隣の佐藤

『自分たちは何次元に生きているのか』

もちろん、答えはすぐに出る。
考えられる答えは二つ。

三次元に決まっていると踏ん反り返ってドヤ顔を見せる凡人と

二次元に決まっていると誇らしげに宣言する凡人だ。

僕はその両方が間違いであるときづいた凡人。

僕の理論を聞いて欲しい。

「やだ」

そう言われて僕が授業中必死で考えた次元論は喋る機会を奪われてしまった。

「美好はいっつもそうやって僕の話聞いてくれないよねー」

僕が拗ねた様子でそう言うと

「だってあんたの話面白くないんだもん」

そんなことを言われてしまった。

美好は僕の幼馴染だ。フルネームは筑波美好。
ただし、僕は彼女が好きなわけでもなければ
変な魅力を感じたことすらない。
幼馴染と聞けばすぐに相応に可愛い虹キャラを想像しただろう。
全くもって美好はブスである。
少なくとも僕のタイプからはかけ離れている。

そんなことを考えていたのが顔に出てしまったのだろうか
美好は少しムスっとした様子でこちらを見ながら
「ほら、帰るよ!」
そう言って外へ出て行った。
僕は教室の後ろに置いておいたカバンをとって
先に階段を下りて行った美好を追いかける
下の方から美好の足音がする。
最後の一段は飛び降りる主義の美好が飛びおりる音が誰もいない放課後の校舎に響いている。
それを追って僕も急いで一階まで降りるともう美好は原付に乗っていた。
僕も慌てて後ろに乗った。
「行くよー」
そう言うと美好の原付はエンジン音と共に走り出す。

美好の後ろで僕は反省していた。
今日の話を美好にできなかったのはまずかった。
そう。僕が授業中必死で拵えた次元論だ。

あの話には深い意味がある。
僕の読みでは、おそらく美好は四次元人だ。
四次元人は三次元で暮らす我々人間の考え方次第で存在を観測されてしまう。

四次元人は我々人間の寿命をエネルギーとして吸い取って暮らしいるから、三次元人に気づかれるわけにはいかない。

そこで、観測に至る突飛な考えを持つ三次元人に接触し思考に干渉してそんなことあり得ないと思わせるのだ。

おそらく僕が次元論を語れば美好は僕の思考に干渉しようとするはずだ。

僕はそのデータが欲しいのだ。

僕はその記憶干渉術のデータを採取し、
全次元中で唯一形を持って行動できる三次元人を扱う方法を知りたい。

美好は完全に僕の事を三次元人だと思い込んでいる。

家まではまだだいぶ離れているから
今から切り出しても遅くはない

よし

話そう

「なぁ美好」

「…」

返事は返ってこない

ヘルメットのせいで聞こえないのだろう
僕はさっきよりも随分大きな声で言った

「美好ー!」

流石に聞こえただろう

そう思ったのは僕だけだったようで
相変わらず美好からは返事が来ない

この機会を逃す訳にはいかない
こんなブスとそう長く一緒にはいられない
僕はありったけの声を振り絞って叫んだ

「みぃいよぉおおおしぃいいちゃぁあああん」

自分でも驚くほどの声が出た

しかし

「…」

美好からは返答が無い
機嫌でも悪いのか?
いや、そんなはずは無い。

僕はこれまで何も悪いことはしてないし
感情を読まれるにしたって四次元人が五次元人たる僕の感情を読めるわけが無い

ならどうしたんだ。

今僕の中に一つ
できれば信じたく無い仮説が立った。

だがこれは僕への終了通告ですらある。

そう思った矢先

体が浮いた。

やっぱりだ。

仮説通り。

美好は四次元人に化けた六次元人以上の存在。

僕の五次元人としての危険思想を排除しに来たのだろう。

今は目の前にはよくわからない紋章がある。

おそらく六次元人の技術の賜物だ。

触れたら死ぬ。

すべてを理解した瞬間。

僕は消えた。

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彼が消え、

とっさに原付から飛び降りた私は当然膝にかすり傷を負った

空回りする車輪を見て達成感に包まれ
痛みなど忘れて喜んだ

彼は私を六次元人とでも思っただろうか

私はただの三次元人。

次元論に気づいたのは私。

刺客は彼。

五次元人には勝てた。

次は彼の危険思想を本当に潰しに来ていた六次元人。

隣の佐藤だ。

隣の佐藤

隣の佐藤

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-07-01

CC BY
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