無冠のやまあらし

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登場人物ならぬ登場“動物”でお送りします。

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誰よりも、からだの大きなやまあらしがいた。

護身用の針はファッションだ。太くて硬くてつやつやしている。自慢の針だった。

でも、やまあらしは意地悪だった。

人のとった餌を横取りし、快適な穴を占領し、あまつさえ、弱いものを針で攻撃したりする。

からだは大きいのに、こころは誰よりも小さかった。

そんなやまあらしは、次第に仲間から嫌われていった。

しかし、そのようなことを態度に出せば、自慢の針で殺されてしまうかもしれないから、皆は黙っていた。

やまあらしは、避けられていることには薄々気づいていた。そうとはいえ、自分の態度を改めることはなかった。

むしろ、これまで以上に暴力的、攻撃的になっていったのだ。

やまあらしは別に、楽しんでそれをしているわけではない。ただ、無性に気分が悪いのだ。

母親を失ってから、ずっとそればかりだ。

もやもやは一生消えないくらい、しつこくて、粘りけを帯びていた。

彼の気持ちなど誰も分からない。知ったこっちゃない。動物なんて、自分さえよければそれでいい存在。

だから、彼だって自由にしていいはずなのだ。他のやまあらしをいじめたって。

そうでもしないと、このもやもやを紛らわすことができないから。

昼間のどこよりも快適な穴のなかでひとり、やまあらしはからだを震わせていた。

夜になって、「もり」が静けさを取り戻すと、彼らは穴の外に出た。もちろん、彼も外に出て食べ物を探した。

ある木の下に、たくさんの熟れた木の実が転がっていた。

すかさずそれを拾おうとしたら、突然、目の前をすばやく通りすぎるものがあった。

驚いて退くやまあらし。視界に、栗色のふわふわした毛玉をとらえた。

間違いなく、その尾はりすのものだった。

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そのりすはやまあらしの前にあった木の実を、瞬く間に回収していった。

あっけにとられたのはつかの間。やまあらしはすぐにいきり立って、りすを追いかけ始めた。

しかし、木の幹をすばしっこくかけのぼるりすの脚力にはかなわず、やまあらしはむなしく憤慨して見送るしかなかった。

その様子を見ていた仲間の一匹が、まるで嘲笑するかのようにきいと鳴き声を発した。

やまあらしはすぐにその一匹に向かって針を逆立てながら突進したので、たまらず仲間たちは逃げて行った。

ひとりになった彼は、木の根本にすくんでじっとしていた。

何をするにもつまらない。時間だけが刻々と過ぎてゆく。まったくつまらない人生だった。

もう開き直って、いっそのこと、ひとりでどこかへ行ってしまおうか。

きっと仲間は誰も心配などしないだろう。むしろ精々するにちがいない。それくらいは自分でも分かっているつもりだ。

十分意地悪なことをしたし、理不尽なことをしてきた。もう終わりたい。

やまあらしが考え事をしていると、不意に座っていた木の上から、軽快な鳴き声が聞こえた。

振り向くと、さっきのいまいましいりすが、こちらを見つめて木の実を見せびらかすようにかかえている。

彼はまた針を逆立てて木の下から威嚇したが、りすは平気そうに木の上から降りてくるのだ。

かえってその行動にひるんだやまあらしは、二、三歩勢いよく飛び退いた。

何をしてくるのかと警戒していたら、りすは彼の目の前に、奪った木の実の半分を置いた。

不思議だった。

こんな自分に、えさとり争いに負けたみじめな自分に、仲間に笑われていたみっともない自分に、何故。

やまあらしは丸い目をさらに丸くさせて、りすを見据えた。

だが、彼にはまだ、プライドも憤りも傲慢さも残っていたから。見知らぬ動物に情けなどかけられたくなかったから。

素直になれないやまあらしは、いっぱいに針を広げて、その場から立ち去った。

りすはどんな顔をしただろうか。背を向けて走る自分をどんな目で見ているだろうか。

針で怯えているだろうか。丸腰で逃げていったと思われているだろうか。

いろいろなことを考えながら、やまあらしはひとり「もり」をかけた。

無冠のやまあらし

無冠のやまあらし

意地悪なやまあらしと世話焼きりすの物語。執筆中。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-10

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