再会屋

再会屋

会いたい人をお探しします。

それが当社、再会屋のキャッチコピーだ。
再会屋と言う名の探偵もどきの様な商売が俺の仕事だ。

突然音信不通になり居所が分からなくなる人達がこの世の中にはいる。
それが故意であるか他意であるかは別として、いつの間にかその場所から姿を消す人達がこの世の中にはいる。周りの人々は驚き、悲しみ、心配する。親や恋人なら特に。

そんな人達の力に少しでもなれれば…と言う使命感から俺はこの仕事をしている。
…と言うのは当然建前だ。

依頼料は一件につき前金5万円。調査が長引けば追加料金がもちろん発生する。
なんてボロい商売だ。調査とは名ばかりで、住民票や戸籍謄本を調べれば普通の行方不明者は大抵居所が分かる。危ない事件に巻き込まれていない限りは…
ヤバそうな案件には手を出さない。面倒くさいし、割に合わない。それが俺のポリシーだ。依頼はまぁ、ぼちぼちある。ぼちぼち位が俺には丁度いい。

今俺の目の前には8歳位の少女が座っている。少ないお金を握りしめながら。
「お願いします!死んだおばあちゃんにもう一度会わせて下さい!お金なら持ってます!」
どう見ても三千円だぞ?少ない小遣いを貯めてやって来たのか…ダメだぞ同情を買おうなんて十年早い!いや二十年か…
うちは前金5万円なんだよ、お嬢ちゃん。しかも死んだ人間に会える訳が無いだろう!そう怒鳴り散らしたくなる気持ちを俺は大人な対応で返した。
「君、歳はいくつかな?」
「9歳です。私の家はお母さんとおばあちゃんと私の三人家族で、お母さんが仕事に行っている間はおばあちゃんが私の面倒を見てくれていて…」
少女は聞きもしない事をペラペラ話し出す。女とは何故こんなにもお喋りなのか?
しかもまだ子供なのに…自分の娘ならきっと辟易するだろう。
まあ女がおしゃべりな生き物のお陰で解決した案件も多々ある訳で、有難いと言えば有難い。

少女が話すには、母子家庭の母と娘を祖母が支えていたが、その祖母が病気で入院。少女はまさか死ぬような大病だとは夢にも思わず、見舞いも看病も満足に出来ないままに、あっと言う間に祖母は死んでしまったらしい。本当に、あっと言う間に…

話し終えた少女はシクシクと泣いていた。握りしめた三千円もぐしゃぐしゃだ。
どうする俺?適当に良く似た偽物を連れて来て感動の再会を果たさせるか?はたまた霊媒師に頼んで幽霊を呼び寄せるか…俺は溜息を零した。

「…死んだ人間には会えない。二度と」
「死んだ人間はダメって書いてなかったもん!」
女は何故こうも屁理屈が多いのか?

「婆さんに会ってどうしたいんだ?」
「謝りたい…大切にできなかった事…謝りたい…」
少女はまたシクシク泣き始めた。女は何故こうも泣き虫なのか?

「謝っても婆さんの気持ちは救われないぞ。救われないまま、成仏出来ないぞ」
成仏、の言葉が理解出来たか不明だが、少女は今度はわんわん泣き始めた。

「婆さんが望んでる事はただ一つだ。母親を大切にしろ。死んだ人間の為に金を使うな。生きている人間の為に金を使え。そして大切にしてやれ。母親が婆さんになって死ぬまでだ」

ますます泣き声が響き渡り、俺は児童虐待で近所から通報されないかヒヤヒヤしたが、泣き疲れた少女は、疲れたから帰る…そう言って帰ろうとした。三千円を握りしめながら。おい、三千円置いて行け。説教料だ。そう言いかけて俺は止めた。

「母親に花でも買って帰ってやれ。何か元気が出そうな色の花がいいな。婆さんもきっと喜ぶだろうさ」

そう言った俺に少女は無邪気な顔をして笑った。
「再会屋さんてロマンチストなんだね」うるさい…とっとと帰れ。

会いたい人をお探しします。のキャッチコピーに、死者は不可。を付け足さなくてはいけないな、と俺は一人苦笑いした。

再会屋

再会屋

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-30

Copyrighted
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