*星空文庫

「みなかさん」

海砂 南夏 作

特にありません。

「みなかさん」

 「みなかさん」って、知ってる?

 何それ?またなんかアイドルとか?

 ううん、そうじゃなくて。その人がね、このへんの牛丼屋さんによく来るらしいんだ。由香、まだやってるんでしょ?牛丼屋さんのバイト。

 あっ、うん。でも先生には内緒ね。で、それどんな人なの?

 夜の10時くらいにね、ぼろぼろの服を着て、大きい黒いバッグを持って、牛丼屋さんに現れるんだって。30歳くらいの男の人らしいんだけど。

 それでね、必ずお持ち帰りでチーズ牛丼を注文するの。そこまでだったら普通に、「チーズ牛丼好きな人なのかな?」で終わりでしょ?

 でも「みなかさん」はね、そのあと店員さんに言うんだって。

 「箸、もうひとつもらえますか?」って。

 それで、店員さんが箸を渡すとね。もう一回聞くの。

 「箸、もうひとつもらえますか?」って。

 そこで「どうぞ」って渡すと普通に帰ってくれるんだけど、うちの学校の生徒で、牛丼屋さんでバイトしてた子がいるんだけど。

 その子がね、「みなかさん」のことを知らなくて。二回目に聞かれたとき、「さっき渡しましたよね?」って。断っちゃったんだって。

 そしたら次の日、全身に箸を突き刺されたその子の死体が見つかった、って話。

 箸って木でしょ?人の身体に刺そうとしても、途中で折れちゃったり、深く刺さらなかったり、簡単にはいかないらしいの。でもそれが、ぜんぶ根元までぶっすり、見事に刺さってて。

 それってつまり、その何倍もの本数の箸を、途中で折れたり、深く刺さらなかったりするたびに引き抜いて、もう一回同じところに新しい箸を突き刺して、って、やったってことでしょ?

 全身が箸だらけになるまで、刺すところがなくなるまで。何十回も、何百回も、もしかしたら何千回も。だから由香も気をつけてね、って話なんだけど。

『「みなかさん」』

特にありません。

『「みなかさん」』 海砂 南夏 作

特にありません。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2014-03-04
Copyrighted

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。