静寂の夜桜

初投稿作品です!
文章がおかしい部分は指摘お願いします!
少しだけ、ボーイズラブテイストが入ってくる予定なので苦手な方はご注意ください!

登場人物

十六夜桜華 (いざよいおうか)
性別:男
歳:十六
身長:一五三センチ
日中は家で寝ていることが多い。
仕事は中性的な顔立ちを利用し、女に扮装し芸者の真似事をしているが、本職は抹殺人。
髪は黒く、肩甲骨辺りまである長髪。



牧野大助 (まきのだいすけ)
性別:男
歳:二十二
身長:一八一センチ
藩の役人であり、桜華の保護者的立場。
抹殺人としての桜華のサポートに回っている。

01

これぞ晴天と言うような青空の下、ある小振りの民家の縁側で一人の青年が横になって昼寝をしていた。
青年の名は十六夜桜華。
肩甲骨辺りまで伸びている黒髪を頭の高いところでひとつに結び、日の暖かさに心地良さそうに寝息をたてていた。
ここだけ時間が止まっているように錯覚してしまいそうだ。
いきなり穏やかな空間を打ち破るような慌ただしい物音が玄関先から聞こえてきたかと思うと静かな足音が縁側に向かってくる。
それに気づいてか桜華は片目を少し開けるとすぐにまた閉じた。
「おはよう、牧野さん。」
そういった桜華の頭上に立ったのは、牧野と呼ばれた男だった。
「もうおはようの時間じゃないぞ、桜華。」
「いいじゃん、昨日も夜の仕事だったんだから。」
大あくびをしている桜華を見た牧野は深い溜め息をついた。
「人気芸者の桜華さまがそんなだらけた姿見せていいのかよ。」
「ここには牧野さんしかいないからいいの。」
牧野は桜華を強制的に座らせると、乱れた着物を手際よく直していく。
「仕事、忙しいのか?」
「藩の役人さまと比べれば暇なもんだよ。こっちは、相手方のご機嫌とるだけなんだから。」
しゅるりと髪を結んでいた紐を解くと牧野は、着物の裾から櫛を取り出し桜華の髪をとく。
「牧野さんってきっといいお父さんになるね。お付きに欲しいくらいだよ。」
桜華の言葉に答えなかった牧野。
いつもの事なのだが桜華は面白くない。
「牧野さん、次いつが休み?」
「確認してみないとわからないが、明後日くらいだったと思う。明日の夜、あっちの仕事じゃなかったか、桜華。」
整えられた髪を結んだ桜華は牧野の服の裾を掴む。
「知ってる。だから牧野さんの休みの日を聞いたんじゃない。」
「そういうのはちゃんとした人を見つけてやれ。いい加減、変な潔癖押し付けるのやめろよ。」
軽く桜華の手をはたくと、襟を正した。
「牧野さんだって満更じゃないくせに。」
音もなく立ち上がった桜華は牧野の背後に回り込み背中に頬を擦り付けるように抱き付いた。
「何だ。」
「ううん、いつになったら終わるのかなって思っただけ。」
その桜華の言葉を飲み込み、牧野は目線だけ桜華に向く。
「貴方にとって"終わり"とは何ですか?」
牧野の突然の敬語に少し目を開いた桜華だったが、俯き小さく唇を噛んだ。
「死ぬか、自分が戻ってきた時。」
その言葉に溜め息で返す牧野。
「どちらにしても良い方法はないということですか。」
「まァ、俺は牧野さんと居れるんだったらどうなろうと構わないけど?」
わざとらしく笑いながら桜華は縁側に座り直す。
「寝言は寝て言ってください。いくら昔の名残で世話を焼いているといっても、牢屋の中までついていくつもりはないですから。」
「冷たいなぁ、牧野さん。」
くすくすと肩を震わせ笑う背中が牧野にとってはとても小さく見えた。
「もう仕事に戻らないといけない時間だ。打ち合わせは前した通りで実行しても大丈夫だ。」
それだけ言い残し牧野は家を出ていってしまった。
残された桜華は静かに空を見上げた。

02

日が落ち月光が町を照らし出す頃、まるで町が眠りについたように辺りは静まり返っていた。
そんな町に突然一つの下駄の音が響いた。
からん、ころんと一定のリズムを打ち付け、夜道を歩く。
それは薄桃色の着物に身を纏い、髪を下ろした桜華だった。
日中の荒さは何処にもなく、しなやかな女の姿を見せている。
桜華がこんな時間にこんな格好をしているのは芸者ではないもうひとつの仕事のためだった。
牧野からの情報を下に日の完全に落ちた夜中に幕府の役人を抹殺するというものだ。
懐には刃渡り十センチほどの短刀を隠し持っている。
これで目的としている奴を一突きするのだ。
道を歩いていると遠くに提灯の明かりが微かに揺らめいていた。
それを見た桜華の表情が一瞬鋭くなる。
焦らないよう、一歩一歩確かに踏みしめ光に向かって歩いていく。
「おや、どうかなさったのですか、お嬢さん。」
桜華の姿を捕らえたのは提灯を手にした藩の役人だった。
役人が殺されている現状から見回りといったところだろう。
「貴方様に用がござりまして。」
声を少し高くした桜華がそう言う。
スッと男に寄り添うようにすがると、男は慌てた声を漏らした。
「な、何でしょうか?」
「ここのところ物騒でございましょう?私、おまじないが出来るので見かけたお役人様にこうして守護を授けております。少しの間、瞳を閉じていただけますか?」
役人は少し戸惑っていたようだが、ゆっくり桜華に言われた通り瞳を閉じた。
桜華は指を役人の顔の輪郭に這わせ、少し背伸びをすると、己の唇を役人の唇へと押し付けた。
驚いたようで眉をびくつかせた役人だったが瞳は閉じたままだ。
桜華は素早く懐から短刀を取り出すと、その手を役人の背中に回し、思いきり突き刺した。
いきなりのことに目を見開いた役人は最後の力で桜華の腕を掴んだ。
唇は既に離れていたが、役人の声はない。
膝からその場に倒れ込んだ役人を冷たい瞳で見下す桜華。
「良い月夜を楽しまれんことを。」
桜華はそう言うと役人の背に刺さったままの短刀を引き抜き、それを一振りした。
短刀から飛んだ血痕が砂の道に跡を残した。
それを見ながら桜華は手の甲で自分の唇をごしごしと擦った。
「汚い、」
役人と重ねた唇がとてつもなく汚れたように思えるのだ。
かなりの回数擦った後、その手を自分の着物の裾で拭く。
「仕事完了。」
確かめるようにそう呟くと道を下駄の音を響かせながら闇夜に消えた。

03

日が天高くに輝く頃、牧野は桜華の家へ向かっていた。
軽く二回入り口を叩き、中へ入ると居間に敷かれた布団がこんもりしていた。
はぁ、と溜め息をつくと、躊躇いもなく布団をかなりの勢いで引き剥がす。
「起きろ、桜華。」
「んー、まだいいでしょ…。」
「良くない。もう昼時だ。」
寝ぼけ眼を擦りながら桜華が眉間にシワを寄せる。
そんな桜華をよそに牧野は布団を庭の棹にかける。
「家に来て一発目が布団干しって何なの。お母さんかって。」
「仕事は成功だったようだな。」
「当たり前じゃん。俺がしくじるなんてないって。」
敷布団の上であぐらをかいて大あくびをする桜華は頭をボリボリとかく。
「牧野さん。」
桜華は黙ったままの牧野の背中を見て名前を呟いた。
その声は寝ぼけているようなものではなく、少し熱を含んだものだった。
「言っとくけど、桜華。」
布団のシワを伸ばしながら牧野は振り返らないままに言葉を繋げる。
「今回が最後だかんな。」
呟き程度の声量でそう言った牧野の背中を見つめたままの桜華は小さくクスリと笑った。
「牧野さん、それ何回も聞いたよ。毎回毎回、今回が最後って言っても結局は付き合ってくれんだもんね。」
にやけ面をさらけ出したまま、桜華は適当に髪を頭の高くに結んだ。
「自分でも桜華に甘いなとは思っている。だから今回は本気だ。」
やっと振り返った牧野は仏頂面で 。
庭から居間に上がってくると軽く桜華の頭に手をおいた。
「腹は減ってないか。軽いものなら作ってやるが。」
「うん。」
短い桜華の返事を聞いてから牧野は居間の隣の台所へ行くと、己の懐から襷を取り出し手際よく着物の袖を括り上げる。
「昨日はよく眠れたか。」
「良くはないけど、大体は寝れた。」
とんとんと軽快な音と牧野の声が台所から届く。
少しして、お盆にのせられてきたのはご飯の盛られた茶碗と味噌汁椀だった。
「食え。」
居間の端の方に追いやられていた卓袱台を引き寄せると牧野はその上にお盆をのせた。
「いただきます。」と両手を合わせた桜華の隣で牧野はあぐらをかいて座った。
「桜華。」
「何?」
目をを向けることなく箸を口に運びながら桜華は牧野に返答をする。
「桜華は終わりは死ぬか自分が帰ってきたときと言いましたが、確率的には前者の方が高いのですよね。」
「うん、」
もごもごと口の中に米を詰め込んだ桜華は意識を味噌汁に向ける。
牧野は小さな溜め息をつくと両の手で桜華の頬を挟み、自分に向ける。
「取り戻したいのですよね、"夜桜"を。」
まっすぐ見つめてくる牧野の瞳を桜華は素直に見返す。
「あぁ。母上の念を晴らさねば俺も死にきれないしな。」
桜華は軽く牧野の手を叩くとクスッと笑った。
「そこでひとつ、提案があるんだが。」
牧野は一言そう呟いた。

04

牧野の話に「やる価値はある」と、答えた桜華はとある民衆住宅地区に訪れていた。
身に付けている着物は役人狩りをしているときに着ているものだ。
民家の影から大通りを覗き込み、背後に立っている牧野の太ももを後ろ手に叩いた。
「牧野さん、ここでほんとにやるの?」
「何だ、怖じ気付いたのか?」
牧野はからかうようにそう言った。
「べっつにぃ。昼にこの仕事するのは初めてだから少し不安なだけ。」
桜華は表情を変えることなく、民衆が行き交う大通りを眺めていた。
事前に牧野から聞いていた話では、この地区を担当する役人が人のみならず物資等を踏みにじり行く悪名高いとのことだ。
毎回定時に現れるという役人を待つ桜華と牧野。
「来た。」
桜華の瞳は人を寄せ付けない悪意の滲み出た気配を纏い大通りを歩く吊り目の役人と凛とした雰囲気の役人の二人を捕らえていた。
威張り腐り、目の前を横切る子供に唾を吐き付ける吊り目の役人に桜華は無意識のうちに拳を握りしめていた。
「桜華。」
はっとして顔をあげると、何時もより険しい表情の牧野が見下ろしていた。
「許せないのはわかるが今は落ち着け。今回は人の目がある。見せ方を間違えると今後に響いてくる。慎重に行けよ。」
牧野は懐に忍ばせていた狐面を桜華に手渡した。
「何故、狐?」
「狐は嫌いか?」
懐から覗く狸やお多福、火男を目にした桜華は小さく溜め息をついた。
「…まぁ、いいや。」
大人しく狐面を被った桜華は懐に入れている短刀を確認し、胸に手を当てるとゆっくりと深呼吸をした。
そして、一人で役人の前に出ていった。
「あ?何者だ貴様。」
吊り目の役人はいきなり現れた狐面に眉間にシワを寄せた。
「戸張。」
戸張と呼ばれた吊り目の役人はもう一人の役人に咎められるが狐面を睨み付けている。
「なぁに、其方ら如きに名乗る名はないさ。通りすがりの狐野郎さ。」
罵りを混ぜた挨拶に戸張は気を悪くしたようで、眉間のシワがより深くなった。
「貴様、俺に楯突こうと言うのか。」
戸張は腰の刀に手を駆ける。
「楯突く?そんなことはしない。俺は其方を目上だとは微塵も思っていないのだからな。」
狐面の煽りはかなり効果的だったようで戸張のこめかみには青筋が浮いていた。
「貴様、藩の役人に対するその態度万死に値する!そこに直れ!」
「戸張、落ち着け。」
「止めないで下さい、羽鳥さん!こいつは藩の役人に楯突いた。切られても文句は言えないですよ。」
刀を抜いた戸張にもう一人の役人、羽鳥は溜め息をついた。
闘志をたぎらせた戸張はこうなっては止めることは出来ないと羽鳥は知っていたからだ。
回りで見ていた民衆ははらはらと狐面を見つめていた。
「刀を向ける人間は見極めた方がいいぞ。其方と俺では実力が違いすぎる。」
狐面は懐から短刀を取り出すと、戸張に刃先を向けた。
挑発とも取れるその行動に戸張は「貴様ぁ!!」と叫びながら斬りかかっていく。
はっと息を飲んだ民衆は次の瞬間に目を丸くしていた。
狐面が戸張の刀を叩き落とし、喉元に短剣を突き当てていたのだ。
一瞬の事で状況を判断出来ていないのは民衆だけでなく、戸張本人もだった。
戸張の斬りかかりは素早く、並の人間なら避けることも出来ないほどだっただろう。
だが、狐面は並の人間ではない。
短刀使いとしてはかなりの腕を持っている。
「なっ…!?」
「言っただろう?実力が違いすぎる、と。」
狐面は戸張を軽く解き放すと短剣を懐に納めた。
「これ以上ここで民に悪さをしようと言うのであれば、次はその喉元を掻き切ってやる。」
狐面の表情は読み取れないが怒りを帯びているのは声色で明確だった。
「凄い腕前だ。どちらさんかは知らないがその剣の腕に称賛を与えよう。」
そう言いながら手を叩いたのは羽鳥。
「戸張も修行不足が分かった良い機会だろう?」
口角を緩めた羽鳥は戸張の肩に手を置く。
「狐面の方。有り難う御座いました。」
羽鳥が軽く狐面に向かい会釈した。
「ちょっ、羽鳥さん!?」
驚いたように声を荒げる戸張。
「良い稽古をして貰ったんだ。礼は必要だろう?」
「稽古?」
そう言ったのは狐面だった。
「そう。役人だろうが一般人だろうが切磋琢磨し、日々鍛練をすることは良いことだ。手合わせ感謝する。」
羽鳥は戸張の首を掴むと引きずるようにその場を後にした。
「…相手に流れを持っていかれたな。」
狐面はそう苦笑しながら呟いた。

静寂の夜桜

静寂の夜桜

時代は江戸。 腐敗したとある藩の支配する街で、藩の役人が殺されるという事件が多発していた。 闇夜でおともなく忍び寄る影。 それは、桜華ひとつの姿だった…、

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 時代・歴史
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-02-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 登場人物
  2. 01
  3. 02
  4. 03
  5. 04