新堂かずさは探求する「プロローグ」

にいがき

この作品は、これからゲームでも作ろうかなぁ? と思いつつ書いた物のプロローグ部分です
続きを書くかは分かりませんが、よろしくお願いします

「ようこそ、探偵部へ」
 夕日が差し込む部屋の中、深く椅子に腰掛けた彼女は、美しく微笑みながら僕に言った。
 その出会いはきっと運命に違いなかった。
 僕には彼女が必要だったし、彼女は僕を面白く興味深い存在だと言う。
 互いの欲を満たしあう関係――それが僕と彼女の繋がり。
 そんな言い方をすれば、何かふしだらな物を想像する人もいるだろう。まぁ、間違ってはいないのだが。
 僕、高坂渚はとても穢らわしくて、彼女、新堂かずさは只管に純粋だった。
 こんな二人が出会ってしまえば、日常が容易く崩れてしまうのも致し方ない。
 だって、僕たちはまともじゃないのだから。

 僕がその部活の存在を知ったのは、なにも特別な経緯があった訳ではなく、極々普通に、四月の恒例行事である部活動紹介の最中だった。
 高校に入学して二週間程が過ぎた。新しい生活にも早くも慣れ始めた……新鮮さや緊張感が無くなってきたとも言う……頃、部活動紹介があるとの事で、僕たち新一年生を含めた全校生徒が体育館に集まっていた。
 こういうのはやはりメジャーな部活から順番に紹介されていくもので、野球部、サッカー部、バスケ部等のスポーツ系の部活に始まり、吹奏楽部、文芸部、美術部等の文科系の部へと繋がる。それも凡そ部活毎の規模によって順番付けされ、一番最後に紹介される部は、つまり一番部員数が少ない部でもある。
 その法則に当て嵌めれば、これから紹介される『探偵部』という部活は、ここ三郷高校の中で最も弱小の部という事になる。
 既に集会に参加している生徒の何名かは舟を漕ぎ始めていて、場の盛り上がりは今日の最低値を記録している事だろう。場が暖まるという言葉があるが、今はまさにその真逆の状態だ。
 そんな冷めた空気が漂う体育館の舞台、その壇上に、彼女は登った。
「………………」
 僕は彼女の姿を見て、言葉を失った。
 いや、別に何か特別な事があった訳では無い。実際、言葉を発していないのは僕以外の生徒たちも同じ事だった。でも、それらは退屈からくるものだったけど、僕は違う。
 彼女はどこにでもいる、少し地味な女子に見える。
 髪型は肩辺りまでの長さで、身長は150中盤くらい。どことなく頭が良さそうで、それがまた彼女の普通さに拍車を掛けていた。普通の、遊び慣れていない女子、そんなイメージを周囲に抱かせる彼女だが、僕はその“瞳”に惹き込まれた。
 彼女の、生きている事を楽しんでいるような瞳。人生の中で、自分にとっての楽しみを既に見つけているような瞳。
 この場に居る誰よりも、彼女は活き活きとしているように見える。
 羨ましかった。
 僕は、彼女に惹かれていたんだ。
「探偵部部長、二年生の新堂かずさです」
 彼女……新堂かずさ先輩は、そう言って黙る。
 三十秒くらい黙っていただろうか。一部を除いた文科系の部活の持ち時間は二分程だから、四分の一程無駄に消費していた。
 無関心だった生徒たちも、ザワザワと俄かに蠢きだす。
 そのタイミングを見計らったかのように、新堂先輩は再び口を開く。
「私は、面白いものが好きです。ここでの面白いものと云うのは不思議な逸話や体験、様々な事実や妄想、奇天烈な現象や幻想、そういったものの事を指します。それらが相互関係しあう事でフェティシズムを刺激し、トラウマを掻き乱し、エクスタシーを得る。それが私にとっての面白さです。自らの意思の赴くまま、私たちと一緒にたった一度の“青春”を謳歌したい者を、私たち探偵部は歓迎します。以上、探偵部でした」
 一気に言った彼女は一礼をして、そのまま舞台を後にした。
 生徒たちはみなポカンとそれを見つめている。
 それも無理は無いだろう。何せ、フェティシズムだのエクスタシーだのと普通の高校生なら言わないような事を言った後で、『私たちと一緒にたった一度の“青春”を謳歌』などと如何にもな台詞を吐いたんだ。意味不明に思うのも当然だ。
 でも、だからこそ面白い。
 あの先輩の側で、高校生活を送りたい。僕にそう思わせるのに十分なものがそこにはあった。

 その日の放課後、僕はさっそく探偵部を尋ねに行こうとした。が、物事はそう単純には進まなかった。
「高坂、一緒に映画研究部に行かないか?」
「え?」
 僕に声を掛けてきたのは、同じクラスで席も後ろの水瀬洋介。
「どうせまだ入る部活とか決めてないんだろ? なら一緒に行こうぜ」
「いや、実は僕もう決めてるんだ」
「え、お前が? 珍しいな」
 水瀬君は誰とでも話せる人間で、僕は席が近い事もあって入学式初日からの付き合いだ。
 僕は優柔不断なところがあって、そういう時は水瀬君が助け舟を出してくれたりもする。
「なんだよ、水臭いな。で、どこにしたんだ? 教えてくれよ」
「ああ、それは――」
 言い掛けて、果たして言って良いのか迷う。
 探偵部……字面だけ見ても普通の部活じゃないのは明白で、オマケに部活紹介の時のあのスピーチ。ここで言ってしまって、僕のこの先の学校生活にまったく支障が出ないのかと考えてみると……支障がまったく無いとは言いきれないなと思った。
「それはー、えーと……秘密で……」
 微妙に目を逸らしつつ、僕はそう言っていた。
「えー、どうしてだよ。俺ら友だちなんだしさ、友だちがどこの部に入ってるとか気になるじゃないか」
「いや、アハハ……まだ入るかも分からないし……そうだ、入部する事になったら教えるよ! それでどうかな?」
「うーん、まぁ、いいけどさ。何をするのか分からないけど、頑張れよ」
「うん。ありがとう」
 僕は水瀬君にそう言って、一人で教室を出た。

 探偵部の部室に行く上で、一つ問題点があるとすれば、部室がどこにあるのか分からない事だ。
 この学校には部室棟みたいな施設が存在していなくて、部室は校舎の至るところにあったりする。
 しかも、この三郷高校には旧校舎なる物が存在していた。
 旧校舎。読んで字の如く、新校舎の対義語。僕たちの所属する教室がある新校舎が出来る以前に、三郷高校の全教育設備が収束されていた場所。
 そして、現在では弱小部活の部室として使われている建物。
 今でこそ新校舎に全ての設備が移動され、部室としての用途しか成していない旧校舎だが、決して狭い訳では無い。
 むしろ広い。
 三階建ての木造建築。その外観を一言で説明するのなら、“幽霊が出そう”という言葉が適切だろう。
 要するに不気味なのだ。
 もっとも、不気味なのは外観だけで、校舎の内部に関しては一部立ち入り禁止区域がある以外はまともに校舎としての役割をまっとうしている。
 その旧校舎も、来年には取り壊されて部室棟に生まれ変わるとの話だ。そうなれば、全ての部が平等に部室を得る事が出来る。
「にしても、本当に不気味だなぁ……」
 まぁ、気にしてもしょうがない。
 今はとにかく、探偵部の部室を探そう。
 ………………。
「おかしいな……」
 旧校舎にて探偵部の部室を探すこと小一時間。全ての教室を回った筈なのに、未だ探偵部の部室を発見には至らず、僕は旧校舎を徘徊し続けていた。
 見落としはまず有り得ない。一部屋一部屋、全ての教室のプレートを確認したのだから。何度も。
 となると、もしかして探偵部の部室は新校舎の方にあるとか?
 いや、それは無いか。
 新校舎に部室を構えている部というのは、基本的に華がある部と決まっている。例を上げると、サッカー部等のメジャーなスポーツ系の部。加えて、吹奏楽部や美術部のような、設備が整っていなければならない部活。
 スポーツ系でも卓球部のように部員が少ない部だったり、囲碁部や漫画研究部等の地味な文化系の部は旧校舎に部室がある。
 とても、探偵部なんて何如にも弱小な部が、新校舎に部室を構えているとは思えなかった。
「でも、だとしたら部室はどこにあるんだ?」
 何度も言うけれど、僕は旧校舎を飽きる程見て回った。どの階にどんな部室があるか、右から順番に答える事だって出来る自信がある。
 それ程に探しても見つからないとなると……。
「まさか……」
 旧校舎三階。その一角は立ち入り禁止となっている。
 聞くところによると、床の一部が腐っていて、歩いていると床が抜けてしまう事があるとか。
 そんな場所を生徒が利用出来るようにするな! と言いたいけれど、来年になって部室棟の建築が始まり、全ての部に平等に部室が割り当てられるまでの我慢だ。
 まぁ、それは置いておくとして、だ。
「まさか……立ち入り禁止区域に部室がある……とか?」
 僕の思いついた事はそれだった。
 そうであるのならば、これだけ探しても部室が見つからないのも納得出来る。
 まぁ、物は試しだ。まずは立ち入り禁止区域に行ってみよう。
 ………………。
「ここが……」
 旧校舎三階の一角。『KEEP OUT』と書かれたテープで仕切られたその場所が、立ち入り禁止区域。
 仕切られた……と言っても、実際は何者かの手によって上段部分のテープが外されていて、乗り越えるのはそう難しくなさそうだ。
「となると問題は床か」
 禁止区域の床に目を向ける。
「うっ……」
 思わずそんな声が出た。要するに、床はそういう状態だ。
 所々に穴が空いていて、暗闇が間抜けな侵入者を待ち構えている。おそらく、一見無事に見える床も、まだ穴が空いていないだけなのだろう。
 僕が今立っている場所も、まったく危なくないとは言えないのだ。
 正直、この先に部室があるとも限らないのに、危険を冒してまで進む理由はあるのか? と、思わなくも無い。
 引き返して、適当な先生にでも部室の場所を聞けばいい。その上で、この先に部室があると云うのならば、それもまた運命と受け入れられるだろう。
「………………」
 でも、どうしてか、僕の脳裏には部活動紹介の時に体育館で聞いた言葉を思い出していた。

『自らの意思の赴くまま、私たちと一緒にたった一度の“青春”を謳歌したい者を、私たち探偵部は歓迎します』

 それはつまり、自分で決めて、この先に進めという意味なのではないか?
 危険を顧みず、自らで選択する結末。もしかしたら、それが入部の条件なのかもしれない。
 僕自身でも考え過ぎだとは思っている。でも、なんだかそんな気がして、考えれば考えるほど、どう考えてもそうなんじゃないかと思って……気づいた時には、僕は立ち入り禁止区域に足を踏み入れていた。
「そっと……そっと……」
 最初の一歩は、無事に廊下の床を踏み締める事が出来た。適当に踏み出した一歩、運が良かったとしか言えない。
「問題はここからか……」
 一歩踏み出した事で頭が急速に冷静になっていく。安易な一歩はもう踏み出せない。
「ここは……大丈夫なのか?」
 僕はその場でしゃがんで、床に手を当てて状態を確認する。素人……こういうのに玄人があるのかは分からないけれど……な僕には床の状態の良し悪しなんて分からないが、何もしないのに比べたらマシだろう。
 床は押すと少しギシギシと軋む部分と、力強く手を押し返す部分がある。安全なのはもしかしなくても後者に違いない。
「自分の決断を信じるしかない……か」
 確証は無いけれど、ここで立ち止まっていてもしょうがない。進まなければ。
 さっき以上に緊張しながら、僕は一歩進む。
「………………」
 遠くから人の話し声が聞こえる。それくらい静かだった。
 床は……しっかりと僕の体重を受け止めてくれた。
「よし……」
 これで確信を持てた。僕の直感は間違っていない。
 そのまま、僕は床の強度を確かめながらジリジリと前進し、やがて――、
「ここが、探偵部」
 廊下の一番奥。そこにあった教室のプレートには『探偵部』と、しっかり書かれていた。
 他の部活が使う教室のように、廊下側の窓は全て暗幕のような物で遮られ、中の光景が見えないようにされている。
 どうしてこんな所に部室を構えているのかは分からないけれど、やっと辿り着いた。
「……すみません、入部希望の者ですけど」
 戸をノックして、そう告げる。
「………………」
『………………』
 しかし返事は無い。
「あのー、誰かいませんかー?」
 もう一度声を掛けるが、やはり返事は無い。
 もしかして、不在なのだろうか。無駄足だった?
 まぁ、きっとイメージと違わず弱小部活だろうし、毎日活動がある訳でもないのかも。
 また明日があるか。
 そう考えた僕は、それでも未練がましく一応、と教室の戸に手を掛け、鍵が掛かっているかを確認するために、戸を引いた。
「え……」
 アッサリと、戸は開いた。鍵は掛かっていなかったんだ。
 驚く僕。そして。
「ようこそ、探偵部へ」
 旧校舎の教室は、新校舎の教室と比べて些か小さい。
 その教室の奥。窓際の列に並べたら席の最前列。
 椅子に横掛けした新堂かずさ先輩が、僕を見てそう言った。
「あ……」
 咄嗟に言葉が出なかった。
 既に陽は沈み始めていて、旧校舎に射し込む夕日のオレンジ色の光が、先輩の姿を照らす。
 どこか幻想的ですらあるその光景に、僕は気圧されていたのかもしれない。
 けれど、そんな事を向こうが知る筈も無く。
「どうしたの? お腹でも痛くなった?」
「へ? あ……違います!」
 的外れな心配をされ、慌てて否定する。
 今はここに来た理由を言わないと!
「えーと、僕はその、入部希望でっ!」
「へぇ、こんな部活に入部しようだなんて、君は変わり者なんだね」
 先輩は珍しいものを見つけたような目で僕を見ている。
 いや、仮にも自分が部長を務める部をこんな部活って……。
「まぁ、何はともあれ、先ずは君の名前を聞かせてもらおうかな?」
「あっ、高坂渚です!」
「渚君か。見たところ一年生みたいだけど、合ってる?」
「そうです」
「いやぁ、まさか新入生が入部希望してくれるとは思わなかったよ。アハハ」
 そう言って笑う先輩は、体育館で見た時の雰囲気とは少し違う気がした。
 相変わらず活き活きとした目をしているのだが、何と言うか……体育館の時とはそれが別の意味合いを持っているような……。
「ところで、その、他の部員の方は……」
 ふと、教室の中に先輩しかいない事が気になった。
 三郷高校の部活は、最低でも五人の部員が必要だった筈だけど……。
「ああ、他のメンバーは基本的に幽霊部員だから気にしないで」
「え? 幽霊部員……ですか?」
「ええ。一応、この探偵部の正式部員は私だけという事になるわ。後は部設立の為に名前を借りただけなの」
「は、はあ……」
 え……という事は……、
「もしかして、僕が入部するとなったら、放課後に僕と先輩の二人で活動する事になったりするんですか?」
「論理的に考えるとそうなるんじゃないかな?」
 論理的……まぁ、他に考えるべき要素も無いけれど。
 しかし、新堂先輩と二人切りか……。
 考え込む僕に、先輩はとんでもない事を言う。
「さて、今日は他にする事も無いし、せっかくだから二人で帰ろうか」
「あ、はい………………ええ!?」
 先輩はそう言って、僕の叫びを無視して教室を出る。
 僕も慌てて教室を出て、先輩の後に続こうと来た道を引き返し――
「渚君、どこに行くの?」
「どこって……え?」
 先輩は俺と反対方向に向かおうとしている。
「えと、帰り道ってここですよね?」
「あー、その……渚君って、もしかしてそっちから来たのかな?」
「そう、ですけど……何か?」
 僕の言葉を聞いた先輩は苦笑して、
「実は、こっちに直通の出入り口があるんだけど……新入生だったから、知らなかったかな?」
「え……あっ……」
 先輩の指差した先、廊下の突き当りには確かに扉があって、そこを開けるとここから地上まで続く階段があった。
「あの苦労はいったい……」
「ふふっ、まぁ、そういうのも青春だよ。急がば回れって」
 先輩はおかしそうに笑うが、なんか自分の中でこれは試練だとか思っていたのが凄く恥かしい……。
 しかし、今さらか。
 僕は先輩の方を向いて言う。
「えと、新堂先輩、これからよろしくお願いします」
「おっと、私の事はかずさ先輩と呼んでもらおうか」
 新堂先輩、もといかずさ先輩は、そう言ってまた笑った。
 これが僕とかずさ先輩の出会いで、全ての事件の始まりだった。

新堂かずさは探求する「プロローグ」

この作品、ラストの展開は決まっているのですが、如何せん遅筆な物で、完成はいつになる事やら……

新堂かずさは探求する「プロローグ」

主人公・高坂渚は探偵部部長の新堂かずさと出会う。 不思議な魅力を持つ新堂かずさとの出会いが、渚の高校生活を変えていく

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