For me(津田葵)
一度は死にたいと本気でおもったこと、ありませんか?
Kという人だった。彼だけが私に納得する答えをくれた。
「私は何故死んではならないのか」
その問いは私にとって真剣だった。少しも冗談めいた気持ちで言ってはいなかった。たいていの者はこう答えた。「家族や友達が悲しむ」と。私の心にはその答えは決して届かなかった。Kはそんなことは言わなかった。死にたい、と思う者を、無理やりに止めるのは逆効果だ。本気で死のうとする者を止めるなんて残酷だ。ひどくひどく残酷だ。最後の意志にもっと耳を傾けてほしい。苦しい、苦しい、と泣きながら送る生活を終わらせるのを許して。楽にさせて。だってそんな私を止めても私に出来ることは、感情を抑えるため、ガス抜きに自分を傷つけることだけだ。腕を伝う赤い血が私をつめたく嘲笑う。腕に何本も刻まれた黒ずんだ切り傷はもう選ぶべき道が死へしかつながっていないと教えてくれた。人は私に「大丈夫」という言葉を何度も何度も与えた。でも実際は誰も何が大丈夫なのか、何故大丈夫なのか、結局知ってはいなかった。彼らはいつしか私にとって絶望を与えるだけの存在となった。しかし、Kの「大丈夫」という言葉は、私を安心させた。何故だかずっとずっと昔の記憶の深い深い奥で効果的に作用するのだった。やさしい声だった。自分が責め続けてきた自分を彼は決して責めたりしなかった。だからだろうか、耳に当てて塞いでいた手をそっと離した。「何故私は死んではいけないのか」その問いに彼はそっと離した手と耳の間に答えた。「わたしが悲しい」と。それは初めて私の心に届いた言葉だった。
For me(津田葵)
プラトンの言葉にこのようなものがあります。At the touch of love, everyone becomes a poet. 深い愛を知り、だれかの心に届く詩を書きたいものです。