影と光

ある時代、ある大都市の隅にある、名も無い武装集団。
魔法も、王国も、教会も何もかもこの世界は許している。
2国の内、片方は、領土も国力も巨大なランディス、そしてもう一か国のソディス。独立したものとして存在する、2か国両方で取り入られている宗教、メラルの教会本部。
それをまとめて全世界の事をメラルソランディスと呼んでいる。

今、自分が居る世界とどこか似た、全く別の世界を描いた小説を読んでいる。カテゴリーは<ファンタジー>。
成程、ならこの世界もか?
デンキなんてものは無いが、マナで全部動いている。エルフも存在している。混血種族も存在している。

さて、ファンタジーと確定するにはこの本のように、精霊が必要なようだ。
精霊。 
さて、誰の事かと一人、男は小さく呟いて、本屋を後にした。

誰にも知られてはいけない秘匿とは

本屋から自分の所属するギルドに戻ってきた。広く明るい、エントランスに差し掛かる。
スラリとした体つきで、中性的な顔をした人間だ、よく目立つ。
金髪の少し跳ねた髪の毛を揺らしながら目の前でブツブツと呟く桃色がかった髪色の女の横を通る。だが女は気付かず、未だ
「私はそんなじゃないわよ。何であんたの下らない・・・。」
などと文句を言っていた。
全く違う髪色が隣り合った瞬間、ようやく女が気付く。
「あ、シェリル。何、いつ帰ってきたのよ。それはそうと・・・。」
リノアという女はまだ自分に文句をつらつら言う。それにシェリルの名前にしては、かなり低い声で自分は話を止めた。
「おい、文句を聞く気は無い」
「だって」
リノアはどうやら聞いてほしいらしいのだ。
「男にそれを話してどうする」
そう一言、言い放った。リノアは固まる。シェリルの名は元々女性に使われる名前だが、自分は男だ。
「本当にあんたって奴は・・・。冷たい人よね。口数も少ないし」
桃色の髪の毛を揺らす。尖った耳が見え隠れしている。じっと、見てきた。
「それで結構」
金髪を鬱陶しそうに揺らす。同じく尖った耳が見え隠れする。
「悪いが、それは他の人にでも頼め。俺は聞く気は無い」
「分かったわよ、他の人にでも言うわ。いつも通り、喧嘩でもして解決するわよ!」
冷たい物言いに機嫌を悪くして、怒ったリノアは足早にその場を去る。
明るい筈のエントランスが、暗く見える。冷たいドアノブを回して、さっさと部屋に入ってしまおうと、シェリルは考えた。

部屋に入ってすぐ、荷物を無造作に置いた。その中にあった自分の使い込まれた長剣が、音を立てて落ちる。
それが、随分と軽い音に聞こえた気がする。どうやら、疲れているらしい。
ふう、と息をつき、窓を静かに開けた。一人用の狭い部屋だ、どうしても今の心境では息が詰まる。
外の喧騒が聞こえた。まだ夕暮れ前だ、大都会の中心に程近いこの場所なら騒がしくても当然だろう。
窓を開けたまま、椅子に座り、机に積まれた書類を一通り読む。
「今回の依頼か・・・ん?」
呟いて、気になった一つを再度読み直す。
"謎の黒い人物と遭遇。付近の魔物を付き従えている模様。人物確認をした後、必要ならば討伐を行って欲しい"
「場所は・・・。この近くか」
そう呟いた場所は、ランディスの首都。人の少ない街から離れた草原地帯だと書かれている。
街を出れば魔物の巣窟だ。幾ら首都とは言えど、毎月毎年、多数の死者が出ている。
その為、軍が入口を張っている訳だがそれでも住民の不安は解けない。だから自分達、ギルドが居る。
このような依頼は日常茶飯事だ。
だが、シェリルはそこに目を付けた訳では無かった。謎の黒い人物。
備考にその黒い人物の特徴が書かれていた。
"黒髪のショートヘアーで前髪が長く、目が見えない。服も全身黒ずくめで、常に少し笑みが浮かんでいる"
あは、と笑う男が真っ先に思い付く。特徴が同じだ、この依頼もあの男を指しているのだとすぐに気付いた。

最後に会ったのは随分と前のことだった。
「君たちに問題です。僕は悪い人でしょうか?君達に害を与える裁かれるべき人でしょうか?世界を壊そうとしてる人でしょーうか?あは、かなり簡単な問題だよ」
シェリルが真っ先に思いついた男・・・名前は影。否、名前は分からないのだが、本人もこの名前で通しているのでこう呼んでいる。
「君たちは総員で僕の元に来た。20人近くも総員で出なきゃいけない理由は?・・・僕は勿論知っているけどね、それをここで暴露する訳にもいかないじゃない?」
このギルドの存在理由、そして"裏"を知り尽くしている存在。
「・・・いや、気が変わった。言おう。」
「君達は」
「・・・だ」
「・・・なんだよ」
「誰にも知られてはいけない秘匿。あは、この事の為に皆で仲良く僕の元に来たんだよね。」
存在理由。"裏"。このギルドを成り立たせている要素であり、知られてしまった瞬間に、全てが崩れ去る要素。
「でも全員で来ても僕に勝てない時があるよね。なんで?」
「ねぇ、なんで?・・・"守護者"達」
その要素は、この一言で語れる程、ある意味簡単で、ある意味重い、
「・・・それが、どうした」
シェリルも、仲間も、全員が守らればならない秘匿であるのだ。

「守護者・・・。」
今日は最悪な日だ。
先程まで聞こえていた喧騒も、部屋の外から聞こえる誰かが皿を割り、あ、ご、ごめんなさいと言う声も
・・・何もかもが鬱陶しい音にしか聞こえなくなった。
影。
窓から入り込む夕暮れの赤い光が、長剣に影を作る。
時間だ、そうきっと彼が宣告をしている頃か。



―ランディスは世界の内、最も巨大で唯一の大陸を領土としている。
世界の陸地の6割近くが、ランディスの領土だ。
その首都からかなり離れた、村もないような森林地帯に、エルフと呼ばれる種族の暮らす集落がある。
人々は、自分達の使えない魔術を使って殺戮をし、尚且つ自分達よりも長生きで、自分たちが年老いてもまだ若さを保ち、耳も長く、尖っている彼らを化け物と呼び、この地に追いやったのだ。
エルフ側も人間と関わりたくない、と一切の出入りを禁じている。
エルフ達が追いやられて随分と経った今、ハーフエルフ、と呼ばれた人々がランディス首都には居た。
やはりそれも化け物、と呼び忌み嫌われている。
純血のエルフはもうその集落以外、存在していないと言われた。

―シェリル。彼とその息子、兄弟、父親。同じギルドに所属している彼らだけが、純血のエルフであるという事実を知っているのは極限られた人間だけだ。

ただの守護者なのか

ドアをノックする音がした。続けて、入るぞーと、男の声。
勝手に入れとだけ答えるとそれに従い、青年が一人入ってきた。
背格好は自分より少し小さいが、茶髪のショートヘアーで、顔つきからも真面目そうに見えるが、年上の青年。
このギルドのリーダーを務める傍ら、戦闘員として、前線にも出ているルーフェンだった。
「お、見てくれたか、それ」
シェリルの手に持っていた例の依頼書。影の出現依頼。どうやらそれはシェリルだけでなく、メンバー全員に回したものだったらしい。
「影に関しては俺等にとって重要だからな。シェリル、お前何かあったのか?」
「は?」
急にぐい、と顎を掴まれ素っ頓狂な声が出た。それに続けてルーフェンは気にせず話を続ける。
「うわぁ。やっぱシェリルって中性的な顔してんなー」
「話を逸らすな」
こんな口調でもリーダーだ。自分の変化には気付いてはいるのだろう。
「ん、」
じっと見つめた後、顎から手を放して頭を掻いた。
「どうせ影についてだろ」
機嫌が悪いのはリノアとの事もあるが、一番は影についての事だった。さすがリーダー、と言ったところか。
「影・・・。仕方無いだろう、俺やロイ、レナスに一番関わりがあるからな」
そう・・・。関係がある。ロイやレナスに関しては複雑なので説明はできないが、これは歴史とも関わり深い事項があるからなのだ。
影は大昔にも存在していた。
歴史の中で、今から1000年以上前、英雄期、と呼ばれた時代があったのだが、その時代でも影は存在していたのだ。
ある夫婦に影は目を付け、妻の体を乗っ取ると、各地で虐殺などの行為を数多く行い、最後には世界を壊す、と世界の循環などの中枢へ行き、破壊しようとしたらしいのだ。
だが、それを夫とその友人、二人が、自分の命を犠牲にして止めたと言われている。
乗っ取られた妻を殺し、二人は命を犠牲にし、英雄と呼ばれているのだが、その二人が生きていた時代を英雄期、と呼んでいる。
「英雄さんの血を持ってんのがお前や家族だって訳だからなぁ」
だから関わりがある。ルーフェンはそれを心配していたのだ。
「んー。だから俺心配してお前の所に来たんだけどって言ったら信じる?」
「俺以外にもロイやレナス達は心配しないのか」
「心配するさ。けど別の任務で居ないんじゃあな。」
茶髪の髪を揺らして、シェリルの話を真面目に聞く。
一人用の部屋に二人居るのに、先程の様な圧迫感を感じない。

「んー。で、ついでにこれは全員に通達した事項な。明日、ここに居るメンバー全員で、影の元に行く。」
「で、どうする気だ」
「戦闘だろ、どうせ」
物騒な一言を聞いて、シェリルは顔を外に向ける。明日。
「今居るメンバーは」
「俺、お前、エル、リノア、レイス、シエル、ユキ、セア、レガーノ」
このギルドに所属しているメンバーの半分以下だろうか。戦力が相手に対して低いと、その言葉だけで分かった。
「前線メンバーは4人、中衛メンバーは4人、後衛メンバーが1人か。」
そう呟き、頭の中で構築してみると、程よくの戦力具合だとは思った。が、影は自分達全員で挑んでも、苦戦を強いられる相手だ。
「うし、報告完了」
言いたいことを言い終えたらしく、外を向いていたシェリルを再度こちらへ向けさせる。
「やっぱ美人だなー・・・、うん、これでさ、笑みがあったら最高だと思うんだわ。男だけど」
またその話か。そうシェリルが口に出そうとした瞬間、指をさされ、そちらに気が行ってしまい、口には出せなかった。
「いやぁ、そんなさ、シェリルさんが長剣振り回して魔術ガンガン放って。なんてな」
これ以上、容姿について言われても鬱陶しい。軽い脅迫のつもりで、尋常ではない速さで剣を抜いてルーフェンに向ける。
「これ以上下らない話をするなら出ていけ」
風を切る音がした。
カーテンが風でそよがなくなった。
「はいはい、無駄話はよしますよ」
降参、と頭を掻いてドアの方へと歩いていく。
「ルーフェン。お前・・・」
そんな彼を見て、無意識に声をかけてしまった。何か自分の中で思う所があったのだろうか?
ふと、声をかけた後考えてみた。何だったのだろう・・・。
「何かあったか?」
声をかけられた本人は知る筈も無く、シェリルに聞いてくる。それがずっと考え込んでいた所からはっ、とし
「・・・いや」
と何も言う事なく、ルーフェンに退出してもらった。

最重要機密である守護者というワード。
「この世界を永遠に生きてマナの循環を執り行う"元"ニンゲン。背中に大きな羽を持ち、妨げになる要素を排除する存在・・・。それが俺達。妨げになる要素は影・・・」
言い聞かせる。
影も知り尽くしたこの守護者としての職務はしっかりせねば。
そう、自分と関わりが深くても。
そう改めて言い聞かせて、布団に入った。
開けた窓からシェリルの金糸に月が照らされ輝いていた。

影。幾ら俺と関わりがあろうと、お前を排除する。



「どうして、僕が、ねぇ、お父さん・・・皆を殺すのは嫌だよぉ」
「俺が、悪いんだ・・・!頼む、止まってくれ!!」
「おばさんを、どうして僕は、殺さないと、って、思ったの?」
「全て・・・、全て俺が悪いんだ」
「僕が、こうなったのは、お父さんの、せいなの?」
「ああ、俺が軍にお前を人体強化実験の土台にと引き渡し―」
どうしてだ
どうしてなんだ
この会話が何度も耳に響く
小さくて、何も分からない、分かろうとしなかった俺と
罪を犯した父親の・・・。
夜になれば耳鳴りのようにうるさく響く
毎晩毎晩、これを聞いて眠る
人体強化実験の副産物―"マナの暴走"の果てを
ただの守護者な訳がないのだ・・・。


《データベース》※この情報は軍部最高機密の為、極秘事項とする。
・人体強化実験
 体内を流れるマナを利用して、個人の体躯を強化しようとした実験。
過去に行われたが、この実験の被験者が、体躯の強化以外に副作用を発症した為、中止となった。
マナの流れを体内で制御し切れず、本人の意思とは関係無く、殺戮行為をするなどの破壊行為を行うものと考えられる。
本人は意思疎通が可能だが、暴走状態を自分の意思では止められない。
 尚、その状態になった者は特徴として、瞳が赤くなる事が確認されている。 
                                →関連事項:マナの暴走(副作用)

幼き幻想・時を経た現実

信じていたのに

信じていたのに、大好きだったのに

裏切った
裏切られた

今でもそれが胸に突き刺さる
幻想と現実は違うと笑って俺の胸に何度も刺す
父親のあの行為を許しはしない
そう、誓ったのに
守護者
その単語一つで呪縛されている
父親も、息子も弟も同じ呪縛を受けている

守護者は今、その方法がエルフらによって確立された晶魔法学に基づき、属性の一つ一つを担っている
土、風、水、火、雷、それらを統括する名も無き源。―そして闇。
強大な力を持つとされる闇を、家族で担っている。
闇。誰から見ても良い印象は受けないこの属性は、まるで烙印を押されたかのように、守護者の証でもある翼にも表れている。
堕ちた守護者。漆黒の翼を唯一、闇の守護者だけが持つのだ。

黄金を染める漆黒の羽根。
それが呪縛。
現実は幻想ではない。幻想は現実ではない。
"シェリル・フェン・ローツ"は幻想であり、現実であるのだ―。


今日は幻想にうなされる。
きっとこれも、影の作る夢想なのだろうか

走り去るは夢

妙に目が冴えている。
自分の中で戦闘を意識しての事だろうか。
目が覚めて、すぐにベッドから出た。
窓を開けたままにしていたが、特に肌寒いとは感じられなかった。
日がまだ少し暗い部屋に差し込み、暖かく感じられる。

「あ、シェリルさん。おはようございます」
部屋から出ると薄い緑色をした髪の青年がそれに気づき、即座に挨拶をする。
物腰が柔らかそうなこの青年も戦闘員。このギルドのナンバー2、エルである。
皆さん準備できていますよと、言われて気付いた。
「俺・・・。そんなに眠っていたのか」
ゆっくり寝ていたとは少し自分でも意外だった。鋭い目つきが少し和らぐ。
「ふふ、ただ皆さんも私も、緊張して寝れなかっただけですよ」
寧ろちゃんと休んだ方が良いです。そうフォローを入れてもらってしまい、どこかエルに申し訳ないと思ってしまった。
だがそれを表に出す気は無い。
「それならそうと言え。不安に思うだろ」
「おや。貴方が不安に思うなんてちょっと意外ですね」
エルに笑われてしまった。自分の思っている事が言葉に出てしまっていたのだ。
「黙れ」
「ああ、すいません。少しそう思っただけですから」
どうも調子が狂う。それは単純に、エルと会話をするのが苦手なだけなのだが。
「とりあえず用意はしたんですね。出撃準備は出来ています?少ししたら出るつもりですが」
「ん、出来ている。・・・影を殺す覚悟もな」
夢に出てきた自分と、影の姿を思い浮かべ、しっかりとエルに言う。
物騒な言葉ではある。だが、その言葉を聞いて
「・・・はい」
エルも決断をしたようだ。

全員がエントランスに集まった。
「うし。一応武器種言ってけ。点呼!」
ルーフェンが先頭に立ち、"守護者"達に点呼を呼びかけた。
「・・・って俺からか!えーっと?種別、アサルト(銃)!ルーフェン。はい次」
ルーフェンの隣を指す。
「双刀、エルですね。はい、どうぞ」
次を呼ぶ。
「晶魔術士、属性は全部ね。リノア」
次を睨みつける。
「んだよ・・・。魔術士、属性は全部だな、レイスだ」
赤いメッシュの入った青髪の真面目そうな青年。次への合図は何もしない。
「治癒士、ナイフ。ユキです!はい、セア」
長い金髪の優しそうな容姿の女性は、次を呼ぶ。
「んーと?これ何て言うんス?何か蹴飛ばして爆発させる・・・何か!セア!」
最年少のいかにも元気な感じを思わせる姿で、クリーム色の髪の毛を振り回すセア。次を呼ばない。
「レガーノ。アックスだな。シエル」
レイスと同じ髪色ながら、顔は少しきつそうな体格の良い青年は淡々と次に回す。
「シエルです。簡単な魔術と槍だよ。はい、父さん」シェリルの息子。シェリルをそのまま幼くした印象だ。
最後は自分。
「シェリル。魔術と長剣」
だが、特に言うことも無い。
「じゃあこれから影のとこに行くとするか」
点呼も終わり、ルーフェンが最後に言うと、各々頷き、静かに影の元へと向かった。
シェリルもまた、他のメンバーと共に静かに後を去った。

夢の去った世界と希望の残る家 

欠伸をする。
まだ本来の目的である彼らは来ていない。
夢はもう果たせない。
だが、希望は残っている。
自分にとってか、はたまた彼らにとってかは、自分でも分からない。
少なからず、自分は"彼"に期待を寄せている。
「はぁ、僕も随分とじじ臭くなったよねぇ。ねぇ?」
シェリル達が倒すべきとしている相手―影その人は、ただ一匹連れ添っている魔物にそう語りかけた。
空はまだ青々としている。地平線に見える緑から、金色が見えてきた。続けて、様々な色が空に染まり始めた。
「あ、見て。・・・来たよ。」
空に目立つ漆黒の体を影はゆっくりと動かす。
さぁ、・・・"聖戦"の始まりだ。


シェリル達一行は、影の元へ向かっている。―が。
相変わらず後ろでリノアとレイスが喧嘩をしている。
今回は草原の真ん中で、自分の持っている魔術の構成論を争っている。
魔術を扱っているシェリルからすると、二人の話は分からないでもない。だが、中身としては結果二人とも同じなのだ。
応用論などが違うだけ。二人ともその点に関しては非常に優秀な研究者なのだが、自分の意見を通そうとする性格なのだ。
どうしても喧嘩になってしまう。
そしてそれが慣れてきた今、最早どうでもいい事でも喧嘩をするようになった。
それについて誰も咎める気は無い。
だから、今この場で話しているのはリノアとレイスだけなのだ。
「・・・ねぇ、ルーフェン・・・、いつになったら影の出現したって言ってた場所に着くんスか・・・」
今のセアのように、各々嫌にはなり始めているが。
「・・・そろそろだ。おい、二人とも喧嘩はやめなさーい」
警戒をしろ。そう合図を出すと、全員すぐに抜刀できるような状態になる。影の奇襲を警戒して、辺りを見回しながら前に進む。
「・・・。」
が、その無言はすぐに終わる。
目の前に影は居た。一言で言うならのほほん、とした影が。
「遅いよぉ」
自分達の警戒ぶりと影ののほほんさが不釣り合いだ。
「・・・何よ、私たちに来させる魂胆だった訳?」
リノアもそんな影に対する怒りから手を力一杯握っている。その手が震えていた。
そんなリノアをおそらく見ているのだろう、髪の毛で隠れて目の見えない顔を、リノアに向けてあは、と影は笑う。
「うーん。そうと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうだし。うん、まぁ僕は本当だったら来て欲しく無かったかも」
誰かが怒りに満ちようが影には関係ない。普段通りの影でいる。
「で?・・・貴方は何を目的で私たちを呼んだのですか?」
エルの話術を以てすれば何か得られるかもしれない。一同はそれに期待した。
「難しい話だったらごめんね。・・・世界と家の話をしよっか」
が、影は訳の分からないことを言いだす。どこか寂しげにも見えた。
「夢の去った世界と希望の残る家。・・・どっちを君たちは、・・・選ぶ?」
「ん?・・・え、え?」
ユキの困惑した声がよく草原に通る。全く意味の分からないことを言いだす。
「どっち?」
どっちと聞かれたら・・・答えるしかないだろう。
「希望の残る家、かな?」
シエルが答えた。
「・・・そうか、君はそんな選択をするのか」
だが、一向に真意が掴めない。何も分からない。
影は何を言いたいんだ。
全員がそう思った時―
「うん。僕にとって嬉しい選択だ。・・・ほら、構えて。戦うよ」
影はそういって黒く染まった細身の剣を構えだした。
瞬時に空気は冷え、全員が武器を構える。
「シェリル」
構えたまま、影は自分に声をかけた。
「僕を・・・。今度こそ仕留める気でいなよ。何百年も続いた因縁を、全てここで・・・。君の手に持っている剣で断ち切る気で」
その言葉が理解できなかった
断ち切る?因縁を?・・・今度こそ?
何故だろう
不思議と影が光に消えていくように見えた

そのシェリルの疑問が浮かび上がった瞬間に影は襲い掛かる。
尋常ではない速さで、人間を超えた速さで。
自分達もそれに応じて、人間を逸脱した速さで、影と対峙する。
影は純粋に異常で人間ならざる者の動きを見せる。
自分たちはどうだ。皆中身は違えど、人体実験を強制的に受けさせられた経験の持つ"ニンゲン"だ。
多少はそれで補える。
第三者の目で見たら化け物、と怖がられそうだ。
それ程に、早い。
一つ一つの行動で風を切る音がする戦いなど、誰もできないだろう。それが、本気の影と彼らの戦いなのだ。

「ああ。断ち切るつもりで戦ってやる。だから俺に勝たせろ。・・・容赦はしない!」
シェリルも剣を抜き、影に向かう。周りのスピードと全く同じテンポで剣を振るった。
絶対に影を殺してやる。顔にも出る程、強い意志でそう思いながら。
「影を殺し、この世界にとっての害を排除しよう。"聖戦"だ・・・!」

すれ違う聖戦

幼い少年の様な背格好の影。
口元に浮かぶ笑みを消すこと無く、ハイテンポでこちらに攻めてくる。
コンマの戦いでは無いか、と一瞬思ってしまうが、それすらも命取りになってしまう今、全員が戦う事に集中している。
「くっ、こうなったらっ」
まずはリノアの持ち手を発揮させる。
無詠唱での、大規模魔術の大量構築。
「雷<らいら>、水<すい>、」
リノアがとんと言う度に巨大な水流などが現れ、辺りを包み込む。
普通ならこれに飲まれ、相手は大きなダメージとなる。恐怖を持つはずだ。
加えてそれにレイスが自身の魔術を乗せてくる。重なり、更に巨大化していく。
が、その説を否定するかのように、影は攻撃をかわし、時には自分で魔術を扱い相殺させてしまう。
それ程に強く、そして速い。
当然それを主力にするなど考えていない。
相殺させている間の隙を今度は近接武器のメンバーで叩き込むようにしていく。
その間、5秒にも満たない。一瞬で間合いを詰めていく。
「やっ!」
声に意味など無い。そう声を出した時点で影からは離れているからだ。
「うーん。・・・あ、君達本気じゃないねぇ」
止むことの無い魔術と剣などをかわしながら余裕を含んだ声でこちらに言う。
「本気で戦ってよ。どうせこの周辺は人が来ない」
僕が使役している魔物に徘徊してもらっているからね。
そう語る影には、笑顔は無い。本当に、本気で戦え。そう言っているのだ。
人に見られてはいけない守護者の姿。それが本気で戦える姿。それを分かっていて、彼は予めそれができるような状況を作り上げていた。
「・・・よくこんなお膳立てをしてくれたものだ」
自嘲気味にシェリルは笑う。
踊らされている事が気に入らない訳では無い。
だが、ここは踊らされてみようか。影の言う通りにして、本気で戦い、殺す。
一番自分の中でそれが納得行く。
「じゃあはい、どうぞ。時間かかるでしょ、僕それまで手出ししないから」
「てめえな・・・っ」
当然良いと思えない人も出てくる。
「よせ、レイス」
「ルーフェン、お前何も思わないのか!?踊らせて俺らに戦えと言う!何とも思わねーのかよ!」
レイスの言い分もよく分かる。だが、今回の自分への言葉・・・
「"聖戦"」
それが気になるのだ。
だから、従う。
「レイス。・・・すまない、俺からも頼む」
影に背を向け、自分を見つめる同じ守護者に、顔を俯け頼んだ。
「シェリルさん・・・。本当に思っているのね」
「父さん、あんなに恨んでたのに」
反応はそれぞれだった。
だが、それぞれなりに理解をしてもらえた事に
「俺の・・・我が儘だ、付き合わせて悪い」
シェリルなりに、感謝した。

―翼を、広げる。

守護を名乗る堕ちた天使とそれに抗う闇の独り言

綺麗だな。
純粋に、影は思った。
守護者の烙印である翼を見てそう思った。
「久々に見るなぁ。・・・お迎えって奴かな、これ」
本気で戦えと先程自分の口から言ったはずなのに、思わず感動してしまう。
僕も本気で戦わなきゃ。それでこそ、この人達に我が家を託せる。
「・・・ふふ、シェリル。悪いけど狙いは君だ」
目の前で、堕ちた天使の象徴である漆黒の翼を広げる彼を見つめる。
「別に僕は同性が好きな訳じゃないけどさ・・・好きだよ。シェリル」
そう呟き、風にその言葉を流した。

「影」
「ん、何?シェリル」
「・・・絶対にお前を排除する。世界に害を及ぼす貴様を」
「あはっ」
守護者としての力を表に出す代わりに感情を自分の意思で抑えるシェリルに、思わず笑みがこぼれる。
守護者としての尊厳、といった所か。
「そーんな淡々と話す君も好きだなぁ」
「黙れ」
言葉に感情の起伏が感じられなくなったシェリルに笑って言ってみる。
それに内面では怒ったのか、影に先程よりも早くなった動きで、剣を振りかぶる。
鈍い金属音が辺りに響く。
「堕天使なりに力はあるね。・・・苦戦するなぁ、これ」
冷たく、そして真っ直ぐに瞳を見つめるシェリルに言葉でそう返す。
確かにこのままだと自分の剣が折れてしまいそうな程、シェリルは半端では無い力で押してくる。
「殺す。いや、寧ろ存在ごと消してやる」
「んー。・・・じゃあ僕も本気出すかな」
この物語自体、影がお膳立てをしている。
全てが計画通りである。
そして、計画をきちんと遂行出来るよう、ここで影が本気を出さねばならない。
「ふっ」
少し息んだ。
「うっ・・・!?」
「な、何よ、このマナの流れ・・・!」
それだけで相手が驚くのも無理はない。
マナの流れを強制的に変える。
自分の意思で、マナの暴走を引き起こしているのだ。
しかも、影は特殊だ。
本来この状況になると、体が思うように動かせない。
だが、影は動かせる。
つまり、シェリル達ギルドメンバーのように、本気を出したと同じなのだ。
「レイス。止められない?」
「無理だ。これは俺のやり口じゃあコントロール出来ない」
「使えない奴」
それも当然。
これを行った理由が一つだからだ。

「・・・今戦えるのは、まだこうやって僕と競り合ってる君だけだよ。シェリル」
「一騎打ちか。ふ、本当に俺との戦いを計画してたのか」
その影の思いなど、今のシェリルには殺す、恨み、・・・様々なネガティブ要素により捻じ曲げられている。
「僕は良い子じゃないからね。真似しないでねって言われても真似するよ?」
その考えはある意味間違っていないと影は知っているが。

さて、”守護者”シェリル。僕と、一騎打ちしようか。
一騎打ちをした果てに、君は絶望すればいい。それも僕の計画の内だ。
どうせ、この後に待っている未来なんて、決まっているんだから。
用意周到とはこの事かなぁ。
最後に影が思った事は、それだけだった。
剣を互いに振りかぶった。
「うわ、空中」
空、の辺りでシェリルの剣が響く。
風が音を出す。
彼は殺意に溢れている。
・・・それでこそ聖戦だ。


シェリルの力は限界まで解放されていた。
己の剣に力を込める。振る瞬間に、剣の型を変える。不意打ちを試みたのだ。
それを分かっていたかの様に防がれる。
「影」
スピードを利用して剣を振るい、乱舞する。
「うわっ」
防ぎきれない軌道があったらしく、影の右腕に細く線が入る。
それに追い打ちをかける様に、反対の腕に斬りかかる。
「うぐっ」
明らかに影が不利になり始めていた。
「潰せ!潰せ!」
後ろから戦闘に参加できなくなった仲間達が応援をする。
「父さん・・・!」
勿論全員の意思には沿いたい。
だが、それには集中していないと、逆に自分がやられる。
先程から自分の体が速さに追いつかない行動をしているらしく、骨が軋む音がする。
それでも、剣を振るう。
「・・・っ、はぁっ」
一瞬の隙が死神を呼び寄せる。
「雷牙!」
「ぐ・・・ぅっ」
影の魔術を直撃してしまった。
直後、後方から悲鳴。
次いで、影が自分を殴り始める。1発、2発。
口の横が大きく裂けた。血が出る。
それすらも気にせず、反撃を試みる。
「うわっ・・・と、」
後退した影はバランスを崩す。
瞬時にその懐に入り込む。
その時、影の隠れていた目が見えた。マナの暴走を引き起こした際の、赤い目をしていた。
それを見て、お互い目を見開く。
―刹那、シェリルは剣を胸に突き刺した。
「う・・・っ、うぅ」
形勢は一気にこちらに傾いた。
やった!とユキの声。
よっしゃあ、とセアの歓喜の声。

「・・・ふふ、」
それに対して影は笑った。
「シェリル・・・僕がどういう存在なのかも・・・知らないで」
知りたくない
「僕は・・・何故刺されても即死しないのか・・・考えてみたら・・・?」
異常な存在だからだろう
「・・・ふ、あ、あはははは。・・・残酷だ」
狂気を含んだ笑みで血まみれの顔を歪ませる。
シェリル以外からのメンバーの攻撃も、一部は受けていたのだ。おかしくはない。
「さぁ・・・最後の・・・晩餐、だ」
影という存在は本当に理解ができない。
ルーフェン達には影は怪物としてしか写っていないだろう。声が聞こえないのだから。
幼い少年―影は、胸に剣を突き刺され、血が滴りながら、足元に奇妙な魔法陣を描き始める。
決して誰にも解き明かせない魔術。
リノアやレイスですら、真似のできない唯一の魔術を放つために。
「あの規模・・・おいユキ、ドーム作れ!あれじゃあ俺達がまずい・・・!」
「う、うん、分かった・・・!」
規模だけは分かる。巨大だと。
急いでユキに防ぐドームを作らせる。
「シェリル・・・本当に君が好きでたまらない・・・僕は、これが目的だったんだから・・・」
シェリルは後ろでユキ達が防御に入っている事は知っていた。
だが、影の魔術の圏内らしく、身動きが取れなくなっていた。
「おい、よせ。くっ、仕方ないか・・・!」
これだと危険だ。少しでも相殺させねば。
そう考え、翼を広げている時だけ扱える天術を、急いで展開させた。
「シェリル!!」
後方の叫び声はよく通って聞こえた。
死神を寄せ付けている。その儀式を、影はやっている
「ふふ、・・・さようなら、守護者。シェリル」
影の呟きと共に魔術は発動し始めた。
同じタイミングで、シェリルの天術と、ユキの防御陣が形成された。
―無事だな。
シェリルはルーフェン達を見て、そう思い。
二つの魔術はぶつかり合った。

最後に見たのはお互いに、満身創痍な姿をした相手だった。

過去に全ての運命はあった

自分は軍の研究施設に居た。
まだ幼い、何も分からない様な明るい少年だった頃だ。
「君の名前は?」
見知らぬ人に目線を合わされ、聞かれたら自分はあっさりと名乗る。
「シェリル!」
「おーそうか、シェリルって言うんだな。おじさんな、今日からシェリルと一緒に過ごす子を連れてきたんだ。・・・顔合わせして大丈夫かい?」
「うん、いいよ!」
一緒に過ごす子。つまり、人体強化実験の被験者だ。
扉が開かれ、入ってきたのは、自分と同じくらいの少年だった。
おとなしい少年で、挨拶も小声だった。
「・・・」
「僕、シェリル!よろしくね」
それを見て、軍のお偉いさんは
「明日から君たちには仕事があるからね。今日はゆっくり休むんだぞ」
と優しく声をかけてきた。
「はーい!」
自分だけ、元気よく返事をした。
「じゃあ、おじさんはお出かけしてくるからな」
そう言っておじさんは扉を開けた。
おとなしい少年・・・名前が思い出せない。彼と自分、二人だけが堅い部屋に居る。
「父さんに会いたいなぁー」
何も知らない自分はよくそう言っていた。父親が軍に引き渡したのに。
「ねね、遊ぼ」
「・・・嫌だ」
「えー」
この少年の方がよっぽど自分が何をさせられるか、分かっていたのかもしれない。
「あ、○○だー」
随分と能天気だったものだ。
次の日になっても能天気は変わらなかった。
「じゃあシェリル。この中に入ってくれるかい?」
「何で?」
「これが昨日おじさんが言った仕事だからだよ。分かってくれたかい?」
「これがそうなの?うん、じゃあ入る!」
何も疑わないで実験機器に入っていく。これが運命を変えたと言うのに。
「さぁ、恐がらなくて良いよ。いつの間にか寝ちゃうからね」
子供が入るには大きい薬漬けの容器に、どんどんと薬が入っていく。
「・・・ふぁぁ、眠い・・・」
途中から、おじさんの言う様に眠くなってきた。目の前がぼけていく。
自分の体が薬の中に入った頃には完全に眠りの中に自分は入っていた。

「よし。このうるさいガキは出来たな。もう一人のガキをやってくる。お前はこれをちゃんと見てろよ」
「は、はい!」
「もしもシュラト様の耳に不吉な事が入ったら・・・分かってるな?」
おじさん、は部下に低い声音で命令する。
当然、部下は震え上がる。軍人であり、研究者であり、国でも有名なあのお方に叱られでもしたら。
自分は処罰を受ける以上の事をされる。
本来この計画に反対していた、などは関係ない。
幼かった”俺”をこうしたのは国の政を担う者らの我が儘なのだから。

「あ・・・、―」
そうして、早くも1年は経っていた頃だった。
「あ、シェリル。終わったの?」
「うん!―ももう終わったの?」
「うん」
シェリルは、同じ部屋の少年とも打ち明け、仲の良い親友になった。
一緒に遊んだり、時には軍の研究施設内を走り回ったりもした。
こんな少年二人を、大人は何も言わず、遊園地のようにさせる。
今から考えれば、被験者だったから、という理由が付いていたからだろうか。それなら手出しが出来ない筈だ。
徐々に体力が付き、走り回るスピードも子供というには早いという、見た目ですぐわかる体躯の強化の成功もあったからこそその実験結果代わりに走り回らせていたのかもしれない。
シェリルは親友と今日、最後の実験を終わらせたのだ。
最後の定着期間を経て、二人はバラバラになってしまう。
「寂しいなぁ。―の家、ここから結構遠いもんね・・・」
「そういうシェリルなんか、エルフの集落でしょ。僕なんかが入れないじゃん」
それが、お互いの現実だった。
「また会えた時の為に名前、絶対覚えるから!―も僕の名前絶対覚えててね!」
「・・・うん!」
この会話は思わず笑いそうになる。言った張本人が忘れているではないか。
「・・・もう遅いみたいだし、今日は寝よう。明日、いーっぱい、遊ぼう、シェリル」
「うん!遊ぼうね、―。じゃあ、おやすみなさい!」
「おやすみ」
この黒髪の少年が思い出せない。
柔らかい空気を作り出してくれた、かつての親友が思い出せない。
シェリルにとって、最後の親友が。
翌日になれば、思い出せるか。そう、期待した・・・。

その翌日が魔の日だった。
「・・・んんんーっ、眠いなぁ」
大きな目をこすりながら、外を見た。
「なぁんだ、天気悪いじゃんか・・・外で遊べない」
カーテンも心地よいそよぎ方をしていない。
「これが、最後だもんね」
実験によって、とても強くなった手を思いっきり握った。
親友のベッドは少し離れている。
直接行かないとよく分からない程度に、ベッドが配置されている。
「起きたぁ?―・・・っ!?」
目を見開いた
親友は居ない
ベッドは荒れている
血まみれになっている
「・・・ひっ」
怖くなった。その場からすぐに逃げた。
「―、ねぇ、どこに居るのー・・・?」
眉尻を下げて叫ぶ。
途端に一人が怖くなってきたのだ。あんな光景は初めて見た。とにかく怖い。
「う、うぅ・・・やだよぉ」
怖さのあまり涙があふれ始めた。
必死になって探した。
部屋の外に居る、シェリルはそう感じて外に出た。可能性は高い。
外に出ると、周りの大人たちは走り回っていた。
「おい、―は居ないか!?」
「一人で立ち向かうな!殺されるぞ!」
「・・・え・・・」
親友の名前を挙げて皆揃って殺される、と叫んでいた。
直後、悲鳴。
「―・・・!」
無意識の内に、シェリルは近くに落ちていた剣を持って悲鳴のした方へ向かって走り出した。
普通なら剣を持つのに少し気後れがしそうなものだが、何も思わずす、と手に取った。
「う・・・あ・・・」
声にならない叫びが走りながら出る。
―。
少し、いつも走っていた廊下が長い気がした。
親友が見えた。
近くには血まみれになって倒れた大人と何人かの生きている大人。
「・・・うあああああああぁっ!!!」
その間を縫って親友の元に駆けた。
無意識に、剣を構えて。
今では聞き慣れた、金属の音がした。
親友もそれを受け止めたのだ。
「・・・あ・・・」
シェリルは気付いた。
「嘘だ・・・、マナの暴走だなんて」
目が赤かった。
副作用の可能性として、一応聞いていた症状が親友に出ていた。
「ねぇ、―・・・!今日で帰れるよ、僕とも一杯遊べるよ・・・!」
「・・・っ」
「ねぇ・・・っ!」
残酷だった。
必死に親友は否定していた。それはいくら幼くても、シェリルには分かった。
しかし、体はどんどんと周囲の大人の白衣を赤く染める。
「・・・ぃが・・・っ」
「やめて、やめて・・・!」
泣いていた
年相応の子供の涙だった
周りの大人を殺し尽くした後、今度は自分に向かってきた。
「わっ・・・、いたぁ」
頬を掠め、細い線から血が滴る。
「・・・、だめ」
必死に否定する。
「やめてぇ!僕は一緒に帰りたいだけだ!!」
扱った事もない剣で必死に攻撃を防ぐ。
「・・・ェリル、遊べ・・・ぁいね・・・」
必死に絞り出して親友は笑う。
やめて
笑わないで
その後が残酷だから。
その後、親友は自分に襲い掛かった。本気で、殺しにかかった。
死ぬ。直感的にそう思った。
防衛をしよう。そう思い、剣を構えた。
途端に、親友の幼い顔が驚いた。
その寸前で剣先が相手に向かっていたからだ。
胸に刺さった。
「・・・!?」
自分も大きな目を見開いた。まさか、刺さるとは思わなかったのだ。
刺さったまま、親友は自分に向かって倒れてきた。
血が自分に降りかかる。

どさり。
そう、鈍い音がした。
丁度即死する所を刺していたらしい。そんな知識も無い幼い自分は期待して親友に声をかける。
「ねぇっ、ねぇっ」
当然反応は無い。
そこで、ようやく自分が殺したのだ、と気が付いた。
「・・・あ・・・、―」
夢中になっていたのだろうか

「・・・うわああああああああああああああああああああああぁぁっ!!?」
親友に押しつぶされる形で、幼いなりに精一杯叫んだ。
自分が殺した、その背徳と最後の別れの意味を込めて。
 
何故、この夢を見るのだろうか。
自分もあの影の魔術によって危険に晒されているからか?
そう考えている内にある道筋が見えた。
一寸先も見えないような、暗く、寂しさも感じる道筋が。
「・・・あ」
この夢の意味は、何だったのだろう。

影と光

お恥ずかしながら、これが初執筆。
どうかお手柔らかにお願い致します。
今回の概念などは、全て書き終えてから、書こうと思います。
尚、著作権に関してですが、二次創作は許可しています。改変は、余程の事が無い限りおやめ下さい。
二次創作をしましたと連絡がありますと私も大変喜びます。ですが、強制ではありませんので、構いません。

影と光

友人に宛てたもの・・・かもしれない。ファンタジーだけど、異常な世界。理を外れた人間の守る世界。何がしたいのかもきっと分からない、ファンタジー。 未完です

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-02-12

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY
  1. 誰にも知られてはいけない秘匿とは
  2. ただの守護者なのか
  3. 幼き幻想・時を経た現実
  4. 走り去るは夢
  5. 夢の去った世界と希望の残る家 
  6. すれ違う聖戦
  7. 守護を名乗る堕ちた天使とそれに抗う闇の独り言
  8. 過去に全ての運命はあった