おぞましい悪夢

おぞましい悪夢

おぞましい悪夢


 僕はなんて失態をしてしまったんだ。
 震える右手に持っていた包丁を床に落とす。カラン、という甲高い音がなった。僕はその
音にさえ恐怖を感じた。
 僕の部屋は今戦慄の状況になっている。目の前で倒れる友人の紀田英雄の息は恐らくもう
絶えている。彼は左胸から血を流して床にあおむけに倒れていた。血走った目は先ほどの口
論によほど夢中になっていたものと思われる。彼の体格のいい日に焼けた体は白いポロシャ
ツとジーンズに包まれていたのだが、今はもうポロシャツは真っ赤に染まっていた。
「だけど、こんなに体格のいい英雄でさえも、心臓さしちゃえば終わりなんだな」
 僕はふっとそんなことを呟いていた。
 こんなことを言える自分はおかしいと思った。この喧嘩の始まりは僕にある。僕が彼の悩
みに口出しさえしなければよかっただけの話なのだ。僕は彼の悩みにコメントしてしまった。
それが気に入らなかった彼は僕に向かって突っかかってきた。そこで、さっきりんごを切る
ときに使った包丁を手に取り、無我夢中に彼に突き刺した。そうして今に至り、気づいたら
英雄は死んでいた。
「とにかくこの死体をどうしよう」
 僕はそれに悩んでいた。いずれ彼が家に戻らないことを彼の両親が気づくことだろう。英
雄は両親と妹と四人暮らしなのだ。凶器は隠そうと思えばいくらでもどうにかなった。だけ
ど死体となると……。この部屋を一歩出れば今は姉がリビングにいるだろう。しかし、先ほ
ど姉は夕方から出掛けるからと言っていた。僕はその時間を見計らって、この間買ったばか
りの新車に乗り死体をある場所へ捨てることにした。
 僕は自分の部屋にそっと鍵をかけた。カーテンを閉め、周囲からの視線をシャットアウト
すると、まず凶器となった包丁を、ゴミ箱に補充されていた青いビニール袋の中に入れた。
そして机の棚を開けて、見つかった軍手をはめた。そしてまず死体をどうにかすることから
考えた。
 僕は部屋に取り付けられたクローゼットを開けて、昔レジャー用に使っていたビニールシ
ートを取り出した。そしてそれを床に広げ、その上に英雄の死体をのせた。そして部屋に干
されたタオルを使って床に飛び散った血痕を丁寧に拭き取った。迅速な作業のために血はす
ぐに落ちた。僕はタオルと一緒に英雄の死体をビニールシートでくるんだ。そして、何かバ
ッグはないだろうかと部屋中を探した。運良くクローゼットの中に、これまたレジャー用の
ドラムバッグを見つけた。大きめで、英雄の大きさなら体を二つに折り畳めば入った。僕は
死体を折りたたみ、ドラムバッグの中に入れた。これなら周りからも怪しまれないだろう。
 次に、僕は自分の着ていた服を見た。ズボンにはついていなかったが、ティーシャツは返
り血を浴びていた。僕は服を変えると姉に怪しまれると思い、上にパーカーを羽織った。
 僕はそこまでの準備をすると、これからどうしようかと考えた。そして五分作戦を考えた
あと、それが誰にも怪しまれないかということを何度も確認し、そして遂に実行することに
した。
 僕は部屋から出て、ゆっくりとリビングに向かった。リビングでは姉がメイクをしている
最中であった。


「あら祐希。どうかしたの?」
 姉は何にも気づいていない。というよりも、つけまつげをつけるのに夢中になっているよ
うだ。
「うん、ちょっと、英雄が喉が渇いたっていうから、水、取りにきた」
「そうなの。なら昨日、お母さんがアルプスの水買ってきてたから、それを出してあげれば
?」
 姉はなんでもないというようにその話にはほとんど興味を持たなかった。僕はそっちの方
が好都合で、水を二つのコップに注いだあと、そのままリビングの隣の和室へ移動した。
 僕は和室の一番ベランダに近い所にあるタンスの、上から二番目を開けた。中には様々な
通帳などが入っていて個人情報満載だった。僕はそこから自分の通帳とパスポートなど必要
なものを取り出すと、それをポケットの中に入れて、何事もなかったかのように和室を出た。
「何してたの?」
 姉はつけまつげをつけ終わったようで、鏡で位置などを確認していた。僕は先ほど注いだ
水の入ったコップを二つ持った。
「ううん、別になんでもない。探し物」
 僕はそれだけ答えると、もう二度と会うことのないと思われる姉を見た。
「あ、それから姉さん」
「ん?」
「今日、英雄がちょっと、谷のほうへ泊りに行きたいっていうから、民宿泊ってくるかも」
 姉はここで初めて僕のほうを向いた。姉の顔はすっぴんのときよりさらに濃くなっていた。
「あんた、そんなお金あんの?」
「それぐらいならあるよ。民宿だしね。英雄がどうしても、っていうんだ」
 僕はそう言うと、姉の返事を聞かないまま部屋を出た。

 それから一時間、僕は自分の部屋で荷物の整理をしていた。服は全てキャリーバックの中
に入れた。余ったスペースにはこれから先必要なものなどをいれた。財布や携帯、そして先
ほど和室から取り出した通帳などは全部小さなショルダーバックの中に詰め込んだ。僕が自
室から出てリビングを覗くと、姉はもう既に出掛けた後だった。
 僕は英雄の死体を最初に、凶器となった包丁もドラムバックの中に入れて車へと運んだ。
旅行用バックだったから誰にも怪しまれなかった。僕はそれを車の後部席に置くと、次に自
分の荷物を運んだ。そして家の鍵を閉めると、車に乗り込み、近場にある谷に向かって車を
発進させた。このとき、時計は三時半を指していた。
 車を走らせること一時間半、目的地の谷に入った。ここをかなり奥に進むと、巨大な谷底
があることを僕は知っていた。そこに死体を捨てることにした。この谷底にはきっと誰も来
ることはない。僕は計画を頭の中で何度も繰り返し唱えながら谷底に向かった。
 三十分もすれば谷底に到着した。深い谷は底が見えなかった。崖には柵があったが、足下
の五十センチはスカスカな状態だった。僕は死体を崖っぷちまで運んで、その五十センチの
隙間から、谷底へと落とした。
 死体の入ったドラムバックは暗闇に吸いこまれるように落ちていった。落ちる音はならな
い。まだまだ、死体は谷底に向かって落下しているのだろう。
 僕は谷底をじっと見つめたあと、車に乗り込んだ。そして、まずはこの谷から離れなくて
はと考えた。



 僕は車を走らせ谷を出ると、とりあえず都市のほうへと急いだ。そして行く途中にあった
銀行で、自分の全財産を引き出した。
 僕はさらに車を都市へと向けた。途中で空港の標識が目に入った。僕はそれに向かって車
を走らせた。
 空港に着いたのは夜の八時半であった。車はもういらないので駐車場に適当に置いておい
た。僕はキャリーバックを引き、全財産の入った大きめの袋を持ってチケットを買いに行っ
た。僕は前々から行ってみたかったアメリカの便を明日の一番でとった。焦ることはなかっ
た。お金に困ることもなかった。僕は何一つさえ怪しまれることなくアメリカ行きの飛行機
に乗ることになった。
 それまでの時間は、疲れたのでレストランにでも入って食事をすることにした。僕は今日
一日がとても大変で、そして重大な罪を犯した日であると思っていた。食事はとても高級な
ものにした。二十六年間行きてきて、こんなすてきな食べ物を食べたのは初めてだった。
 窓の外に広がる景色を見つめた。飛行機が何台か停まっている。僕はそれを見ながら、今
日英雄とした口論を思い出していた。
 
 英雄は小学校の教師をやっていた。家族を支えるために、彼は必死に仕事をしていたそう
だ。一方、普通の会社の社員なんかをやってる僕には、彼のその「一生懸命」さがよくわか
らなかった。僕の家はあまり金に困ることはなかったが、金に埋もれることもなかった。ま
あまあな暮らしはしていたわけだ。英雄の家だって、子供のころ見た限りだと結構豪華な家
だった。彼は言った。
「俺は生計を立てていくために必死だ。だけど正直しんどい。子供たちと接するのは楽しい
が、昼夜休まず毎日働いて、深夜はバイトをやってるんだ。こんなこと考えられるか?もう
さすがに……」
 彼はそううなだれていた。けれど僕には彼の大変さがよく理解できず、つい言ってしまっ
たのだ。
「君の家は十分裕福そうだよ。そんな必死こいてバイトなんかやんなくたって……」
 気がつくと僕は英雄に首を絞められていた。僕は声が出ず、咄嗟に机の上に置かれていた
包丁を手に取り、彼の胸に何度も指した。すると英雄は声も出さずにピクリとも動かなくな
った。僕はそこから、彼がどれだけ必死に働いていたのかが窺え、そしてひどく後悔した。
 
 僕は十時頃にレストランを出た。そしてロビーに設置された椅子に座り、少しの眠りにつ
いた。そして朝になり、僕は飛行機に乗り込んだ。そして、アメリカのへ向かって空へと消
えた。

おぞましい悪夢

ーAftrewordー

サスペンス系統です

出来は…わからないです
なんか
よくわからない間に完成してました(笑)

おぞましい悪夢

おぞましい悪夢 in:ぼーちゃんの短編集 →http://77.xmbs.jp/mimihappy-8964-bo.php?guid=on

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-10-25

Copyrighted
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