秘密戦隊ゴレンジャー #4

 無藤細菌研究所。
 一見すると、特におかしなところのない民間の研究施設。しかし、そこでは恐るべき陰謀が進められようとしていた。
「海城剛。アカレンジャーだ」
 暗室にスライド写真が映し出される。それを見ていたのは、白衣姿の科学者らしき二人の男。そして、写真について語っていたのは、極彩色の石を固め合わせたごつごつとした仮面をつけた怪人物――ヒスイ仮面であった。
「ゴレンジャーのリーダー格で、ムチと麻酔銃を武器としている。もっとも注意すべき男だ」
 続いてスライドに映し出されたのは、
「新命明。アオレンジャーだ。ゴレンジャーの副リーダー的存在で、武器は弓。いかなるときも冷静さを失わない。これも警戒すべき男だ」
 スライドが切り替わる。
「大岩大太。キレンジャーだ。カレーライスの好きな、少々にぶい男だが、通信に強く、またその怪力は並々ならぬものがある」
 スライドが切り替わる。
「ペギー松山。モモレンジャーだ。女だてらに爆弾に強く、彼女のアクセサリーはすべて爆弾と見てもよい。それに女だと思ってあなどるな。特に彼女のキック爆弾は恐るべき破壊力がある」
 スライドが切り替わる。
「明日香健二。ミドレンジャーだ。まだ17歳の少年だが、必殺武器のブーメランを操る。こいつも油断ならぬ小僧だぞ」
 説明を終えたヒスイ仮面が立ち上がる。
 黄金仮面に始まり、武者仮面、青銅仮面と次々に仮面怪人を倒した謎の戦士たち。その情報を、黒十字軍は早くもつかみ始めていた。
 部屋に灯りがつき、科学者たちがヒスイ仮面の周りに集まる。
「我々の計画を成功させるためにも、この五人を徹底的にマークする必要がある。いいかわかったな」
 そう言ったヒスイ仮面が、不意に顔をあげた。
「なにか物音がした。行ってみろ」
「ホイッ!」
 そばにいたゾルダーが、窓から身を乗り出し辺りを見渡す。その眼下に、見張りの隙をついて逃げ出そうとする白衣の男二人の姿があった。
「脱走だ!」
 すぐさま二人を追ってゾルダーたちが飛び出した。
 必死に追跡をふり切ろうとする二人。しかし、
「ぐあっ!」
 銃撃を背中に受け、一人が倒れる。
 もう一人も肩に銃撃を受けたが、立ち止まることなく林の中へと逃げこんだ。ここなら木が邪魔になり銃撃は届かない。
「追え!」
「その必要はない」
 ヒスイ仮面が、ゾルダーたちを止めた。
「あの男は放っておいても死ぬ。ふっふっふっふ……」


× × ×


 休日の繁華街。
 ペギー松山は、久しぶりに一人でショッピングを楽しんでいた。
 それは、彼女が心のバランスをとるために必要なことだった。イーグル北海道支部で散った仲間たちの断末魔はいまも脳裏から消えない。放っておけば復讐の念一色に染まりそうな自分を抑えるため、ペギーは努めて普通の日常を取り戻そうとしていた。
 そこに、
「! どうしたんですか!?」
 白衣を着た男が、不意にペギーのすぐそばに倒れこんだ。
「どうしたの!?」
「ヒ……ヒスイ……ヒスイ仮面が……」
「ヒスイ仮面!?」
 ペギーの顔色が変わる。
 ヒスイ仮面――支部の仲間たちの命を奪った怪人の名は、彼女の意識を日常から戦場へと引き戻していた。


× × ×


『ヒスイ仮面にやられた? その男がそう言っているのか』
「いま昏睡状態なんだけど、うわ言のように言うのよ。『ヒスイ仮面』ってね」
 その名前を口にするたび、ペギーの表情は険しくなる。
 彼女はいま、倒れた男をつれてきた病院の中にいた。そして、腕の通信機で本部にいる剛に事の次第を伝えていた。
「もうすこし付き添って、聞き出してみるわ」
『了解』
 剛との通信が切れる。
 その直後、
「誰か来て!」
 病院の看護婦が、血相を変えて階段を駆け下りてきた。
「患者が! 患者が大変です!」
 看護婦に手を引かれ、ペギーはあわてて病室に向かった。
 そこには、
「あ……!」
 男は死んでいた。
 顔を不気味な緑色のカビに覆われて。
「………………」
 ペギーは、ただ唇をかむことしかできなかった。


× × ×


「こちら、ペギー」
『海城だ』
「被害者は死んだわ。そして、見たこともないカビが検出されたの」
『カビ?』
「近くに無藤博士の研究所があるのよ」
 ペギーは、イーグル北海道支部所属時代から、さまざまな科学研究所のデータに注意を払ってきた。それがイーグルの力になることはもちろん、敵対する組織に利用される可能性があることも考慮して。
「なにやら臭う感じ」
『よぉし。気をつけて捜査しろ』
「オーケー」
 剛との通信を切るペギー。
 そして、彼女は化粧室の鏡に向かい――数分後。
「私ってなかなかチャーミングな女性記者だわ。ふふっ」
 おどけたように笑ってみせるペギー。しかし、鏡に映っていたのは、ペギーとはまったく違う女性の顔だった。

 さりげなく辺りの様子をうかがいながら、ペギーは無藤細菌研究所の正面の扉へと近づいた。
 チャイムを押すと、白衣の男が顔を見せた。
「こんにちは。デイリージャーナルのものです。先ほどお電話しました」
「ああ、どうぞ」
 疑う様子もなく、男はペギーを中へ招き入れた。
 男が背を向けた瞬間、ペギーの目がするどい光を見せる。ここには仲間たちの仇――ヒスイ仮面につながる手がかりがあるかもしれないのだ。
「気味悪い屋敷だわ。細菌がうようよしている感じ」
 男の後について西洋風の古びた屋敷の中を歩きながら、ペギーはつぶやいた。


× × ×


「こりゃあ、青カビの一種ですな」
 ペギーがフラスコに入れて持参したカビを見て、無藤博士はそう断言した。
「ほら、ミカンの皮なんかに繁殖する」
「青カビが人間の皮膚組織を変えてしまうんでしょうか?」
 首をかしげるペギー。そのカビは病院で死亡した男の顔に生えていたのを採取したものだった。
 博士はけげんそうに眉をひそめ、
「いや、そんなことはありませんよ。カビにはこれ以外にいろんなものがありますが、皮膚組織を変えるカビなんてありませんよ」
「しかし、実際に人間が……」
「カビは生きた人間の内臓にも発生します。つまり、いたるところにも発見できるということです」
「じゃあ、このカビと今度の事件とは?」
「関係ないと思いますよ。しばらくお預かりして、うちでも培養実験してみますがね」
「そうですか」
 ペギーが笑みをこぼす。と、そのとき、
「助けてくれえっ!」
「!」
 不意に部屋の外から聞こえてきた男の悲鳴に、ペギーは息をのんだ。
「あれは?」
「九官鳥ですよ」
 博士の助手がなんでもないという顔で答えた。
「時々、変な声を出すんです」
「『助けてくれ』って聞こえましたけど」
「スリラー小説がお好きなようですな」
 そう言って、博士が笑う。
 動じない二人を前に、ペギーはそれ以上の追及はできなかった。


× × ×


「どうもお世話様。さようなら」
 助手の男に見送られ、ペギーは研究所をあとにした。
 しかし、
「あれで私をだましたつもり?」
 建物からわずかに離れたところで、彼女はきびすを返した。


× × ×


「とうとうヒスイカビの培養に成功したぞ。なんという繁殖力の強いカビだ」
 顕微鏡から顔をあげ、無藤博士は満足そうにうなずいた。
 後ろにいる助手に、
「気球はどうなっている?」
「ハッ。間もなく完成いたします」
「よぅし。これで人間どもを皆殺しにすることができるぞ。ふはははははは……」
 邪悪な笑みをこぼす博士。そこには、先ほどペギーの前で見せていた温厚な中年紳士の面影は微塵もなかった。


× × ×


 屋敷の様子をうかがっていたペギーは、建物を取り囲む塀に血痕を見つけた。
「わりかし新しい血だわ」
 やはり、ここで何かあったのだ。
 ペギーは身軽な動きで塀を飛び越え、裏庭へと忍びこんだ。
 直後、
「ホイッ」
「ホイッ!」
 庭木の陰からゾルダーたちが現れ、ペギーに斬りかかった。十分に警戒していたペギーは、素早く斬撃をかわして反撃の体勢に入る。
「やっぱり黒十字軍のしわざだったのね!」
 するどい手刀と蹴りで、ペギーは凶器を持った敵と互角以上に渡り合い、
「モモレンジャー! ゴー!」
 気合の声と共に、空高く跳び上がる。瞬間、その姿は桃色の仮面の戦士と化し、あざやかな宙返りを決めゾルダーたちの前に着地した。
「トウッ!」
 するどい声と共に、拳をくり出す。強化スーツに身を包んだ彼女の攻撃は生身のときとは比べものにならない威力を見せ、一瞬でゾルダーたちを沈黙させた。
 援軍が来る気配はない。ペギーは変身を解除し、素早く建物へと近づいた。侵入できる場所を探し、地下への採光用と思われる窓に手をかける。
「あっ」
 窓の向こう――見下ろした先の地下室に、助手たちに囲まれた無藤博士の姿があった。 ペギーは直感する。違う……いま自分が見ている博士は、先ほど会った博士とは別人だ。変装を得意とする彼女は、わずかな差異も見抜ける観察眼を持っていた。
 ペギーは窓を開け、博士――おそらくは本物であろう無藤博士に呼びかけた。
「あなたは本当の無藤博士ですか?」
 はっと顔をあげた博士は、こわばった顔でうなずいた。
「そうです。ここは黒十字軍に占領されている。危ないから早く逃げなさい!」
 その直後だ。
「きゃあっ」
 博士に気を奪われた一瞬の隙をつかれ、ペギーは背後から突き飛ばされた。地下室へと落とされるペギー。かろうじて受け身だけは取れたものの、
「おまえもそこへ入っていろ」
 そう言い残し、ペギーを落とした男は窓を閉じた。
 ペギーはすぐさま、落下のショックで外れた腕輪を手に取った。そこには、万が一のときのために通信機が仕こまれていた。
「こちら、ペギー! こちら、ペギー!」
 しかし、通信機の反応はない。
「ああっ……だめだわ」
 おそらく落下の衝撃で破損してしまったのだろう。
 ペギーは周囲を見渡した。博士たちのいる地下室は牢獄のようになっており、出口は鉄格子で閉ざされていた。
 と、鉄格子の向こうの扉が開き、姿を現したのは――なんと無藤博士!
 鉄格子をはさみ、二人の無藤博士が向かい合う。
「ミステリーに興味を持ちすぎたようだな」
 ペギーに目を向ける檻の外の無藤博士。
「ここからはもう二度と出られない。ふふふふ……ははははは……」
「!」
 目を見開くペギー。
 偽物の博士が、正体を見せる。
 その不気味な仮面と気がふれたような笑い声を――忘れるはずもない!
「ヒスイ仮面……!」
「ここから出るときには、おまえもヒスイ人形になっているんだ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
 哄笑しながら去っていく姿を、ペギーは唇をかんで見送ることしかできなかった。
「彼らは……一体何をたくらんでいるんですか?」
 本物の博士に問いかける。すると、
「ヒスイカビによる人体実験だ」
「ヒスイカビ?」
「ヒスイカビは、ヒスイ仮面が作り出したおそるべきカビだ。私たちは間もなく実験台にされる」
 絶句するペギー。脳裏に、顔をカビだらけにして死んだ男の顔が思い浮かぶ。ヒスイ仮面は、博士の名と顔だけでなく、その身体までも悪魔の実験のために利用しようとしていたのだ。
「なんとか……ここから逃げ出す方法を考えつかなくちゃ……」
「触るな!」
 博士と一緒に閉じこめられていた助手の一人が、ペギーの腕をつかんだ。
「ヒスイカビがつくぞ」
「!」
 暗がりに目をこらすペギー。視線の先にある壁に、確かにカビのようなものが付着していた。地下における繁殖力でも試しているのか……人間という〝エサ〟を入れて。
 実験は、すでに始まっていたのだ。
(ヒスイ仮面の陰謀は……私が打ち砕いてやる!)
 ペギーは怒りに瞳を燃やし、心の中で固くそう決意した。

 ゴレンジャー秘密基地――
 格納庫の扉が開く。
 通信室に入ってきたのは、スナックゴンのマスター――ではなく、黒い制服に身を包んだ江戸川権八総司令だった。
「総司令」
 コンピューターの前に座っていた剛が、席を立った。
「わざわざ何か用ですか?」
 江戸川は剛、そして周りにいた明、大太、健二を見渡し、
「被害者から検出されたカビは、人間の皮膚組織を変える毒素を持っている。黒十字軍はまたまた恐ろしい陰謀をめぐらせているぞ」
 黒十字軍――その名に四人の表情が険しくなる。
 謎のカビを作り出した者の正体についてはまだ不明だ。しかし、江戸川を始め、全員が黒十字軍の仕業だと確信していた。現代科学の枠を超えた謎の細菌兵器。そのようなものを作り出せる組織が他にあるとは思えない。
「キミたちの任務は……」
「無藤博士の」
「研究所を探れ、ですね」
 大太と健二が言葉をつなぎ、江戸川がそれにうなずく。
「よし行こう! ペギーを探しにのう!」
 大太が走り出し、健二もそれに続いた。ペギーの連絡が途絶えてから、彼らはいつでも飛び出せる準備をして待機していた。自分たちは、黒十字軍の仮面怪人と戦える力を持ったたった五人の戦士。そして同じ想いで繋がれた五人の仲間。それが欠けることは、絶対に許されないことだった。


× × ×


「無藤博士は、ヨーロッパの学術会議にご出席のためお留守なんですのじゃ」
 研究所に着いた大太と健二に、使用人と思しき初老の男がそう言った。
「じゃあ、この研究所は休みとですか?」
 大太の問いかけに、
「ああ。この一週間ばかしな」
 二人は顔を見合わせる。
 今度は健二が、
「女の子が訪ねてきませんでしたか? カビの分析を頼みに」
「そういえば……二時間ほど前に。すぐ帰ってったな」
 それを聞いた健二は、大太を見て、
「他の研究所に回ったのかもしれませんね」
「そうかもしれんのう」
 二人は男に頭を下げ、研究所を後にしていった。
「へっへっへ……」
 人の好さそうな顔つきから一転、初老の男が邪悪な笑みを見せた。
 その姿が、黒覆面の兵士ゾルダーへと変わった。


× × ×


「この中にいるか?」
 白衣の男の手にした五枚の写真を見て、先ほど使用人の男に化けていたゾルダーは写真をふたつ指さした。
「この二人です」
「大岩大太……明日香健二……」
 そうつぶやいた直後、男は大きく目を見開く。
「するとこの娘は!」
 残り三枚の中にあったペギーの写真を険しい目で見つめ、
「変装していたので気がつかなかったが……モモレンジャー……」
 憎々しげにつぶやいたあと、そばにいたゾルダーに、
「地下牢が危ない! すぐに行け!」
「ホイッ!」
 ゾルダーは一礼し、足早に部屋を出ていった。


× × ×


 ペギーは鉄格子にネックレスを結びつけた。そして、
「下がって」
 指示に従い、後ろに下がる無藤博士たち。
 ペギーが指輪をかざす。特殊な電波が放たれ、それに反応したネックレスが爆発。鉄格子の錠前を破壊した。
「早く出てください」
「待て!」
 しかしそこへ、ゾルダーを引きつれたヒスイ仮面が姿を現した。
「ヒスイカビ作戦の実行まであと三十分だ。その間おとなしくしていてもらうぞ。わかったな。……おい!」
 ゾルダーたちがペギーを取り押さえようとする。徒手空拳ながら、それに立ち向かうペギー。しかし、
「抵抗はやめろ!」
 ペギーが動きを止める。ゾルダーに気を取られている間に、ヒスイ仮面は無藤博士の首に不気味なヒスイ色の錫杖をつきつけていた。
「抵抗すれば博士の命はない!」
「わしは構わん……戦ってくれ……」
 恐怖に目を見開きながらも、博士は必死にペギーに訴える。と、
「このバケモノ!」
 博士を助けようと、助手の一人がヒスイ仮面に飛びかかった。しかし、人間の力は仮面怪人に対してあまりに無力だった。
「!」
 ペギーが目を見開いた。ヒスイ仮面は難なく助手をふり払うと、その頭上に錫杖をふりおろした。頭を砕かれ絶命した助手の身体がずるずると崩れ落ちた。ペギーは動けなくなった。ヒスイ仮面の言葉はおどしではない。抵抗すれば、なんのためらいもなく博士の命を奪うだろう。
「冥土の土産にいいものを見せてやろう」
 再び牢屋に押しこめられたペギーに、ヒスイ仮面が顔を近づける。
「あれを見ろ!」
 指さした先の石壁が上にスライドした。現れたガラスの壁越しに見えたのは、工場と思しき広い空間で整備されている一基の気球だった。
「あの気球を使って何をするつもり?」
「あの気球で種まきをするのだ」
「種まき……!?」
「左様。ヒスイカビの胞子をばらまくのだ」
 ペギーが息をのむ。無藤博士も顔色を変え、
「そんなことをしたら人類はどうなる!?」
「そう。一人残らずヒスイ人形になって死ぬのだ!」
 怪人が高らかに宣言し、ペギーは怒りに目をむいた。
「なんてことを……!」
「黒十字軍の目的は、地球の破壊と人類の抹殺だ」
 何のためらいもなくヒスイ仮面は狂気の宣言を口にした。ペギーはあらためて自分たちが戦う黒十字軍という組織に戦慄を覚える。
「準備を急げ!」
 ゾルダーたちをせかし、ヒスイ仮面は牢から出ていった。
 博士は青ざめた顔で、
「気球を飛ばさせてはならん! 大変なことになるぞ!」
「通信機さえあれば仲間を呼べるんだけど……」
 ペギーは己の無力さに唇をかんだ。


× × ×


「連絡ぐらいくれてもいいのにな」
「うむ……」
 ペギーの手がかりをつかむことのできなかった健二と大太は、スナックゴンのカウンター席に座っていた。
「ほい、おかわり」
「はいな」
 険しい表情のまま、マスター姿の江戸川からカレーの皿を受け取る大太。
 ウェイトレスの陽子はあきれ顔で、
「カレーばかりよくそんなに食べられるわね」
「なんだかハラがへってのう」
 そんな大太に、陽子の弟の太郎が話しかける。
「ねーねー、クジラより大きくて、メダカより小さい魚なーんだ?」
「いま、なぞなぞどころじゃなかとよ。心配ごとがあってのう」
 そっけなく言って、大太は暗い顔のままカレーを口に運んだ。
「それにしちゃ、よく食べるじゃないか」
 マスターがあきれ顔で言った。
 と、部屋の隅でギターを弾いていた明がにやりと笑い、
「ヤケ食いさ」
「なんば言っとる、新命どんは! だいたい、クジラより大きくて、メダカより小さい魚なんているか?」
「大当たり」
「ん?」
 太郎の言葉に、目を丸くする大太。
 隣の健二を見て、
「なんで当たりじゃ?」
「あれ、知らなかったの? だめだなー」
 からかうように言って、健二は太郎をつれてソファーへ移動した。
「さあ、お兄ちゃんが新しいなぞなぞ教えてあげるね」
 一人残された大太は、カレーをほおばりながら首をひねるしかなかった。
 と、そこへ、
「いらっしゃい」
 常連の友子と春子――その正体はイーグルの隊員である二人の女性が店の中に入ってきた。
「マスター」
「どうだった?」
「無藤博士はヨーロッパに行っているということですが」
「今朝、庭を散歩しているのを見た人がいるんです」
「何……?」
 二人の報告に、江戸川の顔色が変わり、
「おい、コラ」
 どういうことだという顔で大太をにらみつける。
「なんじゃと……?」
「本当か!?」
 カレーを食べる手を止める大太。健二もあわてて友子たちに問いただす。
「だまされたんじゃ! 明日香!」
 二人はうなずき合い、急いで店を飛び出した。
 江戸川が店の奥に目配せする。
 一人ソファーに座ってギターを弾いていた明が、それにうなずき立ち上がった。

 無藤博士の研究所地下――
 ヒスイカビを散布するための気球の準備は、着々と進められていた。
「この気球さえ空を飛べばしめたものだ」
 準備が完了したのを見届け、ヒスイ仮面は満足そうにうなずいた。
「さっそく作戦を開始しろ。地下牢の連中にも打ち上げを見せてやれ」
「ホイッ!」
 背後に控えていたゾルダーたちが、その場から走り出した。
 十分後――
 地下工房の天井ハッチが開かれ、いよいよ気球の発射が目前となる。
「見よ! ヒスイカビ作戦が実行されるぞ!」
 牢屋でゾルダーたちに囲まれながら、ペギーと博士たちは気球が飛び立つ瞬間を見せられていた。
「死ぬ前によぉく見ておけ!」
 ゾルダーの一人が、勝ち誇って声をはりあげた。
 ペギーは唇をかみしめる。
(私たちを死刑にするつもりだわ……よぉし!)
 彼女は、心の中でひそかに決意を固める。
 と、
「おお!」
 目を剥く無藤博士。ついに気球が上昇を始めたのだ。
「大成功だ!」
 気球を見上げ、快哉を叫ぶゾルダー。
 その瞬間、ペギーの目が光る。
「ホイぃッ!?」
 ペギーが髪に忍ばせていた針が、そばにいたゾルダーの顔に突き刺さった。続けざまにペギーはもう一人を叩き伏せ、さらに別のゾルダーから機関銃を奪い、
「ホィィィィッ!!!」
 銃弾をあびたゾルダーは、悲鳴を上げての場に崩れ落ちた。
 そのとき、
「モモ!」
 顔を上げるペギー。自分が落とされた高天井の窓を開け、キレンジャーとミドレンジャーが顔を見せた。
「早くするんだ!」
 二人が縄梯子をおろした。笑みを見せるペギー。最大の懸念事項は、無藤博士たちのことだった。一人なら、天井の窓からいつでも脱出することはできた。しかし、博士たちもつれて逃げるとなると、その困難さは格段に跳ね上がる。いまゾルダーたちを倒して脱出しようとしたのも、このままでは処刑まで時間がないと考えての苦心の末の行動だった。しかし、仲間たちが助けに来てくれたことで、博士たちを無事救い出せる可能性が一気に上がった。
「さぁ、早く!」
 ペギーも博士たちをせかす。
 無藤博士と助手たちは、あわてて縄梯子を上っていった。
 キとミドに守られ、黒十字軍に占拠された研究所から離れる博士と助手たち。
 その直後、ヒスイカビ散布用の気球が大空高く舞い上がった。
「早くあの気球を引きずり降ろさなければ大変なことになるわ!」
 モモレンジャーに変身したペギーが声をあげる。博士も、
「あの気球にはヒスイカビが積んであるんだ!」
 その言葉に、ミドが身を乗り出す。
「よぅし! ミドメランであの気球を落とそう!」
 ミドが仮面に手を当てると、ブーメラン型の必殺武器ミドメランが姿を現した。
「グッドアイデアたい!」
 キの言葉を受け、ミドは気球に向かってミドメランを飛ばそうと――
「待て、ミド!」
 アカレンジャーが駆け寄り、ミドを止めた。
「気球を爆破してみろ! カビの胞子が飛び散って取り返しのつかんことになるぞ!」
 博士たちの脱出を援護するため屋敷を警戒していたアカは、一同の話を聞きあわてて駆けつけたのだ。しかし、そんなアカにモモは言う。
「放っておいても、胞子をばらまき始めるわ」
「その通りだ!」
 突然聞こえてきた声に、一同は驚きそちらを見た。
「ヒスイ仮面!」
 屋根の上に立ったヒスイ仮面は、勝ち誇ったように声をはりあげた。
「おまえたち四人がどうあがいてみたところであの気球を止めることはできないのだ! ヒヘヘヘヘヘヘヘヘ……!」
 不気味な笑い声があたりに響き渡る。
「なんとかしなきゃ!」
「落ちつけ」
 あせるモモをアカが抑えた。


× × ×


 恐怖のカビを積んだ気球は、新興住宅地の上空に来ていた。
 気球に乗った二人のゾルダーが最終確認を始める。
「規定の高度に達したら、このスイッチを入れろ」
「ホイッ!」
 そこに、ローター音が急速に近づいてきた。
 雲を割って現れたのは――アオレンジャーの操縦する空の要塞バリブルーン。
「よし!」
 バリブルーンをオートコントロールにしたアオは、バーディーを起動して船外へ飛び出した。
「ホイッ!?」
 予想外の突入に動揺するゾルダーたち。
「セイヤッ!」
 カビの散布装置を抑えるべく、アオはゾルダーたちに格闘戦を仕かけた。しかし、気球の駕籠の中では思うように動けず、二人のゾルダーを相手に思わぬ苦戦を強いられる。
 激しくゆれる気球。
 気球を追って部下たちと荒野に来たヒスイ仮面は、それを見て動揺をあらわにする。
「いったいこれはどういうことなんだ!?」
 そして、ついに、
「ゴー!」
 気合いの雄叫びと共に、アオはゾルダーたちを地上へ叩き落した。
 驚愕するヒスイ仮面。
 アカレンジャーたちは快哉を叫ぶ。
 そしてアオは、カビ散布装置のスイッチを完全にロックした。
「よし。これで大丈夫だ」
 地上で見上げるヒスイ仮面の口から、無念のうめきがもれた。
「ああ……!」
 すると、気球から地上に向かって垂れ幕が下ろされた。
 そこに書かれていた文字は、
「『ザンネンデシタ』……!? これはなんだ! くそっ!」
 ヒスイ仮面は忌々しげに錫杖を地面に叩きつけた。
「ゴー!」
 装置を手にしたアオが地上に降り立った。そこに仲間たちも駆けつける。
 荒野に五人の戦士が並び立つ。
「貴様たちは!」
 ヒスイ仮面の言葉に、
「アカ!」
「アオ!」
「キ!」
「モモ!」
「ミド!」
 凛々しく名乗りを上げる戦士たち。
「五人そろって……」

「ゴレンジャー!!!」

「かかれーっ!」
 ヒスイ仮面の怒号が響き渡った。
 剣をふりかぶり、ゾルダーたちが突撃してくる。
 同時にジャンプするアカレンジャーとアオレンジャー。
 空中でくり出したアオのあざやかなキックが、ゾルダーを吹き飛ばす。崖の上に着地したアカは、迫るゾルダーたちを次々と手刀で叩き伏せた。
 そして、崖の下では、キレンジャーが群がるゾルダーたちに鉄拳を見舞う。
「おどば阿蘇山たーい! でっかい噴火山たーい!」
 モモも負けじと、群がるゾルダーたちを仕留めていく。
 そして、格闘戦をくり広げるアカとアオに、援軍としてミドレンジャーが加わった。
「ブルーチェリー!」
 アオレンジャーの放つ矢がゾルダーを射抜き、
「レッドビュート!」
 アカレンジャーの鞭がゾルダーたちを薙ぎ払い、
「ミドメラン!」
 ミドレンジャーの投げたブーメランがゾルダーを直撃し、あざやかな弧を描いて彼の手に戻る。手にしたブーメランで、ミドはさらに敵を斬り捨てた。
「いいわね? 行くわよ!」
 モモレンジャーの投げた小型爆弾が、最後に残っていたゾルダーたちの集団を吹き飛ばした。それを逃れたわずかなゾルダーたちも、次々ととどめを刺されていった。
「ああっ!」
 不利を悟ったヒスイ仮面が、悔しそうなうめきをもらし逃走を始めた。
「逃がさないわよ!」
 気づいたモモがすかさず爆弾を投げつけた。
「うわーっ!」
 爆風に吹き飛ばされるヒスイ仮面。
 とどめをさすべく五人が集まる。
 しかし、そこに不気味な色の煙がたちこめ、ヒスイ仮面の姿を覆い隠す。
「!?」
 煙の中から気球が飛び出した。
 五人があぜんとなった隙に、気球は空高く飛び上がった。
「あれは……!」
 驚きの声をもらすアカ。
 気球の駕籠の中に、ヒスイ仮面の姿があった。
「さらば! ゴレンジャーの諸君!」
 悠然と飛び去っていくヒスイ仮面。しかし、それを黙って見逃すゴレンジャーではなかった。
「ゴレンジャーストームだ!」
 アカの号令一下、縦一列に並び立つゴレンジャー。
「ゴー!」
「オーケー!」
 モモがバレーボール型爆弾を地面に置く。
「キ!」
 蹴り飛ばされた爆弾を、
「まかせんしゃい! ミド!」
 キがヘディングし、
「オーケー! アオ!」
 ミドが高々と蹴り上げ、
「オーケー! アカ!」
 アオがアカへとつなぐ。
「てやあっ!」
 頭上の爆弾に向かって大きくジャンプするアカ。
「フィニッシュ!」
 渾身の力をこめて蹴り放った爆弾は、空飛ぶ気球に直撃した。
「あああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーっ!!!」
 爆炎の中に、ヒスイ仮面の悲鳴がこだました。
 こうして、悪魔の気球もろとも、仮面怪人は完全に打ち滅ぼされたのだった――
 ゴレンジャーの活躍によって。


× × ×


「おのれ……ゴレンジャーめ。またしても邪魔しおったか」
 闇の支配する地下の黒十字軍基地に、憎々しげな黒十字総統の声が響き渡った。
 と、ガスマスクのような仮面をつけた怪人が凛々しく宣言する。
「ゴレンジャーの始末はわたくし……毒ガス仮面がいたします!」


× × ×


 ヒスイ仮面軍団による人類抹殺計画は、ゴレンジャーの計画でくい止めることができた。
 黒十字軍は、次にどんな恐ろしい計画を展開するのであろうか。
 五つの力を一つに集め、世界を守れ――

 ゴレンジャー!!!

秘密戦隊ゴレンジャー #4

秘密戦隊ゴレンジャー #4

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-03-21

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work