“現代”の浦島太郎

 浦島太郎のお話。
 それはきっと日本国民ならだれでも知っているお話であろう。
 子どもたちに虐められている亀を助けた浦島太郎は、その御礼に竜宮城へと連れて行かれ、大歓迎を受ける。さてそろそろ帰ろうか、というときに玉手箱を「開けてはならない」と言われながら受け取り、陸に戻る。すると、なんと町の様子が大きく変わってしまっているではないか!当然のことながら太郎の家族はとうに亡くなっており、故に彼は絶望し、そして玉手箱を開ける――そして太郎は年老いてしまった……。(日本書紀、丹後国風土記、万葉集などではいくらか違った展開をたどるようではあるが、ここでは御伽草子バージョンをベースとする。)
 何にせよ、浦島太郎のお話といえば、先に述べたようなものを想像することであろう。だがしかし、“現代の”浦島太郎はそうではない。現代の浦島太郎は、浦島太郎が複数いるのである――

 浜辺に硬いものを打つ音が響く。
「おらおらー!」
「ははははは!」
「やったれー!」
 それとともに、子どもたちの無邪気な声も響いている。
 だがしかし――やっていることは、微塵も無邪気ではなかった。
「……っ!!」
 硬いものを打つ音――それは、子どもたちが木片で身体を甲羅の中に引っ込めた亀を叩いている音であった。
 亀の甲羅は頑丈である。そんじゃそこらではびくともしない。では、この状況はいかがか。“そんじゃそこら”の状況である、とは言い難いところがあるだろう。この状況が続けば、甲羅は割れ、そして剥き出しとなった脆弱な亀の矮躯はひとたまりもなく打ち砕かれるだろう。
 だから浦島太郎の登場は、彼にとってはとんでもない幸運であったのだ。
『やめたまえ! 』
 ――それが、五人もの同一人物によるものでさえなければ。

『ん、誰だ貴様は?』
 五人の浦島太郎が、それぞれ互いに誰何する。
『こら!真似するな!』
 全く同じ反応を、全く同じに繰り返す。
『むむむ、いったいどういうことだ……?』
 独り言でさえ、全く同じタイミングで一言一句違わない。
『何故だーーーーーーー!!』
 もちろん叫び声も全く同じ。
「なんだよ、このおっさん達……」
「どいつもこいつも皆同じ顔してるよ……」
「気持ちわりい……」
 奇妙なオッサン集団の登場により、すっかり子どもたちは興醒めし、気味悪がっている。
『だから真似するなって言ってんだろうが!!』
 だが、そんなことにも気づかず浦島太郎達は口論を続けている。
 彼らの口論が一段落ついた頃には、子どもたちの姿はとうの昔に消えていた。
「えーっと、その、ありがとうございます……」
 だが、亀は律儀にも傍から見ていて馬鹿らしくて仕方ない口論が終わるのを待っていた。
『はっはっは。良きにはからえー!』
「何かお礼をするためにも竜宮城へお連れしようかと思ったのですが……」
『が?』
「その、私一人では貴方様方全員をお連れすることは出来ませんので……申し訳ありませんが、これで失礼させていただこうかと……」
『え、あ、うん。分かった』
 浦島太郎達は同時に頷く。
「ではその、本当にありがとうございました」
 そう言って、亀は海に潜っていった。
『何か、大きな失敗をしてしまったような気がする……って、だから俺の真似をするなよ!!』
 浦島太郎達は、再び口論――いや、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。


  完

“現代”の浦島太郎

 幼稚園の学芸会で、希望者が多いからといって浦島太郎役を5人が演じたというニュース(http://news.nicovideo.jp/watch/nw959176)を見て早速書いてみました。実際にそんなことがあったら、絶対こんなかんじになるよね。学芸会ではどうやったんだろう……。亀役も5人用意したのか……?でも亀やりたい!って子どもがそんなにたくさんいるとは思えないし……。うーむ、ミステリ~。
 それにしても、近頃おちゃらけた作品しか作ってない。『安定志向』の失敗に懲りてシリアスなのを書くのにちょっとビビってたり。それでも、そろそろまた書いてみたいなーとか思ってたり。TARI TARIです。(ちょっと古いか……?)

“現代”の浦島太郎

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-02-21

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