月の刃(津田葵)
黒を何重にも重ねた繊細でやわらかな夜空に
鋭い月が凍てつくような表情で浮かぶ。
月は凶器となって黒を切り裂く。
首を腕を足を切り落とす。
その断面は激しい痛みを隠蔽してしまう。
または、白くなめらかな胸の皮膚に沿って、
月の刃がゆっくりと曲線を舐める様に滑る。
刃が去った跡に細い線が糸のように残される。
恐怖に息をのむかのように、時は止まる。
あふれでる涙のように、少しずつ滲む血が小さな球となり、
やがてその心の痛みに耐えきれなくなった球は
泣き叫ぶように感情とともに流れ落ちる。
ちぎれた肢体や傷だらけの皮膚を月は可笑しそうに嘲笑う。
自分以外がどうなろうと気にかけることはない。
自分の欲望のため表面を偽って。
月に消された夜空の美しさは戻らない。
塗りつぶされた体は月に怯える。
明日には新しい犠牲者。
月、それは凶器となって。
月の刃(津田葵)
こちらの詩は東大文芸部発行、静寂29の「ことのはつないで」の1行ずつを使った小説か詩を書きたい、という自身の想いを形にしたシリーズ第一弾です。