張故に返事に詰まってしまう。
 元就はもう一度2人に視線を流すと、黙って路地裏に足を踏み入れていった。



「ご機嫌だな、鶴。」

 同月同日同時刻、幸村と三成が、元就に連れられてダーティーな社会科見学に足を踏み入れている頃。
 同じ港町で、当の鶴姫は大好きな婚約者とのんびりデートを満喫している所だった。
 鶴姫は彼女だけを見つめている小十郎を見上げ、本当に『ご機嫌』で微笑み返す。年上の男らしい余裕を見せたくて、そっけない程の冷静さを保とうと努めている当の小十郎すら、ともすれば変なニヤケ笑いを浮かべてしまいそうになるのを誤魔化しているのだ。
 感情表現が素直な彼女が、落ち着いていられる訳がない。
 小十郎の右掌に、鶴姫の柔らかい体温が伝わってくる。
 彼と繋げている左手に、彼女が少しだけ力を込めた。

「だって、片倉さんが安芸に来て下さったんですもの。それだけでもレア中のレアなのに、戦場以外でお会い出来たのも久し振りなんです。
 こうして並んで歩けるだけでも、はしゃいでしまって・・・。
 お屋敷では兄様の目もありますし。」

「ははは。」

 苦笑する鶴姫に、小十郎としても乾いた苦笑で返すしかない。
 いくら正式に婚約し、実質の妻とはいえ、小十郎としては『あの』シスコン・元就と同じ屋根の下や陣中に居る時に、鶴姫にあんな事やこんな事は出来ない・・・いくら『竜の右目』が『そちら方面』にも豪胆で自信家でも、元就当人から許可をもらっていたとしても。
 怖い。後が怖すぎる。
 小十郎の愛撫に悦ぶ『最愛の賢妹』の喘ぎ声など、あの『腹黒智将』の耳に入ろうものならば・・・。
 普通に呪われるから。後で絶対、片倉家に変な配達物来るから。
 鶴姫が慎みというモノをちゃんと知っている女性だったのは、稀なる僥倖なのだろう、小十郎にとって。
 兄と婚約者の微妙な心理をよく弁えている鶴姫だが、だからこそ、構える時には構って欲しい、という女心が働く訳で。
 そういう経緯があっての『今日は徹頭徹尾、私の為に使って頂きますからね♪』という鶴姫の可愛らしい宣言であり、デートなのだ。
 ちなみに今回小十郎が安芸に来たのも『そういう経緯』があっての事だった。所用自体は、下っ端の使者にでも務まるようなモノだったのだが・・・。
 要するに彼も『鶴姫切れ』だったから、顔が見たくなった。元就の目があって、抱けないのだとしても。
 こうして昼間からデートを楽しみ、そして・・・耳許に唇を寄せるくらいは、出来る。

「昨夜は済まなかったな、鶴。独り寝させて。
 ちゃんと眠れたか?」

「ツレない人です。せめて夢でと思って早々に寝たのに、全然出てきて下さらなかった。」

「俺に、抱かれる夢が見たかったか?
 なら今からでも、2人きりで『遊べる』場所に直行しようか。」

「し、しませんっ。
 したら多分、1日ソコで使っちゃう、から・・・。」

「残念。俺はまだ、この地の地理に疎いからな。」

 地理に疎くなかったら、このまま連れ込んでしまいそうな口振りだ。
 婚約者の肩を抱き、悪い笑みを浮かべた唇を軽く耳朶に触れさせる。艶を含んだ小十郎の声音に、俯きがちな鶴姫の頬が熱くなる。
 言葉遊びを余裕で制した彼は、そのままの流れでゆっくりと歩みを進めながら、彼女の指をスルリと捉える。肩に回していた左手で、彼女の左手、細い指先を掴んだのだ。
 指先を握ったのは一瞬で、すぐに組みかえて、一瞬でほっそりした指の隙間、一番柔らかい場所に忍び込む。
 白い谷間を爪先で撫でると、彼女の手首がビクンと震えた。
 完っ全に『夜』の触り方だ。
 白昼堂々、街中でのデートの最中に、歩きながら。
 器用にそんな『触り方』をしてきた男の手を、それでも振り払う事も放す事も出来ずに、彼女の色白の頬は加速度的に更に真っ赤になってしまう。そんな羞恥の表情すら、悩ましい色気を帯びているとも知らずに。
 戦場ではあれ程に凛々しく、一般兵士の憧憬の的となっている彼女だというのに。小十郎の前でだけは『女』になるのだ。
 自分だけに見せる、彼女の無防備な表情。
 仄暗い満足と共に、右手の平を、優しく撫でるように鶴姫の左頬に押し付ける。

「つる。」

 閨で呼ばれる時のような、少し掠れた、甘い声。
 ピクリと、俯き続ける彼女の肩が揺れる。彼の左手が触れたままの肩が。

「・・・・・。」

「顔が見たい。つる。」

 2度、名を呼ばれても、なお意地になって俯いていた鶴姫は、右の親指で唇をなぞられて、とうとうオとされて顔を上げた。
 こういう時、小十郎は鶴姫に何ひとつ強要はしない。命令口調すら、使わないのだ。
 それでも彼女は従ってしまう。彼の希望を、叶えてしまう。叶えるように、彼に誘導されてしまう。
 ほんのりと潤んだ目許が恥ずかしくて、小十郎の右掌を押し当てて隠しながら。
 鶴姫は、色気を帯びる手付きとは裏腹な優しい視線を送ってくる彼に、ひとつだけ溜め息を吐いた。

「『捕まった』とかいう可愛いレベルじゃないんですよね。」

「うん?」

「いえ・・・悪いオトコに『縛り上げられちゃった』なぁ私、とか思って。」

「・・・・・・。」

「今、またイケない事、考えませんでした?」

「解ってんなら敢えて・・・いや、止そう。
 今は何を言っても、全部口説き文句になっちまう。」

「仕切り直しっ! 仕切り直しましょう、今すぐっ。
 ホラ、このお店ですよ、片倉さんっ。」

 今日のデートは鶴姫がナビゲーターとなって、小十郎に毛利領の一角・この港町を案内する、という趣向だ。
 彼女が彼を連れて来たのは、大人の遊び場・・・ではなく、ごく平和な『トルコ料理屋』だった。
 目的地を伏せたまま連れて来られた小十郎は、目を丸くして看板を見上げた。
 鶴姫には戦時も平時も驚かされてばかりいる。政宗の参謀である彼の意表を、一度ならず突いた女性。そんな女性は今まで1人も居なかった。
 当の彼女は、天真爛漫な笑顔で彼を見上げている。

「ここの店長さんと私、お知り合いなんです。生粋のトルコ人なんですけど、トルコ語だけじゃなく色んな国の言葉が話せて、文化にも詳しい人で。英語、ポルトガル語、フランス語。日の本に来てる南蛮の言葉は、一通り日常会話レベルだって。
 語学の勉強で、本場の人とお話してるって、先日お話したでしょう?
 アレ、船乗りさんだけじゃなくて、こういうお食事処の人も含まれてるんです。お客あしらいが商売だから、よく会話してくれるので。こっちが下手でも会話を繋げようとしてくれるから、生徒役としてはラクなんですよ。」

「驚いた・・・いや、感心したと言うべきか。
 南蛮語の勉強と言うからには、てっきり南蛮人・・・金髪系統かと。一体何だってトルコなんだ? 国としての付き合いは意外と古くて、大陸レベルな事くらいは知っちゃいるが・・・。
 日の本が戦国に入ってから、まともな国交も貿易も無いって聞くぜ?
 在日トルコ人も、殆ど居ないと。むしろよくこの店を見つけたな。」

「う~ん、きっかけは些細な事だったんですけど。
 私が近くの森で手負いの小鳥を拾って、でも急いでたんで治療もロクに出来なくて、通りがかりの、食材調達中の店長さんに押し付けて先を急いで用事を片付けてから、場所しか聞いてなかったこのお店に小鳥の様子を見に来て・・・それ以来、何となく気が合って、結構頻繁に顔を出してる、みたいな?
 気も合うし・・・それにココの店長さん、言葉だけじゃなく文化の話もしてくれて面白いし。私と兄様が術者だって知っても、気味悪がったりしなかったし。
 日の本に来たのは、宣教師としてだったそうです。
 トルコはイスラム教圏なのにどうしてキリスト教なのって訊いたら、イスラム教の教えが肌に合わなくて、子供の頃に飛び出して放浪して、その先でキリスト教徒に改宗したんですって。
 その後、所属した教会の仲間は誰も極東に行きたがらなかったから、改宗者として信仰を示す意味もあって、自分から志願して日の本に来たんですって。
 で、来たら来たで、宣教師会のお偉いサンと喧嘩して破門になって、帰るのも面倒な気分だったから、生まれ育ったトルコの料理を思い出して、ココでトルコ料理のお店を出したら、軌道に乗った、と。
 ま、私が聞いてる『身の上話』は、そんなトコです。」

「・・・・・・・。」

 『私が聞いてる』身の上話。
 それはまるで、『私が聞いていない』別の物語があるかのような。『あの絵草子の新刊、出てないらしいよ。』的な、カルい言葉。
 小十郎は察して、黙って鶴姫の髪を撫でてやる。
 恐らくココの店主の経歴は、別に在る。この辺り一帯の外国人のまとめ役。あるいは情報屋、という顔も持っているのだろう。
 それが判っていて尚、鶴姫は常連客としてこの店に出入りする。語学を磨く為・・・それ以上に、店主から情報を引き出す為に。
 彼女が信を置ける者は、実は少ない。

「片倉さん。」

 鶴姫の内包する矛盾を、その苦しさを、察してくれた小十郎の度量の深さに、彼女の瞳が揺らぐ。彼の胸に正面から寄り添い、身を預ける。
 2人の仲がどういうモノか、疑いようもなく周囲に、通行人に知らしめる姿。
 これしきの事で慌てる程、小十郎もカルい火遊びは経験していない。だが、鶴姫の方からこうして公然と意思表示してくれるのは珍しかった。

「いいのか、鶴。」

 この辺りは外国人が多い。外つ国では、体を密着させるくらい普通の挨拶だとは聞くが・・・ここは日の本なのだ。
 紳士を装って彼女の髪を一房、手に取り、軽く唇を触れさせる。
 遊び馴れた仕草に頬を染めると、鶴姫は裏腹に寂しげな瞳で微笑んだ。
 その透明感に、小十郎は目を奪われる。

「・・・私、片倉さんに髪触られるの、好きです。
 安心する。」

「そうか。」

「はい。」

「なら、もっと安心させてやる。
 こっちに来いよ、鶴。」

「はい、片倉さん。」

 体力を消費してからの方が、トルコ料理も美味かろう。もっともこれから『食べる』のは、どんな国の料理よりも甘美な代物である訳だが。
 彼に手を引かれるまま、『大人の遊び場』に向かう鶴姫。彼が調べておかない筈がないのだ。
 彼の左手の指が、彼女の右手の指に絡みついている。幾夜も施された指戯を思い出し、鶴姫の躰は既に熱くなり始めていた。



 コトリ、と、金属製の鍵を机の上に置く。彼女の視線が追っているのは鍵ではなく、彼の指先だ。
 刀を握り慣れた者特有の、硬い手。柄を包み込む為の、大きな手。
 その手に、今までされた遊戯でも思い出しているのだろうか。可愛いなと思って和ませた彼の視線に、彼女は真っ赤になって視線を逸らしてしまう。

「鍵。ココに置いとくからな?」

「・・・は~い。」

 小十郎に連れ込まれた、色宿の一室で。
 不満顔の返事に、小十郎の口許に確信犯の笑みが灯る。先程の仕切り直しとばかりに正面きって甘えてきた鶴姫の、その細い腰を抱き寄せる。
 鶴姫は彼の頬を両の掌で、労わるように優しく撫で包んだ。

「鍵の場所など、何処でも良いのです。片倉さんさえ知っておられれば・・・。
 どうせ、部屋を出る時はご一緒なのですから。」

「馬鹿言うな。トチ狂った俺に、監禁でもされたらどうする気だ?
 ちゃんと知っとけよ、鶴。俺が何処に鍵を置いてて、どうやったら扉が開くのか。出たい時に、いつでも1人で出られるようにな。」

「ヤです。断固拒否です。1人で出たくなる時なんて有り得ません。
 片倉さんが私を監禁したいなら、お好きなように監禁させて差し上げます。」

「言ったな? 閉じ込められるだけで済むと思うなよ?」

 売り言葉に買い言葉。
 豪語した小十郎は、そのまま大胆に鶴姫の唇を奪ってしまう。薄い唇を吸い上げ、可愛らしい舌に、自分の肉厚のソレを絡みつける。粘膜同士こすり付けるように馴染ませ、わざと大きな動きで翻弄する。
 鶴姫の折れそうに細い白い咽が、小十郎の唾液を嚥下して蠱惑的な音を立てる。
 小十郎の首筋に回されていた両の腕からは、見る間に力が抜けていく。彼の肩を掴む事も出来ずに指先を虚空に彷徨わせている。

「っ、・・ん、・・っぅ、はぁ、・・・・ぁ、っぁんっ、」

 彼が時々、舌を抜くのは、声が聴きたいからだ。
 完全には抜かずに、舌先同士だけを捏ね合わせるように擦り付ける。繊細な刺激に、敏感になっている彼女の口腔は簡単に喘ぎ声を引き出されてしまう。
 彼の腰は今、木机の端に預けられ、彼の両手の指は今、彼女の華奢な腰つきを確かめるように撫で回している。
 緋袴と小袖の重ね着部分とはいえ、骨格のはっきりした彼の手指に強く揉まれて彼女の腰が跳ねる。ビクン、ピクッと、着衣越しの愛撫に断続的に反応するその動きを、愉しむかのように、小十郎はわざと弱い刺激を繰り返して挑発する。

「・・ゃ、・・はっ、・・はぁ、んっ、・・・んんっ、ダメ、そこ、ぁっ、・・」

 彼女の声が、静かな室内にはっきりと響いている。その淫らな息遣いにクラクラきた小十郎は、もっと直接的に肌に触れたくなって、緋袴の裾をたくし上げた。
 そうして瑞々しい肌を晒しておいて、露わになった双丘に後ろから指を這わせる。掌を押し当ててこすり付け、長い指先、全て遣って絡みつける。恥ずかしい丘を、柔らかい内股を、よく締まった太腿の付け根を、じっくりと揉み込んでいく。

「っ、ダ、メ・・・そ、こ、まだ・・っ、」

「可愛いぜ、鶴。よく濡れてやがる。」

 鶴姫の入り口に、小十郎が太い指先を押し付ける。それだけで彼女はもっとふしだらに潤み、更なる刺激を欲しがってヒクついてしまう。
 指、2本。人差し指と中指の、第一関節。
 ズブリ、と一思いに入り込まれて、鶴姫の細い咽がのけぞり、溜め息のようなあえかな嬌声が漏れる。その咽元に顔を埋め、舌で舐め嬲りながら、小十郎は色の滴るような声音で、彼女自らの選択を迫る。

「テストしてやる。鍵の場所・・・いや、開け方の方がいいか。
 言ってみな? そうしたら、もっと気持ちイイ事をしてやる。」

「っや、・・そ、な事っぁ、・・ん、ぅっ、・・・・ぁっ、」

「もう、寸止めはイヤだろ?」

 彼女の肌色が、一気に紅く染まる。前回の逢瀬で散々に弄ばれたのだ。押し問答の理由は忘れた。覚えているのは、放置プレイの熱。淫らに絡みつく、視姦の瞳。そして言わされた、とんでもなくイヤらしい台詞の数々。
 緋袴の中仕切りが、蜜を零す割れ目に擦り付けられる。小十郎の指先によって・・・彼の指が欲しいのに、全然別の刺激で代用される。
 こんなの、代用にすら、ならないのに・・・。
 それでいて強い快楽の存在を、誇示するかのように胸を弄られるのだ。

「ひゃぁ、っっ、ぁん、っ、」

「言えるだろ? 鶴・・・。」

 小十郎の声が、霞のかかり始めた鶴姫の意識に忍び込んでくる。小袖越しに揉まれる左の乳首が、コリコリとしこり立ち、彼の掌で押し潰されるように転がされている。
 布に遮断される分の刺激も欲しい。
 もっと直接、乱されたい。
 知らぬ間に鶴姫は、自分から小十郎の左手に指先を絡めていた。ほっそりした両の繊手で、彼のよく日焼けして節ばった手を導き入れる。
 小袖の内側・・・袷の中。アツく熱を持った柔肌に。
 彼の手を導き、直接、まさぐらせたのだ。

「っ、わた、し・・・なにを、」

「イイぜ? 鶴。そのカオ、イイ・・・すげぇそそる。」

「や、言わない、で・・ぁ、ゃっ、恥ずかしいっ、」

 強い刺激に、鶴姫が首を竦めて耐え忍ぶ。
 小十郎によって一気に肩から引き剥がされた小袖は、今、彼女の肘に引っ掛かる布溜まりに過ぎない。露わにされた背中の、その白い肌が午前の光を弾いている。
 男の左手によって、左の乳房は執拗に揉みしだかれ、右の乳首は入念な舌遣いに弄られる。
 右手は彼女の下に回り、背後から悪戯を仕掛けていた。内股に滴る彼女自身の愛液を塗り広げ、若い肌の感触を楽しむ。中仕切りを擦り付けるだけでは満足せず、指を3本に増やされ、その3本全てが彼女の内側で暴れていた。
 3通りの動きで媚肉をこすり、押し広げ、メチャクチャに刺激し・・・そして彼女自身の肉襞も、そんな彼の指先にねちっこく絡みつき、強引なまでの強さで奥へ導こうとする。

「ふ、ぁっ、・・んんっ、ん、・・・・や、イヤ、なのに・・・ダメ、も・・・っ、」

「イきたいのか? 俺の、利き手じゃない方の手で。
 指先だけで、もうイきたいんだな?」

「そ・・ゆ事、言っちゃ、ダメ・・ぁんっ、」

 色っぽく笑んだ小十郎の口許が、鶴姫の胸から離される。右手の動きを激しくして、彼女を絶頂へと導く為だが・・・だが左手の動きを止める訳ではない。手すさびのように左手で、左の乳房を下から持ち上げては落とす、という仕草を繰り返す。その度に形の良い美乳がプルン、プルンと震えるが、今の鶴姫にソレを恥じらう余裕はなかった。
 なくされていた・・・小十郎本人に。

「あ、んっ、・・・ふっ、っっ、ゃ、だ、め・・・あぁ――――っ!」

 一際甘く、特有の甲高い嬌声をあげた鶴姫は、もう体に力が入らない状態だ。
 ズルリ、と、虚脱した肉体が床に転げそうになるのを、小十郎の腕が抱き留める。自分の胸に彼女の頭を預けさせ、左手を華奢な右肩に回すと、己が右手で鶴姫の髪を撫でつけた。乱れ髪が整えられると同時に、彼女自身も愛液で汚れていく。
 酷く優しい仕草だったが、同じくらい淫猥な仕草でもあった。

「はぁ、はぁ、っ、・・・かたくらさん、の、ばかぁ・・・。」

「俺だけのせいか? 感じやすい堕とされたがりにも、問題はあると思うがな。」

「それって前半、片倉さんに開発されたせいですよね?」

「後半はお前の性格の問題だな。
 何回となく抱いても、綺麗で、清らかで、いい意味で不慣れで。嗜虐心を煽られるっつーか、堕落させるトコから念入りにやり直したくなる。
 恥ずかしそうに自分から脱ぐカオなんざ、たまらなくそそりやがるんだ。」

「それって後半もあなたの性格の問題じゃないですかっ。
 それに、ぬ、・・・せた、のは、・・・っ、」

「うん?」

「私を、脱がせた、のは・・・片倉さんです・・・。」

 よく言えました、とばかり、小十郎は鶴姫の唇を優しく吸い上げる。彼女の茶色の瞳が、トロン、と揺らいだ。
 『脱がせた』という事実を表す言葉すら、彼女にはエロワードになるのだ。そういうブレない羞恥心が、小十郎にはたまらない。その羞恥と、男の手を自ら導く大胆さの同居。
 本人に自覚がない所がまた・・・。

「なら、鶴。俺の服はお前が脱がせてくれるんだろう?」

「え? っ、どうしてそうなるんですかぁっ!」

「お前の服を脱がせたのが俺なら、俺の服を脱がすのはお前の他に居やしねぇ。それでイーブンだ。」

「っ、」

 緋袴の紐が解かれ、役に立たない布溜まりとなって彼女の下半身を晒す。ソコをイかせた右手の指で、小十郎が大胆に背筋をなぞり上げると、思わず息を止めてしまう程の快楽が鶴姫の躰を駆け巡った。
 羞恥心からぴったりと両の足を閉じ、両の腕で小袖の絡んだ上半身を抱き締めて快楽の吐息に耐える鶴姫。
 その姿が彼を誘っているとしか思えないのは、小十郎の方に淫らな邪心があるからなのだろう。

「鶴・・・今日は鎧も着てねぇし。
 男の服の脱がせ方は、知ってるよな?」

「は、い・・・。」

 それも、彼が教え込んだから、だ。
 小十郎が教えた『脱がせ方』は、ただの脱衣ではない。着物の前をはだけさせ、ズボンを下ろさせて。ソコからが本番なのだ。
 小さな唇から舌を伸ばして、小十郎の躰を丁寧に舐め下り、キスを施していく。
 首筋、鎖骨、鶴姫のソレとは違う浅黒い乳首。鍛え抜かれた腹筋に、頑丈な腰つき。
 そして・・・既に隆々と天井を見上げる、小十郎自身。

「イイ・・・お前のナカ、上の口も極楽だな・・・。」

「んっ、・・・ふ、ぁ、・・・ぁんっ、っ、・・」

 潤んだ瞳をギュッと閉ざし、鶴姫の唇は小十郎の雄刀、その半ば以上を口に含んで収めていた。柔らかい舌を竿に絡めて巻き付ける。筋や割れ目に寄り添うようにして、濃密に扱いていく様がリアルな感触となって、彼の腰に、脳に、直接伝わってくる。
 夢中でしゃぶりついている鶴姫の奉仕を、黙って受けているほど、小十郎は大人しい男ではない。
 黒い笑みを口許に刻むと、荒い息遣いのまま、彼は鶴姫の髪を撫でた。
 両膝を畳の上につき、跪く形になっている彼女の、そのショートの髪を左手でかき混ぜる。汗で濡れそぼった彼女自身の髪の先が、剥き出しのうなじに触れる。チクチクと、細く柔らかい針で愛撫されているようなものだ。

「んんっ、・・ふ、ぅ、あんっ、・・・っ、」

「どうした? 急にお留守になったぞ。
 もっと奥まで入るだろ?」

 ズン、と腰を進めて、小十郎は更に奉仕を強要した。
 彼女が拒まない事を知っているのだ。果たして彼女は、更に蜜を馴染ませるようにして、淫らな舐め方で小十郎自身を愛撫してくれる。
 蕩ける感触に、小十郎は色宿の天井を仰いだ。

「たまらねぇ・・・クセになりそうだ。」

「んっ、」

「鶴・・・そろそろだ、鶴。
 俺はお前の、躰の上にぶち撒けたい。」

 情熱的で直接的な言葉選びに、鶴姫の躰がカァッ、とアツくなったのが紅に染まった肌色で判る。
 ズリュンッ、と久し振りに外界に出てきた小十郎の雄刀は、鶴姫のナカとの温度差が最後の刺激となって、宣言通り派手に白濁を撒き散らした。
 彼女の顔を逸れ、その白濁は全て上気した乳房にべっとりと纏いつく。まるで彼女の心臓を守る胸甲のようだ・・・こんな淫らな鎧は無いだろうが。
 胸の谷間を流れ下って、幾筋かが下腹へ垂れている。それはそれは卑猥この上ない構図だった。

「イイ子だ。上手に出来たら、ご褒美をやらなくちゃな。」

「ぁんっ、」

 鶴姫は今度こそ腰砕けになって、自力で立つ事もままならない有り様だ。
 汗で前髪が張り付いた彼女の額に、ひとつだけ軽いキスを落とすと、互いの体液まみれのその躰を、小十郎は姫抱きにして布団の上に運んでやった。大切に、大事に。
 丁寧に、『専門店』特有の最上の手触りを持つ布団の上に、鶴姫の躰を横たえる。色宿に連れ込むのは初めてではないが、小十郎はいつも上級以上の宿しか使わない為、鶴姫の肌は最上の布団しか知らないのだ。
 時刻は未だ、昼も回っていない。
 明るい陽の光が差し込み、表通りの穏やかな喧騒が聞こえてくる。そんな中で、この密室だけは異界も同然。
 互いの汗を受け止めて、ぐっしょりと濡れて使い物にならなくなった純白の小袖も卑猥だが・・・ソレ1枚を細腕に纏いつかせ、男の出したモノで上半身をベッタリと汚し、上気した肌のまま、乱れた息が中々整わない。
 惚れた女のそんな痴態は、目に映るそばから分身に再びの精力を与えていく。

「・・・しかん、やって、いったのに・・・。」

「そうだったな、鶴。悪い。
 お前は、こっちの方がお気に入りだった。」

「ぁ、っ、縛られるのは・・・初めて、ですよ?」

「そうでもねぇだろ?」

 色めいた湿り気に、重量を増した小袖を使って鶴姫の腕を拘束する。男の力で軽くひとつにまとめて肘で曲げ、頭の上辺りで縛ってしまう。
 痛くはない。が、恥ずかしい部分を隠しようがない、きっと声すら抑えさせては貰えないに違いない。
 そう思うだけで、鶴姫の肌に玉の汗が滲み、戻りかけていた理性が再び霞み始めてしまう。
 小十郎は早速、動けない彼女の耳許に吐息を吹き込んだ。

「悪いオトコに、縛り上げられるのが好みなんだろう?」

「っ・・、根に持って、るんですか? ついでに、言葉責めと視姦が好きで、お道具はまどろっこしいから嫌いとか、色気が有るんだか無いんだか判んない理由で指攻めに拘ってて、着衣プレイと喘ぎ声も大好きな人だと認識してますけど。」

「お前には色々根に持たれてそうだな・・・。
 鶴。お前の口から『縛る』なんて台詞を聞いた直後だから、な。まだヤッた事ないし、たまにはこういう趣向も悪くねぇだろう?」

 左手で優しく右頬を撫でてから、左の耳朶を甘噛みする。右手は腰の柔肌を、いやらしい手付きで撫で上げていた。
 背筋を抜ける快感を、反射的に唇を噛んでやり過ごそうとした鶴姫はしかし、小十郎の舌を挿し込まれて口腔をかき混ぜられてしまう。

「・・っ、・・・ん、んぁ、・・は、・・・、」

「唇を怪我しちまうから、ソコは噛むなよ、鶴。
 俺がお前の喘ぎ声、大好きなのは知ってんだろ?」

「知って、ますけど・・・ぁ、・・・ゃ、ソコ、ソコ、だめ、っ、」

 あろう事か小十郎は、自らの出したモノを、ローション代わりに使い始めたのだ。2人の汗と、彼の出した精液と、鶴姫自身の愛液と。
 混ぜ合わせて、大きな掌を存分に使って、彼女の肌に塗りつけていく。華奢な首筋から、肩から、二の腕、脇から胸へ。柔らかい部分まで丹念に、左右リズムを違えて悪戯し放題の指先に、今の鶴姫は身悶えしながら耐えるしかない。
 新たな蜜で潤う入り口の気配に、閉ざそうとした太腿も強引に割り開かれてしまう。

「っ、そこ、見ちゃ、ダメっ、」

「見ても、触っても、ダメなのか?
 なら、先にコッチに塗っておこうか。」

 割り開いた太腿に、甘い疼きを与えるいやらしい動きで指戯が施される。
 小十郎は内股の一番敏感な所を舌で舐め、あまつさえ歯まで立てる。乱れるしか術を持たない彼女の気息を、愉しみながら膝頭に触れていく。
 じらす技術に関して、小十郎は一級品だ。
 最後まで彼女の肌を覆っていた、脚絆。真っ白いそれを、ゆっくりと、彼女に見せつけるように脱がしにかかる。
 片方脱がして、剥き出されたばかりの柔肌に舌を這わす。念入りに、隅々まで。同じように反対側も。
 残すは彼女の入り口だけ。
 そこに至って、やっと小十郎の視線を受け止める頃には、鶴姫のナカからは霊験あらたかな湧き水ように、沢山のイケない雫が滾々と湧き出していた。
 その雫を、舌を伸ばした彼にほんの少し飲み干されただけで、彼女の柔らかい躰は、雷撃でも受けたようにビクッ、ビクン、と震えが走る。

「っ、は、ぁ、・・・かたくら、さん、・・っもぅ・・・いれてほし・・くて、」

「俺のが、欲しいんだな?」

「ほしい、です・・・今すぐに・・・っ、はぅ、んっ。
 というか、もらえる、前に・・・イっちゃう、っ、」

「カワイイ俺の鶴・・・。
 イクのは、もう少し待ってな? 一番の高みまで一緒にイこうぜ、鶴。」

「は、い・・んっ、く、っ、・・・ぁっ、・・・っっ、ぁあんっ!
 おく、奥まで、入って、っっ、」

「くっ・・なんて、締まりだ・・・。」

「――っ、つ・・ちゃ、や・・突くの、かたいの、すれ・・っぁ、ひぅ・・んっ、」

「鶴・・・お前の声が、頭ン中で爆ぜて弾んで・・・ソレがすげぇ気持ちイイ。
 おかしくなりそうだ。」

「だっ・・て、こえ、とまらな・・・はぅ、んんっ、やぁっ、・・っあぁ、」

「ココは? ココも、どうだ?」

「うごく、の、・・らめぇっ・・ナカ、ナカで、ビクビクゆって・・・やぁ、・・っっ、」

「っ、そろそろ俺も近い・・・イクか?」

「っん、イク・・・いっしょに、イかせてぇっ・・っ!」

 ドクンッ!
 鶴姫のナカに、入り切れなかった小十郎の体液が彼女の入り口から、縁を溢れて垂れ落ちていく。布団の上に、先に沁みていた鶴姫の愛液の雫に、覆い被さるように同じ場所に染み込んでいく。
 ズルリ、と自身をナカから引き出した小十郎は、やはり同じように彼女の上に覆い被さり、胸の中に抱き込んで、ギュゥッと抱き締めた。
 縛り上げていた小袖を解くと、手首の内側に口づけて舐めねぶる。

「っ、も、ダメ・・・かたくらさんっ。
 休憩、しましょ?」

「安心しろよ、鶴。痕が付いてないか、確認しただけだ。念の為、な。
 次、ヤる時は縛り方、変えなきゃな。
 お前はココも敏感なのに・・・責めてもらえないのはイヤだろう?」

「ゃ、んっ、そ、な事・・・冷静に分析しないで下さいっ。」

 細い指先は、彼の舌で舐められると見る間に赤く色づいてしまう。
 脈拍の早い手首や、普段あまり陽に当たらない、前腕の内側。ぐったりと動けない鶴姫を良い事に、小十郎の唇は愛撫を施していく。
 急に咽の渇きを覚えた鶴姫は、彼が愛していた右腕をスルリと取り返すと、左腕と合わせて両腕を彼の首に巻き付けた。
 何も言わせぬまま、半ば強引に唇を重ねる。

「カワイイな・・・鶴。俺にキスして欲しく・・・なったのか?」

「・・・私、が、・・・こんなやらしいコに・・・なったの、あなたのせい、ね?」

「素質を・・・引き出したと・・・言って欲しいんだがな。」

 濃厚なキスの合間に、睦言を言い交わす。
 彼の逞しい両腕は、彼女の白い腰をがっちりと抱え込んでいた。ゼロ距離で触れ合う2つの躰、その乳首同士が絡み合い、反り返る小十郎自身が鶴姫の入り口をこすり上げる。
 彼女には休憩を望まれたが、我慢できなくなった小十郎は、軽く力を入れて鶴姫の肢体をひっくり返してしまった。
 何か言われるよりも早く、曝け出された白いうなじに吸い付いてしまう。

「っ、ダメ、そこ、だめぇっ・・ちから、はいんない・・・やぁ・・っ、」

 知っている。小十郎は・・・小十郎だけは。彼女の躰のクセは、小十郎だけが知っている。
 背後からうなじを甘噛みされると、痺れる快楽に動けなくなってしまうのだ。
 小十郎の雄の息遣いに、鶴姫がゾクゾクきているのが判る。
 布団の上で腰を上げさせ、四つに這わせてしまってから、小十郎は激しく両の乳房を揉みしだいた。左右の掌で押し潰し、捏ね回し、指先で握り込む。美乳の縁や下までメチャクチャに刺激し、彼の指先、その太さまでしっかりと覚え込ませる。
 彼がうなじから唇を離し、穢れを知らぬげな美しい背中を、その舌で脊髄に沿って舐め回す頃には。もう彼女の躰中が上気し、淫蕩な紅色に染め上げられていた。

「はぁ、はっ、・・あぁ、んっ、・・・そ、な、おっきくもないむね、たのし・・・?」

「楽しいね。すげぇ気持ちイイ。
 乳ってのは、サイズがデカけりゃイイってモンじゃねぇんだよ。色とか、形とかな。サイズ以外にも条件は沢山ある。一番大事なのはバランスだと思うが。
 何より・・・俺に触って欲しいって、俺の手が欲しくてたまらねぇって。そう言って敏感になってる、この手触りが・・・最高だ。」

「そん、な事・・・言ってな、いっん、っあぁっ、ダ・・メェ・・っ、」

「お前の背中は・・・舌触りがイイ。しっとりしてて・・・俺の舌に吸い付くみてぇだ。」

「ことば、だめ、っ・・・言葉にしちゃ、っ、みみ、よわ、い・・、」

 感覚としてもさる事ながら、聡明で想像力豊かな彼女は、小十郎の言葉を反射的に想像してしまうのだ。自分が今、男からどんな愛撫を受けているのか・・・自分の体の状態がどれだけ淫らに蕩けていて、どれだけ男の獣性を煽り立てるモノなのか。
 だからこそ小十郎は・・・小十郎の持つ嗜虐心は、彼女を後ろから犯すのが好きだった。
 見えないからこそ想像してしまう。
 肌に直接快楽を与え、教え込み、それを敢えていやらしい言葉選びで鶴姫の耳に吹き込んでいく。
 脳まで、精神まで。見えない、触れない部分まで犯しているような。
 そんな、倒錯的な気分がクセになるのだ。

「鶴・・・この玉の肌に俺のを外出ししたら、さぞかしイイ眺めだろうな?」

「や・・言わない、でぇ・・・、」

「さっきは下の口に中出ししたから、今度は外に出そうか?
 それともやっぱり、後ろの穴に出して欲しいか?
 どっちが気持ちイイ?」

「っ、・・ど・・ちでも、いしき、飛んじゃいそうな・・・。
 こたえ、なきゃ・・・ダメ・・?」

「あぁ・・・教えてくれよ、おまえはどっちが好きなのか。
 ゆっくり考えてイイぞ? それまで俺は、」

「あぁっ、・・んん、ん、・・・っや、ゃ、め、・・・ぁぅ、ん、っっ、ん、」

「コッチを慰めててやるから、な?」

 前の泉は、もうグチャグチャだった。そこに躊躇なく3本指を入れて、強く引っ掻き回す。内壁をこすり、絡みつく媚肉の誘うまま奥に侵入する。爪で傷付けないよう繊細なタッチで撫で、あやし、ズズッと指を引き抜いてはまた入り込む。
 クチュ、ヌプッと、淫猥な水音が部屋に響く。
 壊れそうに華奢な肩甲骨を、舌先で愛撫しながら。小十郎は鶴姫に返答を求める。

「なぁ、鶴。どっちがイイ?」

「・・っ、そ、と・・・アツい、の、たくさん、んっ、ぅ、あ・・・、」

「よく言えた。」

「・・っ、は、ぅ、あ、あぁ・・!」

 短い褒め言葉と共に、小十郎の指が鶴姫の入り口から引き抜かれる。
 ホッと息を吐いたのも束の間、後ろの口から大質量を突っ込まれて、鶴姫の細首がのけぞった。ガチガチに硬く勃ち上がった彼のモノに、急に貫かれて声も無い。
 より正確には、うっかり油断していた所に脳天を突き抜けるような快楽を与えられて、咽を震わせて声なく喘ぐしか出来ないのだ。
 腰を使って抉り立てる小十郎は、ぐっしょりと濡れた彼女の柳腰を両の掌で抱え込み、舌先を伸ばして肩口の汗を舐め取った。

「お前の口・・・きゅうきゅう締め付けてくれるぜ?
 よっぽど俺のが気に入ってるんだな。」

「・・っ、ふぁ、ん、ん、っ、なか、出し・・しない、ってだ、けの・・いみって・・・っ、」

「出す前に、イかなきゃ、だろ? お互いに、な。」

「ぁ、っ、・・、ダメ・・・ねもと、こすれ、て、・・・ぅん、く、すぐったい・・・・、」

「お前の言葉選びも、大概、エロいよな・・・。」

 黒い笑みに染まった小十郎の口許に、一筋の汗が滴り落ちる。
 彼の下の剛毛が、彼女の入り口、2人の結合部分をくすぐっている。その痛痒感が彼女の快感を引き出しているのだ。
 抜き挿しを繰り返すうちに、水音がどんどん卑猥さを増していく。
 体を支えていられなくなった鶴姫の腕は、布団の上にしどけなく投げ出され、布を掴む力さえ入らない有り様だ。脇に這わされた彼の指先に支えられてはいるが、その代わりに愛撫からも逃げられない。
 少し、指に力を入れただけで肌を震わせる彼女の発熱具合に刺激され、小十郎の臨界も近づいてくる。

「鶴・・・お望み通り、背中に出すぜ・・・?」

「んぅ、・・っ、かたくら、さん、かたくらさんっ、」

 熱に侵された体で、心で、彼の名を呼ぶしか出来ない鶴姫。
 その痴態にたまらなくなって、小十郎は思わずそのまま、中に出してしまった。

「しまったな・・・。」

 本人の予想通り意識が飛んでしまって、ぐったりと布団の上に弛緩する鶴姫。
 全裸だが男の雄汁まみれで、白濁した半乾きの粘液が点や線ではなく面で肌にへばりついている様は、いっそビリビリに破かれた衣服の残滓のようだ。
 上気した頬に、浅い呼吸を繰り返す、紅に染まった胸。上体は右腕を下に横を向いているが、腰でひねって、下半身は天を上向いている。
 昼まだ明るい光の中で、このけしからん不道徳な絵。

(強姦プレイの後みてぇだな・・・。)

 いやいやいやいや、無いから。彼の好みは和姦オンリーだから。
 むしろ小十郎的に問題なのは、この後なのだ。

「鶴・・・お前を綺麗にしなきゃ、な・・・?」

 聞こえていないのを承知の上で、こんな台詞は言い訳がましいのだろうが・・・。
 いやでも、今回はホントに・・・面積広いし。絶対途中で起きるって。いくらトロットロに蕩けた直後とはいえ、仮にも戦闘職種である。
 そんな・・・。
 汚れた部分を舌で舐め回して綺麗にしたい、なんて。
 全身を舐めて、ココもアソコも全部舌で味わいたい、なんて。
 言った日には、絶対に殺されると思う。
 殺されるに違いない。
 いつもは、今回ほど汚れる事はないのだ・・・というか、今回が一番派手だった。故に、いつもは彼女が意識を飛ばしている間に『軽く』舐めて綺麗にしてから。あくまで『軽く』そうしてから、姫抱きで風呂に連れ込み、そして大抵、湯にいる内に彼女が目を覚まして、通常運転に戻る、という具合なのだが。
 今回は、流石に・・・派手にやり過ぎたか。
 素直に目覚めるのを待つか、このまま、湯の張ってある筈の内湯に連れ込むのが一番だとは、思うのだが。

「『黙って寝てりゃ可愛いのに』って言い回しがあるが・・・。
 俺とお前の場合、黙って眠ってられるのが一番、悩ませられるんだよな。」

 このまま睡眠姦に持ち込まないのは、恋人への思いやりであって、断じて自分がヘタレという訳ではない。
 取り敢えず、寝よう。
 鶴姫に自分の上着を着せ掛けると、小十郎は彼女の横に身を横たえ、抱き締めて瞳を閉ざした。



 夕方。

「兄様♪ お待たせしてしまいましたか、兄様っ♪」

「別に待ってはおらぬが・・・上機嫌だな、明。」

「ふふふっ♪」

 朝の小十郎と同じような事を元就にも言われて、鶴姫は吹き出してしまった。当の小十郎は彼女の隣で苦笑している。
 時刻は午後6時ほどか。
鶴姫と小十郎は、最初に約束していた通りの場所で、無事に元就・三成・幸村と合流する事が出来た。
 今日の彼らの予定は、前者2人は1日中デート。後者3人は1日中借金の取り立て、と決められていたのだ。落差が激しいとか、そういうツッコミはナシの方向で。
 そして午後6時ちょうどに、所定の場所に集合。それも予定通りである。元就が鶴姫に、何かやらせたい事があるらしかったのだが・・・。
 心地よい潮風の吹く、宵闇迫る港湾で。
 合流した幸村と三成の、そのグロッキーな様子に鶴姫は目を丸くした。2人共死んだ魚のような眼をして、虚ろな笑みで膝を抱え、2人並んで海を眺めている。

「兄様・・・ええと、・・・何と申し上げるべきか・・・。
 発案者としては、妙に罪悪感の刺激される光景なのですが・・・。」

「我が賢妹よ、それは我が導き損ねたのではとか、そういう疑義か? ん?」

「言ってませんっ、そんな事、考えてもおりませんてばっ。
 まったく、片倉さんといい兄様といい、どうしてこう拡大解釈したがりますのか・・・。」

「片倉、な。では賢妹よ、我もまたそなたに疑義を呈そう。」

「ですから、疑義など差し挟んではおりませんっ。」

「ええい、そのような事どちらでも良いわっ!
 それより賢妹! そなた、何故に朝と夜とで服装が違うのか申してみよっ!」

「察してるクセにっ! そういう事大声で言わそうとしますか普通っ!
 兄様のセクハラ魔人っ! 片倉さんっ、兄様が言葉責めに目覚めちゃった~っ!」

「何が言葉責めかっ、そなたこそ婚約者の前でそういう言葉を使うでないっ、愚妹がっ!」

 なんだこのエロ兄妹。
 鶴姫のウソ泣きを胸元であやしながら、小十郎は既にして悟りの境地に達していた。このノリに付いて行けずして鶴姫をモノには出来ないし、元就を義兄には持てない。

(まぁ、この人は究極のツンデレだからな・・・。)

 元就なりの褒め言葉だろう、似合い過ぎる程似合っている、彼女の服装への。
 朝方、彼女はいつもの巫女服を着ていた・・・アレも大概、改造済みのデザインだが。
 そして今の鶴姫は全く趣向の違う、所謂『大陸風お嬢様』な衣装である。
 7月初旬、という時節に合わせているのだろう。薄く、明るめの翠を基調にした色調が、活動的な彼女の雰囲気によく似合っている。裾も袖も長く、指先や足首が隠れる程だが、それもまた『自分では何もする必要が無いお嬢様』感を醸し出していた。
 何というか・・・用事は全て使用人がやってくれそうな。
 生地は絹、の一種だろうか。木綿でない事は確かだし、あまり見かけない生地ではあるが、光の弾き方や織り込まれた複雑な紋様、丁寧な縫製などを見れば、上物の生地で、ちゃんとした場所で作られた服だという事が判る。
 そういう『本物』を着ても『普段着』と思わせてしまう辺り、やはり彼女は『安芸の名門・毛利家の姫君』なのだ。
 帯飾りは印象的な深みのある、赤翡翠。
 内に焔を閉じ込めたような見事な色ムラを持ち、異国の神獣が上品、かつ精緻に彫り込まれていた。その彫刻技術1つ見ても、一級品と判る。

「冗談はさておき・・・ちゃんと見て下さい、兄様。
 綺麗でしょう?」

 兄の前で、クルリと一回転してみせる鶴姫。
 強めの潮風に煽られて、裾も袖も大きく風をはらむ。乱れ髪を押さえながら元就に見せた笑顔は、夕陽に照らされて輝いていた。

「たまたま入ったお宿で、イベントやってたんです。七夕が近いからって事で、中華風衣裳のレンタル♪ ただのお仕着せじゃないんですよ? 裳から帯から飾り物から、全部自分たちで選んで良いんですから。
 そうは言っても、異国の服の色合わせなど判らないから、殆どの人は常駐してる専門家に選んでもらってたんですけど。
 私のは片倉さんに選んでもらったんです。
 凄いんですよ、片倉さん。専門家の方にも『お目が高い』って、褒められたんですから。」

「・・・『たまたま入った宿』で我が賢妹に下賤な服など与えておったら、我が八つ裂きにしてくれるわ。」

「ふふふ。怖いなぁ、兄様は♪」

 たまたま入った宿=色宿、という事実は、お互い解っていても突っ込まないのがルールというものである。あと、元々着ていた巫女服は、その宿で絶賛洗濯中だという事も。レンタル期間は3日間、元の服の引き取りと同時にレンタル服を返却する、という約定なのだ。
 ちなみに小十郎は、南蛮語は苦手だが、南蛮貿易の現場にはよく立ち会っていた。貿易品の品質チェックなどしていると、上物と下物の違いが判るようになってくるのだ。言葉など出来なくとも、どんな国のモノでも。本当に上質なら外国人にも分かるものだ。
 その経験が意外な所で生きた。

「その髪飾りは? 明。」

 既にして感心した声音の元就に、小十郎の右腕に、ギュッと両腕を絡めて懐いていた鶴姫の表情の輝きが増す。
 この髪飾りを一番大切にしているのだと、すぐに判る笑顔だった。

「かなり古い時代のアンティークか。良い細工よな。」

「あのね、兄様っ♪ この髪飾り、片倉さんに頂いたんです。
 ご先祖に収集家がいらして、そのコレクションのひとつなんですって。蔵を整理してたら出て来たから、私に似合うから下さるって。
 このお衣裳を翠でまとめたのも、髪飾りに合わせたんですよ?♪」

「ほぅ? 大した目利きだったのだな、その先祖とやらは。」

 元就の感心は本物だろう。誰が見ても別格と判る品物だった。
 鶴姫のショートの栗髪、その左の一房を耳の上辺りでまとめているのは、翠色の石を使った紐飾りである。
 石はペリドット・・・日の本の言葉で『橄欖石(かんらんせき)』と呼ばれる石だ。透明感のある優しい黄緑が特徴の宝石だが、緑の翡翠が珍重される日の本では、あまり宝飾品としては出回っていない。海の向こうで作られたのだろうか。
 5cm程の楕円の石を中心に据え、その周りを1cm前後の円形のペリドットが踊るように流麗なラインを描いて配置されている。台座は白に近い銀色だが、アンティークの割に曇りはない。恐らく、プラチナだ。
 髪に飾る際には、付属の黒紐で縛る形式である。彼女は戦闘職種、それに日の本中を動き回る立場でもある。簡単に落ちて困らせたり、集中の邪魔になったりしないように、と。
 小十郎の事だ、きっとそこまで考えているのだろう。

「兄様、難しいお顔。どうかなさったの?」

「・・・いや・・・立場的には義弟となる男が、あまり完璧でも面白くないものだと。」

「もう、兄様ったら♪
 全力で聞かなかった事にしますね♪」

「・・・・・。」

「拗ねるのは秀吉さんの前にして下さい、兄様。」

「・・・本っっ気で思うぞ、そなたの許には7家中の情報が集まるのではないか?」

「またまた、兄様ったら♪」

 普通に考えれば、ココは元親辺りの名を出す所だろう。
 だが彼は今、家康の治めるべき関東地方への出兵準備で忙しい。家康と戦うのではない、家康の敵と戦うのだ。この辺りの構図は、慶次など目にする度に嬉しくて顔がニヤケてしまう所なのだが・・・少し前まで考えられなかった構図故に。ただ、この情報は急に決まった事だけに、元就たち他の主要メンバーにもギリギリまで知らされていなかった。
 それ自体は別に問題ではない・・・問題になどならない程度の信頼関係は、既に構築されている。
 だが、当主でもない、正式には側近ですらない女の鶴姫が知っているのは、『耳が早い』というレベルの話ではない。彼女が元就に与えられたモノではない、独自の情報網を持っている、という事実を示しているのだ。
 そして、ソレを立派に使いこなしている、という事実も。
 秀吉は鶴姫をとんでもなく可愛がっていて、会う度にお菓子をくれる。丸っきり子供扱いだが、鶴姫が喜んでいるのだから良いのだろう。
 7家一の隠れた最重要人物は、そんな事はおくびにも出さずにニコニコと笑っている。

「今から質屋に伺うのでしょう?
 店仕舞いの前に参りましょう、兄様。質草は何処にありますの?」

「そのつもりだったのだがな、賢妹よ。
 親分連中、ドイツもコイツも、ロクな宝を持ち合わせておらなんだわ。現金など言うに及ばず。仕方がないから貸しの大盤振る舞いをして帰ってきた。
 そなたに鑑定させる筈だった古物も手に入らず仕舞いよ。」

「あら、残念です。甚兵衛の親分、今回も晴芳画伯の真筆を兄様の口八丁から守り抜いたのですね。紅嘉の親分も、家宝の焼き物を手放さなかったようで。
 2つとも、売り飛ば・・・もとい、手に入れるのを楽しみにしておりましたのに。」

「そなた今、質屋が喜びそうな事を口にせなんだか?
 まぁ良い。馴染みの質屋に顔繋ぎするは、またの機会とせよ。今宵は預かり人もおる事だし、このまま帰参致すぞ。」

「はい、兄様♪」

「・・・・・・。」

 小十郎は気にしない。
 愛しの彼女とその兄の会話が、120%程度の『悪徳感』漂う高利貸しだったとしても。その程度のパーセンテージ、一体何だと言うのか。
 『竜の右目』たる者、その程度は全然全く気にしない。
 むしろ彼女の、詭計智将に頼られる程に磨き上げたアンティークの鑑定眼を、誇りに思う・・・思う事にする。

「幸村さん、三成さん♪
 しっかりして下さい。帰りますよ~?」

「うっ、うう・・・それがし、今し方、すンごいモノを見てしまったような・・・。
 ややっ、鶴姫殿っ! これはまた一段とお美しい、」

「君ノ新タナ魅力ガ引キ出サレテイテ、トテモ素敵ダネッ。」

「三成さんっ、キャラも喋り方も両方おかしくなってるっ!!
 ナニ見せたの、兄様ぁっ!」

「放っておけ、明。一晩寝れば直るであろ。」

「あの、明日朝イチで秀吉さん来るんですけど。
 直んなかったら兄様が秀吉さんに言い訳して下さいね?」

「兄を売るか、愚妹っ! 元はと言えばそなたの提案が全ての元凶ではないかっ!
 そなたの口から在りのままを申すが良い。なに、秀吉は大阪城でそなたに『お帰りなさいませ』と出迎えられて相好を崩すような男ぞ。溺愛するそなたが一言謝れば、側近の人格が軽く崩壊したくらい、笑って許すであろう。」

「アレはっ、だって、ああ言う以外の台詞が浮かばなかったんですものっ。
 毛利家の城じゃないのに『いらっしゃいませ』はおかしいし、客人の分際で出迎えないのもおかしいし、かと言って黙ってるのもおかしいしっ。
 豊臣の臣下じゃないとはいえ、一部隊お預かりした事もあるんです。半分身内なんだから、三つ指くらい付いたっていーじゃないですか、別にっ。
 ていうか兄様ですからっ。秀吉さんにとって大事なのは兄様ですからっ。
 私はただのオマケです。」

「いや、それは違うぞ、賢妹よ。
 秀吉が真に頼りにしておるのは、そなたである。誇って良いぞ、賢妹。豊臣一門を率いる男に認められたのだからな。故に三成の件、言い訳するはそなたがせいっ。」

「兄様っ。」

「明っ。」

 なんかもう、2人で三つ指ついてあの大男の前に正座すればいいんじゃなかろうか。
 カオスな様相に、小十郎は苦笑交じりに幸せな溜め息を吐いた。
 魂の抜けた灰色の三成を突っつきながら、思う。自分たちはこの先も、この調子で、このままのノリで理想を追い求めていくのだろうと。
 普通の日常を過ごしながら、たまにバカやって、魂が抜けたり色宿に恋人を連れ込んだり当主同士、酒と果実で猥談に花を咲かせたりしながら・・・元就は下戸だし綺麗な顔と潔癖な性格が災いして誤解されがちだが、結構、キワどい下ネタにも付き合ってくれる。自分から進んで爆弾を投下して、義弘や政宗が酒を吹くような場面も結構あるのだ。そりゃもう、女性陣には聞かせられないようなアレな話を色々と・・・まぁ、ソレはともかく。

「鶴。」

「片倉さん♪」

 変わりたくないと思っていた。
 知らぬ内に変わっていた先で、今もまだ・・・今、また、変わりたくないと思っている。
 彼女を・・・西の女を愛している・・・愛せた自分を大切にしたい。
 彼女の生きる、日の本を。
 小十郎は婚約者と未来の義兄の、他愛のない口喧嘩を仲裁すべく、ゆっくりと口を開いた。



                         ―終幕―

戦国BASARA 7家合議ver. ~イケない社会科見学~

はい、あとがき。


・・・なんというか、書き出しと書き終わりが大分違うような・・・ww
一番大事な、三成さんと幸村さんの社会科見学シーンが抜けてるっ!

ナリ兄様っ! 一体何を見せたのっ?!


その代わりのように、小十郎さんと鶴姫さんのエロシーンが増量・・・。

あぁ、うん。まぁね、別に、こっちはこっちで、鶴姫さんのイケない社会科見学、みたいな?
色々と、カラダで経験しましょうね、っていう。


次作以降の三成さんと幸村さんの、活躍の布石になればイイと思うよ、うん。


あ、「色宿」っていうのは、今で言う「ラブホテル」です。
知ってる人は多いでしょうけど、念の為、注釈。

小十郎さんは入り慣れてそうだ・・・すごく慣れてそうだ・・・。
任侠で硬派だからって、女を知らないって事にはならんのですよ。
むしろ、だからこそ、女性の扱いもお手の物であるべき、なのです。
童貞のチェリーボーイで、抗争は生き抜けません。

ちなみに。
作者の中で、伊達家は任侠、長曾我部家は海賊、そして毛利家はインテリヤクザです。
つまり鶴姫さんは、インテリヤクザのお嬢様、って事ですね。

『インテリヤクザのお嬢様』・・・ギャンブルとか強そうな響きだ。

そして『戦国の梟雄』松永久秀氏は、悪の美学を持つ孤高の極悪人。
ニヤリ。


それでは、また次作で。

戦国BASARA 7家合議ver. ~イケない社会科見学~

方や、気性の真っ直ぐで熱血な真田幸村さん。方や、苛烈なまでの忠節に生き、義に篤い石田三成さん。そんな2人を誇らしく思いつつ、案じているのは、師である甲斐の虎・武田信玄公と天才軍師・竹中半兵衛さん。2人の師匠は愛する弟子の為を想うあまり、安芸の智将・毛利元就に相談事を持ちかけます。その相談事とは・・・? 小十郎さんと鶴姫さんの『社会科見学』もアリます。

  • 小説
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  • ファンタジー
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  • 時代・歴史
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2014-07-05

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