機械の国の孤独な王

読んでからのお楽しみ

機械の国の孤独な王

あるところに一つの小さな国があった
その国にはたくさんの機械と一人の青年が住んでいた
青年は毎日の食事や勉強を機械の指示通りにこなしていた
青年にはそれが日常だった
自分から何かするのではなく何かに指示された事をただ淡々とこなすだけの毎日
青年は毎日毎日特に疑問なども持たずにそんな日々を過ごしていた
だがそんな毎日はある日突然変わった
彼女との出会いが青年の日常を変えてしまった



その日、青年はいつものように機械に起こされ機械の出した朝食を食べていた
そしていつのもように機械の指示に従い勉強をしていた
だが、その日にいつもと違う出来事が起きた
青年が暮らす国に一人の旅人がやってきたと機械の一つが報告してきた
青年は何となく勉強を中断し旅人のもとに向かった
青年が国の出入り口である門まで来るとそこには緑のマントを着た一人の女性が機械に囲まれて困っていた
青年は機械達にどいてもらい旅人の近くまで向かった
女性も青年に気がつき近づいてきた
「よかったー、この国にも人間はいたのね」
「・・・あなたは?」
青年は女性に問いかけた
「ただの旅人よ」
「旅人?」
それは青年が初めて聞く単語だった
「あなた、旅人も知らないの?」
「知らない、機械達はそんな言葉教えてくれなかった」
青年はあたりの機械達を見ながら言った
「機械達ってこの国にあなた以外の人間はいないの?」
女性はとても驚いた顔で聞いてきた
「知らない」
青年は自分以外の人間と会うのはこれが初めてだった
生まれてすぐ機械達に育てられた青年は知識として自分以外の人間がいることは知っていた
がだ知っているだけで青年は一度も自分以外の人間と会ったことはなかった
「あなた、寂しくないの?」
「寂しい?」
青年にはほとんど感情と呼べるものが存在していなかった
だから目の前の女性が言った寂しいというものがどういう事なのか分からなかった
「そう、こんなひろい国にあなたはたった一人なのよ」
「それがどうかした?」
女性は驚いた
普通の人間ならば自分しか人間がいないこの国は寂しく孤独な場所のはず
だが目の前の青年にはこれが日常なのだ
感情と呼べるものもなく毎日機械達に指示されたことを淡々とこなす毎日
それではまるで彼もあたりにいる指示通りに動く機械達と一緒ではないか
「あなた名前は?」
女性は青年に聞いた
「名前?」
「そう、あるでしょ」
「………リン、確かそうだったはず」
「リンか…、何か女の子みたいな名前だね」
「あなたは?」
「私はナナ、よろしくリン」
ナナは自然とリンに手を差し出した
リンはついその手をつかんだ
するとナナはつないだ手を軽く振るように動かした
「……これは?」
「握手よ、これからよろしくって意味よ」
「握手………」
ナナは思った
せめて自分がいる間は彼に知っている限りのことを教えよう
たとえそれが自分がいなくなったあと彼に必要なくなっても



それからナナはリンと一緒に暮らし始めた
ナナはリンに色々なことを教えた
自分が回ってきた国のこと
出会った人たちの事
自分のこと
ナナはリンに自分が知る限りの世界を教えた
リンもそれを時に本を読みながら時に食事をしながら聴き続けた
リンにとって何かを知ることは苦はなかった
いや、彼にとって何かを知ることは彼にとって唯一の楽しみだった
そしてナナが滞在し続け丁度一週間がたったある日のこと
「ねえリン、この国を案内してくれない?」
朝いつものように機械に起こされ機械の作った食事を食べていたリンにナナは突然提案してきた
「どうして?」
「だってこの国に来て一週間もたつのにまだリンの家の周りしか見てないんだもん」
「……分かった、じゃあお昼を食べてからね」
「了解」
その後リンは昼までナナの話を聞いていた
そして二人は昼食をたべおえるとリンの家を出て国の中央にある広場に向かった
「どこか回りたいとろある?」
リンは地図を取り出しながらナナに聞いた
「ん??……、リンのお勧めは?」
「………分からない、あまり家から遠くには行ったことないから」
リンはすこし悩んだ後そう答えた
「じゃあリンが行ったことのないところに行ってみようよ」
「いいの?」
リンは地図から目を離しなぜか笑顔のナナを見た
「いいの、いいの、それにリンが行ったことないとこ=私が行ったことないとこだから」
「……じゃあ」
リンは再び地図を見た
「………地図見てもよくわからないから適当にぶらぶら回ってみるのでいい?」
「オーケー、じゃあ行こうか」
ナナは笑顔でリンの手をつかみ走り出した
「ちょっとナナ?」
「こういうのは行き当たりばったりがいいんだよ」
「……無計画とも言えるけどね
そういうリンの顔も本人が気付かないうちにほころびうっすらと笑みを浮かべていた
そのあと、二人はいろいろな場所を回った
様々な商店、緑豊かな公園、意味もなく入った裏路地
どこもかしこも人はおらずロボットや機械しかいなかったが二人は満足だった
リンはすべてが初めてで、ナナはリンが楽しそうで
二人は空が赤くなるまでいろいろな場所を回った
「結構回ったね」
「本当に回っただけだったけどね」
「地面に座り込み少し荒い息をしているナナにリン軽くあきれながら言った
「あはは……、じゃあそろそろ戻りますか」
「そうだね、もう日も落ちそう……」
「どうしたの?」
ナナは突然黙ったリンを見た
リンは目の前にある施設を目を見開き見ていた
「リン………?」
ナナがそう聞くより早くリンはその施設に向け歩き出していた
「リン!?」
ナナもすぐに立ち上がりリンの後を追い走った
リンが施設の前まで来ると機械達がリンの前に立ちふさがった
ナナは驚いた
いままで機械達はリンやナナがどこへ行こうといまのように立ちふさがったりはしなかった
「……そこをどいて」
リンが機械達にそういうが機械達はそこを動こうとしなかった
「リンどうしたの?」
ナナは様子がおかしいリンに聞いた
「わかんない、でも……」
リンはただ機械達の後ろにある施設を見続けた
「そろそろ暗くなってきたし一度戻ろう、リン」
「………分かった」
ナナはリンの手を引きその場から去った
リンはその施設が見えなくなるまでそれを見続けた
家に戻ってもナナがどれだけ話しかけようがリンは反応を見せなかった

その夜

リンは夜遅くに目を覚ました
そして静かに身支度をして家を出た
「こんな夜遅くにどこ行くの」
リンが家を出るとそこには地面にカバンを置きそこに座っているナナがいた
「……ナナには関係ないよ」
「関係あるよ、外でなんかあったら私の安眠が妨害されるし、それに」
ナナはまっすぐにリンを見た
「リンだけだとかなり心配だしね」
ナナはそうリンに笑いかけながら言った
「……お人よし」
「えへへ、そう褒めないでよ」
リンは小さくそう言った
そして二人は歩き出した
行く場所は言わずとも分かっている
あの施設へ
二人が施設の近くまで来ると夕方来た時より明らかに入口を守る機械の数が増えていた
二人はそれを物陰から見ていた
「あれは確実に何かあるわね」
「でもどうやってはいる?」
リンは機械達を指さしながらナナに聞いた
「確かにあれは丸腰じゃ無理ね、でも」
ナナはおもむろにカバンからフックのついた銃を取り出した
そしてそれを施設を囲む塀めがけてうった
フックはうまく塀の頂上に引っ掛かったのかナナはそれを確認するとフックについているロープで塀の壁を登りだした
リンはそれを少し驚いた表情で見ていた
「どうしたの?、はやく登ってきて」
ナナは塀の頂上から小声でリンにそう言った
リンは戸惑いながらもロープを使い塀を登った
リンが塀の頂上に着くとナナは少し大きな双眼鏡で施設の中を見ていた
「いたるところに警護の機械達がいるから私の指示に従ってね」
「え、う、うん」
リンが戸惑いながらそう答えるとナナはすぐに塀から降りすぐ近くの茂みに隠れた
そして機械達が目を離した隙にナナはあっさりと施設の入口にたどり着いた
「ナナって盗賊か何か?」
リンはそんな疑問を抱きながらナナの指示に従い二人はあっさりと施設の中に入り込んだ
「ナナって盗賊か何か?」
リンはあまりにも手なれた手つきで扉の鍵をあけているナナに聞いた
「違うけど私に色々教えてくれた人が本当にいろいろ教えてくれてさ、それにこれ結構使えるんだよね」
ナナはそういながら扉の鍵を外した
「旅してるといきなり捕まるなんて珍しくないし」
そうつぶやくナナの表情か悲しそうだった
「そう…何だ」
そんな事を話しながら二人はひときわ厳重な扉の前まで来た
「うーん、これはさすがにきついかな」
「こんなの開けたらさすがにひくよ」
「あはは、でもどうする?」
「とりあえずあたりを探してみようよ、何かあるかも知れないし」
リンはあたりを見渡しながらナナにそういった
「イヤ、ソノ必要ハナイ」
そんな時突然扉の向こうから声が聞こえた
二人が驚き扉を見ると扉が音を立てて開き始めていた
「ハジメマシテ…イヤ、久シブリダネ、リン」
扉の向こうにいたのは巨大な機械だった
いたるところについたコードに部屋一面にある様々なモニター
それが二人に目の前にあるものが目当ての物だと教えていた
「久しぶり?」
リンは機械が行った言葉の意味がわからなかった
「ソチラノオ嬢サントハハジメマシテ、私タチガ機械タチノ頭脳ダ」
「私たち?」
ナナは機械達の頭脳に聞き返した
「アア、説明スルヨリ見セタホウガワカリヤスイカ」
突然さらに奥の扉が開いた、二人がその扉の奥を見てみるとそこには大量のカプセルに入った人間の脳みそがあった
二人はそのあまりにも衝撃的な光景に目を疑った
「信ジラレナイカモシレナイガアレガ私タチノ本当ノ姿ダ、コノ機械ハ機械達ニ指示ヲダスタメノモノダ」
「もしかして、リン以外の人間がいなかったのって」
ナナは恐る恐る機械達の頭脳に聞いた
「ソウダ、コノ国ノ住人ハ成人シタラアノカプセルニ入ルノガ掟ダ」
ナナは驚いた、今までいろいろな国を見てきたがここまで常識離れした国は初めてだった
自然とナナはめの前の光景に寒気を覚えた
「だれも……」
そんな時、今まで黙っていたリンが口を開いた
「誰も疑問に思わなかったの、いくらなんでもおかしいよ!」
「ソレハ我々ニトッテコレガ常識ダカラダ」
「我々ハコノヨウニナルマデ、イヤ、ソチラノオ嬢サンガクルマデ我々ハコレヲ常識ダトオモイ暮ラシテキタ」
「私が来るまでっていままでこの国に旅人はやってこなかったの?」
ナナは大声を出して怒鳴るように聞いた
「アアイタサ、ダガ食料ナドヲ買ッタラスグニコノ国ヲデテイッタサ」
「………僕も」
リンは恐れるような声で機械達の頭脳……いや、この国の住人たちに聞いた
「僕はいやだ、そんな体に何てなりたくない」
それはまるで駄々をこねる子供のようだった
だが、それはリンの正直な気持ちだった
住人たちとナナは黙ってリンの叫びを聞いた
「ナナにあって僕の世界は広がった、僕はもっとこの世界を知りたい!」
「リン……」
「…………………………………」
リンは大声を上げ住人達に言った、自分の、ナナにあってはじめて知った本当の自分の気持ちに従って
「リン……、ソレガオ前ガ心カラ願ウコトカ?」
住人達の問いにリンは首を縦に振った
しばらくの間を置き突然機械からコードがリンへ向けゆっくり伸びてきた
「リンに何をする気!」
ナナが懐から銃と取り出し住人たちに向けながら言った
しかしコードは止まらない、コードはリンの手をつなぐように絡まってきた「最後二人ノ、わが子の温かさを感じさせてくれ」
「え?」
コードはリンを取り巻くように集まりはしたがどれもリンに触れるだけだった
コード達はひとしきりリンに触れると徐々に離れて行った
「ナナさん、でしたよね」
そう聞いてくる住人の声はさっきまでの機械のような声とは全く違う優しげな声だった
「リンを、私たちの息子を頼みます」
「は、はい」
住人がそういうと最後にリンのほほに触れていたコードが離れた
リンはそのコードをとっさにつかんだ
「ま、まって」
「……………」
「もしかしてさっきの声って」
リンがそう聞くより早くコードはリンの手から離れて行った
そしてそれと同義に突然警報が鳴りだした
「な、なにこれ、リンなんかやばいから早く出るわよ」
「ちょ、ちょっと待ってナナ!」
ナナはリンの手を引きながらその場から走り去った
直後、後ろの部屋にあったカプセルが割れだした
「セメテ、我々ハ無理デモ」
「未来彼二、託ソウ」
「我々ノ代ワリニ世界ヲ見テキテクレ」
「リン、私たちの大事な息子」
直後、最後のカプセルが割れ機械達の頭脳は爆発した



ナナとリンは出口に向け走っていた
「ナナ、放して!」
「だめ、早くしないとここが崩れちゃう」
「でも、あそこには母さんが」
「そんなの分かってる、だから急いで」
「なんで!」
「あの人たちの決意を無駄にする気?」
ナナは立ち止りリンに言った
「あの人たちは自分の間違いに気付いた、だからあなたの決意が鈍らないうちに自分たちの存在を消す気なの」
「そんなの分かってる、でも……でも」
リンは今にも泣きそうな表情で今来た道を振り返った
ナナは再び走り出した
彼らの決意を無駄にしないために
二人が施設からでた直後施設は爆炎とともに崩れ去った



翌日
ナナはふと眼を覚ました
昨夜、二人は炎が消えるまで施設を見続けた
そして炎が消えた後黙ったままリンの家に帰り眠った
「リンどうしてるだろ」
ナナはふとそう思いながらリンの部屋に向かった
ノックをして部屋にはいるがそこにはリンはいなかった
「リン……」
ナナはしばらくしてナナは荷物をまとめ始めた

機械の国の孤独な王

機械の国の孤独な王

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-10-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted