ロボットロマンin ファンタジー外伝 ブラックドラゴン

どうも、カラクリ繰りです。初めての方は始めまして、既にご存知の方はお久しぶりです。
かな~り久しぶりのロボットロマン更新であります。
外伝ですが…。
暇つぶしにどうぞ。

 僕はドラゴンのドラン。ロウーナン大森海の近くにあるラグ山脈。そのラグ山脈で一番高い山の山頂付近にある洞窟郡にあるドラゴンの里に住んでいる。

 ブレスを吐けないドラゴンは、ただの空飛ぶトカゲだ。
 
 僕の最初の記憶は里の誰かにそう言われた事だ。
 僕はドラゴンだ。ただし真っ黒な色をしたドラゴンだった。
 ドラゴンは巨大な翼と屈強な鱗と強靭な爪、そして強力なブレスを持つ大空の勇者だと里のドラゴン達は言う。
 けど僕は何故かブレスを吐く事が出来ない。それは僕が黒い色をしたドラゴンだから、らしい。
 
 だから何時も苛められた。出来損ないのドラゴンと。なまじ他のドラゴンより強い鱗を持っているせいで、しょっちゅうブレスを吐かれ、痛い思いをしている。
 
 僕はこの里が大っ嫌いだ。
 本当なら直ぐにでも出て行きたいけど、僕には好きなドラゴンが居るのだ。
 リーヴァ、僕と同い年の幼馴染の紫紺色をしたドラゴン。
 リーヴァは、小さい頃は何時も一緒に居てくれた。別に特段優しかった訳じゃない。僕はリーヴァが作った轟竜団の一員にしてリーヴァの子分だった。こき使われたり危ない場所へ引っ張っていかれたりもしたけど、彼女は僕を出来損ないとか空飛ぶトカゲとか悪口を一切言わなかった。それよか誰かが僕にそういう事を言っている場面に遭遇すると子分を苛めるなと噛み付いた。
 まぁその後に、もっとちゃんとしないか!ドラン!と僕に噛み付いたのだが……。
 僕はうれしかった。
 僕の親なんて、僕の存在をまるで忘れたかのように後に生まれた弟を可愛り、実際洞窟(家)の中では居ないように扱われた。
 僕にちゃんと接してくれるドラゴンはリーヴァだけだった。リーヴァにしたら、手の掛かる子分だと呆れられていたのかも知れない。それでも僕はうれしかった。
 親は僕が50歳になり、狩りに出られる様になると一人前だと言ってすぐさま追い出した(ドラゴンは50歳で大人と認めらる。それまでは、だいたい親に面倒を見てもらう)。それは予想の範囲内だったから、準備していた洞窟に引っ越した。
 その頃になると、子供の作った轟竜団のメンバーが集まる事は少なくなった。皆それぞれに自分の獲物は自分で狩るようになったから当然だ。
 やんちゃだったリーヴァは大きくなるにつれて段々と落ち着いていき、それと共に綺麗になっていった。いつの間にかリーヴァは、里で一番の美竜になっていた。
 
 僕はリーヴァが大好きだ。
 僕はリーヴァと番(つがい)になりたい!
 
 いつの間にか僕はそう思っていた。
 もちろん僕みたいなブレスも吐けないブラックドラゴンをリーヴァが振り向いてくれるとは思えない。
 分不相応な願いだと僕も思う。
 だから何かしら自慢できる何かが必要だ。
 出来損ないであるブラックドラゴンである僕に出来る事で。
 そして僕は思いついた。
 そうだ。来年から参加できる、大空(おおぞら)の儀で優勝しようと。
 大空(おおぞら)の儀とは、里で行われる年に一度の祭りで、里に居る50歳から100歳の若い竜達が、幾つかルートの設定されたコースをいかに早く飛ぶかそれを競う競技だ。
 優勝者には名誉と、何か一つだけ願いを叶えてもらえる(もちろん、あからさまに変な願いは却下)。
 別に僕は優勝商品としてリーヴァと番になる事を要求するつもりは無い。それは自分でやる。
 当然この大空の儀で優勝するのは大変だ。
 優勝するにはスピード、飛行技術、そして他の竜を攻撃するブレス。その三つが必要になる。けど僕にはブレスが無い。
 でも僕は大空の儀で優勝する事を選んだ。
 
 僕は空を飛ぶのが大好きだからだ。
 空を飛んでいれば嫌な事は全部忘れる事が出来た。
 小さい頃は、周りが暗くなっているのにも気づかないで空を飛んで、帰らない僕を心配してリーヴァが探しに来てくれたな。その後叱られたけど。あんたは真っ黒なんだから夜は見つけづらいのよ!って。
 
 僕は、絶対に優勝する。そして……。

 僕はそう決めると翌日から特訓を開始した。

「お前に勝ち目があると思ってんのか?」
「ククク」
「本当っすよ。こいつ馬鹿なんじゃないっすかね?ジャヤさん」
 ある日、僕が大空の儀で優勝する為に早々に狩りを終わらせて大空の儀で使うルートで高速飛行の特訓をしていると、レッドドラゴンのジャヤとその取り巻き連中がニヤニヤと笑いながら邪魔をしに来た。
 ジャヤは小さい頃から僕を苛めていた奴らの筆頭だ。しかも、リーヴァの作った轟竜団とは別のグループのリーダーをしていた奴だ。
 よく僕にブレスを吐いて、痛がっている僕を笑っていた。そしていつもリーヴァにしてやられていたオス竜だ。
 僕はチラッとジャヤ達の方を見ると、相手にしてられないのでスピードを上げた。僕には彼に構っている暇は無いのだ。
「無視してんじゃねぇよ!黒の分際で!」
 火炎弾のブレスを吐き出してきた。

 ドラゴンのブレスには、基本的に2種類がある。口から延々と炎を噴出すタイプと炎を球形に整形して弾として吐き出すタイプの二種類だ。それにプラスして特殊な皮膚の色を持つドラゴンは炎以外に雷や、氷、毒霧を吐く事が出来る。
 ちなみにレッドドラゴンは、炎しか吐けないがその威力は他の色のドラゴンの追随を許さない威力になっている。
 向かって来る火炎弾を何とか避けると、僕はとっととジャヤの射程外まで全力で飛んだ。

 自慢じゃないが僕は里の誰よりも速く空を飛ぶ事が出来ると自負している。逃げ足なら誰にも負けない。
 ジャヤは他のドラゴンと比べると飛ぶのが下手なので、狭い渓谷を通り抜ける頃には、もう追ってこなかった。
 僕は絶対優勝するんだ。僕は体力が尽きるまで飛び続けた。
 
 僕は里の誰よりも速い。それは、特訓をしていく内に自信から確信に変わった。
 
 大空の儀の詳しいルールを説明しておこう。
 スタート地点はラグ山脈で一番高い山の山頂。そこからスタートして、幾つか有るチェックポイントを順番に回り、またスタート地点であるラグ山脈で一番高い山の山頂に戻ってくると言うシンプルなものだ。しかし途中で高度制限区域があったり、山あり森あり谷間ありの難関コースだ。
 それだけだったら、僕の勝利は確実だといって言い。けど僕にとって最大の壁になるルールがある。
 それは攻撃可。
 大空の儀に参加している別のドラゴンを攻撃する事が出来る。
 僕はブラックドラゴンだからブレスが吐けない。きっと儀式の途中で僕に抜かされそうになったら、全力でブレスを吐いてくるだろう。
 もちろん爪や牙で攻撃する事もできるけど、隙が大きく攻撃したのとは別のドラゴンにブレスで攻撃され一網打尽にされる可能性が高いので、僕は出来ない。
 つまり避ける事しか出来ない。
 
 取れる手段は一つだけ、避けて避けて避けまくる事だけ。
 それでも僕は勝つ自信がある。
 
 そして大空の儀の日が来た。
 山の頂上には里の長が立ち僕達を見下ろしている。
「それでは、皆のもの準備は良いか!」
「「「グルァアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」
 里の長が、声をかけるとスタート地点に集まっているドラゴンが雄叫びを上げた。僕もなけなし勇気を振り絞り、雄叫びを上げる。
 僕達は山の峰に沿って一列に並んで立っている、去年の大空の儀で成績が優秀だったドラゴンが山頂に近い位置からスタートできる。
 初参加の僕は、スタート地点で一番低い位置からのスタートだ。右隣には去年、成績が悪かったジャヤの取り巻き達がニヤニヤと笑っていた。
 けど左隣にはリーヴァが居た。「ドラン!勝つわよ!」と言って僕の背を叩いた。僕は一層気合が入り、「うん!」と答えた。
 ジャヤ自身は結構山頂に近い位置に陣取っている。けどそれはジャヤが速く強いからじゃない。
 僕は知っている。ジャヤは、取り巻き達に命令してほかのドラゴン達を邪魔していたのだ。
 僕も気をつけなきゃいけない。
 
 そんな事を考えていたらいつの間にか、長の長い話が終わっていた。
「構え!」
 里の長の声にあわせて、全員が身構える。
 スタートは大事なんだ。スタートと同時に山肌に沿う様に下降しならがら飛んで一気に加速する。ここで如何に加速するかがレースで優勝する為のポイントとも言って言い。ただ、僕は初出場だから他の参加者より低い位置からのスタートになるから不利なんだ。けどここで旨く加速すれば、ジャヤの取り巻き達を一気に引き離す事が出来る。
 僕は気合を入れて、長の'始め'の言葉を待った。
「飛べっ!」
 僕は、全力で地面を蹴って空へと飛び出す。
 
 勝つために!


 けど、僕が覚えているのはそこまでだった。


「ぼっ僕は……イタッ!」
 気がつくと僕は自分の洞窟に寝かされていた。全身に痛みが走り、傷を負っていることが分かった。
「ドラン!良かった!」
 何故かリーヴァが僕の洞窟に居た。
「おっ親分!」
「バカッ!もう親分って呼ぶなって言ってるだろ!」
 とっさに昔の呼び名である親分と呼んでしまい。お仕置きのテールアタックを喰らった。
「あうっ!」
「あ、ゴメン」
 病み上がりの僕にその攻撃は辛く、全身が痛んだ。
「あはは、大丈夫。慣れているから」
「私はそんなにしょっちゅうお前を尻尾で打って無いぞ!」
 途端にしゅんとしてしまったリーヴァ見て僕は慌ててに軽口を叩いた。お陰でリーヴァはいつもの調子を取り戻してくれた。
「ねぇ、何があったんだ?大空の儀は?」
「大空の儀は、終わったよ」

 大空の儀、リタイア。
 それが僕の初めて参加した大空の儀の結果だった。
 原因はやっぱりジャヤの取り巻き達だった。奴らは開始直後に飛び出すのではなく、全力のブレスを僕に放っていたのだ。僕はそのブレスを喰らいバランスを崩して岩がむき出しの斜面を一番下まで転がり落ちて行ったらしい。
 ジャヤの取り巻き達は、あまりに卑劣な行為と判定され、反則退場となったそうだ。にもかかわらずそれを指示したはずのジャヤはお咎め無しだった。ジャヤの取り巻き達が口を割らなかったからだ。
 
 けど、僕がリタイアした結果より、リーヴァがリタイアした事の方が僕にはショックだった。
 リーヴァは斜面を転がり落ちる僕を助ける為にリタイアしたのだ。それがどうしようもなく申し訳なく、そしてうれしかった。
「ありがとうリーヴァ」
「おう、感謝しろよ」
 僕がそう言うと、照れ隠しなのか昔みたいな男口調でそう言った。
「リーヴァちゃん居るー?」
 その時、洞窟の入り口から、女の声が響いた。
 この声は…。
「キーニャ!居るよ~」

 キーニャは、僕と同じ轟竜団のメンバーだったブルードラゴンのメスだ。そして彼女は副リーダーでリーヴァの親友だ。
 
 リーヴァが返事をすると、キーニャは僕に断りも無く洞窟へと入ってきた。
「あら、ドランの目が覚めたの?良かったじゃない。長に知らせて来たら?ドランの面倒は私が見ておくわ」
「ああ!そうだね!言って来る!ドランもおなか空いてるでしょ。何か貰ってくるよ!」
 リーヴァがノッシノッシと洞窟の入り口まで移動すると、翼を広げて飛び立った。
 キーニャは、リーヴァが僕の洞窟から離れるのを確認すると、にこやかだった表情を一変させた。
「あんたなんか、あのまま死んでれば良かったのよ。しかもリーヴァをリタイアさせるなんて最っ低!」
「文句は、ジャヤの取り巻き連中に言え。僕だって好きでリタイアしたんじゃない」
「そもそも、黒のあんたが大空の儀に出るのが間違いなのよ。来年は棄権しなさいよね。どうせ出てもビリでしょうからね」

 彼女は僕が大嫌いだ。どうやらブラックドラゴンである僕がリーヴァと仲良くするのが気に入らないらしい。でも彼女はリーヴァの前ではその事を欠片も見せない。
もちろん僕も彼女が嫌いだ。
 いつもリーヴァの居ない所で「あんた如きがリーヴァの近くに居ても良いと思ってんの」とか「あたしがブラックドラゴンだったら恥ずかしくて外も出られないわ。あんた一体どう言う神経してんの?」とか平気で言ってきた。
 僕も一度その言葉を真に受けて、引きこもった事があるが、その時はリーヴァが僕を外に引っ張り出した。僕がブラックドラゴンだから一緒に居ないほうが良いと言っても「誰に何を言われたか知らないが、お前は私の子分だ!親分である私のそばに居て何がおかしい!」と尻尾で打たれた。
 そのあんまりな言い方と仕打ちに僕は笑ってしまった。
 それから僕はまた、リーヴァの子分として一緒に遊ぶようになった。キーニャは表向き「リーヴァちゃんスゴーイ!やさしい!」と言っていたが、裏では忌々しそうに僕を睨み付ける様になった。
 以来僕は、彼女にはなるべく関わらない様にして来た。
 
「僕は、大空の儀に来年も出るよ」
「はん!あんたなんかが出ても今回みたいな無様を晒すだけよっ!それでも良いなら出なさいな。笑ってあげるから」
「そう」
 僕はそうつぶやくと目を閉じた。
 この後、キーニャがキーキーと色々文句を言っていたが一切無視した。
 僕はまず体を直そう。そして来年こそ、大空の儀で優勝するんだ。
 僕にはくよくよしている余裕は無い。
 

 傷が治った僕は、毎日の大樹の森へ通った。ジャヤ達は、臆病者の僕がジャヤ達を恐れて森に篭っているんだなんて噂をしていた。だが違う。僕は大樹の森で特訓していたんだ。
 大樹の森とは、ラグ山脈の麓にある森だ。森にある殆どの木がドラゴンの背丈より何倍も高いという、すごい森だ。森自体はラグ山脈の周りに沢山あるが、ここほど巨大な木が乱立している森は無い。大空の儀のコースにもなっている。
 もちろんコースとしては障害物が多く、すばやく飛ぶことが出来ないテクニカルなコースだ。大空の儀で大樹の森をルートに選ぶドラゴンは少ない。しかしながら逆に言えば少ないながらも居るのだ。なぜなら大樹の森のルートは別のルートより圧倒的にチェックポイントまでの距離が短いのだ。
 ダメ元の一発逆転ルートと言うのが他のドラゴン達のこのコースの評価だと言うのも頷けるだろう。
 
 だけど僕はここを飛ばなきゃならない。このコースじゃないと僕は勝てない。これは確信だった。僕は毎日ボロボロになりながらも大樹の森の中を飛んだ。一回リーヴァが僕が毎日苛められてぼこぼこにされてるんじゃないかって勘違いして誤解を解くのが大変だった。心配してくれたのはうれしかったけどね。

 そして僕にとって二度目の大空の儀がやって来た。
 今回僕のスタート地点は前回と同じ様にスタート地点は一番低い位置。しかし、前回の事もありジャヤの取り巻き連中とは反対側の峰に配置された。しかも今回も隣には、リーヴァが居た。
「今度こそ完走するわよ!ドラン!」
 リーヴァは今度こそ完走する為に気合を入れていた。だけど僕はその上の目指すんだ。僕は声を小さくして「うん。それでね。スタートしたら僕はちょっととっぴな行動取るけど心配しないでそのまま行ってね?」と言った。
「あんた何する気よ?」
 その声に、何か面白そうな匂いを感じたのかリーヴァが顔を近づけて聞いてきた。
 僕は、顔に血が集まっているのを感じながら何とか普通を装って「秘密」と言った。
 村の長の長い長い話を適当に聞き流し、とうとう開始の時間になった。
「構え!」
 嫌がおうも無く、緊張が高まる。
「飛べっ!」
 開始の合図に、他のドラゴン達が一気に飛び出す。セオリー通りに山の斜面を舐めるように滑空しながら速度を上げていく
 僕はその様子を眼下に納めながら一気に上昇する。
「えっ!」
 長や、儀に参加してないドラゴンや審判役が怪訝な顔をした。そして僕がセオリーどおり滑空していれば飛んでいたであろう地点で爆発が起こる。
 やっぱり…。
 どうやらジャヤは今回も俺の妨害を画策していたらしい。けど、僕だって馬鹿じゃない。ちゃんと対策をとっている。
 予定高度まで達するとそこから一気に急降下して僕の最高速度まで加速する。
 この時点で、大半のドラゴンは山の麓にあるチェックポイント通過していた。
 ここからだ!僕は気合を入れた。
 トップスピードでチェックポイントを抜けると僕は迷わず、次のチェックポイントまでの最短距離を行くルートに入った。
 
 基本的にこの大空の儀にはチェックポイントが四つあり、チェックポイントとチェックポイントの間には基本的に三つのルートが設定されている。

 1、障害物が一切無いが、迂遠なルート。
 2、障害物が多少あるが、1よりは近道なルート。
 3、障害物が多いが、最短距離を行くルート。

 どのルートを選ぶかは各ドラゴンに任されており、それぞれが自分の特性にあったルートを選ぶことが勝負の鍵だと言われている。大抵のドラゴンは1と2のルートを組み合わせ、3はそのルートが比較的難易度の低い場合選ぶと言った感じになるのが慣例だった。
 だけど僕は、そんなルートを飛んでも絶対に勝てない。ただ飛ぶだけなら勝てるだろう。けどこの大空の儀は攻撃可なのだ。他のドラゴンと一緒のルートを飛んでいればジャヤだけじゃなく他のドラゴンから一斉に攻撃されるだろう。前回は、最初のチェックポイントで一気に加速して引き離してそのまま逃げ切る計画だった。けどそれでは数の暴力には敵わないと考え直して、全て3のルートを全力で飛び抜ける事にした。そうすれば僕を落とそうとする他のドラゴン達の攻撃は、障害物に阻まれるか、障害物の抜ける為に神経を削ぎつつ僕に対して攻撃なんて早々出来る物じゃない。だから僕は、その最短距離を飛ぶルートで最難関である大樹の森を全力で飛べるように訓練したのだ。

 砂塵を巻き上げながら第二チェックポイントに続く狭く高度制限をされた渓谷を全速力で飛ぶ。
「馬鹿ドラゴンが今年も居たか」
「馬鹿が、あの速さで渓谷を抜けるわけが無い」
 チェックポイントを通り過ぎる時そんな声を聞いた。審判のドラゴンだろうか?だけど僕は抜ける。抜く事が出来る。それが特訓の成果だから。
 右に左に曲がりくねる渓谷をスピードを落とさず突き抜ける。
 目の前に突き出した断崖を体捻り、最小限の動作で避ける。横になった視界に地面から突き出た大岩が待ち構える。それに対し更に体を捻り背面飛行で飛びぬけた。
「嘘だろ?」
 同じルートを選んでいた酔狂なドラゴンがそう言った声がはるか後ろから聞こえてきた。

 渓谷ルートを抜け、第二チェックポイントにたどり着いた時、僕はトップ集団の最後尾につける事に成功した。
「何でヤツが、こんな事にいる!?チッ!行け!」
 僕が、トップ集団の最後尾につけたことに気が付いたジャヤが取り巻きの一人に何か指示を出した。どうせ碌でもない事だろう。
 注意が必要だが、僕は僕のルートを行く。
 次のルートは洞窟のルートだ。洞窟は暗く、そして狭い。だが最短距離ルートとしては比較的障害物が少ないルートだ。儀で上位に入るドラゴンは大半がこのルートに入るルートでもある。
 僕より先に飛んでいるドラゴンの何体かは、洞窟へと突っ込んでいく。僕も続いて洞窟へ突入する。
 天井から垂れ下がっている又は突き出ている鍾乳石を気をつけながら飛ぶ。
 洞窟内部は迷路の様に入り組んでいるがドラゴン通れるルートはほぼ限られている。特に翼を広げた状態で飛んでいけルートはほぼ一つと言って良い。
 そのルートは洞窟入り口からずっとまっすぐ行き、大きな地底湖に出る。その地底湖の真ん中には特大の鍾乳石が存在し、道を左右に分断している。
 そこを右に曲がり特大の鍾乳石をぐるっと回ると出口に通じる道がありそこを抜けると第三チェックポイントの目の前に出る。
 
 僕の先を飛んでいるドラゴン達がたくみに鍾乳石を避けながら飛んで行く。
 僕も今、目の前に居たドラゴンを抜いて順位を上げる。だが注意が必要だと思った。今抜いたドラゴンはジャヤの取り巻きのグリーンドラゴンだ。普通この洞窟内でブレスを吐くドラゴンは居ない。下手にブレスを吐いて、それが天井に当たって崩落したり、ブレスに当たったドラゴンがバランスを崩して、吐いた本ドラゴンに向かって転がってくるかもしれないからだ。けどあいつらは捨て身の攻撃をしてくる可能性がある。僕は一刻も早く突き放す必要があった。
 
 洞窟ルートの先頭を飛んでいるドラゴンが地底湖に入り、スピードを落として旋回を始める。後続もそれぞれスピードを落として地底湖エリア突入に備えた。けど僕はそこでスピードを落とさす、更には加速する為に翼を動かす。
 この時点で、さらに順位を上げる。もう地底湖エリアは目の前。
 地底湖エリアに突入すると僕は一気に左に曲がった。
 そう左だ。
 他のドラゴン達はあっけに取られながらも右に曲がって行く。グリーンドラゴンのヤツなんかは「はっ馬鹿が!」という罵声まで口に出していた。
 だがこれで良い。
 僕はさっき'翼を広げた状態で飛んでいけルートはほぼ一つと言って良い。'と言った。それは間違ってない。けど'翼を畳んだ状態でなら通り抜ける事が出来るルートはそれなりにある'のだ。そして僕が見つけた地底湖エリアの左折ルート。ここを通れば地底このルートを大幅に短縮する事ができる。けど翼を畳んで地面を走っては意味が無い。ドラゴンは走るのが遅いのだ。
 だから僕は、翼を広げられるギリギリまで加速して、翼を広げられない狭さになると一気に翼と畳んで、そこに突入した。
 翼を畳んでいればもちろん揚力を得ることは出来ない。放り投げられた石ころの様にただ勢いに任せて飛んでいくだけだ。もし、少しでも狙いが甘ければそのまま壁に激突してリタイアする事だろう。それに狙いが良くても少しでもビビッてスピードを落とすものなら、羽を広げられる通路まで持たず地面を転がる事になる。
 洞窟に入ってから冷や汗が止まらない。
 行け、行け、行け!
 一度翼を畳めば、後は、再び通路に出るまで祈る事しか出来ない。じりじりと高度が落ち近づいてい来る地面。それと同時に近づいてくる洞窟左ルートの出口。
 後ちょっと!行けっ!行っけー!!
 抜けた!
 僕は去来する喜びに身を震わせながら自慢の翼を再び広げる。あっと言う間に翼は空気を掴み、僕を空中へと持ち上げる。チラッと後ろを見たら、洞窟ルートでトップを飛んでいたドラゴンが唖然とした表情で飛んでいた。
 僕は、洞窟ルートのトップに躍り出たのだ。

 そしてそのまま第三チェックポイントに続く共通ルートに飛び込んだ。
 その時点で僕は、第三位まで順位を上げていた。僕の前に居るドラゴンは後、二体。けどこの二体が手ごわい、常勝のオルートと無官のゼリア。
 この二体は、大空の儀の上位入賞者の常連だ。有る意味里で一番飛ぶのがうまいと認知されている猛者達だ。僕は幼い頃からレースを見ていたから顔は知っているが、彼らからしたら僕の事は精々出来損ないのブラックドラゴンが居たなぁって程度だろう。
二体は、驚いたように目を見開くと、口を開く事無く視線を前方に戻した。
「黒ゴトキが俺の前を飛んでんじゃねぇ!」
 そのいらだたしい声にチラリと後ろを見るとジャヤが僕の後ろを飛び、僕に向かってブレスを吐いた。もちろん僕は避けた。
 第三チェックポイント通過、そして僕は最後の難関である大樹の森へとルートを取った。常勝のオルートは別のルートに、無官のゼリアは僕と同じ大樹の森を選択したようだ。
 
 先を行く無官のゼリアの飛び方は綺麗だった。減速は最小限、ルート取りも堅実で後ろで見ていても一切危なげが無かった。
 さすが、上位入賞常連のドラゴンと言わせる飛行だ。
 でも僕より遅い。
 僕は一切減速をしない。横転飛び、翼を畳んだ飛び方を駆使して、最短距離の最短距離を進む。
「てめぇ!まっ!ぎゃっ!」
 後ろから、後続のドラゴン達が飛び木々に事故って行く音が聞こえてきた。
「っく!やるじゃない!」
 僕はこの森で一年間毎日毎日全力で飛び続けたんだ。誰だろうと僕は絶対に負けない!
 無官のゼリアの横に並び、徐々に距離を離す。途中ゼリアがブレスを放ってきたが碌に狙う事も出来て居ないそれは大樹に遮られ僕には届かない。
 
 この大樹の森が大空の儀最難関だと言うのは伊達じゃない。好き勝手に生えた木々は行く手を阻み、ドラゴンの体当たりでもびくともしない強度がある。毎年、草木が野放図に生え、去年使えたルートが今年は使えないなんてざらだ。それに、意外な障害として太陽光がある。暗い森の中を飛んでいる時に、鬱蒼と茂る木の葉の間を通り抜けてくる木漏れ日が目に直撃すると、一瞬だが目を奪われる。それは気の抜けない森の中にあって致命的な物となる。判断が一瞬遅れ、それにより回避行動が無駄に大きくなり、更に先の障害物に対する判断が更に遅れるという悪循環に陥る。
 
 現に、僕に抜かれて焦ったゼリアの目に木漏れ日が当たり、さっき言った悪循環が始まり僕からドンドン離れていく。
 
 そろそろ森が終わる。僕は目を細めて、薄暗い森から出た時に目をやられない様に備える。
 あと3、2、1。
 出た!
 目を明るさに慣らすと、他のルートを飛んでいたドラゴン達を確認する。
 常勝のオルートは何処だ!?
 見えた!良し!あそこなら僕より後ろだ!
 僕は最終チェックポイントをトップで通過した。
 ここからはもうゴールまで一直線だ。
 ゴールがあるのは、スタート地点になっている山の山頂。山の麓にある最終チェックポイントから山頂まで一気に翔け上がるのだ。
 大樹の森が飛行技術の最難関であるならこちらは、戦闘技術の最難関だ。
 麓から山頂までのルートには一切の障害物が無い。毎年トップを飛んでいるドラゴンに攻撃が集中し、それが'勝者の為の洗礼'とまで言われているのだ。
 毎年トップでここを飛ぶドラゴンは、わざと地面にブレスを吐いて、砂煙を巻き上げ狙いを絞らせないようにするのだが、当然僕には出来ない。
 だけど僕には、飛ぶ事のほかにもう一つ特技がある。それは他のドラゴンの悪意を敏感に感じ取れる事。
 後続のドラゴンから放たれる膨大な量のブレスを時に紙一重で次々と避け、時にその爆風を利用して更に加速する。
 ゴツゴツとした山肌がブレスの流れ弾で次々と穴が開き、焦げ後を作っていく。
 例年より、トップに対する攻撃が酷い。それもそうか。大空の儀でブラックドラゴンが優勝したとなれば、他の参加したドラゴンにとって一生の恥とでも思っているのだろう。
 頭の中に稲妻が走った。特大の悪意だ。
 来るっ!
 体を右に傾け、いつもより多めに避ける。次の瞬間、完全に僕を殺す為に放たれた巨大なブレスが通り抜けた。
「クソがっ!避けんじゃねぇ!」
 案の定ジャヤだった。
「嫌だね!僕は優勝するんだ!」
「てめぇ何ぞ!後ろでぐずぐずしてりゃあ良いんだ!目障りなんだよ!ブラックドラゴンの癖に!」
 次々と放たれるブレスを引き連れながら僕は飛ぶ。きっと僕の飛んだ後は焦げ後として綺麗に残っている事だろう。
 山頂の方では、審判役のドラゴンと観客のドラゴン達が信じられないと言った風に口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。
 さぁ後ちょっとだ!
 その時、僕の頭の中に再び稲妻が走った。
 正面!?馬鹿なっ!と思った。ありがたい事に僕の体は反射的に、回避行動を取っていた。
 正面から来たブレスは僕のおなかを少し焦がしながら、後ろへと流れていった。
「ギャッ!」
 流れていったブレスは、誰かに当たったようだ。可愛そうに。それにしてもまさか正面から来るとは思わなかった。まさかジャヤの差し金か?
 けどここまで来たら僕を止めらるものは無い。
 
 僕は、トップで山頂へとたどり着き、最早遮るものは何も無い大空へと飛び出した。そのまま丁度山の真上にきていた太陽に向かい飛ぶ。
 
「GYAAAAAAAAAAAAA000000000000!」
 
 そして、一世一代の勝利の咆哮を天高く響かせた。


 大空の儀は前代未聞の事態に沸いた。出場二年目の若造が、しかもブラックドラゴンが優勝するとは当然誰も想像だにもしていなかったからだ。
「アイツが優勝するなんてあり得ないだろ!絶対なんか卑怯な事をしているはずだ!」
「何言ってるのよ!ドランがそんな事するわけ無いじゃない!」
 案の定物言いが付いた。当然その筆頭はジャヤだ。そして、僕を弁護してくれたのはリーヴァだ。
 ドラゴンは武を尊ぶ。卑怯な振る舞いをしたら、殺されはしない物の村八分にされ、大抵のドラゴンは最後には里から出て行く事になる。
 僕はそんな振る舞いは一つもして無いから何にも問題は無いけどね。
 里の長と審判員達は、里の会議で使われる広場に集まり、他の参加者達とルートに散っていた審判員から僕の儀参加中の様子を聞いて回る。
「ほぅ」
「何と!」
「馬鹿なあのルート以外に飛べる場所など…」
「命知らずな…」
 その間僕は、他のドラゴンに囲まれて、身動き取れない状態だった。物凄くむさかった。

 そして審議の結果がでた。
 広場には、優勝がどうなるかが気になっているドラゴン達が集まり、一種異様な空気が漂っている。
 特に二位でゴールした無官のゼリアは、憮然とした様子で発表を待っていた。
 きっと、今回の二位が気に入らないのだろう。だけどそれは僕が優勝したからじゃない。常勝のオルートがリタイアしたからだ。去年の優勝者である常勝のオルートは、僕に向かって正面から撃たれたブレスの流れ弾に当たりバランスを崩し地面に激突、結果リタイアしてしまった。
 ちなみに三位は自慢のブレスで暴れまわったらしいジャヤだ。他の参加者の会話を漏れ聞いた所によると犯人はやはりジャヤ達の取り巻きのまだ参加できない若いドラゴンだった。そのドラゴンは大空の儀を侮辱したとして、今後一切大空の儀に参加できないという罰が下された。でも多分それだけじゃ終わらない。きっとそのドラゴンはいずれ里を追い出される事になるだろう。
 審判員達と話し合っていた長が広場にある大きな石舞台に立ち、口を開く。
「うぉっほん!あー審議の結果、ドランの優勝を認めるっ!」
 長がそう発表すると会場の一部から「そんな馬鹿な!」とか「何でだ!ブラックドラゴンだぞ!」とかの声が上がった。
「黙らっしゃい!」
 ざわざわとした様子に長が一括し、広場を静かにさせる。
「ドランはブラックドラゴンじゃ。それがゆえ、ドランはブレスを吐く事が出来ぬ。ワシは思っていた。ブレスを吐けないドラゴンは、ただの空飛ぶトカゲだとな。正直ドランのヤツを侮っておった。だがわしは、儀に参加した者の話を聞いて考えを改めた。こやつは自身に出来る事は飛ぶ事だけ、そう飛ぶ事だけだ。だがその飛ぶ事だけを極限まで研ぎ澄ました。大空の儀で使用したルートは全て難易度の高い最短距離ルート、しかもそこをほぼ全速力で飛びぬけ、更に洞窟では普通では考えられん新たなルートまで開拓しおった!そして、今までで最短の時間で大空の儀で優勝した。これを天晴れと言わずに何と言う!」
 再びシンとなる広場。
 というか、それを言ったのはお前か長。
「改めて言おう!今年の大空の儀の優勝はブラックドラゴン!ドランじゃ!」
 それに合わせる様に審判をしていたドラゴン達が声を張り上げた。
「称えよ!」
「称えよ!」
「称えよ!勝者を!」
「称えよ!」
「称えよ!」
「称えよ!大空の勇者!」
「称えよ!」
「称えよ!」
 えっ?なにこれ…。僕としては、な~んかお通夜みたいに暗~い感じで粛々と儀式のスケジュールをこなしていくと思ってたんだけど……。
 最後には'称えよ'の声に次第に周囲のドラゴン達が唱和し、最終的には殆どのドラゴンが唱和してくれた。
「ブラックドラゴンドランよ!前へ!」
 長に岩の上に呼ばれた。
 疑惑の選手から栄光の優勝者となった僕は、飛んで石舞台に降り立つ。長は俺の前に立つと言った。
「何の文句の付けようも無くお前の優勝じゃ。さぁ願いを言うが良い!」
「あー。すいません。僕の望みが大空の儀で優勝する事でしたので、優勝したらどんな願いをしようとか考えてなかったんです」
「なんと!優勝後の願いを考える暇も無いほど、大空の儀に取り組むとはっ!若者はこうでなくちゃいかん!皆のもの良いな!本来優勝商品の願いとは~」
 そして長のウンザリするほど長い話が始まった。
 本当は、リーヴァと番にさせてくれとほんのちょっと、ほーんのちょーっとだけ考えたけど、そんな風にお願いしてもリーヴァは烈火の如く怒るだけだと思ったのでしない事にしたのだ。

 その日は、そのまま宴会へとなだれ込んだ。この日の為に用意されたご馳走が僕の前に並んだ。周りには長や審判をしていたドラゴンが上機嫌で人間から奪ってきた酒を飲んでいた。ちなみに大空の儀で審判をしているのは、大空の儀で優秀な成績を残し且つ、年齢制限を越えたドラゴン達が行っている。有る意味里のドラゴンにとって憧れの存在なのだ。
 僕にとって英雄とも言える先達に囲まれた緊張と初めて飲んだ酒でふらふらになってしまった。
 予定では、僕が優勝した事によりお葬式のような雰囲気の会場を抜け出して、リーヴァに告白しに行こうと思っていたのだが、予想外に盛り上がった宴会により出来なかった。
 僕は気が付いたら、自分の洞窟で寝ていた。
「イタッ!」
 起き上がった瞬間、僕の頭は石でぶん殴られたような痛みが走る。
 ああ、これが俗に言う二日酔いと言う奴か、ハハハ僕が二日酔いになる事があるなんて夢にも思わなかったよ。
 僕は不快でありながらも、昨日大空の儀に優勝し、偉大な先輩達に祝われた証でもある頭痛に身悶えた。
 でも、それも後1~2時間位の辛抱だ。ドラゴンの回復力はすごいのだ。そうじゃないと困る。僕は今日これからリーヴァに告白しに行くんだから!
 
 その時、洞窟の入り口に誰か来た気配がした。僕は反射的に自分で苦労して掘った横穴に転がる。僕の洞窟に面白半分にブレスを吐くヤツからの防衛サクだ。
 耳を澄ませると面倒くさそうな声が聞こえてきた。
「はぁ~何であたしがこんなヤツ呼んで来なきゃならないのよ」
「キーニャか、何の用?」
「ハッ!あたしにそんな態度で良いの?大空の儀で優勝したからっていい気になってんじゃないわよ!」
 何だコイツ。朝から僕に喧嘩を売りに来たのか?
 僕の不満そうな顔をしているとキーニャは言った。
「いい?あたしはね、リーヴァからあんたを呼んできてって頼まれたからここにいるの。じゃなきゃこんな所に来たりはしないわ」
 キーニャの嫌味はどうでも良い。僕にとって重要なのはリーヴァが呼んでいるという事だ。
「リーヴァが!直ぐ行く!何処っ?」
「はぁ私が案内するわ。付いてきなさいっ」
 キーニャ嫌そうにそう言うと、僕を待たずに飛びたった。
「わっ。待って!」
 僕は慌てて、キーニャの後を追った。

 この時僕はキーニャが嘘をついているなって微塵も思っていなかった。何故なら彼女はリーヴァの事に限っては僕に今まで一度も嘘をついた事が無いからだ。
 だけど僕はだからこそ警戒しなくちゃいけなかった。


 僕を殺すならたった一度、嘘を信用させるだけで十分なのだから。


 しばらく、飛んでいると大体行く場所は分かった。僕が特訓していた大樹の森だ。
「リーヴァが待っているのはあそこよ。ほらもう見えるわ」
 僕は前を飛んでいるキーニャの指差した方を見るがそこには木しかない。
「何処?」
「だからあそこよ。あそこもっとちゃんと見なさいよグズ!」
 しつこくあそことキーニャの指差す場所を見てもそこにリーヴァの姿は無かった。目を細めてもっと良く見ようとした時。僕の翼の皮膜が、いつの間にか僕の上空を飛んでいたキーニャのブレスによって破けた。
「なっ!?」
 一気にバランスを崩し、大樹の森へと落下していく。
 何とか状態を元に戻そうとするが、破けた翼では余計にバランスを崩していくだけだった。
 落ちていく中、一瞬だけキーニャの顔が見えた。その顔は愉快でたまらないと言った風に醜く歪んでいた。

 僕はそのまま落ちて行き、何本もの木に何度もぶつかりながら地面まで落ちていった。
「ぐぅ、がっ!」
 地面に叩きつけられ、体の中から嫌な音がする。多分何処かの骨を折ったようだ。痛い。けど幸い、翼にはキーニャのせいで空いた穴以外問題は無かった。
「キーニャの奴!一体何を考えてる!いくら僕が嫌いだからってこんな事をすれば里にはいられなくなるんだぞ!」
 呻くようにそう言うと何処からか、不快感を呼び起こす声が聞こえてきた。
「そんなことにはならねぇさ」
 この声は…。
「ジャヤか!」
 声のした方を見るとジャヤがニヤニヤと笑いながら木の陰から出てきた。
「俺だけじゃないぜ。なぁ!」
「へへへ」
「ククク」
「はぁはぁ」
 ジャヤの呼び声にあわせてジャヤの取り巻き達が僕を囲むようにゾロゾロと現れた。どいつもニヤニヤと嫌な笑い方をしていた。
 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!僕の頭の中がヤバイで埋め尽くされる。
 逃げなきゃ!
 翼を使えない僕は、立ち上がって逃げようとした。けど……。
「させねぇよ。やれ」
「「「GA!」」」
僕を包囲していた取り巻き達が一斉にブレスを吐いた。翼が使えない僕はその全てを体で受け止める事になった。
「ぎゃああああああああ!」
 熱が氷が雷が僕の体を痛めつける。
 痛い痛い痛い!
 僕に向かって絶え間なくブレスがぶつけられ、息をするのすら苦痛を伴う。
「お~し。一旦やめろ」
 うずくまるように倒れている僕の耳にうれしそうなジャヤの声が聞こえる。
「よう出来損ない。いいざまだな。でもお前が悪いんだぜ?」
「僕が…一体何をした…って言うんだ」
「ほう。お前はまだ自分が犯した罪に気づいていないと見える。なら親切な俺様が教えてやろう。おい!」
「「「へい」」」
「なに…をする。はな…せ」
 ジャヤが合図を出すと、取り巻き達が僕の体を押さえつける。そして僕の右手を伸ばした状態で固定する。
「その1、ブラックドラゴンの癖に、俺様を敬わ無い事!」
 丁度'事'と言ったタイミングでジャヤは足を振り上げ僕の右手を踏み潰した。
 ドチャア!とやけに水っぽい音を立てて潰れる僕の右手。最初僕は何が起きたか理解できなかった。けれど、手を潰された事による痛みが強制的をそれを理解させる。
「うあああああああああああああ!」
 叫び声をあげ、何とか体を動かそうとするも、ニヤニヤと笑う取り巻き立ちに押さえ付けられ動けない。そして更に、左手を伸ばされる。
 潰れた右手をぐりぐりと踏みつけると僕の前をわざとらしくゆっくりと歩く。
 その時点でジャヤが次にやろうとしている事が理解できた。
「やっやめろ」
「その2、ブラックドラゴンの癖に、大空の儀に出た事!」 
 ドチャア!
「うぐあああああああああああ!」
 ドランは更に移動して僕の左足のところに来た。
「その3、ブラックドラゴンの癖に、大空の儀で俺を抜いた事。フム同じ事を繰り返しても芸が無いな」 
 そう言うと僕の足の腱を鋭い爪でブチリと引き裂いた。
「いぎぃいいいいいいいいいいいいいい!!」
「その4、ブラックドラゴンの癖に、大空の儀で優勝した事」 
 同じ様に右足の腱をブチリと切ると僕の前に移動し、僕の血で濡れた爪をチロリと舐めた。そして顔をゆがめると僕の顔目掛けてペッっと吐き出した。
「うげぇ。ブラックドラゴンってのは血もまじぃな。ほんと生きてる価値あんの?まぁいいやよっと」
 ジャヤは僕の背中乗ると一段と声を低くして
「そしてその5、ブラックドラゴンの癖に、俺が狙ってるリーヴァの周りをうろちょろしている事。そんな身の程知らずのブラックドラゴンには翼なんて過ぎたものいらないよなぁ!野郎共!」
 僕はその言葉に全身の痛みを忘れて凍りついた。
「そうだそうだ!」
「やっちまえ!」
「ひゃあ!我慢できねー!さっさとやっちゃってくださいよ!ジャヤさん!」
 取り巻き達は、興奮しジャヤをはやし立てる。 
「やめろ!やめてくれ!それだけはやめてくれっ!今日の事は誰にも言わないからこれだけは、翼だけはやめてくれっ!何でもするからやめてくれ!」

 この時、僕はこの台詞がただ相手を喜ばせるだけだなんて考えてもいなかった。
 ただ僕のよりどころである大事な翼を守ろうと必死だった。

「ふ~ん何でもするんだ~」
 声だけでも分かる。ジャヤ嬉しくてたまらないと言った感じの声が聞こえてくる。
「何でもする!だから翼だけはやめてくれ!」
「でもなぁ、俺様はブラックドラゴンに頼るほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!」
 ジャヤは僕の左右の翼を爪で皮膜を引き裂きながら掴むと、何かを引っこ抜くように力を込めた。
 ベキッ!ベキベキベキッ!
 ゆっくりとゆっくりと力をこめてジャヤは引っ張った。僕に長い間苦痛を味合わせたかったのだろう。
「あがががぐぐぐぐ!」
 そしてゴキッ!ブチブチブチン!と言う音と共に僕の翼がちぎれた。
「ああああああああああああああああ!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!」」」
「ったく。苦労させやがって。ブラックドラゴンの癖に無駄に頑丈なんだよ」
 ドサッドサッと僕の翼が目の前に放り出された。
「翼…僕の翼がぁあああああああああああああ!」
「俺は親切だからな。ちゃんと止血してやるよ」
 ジャヤはそう言うと僕の背中にブレスを吐いた。
「ぐあぁあああああああああああああ!」
 僕の鼻に自分が焼ける匂いがすた。
「ジャヤさんやさしいっすねぇ。ブラックドラゴンの野郎が泣いて喜んでますぜ」
「そうだろう。あっわっりぃ。傷焼いちまったからお前の翼はもうくっ付かねぇや。ハハハハハハ!」
「「「ギャハハハハ」」」

 この時、既に僕を押さえつけていた取り巻き達は離れていた。しかし、翼を失ったショックで僕はただただ、目の前に落ちている僕の翼を見ている事しか出来なかった。

「翼…ぼくの…翼…翼」
「おい、あとはお前らに任せる好きにしろ!」

 僕の反応が無くなったのを見たジャヤは、取り巻き連中に指示して僕に暴力を振るわせた。

「ひゃあ!待ってましたジャヤさん」
「おら死ねよクズが!」
「お前の事は前から気に入らなかったんだよ!オラ!」
「ぎゃはははっははは!お前にはその姿がお似合いだ!」

 そこから、よく覚えて居ない。全身を蹴られ、引き裂かれ、踏み潰され、焼かれ、ありとあらゆる暴力が振るわれたのだろう。
 僕が気を取り戻した時。僕は見知らぬ森で横たわっていた。
「コ…コこは…」
 そして思い出した。僕の自慢の翼が失われた事を、僕のすべてが奪われた事を。
「そうダ。翼、ボくの翼が」
 その時僕は左目が見えないことに気が付いた。きっとあの暴力の嵐の中誰かが面白半分に潰したのだろう。
「ギャアアアオオオ!」
 僕は泣いた。うまく声の出ない喉で泣いた。僕の翼が失われた事に泣いた。やっと里の皆に認められるようになった矢先だった事に泣いた。
 そして何より、もうリーヴァに会う事も告白する事もできないことに泣いた。
「ギャアアアオオオ!」
 真っ暗な森の中に僕の叫びが木霊する。
 一体ブラックドラゴンの何が悪い!僕だって好きでブラックドラゴンに生まれたわけじゃない!僕は努力して大空の儀に出て優勝したんだ!優勝できなかったのはお前らが努力を怠ったからだろう!クズ?それはお前らみたいな事を言うんだ!
「ギャアアアオオオ!」
 悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!
 憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!
 殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!たとえ僕がここで死んでも必ず殺してやる!
 僕の中にこんなに黒い感情があったのかと驚くほど湧き出してくる。

 がさがさと僕周囲の草が揺れる。死に掛けの僕にも分かる。この森の生き物が僕を食べに来たのだろう。
 チクショウ!チクショウ!!チクショウ!!!
 僕はこれからだった。僕はこれからだったんだ!認めらるかこんな終わり!こんな終わり絶対に認めないぞ!
「ギャアアアオオオ!」
 僕は今の僕に出来る精一杯の叫び周囲を撒き散らす。けど僕を捕食に来た生き物達は一向に去らない。僕が死に掛けだと分かっているのだ。
 僕の目の前に一匹の狼が現れた。巨大な狼だった。
 そこで僕は何処捨てられたのか理解した。
 そうか僕はロウーナン大森海に捨てられたのか。
 ここほど死体を始末するのに有効な場所は無いだろう。ここにはドラゴンすら容易に殺す魔獣が多くいる場所だ。ドラゴンを食いに来る魔獣は多い。彼らに食われれば骨すら残らないだろう。
 狼は、悠々と僕の前に座った。僕が死ぬのをゆっくりと特等席で待つつもりなのだ。

 僕は叫び続ける。ここで死んでたまるか!復讐だ!僕は復讐する!ジャヤ達にキーニャに!憎いすべてに!
「ギャウウ!」
 だけど、僕の叫びはドンドン弱いものになっていく。体から血と一緒に力を無くなっていくのが分かる。なのに僕の頭は怒りが、憎しみが、瀑布のように溢れ出す。

 その時、ズン!と言う音が闇夜に響いた。その音は段々と近づいてくる。
 すると何故か僕の前に座っていた魔狼がそわそわしだした。
 魔狼が怯えてる?
 更に近づいた地点でズン!と言う音がすると魔狼はすごいスピードで草を掻き分け逃げ出した。僕を取り囲んでいたほかの魔獣達もいつの間にか逃げ出していた。
 そしてとうとうその足音の主が僕の目の前に現れた。
「えっ?」
 現れたのは小さい人間という生き物が良く中に入っているキヘイという物だった。
 んな馬鹿なと正直思った。キヘイは確かに手ごわいが空を飛ぶことは無い。ドラゴンにとってキヘイはただの硬い雑魚敵といって言い。しかも中に入っているのはちっこい人間だけ、獲物としてはマズイ部類の獲物だ。けどたまに酒を運んでいる獲物と良く一緒に居る。
 実際僕も何体かのキヘイを倒した事がある。ロウーナン大森海にの魔獣達が恐れるほどの脅威とはとても思えない。
『あらブラックドラゴンなんて珍しい』
 僕の前まで来るとそのキヘイが喋った。けど人間がドラゴンの言葉は喋れない。ということは昔いたらしい精霊キヘイか。
「近ヨるなっ!」
 僕は、残っている力を振り絞って威嚇する。
 ああくそっ!意識が…。
 酷いめまいと全身の激痛で意識が飛びそうになる。
『これは酷いわね。…ええそうね。戦って付いた傷って訳じゃなさそうだわ…』
「だれトしャベッテいる」
『ねぇあなたなんでそんな怪我をしてこんな所にいるの?』
「うる…サい!ほっとイ…てくれ!」
 チクショウ!僕はまだ…。
『何か訳ありのようね。…ねぇゴウちゃん…………』
 僕の意識はそこで途切れた。

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「ギャウガアアアアア!」
 私は目の前で突撃してくるビックホーンボア目掛けてブレスを吐いた。吐いた炎はビックホーンボアの顔を焼く。ビックホーンボアは構わず突撃してくるがもう目は見えてない。
 あたしは翼を広げて飛び立つ、おばかなビックホーンボアはそのまま私の後ろの会った巨木へと頭から激突。自慢の角は折れ、気絶してしまった。
 あたしはすばやくボアの頚動脈をつめて切り裂いてトドメをさした。
 
 あ~あ、アイツが里を出て行って三年かー。アイツ今何しているんだろう。

 あいつと言うのは私の幼馴染で子分でも有るブラックドラゴンのドランの事だ。
 最初あいつは何時もビクビクしていた。まぁしょうがないよね。ブレスの吐けないブラックドラゴンだったんだから。きっと周りからいろいろ言われていたんだろう。小さい頃の私はそんな事は分からなくて、いっつも子供が集まっている広場の隅でビクビクしているドランにイライラしてた。
 だからあたしは、ドランをあたしの子分にした。こいつをあたしが鍛え直してやろうってね。
 まぁなんやかんやあってドランの奴が一度完全に家に引きこもったりもしたけど、アイツは必要以上にビクビクしなくなった。
 あたしのお陰だ。
 しかもブラックドラゴンで初の大空の儀に優勝すると言う偉業を成し遂げた。
 もう一度言う。あたしのお陰だ。あいつはあたしが育てた。
 けど、大空の儀に優勝した翌日、あいつはこの里から居なくなった。あたしに挨拶の一つも無く。居なくなった理由は…。

 ねぇドランあんた今何処に居んのよ。はやく帰ってきなさいよ。ねぇ。
 あたしはビックホーンボアの血が流れ出るの見ながらため息をついた。


 あたしが獲物のビックホーンボアを横取りされないように見張っていると空から誰か飛んでいるのが見えた。
「リーヴァ!リーヴァ何処!リーヴァ居た!大変よ大変よ大変なのよ!」
 飛んでいたのはあたしの友達のファナだった。ファナはあたしを見つけると一直線に飛んできた。
「あらファナ如何したのそんなにあわてて?あっ見て!今日は大物をしとめたわ!」
 ファナは私が小さい頃若気のいたりで作った組織轟竜団の一員だ。
 私は自慢するつもりで倒したビックホーンボアを指差す。
「あらすごいってそうじゃないよ。そうなのよ!」
 えっ?そうじゃないのにそうなのどう言う事?
「アイツが帰ってきたのよ!三年前突然消えたブラックドラゴンのドランが!」
 私は、その事を聞いた瞬間翼を広げ飛びたった。
「あ、リーヴァ待ってよ!あんた獲物どおするのよ~!」


 ドランの奴が帰ってきた!
 私はその事実がうれしくてたまらなかった。里へ向かっている最中は、私に挨拶もしないで里を出るなんて何考えてんのよ!と文句を言ってやろうと能天気に考えていた。
 何故ドランが突然姿を消したのか。
 居なくなっていた三年間は如何過ごしていたのか。
 この時のあたしは、一切考えることは無くただ素直にドランが帰ってきた事を喜んでいた。

 里が見える位置まで来ると、どうやら里の集会場になっている洞窟の入り口ににドラゴンだかり(人だかり)が出来ているのが見えた。
 あそこね。待ってなさい!ドラン!私に黙って出て行った事を後悔させてあげるから!
 入り口近くに着陸して、ドラゴンだかりをかき分けて行く。
「あ!おい」
「押すなよ」
「ごめーん。でも通して!」
 前に居たドラゴンを押し退け、こじ開け、蹴っ飛ばしながらようやく一番前に出ることが出来た。すると私の視界にあとドランの黒い横顔が写った。
「いた!ドラン!」
 あたしの声が聞こえたのだろう。ドランがこちらの方を向いた。
「えっ!?」
 あたしはドランの姿を見て絶句した。あたしの口から出掛かっていた言葉は、その衝撃でバラバラに砕け散った。
 
 こちらを向いたドランの顔左半分が金属によって覆われ、目の部分には丸いピンク色に光る透明な石が嵌っていた。ピンク色に光る透明な石は私を映すと石の中に埋まっている何かが窄んだのが見えた。そこで私はドランが尋常ではない格好でいる事に気がついた。
 まず左手が完全に金属で出来ていた。一見無事そうな右手も大きな傷がありその部分だけ肌の色が違う。同じ様に両足も金属で覆われ、一部には皮膚の下から金属が突き出している部分もあった。
 尻尾には余り金属は付いていなかったが、爪で引き裂かれた傷が無数に入り見るも無残といった有様だった。
 黒々としていた胴体もキヘイの様に金属で覆われ、その肌を隠していた。
 そして一番驚いたのがドランの背中に自慢の翼が無かった事だ。
 大空の儀で優勝したドランの自慢のあの翼が。

「あっ!あんた一体どうしたのよ!その体どうしたのよ?三年前いきなり居なくなったらそんな体で帰ってきて!心配したのよ!」
「やア、りーヴぁ久しぶり。落チ着いて、長ガきたら全部話すカら」
 ドランは、変な口調でそう言うとあたしから直ぐに視線を外した。
 え?
 あたしは信じられなかった。ドランが、あたしを見つけるとうれしそうに飛んできたドランがあたしに会ってそんなそっけない態度を取った事に。
 その事を理解した時あたしは頭に来た。
「ちょっ…」
 あたしが、ドランに一言文句を言ってやろうとした時、里の長が出てきた。
「空極のドランよ。良くぞ戻ってきた。と言いたい所だが、そなた一体どうしたその姿は?なぜ三年前姿を消した?」
「長よ。里の長ヨ。いまダに"空極"と呼んでいただいて真にアりがとう御座います。しかシ私は既に自身の翼を失っタ身、その呼ビ名はフさわしく無いと存ジます」
 ドランは、長の前に跪くと頭を下げてそう言った。
「何を言う。"空極"は、そなたの成した功績によりつけた物。ゆえにたとえお前が翼を失おうとも"空極"はそなたのものじゃ」
「もっタいないお言葉アりがとう御座います」
「それで何故、あの日…」
 その時洞窟にキーニャの声が響いた。
「ドラン!あんたい…帰ってきたの!?」
 長は、自分の台詞が遮られたのが気に入らないのかキーニャを軽く睨み。ドランは……。
「あア、地獄の底カら生きテ…生きテ帰ってキたぞ。雌豚!」
 すさまじい怒気を放ちながら今にもキーニャを殺しそうな目で睨み付けた。その怒気に当てられ周囲を囲んでいたドラゴン達が一歩下がった。
 驚いたのはそれだけじゃない。ドランがキーニャを指して"雌豚"と呼んだこと事態以前ではあり得ない事だったの。
 けど、轟竜団は解散したといっても仲間にそんな口の聞き方、あたしは許さない。
「ドラン!あたしは、仲間にそんな口を聞くように言った覚えは無いよ!謝りな!」
 ドランは、あたしの言う事には何時も従ってくれる。あたしは昔の様に怒鳴った。けど……。
「何モ知らないりーヴぁは黙ってテくれる?」そう言ってあたしを一蹴した。
「え!?」
 あのドランがあたしに口答えした!?
「あっあんた誰に…」向かって口を聞いてるんだい!と言うあたしの台詞は最後まで言えなかった。
 ズン!
 ドランが尻尾を地面に叩きつけ私の口を封じた。
「三年前のアの日、僕はキーニャに呼ばれテついて行クと大樹の森ノ上空でキーニャに翼に穴ヲ開けられ森に墜落シた。ソこではジャヤ達ガ待ち構えていてボクは腕を折らレ、足の腱ヲ切らレ、翼をもがれタ。ソして瀕死になっタ僕はロウーナン大森海ニ捨てラれた」
「……」
「嘘よ!全部でたらめよ!ドランは私に告白して振られたから出て行ったよの!」
「ボクが…?雌豚ニ告白?冗談モたいがイにしろ。ナんで僕が雌豚に告白シなくちゃならなイんだ。僕はそんなに趣味は悪くない」
 周囲が一気にざわつく。
 そうドランが出て行ったのは大空の儀の翌日キーニャに告白して玉砕。何度も泣きながら縋り付くも、疎でなく振ると泣きながら何処かへ飛んでいったと言われていた。
 あたしは最初聞いた時は信じられなかった。たしかにドランはキーニャの前では様子が変だったが、そういう色恋沙汰の空気ではなかったはずだ。逆に苦手に感じてた様に思う。けどあたしの親友であるキーニャの言う事だし……。だからあたしは、きっとドランがジャヤ達に無理やり告白させられたんだと思っていた。だから、二、三日してドランが帰ってきたら話を聞いてジャヤ達をとっちめてやろうと思っていた。
 けどドランはそれから三年間帰ってこなかった。
 
 
「邪魔だ!退けよ。てめぇ!生きてやがったのか!」
「オラ邪魔だ!ジャヤさんのお通りだ!」
 そうこうしている内に、話を聞きつけたジャヤ達が洞窟に入ってきた。
「やっと腰抜け共がやってきたか……」
 以前は、ジャヤ達に会ったらあたしの後ろに避難していたのに今は堂々と前に立ち、ジャヤを睨み付けていた。
 あたしの知っているドランなのに、あたしの知っているドランじゃない。
「ああ!てめぇ誰に口きいてんだ!ゴルァ!ブラックドラゴンの分際で舐めた口きいてんじゃねぇぞ!殺すぞ!」
「ハッ!三年前、タった一体のブラックドラゴンヲ集団で襲ったくせニ殺す事すら出来ナかった根性無しノ臆病者どもガ喚くな!怖カったンだろう?ドラゴンを殺すのガ!里ノ禁忌を犯すのガ!里では粋がっテるくせに最後の一線だけハ絶対に越えないビビリ共ガ幾ら吠えた所デ怖くも無イ!」
「ふざけんな!ぶっ殺す」
「ブラックドラゴン風情が!」
「やっちまいましょう!ジャヤさん!」
 ジャヤの取り巻き達がいきり立ち、ドンドンと地面に尻尾を叩きつける。
「静かにせんかっ!まだわしとドランの話が終わっとらん!」
 一触即発の雰囲気の中、ここで暴れられたら困ると判断した長が一括する。
「してドラン、改めて聞こうこの三年間どうして居た?そしてその体はどうしたのだ?」
「僕ハ、アの大空の儀の翌日ジャヤ達に嵌められ大怪我ヲ負わさレ、ロウーナン大森海に捨てラれまシた。普通ナらジャヤ達の目論見どオり僕はロウーナン大森海ノ魔獣達に食い殺されていた事でしょウ。しかシ僕は助かりました。運良くアる方ニ助けられたのです」
「助けられたと言う事は、おぬしをその姿に変えたのはその助けた者なのか?」
「ハい。さすがにアの方でモ大怪我を完全ニ治す事ハ出来ませんデした。腕が潰サれ、両足ノ腱が切らレ、片目ヲ潰さレ、翼をモがれ……。マぁはっきリ言って死んでなイのが不思議な位ノ大怪我でしたかラ。動けるヨうになっタのもごく最近の事でス。ソれまでずっと僕ハ臥せっていまシた。僕ヲ集団で殺ソうとしたメンバーはジャヤ、キーニャ、ジルド、カド…」
 ドランは何とか直った方の手で金属に変わってしまった腕を撫でながら、自らを殺そうとしたドラゴン達を名前を挙げていく。長はただ黙ってそれを聞いていた。
「そうか。分かった。ではジャヤとキーニャに聞こう。ドランの言っている事は真実か?」
「違うぜ!」
「違います!そこの出来損ないの出鱈目です!」
「「そうだそうだ!」」
「出来損ないの言う事なんて信じられるか!振られたショックで出て行ったくせに、おめおめと戻って来たドランの言い訳だ!」
 キーニャとジャヤ達はやんややんやと自分達の無罪を主張している。

 あたしは、その様子をただ眺める事しか出来なかった。あたしだって混乱しているのだあたしの親友であるキーニャがドランを嵌めて殺そうとしたなんて。そして何とか生き残ったドランがまるでドラゴンが変わったようになり、復讐に来るなんて。
 あたしの知っているドランなら復讐なんて似合わない言葉が出てくるはずが無かった。どんなに意地悪されたってあたしの後ろに逃げてきて、あたしが意地悪してきた相手に文句を言いに行こうとすると止めてと言っていた位なのに……。

「そうか、双方の意見が食い違う場合どの様にするかわかっておるな?」
 長はドランとジャヤ達を見回しながら言った。
「「審判の儀を!」」
「そうじゃ。この里では、訴えを起した者と訴えを起されたものの言い分が食い違った場合且つ、その真偽の判別が付かない場合。当事者とその支援者が実力を持って相対し、決着をつける。それが'審判の儀'!双方支援者を募れ。明日、広場にて中天に太陽が昇った時を'審判の儀'を開始する!参加者及び支援者は開始時間前までに会場に集合するように。以上じゃ!」
 
 支援者。それはそれぞれの訴えを聞き、どちらか片方に真ありと思った方に味方し戦う者。元々は真実を話していても力の弱い者の救済策としての制度なの。正しい者には力ある者が必ず力を貸す。それがドラゴンの矜持。
 周囲のドラゴン達はどちらに真があるかを話し合いを周囲と始めていた。ジャヤは、取り巻き達に自分の味方をする様に命令している。
 キーニャも自分の周りに居る仲の良いドラゴンに声をかけている。
「あ!リーヴァ!ねぇリーヴァも助けてよ!ドランに濡れ衣着せられちゃったんだから!」
 キーニャはあたしを見つけると、ドスドスと足音を立てて近づいてきた。
「た、大変だね…」
 あたしの喉から辛うじて出たのはそんな当たり障りの無い言葉だった。あたしには分からなかった。分かりたくなかった。どちらが正しいかなんて……。けどドランが嘘ついているようには思えないし、キーニャがジャヤ達と組んでそんなひどい事をするドラゴンだとは思えない。思いたくない。何かの間違いなんじゃないかって思いたい。
「ねぇリーヴァ。私は本当にアイツに呼び出されたの朝早くにね。本当は嫌だったんだけどドランの奴が妙に真剣な顔をしてたから何だろうって思って付いていってあげたの。そしたら愛の告白でしょ。だから私言ってやったの。私はブラックドラゴンの番になるつもりは無いってね。そしたら泣いて縋って来たのよ。気持ち悪いったらなかったわよ。それでも嫌よって断り続けたら。どっか飛んで行ってそれっきり。それで3年間行方不明だと思ってたら今度は私はドラゴン殺しですって!ホンと嫌になっちゃうわ。きっと私に振られた腹いせにあんな事言ったのよ。信じられない。リーヴァはあたしの味方をしてくれるよね?」
 早口でまくし立てるキーニャ。
「えっ?あっあたしは……」
「えっ!じゃあリーヴァは私じゃなくてドランを信じてるの?」
 キーニャは、悲しそうな声で私に言った。
「…正直に言うとどっちの言ってる事が正しいのかあたしには分からないわ。キーニャは小さい頃から一緒だし、ドランの事はあたしがずっと面倒見てきたからあんな嘘を言う奴じゃないし……」
「そう、残念ね。でもまだ時間はあるわ。明日までに良く考えておいて頂戴ね」
 キーニャは、そう言うと別の支援者を探しに行ってしまった。
 よし。ドランにもちゃんと話を聞かないとね。
 あたしは、あたりを見回した。
「あれっ?」
 思わずあたしは声を上げてしまった。ついさっきまでそこにいたはずのドランが何処にも見当たらなかったからだ。
「ちょっとドラン!何処言ったのよ!出てきなさい!」
 あたしの声が洞窟の中に響く。周囲のドラゴン達もドランがいつの間にか居なくなっている事に気がついたようだ。


 ドランは、ドランが住んでいた洞窟の前に居た。ドランの洞窟は、ドランが居なくなってから、ジャヤ達に良い様に荒らされてしまった。時々あたしが片付けをしていたけど、中にあったものは殆ど壊され、ただの何も無い洞窟になってしまっていた。
「あっこんな所に居た!ちょっとドラン!あんた支援者集めなくて良いの?」
 あたしは、ドランの隣に降り立った。
 翼も、もう無いのにどうやってドランは集会所の洞窟からここまで来れたの?そんな疑問が頭によぎるが、あたしはそんな事より明日の審判の儀の方が心配だった。
「リーヴァ…。集メる必要ハ無いヨ。僕ニ支援者は要らなイ。イや、支援ならモう受けてるかラ」
 ドランは、自分の洞窟の中に入ると懐かしそうに残った目を細めた。そしてかつて干草で出来たベットがあった位置に来るとそこに腰を下ろした。
「その…ドランの洞窟は、ジャヤ達に……」
「分かっテるヨ。ソんな事をスるのは連中しか居なイ。ケどそれヲ片付けてくれたノはリーヴァでシょ。アりがトう」
 ドランは、金属に覆われていない方の顔でぎこちなく微笑んだ。
 それはあたしが見た事のない微笑だった。子供の頃の様な無邪気な微笑でも、嫌な事を誤魔化す為の微笑でも、あたしだけに見せてくれた自然な微笑みでも無かった。
「ドランは、三年間どうやって暮らしてたの?」
「長の前デ言った通リ、ズっと傷ヲ直す為に臥セってたよ。まぁアレは臥せってイたとは言えなイかも知れナいけどね」
 ドランはその時の事を思い出したのか苦笑した。
「そろそろ暗クなル。リーヴァは、帰っタ方が良イ」
 ドランの言う通り、既に太陽は洞窟から見える西の山脈の影へと隠れようとしていた。
「でもあたしは、まだドランの話をちゃんと聞いてない!あたしがドランを探していたのはその為でもあるのよ!」
「聞ク必要は無イ」
 あたしはそのどうでもいいという言い方に腹が立ち声を荒げる。
「!?何、あんたは自分が信じて貰えなくて良いって思ってるの!?」
「信じテもらウ必要は無イ。真実ハ僕の中にあリ、タとえリーヴァが信ジてくれナくても揺ぎ無い」
「じゃあ!あたしがキーニャの味方しても良いって言うの!あんたほんと、どうしちゃったのよ!三年前のドランなら絶対そんな事言わないわ!」
「ソれが、リーヴァの判断ナら僕ハそれをドうこウ言うつもリは無イ」
「あんた!あたしに向かって!ヒッ!」
「…」
 太陽が山に完全に隠れ、真っ暗になる洞窟。そんな中ドランの左目だけが不気味に光る。あたしは、得体の知れない化物に深い深い闇の底から睨みつけられた様な錯覚に陥った。
 あたしが怯えた?それもドランに!?あり得ない!ありえないわ!
「もうっ!どうなっても知らないからねっ!」
 あたしは自分の感じた恐怖を誤魔化すように怒鳴るとドランの洞窟から飛び立った。

 ドラン、あんたはもうあたしの知っているドランじゃないの?



 そして翌日、審判の儀開始時刻前になった。太陽は天高く上り、後もう少しすれば中天に到達するはず。
 里の広場には、多くのドラゴンが集まっていた。
 ジャヤ達は、自分達の支援者を集めの為に最後の演説をしていた。もちろんその中にはキーニャが居て、自分が無実だという事を滔々と語っていた。
 キーニャは人当たりが良く、友人も多い。あたしもその交友関係の広さに助けられた事も有る。今も、彼女の支援者になると言う仲の良いドラゴン達に囲まれ笑っていた。元轟竜団のメンバーも何体かキーニャの支援者として参加するようだった。
 ドランはまだ広場には姿を現しては居なかった。

 あたしは…。あたしは、どちらの支援者にもなる事を選べなかった。ドランもキーニャもどちらも大切な友達で、はっきり言って二人が言っている事が両方間違いなんじゃないかって思える。
 
 石舞台に待機していた、長があたりを見回して言った。
「ドランの奴は、まだ来ておらんのか」
「はっ。一応探してはいるのですがまだ見つかっておりません」
 その長達のやり取りはジャヤ達に見られていた。ジャヤ達はそれをうれしそうに囃し立てる。
「なんだぁ?ドランの奴はまだ来てねぇのか!」
「どうせアイツの事だ。どうせ怖くなって逃げたんだろうよ」
「そうだな。どうせ今頃どっかでガクブルってんじゃねーか!?」
「「「ギャハハハ」」」
 ジャヤの取り巻き達が耳障りな声で大笑いする。
 違う。あのドランは逃げたりしない。あたしはそう直感した。
「ゴ心配にハ及ばないよ。僕ハここに居ル」
 その時、ドランが突然長の後ろに現れた。
「ぬぉおおお!ドランいったい今まで何処におったんじゃ!もう直ぐ審判の儀が始まるんじゃぞ!」
 歳と取ったといっても長は歴戦の勇士。それが背後を取られた事に驚いた。
 いえ、それ以前にドランがあそこまで行ったのに誰にも気づかなかったの?昨日もいつの間にか集会所の洞窟から居なくなってたし……。
「申し訳アりません。長」
「分かったのなら良い。では、皆の者!審判の儀を開始する。ジャヤ達は広場のワシから見て左へ、ドランは右へ行け!どちらも支援しないという物は広場から離れるのじゃ!」
 そしてジャヤ達とドランは、長の言うとおりに三手に分かれる。
 あたしはどちらも選ぶことが出来なかった。だから、広場を見下ろせる山の出っ張りに移動した。私の他にも誰の味方もしないが、審判の儀を見ようとするドラゴン達が、それぞれ広場の見やすい場所に移動した。
 ジャヤ達の周りには、里の若いドラゴンを中心に、かなり多くのドラゴン達が集まった。これはジャヤの取り巻き達だけじゃなくキーニャの交友関係の広さも関係しているのだろう。
 ドランの方にもドラゴンが集まっていく。集まっていったのは年齢の結構いったドラゴン達だ。常勝のオルートと無官のゼリアも居た。多くは大空の儀で優勝及び入賞した事のあるドラゴン達だった。有る意味、里の英雄大集合といっても良いくらいだった。そんな英雄達に声をかけられドランが目を白黒させていた。この時ばかりは以前のドランと変わらないように見えた。
 ひどいけど、これは驚いた。
 ドランも驚いて右目を丸くしていた。
 選べなかった私は、他の選ばなかったドラゴン達と一緒にその場にとどまってその様子を見ていた。
 長はこうなる事を予想していた様に頷くと声を張り上げた。
「それでは、審判の儀を開…」
「待っテくだサい!」
 突然ドランが大声を張り上げ、長の言葉を止める。
「…何じゃ。ドラン?」
 長が、いい所で止めないでよと言った表情でドランの方を向く。
「僕ハここで、以前大空ノ儀で優勝シた権利を使いまス!」
 突然のドランの申し出に周囲がざわつく。
「何じゃと!?…それは良いが、この審判の儀でおぬしが有利になるような事は出来ぬぞ?」
「分かってオります。僕は、僕一体デ審判の儀ニ挑みたいノです!」
「なにっ!?」
「ドラン、あんた一体何考えているの!?そんな事したら、あんたジャヤ達にボロボロにされちゃうじゃない!」
 思わずあたしも声を上げてしまった。
 ドランの望みに会場は騒然とする。
「僕の支援者とシて名乗り出てくダさった方には本当ニ感謝してイます!しかシ、これハ僕の戦い!僕だケの戦イ!ダから僕の支援者トして名乗リ出てくださっタ方達はどうカ、手を出さズ見てイて欲しイのでス!」
「ムムムゥ。しかし……」
「いいじゃねぇか長。ドランがそうするって言ってんだ」
「ハハハ。殊勝な奴だな。ご希望通りに、たっぷり可愛がってやるぜ」
 ドランのとんでもない望みにジャヤ達はテンションを上げる。長は、しばらく考え込むと口を開いた。
「分かった良いだろう。さぁドランの支援者達よ、その場から離れ、ドランの戦いを見届けよ」
「何でそうなるのよ!ドランが一体で勝てるわけ無いじゃない!ドランも早く取り消しなさい!」
「だまらっしゃい!里の長たるワシの判断じゃ。文句は言わせん!」
「……」
 ドランは、無言で支援者達に頭を下げた。支援者達はドランに、ヤケクソ気味に叱咤の声をかけると戦いを見届ける為に飛び立った。
 今まで、無数のドラゴンが集まっていた場所に居るのはドランのみ、ただ一体だけでジャヤ達を睨みつけている。
「なんで!何でそうなるのよ!ドラン!あんた死ぬ気なの!?あんたはブレスも吐けないし今は翼も無いのよ!あんたに勝てるわけ無いじゃない!」
「よせっ!ここにいる我々の口の出す事じゃない!」
 あたしは、声を上げたけど、もうあたしの声は、長にもドランにも届かない。あたしの周囲に居たドラゴン達にも窘められた。
 淡々と審判の儀を進めていく。儀式の口上が述べられ、双方の名前が呼ばれる。
「それでは、審判の儀…」
「待ってっ!」
 それでも、あたしは、必死に叫ぶ。けれど周りのドラゴン達に押さえ付けられ前に出ることすら出来ない。
 嫌だ!ドランが死んじゃう!
「…開始!」

 けれど無常にも審判の儀の開始が告げられた。

「おらっ!野郎共!やっちまえ!ブラックドラゴンの身の程を教えてやれ!」
「「「「ギャオアアアアアアア!」」」」
 ジャヤ達は、一斉にブレスを吐いた。
 ジャヤ達の吐いたブレスは、幕を作りドランがどの様に避けようとも絶対に当たるように放たれた。
 ドランはそれを見ても一歩も動かずその様子を見ていた。寒気がするほど冷たい目で。
 一番最初の放たれたブレスはドランの足元に着弾した。砂煙が盛大に吹き上がりドランの姿を隠す。
「ドラーーーン!」
「オラ!撃って撃って撃ちまくれ!帰ってきた事を後悔させてやれ!」
 ジャヤは偉そうに取り巻き達に指示出すだけで、自分はブレス一つ吐いては居ない。
 色とりどりのブレスが放たれ、ドランが居ると思われる砂煙目がけて次々と放たれる。
「あ、ああ」
「ありゃ、死んだな……」
 あたしを抑えていたドラゴン達の呟きが聞こえてくる。アレだけのブレスを浴びて生きているドラゴンはいない。そう思わせるだけの火力があった。
「よ~っし。止め。やめろっつってんだろ!」
 ジャヤが、攻撃を止める様にいい、興奮して言う事を聞かない取り巻きの一人を殴った。
 ドランの立っていた場所は砂煙で覆われて、ドランがどうなったか見る事は出来ない。
 ジャヤ達は砂煙が晴れ、ドランの死体が現れるのを今か今かと待っている。
 もうあたしの頭の中では、ドランがボロボロになってあの砂煙の中に倒れている場面がありありと浮かび上がる。
 そんな姿は見たくない!あたしは目を閉じて顔を下に向けた。

「おいなんだアレ!」
「なんだ、何か光ってるのか?」
 ゆっくりと砂煙が晴れるなか、砂煙の中心がぼんやりと光っていた。
 思わず目を開けて砂煙の方を見ると煙の中に光の繭の様な物があるのが見えた。
 次の瞬間、光の繭が強烈な風と共に解かれた。
 繭の中から現れたのは、傷一つおっていないドランの姿。それ以上に驚いたのがドランの背中から生えているモノ。
「ドラン…翼が……」
 ドランの背中には金属と光の膜で出来た翼が生えていた。翼はドランを覆っている背中の金属の一部が移動して翼の骨となり、その骨にある隙間から光る膜が出ているのが見えた。あたし達が光の繭だと思ったものは光の翼だった。
「何だあの翼は?」
 ジャヤ陣営の一体がつぶやく。
「マったく。本当ニジャヤ達ハ馬鹿の一つ覚えのヨうに、ブレスを僕ニ吐く。予想通り過ギて笑っちゃったヨ。ジゃあ今度はコっちかラ行くよ」
 その時フッとドランの姿消えた。
「どっ何処行きやがった!」
 突然姿を消したドランを見て、ジャヤ陣営が一気に浮き足立つ。
「探せ!どうせ近くにコソコソ隠れているだけだ!舐めた真似しやがって探し出して嬲り殺しにしてやる!」
 虚仮にされたと思ったジャヤがいきり立ち、取り巻き立ちに指示を出した。けど……
「ねぇ。何処見てるの?僕はここだよ」
 ドランは隠れてなんか居なかった。堂々とジャヤ達の上空を悠々と飛んでいた。金属で出来た左手にジャヤの隣に居た若いドラゴンの首を後ろから掴んだ状態で。
「なっ!いつの間に。ドヴェを離しやがれ!」
 ドヴェは、ジャヤの支援者の一人、最近ジャヤの一味に入った若いドラゴン。
 そのドヴェが首を掴まれたまま宙ぶらりんの状態で空に浮いている。ドヴェは、何とか掴まれた腕を外そうともがいているが、外れる様子は無い。
「何ヲ言っていル?コれは審判の儀。ブラックドラゴンがドヴェに審判ヲ下す、死ネ。それダけダ」
 あたりにキィィン!と聞きなれない音が響いた。その途端、ドランの左腕でもがいているドヴェの様子が変わる。もがいているのは変わらないけど、何か必死さが増し気がする。
「おい!アレ見ろ!」
「嘘だろ。首が……」
 ドランの機械の爪がどんどんドヴェの首に食い込んでいく。
 何て握力なの!
 ドラゴンの首の周りには強靭な鱗と筋肉が密集しているから首を絞めるなんてまずあり得ない。それが同じドラゴンであってもだ。
 
 けれどドランのしている事は、そんなモノじゃなかった。
 
 ブシッブチン!
 
 最初その様子を見た時、何かの間違いじゃないかと思った。けれど、目の前の光景はそれを否定する。
 ドヴェの首と胴体が二つに分かれ、胴体が地面に落ちていく。ジャヤ陣営の集まっている場所へ。
 ドチャとジャヤの前にドヴェの胴体が落ち、首からは夥しい量の血が噴出する。その血はジャヤを真っ赤に染め上げた。
「どウだジャヤ?ブラックドラゴンじゃナい血はうマいか?アハハハ!」
「てんめぇ!」
 ドンドンと尻尾を地面に叩きつけているジャヤは気づいているんだろうか?ドヴェが最初何処に居たのかを。ドヴェが最初に居たのはジャヤの隣。つまりドランはその気になっていれば、今首と胴体が物別れしていたのはジャヤであった事を。
「ほら、コイツもくれてやる」
 ドランは辛うじて左手の上に残っていたドヴェの首を右手で掴むと、ジャヤに向けて放り投げた。
「うおっ!」
 思わず、ジャヤはそれを手で払いのける。払い退けられたドヴェの首は、どちらの方にも組しなかった見学者達の方へ飛んできた。
「ひっ!まっまだ生きてる!」
 転がってきた生首が、助けを求めてこちらを見て口をパクパクと動かす。しかしその口から言葉が出ることは無く、しばらくすると動かなくなった。
「野郎!やっちまえ!」
 ジャヤの声であまりの出来事に固まっていたジャヤ陣営のドラゴン達が動き出した。
 多数のドラゴン達が空中に居るドラン目掛けてブレスを吐く、今度は光の翼で受けるような事はしないで、普通に避けていく。
 その隙にブレスを吐いていなかったドラゴン達が空に上がる。
「へっ!さすがに飛んでる時は、その翼で防御は出来ねぇ様だなぁ!囲んで袋にしちまえ!ただし、味方には当てんじゃねぇぞ!」
 ジャヤ陣営は、猛烈な弾幕を張りドランを攻撃していく
 その時あたしは見た。ドランの目に呆れが現れているのを。
 ドランは、徐々にスピードを上げていく、もうあたしの目にはドランの姿は掠れていて良く見えず、光の翼の残光を追いかけている状態だ。
「クソッなんて速さだ。一体なんだってんだあの翼はっ!」
 ブレスは一向に当たらず、逆に速さに翻弄され味方にブレスを当ててしまう始末。
 そしてドランの猛攻が始まる
 ドランがあるドラゴンの直ぐ横を通り過ぎた。
 横を通り過ぎられたドラゴンは、すぐさまドランに攻撃しようと首をドランの方に向けたがブレスを放つことは出来なかった。
 何故なら、そのドラゴンの胴体は横に真っ二つになっていたからだ。
「うぎゃああああああああああああああ!」
 真っ二つにされたドラゴンは、切られた自分の下半身を視界に入れたまま地面へと落ちていった。
「一つ」
 また別のドラゴンに向かって正面から飛んですれ違う。そこには前後で真っ二つになったドラゴンが真っ赤な血をばら撒いていた。
「二ツ」
 次に目をつけたのは後ろから執拗にドランを狙っていたブルードラゴンだ。ドランは反転してそのブルードラゴンを追いかけるとドランの惨殺に恐れをなしたのか、背中を見せて逃げ始めた。
「うああああああああ!来るな!来るなぁ!」
 目を付けられたブルードラゴンは、必死にブレスを吐きながら逃げた。他のドラゴンも追わせまいとブレスを吐いてブルードランを牽制する。
「そうカ、じゃあオ前が来イ」
 そう言うとドランは急停止して金属で出来た左腕を逃げていくブルードラゴンの方に向けた。バシュっと言う音と共に左腕の肘から先が飛び出した。
「何だよぉそれはぁーー!」
 腕が飛んでくるのを見たブルードラゴンは何とか避けようと方向変更するが、飛び出した腕の後ろから炎が吹き上がり、ブルードラゴンを追跡。そしてとうとう尻尾を掴んだ。
 飛び出した腕とドランは何か蔓の様な物で繋がっており、ドランとドランから離れようとするブルードラゴンの間でピーンと張った。
 ブルードラゴンは何とか外そうと尻尾を振るが、ドラゴンの首を握力だけて潰せる手から逃れられるわけが無い。がっちりと尻尾に爪が食い込んでいる。
「サぁ来なヨ」
 ドランが右腕でその蔓を掴みグイと引っ張った。
「誰が行くか!死ね!」
 ブルードラゴンは、掴まれた尻尾から腕を外すのを諦めてドランにブレスを吐く。
「サぁ来なヨ」
 ドランはそれをひょいと避けると、光の翼を一度大きく羽ばたかせた。
「うぉ!おおおおお」
 ものすごい力で引き寄せられたブルードラゴンは、バランスを崩し飛んでいられなくなった。ドランの左腕に付いた蔓のお陰で地面には落下しなかったが、それより酷い目にあった。
「はハ」
「おおおおお!ガッ!」
 ズドン!とドランはブルードラゴンをブンブンと振り回すと地面に叩き付けた。
「ハハハ!」
「助っ!グゲッ!」
 ズドン!
「アハハハ!」
「止め!ヴッ!」
 ズドン!
 執拗に何度も、何度も。ブルードラゴンを助けようとドランに向けてブレスを吐き、ドランがブレスを避けているその隙にブルードラゴンを助けようとするも、ドランは器用にその放たれたブレスにブルードラゴンを叩きつける事により防御した。そしてブレスを吐いてきたドラゴンに向かって叩きつけたりした。
 しばらくすると、ブルードラゴンはピクリとも動かなくなった。それを見たドランは舌打ちをしたと思うと今まで以上の速さでブルードラゴンを振り回し、最後に広場の中央へ叩き付けた。
 広場の中央に赤い血の花が咲いた。
 あたしの周囲は、その行為にドン引きした。

「これはやりすぎだろ…」
 たしかに、審判の儀では双方の参加者が死ぬ事は有る。けど、それは稀だ。何故なら審判の儀に参加したドラゴンは審判の儀が終わった後も当然この里で生きていく。審判の儀で卑怯卑劣な真似をしたドラゴンは儀式が終わったら総スカンを食らってしまう。そうなったらもう里で暮らしてはいけない。
 けれどドランはそんな事はお構いなしで次々とジャヤ陣営のドラゴンを無残に殺していっている。
「これじゃあ。審判じゃなくて処刑だよ……」
 ぼそりとあたしがつぶやきに周囲に居たドラゴン達が同意する。
「ああ、けどそれだけの深い恨みがあるんじゃろう」
 いつの間にかあたしの隣に居た長がが同情が篭った声で言った。
「けどあれじゃ!あんまりだ!」
 比較的歳の若いドラゴンが叫んだ。参加者には彼の友人も居るのかもしれない。
「ならお前、もし自分が大空の儀で優勝した翌日に翼をもがれ、ボロボロにされてロウーナン大森海に捨てられたとしても同じ事言えるか?」
「それは…けどっ!?」
「そういう奴が居るかもしれんから、ドランの奴は支援者を拒否したんじゃろうな」
 長は遠い目をしてそう言った。
 支援者には、相手支援者が降参した時にそれを認める権利がある。だが当事者の降参を認める権利は無い。当事者の降参を認める事が出来るのは相手の当事者のみ。
 支援者を拒否するというのは、唯一相手陣営を許せるのはドランのみ。そしてそれは誰一ドラゴンとて許す気は無いと言うドランの意思の表れ。
「この審判の儀。まだまだ死ぬぞ」
 
 長の言った事は的中する事になる。

「ウォードまで殺しやがった!!全員近くに居る奴とペアを組め!それで、アイツが誰かを狙おうとしたら後ろからブレスをかましてやれ!例えあの変な腕に掴まれてもペアの奴がいれば逆にアイツを地面に叩きつけてやる事が出来る!」
「「「おう!」」」
 士気が落ち掛けた味方をジャヤが叱咤し、何とか士気を保つ。意外にもジャヤの指揮はまともで、チンピラといえど集団をうまく纏めている。
「はハは!ドラゴンが集団戦とハ堕ちたモのだね!ヤっぱりチンピラは一人ジゃ何にも出来ナい!」
 それを見たドランは不敵に笑い、挑発する。
「ドラン!殺してやる!」
 そこから一気にすさまじい空中戦へと突入した。
 基本的にドランを二体のドラゴンで後ろから追いかけながらブレスで攻撃し、追いかけないドラゴン達はドランの進路に向けてブレスを吐く。
 
 進路を妨害されているドランはターゲットを絞る事が出来ず、右に左にと避け続ける事しか出来て居ない。でも……。
「どうしタ!ぜンぜン当たらナいぞ!」
 ドランは、無数に飛んでくる火球をまるで飛んでくる方向が分かっているかの様に避けている。
「まるで、ブレスを率いて飛んでるみたい」
 死が隣り合わせの戦いなのにあたしはその光景をきれいだと思った。

「面倒ニなって来たな。お遊びはココまでだ!来い!大いなるギ!」
 お遊び?今までの戦いが?嘘でしょ?それに大いなるギドラ?何それ?
 するとあたし達の耳にキィィンという音が聞こえてきた。この音は段々と大きくなっていき何かが近づいてきていることが分かる。
 周りに居たドラゴン達もキョロキョロとあたりを見回した。
「おいアレ何だ!何か飛んでくるぞ!」
 さっきブラウンドラゴンと言いあっていた若いドラゴンが空を爪で指した。
 指された方向を見ると何かが飛んできているのが見えた。
 形は一言で例えるなら太い丸太のような形をした金属。ただ進行方向にある先端は先の丸い円錐で後端は、ドランの左腕の様に勢い良く炎を吹き出していた。それは、迷うことなくドランの方へと飛んでいく。
 ドランもそれに進行方向を合わせ飛んでいく。そして飛んできたそれがドランの真上を飛んだ時、変化が起きた。突然それが小爆発を繰り返したの。すると後端の炎を吹き出している部分以外が卵の殻が割れるように金属の丸太が壊れ、中から何かが姿を現した。
 中から出てきたのは二本の金属の丸太の様な物が生えた複雑な箱のように私は見えた。それが何か確認する前に今度はドランが動いた。ドランはそれと平行に飛びながら上昇し、どんどんそれとの距離を詰めていく。そしてとうとう箱型の何かが背中に接触した。そしてまた小爆発が起き、今度は炎を吹き出していた部分が吹き飛んだ。しかし、箱だけはドランの背中に残っていた。どう言う仕組みか分からないけどドランの背中にくっついたのだろう。
 今度は、箱から伸びている二本の金属の丸太が動き出した。丸太はドランの肩に移動するとドランの肩にガシン!と言う音と共にくっ付く。そしてまた小爆発。爆発したのはドランの肩にくっ付いた丸太の先端。先端が割れるとそこには金属で出来たドラゴンの顔があった。金属で出来たドラゴンの目に光が入り、ドランが上昇する様に空中で停止し、ジャヤ陣営の方を向いた。当然のように金属のドラゴンもジャヤ達を睨みつける。
「合体完了。サぁ、覚悟は良イな?」
『『GYAAAAAAOOOOOOOOOHHH!』』
 ドランの声に合わせて、左右にくっ付いた金属のドラゴンが咆哮する。
 光の翼を持ち、金属を体に纏う三つ首のドラゴン。
 今まで誰も考えも良しなかった異形のドラゴンに誰も声もでない。ジャヤ達も、攻撃を忘れて、その姿を見ていた。
「こっこけおどしだ!作戦は変わらねぇ!やっちまえ!」
 いち早く我を取り戻したジャヤが再度攻撃命令を出した。
「お、おう。いくぞ!」
「わっわかった」
 イエロードラゴンが先行し、グリーンドラゴンがその後に続く。
「喰らえ!」
「死ねぇ!」
 二体のドラゴンは正面からドランに向けてブレスを吐いた。二体が全力で放ったであろう二つの火球は、ドランへ向かって飛んでいく。しかしドランはそれを見てももう避けようとすらしなかった。
「フン」
 ドランは体を傾け光の翼の片方で半身を包むと、火球が当たるタイミングで翼を振るう。すると火球はいとも簡単に消えてしまった。
「死ぬノはオ前らだ」
 ドランがそう言うと、金属で出来たドラゴンの首がまるで意志を持ったかの様に動いた。二つの頭はそれぞれドランに向かって飛んでくるドラゴンの方に顔を向け首を伸ばすと大きく口を開いた。
『『  』』
 次の瞬間、二つの口からまるで雷の様なブレスが放たれた。
「なっ!」
「えっ!」
 それがドランに向かっていったドラゴンの最後の言葉だった。
 金属のドラゴンヘッドが放ったブレスは、二体のドラゴンに命中すると、まるで内部から爆発したかの様に火花を散らしながらドラゴンの肉体を破壊した。バラバラになったドラゴンの肉片がその威力を物語っている。
 ドランはその様子を見ても表情を一切変えず、次の獲物に向かい始めた。ジャヤ陣営は突然ブレスを吐き出したドランに対し大混乱に陥った。
「何でブラックドラゴンの癖にブレスを吐けるんだよぉ!」
「こんな話聞いてないわよっ!」
「ふざけんな!」
 ドランをただ数に任せてボコボコにするだけな簡単な儀式だと思っていたドラゴン達が泣き言を言い始めていた。
「ねぇ!キーニャどうなってるのよ!」
「私だって知らないわよっ!それより来るわ!」
 一体のドラゴンがジャヤのそばを飛んでいたキーニャに文句を言う。キーニャも混乱しながらも言い返す。普段人当たりの良いキーニャとは別のドラゴンの様だった。
「全員固まるな!散開して、後ろから狙え!」
 ジャヤが指示を出している間にもドランは次々とドラゴンを屠っていく。
「いやぁあああああ!」
「助けて!ヘギッ!」
「来るな!くるぁあああああああああ!」
 ドランのブレスをくらい。肉を弾けされながら堕ちていく味方を見たジャヤ陣営は蜘蛛の子を散らす様に逃げ始める。

 その光景にあたし達は絶句する事しか出来なかった。
「何だあのブレスは…?」
「一撃で…あの威力?」
「そもそもアレはブレスなのか?あのドランに向かって飛んできた金属で出来た頭の力じゃないのか?」
「でもそれって卑怯じゃないか?」
「…掟には、そういう事は無い。そもそも我々ドラゴンをまともに傷つける事ができるのはドラゴンのブレスと爪と牙のみ。依然行った審判の儀では有るドラゴンが大樹の森の木を使って戦った事がある。そしてそれは当時の長に問題無いと判断された。まぁそれは傷一つ相手に負わすことは無かったがの。ゆえにドランの…金属の頭?も一応問題は無い。ただ、ドラゴンを一撃で倒す武器(?)があるとはのう…。これも時代の流れか……」
 
 ジャヤはドンドン悪くなっていく状況にイライラしているようだった。ただムカつくドランを完全に叩きのめして、無様に這い蹲らせてやろうと考えていたのだろう。しかし、現状はドランの圧倒的火力と機動力によって味方が蹂躙されている。プライドの高いジャヤにとって到底許せる様な状況ではない。「チッ!全員散開して大樹の森へ向かえ!そこなら隠れる事ができる!」
 それを耳にしたドランが攻撃を中断してジャヤの方を向くと嘲る様に挑発した。
「ブラックドラゴンを相手ニ逃げ隠れスるのか?」
「うるさい!訳の分からないものを使う卑怯者が!」
 ジャヤが、遠くから叫ぶ。
「卑怯?アはははは!」
「何がおかしい!!」
 ここでジャヤ自身がドランに向かって行かないのは、本心では今のドランに敵わないと心の底では理解してるんじゃないかと思う。
「僕を騙しテおびき出しテ、後ろカら不意打ち。そノ後集団で僕ヲ殺そうトしたくせに、コの程度デ卑怯?本当ニ笑わせてくれるネ」
 他のドラゴン達は、この隙に大樹の森の方へと逃げ出していた。
「てめぇは必ず俺がぶっ殺す!」
「逃げレば良イ。僕は必ずオ前を絶望のドん底へ突き落としてヤる」
『『GYAUGAAAAAAAAAAAA!』』
「チッ!」
 ジャヤは、逃げた味方と合流する為に大樹の森へとその身を翻した。ドランはその様子をただ黙って見送った。

 戦いの舞台は大樹の森へと移った。
 あたし達の居る場所は広場と広場の上空は見やすいが大樹の森は山が邪魔して見えない。だからあたし達は見える場所へと移動する。途中あたしは長にもう審判の儀を止めてくれるようにお願いした。
「長、もう止めてください!こんなに仲間が死んでしまってるんですよ?」
「儀式を途中で止める事は出来ん。いや、しても無駄じゃろう。もし中止してもドランが止まらん」
「そんな事ありません!ドランはあたしが止めます!」
「お前にそんな権利があると思っているのか?」
「えっ!?」
「お前は確かに幼い頃よりドランの世話をし、一緒に育ってきた。
まわりから馬鹿にされ良く拗ねなかったものじゃとわしも思う。
ドランが何を思って大空の儀で優勝しようと思ったかは知らん。
だが、その無謀とも言える願いを叶えた。血の滲む様な努力じゃったろう。
しかし、ドランはその望みを叶えた翌日に自らの翼を奪われた。おぬし想像したことがあるか?自らの翼が無残に奪われるのを?ワシは一晩考えた。わしは許せ無かったよ。例え相手がどんなに謝ろうとも、慈悲を乞おうとも。ワシは許せなかった。ワシはワシに出来ない事を相手にしろとは言えん」
「長は、ドランの言っている事を信じているのですね」
「お前はあの目を見なかったのか?あの目は、絶望を見た目じゃ。憎しみに燃えた目じゃ。そんな者が下らない嘘などつくとは思えん。しかし証拠は無い。ならドランの好きさせるのが良いと思ったのじゃ。あやつは今憎しみで生きておる。逆言えば奴は憎しみが無ければ生きては居ないのじゃ。もしここでワシが儀式を止めたとしてもドランは止まらん。ワシを殺して、あやつらを皆殺しするじゃろう。それが今の奴にとって生きるという事。止めるという事はあやつに死ねと言う事。幼馴染のお前はドランに死ねと言いうのか?」
「あたしは……」
 あたしはその問いに答える事が出来なかった。

 あたし達がやって来たのは大空の儀のスタート地点でもある山の頂上。ここからなら大樹の森を見渡す事ができる。
 ジャヤ陣営に就いたドラゴン達は次々と大樹の森に逃げ込んだ。もちろんジャヤもだ。
 あたし達のいる位置からは、木々が邪魔をしてもう何処居るかも分からない。
「フム」
 ドランが大樹の森の手前上空まで来ると、そこで一旦止まった。
「聞ケ!罪人どモよ!例え逃ゲ隠れしよウとも僕ハ絶対探し出し、殺ス!残り少なイ寿命をガタガタ震えなガら待ってイろ!」
 当然ながら返事は無い。
 ドランはゆっくりと前に進みだした。
 そして大樹の森の上空に来るとゆっくりと遊弋しながら手当たり次第に金属で出来た頭からブレスを放った。
 ブレスの威力はすさまじく、普通のドラゴンのブレスでもなかなか倒れない巨木を意図も簡単に破壊し、地面に深い傷跡を作る。
「ううぁあああああああああああ!」
「いぎぃいいいいいいいい!」
「あああああああああああ!」
 しかも、ドランにはジャヤ陣営のドラゴンが何処に隠れているのかが分かるか。ブレスが放たれるたびにドラゴンの悲鳴が上がる。
 その時一体のドラゴンが手を挙げた状態でドランの前に現れた。恐怖に負けて、ドランに命乞いの為に出てきたのだ。
「もう嫌だ!俺は降参する!謝るから許してくれ!なぁ許してくれよ!俺ぁ、キーニャとジャヤの野郎に騙されただけなんだ!」
 あれは、たしかジャヤ達の支援者として儀式に参加したドラゴン……。
 あたし達は、降参したドラゴンを如何するか固唾を呑んで見守る事しか出来ない。
「嫌ダ許さなイ」
「へ?」
 ドランは悩むそぶりもせずに、そのドラゴンに向かって攻撃した。そのドラゴンに向かって放たれたブレスは丁度頭に当たり、頭が爆発四散した。

「そんな!アイツは降参して謝ったのに!」
 若いドラゴンが叫んだ。
「だからなんじゃ?それで許されるとでも思っておるのか?きっとジャヤの連中はこの儀式でドランを殺そうと考えているじゃろう。ならば逆に殺されても文句は言えまい。審判の儀はの、謝ったから、降参したから終わりという物ではない。命を掛けて自らの証を立てる儀式じゃ。最近は謝れば許して貰えるとか考えている愚か者が多いがの……」
「……」
「あやつは、死ぬ覚悟をしておる。いや、もう死んでるのかもしれんな」
 最後の一言は独り言のようで、あたしの耳に辛うじて聞こえた。

 大樹の森の一部が焼き払われ、真っ黒にこげた土地がむき出しになっている。そしてドラゴンの死体が大量に転がっていた。まともな死体など無い。頭が無い、腕が無いのは当たり前で、内蔵が全てまろび出ている、大木に虫の様に潰されている物もいた。
 まだ辛うじて生きているものも居るが、既に虫の息。中には「殺して」と繰り返しつぶやいているドラゴンもした。
 ジャヤ陣営でまともな状態なのはもうジャヤとキーニャだけだ。
「クソクソクソ!皆、皆殺しやがって!」
 森から飛び出したジャヤが無謀とも思える単身突撃した。
「ドーラーン!」
 ジャヤは口からブレスを連続で放ちながら突撃してくる
 ドランはやすやすとそれを避けていく。
「死ぃーねー!」
 ブレスを避ける事に集中している隙にドランに組み付こうとするジャヤ。
 しかし、ドランはそんな事はお見通しとばかりに体上にそらして、ジャヤの噛み付きを避ける。そのまま後ろに一回転してついでに尻尾で何も無い場所に噛み付いているジャヤの顎を打ち上げる。
「がふっ!?」
 ジャヤ放物線を描いて舞った。けどドランは更に攻撃を加える。金属の頭の口が開き、強烈なブレスをお見舞いする。
 その攻撃で更に勢いが付いて飛んでいくジャヤに今度は金属の左手をむけ、発射した。
 飛び出した左手は、錐もみ状態で飛んでいるジャヤの尻尾を簡単に掴んだ。
「オオオオオオオオオオ!」
 そして、そのままドランを中心にグルングルンと振り回して更に勢いをつけると、地面に向けてジャヤを解き放った。
 ジャヤは何本もの大樹をへし折りながら森の中を飛ばされていった。最後には大樹の森で一番大きな木の幹に叩きつけられた後地面に落ちた。
 
 圧倒的戦力差だったドランはジャヤを赤子の手を捻る様に痛めつけていた。
 
 ボロボロになったジャヤの前にドランが下りる。ドランの前で這い蹲るなど死んでも嫌なのだろう。ドランはゆっくりと歩いてジャヤの前に立つ。
 ジャヤの最後の意地か、木に背中を預けた状態で立つ。
「良いじゃねぇか!前より速く飛べる翼、強力なブレス、そして強靭な体!喜べよ!俺のお陰でそんなに強くなったんじゃねぇか!俺はキーニャにそそのかされただけなんだよ!そうだ!あいつだ!あいつがキーニャが悪いんだ!」
「良カった?良カったと言っタかジャヤ!アあ、確かにコの翼は三年前ノ僕よリ速く飛べル!けドな!これハ僕の翼ジゃなイ!僕の翼ハお前ガ三年前引きちぎっタ翼なんだよっ!あノ翼だケが僕の僕ダけの翼なンだ!良カった?ふざけルな!…そうカ、分かッた。お前はここで殺してやろうと思ったが止めた。お前には死すら生ぬるいと思える生をくれてやる」
 ドランはそう怒鳴ると左腕をジャヤに見えるように持って来る。
 ヴィン!と言う音がしたと思うと光の棒がドランの左腕から生える。そして無言でそれをジャヤの右腕に振り下ろした。
「があああああああああああああ」
 ジャヤの右腕が肉が焼ける匂いをさせながら落ちた。いや、切り落とされた。傷口からは何故か血は殆ど出ていなかった。
「安心シろ。死にはしなイ」
 ドランはそれからジャヤの四肢と尻尾を全てを切り落とした。絶叫に告ぐ絶叫。若いドラゴンはあまりの光景に目を閉じ、耳をふさいだ。
「があああああああああああああ」
 けれど、無駄に優秀なドラゴンの聴覚はジャヤの悲鳴を克明に伝えてくる。若いドラゴンは目を瞑った分、余計鮮明になった悲鳴にガタガタと震えている。
「な…でも…する。や、やめ…」
「ナぁジャヤ。お前ハ僕がソう言っタ時なんテ言っタか覚えテる?」
「ひっ!」
「僕ノ答えはソれだ」
 言い終わるとドランは右手でジャヤの首を捕まえ持ち上げる。そして金属の頭が大きく口を開け、ジャヤの背中にある翼に勢い良く噛み付いた。何度も何度も端から順に執拗に執拗に口を開閉させベキベキと翼の骨を噛み砕く。
「あぎああああああああああああああああああ!」
 そして最後にプチンと翼を引き千切った。そして金属の頭が火を噴いて傷を焼く。
 あれじゃあ、もう治療する事もできない。
「ああ、そうだ。コイツはおまけだ」
 そう言うとドランは右手でジャヤの首を掴み持ち上げる。
「もっもうや…」
「なに、直ぐ済む」
 そしてドランは左手の爪をジャヤの胴体に突き刺すと直ぐに引き抜いた。
「ぐぅ!なっ何を…」
「何をしたかって?ああ、教えてやるとも。お前はもう歩けない、モノを持てない、飛べない、ブレスを吐けないドラゴンになったんだ」
「え?」
「はハはハはハはっ!そレってドラゴンって言うのカな?ネぇジャヤ?歩けテも、モノを持ててモ、飛べテも、ブレスを吐けナいドラゴンはドラゴンじゃないんダよね?じゃア、今のお前ハ何なのカな?アハハハハハっ!」
 さも楽しそうに笑っていたドランは、突然真顔に戻ると冷たい声で言った。
「お前はソのまま。そのまマで生きテいけ。地を這イ、泥をすスり、他のドラゴンに縋リ付いて生きルがいい。そレで僕ハ'許そう'」
「あ…ああ……ああああああああああああああ!殺して!殺してくれぇえええええええええええええええええ!お俺を殺してくれよぉおおおおおおおおおおおおおお!」
 ジャヤはドランに許された。これ以降ドランはジャヤを攻撃する事は無い。
 ドランは叫び続けるジャヤを無視し、最後の復讐相手となるキーニャを探し始めた。

 あたしはその様子を見てぶるぶると震える事しか出来なかった。でもドランはその事をキーニャにもしようとしてる。
 動け動け動け!あたしの体!見ているだけじゃダメなんだ!
 
 キーニャは審判の儀が開始されてから今まで一度もドランを攻撃に参加していない。最初にジャヤ陣営のほぼすべてのドラゴンがドランに向かってブレスを吐いた際もキーニャは吐いていなかった。

 キーニャは、大樹の森を出て低空飛行をしながら全速力でこちらに向かって飛んでいた。必死な顔をして。
「見つケた」
 ドランは一際光の翼を大きくして一気に加速した。すごい速さでキーニャの上を取った。
「何処に行ク気だ?」
「ヒッ!」
 キーニャが引きつった顔で首を捻り上を見る。ドランはその顔を目掛けてダイブキックを敢行した。モロにダイブキックを喰らったキーニャは流れ星の様な軌道を描き、地面に落下する。落下してからも勢いは止まらず、 盛大に土煙を上げながら地面を顔面で削る。何故ならドランがずっと頭を足で押さえつけているからだ。

 止まったのは丁度あたし達が大樹の森での戦いを見ていた場所の下だった。ドランはキーニャが止まった所でようやく上から飛びのいた。
「うぎゃあああああああああああ!顔がっ目がっああああああああああああああああ!痛いーーーーーーーーーー!」
 キーニャは、大声で喚きながら、地面を転がった。
「私の顔がぁあああ!ひぃいいいいいいいいい!」
 ドランはその様子をただただ冷静に眺めていた。

「酷い…」
 そうキーニャの顔は酷い事になっていた。キーニャが顔を傾けている所をドランに蹴られその状態のまま地面に擦り付けられた為に右目は潰れ、顔の皮膚も削り取られて骨が一部見えていた。
 里で可愛いと評判だった顔は見るも無残に壊されていた。あれでは傷が治ったとしても元の顔には戻らないだろう。自分の顔に自信を持っていたキーニャは酷く落ち込むだろう。

「痛いカ?顔が」
 ドランが一歩近づくとそれに気がついたキーニャが後ずさる。
「ひっ!ひぃいいいいいいいいいいい!ごめんなさいごめんなさい!」
「ナぁキーニャ。何故アんな事をしタ。そんナに僕ガ憎かったカ?殺したイ程憎かっタか?あんタは何故アんな事をシた?」
 怒りを押し殺したような声でキーニャに問いかける。しかし、キーニャの口から出たのはその答えではなかった。
「助けて!リーヴァ!私死にたくないよぉ!ねぇ助けてよ!リーヴァああああああああ!」
「答エろっ!」
 質問に答えないキーニャを尻尾で横殴りに吹き飛ばす。吹き飛ばされたキーニャはごつごつとした地面を転がる。

「わかっておるな?行ってはならぬぞリーヴァ。お主はこの儀式に参加しておらぬ」
 その様子を見ていた長はあたしに言った。
「…はい」
 あたしは長の問いに頷きはしたけど、あたしの中には二人が殺しあって欲しくないという思いがどうにも拭いきれない。

「早くして私ドランに殺されちゃうよぉ!ねぇ!リーヴァーー!」
 キーニャは倒れたまま山の上で見ているあたしに手を伸ばして叫ぶ。
「コの期に及ンで、自ら戦ワず、審判の儀に参加してイない者に助ケを求めるカっ!」
「助けてくれるのはリーヴァしかいないの!助けて!」
 それでもキーニャはこちらに這いずりながら手を伸ばす。
「…もうイい。理由ナんてドうでも良イ」
 ドランの左腕から再び光の柱が伸びる。キーニャが振り返った。何をされるのか分かったのだろう。更に大きな声を出して叫ぶ。
「嫌!いやぁああああああああああああ!リーヴァ!リーヴァーー!」
 体の向きをドランの方へ変え、腕で防御するように前に出す。だけどドランの出した光の棒の前には何の役にも立たなかった。
 だらんと下に下げていた腕を振り上げるとキーニャの伸ばしていた右腕が付け根から中を舞う。
「ゲヒィイイイイイイイイイイ!」
 青い空にキーニャの悲鳴が響く。
 キーニャはドランに背を向けて空に飛び立った。まだ逃げるつもりなのだろう。
「ソうイえばオ前は僕の翼ニ穴を開けたんだったナ」
 ドランの右肩に乗っている金属の頭が首をもたげキーニャの方へ向けられる。
『 』
 放たれたのはまるで白竜が放つブレスのような光線。それはキーニャの翼に大きな穴を開けた。
「きゃあああああああああ!」
 翼に穴を開けられバランスを崩したキーニャは再び地面に落ちた。
 先ほどより、あたし立ちの居る場所に落ちたキーニャ。今では削れた顔の傷の様子がより一層はっきりと見える。

「ねぇ。リ…ヴァ。助…けて。死に…たくないよ…」
 キーニャはうつ伏せで残った右腕をあたしの方に伸ばす。
「マだそノ口で、囀るのカ。ナら、お前ノ喉を潰ス」
 ドランはその後ろに降り立つと光の棒を出した。
「リ…ヴァ。リ…ヴァ」
 ドランが光の棒をキーニャに突き刺す為に構えた。

 あたしの体は、無意識のうちに動いていた。
「リーヴァ、待たんか!」
 長があたしを行かせまいと手を伸ばすがその手は空を切る。

「ダメ!待って!ドラン!」
 気がつくと私はドランに抱きついていた。
 ドランの体は冷たかった。それがどうしようもなくあたしは悲しかった。
「リーヴァ。ドいてくれ。君は審判ノ儀の参加者でハない」
「ドランもう良いじゃない!もうみんなドランが正しい事は分かってるよ。だからもう止めよ」
「僕はネ。誰かニ正しいと思われたいかラこの審判の儀ヲ開催したんじゃナい。タだ合法的ニ復讐する為ニやったンだ。真実?そンなモノは最初かラ僕の中にアる。僕ノ体に刻ミ付けらレていル」
「嫌だ!嫌だよドラン!」
「ネぇ、僕が何ヲ目的にシて生きてキたと思ってルの?翼を奪ワれ、体もボロボロ。何とカ今は動ける様になっタ、けど直らナかった所もあル。もう僕の生キる目的は復讐しカない。僕のコんな体にシた連中に地獄ヲ見せてやる事だケだ!それナのに僕ニそれヲ諦めロと言うノか?それハ僕に死ネと言っテいる様ナものだよ?リーヴァ君は僕ニ死ねト言うのか!?」
「違う!違う!違う!あたしは!もう苦しんでいる姿を見たくないだけ!」
「そレはリーヴァの我侭ダ!」
「そうあたしの我侭だ!けど子分は親分の言う事を聞かなきゃならないんだぞ!だからドランはあたしの言う事聞かなきゃいけないんだ!」
 一体あたしは何を言ってるんだ?あたしはドランの受けた仕打ちも、その絶望も良く分かっちゃいないのに。
「リーヴァ僕達はモう子供じゃナいんだ。今ならマだ間に合う。離しテくれ。ソうしなイと君はモう里に居らレないよ?」
 ドランは今までの冷たい声とは一変した優しい声で言った。
 そうだ。あたしは今掟を破っている。それも長の目の前で。一刻も早く離さなきゃいけないのに。
「嫌だ!」
けれどあたしの口から出るのは嫌だの一言だった。
「あたしはドランと一緒じゃなきゃ嫌なの!あんたはずっとあたしと一緒に居なきゃいけないんだから!」
 ああ、あたしはドランが好きなんだ。どんな無茶を言ってもあたしについて来てくれていたドランが好きなんだ!
「へっナっ何を…言っテいる?」
「もうこの里に心配するドラゴンはもう居ないなんて言わせない!何故ならあたしとドランは番になるんだから!」
 あたしは何を言ってるんだ?ああもうこのまま突っ走ってやれ!
「ほへ?」
 あたしはドランから手を離し、後ろに下がる。ドランの顔を見るためだ。
 ドランの顔は完全に呆けていた。光の翼は消え、ドランの左右に付いた金属の首でさえあんぐりと大きく口を開けていた。
 けれどドランは呆けているばかりで一向に返事が無い。
 あたしの一世一代の告白だったのに。イライラした私はつい大声を出した。
「返事はっ!ドラン!」
「はっハい」
「良し!」
 
 その時、あたしの直ぐ傍を何かが通り過ぎた。そしてドランの首がゴロリと地面に落ちた。

「えっ?」
 ブシャー!とドランの首から大量の血液が噴出した。噴出した血が重力に捕まり雨の様にあたしの体に降りそそいだ。
「な…ん…で」
 ドランの体がふらふらと揺れ、ドランの両肩にあった金属の頭の目から光が消える。あたしはドランの体をとっさに抱きかかえた。
 あたしには何が起こったのかわからない。
 何でドランの首があたしの前に落ちてるの?
 何であたしはドランの血で濡れているの?

 何でこんな状況でキーニャは笑っているの?

「きゃははははははははははははははははは!やった!やったよ!リーヴァ!」
 キーニャ?何を言ってるの?
「ありがとうリーヴァ!あたしが勝てたのは貴方のお陰よ!リーヴァがドランのあの気味悪い翼を消してくれたお陰で、アイツの首をあたしの自慢の水刃のブレスで切り飛ばすことが出来たわ!私リーヴァが助けてくれるって信じてた!リーヴァは私の味方だって!」
 違う。
「けどごめんなさい。演技とは言え、ドランなんかに告白させちゃって。気持ち悪かったでしょう?」
 違う。
「ブラックドラゴンのドランなんかに、リーヴァが告白するわけないでしょ!ホンと馬鹿じゃないの!」
 違うっ!あたしは!二人とも助けたかったんだ!誰かの味方をしたわけじゃない!
「ああ!かわいそうなリーヴァ!ドランの薄汚い血にまみれてしまって!ドランなんてあの時大人しく死んでれば良かったのよ!」
「…あの時?」
「まったくジャヤの奴も情けないったらありゃしない!あたしがお膳立てしてやったのにブラックドラゴン一匹殺せないんだから!何であたしがこんな目に合わなきゃらならないのよ!」
 唐突に始まったキーニャの罪の告白。あたしの頭の中は真っ白になった。
 それでも明確に理解できることがあった。
 許せない。
「ああ、ああ。あああああああああああああああああああああああああああああ!」
 それはあたしの口から出ているのは殺意の咆哮であった。
 そうだ。殺そう。こいつを。ドランをコロシタ。
 アタシノドランヲ。アタシノ…アタシダケノっ!
 コイツヲコロソウ。
 コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!
「コロシテヤル」
 その時、あたし達はあり得ない声を聞いた。
『『それは僕がすべき事だよリーヴァ』』
 同時にあたしが抱きとめていたドランの体が何事も無かったように動き出す。もちろん頭の無い状態で。
『『そいつに僕は殺せない』』
 喋っていたのはドランの両肩に付いた金属の頭だった。いつの間にか目には光が戻り、生き生きと動いている。首の切断面は血が止まっていた。
「なっなんで?なんであんたは、首がないのに動いているのよ!」
 ドランの二つの頭は、
『『教えてあげよう。僕の魂の器はね。三年前にもう殆どジャヤ達のせいでかなり壊れてしまったんだよ。それは僕を助けてくれた方ですら治療できない程にね』』
 魂の器、それはドラゴンの……いえ、すべての生き物の頭の中にある大事な物。それが壊れてしまえば、たとえ体に傷一つ無くても魂が体の外に流れ出てしまい死んでしまうと言われている物。
 ならドランは、もう死んでしまっていると言う事。
『『けどあの方は諦めなかった。簡単に言えば、壊れてしまった魂の器からこぼれた魂を別の魂の器に入れると言う、とても信じられない方法で僕を助けてくれた』』
「!」
「嘘よ!!」
『『信じるも信じないもそっちの自由だ。けど僕はそのお陰で助かった。問題はが無かったわけじゃない。新しい魂の器は頭には大きすぎて入りきれなかった。だからその方と相談して体の方に魂の器を入れることにした。はは、それが功を奏するとは思わなかったけどね』』
 ドランは優しくあたしの体をどけると、キーニャに向けて歩き出した。
「ひゃっ!」
『『反省もなし、友情を利用した不意討ち、本当にお前には救いがない』』
「ごめんなさい。ごめんなさい!私は、ジャヤに命令されたのよ!ドランを連れてこないと酷い事するって!それで…あんな事になるなんて知らなかったのよ!私は被害者よ!貴方と同じ、だから許してよ!同じ轟竜団の仲間だったじゃない!」
『『しかも己の罪を他者になすりつけ、自らを無実と言い張る』』
 キーニャは、怒り心頭という様子のドランの説得を諦め、またあたしに助けを求めてきた。
「リーヴァ!助けて!ねぇねぇってば!」
 あたしは、勤めて冷たい視線をキーニャに向けて、言った。
「キーニャ、あなたのした事は分かった。私はもうあんたを助けないし、友達とすら思わない」
「えっ?」
 キーニャは信じられないといった表情であたしを見た。あたしは、キーニャに背を向け、歩き出した。
「待って!待ってよリーヴァ!リーヴァ!リーヴァァァ!嫌っ嫌ァアアアアアアアアアアアアアア!」
『『終わりの時間だ』』
 あたしを求めたキーニャの声は途中から絶叫へと変わった。ドランが制裁を下しているのだろう。
 卑怯者のあたしはそれを見る事が出来なかった。例え殺されても文句の言えないような事をした元仲間であっても、あたしは苦しむ姿を見たくなかった。

 どれ位時間が過ぎただろうか、ほんのちょっとの時間だったかもしれないし、かなり時間がたっていたかもしれない。唐突にキーニャの絶叫が止まった。
 振り向いてみると、ドランの前に黒い塊が落ちていた。
 キーニャだった。ジャヤと同じ様に四肢を切り離され、翼をもがれ、そして全身を真っ黒に焼かれていた。
 ただ、まだ生きているらしく弱弱しくだが呼吸していた。
『『殺しはしてないよ。ジャヤと同じく、地を這い、泥をすすり、他のドラゴンに縋り付いて生きろ。それで僕は'許そう'』』

 こうして審判の儀は終わった。

『『ああ、これで僕の復讐は終わった……』』
 ドランは金属の頭を持ち上げて空を見上げた。太陽は既に傾き、赤い赤い夕日になっていた。もうしばらくしたら山の向こうに日が沈むだろう。
「あのドランこれ……」
 あたしは、近寄って拾ったドランの本来の頭を差し出した。
『『僕の頭か…どうしようか?あの方だったらまた僕の首にくっ付けてくれるかな?』』
 ドランは自分の頭を受け取ると、二つの金属の頭をめぐらせて観察していた。
 その時ドランが、ふらりと揺れた。
『『ああ、もう時間か……。疲れたよリーヴァ。僕は眠るよ。いつ起きるか分からない長い長い眠りになるから、言っておくよ。お休み。そしてさようなら……』』
「さよならって何を言って…ドラン!」
 ドランは言い終わると、その場に前のめりに倒れた。
 何とか以前より確実に重くなったドランを仰向けにしたけど、金属の頭にある目も光が消え、息をしているかどうかもわからなかった。あたしも体を叩いたりして起してみようとするが一向に起きなかった。
 すると、あたしの周りに儀式を見ていたドラゴン達が降りてきた。その中には長もいた。
「長!ドランが…!」
 起きないのと言おうとしたのだが、その前にあたしの言葉は長によって遮られた。
「リーヴァ。ドランから離れなさい」
「えっ?」
 そこで私は気がついた。あたし達の周りに降りてきたドラゴン達が剣呑な雰囲気を纏っている事に。
「ドランはもう既にドラゴンとは言えん。あの力まではまだ良い、しかし首が無くなっても生きているとは、最早化物だ」
「それはドランをそうしなければ、治せなかったからで!」
「だからなんだと言うのだ?首を切られたものは死ぬ。それは天の定めた当然の理で、それを破る事はまかりならん」
「じゃあドランは三年前に死ぬべきだったと仰るのですか!?」
「酷な事を言うが、そうだ」
「!?」
 ふざけないで!
「幸いな事に、悪は処断された。ドラン自身によってな。復讐を終えたドランもここで死んでも本望だろう。さぁどきなさい。これは里の長としての決定だ」
「嫌っ!」
 あたしは長から隠すようにドランを抱え、翼で包み込む。
「ただでさえ審判の儀に乱入し、場を乱しただけでなく。長の命令すら拒むか。やれっ!」
 長の声に従い、数体のドラゴンがあたしを掴みドランから引き離そうと掴みかかってくる。
「嫌だ!触らないで!ドランを殺すなんてあたしが許さないよ!」
 あたしは必死に抵抗するけど、歴戦の猛者のドラゴン達に簡単にドランから引き剥がされた。そのまま、あたしはドランを囲んでいた輪の外側に連れ出され、地面に押さえつけられた。
「離して!離せ!ドラン!起きて!ドラン殺されちゃうよ!ねぇ早く!ドラン!」
 大声を出して何とかドランを起そうとしたけど、囲みの隙間から見えるドランはピクリともしなかった。
「全員、ブレス準備!光の翼はないが、用心してドランの生身の部分を狙え!放…!?」
 長が放てと言おうとした瞬間天空から声が降ってきた。
『は~い、そこまで~』
 同時に耳を塞ぎたくなるような破裂音が連続し、ドランの周りに砂煙が立ち上った。
 ドランの周りにいたドラゴン達が己の腕と翼で砂が目に入るのを防いだ。
 その隙にズンズズン!とドランを守るように五体のキヘイが空から降ってきた。現れたキヘイはあたし達より少し小さかった。
 ガチャリとそのキヘイ達が黒い何かを長達に向け構えた。
『全員動かないでくださいね』
 その五体のうちの一体がドランゴンの言葉を喋った。人間が、ドラゴンの言葉を喋る事が出来ないのに何故?
「喋った…精霊キヘイか!ええい!次から次へと!何者だ!ここをドラゴンの里と知っての狼藉かっ!」
 長の警告にあわせて周りに居るドラゴン達が威嚇の咆哮を上げる。
 ここまでキヘイが来るなんて里の歴史が始まって以来一度も無かった事だ。囲んでいるドラゴン達も尻尾を地面に叩きつけて苛立っている。
 それに精霊って、めったに精霊の里から出てこないはずじゃなかったの?それもキヘイと一緒に出てくるってどう言う事?
『当然知っているわ。でも別に私達は貴方達と殺し合う気は無いわよ』
「ならば何故我らが里に来た!」
『私達は友人を迎えに来ただけよ。彼を引き取ったら直ぐに帰るわ』
「彼?ドランの事かっ!」
『そうよ』
「それは出来ん!」
『あら、何故?』
「奴はすでに、生命の理を逸脱した化物だ!ここで逃せば後々ドラゴン族の禍根となろう!生かしてはおけん!」
『あらひどい、貴方達の同族じゃないの。ちょっとした違いなんて個性じゃない?』
「うるさい!精霊風情が、人間風情が、他所の事情に口を突っ込むな!やれ!放て!」
 長の合図に合わせて囲んでいたドラゴン達が一斉にブレスを放った。
 歴戦の勇士達が放ったブレスはキヘイ達に向かい爆発した。
『あらあら分かってないのね。誰がドランちゃんを治したか』
「○×△▲∵▲∵×!」
 爆発による粉塵が収まらない内に五体のうちの一体が叫んだ。
 言葉が理解できなかったから、多分キヘイに乗っている人間が叫んだのだろう。
 しかし、その後に起きた事は、私には信じられなかった。
 ズドドドドドドドドドッ!と言う音がして、粉塵から何かが飛び出した。けれど何が飛び出してきたかは分からなかった。
 それらは、長達に当たったのだろう。
「「「あばばばばばばば!」」」
 その飛び出した何かに当たったドラゴン達は訳の分からない叫び声を上げて、ビクビクと震えるとバタバタと倒れていった。
『まったく、ホンとプライドだけは高いんだから、ドラゴンって。手加減してあげたんだから感謝しなさい』
 呆れたような精霊声がした。そこであたしは、あたしを拘束していたドラゴンも倒れている事に気が付いた。
「∵■∵○○▲□!」
 また、精霊の声のしたキヘイから人間の声がすると、三体のキヘイは長達を打ち倒した武器を空に向けた。
 空を見上げると、そこには沢山のドラゴンが飛んでいた。
 あれは、儀式に参加しなかった里のドラゴン達だ。しかし、長達を一瞬で打ち倒した武器が怖いのか威嚇の咆哮を上げるが消して降りてこようとはしなかった。
 指示を出していた一体と一体は、武器を下げてドランの傍で膝をついた。ドランの状態を確認しているようだった。
『警告よ!あたし達の上空から去りなさい!さもないと痛い目を見るわよ!』
 精霊が大声を張り上げる。多くのドラゴンはそれに威嚇の声で返答した。
 その警告の意味は直ぐに分かった突然あたし達の頭上に巨大な何かが姿を現した。
「何アレ?飛んでる?」
 ついさっきまで、空の上には何も無かったのに突然空から染み出すように巨大な何かが現れたのだ。
 ソレはゆっくりと降下してきており、その下にいたドラゴン達は急いでソレの下から退避した。
 ソレはドランの真上まで来ると空中に停止した。
 翼も無いのに何で飛んでるの?しかも空中で完全に停止ってドラゴンでも出来ないわよ?
『さぁ、ドランちゃんを収容してとっととこんな場所から帰るわよ!』
「「「○×△!」」」
 ソレから金属出てきた籠の様な物が下りてきた。籠が地面に着くと二体のキヘイはゆっくりとそれでいてテキパキとした動きでドランをドランの首と一緒に籠に乗せた。
 精霊のキヘイが腕を上に上げると、籠はさっきとは逆に空に浮かぶソレへと戻っていく。
 そして完全にソレの中に籠が戻るのを確認しすると精霊のキヘイが言った。
「×■!」
「「「「○×△!」」」」
『さぁ帰りましょ』
 人間に言っている事は分からないが、どうやら帰るぞ!的な事を言っているのだろう。
「待って!」
 あたしは、急いで立ち上がって(今まで立ち上がるのを忘れていた)彼らに声を掛けた。
ジャカ!
 あたしが声を掛けると、5体のキヘイが一斉に武器をあたしに向けてきた。
『待ちなさい。彼女には攻撃の意思はないわ。それで何の用?』
 すっとあたしに向けられた武器が下ろされる。
「ドランを何処に連れて行くの?」
『ドランちゃんは私達の仲間ですもの、私達の本拠地に決まってるわ』
「じゃあ三年前ドランを助けてくれたのは貴方達?」
『そうよ』
「ドランを助けてくれて、ありがとう御座いました!」
 あたしは、精霊のキヘイに頭を下げた
『えっ?』
 精霊は驚いたような声を上げた。プライドの高いドラゴンが他の種族に頭を下げたのが信じられなかったからだろう。
「それで、ドランは大丈夫なのでしょうか?長い眠りとか言っていたけど」
『あードランちゃんね。ちょっと話が長くなるけど良い?』
「■○。×■□」
「「「「○×△~」」」」
 多分、この群れのリーダーに許可が出たのだろう。帰ろうとしていたキヘイ達が再び上空を警戒するように武器を構えた。
『私がドランちゃんを見つけたのは三年前の事ね。その時丁度私達がロウーナン大森海をぶらぶらしていたのよ』
 ロウーナン大森海をぶらぶらって、普通そんな事する場所じゃないわよ!?
『そしたら遠くでドサッて何か重たい物が落ちてきた音がしたの。まぁそんな事はロウーナン大森海では良くある事なんだけど、叫び声聞いたらどうやら落ちてきたのは珍しい事にドラゴンっぽかったから、変な事もあるのね~って見に行ったのよ。そしたらドランちゃんの叫び声が聞こえてきたの憎いってチクショウって、死んでたまるかって、はっきり言って初めて見たドランちゃんは本当に酷い有様だったわ。生きてるのが不思議なくらいね。まぁ本当はドラゴンなんて助ける気はなかったんだけどね』
「どうして助けてくれたんですか?」
『ドランちゃんがブラックドラゴンだからよ』
「何故?」
『私達って黒に縁があるのよ。だから助けたの。まぁそれは良いとして、その後本拠地に運んで治療したんだけど、脳みそ…貴方達でいう魂の器が酷く傷ついているのが分かったの』
「たしかドランは、さすがに貴方たちでも魂の器は治せないからドランの魂の器から別の魂の器にドランの魂を移したって言ってました」
『あら、そこまで聞いてたのね。それでねドランの魂を私達が用意した器に移したんだけど、ちょっと問題があってね』
「問題?」
『新しい魂の器の形をドランの魂の形に合わせる為に一定量移すとドランが眠る必要があったのよ』
「もしかしてドランが今寝てるのって」
『そう、魂の器がドランの魂の形に合わせている最中なの』
「じゃあ、いつ目が覚めるんですか?」
『…分からないわ。最悪永遠に目が覚めないかもしれないわ』
「え?」
『魂の移し変えは器に入った水を別の器に入れ替えるような簡単なものじゃないの。時間を掛けてゆっくりと行っていくものなの。体の治療と平行してこの三年間ほぼ全て使って魂の移し変えを行ってきたわ。それである程度魂を移し変えた時、ドランちゃんが急に眠ってしまったの。私達は慌てたわ。このまま死んじゃうかもしれないって。まぁドランちゃんは1日したら起きたんだけど、調べたらあることが分かったの。それは魂を一定量移すとその器がドランちゃんの魂に形を合わせる為に強制的に眠りに付かせるって事。しかも器の中の魂が増えるとその眠りの時間も加速度的に増えていったの。そして魂が全て新しい器に映った時の眠る時間を計算した結果、いつ起きるか分からないっていう結果が出たのよ』
「それで…ドランはあたしにさよならって言ったんですね」
『そうなのでしょうね。じゃあ私達はもう行くわ。そろそろ上の方も騒がしくなってきたようだしね』
 見上げてみると、さっきよりドラゴンの数が増えていた。どうやら別の里のドラゴンも呼びに行っている様だ。
「ありがとう御座いました。それと一つお願いがあります!」
『あら、何かしら?』
「あたしも一緒に連れてってください」
『…あなたもしかしてリーヴァさん』
「はい!」
『あ~やっぱり!ドランちゃんがよく貴方の事を話していたのよ。小さい頃から良く面倒見てもらったって』
 そうなんだ。ドランはちゃんとあたしの事を覚えてくれてたんだ。
『私達と一緒に来ると、もう二度とこの場所に帰ってこれなくなるわよ?』
「構いません。ドランの居場所は貴方達のところにあります。あたしの居場所はドランの隣です。今日それが分かりました!」
『…だってゴウちゃん。如何する?』
 精霊は私の言った事をキヘイに乗っている人間に説明すると如何するか聞きました。
「■○■××△□。○×■○□」
『フフッ。そうだったわね。いらっしゃいリーヴァちゃん。私達は、仲間のお嫁さんを歓迎します』
「ありがとう御座います!」
 ドランが目覚めたらあたしが最初に言ってやるんだ!おはようドラン!って。

ロボットロマンin ファンタジー外伝 ブラックドラゴン

今回の話は、以前この作品を別のサイトで書いていた時に'特撮系ロボットの話を書いてください!'と感想で書いていただいた事がありました。
特撮系の話は自分でも書いてみたいと思っており、同じような事を読みたいと思っていた方がいた事がうれしかったです。
その事が印象に残っており今回の話を書く事を決め、本作が出来ました。
その感想を書いてくださった方がこの作品を呼んでくれたらうれしいなぁ。

以上作者でした。

今回のロボットロマンは
 特撮系ロボット
 追加パーツの空中合体
 光の翼
 アンカーアーム
 余計な事をして事態を悪化させるヒロイン
でお送りしました。

ロボットロマンin ファンタジー外伝 ブラックドラゴン

この作品はロボットロマンの外伝になります。 ですので、お読みになる場合は、本編の方を先にお読みになった方が良いと思いますのでよろしくお願いします。 この物語は一体のドラゴンの愛と勇気と憎しみと悲しみとチートと復讐の物語となっております。 これらのワードが気に入らないという方は戻るボタンを押す事を推奨します。 よろしければ、そのままお楽しみください。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-06-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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