棘

初めて出会った瞬間に柴田はもう玲美に恋をしていた。

45歳で独身。女性に関しては何の苦労もする事が無い容姿に恵まれている柴田は今まで数々の女性と付き合ってきた。同時に何人もの女性と付き合っていた事もある。不倫をしていた事もある。産みたいと泣き喚いた女性に子供を中絶させた事も。

そんな女性にだらしない柴田だが、25歳の玲美に出会い、一瞬で恋に落ちた。
玲美は今まで柴田が付き合ってきた女性の中で一番美しいという訳では無かったが、柴田は何故か強く玲美に心を惹かれた。どうしてこれほどまでに惹かれるのか柴田自身にも分からないでいた。
けれどこれが本当の愛だと感じた。見せかけや偽りの無い愛。見返りを求める事のない無償の愛だと柴田は確信していた。年貢の納め時かな、そんな事を思う程に。

二人の交際は順調に進み、交際が三ヶ月を過ぎる頃には柴田はもう結婚を意識していた。今までどんな女性と付き合っても一度たりとも考えた事が無かった結婚を。
玲美を強く求めた。離したくない、決して。

玲美は母子家庭で、柴田は玲美の母親に一度も会った事が無かったが、そんな事はどうでも良かった。結婚するまではプラトニックな関係でいたいと言う玲美の気持ちも尊重した。プラトニックな関係でも構わなかった。ただそばに居てくれるのなら、それこそが無償の愛ー

晴れて婚姻届を提出した夜に、玲美は柴田に嬉しそうに微笑んだ。

「あなたと家族になれる日をずっと夢見てた。形は違うけれど、これでやっと本当の家族になれたね、お父さん」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-06-09

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