これからもずっと

『これからもずっと』

 啓子は日曜日になるのが待ち遠しかった。特に昨日の晩は一週間の中で一番長く感じた。明日、彼氏の辰哉が遊びに来ると思うと、なかなか寝付けなかったからだ。
 長い夜が明けると、啓子は念入りにメイクをし、辰哉が来るのを待った。そして、時計の針が十一時になろうかというときに、部屋中にインターホンの音が鳴り響いた。啓子はいそいそと立ち上がると、玄関の扉を開けた。
 すると、そこにいたのは、いつもの辰哉だったけど、ひとつだけ、いつもと違っていた。いつもは、黒い鞄しか持っていないのに、今日はスーパーの袋も持っていた。
「なあに?それ」
「今日の昼飯は、オレが作ってやるよ」
「えっ、でも…」
「いいからいいから。オレに任せとけって」
 辰哉はそう言うと、家の中に入っていった。
 いつもなら、来るなり、テレビや雑誌を見ているのだ。それに、今までただの一度でさえ、彼がキッチンに立ったところなど見たことがなかった。指を切ったりしないだろうか、と心配していたが、意外にも慣れた手つきで、玉ねぎを刻んでいた。
「これでも、日ごろから料理してるんだぜ」
 辰哉はみじん切りにした玉ねぎをボールに入れながら言った。
「だから、啓子はテレビでも見てろよ」
「そうね。何ができるかは、後のお楽しみね」
 啓子はボールに入った玉ねぎや挽き肉、その他の材料を見ながら言った。
 それから、一時間くらいが経ったときだった。辰哉は大皿に盛られた料理を持ってきた。
「できたぜ。啓子の大好きなミートスパ」
「わぁ、すっごい美味しそう」
 啓子がそう言うと、彼は鼻を擦りながら、照れ臭そうに笑い、またキッチンの奥に消え、小皿やフォークを持ってきた。
 二人は両手を合わせると、早速ミートソーススパゲティを小皿に盛って食べた。
「…美味しい」
 本当に美味しかったから、啓子はそう言うだけで精一杯だった。今までにもいくつかの店で食べたことはあったが、そのどれよりも美味しく感じられた。
 それから、他愛もない話をしながら、昼食を食べ終えた後、啓子は口元をハンカチで拭いながら聞いた。
「ありがと。とてもおいしかったよ。でも、どういう風の吹き回し?」
 だけど、辰哉は何も言わずに、黒い鞄を手元にまで手繰り寄せると、白い小箱を取り出し、啓子の前に差し出した。
「開けてみろよ」
「うん」
 啓子ははやる気持ちを抑えながら、それを開けると、中には指輪が入っていた。
 それは、この間のデートのときにさりげなく、これかわいいね、と言ったものだった。てっきり、気にも留められてないと思っていたのに、ちゃんと覚えていてくれて嬉しく思えた。
「…ありがとう」
 啓子は笑顔で言った。
「はめてやるよ」
 辰哉は優しい声で言った。
 啓子は小さな声で、うん、と頷くと、彼に指輪を手渡し、左手も差し出した。辰哉は、薬指に指輪をはめると、照れ臭そうに言った。
「啓子、誕生日おめでとう。それから、これからもよろしくな」
「うん、私のほうこそよろしくね」
 啓子は涙ぐみながら言った。
今年の誕生日は今までの誕生日の中で一番素敵な日だった。きっと、これからもずっと彼とうまくやっていける。
 啓子は辰哉を見つめながら、そう思った。

これからもずっと

これからもずっと

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted