
君影草と魔法の365日-第12話
お嬢様と執事
「お嬢、魔法語学はこれ以上サボるとマズイですよ」
そう話す彼は、魔法学校の制服であるブレザーをピッと着こなす中々のイケメン。
スッと真っ直ぐな姿勢とウサギの様な耳がより背を高く見せます。
「うるさいヨ。どーせ魔法語学なんて将来の役に立たないンだから赤点取らなきゃいーのサ」
応える彼女は、同じデザインのジャケットと加工して短くしたスカートを着崩し、脚を組んで漫画を読む姿がイマドキの女子高生。
赤い髪に伸びる山羊の角、背中から蝙蝠の羽、顔立ちは可愛いのですが目付きの悪さで物凄くガラ悪いです。
彼らはここ“箱庭魔法学校”の2つ星。
いわゆる2年生。
年度末の進級試験をパスした通常進級のパターンです。
「もっと真面目に勉強して頂かないと、落第にならなくても…」
そう言いながら彼女の隣に腰を落とすと、手帳をパラパラめくりながら続けます。
「今の成績がお母様の耳に入れば、間違いなくお屋敷に連れ戻されますよ」
「そン時は、そン時だヨ。それにオレがヤバい時はオマエが助けてくれるんダロ? イ・ナ・バ」
「確かに約束しましたが、どういう解釈をしてるんですか」
イナバと呼ばれた彼は代々執事の家系。
同い年である彼女“ルナ・グレイテル・ガラッパ”の専属で、共に学びながら補佐する役目を担っていました。
言葉使い、身だしなみ、学生の本分である勉強。
言いたい事はたくさんあるのですが、しかしソコは既に諦めている様子。
すっかり彼女のペース。
現に取得するべき単位の授業をほったらかして、用具室で暇を潰しています。
「グダグダうるさいと月見団子で窒息させるヨ?」
ガラッパはイライラしていました。
最近、異例の早さで飛び級を果たした二人の後輩。
授業を彼女らと受ける機会が増えてから、気に入らない事がたくさんのあったのです。
「彼女とかつくる気無いのか?」
それはたまに投げかけるいつもの質問。
すると、彼は必ずこう返しました。
「曖昧な関係に興味が無い事をご存知ですよね」
彼曰く、女性と関わる必要性を感じないそうです。
しかもガラッパの専任執事として、やらなければいけない事がたくさんあります。
女の子と戯れる時間なんかありません。
いつもの答に満足したガラッパはつい余計な事を訊きました。
「なぁイナバ。オマエもしかして鈴音の事が気になってんのか?」
「はい」
何故分かったんですか…と口にする前に、イナバはガラッパが吹いたコーラのシャワーを浴びました。
オレ専用
数日前。
友達に囲まれるイナバとガラッパの姿がありました。
「イナバ君、ここ分からないんだけど教えてくれる?」
「女子がイナバに話し掛けたら、またガラッパが怒り出すぞ」
「はぁ? なんでオレが」
「お嬢。本気で足踏むの止めて下さいよ」
文武両道、才色兼備な彼は、控え目で驕らない弄られキャラ。
歯に衣着せぬドライな彼女は、仲間のムードメーカー。
二人の周りには常に笑顔が溢れています。
ガラッパは学校という環境を気に入っていました。
彼女の家は都の名家。
礼儀作法や勉強漬けの毎日は、彼女にとって地獄そのものでした。
ウルサイ親元を離れて自由を満喫していたのです。
「そういえばアノ子達、もしかして飛び級してきた子じゃない?」
仲間の一人が指した二人。
「ほんとだ。チャームが1つプラチナ」
「すげー。初めて見た」
学生の階級を表すチャームは通常“金色”なのに対して、飛び級で増えたチャームは“銀色”でした。
これは飛び級をして階級が同じになっても、先輩に対する礼儀を忘れない様に定められたものです。
しかし、飛び級は一握りのエリートしか出来ないので、みんなチャームをプラチナ(白金)と呼んでいました。
「あ、こっち見た」
「おいでよー」
皆、ホムンクルスを成功させた優秀な後輩に興味津々です。
「初めまして」
「可愛いー♪」
「敬語とか要らないよ。同じ2つ星なんだから」
二人の名前は鈴音とランカ。
最初はかしこまっていましたが、直ぐに打ち解けて話せる様になりました。
そんな中、イナバはじっとすずを見つめています。
「前に会った事ありますか?」
その言葉に何かを思い出した様子の彼女。
「一目惚れかイナバ。ダッセーな。言い回しが古すぎるだろうw」
一人が茶化すとガラッパがイナバを一殴り。
何処から取り出したのか“オレ専用”とマジックで書かれた平べったい合成革のスリッパを持ってます。
「痛いじゃないですか!?」
「ソーか。痛いのか」
「いえ、騒ぐ程では…また無駄な買い物を」
「じゃ、次もコレ使うナ」
「勘弁して下さいよ」
頭をポリポリしながら苦笑いするイナバ。
みんなドッと笑います。
ただ、ガラッパは何かいつもと違うものを感じとり…。
そして、すずとランカは驚いたフリをして、全く別の事を考えていました。
いつものお茶会
すずとランカのホムンクルス、クリスとバーニィ。
とっても仲良しで、すず達を見ているみたいです。
魔法生物の親権は生み出した魔法使いにありました。
しかし、二人にはまだライセンスが無いので、親権を認められません。
この場合2匹は学校の所有物になります。
なんか差別の名残がありますね。
あ、でも校長先生の許可で学生寮に住めるんですよ。
2匹は学生寮の温室でお手伝いしながら暮らす事になりました。
芝生で戯れるクリス達を眺めながら、いつものお茶会が始まります。
今日の話題は学校で聞いた先輩の噂話。
二人の好奇心を大いに刺激しました。
なんでも、夜な夜な校舎に進入してイタズラをする小さな子供がいるのだとか。
水を撒かれてベチャベチャになっているのです。
当直の先生が気配を感知して調べても、そこには誰もいません。
「私達の学校を荒らすなんて許されないよ」
「深夜1時に学校前で落ち合うの」
いつもの調子で不思議事件の調査を約束しました。
やがて、二人の話題はイナバとガラッパの事に移ります。
「ねぇねぇ。やっぱりガラッパさんって…」
「そうなの。はっきり確認出来てないけど、禁書捜索の時にリリーが鍵を拝借した…」
それはリリーと出会った日の出来事。
どうしても調べたい魔法の為に、入ってはいけない所で、読んではいけない本を探しました。
その途中、盗んだ鍵を探しに来た先輩に魔法で攻撃したんです。
なんか文章にまとめると酷い話だな。
その事がバレそうになっていました。
「どうしよう」
イナバは気付きかけてる様子。
ただ謝るのは簡単なのですが、掘り下げた質問をされると問題があります。
「やっぱり、イタズラで星読みの塔に居たと説明するしか無いの」
せっかく仲良くなれましたが、悪いのはコチラ側。
リリーの事を隠す為にも、謝り倒すしかありません。
明日さっそく正直に。
気は重いですが素直に謝る事とします。
そんな話や雑談をしてお茶会は終わり、1度解散しました。
時は過ぎて午前0時半。
すずは学校の正門に佇んでいました。
ランカはまだ来てません。
少し早かったな。
そんな事を考えていると、急に背後から気配が。
「女の子が夜遅くに何をしているんですか?」
ビックリして振り向くと、そこには知っている顔がありました。
「イ、イナバさん!?」
深夜のロビー
集まったすずとランカ、そしてイナバはロビーへと足を進めます。
「ねぇねぇ。なんでイナバさんがいるのよ?」
「まぁ細かい事は良いじゃないですか」
彼曰く、真夜中に外を歩くすずを見かけて心配になったのだとか。
何をしているのか問われたすずは、学校の噂を確かめに来たと答えました。
納得した様子を見せたイナバですが、もしかしたら怪しまれているのかも知れませんね。
笑顔で後を付いてくる彼は、抜けている様で隙がありません。
「待って下さい。その先は進めませんよ」
急に待ったがかかったソコは、ガーゴイルの像が鎮座するロビーの階段前。
『あ』
すずとランカの声がハモります。
以前、知り合いになった動く石像のガーゴイル。
本当は生徒に秘密の存在なのですが、ある事件で友達になりました。
もしかしたらイタズラっ子の話を訊けるかもと期待したのですが。
イナバがいたら絶対に話してくれません。
しかし…。
「おぉ。お久しぶりでありますな」
気さくに話し掛けてくるガーゴイル。
「動いちゃうんですか」
二人の気持ちを代弁するイナバ。
なんでも彼は特例でガーゴイルの秘密を知っていたのだとか。
流石は名家の執事です。
「イタズラの件はホトホト困っているのであります」
ガーゴイルは頭を抱えていました。
学校はこのロビーの階段前を通らないと、各部屋に進めない造り。
だからこそ彼ら守護者はココに配されているのです。
でも、どんなに忠実に役目を果たしても、イタズラは毎夜続きました。
「本当に外から入っているのかしら」
ガーゴイルを信じるなら、その疑問は当然。
しかし、これ以上進めないのであれば、確かめようがありません。
早々に手詰まりを見せる調査。
そんな時、その怒鳴り声は聞こえました。
「そこに居るのは誰だ!!」
明らかに大人の、恐らく先生の声。
背筋が凍りつきましたが、声はかなり離れた場所から聞こえました。
恐らく見付かったのは自分達ではありません。
「今、先生方に見つかるのは不味いでありますよ」
ガーゴイルは外へと促します。
3人は足音を抑えながらも全速力で前庭に飛び出し、植え込みの向こう側へ走ります。
すずは傷付く事を承知で植え込みに飛び込むと、ソコには先客が身を潜めていました。
おでこ同士を激しくぶつけた二人は、痛みのやり場に困りながらも声を抑え込みます。
「ごめん」
すずは涙目になりながら謝ると、そのまま硬直しました。
すずがぶつかった相手は、全く面識の無い子供だったんです。
少年タロ
特徴的な横に長いくちばし。
丸い亀の甲羅。
明らかに怯えた様子の少年は、強張った表情で身構えると鋭い爪を伸ばします。
「お、おめぇら人間だな。オラに酷い事する気だべ」
これ以上近付こうものなら、いえ近付かなくても襲って来そうな勢いです。
しかし、すずは彼から注意を逸らすと後ろに向き直ります。
何故なら冷酷な魔法式の詠唱が聞こえたから。
イナバとランカが駆け寄って来ます。
「大丈夫なの。心配しないで」
それは二人と少年の両方に伝えた言葉。
ランカは察すると、両手でイナバの右手を握りました。
明らかに敵意をもって威嚇した少年でしたが、背中を見せて仲間を制止するすずの姿に思い直します。
「本当か? 酷い事しないだか?」
すずが向き直って頷くと、少年は伸ばした爪を少しずつ戻してくれました。
それを見届けたイナバも、完成させていた刃を解きます。
お互い冷静になれたところで、すずは自己紹介をしてみます。
「私の名前は鈴音。すずって呼んでくれていいよ。君は誰?」
「おらはタロ」
「こんな所で何をしていたの?」
「おら、1度でいーから学校さ行ってみたかっただ」
タロと名乗った少年はすずの腰程の背丈。
とても小さく幼い様に見えます。
足元は少し透け、水が滴っていました。
彼は目をキラキラさせて、少し紅潮し笑顔いっぱいで学校に対する憧れや夢を語り始めます。
沢山の言葉を覚えたり、数字のパズルを解いたり。
人間社会の仕組みを教わったり、世界の理を探究したり。
皆で運動したり、ご飯を食べたり。
友達と一緒に遊んだり。
ごく当たり前の生活に思えるそれらは、ささやかなのに叶わなかった夢でした。
「ずっとずっと学校に行きたかっただ。でもおら死んじまったからな」
衝撃でした。
3人とも少年が霊である事は気付き始めていましたが、あまりにもイメージと違うんです。
霊の実体化。
この世にやり残した想いが、それを具現化すべく実体となって現れる現象。
魔法生物でも確認された為、魂と霊は別の存在であると考えられています。
もしかしたら、幽霊とは死ぬ間際に残された想いの分身なのかもしれませんね。
霊といったら血の気が無く蒼白くて暗い感じを想像します。
でもタロは明るく元気で希望に満ちた、まるで生きている少年そのもの。
その彼が自分の死を理解し受け入れている現実。
すず達は涙をこらえました。
深夜の授業
「ここ、大切ですよー」
教壇に立つのはランカ。
すずとイナバ、そしてタロは生徒として授業を受けていました。
タロはとても楽しそうに黒板を写しています。
あの後、すずとランカは自分達が出来る事をやろうと決めたのです。
イナバも賛成してくれました。
当直の先生に事情を説明して、講堂の許可を取り付けてくれたのは彼です。
先生役を交代しつつ今は4時限目。
空が段々白み始めてきました。
「楽しいーなぁ。おらすず達が羨ましいべ」
ありのままを話すタロに心が痛い3人。
自分達がどれだけ恵まれているかを思い知らされます。
ランカは授業をしながら昔を思い出しました。
いつからだったろう。
学校がつまらなくなったのは。
すずに出会ってから何かが変わり始めたけど、未だに自分が分からない。
かつては自分だって学校に通うことを心待ちにしていたのに。
「ここに魔法式を当てはめると、まるで日常会話みたいになりますね」
「ほんとだべ。普通に話してるみてぇだな」
自分は何を無くしたんだろう。
タロはこんなにもイキイキとしてる。
分からないけど、もっとタロに色々な事を教えたいな。
ただ知識を詰め込むんじゃなく、この世が不思議で満ち溢れている事を知ってほしい。
自分で考えて体験してほしい。
幼いタロにはまだ可能性が…。
そこまで気持ちを整理して、タロが霊である事を思い出します。
「魔法語は難しそうですが、本当は簡単に気持ちを伝える為の方法なんです」
「おらも早く使ってみたいだ」
いま出来る事。
タロが楽しみにしていた学校が、本当に素敵で素晴らしい所だと伝える事。
それが出来たらどんなに良いだろう。
勉強は誰かの為にするんじゃない。
自分が知らないと知る為。
それは知識欲とは違う探求心。
だから学ぶ事は楽しい。
「それならやってみましょう」
そうだ。
伝える事がこんなにも楽しい事だと知らなかった。
「いま習った魔法語で何かを話してみて下さい」
ランカの言葉にタロは少し考えます。
いま伝えたい言葉。
初めて使う魔法語。
【ありがとう】
タロの座っていた場所には水だけが滴っています。
3人の注目する中、タロは短い感謝の言葉を残して、音もなく消えてしまいました。
執事イナバ
「彼は戦時中に造られた魔法生物だと思います」
培養槽で育てられた大量の兵士。
湿地帯制圧の為に造られた道具。
朝方、二人を家まで送るイナバは歴史で習ったと教えてくれました。
「人間がそんな事を平気で出来るの?」
「平気では無かったと信じたいですね。事実、倫理の成熟から現在は禁止されています」
それが事実なら、タロは生きていても学校に通えなかった事になります。
「ねぇねぇ、タロ可愛かったね!」
そんな暗い話を打ち消す様に、ランカはいつもより大きな声を出しました。
タロは満足してくれた。
きっと成仏したんだ。
確かめようが無いけど、タロの無垢で純粋な笑顔と感謝の言葉が救いでした。
「そうですね。彼はやっと本来あるべき所へ還ったのでしょう。二人のお陰ですね」
「イナ君もね」
本当の意味で仲良くなれた3人。
亀谷商店に着いたランカは、タロに負けない笑顔で帰ってゆきました。
さぁ次はすずの住んでいる学生寮へ。
「そういえば鈴音さんに訊きたい事があるのですが」
「改まって何?」
色々有りすぎて油断してました。
「ゴーレム・コンクール準備期間の深夜、星読みの塔でお嬢に魔法をかけたのは鈴音さんですね?」
平静を装って汗が吹き出します。
なぜバレたのか。
魔法は使うと“魔法紋”が残ります。
それは魔力の波長みたいなもので、一人一人異なります。
魔法を使って悪いことは出来ないんですよね。
ただ、時間が過ぎると消滅しますし、使う魔法によっても変わります。
それをイナバは当ててしまったんです。
あの日の短い時間で感じ取ったソレと、すずが授業で行使したソレを比較して。
流石イナ君♪
なんて言える雰囲気ではありません。
すずは覚悟を決めると歩みを止め、イナバの目をしっかり見て答えました。
「確かに私なの。ごめんなさい」
すると彼は怒り出す素振りも見せず、何事も無かったかの様に歩き出しました。
「わかりました。お嬢には秘密にしておきます」
今日の事件を通して分かっていたんです。
きっと大切な何かを守る為だったのだと。
それなら不用意に詮索する必要もありません。
その後は気を遣わない様に雑談しながら送ってくれました。
優秀で鋭い観察眼を持つ執事のイナバ。
でも仲良さげに二人で歩く様を、遠目から主人に目撃されていた事は最後まで気付きませんでした。
ガラッパの焦り
コーラのシャワーを浴びたイナバ。
「そうか」
ガラッパは何事も無かったかの様に漫画を読んでいます。
周到な彼は新しいシャツを用意していましたが、流石に仕える主人を連れ回す訳にもいかず、一人で更衣室に向かいました。
残された彼女は気配が遠退くのを確認して溜め息。
ブツブツと呟きます。
「別にオレの物じゃないからナ」
歌唱や舞踏、絵画に彫刻など、芸術において類い希な才能を示したガラッパ。
しかし、両親も祖父母も一度だって誉めてはくれませんでした。
『そんなものばかりにうつつを抜かさず、もっと勉学に励みなさい』
語学、数学、社会、理科、魔法。
いわゆる五教科以外の結果には見向きもしてくれません。
幼いあの日。
母親に見せたウサギの絵がクシャクシャに丸められた光景は、未だ色濃い影を落とします。
心を閉ざし全てに反抗するかの様に、勉強もせずただただ絵を描き続ける日々が続きました。
最初はうるさかった両親ですが、弟や妹が勉学の才を発揮すると、すっかり諦めたのか放任する様になり、今に至るのです。
でも本当はそのままで良い訳ありません。
それが分かってる彼女は独学で箱庭魔法学校への入学を果たし、イナバが付き添う条件付きで屋敷を出たのです。
「アイツも健全な男子だった訳だ」
彼はいつでも味方でした。
あの丸められた絵を広げて、欲しいと言ってくれたその日から、彼になら本音が喋られました。
受験に合格出来たのも彼が教えてくれたから。
いま楽しい学校生活を送れるのも。
ガラッパはイナバが好きでしたが、それはLikeだと理解していました。
彼が誰かを好きになっても、それは自由だと思っています。
それでも彼は執事を辞めないから。
嫉妬めいた気持ちになるのは、玩具を取られた気持ちと同じ。
「アイツ遅いナ」
嫌な予感がして用具室を出ます。
甘えた考えなのは分かっていました。
そもそも大嫌いなルナの家に生まれなければ、今の生活はありえません。
でも、だからといって自分を殺さなきゃいけないのか?
自由であっちゃいけないのか?
漠然とした不安。
理由の無い焦り。
そんなガラッパの目に飛び込んだのは、楽しそうに話すイナバとすずの姿でした。
君影草と魔法の365日-第12話