俺と姉の非日常!

はじめまして。赤上です。この作品は過去描いたものに加筆したものです。
至らぬ点が多くありますが、どうぞ読んでくれると嬉しいです。

編集の問題で、不自然な段落下げがありますが、気にせず読んでください……。
感想受付中→akagamiizumo@yahoo.co.jp

 序章も及び第一章 予感

 序章――ただの非日常

 何年前の話かは忘れたけど、とにかく九月二十四日……だったと思う。
 記憶が曖昧なんだ。すまない。
 俺はいつも通り、いつも通りに日常生活を送っていた。変わりばえのしない退屈な毎日だとうんざりしていただろう。
 そんな贅沢を、生意気にも思っていただろう。
 伝えることができるのなら是非言って欲しい。伝えて欲しい。

 今の日常を大切にしてくれ。と。

 そうすれば、……あるいは。
 あんな惨劇は起きる事がなかっただろう。
 初めから語るのだとすれば少々時間がかかるかも知れない。それでも俺の話に付き合ってくれるというならば、ありがとうを言いたい。
 しかし、語り部となるのは“この俺”ではなく、昔の――そう物語が始まった時点での“俺”だ。
 だから愚かな考えや行動があるかもしれないが、目を瞑ってくれ。
 けれど、最初の頃の俺はそう間違った行動をしてはいないと思う。
 ただし失敗はしている。
 そんな俺を見ようが見まいかは自由だ。俺はただ自己満足で言っているだけであってな。
 さあいよいよか。
 では。時系列が追いつけば、そんなときが来ればだが――また会おう。


 第1章 予感  1

 部屋中を振動が包み込む、近くで爆発があったみたいだ。おそらく自動車の事故か何かと俺は勝手に予想する。
 普通は爆発が起きてるって時点で驚くもんだが、ここ最近この街で多発的におきているみたいでもう慣れかけてしまっている。なんか残念だ……。
「……っ朝のモーニングコールがこれかよ。ついてねぇー」
 初めは過激派のテロかなにかと思ったのだが、実際ただの不注意によるものらしい。
 ただの不注意が多発的に起きてるって時点で異様だが……う?ん。オカルト的にも考えられるが、俺はそんなもの全く信じないので、却下とする。
 いつからだったかは忘れたが、俺は超能力とか幽霊とかそういう類のものは信じなくなっている。ぶっちゃけ嫌っている。
 だって「神はいつも見ている?」とか言われたって見たこともないのに、信じられるかよ。
 さて、こうやって心で呟いてるうちに着替えはもう済ませているのさ!
「あーまと。ご飯できたよ。はやくしないと劇薬トッピングしちゃうよー」
 扉の向こうからブラックジョークを交えて俺を呼んだのは、母――ではなく姉。お姉ちゃんだ。
 あまと。と言うのは俺の名前。フルネームで鬼林天人と言う。姉ちゃんは心亜。
「へーへー。朝から元気ですなー。ところで今日は姉ちゃんバイトだっけ?」
 部屋を出ながら問いかけた。
 あれ、姿が見えないぞ。居間にはいないのか?
 見ると俺の分の食事だけ、お弁当とセットになってテーブルの上に置いてあった。ベーコンエッグと野菜に、こんがりと焼けた生地に苺ジャムを塗った食パン。どれも在り来たりだが、なんかうまそうだな♪
「そうだよー。だから夕食も自分で作りなさいね。じゃ、先に言ってるよ。ちゃんと戸締りもしといてね」
「はいよー」
 どうやらもう登校の時間のようだ。俺はまだ余裕があるが姉ちゃんは日直か何かあるのだろう。ちなみに俺と姉ちゃんは学校が同じだ。年の差は二年。俺が一年で姉ちゃんが三年だというのは言うまでもなく、そうだ。
「はむはむ、むっ。おいしいな!」
 やっぱし相変わらずうめーよ。まあ毎日作ってるからその成果だろう。
 そう俺たちの親は俺が生まれて一年と経たずに、亡くなってしまった。まあだから料理は姉ちゃんが専攻していままで作ってきてくれた。最初はおばあちゃんの家暮らしのとき、教えてもらってって、その頃の味は……まああれだったど。
 まあ今は旨い。
「完食。ごちそうさま」
 少し早いと思ったが、俺も登校しよう。
 最近ちょっと冷えるから軽くなんか羽織っとくか。
 クローゼットのジャケットを取り出し、玄関へ向かいそして俺は登校する。鍵を閉め忘れて。



 家から一〇分ほど歩いたところで、後ろから声を掛けられる「おはよー」。うむ、すがすがしい朝を感じさせる雰囲気だ。
「おうおはよ、ずいぶん早いんだな」
「天人君こそ早いんじゃない?」
「んあー、だな。ちょっとねー」
 こいつは俺の幼馴染でクラスメイトの女子、開花院理穂(かいかいんりほ)だ。成績優秀かつ、クラス委員長だ。
 学校でもわりかし人気があるみたいで告られてはふり続け、ついには偉業の50人切りを成し遂げたという。
 っひゃー! こんなところを他の男共に見られたら……死。
「どーしたの天人君? 悩み事なら相談にのるけど?」
 俺が黙っていると、
 まだ緑の残る、無数の葉が舞う通学路で、開花院はブラックダイヤの様な程よい光沢のある黒髪を揺らして、そう尋ねてくる。
「あー、気にすんなちょっと今朝の事故のこと考えててさ」
「事故? あー、最近多いみたいだね。私たちも気を付けないとね。うんうん」
「んー気を付けるのはそうなんだが、なんかそのー不自然なんだよな」
「不自然??」
「ああ、単なる不幸なんだろうけど、なんか変なんだよ、それにここ数日起きすぎじゃねーか?」
「うん、確かにに起きずぎだね。……でもそんなの考えてもわかんないことだと思うけどなぁ」
「だよな」
 それに、と腰を低くくして、柔らかそうな人差し指を差して付け足す。
「そんなに君が深く考えることじゃないと思うよ。……なんか偉そうなこといっちゃったかな?」
「そんなことねーよ、ありがとう。おかげでスッキリしたよ」
 こういう気遣いに男共は惹かれるんだろうなぁ……としみじみ思った。
 そんなこんなの話しているうちに、校門前。お互いゆったりと教室のほうへと歩いていった。


「おいおいテンジン、親友の俺を差し置いて、また理穂ちゃんと仲良く登校か?」
「親友ならまずその呼び方を直してほしいのだがな」
 一緒にバカトークしているのは、中学からの親友、軒下(のきした)だ。
 金髪にピアス、鋭い目つき、と見た目はヤンキーに見えないでもない彼だが、中身は普通のオタク高校生だ。
「お、アマっちゃん。例のラノベ読んだ?」
「おー幽玄、百合百合してたなーあれ」
「だろだろ。お前そーゆーの好きだからとおもってさ」
 今話しかけてきたコイツも、親友のひとりで。知り合ったのは高校からだ。
 名前は幽玄佑太と言う。(あっ、ちなみに“百合”って気になったらyahoo検索してみてもいいぞ……責任は取らんがな)
 教室を見回してみるとだいぶメンツがそろっていた。そして決まって事故のことを話し始める。あるものは「きっと、おばけがおこったんだよ」とか「これは妖怪火車の仕業だよね」とか、きまって話をオカルトにもっていく……くだらね。


 いつも通りに授業を終え、昼休み。軒下、幽玄、それと開花院と昼食をともにしていた。……開花院はなぜ女子と食わないんだ? まぁいつものことか……。俺のこと好きだったりして(それはない)。
「……ってかさぁ、んで理穂ちゃんいっつもあの元ヤンくんと食ってるわけー?」
「さぁ、アーッシに聞いてどーすんの?」
 右側で席が横の三つほど離れたくらいの位置にある、二人の女子の会話が聞こえた。
(その通りだよな、うんうん……ってか俺元ヤンじゃねえよ……)
 少なからず俺はそう思っていた。だが、結果から言ってしまえば周囲の印象はまったく逆のものであったのだ。このときの俺には関係ないし知らなくても言い情報なんだけど。
 そうして残りの授業を終え、帰りのSHR(シュートホームルーム)の担任のためになる話をすらっと聞き流し、日直が号令を告げ、放課後の幕開けとなった。

          2


 キーンコーンカーンコーン♪ と聞き飽きたチャイムをBGMに、部活のあるものは部室等へ、帰宅部や部活が休みのものは下校の準備をしていて、BGMが鳴り終えるとすぐに。
「部活動のない生徒は速やかに下校してください」と無気力な女声の放送が流れていた。実は俺もその「部活動のない生徒」なのだが。
 この「早く帰れ」的なニュアンスを含んだ放送がながれるまでは、俺は開花院の相談にのっていた。なんでも最近視線を感じるというのだ。
 まぁ彼女モテモテだから影からうぶな男子が告白の機会をうかがっているとか、どうせそんなのだろう。
「いや、そういうんじゃないんだと思う」
「?」
「なんかね、その、視線に悪意? いや、殺気かな? そういったものを感じる気がするのよ」
「殺気? 物騒だなぁ」
 俺は疑問を口にして、開花院を気遣う。
「うん、たまになら普通に視線とかも感じたりするんだけど、今回はなんか感じが違うのよね」
 あー、愛のこもった視線も感じたりするんだ。そりゃ学園のマドンナだもんな。そかそか。
「んー、じゃあ帰りとか友達と一緒に帰ってもらったらどうだ? 少しは安全になるし、気もまぎれるだろ」
「そうするよ……、ありがとね天人くん」
「ああ。部活頑張れよ部長さん」
 部長と言うのは、彼女の所属しているテニス部での彼女の立場。成績優秀でスポーツもできちゃうからねーこの子。
「じゃあまた明日ね」
「おう、気を付けれよ」
 ここで放送がかかりテニス部部長であるところの、開花院と別れた。
 ここまでは皆さん見て分かるようにいつも通りの普通の日常だったんですがね。ホント困っちゃいますよ。
 さてさて、ここからが本題だ。


 ふんふんふふふん♪、と別になにかハッピーなイベントがあったわけじゃないが、俺は鼻歌まじりに帰りの帰りの道中を歩いていた。
――今思い返せば、そう思い返してみるとここから始まったのかもしれない。いや、ここから“崩れ始めた”のかもしれない。
 遠くに視線を向けると、曲がり角ひとつないまっすぐな道のちょうど真ん中のあたりになにか人影ようなものがみえた。
「なんだろ??」気になって少し足早に人影に向かってみる。
 向かった先にいた人影――雪の様に白い髪の黒いタキシードで、さらにそれを第二ボタンまではずし、胸ポケットからくしゃくしゃのハンカチがはみだして見えてるだらしない格好の…………おっさんだった。
? なんか見るからにかったるそうなおっさんだなぁ。
「ん、おお! 天人君じゃないかー。まってたよ」
「……?」
誰だ、それになぜ俺の名前を知ってるんだ? つか俺ってそんなに有名人だったか? 正直こんなおっさんに待たれてもキショイだけだぞ。
あ。なんだろやつの後ろ?
「――!!!」
瓦礫(がれき)、そこにあったのは明らかに誰かが崩した瓦礫があった、おそらくこのあたりのあった建物の成れの果てだろう。
 それがわかった理由、それは至極簡単単純明快、近辺の建物がえぐれていたからだ。
「ああ、これ?」
おっさんは後方の瓦礫を親指で差しながら続けた。
「これは俺がやったのさ。君が逃げちゃったら話になんないからさ」
「どうゆうことだ?」
「だーかーらー、君に話があって……」
「……なんだ?」


「君さ、天使やらないか?」


「は? なに言ってんだあんた」
「だーかーら、天使やんないかって」
「は? テンシ? 第一そんなもんいねぇーだろ」
「それがいるんだよ」
「じゃあ、何処に?」
「ここに」
当然だ。と言いたいかのように彼は気軽に言った。この年になって中二病か、なんか残念なやつだな。
「証拠は?」
バカにしたように苦笑しながら俺は尋ねた。
「みせようか?」
 告げたと同時、彼は右手を金槌の様にして横なぎに自販機を叩いた。もちろん、俺は自販機を叩いた程度で凄まれたっておののきはしないが、
 俺は事態を知った。
「………………………………………………………………………………………!?」
 戦慄した。
 それと同時に、今まで信じてこなかったものや否定してきたものを、目の前に見せられて証明されて絶句してしまった感覚に襲われる。
 彼の叩いた自販機は見るも無残にひしゃげていた、のだ。
 パラパラ、とその行為によってひしゃいでしまった自販機の破片の落ちる音がやかましくも俺の鼓膜に伝わってくる。
 ありえないだろ。おいおいおい。
「信じてくれた? つーか信じろ、少年」
コクリと頷いた、頷くしかなかった。怖かった、それだけだ。
 信じられないことが起きてパニックになっていた。これは信じたというよりか、ねじ伏せられたと言うべきだろう……。
へ、help me、誰か助けてくれ。


「……で用件は」
「さっき言ったろ、天使になんねぇーかって」
「それだけか? ……なら別になってやってもいいけど……」
「おお、ほんとか!」
露骨に喜ぶな! 脅しやがったはどこのどいつだ!
「あーじゃあまずアルバイトからだな。コレでお前を天使にするかどうか見る」
「なんで俺が誘われてんのに試されるようなことになってんだ?」
「あぁ?」
ガン飛ばされた……。うーこわ!
「や、やらせていただきまーす」
まーた、脅されたよ。
「まず、バイトの内容からだ。今回、君は『あるもの』を壊してもらう。」
「『あるもの』?」
「ああ、これはちょっとワケアリなものでね。……知ってる? 天人君、ここ最近事故が多発してるって」
「えっあー知ってるけどそれが何か?」
「実を言うと、それはその『あるもの』による意図的現象なんだよ」
「えっと、つまり誰かが何かを目的に『あるもの』を使って、事故を起こしてるっつーことか?」
「そーそー、そゆこと」
胡散臭い。それに今まで信じてこなっかた分余計に信じられない。
「でも、その『あるもの』って?」
「あー単刀直入に言うとね。『あるもの』っつーのは“不幸増殖(プラスアンラッキー)”またの名を“災難時計(デットウォッチ)”というもんだ」
「災難時計?・・・時計なのか? それ」
おっさん改め自称天使が頷き、さらに付け足す。
「これは町を対象にしたもので、効力は設定した時刻にかけて町全体が不運に見舞われていく。そういうものだ」
「あーそれでここ数日の事故か」
「そう、だがそれだけじゃない。厄介なのはここからだ・・・」
「なに?どういうことだ??」
「最初のうちの事故だけならまだかわいいもんだ」
「事故以上のことが起きるというのか」
「飲み込みがはやくて助かるよ。そうさ……最終的には町自体が消滅するだろうね。存在そのもの自体が、誰にも気付かれぬ内に。スッと、綺麗さっぱりね」
「な……」
絶句。ことの重大さを知りその場で固まってしまった。


テニス部部室 午後四時四五分
部活の休憩時間。開花院理穂はドリンクとタオルを取りに部室へ来たところだった。
「どーこーかなー?」
ほかの部員は部室にいない。おそらく、あらかじめもうコートへドリンク等を持っていってるのだろうと彼女は納得していた。
実際、違ったのわけだが……。
濃い黄色のラケットバックからドリンクとタオルを探していた。そのとき、彼女はある違和感を感じた。この場ではありえないものを・・・・、


視線、だ。


以前に比べてさらに増した殺気、悪意。体の心まで伝わってくる。
(ありえない……なぜ?)
 ここには誰もいないはず、おろか、隠れる物陰すらない。
「だ、誰?」
事情を把握していなければ彼女のただの独り言にも見えるだろう。
「何処にいるの? 姿を現しなさいよ!!」
誰もいない部室に話しかけたって言葉が返ってくるはずはない、普通ならだが、
 だが普通じゃなかった。
「ほうほうほう……俺の視線に気づくとは……たーいした小娘ちゃんだ」
声がどこからか響いた。音源は不明だが喋っていることは確か。
刹那、 視線が消えた。
しかし、代わりに殺気が倍増した。
気づいたときには、もう手遅れ。視線の主は彼女の背後に周り、彼女が気付く前に気絶させた。
反応が早ければ結果は変わっていたかも知れなかったが。時既に遅く、午後四時五五分 開花院理穂は攫われる。


            3
午後5時ジャスト
俺は町を、黒タキシードの自称天使と並んで走っていた。
「制限時刻は五時三〇分、ギリギリだ。」
「はぁ? 三〇分しかねえの? やべーじゃん」
「だから急いでるんだろうが、今から説明をすっぞ。一度しかいわないから心して聞け」
無茶苦茶だなコイツ。俺は心底嫌そうな表情になっていたのか、
「そんな顔するなって、君の下校時刻まで待っててやったんだからさ」
知るか、俺の時間を返せ。ただお前がコエーからついてきてやってるんだぞ、まあコエーから言えないケド、
「何で俺を連れてくんだ。てめえ一人でもいいんじゃねぇーのか?」
「うん、実質そうなんだが君の試験代わりにって思ったからさ」
「試験なのに町の存亡かけんのかよ。アッブねー試験だな」
「まあ何とかなるって」
「軽いな、おい」
こんなやつがほんとに天使なのか?? 全く持って信じられん。
「心配無用。俺は天使だ」
「っ読心術!?」
はぁ、これがこの状況にあった会話なのか?って、コレも読めてんのか……。そう考えて頭を頭をかいてると、
「いや読めてないよ」
 って!
「反応示してる時点で読んでんじゃねぇーかよ!!」
うわ! やりずらいなコイツ。
「ああ、そうだ」
質問をひとつ思いついたので、聞いてみることにする。
「ん?なんだい」
いや、聞かなくてもわかってるくせに。まあ一応聞くか。
「いや、俺の試験代わりってのはわかったんだけど……そのなんで俺なんだ?」
「あー、そーいや言ってなかったっけ、まぁ、君を選んだ理由はいろいろあんだけど、うん、絞って言うと君が天使の子だからってのが強いかな」
「ハ!?」
何言ってんだコイツ? 天使の子? てかまずどっちが天使だ? 父さん? それとも母さん?
 耐え切れず否定の言葉を俺は放つ。
「……嘘、だろ?」
自称天使はなぜか笑っていた、そして呆れた様に。
「いい加減受け入れろよ。君はそういう星の元に生まれてるんだよ、きっとなぁ」
……信じたくない。
今まで信じてこなかったように、だがここは口を合わせておいた方が先決だ。
「わかった受け入れる。」
 ん? じゃあ初めから天使なんじゃあ……まっいいか。
「じゃあ、説明を再開するぞ。この災難時計(デットウォッチ)どこかに置いてあるわけじゃなく、これは悪魔が所持しているものなんだ」
今度は悪魔ときた、非日常のオンパレード。俺は夢でも見ているんじゃないのか?
「それは厄介なこった」
「いや、そうでもない、俺にかかれば赤子の手をひねる程度さ」
「ずいぶんな自信だな」
「ま、悪魔にもよるんだが、この手の悪魔は戦いが得意じゃないんだ」
誘惑型というらしい、誘うの専門か……。
「ん? なんで誘い役専門の悪魔がその、デットウォッチだっけ? そんなもん持ってんだ」
自称天使は少し考えて言った。
「たぶんおまけっつーのとコイツが所属している組織が持たせたんだろうね」
「オマケってどういう・・・・・・あっ、そっか誘うのがメインでこっちに来てんのか・・・でもおまけで町消すっておかしくねーか?」
「もともとおかしな組織にいるんだろーぜ、まあ命令者が誰かはまったくわからないけど・・・・悪魔サイドじゃないのか?」
軽く頷きながら自称天使は言った。最後の発言は小さな声でよく聞き取れなかった。
そして俺は見解を述べる。
「そうか、誘導型の悪魔だったってのもあって、今回俺に手伝わせたのか」
「うーん、まぁそんなもんだ。難易度も下がるからね」
だけど、と真剣な眼差しで自称天使はさらに付け足す。
「間違っても、戦おうと思うなよ。奴らは次元そのものが違う、少なくとも、人間?である今の君じゃ敵わないだろう」
 いい終えて、表情を柔らかくし続け、
「以上で説明は終わり。質問は……ないね」
勝手に質問を打ち切りやがった。まぁないんだけど、
「さぁ、いよいよ本番だ」
気づくと俺達はもう高層ビル群のなかにいた。そして、ゾッとするほど人気(ひとけ)がなかった。
「悪魔の(わざ)だね」
自称天使は続けて、人払い、とひとつだけ言いその言葉どうりに、ビルの中すら人が見えないほどであった。
人気のないビル郡の奥へと視線を向けると、視線の先に、件の視線の主がいた。開花院が言っていたあの、見ただけでわかる。
悪魔。
そう、視線の主は悪魔……だ。
解った理由、それはそのまとうオーラにも外見にもある。そして、奴が視線の主だと分かった理由がやつの手のなかにあった。
開花院理穂。
何故かそこに同級生の姿があった。
 嘘だろ??

 第二章アルバイトスタート!

                 1
 
 俺の悪魔について知っている知識は、学校で気まぐれに開いた辞典で知った程度の知識だ。悪に誘う魔物まさにその言葉通りだと思った。
 現に誰かを誘いにここまで来ているのだから。そして、そのせいでこの町が危ない状況に陥っているのだ。
――なんてやつだ。
 何人の人間を巻き込もうとしているのか、こいつはわかってるのだろうか?答えはわかってやっている、だろうが。
「ん?」
 気づくと先ほどまで隣にいた自称天使がその場からいなくなっていた。
 試すため、なのだろう。
「やるしかねえか」
 おっ、と悪魔であろうソレはこちらに気づいた。ずいぶんと間の抜けた声だ。
「よぉ、呼ぶ前に自分から来るとは、どうゆうこった??」
「呼ぶ!? そりゃどうゆうことだ」
「ん? あ、こっちこそどーいうこった」
 悪魔は眉をひそめ、どこぞの人形かの様に機械的に首をかしげる。
「俺が聞きてぇよ! なぜお前が俺を知ってる? 俺はデットウォッチとか言うやつを壊しに来たんだぞ」
「なに?」 
 その発言に悪魔は驚いた、心底意外そうな顔だったと思う。、
「それになんでテメェの腕の中で理穂が気絶してんだ?・・・・・まさか攫ってきたとか言うんじゃないだろうな?」
 そこで悪魔は納得したように腕を組み、ふーん、と分かりきったかの様に鼻を鳴らし、少し力を強めて発言した。
「そうさ、そうそう攫ったのさ。なぜだと思う?・・・聞きたいよな? ん?」
「教えろ。何の理由(わけ)があって理穂を攫った!!」
「簡単さ、そして感嘆すべきことさ」
 悪魔は俺に視線を合わせ、薄気味悪いニヤケ顔になったかと思ったら、一言告げた。
「人質っちゃあ、人質なんだけど大前提にさぁ」


「“君を悪魔に誘うためなのさ”」


 ん? 今何言ったんだこいつ。
 アクマニサソウタメ。
 そう聞こえたが、俺はさっき天使に誘われたばかりじゃないか、どういうことだ?
 思考中、悪魔がそれを遮った。
「大丈夫、君は普通の人間だと聞いてるから、一般人の君を誘ってんだよ」
 こいつは俺が天使だということを知らんのか? ……いやあれ自体、全部天使が言ったでまかせと言う線もある、が実際どっちなんだ?
 いや、今はそんなことはどうだっていい、後で探ればいいだけの話だ。
 この状況で重要なのは、こいつが理穂を人質にしているって言うことだ。それにデットウォッチについても気になる。なぜコイツは町を消さなきゃなんないんだ?
 数々の疑問が思い浮かぶ中、悪魔は話題を切り出す。
「さて、本題にもどる。君は悪魔になるか?」
「ならないよ。俺を誘い、そのおまけに町を滅ぼそうとしてる奴を信用することはできない」
 俺は蛇を思わせる形相で悪魔を睨み、迷わず即答。
「そぉ言うと思ったぜ。そのための人質だ」
 想定内の俺の発言に、悪魔は勝ち誇ったよう指を二つ立て、かつ、ジト目で続けた。
「2つのものを人質にかける。町とこの娘、どちらか消されたくなけりゃお前はとっとと悪魔になれ・・・ああ先に言っとくが君のような人間、俺に触れられないから」
 悪魔にならないと二つ大切なものが消されるのか。俺にとって大きなものが。それに聞いてないぞ。人間が触れることができないだと?
「…………」
 沈黙、何をすればいいんだ?? 考えろ、何か盲点があるはずだ……。
 と、そこで悪魔が声を張り上げ、
「二つに一つ、考え込んだって答えは出ないぞ、どうせな。スパっと決めちまえばいいんだ。早くどちらかを捨てれよ」
「捨てる、だと?・・・そんなことできっか!」
「捨てなきゃなんねぇんだよ君は、ああ、じゃあ、こうしよう、一つ、君が町を選べば町は消さずに、俺はこの娘を消す。そして悪魔になってもらう。二つ、君が娘を選べば娘を消さずにこの町を消す、それのついでに君は見逃す」
「…………」
 気づけば俺は拳を握り締めていた、強く強く、強すぎて手の平から血が流れていた。
「ふっざけんなよ!! 町を消せば一体何人もの人が犠牲になると思ってんだ!」
「ククク、んじゃあ、この娘を捨てれば?」
「くッ……」
「ホラホラ、もう町が消えるまで、時間がないよ。あと3分だ」
「くそっ!」
 しかしそこで、
 ? 何か引っかかる。何だ、矛盾点か、いや違う。一体何だ??

 っ!!


 俺はそこでふと何かひらめいたような、そんな素振り《そぶり》を悪魔にわざと見せた。
 選択肢はもうひとつあったのだ。
「答えてやんよ、答えは選ばない――だ」
 ハァ? と小ばかにしたように見下し。
「ソンナ幻想論が通ると思うのか」
「ああ、通るさ」
 そして俺は体中に力を入れる。……すまん、天使さんよー、
 ……約束破るわ。
「戦えばいいんだよ。俺はどっちも捨てられない、だから戦う」
 それに、と強めに怒りを交えて抵抗の眼差しを送り、俺は続ける。
「俺はどっちかを捨てた奴がいたとして、俺はそいつを責めない。決断したことはすごいことだからさ、それにさ、俺だからこの選択ができたからな」
 いや、逃げれる事ができたというべきだろう。
「はぁ、触れれないのに戦うとか馬鹿ですかアンタは?・・・・・まあいい、交渉決裂というやつだな。それなりの対応をさせてもらう」
 悪魔は手馴れた手つきで右ポケットからダガーナイフらしき刃物を取り出し、理穂の首に突きつけ、さらに。
「知ってた?この時計、設定時刻まで一〇分までになると分針進められるんだよ、つまり今現在、俺はいつでも町を消せるってことだ」
 反則じゃないか、おい!
「ばかだなぁ……お前、素直にどっちかを選べば助かったのに」
「選ばなくても助かるんだよ」
――言った刹那、事態は一変した。
 悪魔が時計に手を掛け町を消滅させようとする約四五秒前、それは悪魔の顔面にめり込んでいた。
 そう、それは拳だ。つまり殴ったのだ。
「(な……に)」
 距離は2,3mあったはずで。それに人間なら悪魔には触れられないはずだった。人間ならだが・・・。
「実はよ、俺天使の子らしいんだわ」

 
 とあるビルの屋上

 自称天使は目を全開に開いて驚愕していた。
 ナゼ、と悪魔を殴ったこと自体にではなく、彼が殴る直前『存在を消した』ということに・・・・・
「(なぜあいつが悪魔の業を使える?)」
 まさかアイツは……

                 2 

「はっ、はぁ……」
 片手には理穂を抱えながら(殴って、開放されたときに抱いた)俺は荒い息を立てながら、雑巾の様に地べたにうつぶせになっている悪魔を見下ろしていた。
 ……っとそうだった、うっかり目的を忘れるとこだった。
 パリィ、ガラスが割れたような破壊音がする。俺が足で奴が吹っ飛んだ時に落ちた“災害時計”を潰し機能を消したのだ。
 破壊。これで万事解決、のはずだ。
「な……ぜだ。何故存在を消せる?」
「さぁな、気づいた時にはもう……いや、違うか。キッカケはあったな。何で使えるかは知らんが」
 結果、俺は『存在を消し』奴に気づく前に間合いをつめ、問答無用で殴ったのだ。
 この手段は初めてじゃなく、よく不良に絡まれるたびに使っていた。


「……まぁいい、別にやられた訳じゃねぇしよ」


「は?」
 悪魔は俺に殴られたが、決してそのことには臆せず、告げた。負け惜しみかと思ったが、それは違うようだ。
「殴られただけで悪魔が負けるものか? 普通よ」
「え」

「いいや、上出来だ」

 するとそこへ、夕暮れ色に染まる上空から槍のような影が凄まじい速度で降りてくる。自称天使、だ。空中で大きな十字架の先端を両手いっぱいに掴み、それを重力の勢いに乗せ悪魔の心臓めがけて、勢い良く突き刺した。
「!!」
 悪魔は突然の事態に驚愕していた、そしてすぐさま己の死を実感した。
「天使か・・・・・・やっぱりつるんでやがったか。おかしいと思ったわけだ、・・・・・・最期にいいか?」
「・・・なんだ?」
 完全に蔑ました目、絶対零度の冷たい目だった。今日見た中で一番いやな表情だと俺は思った。
「そのガキ、何なんだ? ボスからはなんにも教えられてないが」
「あっそ、お前に答える義務はない。残念だったな。じゃあな」
 と、自称天使が十字架に力を込めたその瞬間、悪魔は音もなく、灰の様にあっさり消えた。
 一瞬だった。まるで存在そのものを“消したかのように”・・・・・見えなくなった。
「……すごいなお前」
「いや、君こそすごいよ、称賛に値する。まさかこうまで軽く悪魔を殴りつけ時計を壊すなんて、期待以上だ」
 相手に褒められたついでに、あ、と俺は思い出す。
「すまん、……忠告を無視し戦ってしまった。さすがの俺も反省したいよ」
 頭に疑問符をやや浮かべ天使は気づき、
「あー、いーよいーよ気にしないで、結局悪魔の方は『力』をつかわなかったし」
 力。
 それは悪魔自身の能力か。
 どういものかは分らないが、おそらくとてつもなく恐ろしい能力に違いない。
「……ん……? あれぇ、ここどこ?」
 寝起き、いや、気絶上がり? 甘く透き通った女声が聞こえ、俺は不覚にも可愛いいと思ってしまった。
「よ、起きたか、まーまー色々あってな」
 それを開口一番に悪魔については触れず事の事情を大まかに説明した。
「ふうん」
 動揺の素振りすら見せようとせず、納得したのか、彼女は軽く答えた。
 何故驚かないんだ、こいつ? ……ああ寝ぼけてんのかな。
「ねえ、そこのおじさん……誰」
「ああ、俺の知り合い」
 そう、と何か物言いたげな顔をしていて、あえてそこには触れてこなかった。
 そこで彼女の表情の変化に俺は気づいた。何故か自称、否、正真正銘の天使を理穂は、
 嫌悪とまではいかないが嫌そうに、睨んでいた。何でだ? ……怖いのか? 雰囲気とかが。
 そこで天使が最後の言葉として、事を締めくくる。
「ともあれ、これで一件落着だ。君は今日から……おっと、やっぱ今度にするよ」
 理穂に事実を聞かせまいと、考慮してくれたらしい。
「おう」と俺は適当に答え、『今度って一体いつなんだ』と頭の隅で考えていた。
 そして天使は解散の合図として、
「じゃあ、またねテンジン君」と半分ニヤケた顔でそう告げた。
 ……あんたもその名で呼ぶのかよ。

 人間紹介―喧嘩王

 ――喧嘩王。
 それはとある中学生についた通り名。
 その中学生は特別に喧嘩が好きってわけではなかった。 
 ただ単に、彼はよく不良に絡まれやすい体質であったようで、文字通り売られた喧嘩は全部買っていた。結果は全戦全勝。
 特に武術や護身術を習っていたわけでもなかったが、明らかにその系統の才能は確かにあった。しかし、どれだけ才能があっても、それはただの高校生。普通、大人相手に勝てるわけがないのだが、彼は特殊な方法で難なく打ち負かしていた。
 彼についての詳細は一切広まらず、喧嘩王という通り名だけ九州内で大きく広まっていった。 
 そのため業界では有名になり『喧嘩王には手を出すな、返り討ちに合う』という暗黙のルールができていた程だ。
 たかが中坊相手に一部、いや、多くの人々は恐れていたのだ。別格として扱われていたのだ。
 しかし2年前「喧嘩王が消えた」という朗報が業界内に入った。
 業界に特に大きな変化はなくただ『喧嘩王無敗伝説』というのが語り告がれていっただけで、勢力が氾濫する事はなかった。
 喧嘩王は忽然と姿を消した、いや気が付いたその時に既に消えていた。『死んだ』又は『更生した』など噂が流れたがどの噂もネタの様なもので、情報ソースすらない、そのため全く信憑性はない。
 しかし、まだどこかで人生を謳歌しているのなら近いうちに君たちの目の前に現れるかもしれない。

 …いや既に目撃しているのかも知れない。


 ケンカオウヲ。

 第三章数年前と現在の差異

                 1

 小学生時代、俺は今に比べればかなりオカルトやら不可思議などはまだ信じていた方だった。
 しかし、それはある出来事を境に覆されることとなるのだが。
 ある日、小学校へ普段通りに、友人と談笑することを目的に登校していた日のことだ。
 ……事は起こった。
 その頃、まだ姉も小学校を卒業してず、学年としては、俺が小四で姉は小六。
 そのため、同じ学校内であるからに、姉弟、お互いの起こした出来事・成績などは嫌でも耳に入ってくるわけであった。
 それが災いしたのだろうか。
 今考えて見てみればつまらない事だったのかもしれない。
 ただし、当時の俺はそうとは感じることはできなかった。
 俺は生まれてからずっと姉を心から信頼しきっていた。今だってそうだ。
 だが、その信頼は一度だけ崩れかけたことがある。それがこの日のこと、
 休み時間、友人が教室の影から数人で俺を見ながら談笑する素振りが確認された。俺は気になり、思い切って尋ねてみることにした。
「どうした? 俺の顔になんかついてるのか?」
「いやいや、違うって、お前の姉のことだよ」
 友人の苦笑いの表情に、俺は疑問の顔で「はぁ?」と返すと。
「お前の姉さ―」

「クラスの連中と、マジの喧嘩やってるんだってよ」

「???」
 上手く発言が頭に這入って来ない。言葉の意味が全く分からなかった。
「ん、まて喧嘩? あ、なぜ??」
「さあな。……ちょっと見に行ってみっか?」
 俺は深く頷き、数人と姉が喧嘩をしていると言う、件のクラスへと向かう。
 その教室には既に人だかりがわんさかできていて、とても邪魔で中はとても見えそうにない……。
 ――と。不意に、何者かが言い争っているかの様な、激しい怒鳴り声が耳に響いた。
 その声の主は、とても、とても聞きなれた声で――そう、想定の通りの、姉、だろう。
 人だかりのざわめきで、姉と何者かの言い争いは上手く聞き取れなかったが、直後。
 ヴゴォ!! と鈍い衝突音のようなものが周りに鳴り響く。
 人ごみは一斉に静まり返り、俺はその人ごみの中をかき分け、人々の間から教室の中に視線を向ける、と。
 そこに広がっていたのは、俺の実の姉と口論していた様子の男の子。同級生だろう、何度か見たことはある。
 確認した瞬間、俺の眼球そのものが蠢いてると、俺は錯覚してしまった。
 なぜなら、姉――悠然と立ち尽くして、男の子を見据えている。
 一方の男の子――机を割くように、殴り飛ばされた後の形で、仰向けに転がっている。

 本当に姉は、男を……思い切り殴り飛ばしたのだ。

 なによりの証拠は、姉の拳の先が、少し腫れた感じの赤色で軽く染まっていること。
「ここぁ……ね、え……ちゃん?」
 言葉に反応し、姉はこちらにくるりと首を回し、俺を確認する。
 大きく目を見開き、
「ち、違うのよ。これは……」
 嘘だ! 叫び。俺はその場から走り去った。
 走った挙句、自分の教室に戻ると、ざわめいていた教室が、俺が来た途端、一斉に静まり返り、そして、その中から一人の女子が俺に歩み寄ってきた。
 ……開花院理穂だ。
「ねぇ、どういうことなの?」
「俺も……知らねえよ。第一、なんで姉ちゃんは喧嘩なんかしてんだよ! ホント意味わかんねえよ、理由があんなら俺に直接――」
 そこで、今更気付いた。姉は理由を言おうとしていたのだ。
 俺を見つけたら、すぐに。
 馬鹿だ。何で聞こうとしなかったんだ。俺はすぐに逃げやがった、とんだ阿呆だ。
 落ち着きを取り戻した俺に、開花院はすぐに心配そうに声を掛けてきた。
「……理由、聞けなかったんでしょ? でも理由を天人が知ったらきっと……」
 開花院は先に他者から話を聞いているのだろう。
「理穂ちゃん、いいんだ。教えてくれ」
 察して一度だけ頷き、理穂は恐る恐ると言った調子で言葉を紡ぐ。
天人(あまと)君のお姉ちゃん、見たとおりクラスの男の子ともめて口論になったのね」
「んで、殴った、と」
「うん、でも理由はあって、その……」
 顔を俯かせ、表情は確認できないが、きっと曇らせているのだろう。そんなに言いづらいのか?
「……教えてくれ」
「言い張ったらしいの、その相手の男の子に対して、強く、言葉を曲げずに」
「なにを?」
 俺は知ってはならない気がした。しかし、逆にここで聞かなかったら駄目な気もする。

「その……自分が『悪魔』だって」

「………………………………は??」
 こればかりははっきりと俺の脳に伝わった。伝わったが、俺の脳は拒絶したのだろう。
 目の前で理穂は色々と、俺をなだめているようだったが、今の俺には全く伝わってこない。
 よく発言を思い出せ。確か、……『悪魔』だっけ? ん。……悪魔だって?
 思春期特有の中二病というやつか? いやまて、なんでそれで喧嘩になるんだ。
 馬鹿げてる。こんなことが理由かぁ? 後悔していてたことが馬鹿らしくなってきた。
 徐々に怒りが芽生えてきた。……なんだ? 悪魔ってなんなんだよ。 
「クソッ!」
 落ち着いて! という声が放たれた気がした。
 そんなものは無視し、俺は乱暴にロッカーに掛けてあった指定鞄を乱暴に取った。
 そのまま教室を抜け、校門まで走り、くぐり抜け、俺は教師の呼び止める声を無視し、帰路に足を進める。
 その日の夕飯の食卓は、一切の会話はなく、おばあちゃんが、話題を作ろうと必死になっていたが、姉は俯き黙ったまま、俺はすぐに食卓から退散し、自分の部屋にこもった。
 気分は最悪だったので、すぐにベットに潜り込み、そのまま睡魔に身を任せた。
(……なんで、なんで、こんな事しやがったんだ)
 その日の夜、結局、考え込みすぎて、俺は眠ることはできなかった。
 それから一ヶ月、俺と姉の仲は最悪で、顔も見たくない程だあった。
 一週間後には、学校に通っていたのだが、まともにクラスの連中との会話もなく、この出来事を機に、ありえない不可思議を徐々に信じなくなっていき、そういうありえないことを割り切った二次元、つまりアニメの世界に逃避する。
 ある日、仕方なしに登校した後、帰りに、くだらない姉に腹を立ててながらも、ゆるりと歩き、家に着いて、ベットに身を投げた時だった。
 ピンポーン。とチャイムが鳴り、家には俺一人だったのでベットから身を起こし、玄関に足早に向かいドアを開けた。
 そこにいたのは開花院。夕日色に染まる俯き顔がそこにあった。
 彼女のブラックダイヤの様に、程よく光沢のある黒髪が、夕日色に染まって、緩やかな風に流されている。
「ん、なんだ?」
「天人君、勘違いしてるよ」
 俯いた顔から正面に俺を見据えるその顔は、真剣な顔に変貌した。それに少々驚くが、開花院は気にせず。
 ――真実を語った。
 そこで初めて、俺は誤解していることに気が付いた。
 理穂は言った。姉の殴った原因は、相手の男自身にある、と。姉はただの正当防衛で、おもむろにキレて殴ったわけないらしい。
 『悪魔』と名乗った件については、やっぱり本当に言ったらしく、真実か虚構かは判断できない。
 まあ、いまさらオカルトやらを信じない事と、アニメを見ることをやめる事はできない。
 しかし、その片隅で、姉への申し訳ない気持ちは刻々とこみ上げてくる。
「そうか、姉ちゃんが理由もなく人を殴るわけがないのにな。はじめから信じていればよかったんだ」
 それから開花院に一礼して、互いに「また明日ね」と告げた。
 俺は姉が帰ってきた直後に、今回の件について、話し合いの場を設けた。
 話し合った俺たち二人は、互いに心から謝り合い、事情を一から説明した。
「悪魔とか言って、馬鹿みたいね私」
 ……と言う姉の言葉を最後に、俺は姉と仲直りした。話し終えるとすぐに姉はキスを迫ってきたが、俺は拒否しながら必死で制し、なんとか落ち着かせる。
 それからは、いつもどおりの生活に戻り、今まで平穏な日常を送ってきた。
 いや、嘘付いた。実際は中学の頃、とある事件に巻き込まれたのだが、それはまた別の話。
 そしてこれから、俺に訪れる出来事は、この過程を顧みて俺の度肝を抜くこととなる。
 9月24日、午後7時31分 俺が本当の真実を知る時。真実を知ってしまったことで、あんな事になるとはこの時の俺は欠片も思って見なかった。

                 3

 町の存亡を掛けた壮絶な“バイト”を終え、俺は理穂を彼女の家まで送り、疲れたので欠伸をひとつ家に帰ろうと踝を返そうとしていたのだが、そこでふと思い出す。
「! やべ、そういえば姉ちゃん今日いないんだっけか・・・うあー、どーするかなぁ」
 姉は本日、何か無視できない用事があるらしいく、家にはもちろん、この町にすら今はいない。飯を作ってもらってる身なので(俺が料理すると得体の知れないモノができてしまう)今晩の飯が・・・、それに店がない(あるにはあるのだが10キロ程歩かなきゃならない)ので食べ飽きたコンビニ弁当のみしか選択肢がなく、ちょっと憂鬱になる。
 さらにもうひとつあることに気付いた。ポケットをまさぐると、いつもはある鉄の感触がなかった。
 そう、よりによって家の合カギは自分の机の上に置きっ放しだったのだ――イエニハイレン、ヤバイゾ、コレ。
 と、直後後方から「よっ」と声が掛かる。振り向いて確認すると、声をかけたのはさばさばした金髪で少し鋭い表情の同級生・軒下くん。
す、救いの女神降臨!! あっ男だから女神じゃないんだけど。
「お? どーした、ナンカ嬉しそうだな」
「すまない」と開口一番そう返し、反射的に俺は地に膝をつけ、土下座の準備姿勢になる。
「お前に、いや貴方に、頼みがある」
「こんな道の真ん中で土下座なんて、一体なんだ?」
 面食らったようで軽く微笑しながら、俺に聞く。
「ほんと申し訳にくいんだが・・・」
「なんだよかしこまっちゃって、らしくねーぞ」
「今晩泊めてください! 頼む!!」
 ついに頭を下げすがるような声で叫ぶ、軒下は小さく溜息を一度し。
「あぁー、わかったよ。母さんに掛け合っとくよ」
「ほんとか! 助かったよーー」
 軒下はジャケットの裾からケータイを取り出し、簡易番号で自分の母にかける。
 優しい母なんだろう、即OKをもらえた。
「ほんとサンキューな、ノッキー」
「ああ、次その気持ち悪い呼び方したら追い出すからな」
 それから、どうして泊めてもらいたいのかとか、何でこんな時間に帰ってるか等の質問に答える形の会話をし、二人並んで軒下家へと向かっていた。


「あ?。うまかったなー、軒下家、夕飯」
「そうかい、そりゃ光栄だ」
 満腹感をあわせて軽く答えながら階段を俺と上る軒下。
数分後
俺は親友のベットの上で適当に本棚の中で気になった軒下のマンガを読んでいた。軒下はマンガとエアガンが大好きらしく、部屋の模様ですぐ分かった。
 こう見えて軒下は不良でも、元ヤンでもない。ただの高校生だ。
 俺がジャンプで連載されているらしいバトルマンガを楽しんでいると、「俺が暇なんだけど」と、軒下は呆れたように呟いた。
「そーだね」会話不成立になってしまう(もちろんワザと)雑な相槌を適当にうっておく。
 諦めたらしく、
「風呂入ってくる」
「おう、ごめんなー暇にさせて」
「いいよ、どうせ暇だったし」
 そう言い残すと部屋を出て、一階の風呂場へと歩を歩み始めた。
 一方俺はというと、大人気バトルマンガのブラックなギャグに一人笑っていた。
失礼だったかなーと、ちょっと反省交じりに考えながら淡々と読んでいると、
ふと、上の方から「ヒューーーーー」と花火の上がっていっている様な音が聞こえ、同時に落下の音である可能性も考えた。
なんだ?
唐突にコトは起きた。寝返りを打った瞬間だった。

 バゴォォッ!!! と、これまでにないくらいの凄まじい轟音が炸裂。

「……っ?」
気づけば、まるで隕石かなにかが落ちたかな勢いで軒下家は半壊していた。
「馬鹿な! ど、どう言う事だ????」
「いやー、むっずー、狙い定めんの難易度高いな?」
 驚愕。聞こえたその声にどこか聞き覚えがあったからである。いやそれどころではない聞き覚えがあるなんてレベルじゃなく――毎日聞いている。
一番身近な人間の声、漆黒の空に巻き上がった土煙が風に徐々に流され姿が明らかになっていく。正直、予感は当たって欲しくなかった。
しかし、そこにいたのは。

『姉』だった。

「え? 姉ちゃん、なのか??」
「へ?あんたなんでここに居んのよ!?」
 こちらに気付いた見慣れた童顔の黒髪ショートヘアの少女は、頭に疑問符を浮かべ小首を傾げた。
「お前は何で俺の友達の家こわしてんだよーー!!!」
 俺は体中の全開の力で激しくツッコんだ。
無理もないよな、実の姉がまさか友達の家を破壊しに来ると誰が想像できるだろう。想像出来る奴がいるならぜひ御紹介願いたい。
「ま・・まさか姉ちゃんが、軒下家破壊計画を(くわだ)てていたなんて・・・・」
「違うつーの!! これは別件よ、別件」
 家を壊わした理由を聞きたいんだよ、俺は。
「軒下家にどんな恨みがあんだよ!」
「だから違うっつーの!!」
 カッ! と顔をしかめて、怒りのツッコミが入った。
「ボケただけじゃんか・・・」
 皮肉混じり俺はに言う。が構わずに姉はぼやいている。
「ちっ、よりによってなんでアンタがいんのよ、そんなに目標と外れてたか?」
 いや、と声を発したのは俺ではなく、姉の髪についてる「円形のヘアーアクセサリー」だった。
「しゃ・・しゃべった? アクセが??」
 姉は納得したように、手をポンと叩き。
「あー、アンタこういうの信じない人だったっけ?これはいわゆる使い魔ってやつよ」
 使い魔?なんだそれ、聞いた事はあるけどそれってまさか。
「聞け、『悪魔』心亜(ココア)よ。そこにいるお前の弟らしき人物が今回の『ターゲット』だぞ」
「「……」」
「「なんだってぇえええーーーーー!!!」」
 お互い驚愕した。俺は姉が『悪魔』であると言うことに、姉は俺が「ターゲット」であると言うことに。
 そのとき走馬灯の様に、数年前の事件を思い出していたのは言うまでもないだろう。 
 9月24日、午後7時31分 この時刻を持ってさらに俺の日常崩壊へのカウントダウンは、フェラーリもビックリの猛ダッシュで進むこととなる。

 
                 4

 姉。
 ――鬼林心亜(おにばやしここあ)は俺の実の姉である。
 年齢は俺の二つ上で高校三年生、俺とは打って変わって絵にかいたような完璧人間。
 やはり成績はずば抜けていて、おまけにスポーツ万能、容姿端麗と来たもんだ。劣等感を感じずにはいられない……。
 高校から家を死んだ両親の代わりに父方のおばあちゃんが確保してくれて、家賃等は俺と姉で割り勘でなんとかしていた。
 姉には彼氏と呼べる異性はおろか、男友達すらがいなく(このこというと姉に半殺しにされちまうが)姉いわく告白されたり近寄られると、全部断っているそうだ。ここんとこ怪しいんだが。
 そんな姉だが、俺は今日彼女の知らない一面を目撃した。いや、見てしまった。のか。
 悪魔。だったのだ。鬼林心亜――俺の姉が。
 悪魔という存在が実在すると言うのは本日知り得たばかりだったが、まさか自分の姉が悪魔だということは予想だにもしなかった。その予想は外れて欲しいものであって、それから逃げようとしていた。
 まさしく、これらがキッカケとなったのだろう。
 俺と姉が『天使計画』と関わった最大のキッカケに……。
 
           
 午後七時四五分
 俺は姉に連行されていた。
「あーもう、アンタのせいよ」
「ごめんって、姉ちゃん」
 理不尽ながらの姉の性格を理解していた俺は、姉のぼやきに付き合いながら、悪魔本部へ向かっている・・・・・らしいが。
「何で天人が天使なのよ、そんなわけないじゃない!」
「…………、」
 どっから話せばいいやら、『実は本当に天使だ!』と言いづらい、当たり前だが…。
 あれ? もしかして俺が天使の子なら実の姉である姉ちゃんも天使の子なんじゃないのか?
 もしそうだとすると、……何故悪魔なんだ? 天使じゃない意味が分らない。
 そんなことを考えてる内に巨大な建造物の前に俺達は居た。悪魔の本拠地かなんかか? と適当に予想を立てたがそうに決まっている。
その建物は案外清潔みたいで外観ははビルが連続してくっついている感じで、第三者から見ればとても悪魔の本拠地とは思わないだろう。
「でっけー!」軽く見上げて思わず声に出してしまった。
 隣の姉は如何にも面倒くさそうに、
「そりゃそうよ、悪魔の本部ともなれば大きくないわけがないでしょ」
「あー、そういうもんか」
 俺は適当に答え『天使の本部もこんなのなのかなー?』と頭の中でイメージしたが、これを見てしまった以上想像しても同じのしか思い浮かばない…。
 り口に入りると外観とは大きく変わり、直線の道の脇に横並びに蝋燭(ロウソク)が一〇本程度、2mくらいに等間隔で並んでいる。
 姉がさらに前へ歩み出し、奥にある大きな扉を開け、中に入ると部屋の中央に大きな椅子に大きな何者かが堂々と座っていた。明らかに人間とはかけ離れたサイズのなにか。
「悪魔臣様お疲れ様です」
 姉は悪魔臣と呼ばれる者へかしこまった調子で挨拶。
「……」
 なにも告げず、黙り込む悪魔臣。――が、
「そいつはなんだ」然巨大なその口を開き言葉を響かせる。
「私の弟です」
 悪魔臣と言う者の表情は薄暗い部屋の色濃い影で確認できなかったが、何故か視線だけは感じる。
「そうか、弟か。もしかしなくともそいつがターゲットの天使だったのか?」
「……はい」
 切なげな表情で答える。
 しかしこの、圧倒的なその威圧感。その大きさにも覇気にも思わず圧倒してしまう。そして悪魔臣は口を開き。

「規則違反だ。処刑とする」と冷淡な声で告げた。

「――え?」
 唖然、俺は驚愕して思わず声に出したが、姉は悟って覚悟していたかのように「はい」と一言。
「貴様、天使との関係は皆無といったはずだが、その言葉は偽りか?」
「いえ、私もついさっき知ったばかりでして……その……」
 顔を俯かせつらそうにそう答えた。しかし問答無用で、
「天使との関係があった時点で貴様の処刑は確定だ。承知の事よな?」
「ええ」
 姉は認めた、あっけなく簡単に認めた。
 いいのか、これで? 
「そんな理不尽ありか?」
「っ?」
 俺は思わず割り込んでしまう、姉をに見捨てるわけにはいかない。それにこれの原因は俺にあるようだし。
 だから。
「姉ちゃんも簡単に認めんなっつーの! 自分の命軽く見るなよ。みんなを悲しませたくないだろう?」
 大声で間髪いれず叫んだが、
「うっせんだよ!! 天人は知ってんの? 私がどんな覚悟で悪魔になったか? 知らないでしょうが!!」
 姉は俺に目をうつむけ、俺に目を合わせずにそう怒鳴った。
 瞳はどこか悲しいセピア色の目で、見てはいられなかった。
「ああ、知らねぇよ。正直姉ちゃんが本当に数年前の通り悪魔だなんて全く知りもしなかった。だけどそれがなんだってんだ! 俺は、自分のせいで姉貴が死ぬってのは気にくわねぇんだ!!」
「黙ってろ、私は掟を破った。だから――」
「だからなんだよ! 自分が死ねば全て丸く収まるとか思ってんのか?」
 睨みつけた。だが彼女は臆せずに、
「思ってる」と。言いやがった。
「――駄目だ、認めない。……そうだ。もし殺すなら俺を殺せよ悪魔臣! もともと俺がターゲットだったんだろ」
 悪魔臣と呼ばれる巨人にに向かってそう提案するが、
「ああ、貴様も殺すさ、安心しろ貴様の姉と一緒にあの世へ送ってやるさ」
「――な」ねじ伏せられた。くそ、どうすりゃいい? これじゃあ二人揃って地獄行きだ。
 刹那、そこにひとつ『声』が割り込んできた。
「いやぁ、悪魔臣くん。ワンチャンスくらいあげたらどうだ?」
 そこにいたのは黒髪で少し童顔で紅のジャケットを羽織り、この通り見た目は至って普通の人間なのだが、雰囲気が『悪魔』そのものだった。しかし、風格そのものは悪魔臣の遥か上。領域が違うと言っても良いかも知れない。
「ま、魔神様!?」
 流石に悪魔臣も彼の前では下手に出る。余程のお偉方なのか?
魔神。
つまりは魔の神とあったところか、魔術の神ではなさそうであるし。
「わかりました」
 悪魔臣は突然の来訪者それも上司、に面食らい、仕方なく了承。
「チャンス?」 
 俺はその来訪者に遠慮がちに尋ねてみる。
「ん?「君がウチの悪魔と殺し合い、勝てたら今回は見逃してやる」ってな話よ。もちろん君の姉も殺さんよ」
 平然と来訪者の魔の神は言った。今度仮を返さなくては……。
 と言うか、生きてここを出られるかも怪しいところなのだが――。


                5
 同日 午後八時一七分
 色々合って俺は悪魔と戦うこととなった。俺の人生には変な紆余曲折が多いな、もう!
 戦える場所へと、別室の直径五〇〇メートル程度のドーム状の広場へと移動した。
 “千戦の居”と呼ばれる場所らしく、そこはある種の独特の雰囲気をかもし出していて、かつ、その雰囲気をぶち壊す煌びやかな外壁は、金属を含んでいるような鮮やかな銀。
 眼前にはすでに悪魔がスタンバイしていた。そいつの肌はくすんでおり、髪は灰色。服装は首に帯状の白い布が四枚ほど連結したターバン状の物が巻いてあり、その下には邪悪を思わせる漆黒の大きなマント状の服を(まと)っている。
「ヨォ、腐れ天使の登場かい??」
「黙れ、腐敗悪魔」
「オォ、オォ、オォ、生意気だよなー天使って、こっちがチャンスを与えてやってんのによう」
「与えてるのはお前じゃないだろう、魔神とか言うやつだ」
 悪魔の横暴な態度に一歩も引かず俺はそう言った。
「あー生意気、ウッザ! てか早く始めようぜ」
「ああ」
 呆気ないそのやり取りで、殺し合いの幕は斬って下ろされた。
「おぉぉぉら」
 悪魔からの先制。雄たけびを上げ、一瞬でこちらの目の前に接近し「ただ」の拳での攻撃。
俺は素早く右に避け、右足で何とか重心を保ち、右ストレートを敵の顔面に繰り出す。
――命中。


悪魔が自身の「能力」を使わず物理攻撃のみで戦ってるのは理由がある。それは、人間を相手にする上でのハンデらしく、俺が天使でありながら『天使の力』を使えないことを言うと「知ってるよ」と魔神は気軽に言いハンデを付けた。
 相対する悪魔の名はラフェロス。中級悪魔らしくて悪魔間では残虐、乱暴で有名らしい。
 で、その情報を得てすぐにここへ誘導され、現在戦闘中だ。

 ――ヒットした右ストレートは思ったより効いていないようで笑顔でこちらを蔑んでいる。
 軌道がずれたか? と思案している最中、容赦なしでラフェロスの細い左脚が弧を描き、俺の顔面目掛けて襲ってくる。
 ――ッまず・・・!
 そう思ったときにはすでに遅く、左脚は顔面を捉え、勢い良く俺をカッ飛ばす。
「ぐはっ・・・!!」
 たった一撃で二度・三度バウンドし、約一〇〇メートル以上ゴミ屑のように吹き飛ばされた。地に着き、鈍い痛みが徐々に体に染み渡ってくる。
「先手必勝ってかぁ? 笑わせる、世の中にはどうにもならない差ってもんがあんだよ」
 悪魔ラフェロスは嘲り笑い、こちらへ歩きながら悠長に告げる。
「悪魔の喧嘩と人間の喧嘩を同じにすんなや」
 顔を歪ませて、・・・ラフェロスは完全に俺を蔑んでいる。俺は倒れた体制から痛んだ体を起こして立ち、全力でラフェロスに向かって走り出す。
「うォォォぉぉおお!!」
 叫びながら相手へ確実に向かう。
「ありゃ、おかしくなっちまったか?」
 告げると同時、ラフェロスは勢い良く大地を蹴り、跳ね。瞬間、天人の背後へと周った。
 ――やはり速い・・・!!
 またもや一瞬で距離を縮め、横殴りに顔面をアッパーを浴びせられた。
「ザマァねえな!!」
 圧倒的。想像を遥かの超えたラファエルの実力、これで中級で手を抜いているのだから驚きだ。
 ここまでの歴然な差。夕方、天使が「悪魔とは戦うな」と忠告した理由が良く分かった。
 化物なのだ。路上の喧嘩とは格が違う、そしていままでにない危機感と緊迫感。
 ――やばい、このままじゃ負けちまう……!     
  見物。隣の千戦の居を見渡せる、別室の小部屋。
 心亜と魔神は、そのマジックミラー式の部屋から、ラフェロスと天人の殺し合いを悠然と見物していた。
「所詮この男も口だけなのか」
 姉とは大違いだな、と魔神はつまらなそうにそう呟く。
「………………」
 腕を組んで戦いを見物している魔神を、横目で一度見て、心亜はただ黙る。
 ……魔神、彼は悪魔界で「トップ3」の内の一人である。心亜自身、彼が自分の隣に存在していると言う事に、あまり実感が沸いてこないのだろう。
 しかし、相反して、緊張は無駄に膨らんで行く。
「時間の無駄だったか」と言い残し、魔神が部屋を後にしようとした時、突如、彼は心亜と言う名のいち部下から声を掛けられ、ドアの前で踏みとどまった。
「魔神様、彼――私の弟、実は、意外と喧嘩とかそういうのに縁がある人間でしてね」
「何だ、突然?」
 すると心亜は首を一度横に振り。「いえ」と、確認を取り。
「ご存じないですか? 彼はかつて、少し『その道』に入り浸ってしまいましてね。特異な力に目覚めてしまった上に、最終的に通り名まで付いていたんですよ」
「……ほう、ぜひその通り名とやらを聞かせてくれ」
「はい、ならばお教えしましょう。彼、鬼林天人に付いた通り名はですね――」

「――『喧嘩王』と言うんですよ。ですが、彼、意外にも体が頑丈とか、力が人一倍強いとか、動きが異常に俊敏とか、そういうのは全然ないんです」
 ただ、と続けざまに、彼女は付け足す。
「自己の存在を消せるんですよ。彼は.確かに多少のルール等はありますが、ほぼ自由自在、好きなときに」
「な、……ん? だがそれに何の関係が――」
 言ってる最中に魔神は、目をカっと見開き、想像通り、驚愕の表情を浮かべる。そう、魔神は気付いたのだ。
「まさか……だろ」
「そうですよ。そのスキル……悪魔のものと同じなんです。昔の彼ら二人と、そっくりそのまま」


 千戦の居。
 俺はさらに思い切りアッパーを食らったが、後ろに三歩揺いだところで踏みとどまり、が……なにもしない。
「どうした? 怖気づいたかぁ?」
 そう言った悪魔が叫んだ直後、ラフェロスは前兆も全くなく、……思い切り天人の顔面再びに殴りかかった。
「うらァぁぁああ!!」


 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………が。

 ラフェロスの拳の先に居るはずの人間はそっくりそのまま『消えていた』――

(??? あら、俺はいままで誰と戦っていたんだっけか? 殴りには行った筈だが……)
 ラフェロスが体と精神うを膠着(こうちゃく)させ、動揺を隠せないでいた。
 そんな、ラフェロスを、すでに天人は――首を自分の左腕で思い切り絞め付けていた。
「お前が『能力』使っちゃ駄目でも、俺はアリだろーよ」
「んだお前? 能力って――」
 言葉はすぐに遮られた。さらに首を強く締め付けることによって。
 『能力』、デットウォッチの件の時にも使ったソレ、まだ名前もないソレ、自己の存在を消せるソレ。
「このまま黙って負けちゃあ――喧嘩王の名が廃るだろ」


 ――そう、俺、鬼林天人はかつて喧嘩王と呼ばれた。ただしその『意味』は、喧嘩が強いという『意味』ではなく、喧嘩に勝ちやすいという『意味』である。
 アレを使用して、勝っているだけでホントは、俺自身たいして強くはないのだ、ただズルイだけで。
 腕の力は割かしあったかも知れない。しかし、実質、喧嘩のスキル自体はそうでもないだろう。
 一度も負けなかったのも、たまたまだ。
「久々だったからな、本気の喧嘩は」
 言った同時に、俺はラフェロスの首を、力を上限まで使い、思い切り締め上げた。
 ――が、それでも……。
「それくれーで悪魔が死ぬってんなら、苦労はないだろーよ」
 思いのほかケロっとした顔で、「なめてんじゃねぇ」と怒声を放ち、ラフェロスは人間ではありえない勢いで、身体を九〇度、思い切り後へ曲げた。
「ッ……」
 その反動で、俺の右足首はゴキィと嫌な音を立てた。痛みが大きく、言葉が出てこない。
「ハッ、そんな程度で喧嘩の王様やってるだと? 笑えねぇな、エセ天使が」
「さっきからゴチャゴチャ五月蝿い! 実際テメェはいまだに俺を倒せてねぇくせによ」
 言い終えた。すでに、その時、俺の三撃目決まっていた。
重心全てを使ったハイキック、今度は巧く相手に通じたようで、ノーバウンドで一〇メートル前後、ぶっ飛ばした。
それでもなお、ラフェロスはしぶとくも起き上がり、その表情は激昂に染まっていた。
「よくもやりやがったな、三下無勢で……ッザケテンジャネェ!」
 刹那、ラフェロスは虚空に消えた。だが数秒後、姿を現した。
 ――無数の残像となってだが。
「……何だ? これ」
 何人もの、ラフェロスがいるように見える。本来、こんなことは荒唐無稽な現象なのだろう。
 しかし、目の前で実際に起きているのだ。信じていない場合じゃない。
 ってか、いよいよ能力使いやがったな。それでもまだ、手加減してるのかもしれないのだが……。
 俺は視線を、残像へ集中させる。
――それが裏目に出るとも知らずに。
「うっっらぁ!」
 視線の先の残像は消え、それを認識する以前に、ラフェロスは背後から勢い良く現れた
 ラフェロスの踵落しが俺の後頭部に炸裂。俺は床にキスをする形となる。
 俺は思考が途切れそうになりそうな中、単純に生命の危機を感じた。
――後頭部の強打によって、数秒後、視界が二重になる。
 こうなってくると、脳内出血の可能性がでてくる。それほどまでに先程の強打は危険なものであり、痛みは凄まじかった。
「……クソッ」
 痛みを必死に堪え、全力で千戦の居を駆ける。
「オイオイ、ついに逃げんの? まぁ、このラフェロス様が相手じゃあ、分が悪いってもんよな」
 お前は頑張った方だぜ、と余裕の表情で告げながら走り、徐々に距離をつめてくる。
 ――まずい。完全に八方塞りだ。どうすりゃいいんだ。
「ッ、こんなところで」
 思い返せば、今日は色々な事が起こり過ぎた。それ故にパニック状態が続き、精神的にも、肉体的にも、かなり疲労が溜まっている。
天使だの、悪魔だの、昨日までは存在しないと思っていたものが、休むまもなく次々と現れ、いままでの自分の常識、否、概念があっさり覆された。
すでに気付いたその時には、ラフェロスは目の前にいた。
「GAMEOVERだ、エセ天使」
 終了宣告。
 俺は死を確信した。
 だが、覆されたのは、概念だけではなかったようだ。

「止めだラフェロス、そいつは俺等と同じ『種』かも知れない」

 何もない、銀一色の、殺風景な壁から聞き覚えのある声が、千戦の居に響く。
「何です?」
 ラフェロスは怪訝そうに眉をひそめ、声の主が分かった途端、驚きを(あらわ)にした。
同じ種。っ……?
俺はこの時点では、全く意味が分らなかった。だが次の一言ですぐに言葉の意味を知る。
「そいつは恐らく『悪魔』だ。お前も見ただろう、そいつは悪魔の力を使った」
 ……悪魔、俺がか??
 天使の子と判明したばかりなのにか? どおなってるんだ一体。
 ラフェロスは憎たらしい目で、俺を睨みつけ、
 ――いやです、とあっさり反発しやがった。あくまで敬意を交えて、かつ苛立ち混じりに、
「続けますよ、こいつは俺をサイッコーに怒らせちまった」


「……ったく相変わらずてめえは……はぁ、まあいいか」
 発言した魔神の隣にいる、心亜は、その発言を聞いて、背筋に冷たいものが走った。
(まあいいかだと?)
 その反応に魔神は気付いたようで、
「ああ、ラフェロスはああいうやつだろ? ああなったら止めらんないから」
「……ですが」
 心亜は苦虫をすりつぶす思いだった。
 心亜はラフェロスを知っていた。一年程度だが悪魔をやっている身なら、目にしないほうが逆に難しい。
それほど、ラフェロスは目立つ存在で、悪魔の中でもかなり過激派であった。


「ということだそうだ。さぁ再開の時間だ。エセ天使いや、エセ悪魔クン」
 ラフェロスの再開の合図と共にに勢いよく、
 俺は“右方向へと駆けた”。
「ここまできて逃げるか、お前はよぉ」
「……いいや、逃げてねえよ、てめえを誘ったんだ!」
 ラフェロスが気づいたその時、数秒前まで右方向に意識していたはず存在が、前置きなしで前方に現れた。
 そして、勢いを逃さず、利用して、ラフェロスの鳩尾(みぞおち)へと膝蹴りでめり込ませた。
「ぐ……っ!」
 おっし! と得意げにガッツポーズする俺。防御が硬い悪魔には、このように地道にダメージを蓄積させていかなければならないみたいだ。
九の字に身をかがめたラフェロスの目は、狂ったように血走り、直後、怒りが限界値(ピーク)に達した。
「もお、これで終い《エンド》にするかぁ]
 喋るかけたのはラフェロス。痛みを堪え、冷淡を装い再び終了宣告。
気付いた時、ギィ! と肉を切るような鋭い音が、耳をつんざく。
「ッ!!……」
 俺の眼前には、思わずでなくとも、息を呑む光景が広がっていた。
視界の中の、自分の左腕の二の腕から手首にかけてが、チェーンソウで切り裂いたかのように、服ごと腕が縦に抉られ、半分まで切断されていた。
悪夢の光景。その傷口からは、筋肉はおろか骨まで露出していて、眼を背けてしまう。
痛みも耐えがたいもので……、
「う、ううぁあああああああああ!! akふぇj悪魔gl;jgrclp天使kcどpk血fl;vp@l!!」
 思わずその場で発狂。後半はもう人間の言語にすらなっていなかった。
それを誘発したラフェロスまでもが驚きを隠せず、魔神と心亜にいたっては言葉を失い、ただただ呆然と見守るしかなかった。
あまりにもショックが大きく、そのうえ今日積み重ねていたストレスがたまり、精神的にも限界だったのだろう。
次に、俺の目にとまったものは……噴出しはじめた――血。
 それを見て、さらに絶望する。のではなく、過去の出来事を走馬灯の様に思い出し、
 ……かえって冷静になれた。
これが現実なのだと、受け止めるべき事だと。
「ハハハ、ざまぁねぇな。血でも見て嘆えてろ!」
 嘆く必要など、どこにも存在しない。
「ああ、傷なんてどぉでもいい。そしてよぉたださ、分ったんだよ」
 なにがだ? ラフェロスは嘲るように尋ね、俺はそれに返答する。
「俺が日常を求め、現実から逃げた結果で、姉ちゃんも俺もこんなことになるならさ……」
 少しだけ黙り。
 拳を握り締め、そして――

「俺は日常を捨ててやる!!」

 ――怒気を漲らせ、叫んだ。
 その言葉には覇気が込められていて、迷いなどなく、傷などもう気にもとめてなかった。
しかし、ラフェロスは発言対し、痺れを切らし、渾身の力で殴った。
殴ったのは、壁であったのだが。
「えっ」
 ラフェロスは俺をを殴ったつもりだったのだろう。しかし、殴ったのは壁である。
(まぁた、存在を……いやちが――)
 ラフェロスの思考が切断された。いや、俺が切断した。
遅かったのだ、気付くのが大分。
そう、ただ俺が素早くラフェロスの死角に入り、上方へめがけ後頭部を殴った、だけだ。
 存在は消さずに。
「喧嘩ってのはこういうもんだろ?」

 第四章 真実の先にある戦慄

                 1
目の前に倒れ伏せているのは、先ほどまで俺と相対していた悪魔、ラフェロス。
 ……こいつも好きで俺と戦ったわけじゃねーんだよなぁ。
 そんな事を見下ろしながら考えていたとき、「おい」と顔を地につけたラフェロスは、灰色の髪を揺らし、俺を呼びかける。
「早く殺せ」
「は?」
「初めにこれは殺し合いだって言ったろ。負けた奴は死ななきゃなんねーんだ。だから、殺せよ」
 はぁと溜息をひとつ、俺は面倒くさい子供と話すかのように、訝しげな顔で返答する。
「無理っす」
 そう言う俺に、少し憤慨し、声を発する瞬間。
「俺は平和に暮らしてーんだ。人殺しなんて御免被る」
 遮るように、そう答えた。
 当たり前の返答に、ラフェロスは呆れたようで、
「じゃあこの落とし前どうすりゃいい?」と尋ねてきた。
「自分で考えろ、と言いたいところだが。今回は、第一、俺の我儘(わがまま)だ。普通謝るのはこっちの方だろ? だからお前は気にしなくて良いよ。……つーことは俺からはなんかしなきゃなんねーよな」
 呆れ半分で、結局納得したようで、じゃあ、とラフェロスは言葉を続ける。
「お前の腕の傷だけ直させてくれ。……お前からの謝罪は、うーん、今度ファンタでも買ってきてくれ。それでチャラだ」
「ああ、すまねーな」
 それを最後に会話は終了した。互いに黙ったままになり、数秒後、俺は腕の治療を行ってもらい、傷が直ったのを確認すると、この場から出るために立ち上がる。
「サンキューな」
「おう」
 別れの挨拶代わりに礼を言い。『千戦の居』を出るため、扉の前に立つ。魔神はこれで許してくれるのだろうか? まあ途中、戦いを遮るようなことを口走っていたから、許されないなんてことはないだろう。たぶん。
「おーい終わったぞー」
 割かし大きな声で叫んだ。しかし反応がない。
あれぇー、放置プレイですかー? それともひょっとして防音性? さっき向こうから声が聞こえたはずだが……。
扉を押したり、引いたりしてみても開かない。ひょっとしてこのまま閉じ込められて、飢え死ぬの俺?
「こーなったら体当たり! 扉を破ってやる」
 俺は助走距離をとるために、扉から直線で一〇メートル程離れ、助走をつける。
「まずはその幻想(とびら)をぶっ壊す!」
 我ながら好きすぎだろ……禁書。
「おわっ」
 間抜けな声を出した理由は、扉に直撃する瞬間に、扉がタイミング良く(悪く?)開いたからである。
ガン! 鼻の頭から思い切り床に正面衝突。禁書の上条さんのマネしたら、俺まで不幸になっちまったか? ラッキースケベはないようだが……。
「いったー」言いながら前を見上て、そこに居たのは姉、――鬼林心亜。
「あっまっとぉー!!」
 天人の「と」と、掛け声の「とぉ!」が完全に合体してたぞ今。
 倒れている上に、ボロボロである俺の体に、姉のスタイル良い体が思い切りのしかかり、俺の体は悲鳴を上げた。
「ギャー!」
 ――声と同時に。
「おねぇちゃん心配したんだからねぇー」
 生キャラメルよろしくの、甘ーい声が掛けられたる。そう、お解り頂けただろうか。俺の姉は、その――ツンデレなのだ。
ツンデレとはご存知(?)の通り、普段、好意を寄せる相手には素直じゃないのだが、たまに褒められたり、危険な目にあったりすると、稀?にデレるてくる、そんな萌え属性のことだ。
 もちろん、俺は姉なんかに萌えたりはしない……。ここ重要!
「やめろよ姉ちゃん! 恥ずかしいっての……うぉい、当たってるって、おい姉ちゃん! 放してくれよぉ」
「もぉ天人ったらー、照れ屋さん!」
「断じて違ぇーよ! 達の悪い酔っ払い見たくなってんじゃねぇ!」
 けちぃ、と少し寂しがりながらも、綺麗な黒髪をかき上げ、ちゃんと身を解いてくれた。背中に当たった二つの柔らかい感触が、今だに脳裏から離れそうとしない。……煩悩退散!
 気持ちをリセットし、溜息交じり俺は起き上がる。
「これでいいんですか」
 隣にいた魔神へ尋ねる。
「あー、いいよいいよ、それに、俺が奴に忠告した後に、まさかラフェロスを倒すなんて、予想だにもしなかったよ。感激、感激」
「えーと、これで姉の罪も、俺の処刑も、全部チャラって事ですよね?」
「ああ、そゆことだ。よくやった」
 魔神は気軽な調子で答える。
「ああ、そうだそうだ。天人君、君に話がある」
「話、ですか?」
 首を傾げて、尋ねる。……一体なんの話だろうか。まさか全部ドッキリでしたってオチじゃないだろうな?
「うん、君についてなんだけどさ」
「俺、ですか?」
 ? ますますわからん。思い当たる節は……ない事もないので、言われた通り、俺たちは話をするため、『談話室』へと向う。 
悪魔本部にも『談話室』ってもんがあんだなぁ。とまあ、お気楽なことを考えていたが、結局、話の内容はぜんぜんお気軽じゃなかったのだが……。
 それ以上に重たいものであった。

        2
「俺が悪魔ぁ?!」
 談話室に入るとすぐに、テーブルを挟んで正面に向き合ったソファーに腰掛けると、開口一番、魔神が語ったのはその事実からだった。まあ、確か戦闘の途中で「同じ種」とかそんなような事を言ってたような、言ってなかったような。
「って待てよ、おい! 第一、俺は天使の子じゃなかったっけ?」
「だろうね」腕を組んで、真剣な態度で冷静に告げる姉。
 デレ状態とは真逆な雰囲気だなぁ……、つーか、いつギアチェンジした?
とまあ、俺の姉への感心は置いとくとして、
 眼を光らせ、俺を指差し、姉は言い放つ。
「つまり! アンタは天使と悪魔のハーフである可能性があるってことよ!」
 そんな「決まったぁ」ってな感じの顔されても……。それに、ハーフとは限らないじゃないか。最初の「親が天使」説が嘘だって可能性も十分あるじゃないか。
 まあ、とりあえず、姉の気付いてなさそうな点を突いてみるか。
「だったら、お前もそうなんじゃねえの?」姉のドヤ顔に対し、俺はジト目で言葉を返す。
「え…………あ………はっ! そういえばそうだ!」
「今気づいたんかよ!!」
 俺はツッコミを入れてしまった。しかし、こいつはこれでも成績優秀と言うのだからすごい。
相変わらず、こういう所はアホなんだよなぁ。
「お姉ちゃんにアホとはなんだ、アホとは!」
「……ッ読心術パート2!?」
 んー? と、小首を傾げて、可愛らしく誤魔化した。誤魔化せてねーぞ、なんだよ、今の?
「そうか、私も悪魔と天使のハーフかもしれんのかぁー」
 んん? 何か気付いたようで、姉は魔神に、ひとつ疑問を問いかける。
「そんな血筋で悪魔やってていいんですか?」
「あぁ、普通はNGかもしれないけど、こればっかりは俺の顔に免じて許してやるよ」
 漆黒の髪をの集まっ頭を、わしわしと掻き、仕方なさそうにそう答えた。
 それを聞き、ぱあぁ、と姉が天空に輝く太陽の如く、表情が明るく変貌し、同時に。
「有難うございます! まるで神様のようですね」
 満面の笑みで感謝を述べた。アホの上に分かりやすいと来たか(知ってたけど)、これはもろ詐欺に引っ掛かりやすいタイプだ。
「……いやぁ、一応これでもある意味での神様なんだけどなぁ……」
 という魔神のつぶやきは、姉には聞こえていなかったようである。こんな姉ですみません魔神さん。
 だ……が。魔神さん……いくらなんでも気前良過ぎないか?
「おい、さっきから都合良過ぎねえか、お前」と疑いの眼差しを向ける。
「そんなに人を疑っちゃあメーよ! 天人」
 黙ってろよ! なんかデレデレ気味になってきたな姉ちゃん……。つーか人を疑うって、人かぁ? コイツ。
「でもさ、姉ちゃんねー」
 なだめる様に説得した後、さらに追求を続ける事とする。
 都合が良過ぎて、裏があるとしか思えないからな。
「てめぇ、なんか裏あんじゃねえの」
「裏もなにもないよ、たださぁ……」


「君、使えると思って」

「!?」
 誤魔化しを入れずストレートに言いやがった。
「ああそぉかい……で、話ってそれだけなのか?」
 呆れ混じりに尋ねると。
「ああ、まだあるよ」
 その様に魔神は返してきた。
「まず君に聞いておきたいことがある、……単刀直入にいくぞ」
 淀みのない瑠璃色の瞳に真剣みを利かせ、
「お前さん、どこまで知った」
 テーブルに頬杖をつき、今度は尋ねてくる。
「ん、どこまでっていうのは?」
「天使のこと悪魔の事だ。何でもいい、知ってることを全部教えてくれ」
 うーん、と少し、答えるか、否か考えた。しかし、こちらにデメリットがあるわけではなかったので答える事とする。
「言ってなかったけどな俺、天使の血が混じってるだけじゃなく、天使側(てんしサイド)って組織に所属してるんだ」
 告げた途端、姉とは瞳孔を開いて驚いている。……しかたねえよな、これじゃあ追い出されんのも時間の問題か。
 魔神は――

「おお、それは好都合だ」

 変わらない表情で、そう言った。当然の事を告げているかのようにな。
「は?」
「何で好都合なんだ? 可笑しくねえか」
 ううーん、と魔神は考え込んでるのか、額に拳を当てて、少し黙りった後、率直にこう、続けた。
「まず、君にひとつ知って貰わなくちゃならないみたいだね。『天使計画』……についてを」
「……テンシ計画……? なんだ、それ」
 魔神は一旦間をおいて、漆黒に染まる前髪を軽く撫でると、真剣な眼差しに変え、説明を開始する。
「『天使計画』……それは、この世界に存在する、幾つかの“大罪”のひとつだ。その計画の全貌は、天使による天使のための『天使の生成』だ」
「『天使の生成』?」
 顔を顰めて尋ね、俺は首を傾げる。
「そう、『天使の生成』……そのままの意味で、人造的に天使を造るって事さ」
「? なんでそれが“大罪”になるんだ」
「うん、その計画――つまり『天使計画』というのは、人間を材料に天使を造る、と言う事だからさ」
「な、に!?」
 驚愕した。人から天使? どういうことだそりゃ。
「天使と言うのは事実、これ以上増やせないものなんだ。なにせ天の使いだからね」
 だから、と右頬を小指で掻きながら、魔神は続ける。
「天使はな、以前あった俺等――悪魔サイド、との大きな戦争を経て人手不足に陥った。が、そこで打開策として立案されたのが『天使計画』と言うわけだ。人員の補給と言う形で、大量の人間の犠牲をもとに天使を生成した。それが天使サイドの大罪だ」
「……それがあったから、お前らはその事実が許せなくて、組織同士で『悪魔サイド』対『天使サイド』として対立してるってわけか」
 相槌を打って、俺は視線をゆっくりと移動して、魔神の一点に固定する。
「そのとーり、人手不足だからって人間を殺していい訳? 答えは完璧ノーだよな。そんなふざけた理由で命を奪っていい理由(わけ)がない」
 自称天使達はそんな事をしていたのか? 
「そうだよな……でも増やすんだったら、俺と姉ちゃんみたいに、天使と人間との間に子供を産めばいいんじゃないのか?」
「ああ、そう思ったのか……ひとつ言っておく。お前等みたいなケース――悪魔と天使、又は、人とどちらかのハーフと言う血統。だった場合、それは天使でも悪魔でもないんだ」
「はぁ!? そうなんか」
 そんなもんなんか、俺は悪魔でも天使でもないんじゃん! ホッとしたような? なんと言うか微妙な心境。
「え、でもそしたら姉ちゃんは?」
 ここで質問を問いかける。
「ここに居る君の姉、心亜ちゃんは、契約で血統関係なく悪魔になったからね。また別の話ね。現に君、天人君は天使のスキルは使えんだろ。悪魔は何故か少し継いでるとしても」
 納得した。『天使計画』で人の命を弄んだ――これが悪魔と天使の対立している理由。
……ん? やっぱり天使の方がそんなことするのだから、奴等は悪なのか?
 そんあ疑問に頭を悩ませていると、不意に魔神が言葉を投げかけてきた。
「で。これを聞聞いて貰った上で、君に頼みたいことがある」
「なんだ?」
「その……君に『天使サイド』へのスパイを頼みたい」
「え?!」
 突然の申し出にに驚いて、俺は目を見開き首を傾げる。
「なんでだ? まず俺じゃなきゃ駄目なんか?」
「ああ、君のおかれる立場は色々と都合がいいんだ。まあいわゆる中立と言うところなんだがな」
 なるほど、その立場を利用して悪魔サイドに有利な状況にしようって算段か。まあ俺にデメリットはないしなぁ……。
「いいだろう。お前ら悪魔を信用して、スパイをやってやるよ」
「……でも天人」なにか言いたそうにしている姉。
「心配すんな姉ちゃん。俺は大丈夫だ。それに断ったら何されるかわかんねえしな」
 そう自虐的に微笑むと「なにもしないよ」そう、とぼけた様に魔神は返してくる。無視無視。
 というか、最初の印象からは想像がつかないほどにフレンドリーでフレンチな奴だな……。
「おっとぉ、言い忘れたことがあった。天人君、君は天使でもなけりゃあ悪魔でもない……と、言うことは君は人間と言うことになる」
 でもね、少しドスの利いた声に一転させ、魔神は哀れむ様子もなく、俺をこう言った。
「人間達の間では、君のような存在の事をなんて呼んでるか、知ってるか? そう――」


「――化物……だよ」


 だが、その言葉にさほど俺は驚きはしなかった。
なぜならば、俺は過去に何度か“化物”と嘲り笑うようにそう呼ばれたことがあったからである。免疫……というやつだな。
「……もちろん、知ってるよ」


         3
 それからと言えば、俺は「天使の任務で悪魔と遭遇してしまった場合の対処方!」である“もし遭遇してしまったら、お互い他人のふりをして、悪魔の方は即退散!”と言う事を聞いたわけだ。
 だいぶ、話すことを解消したらしく、「じゃあ、今回はお開きにしようか」と言う魔神の解散の合図と共に俺は談話室から退室し、魅力的な肢体に紫の髪を持つ悪魔の女性、の案内通りに出口へと向かった。
「でわ、ごきげんよう?」というほんわかしていてなかなか和む、女性の悪魔の美声を聞き、数秒間吟味して、「はい、お疲れさまでしたー」と最後に言い捨てて家路に足を進める。
そんなこんなで、今は帰り道であり、家から二、三キロ位の近所の公園近くをよたよた歩いている。
時刻は深夜〇時十五分、腕時計から確認。今日はなんだかんだあり過ぎて疲労がピークだ。
「ねっ、みぃーーー!」
 そんなことをの呑気に叫びながら、静けさだけが支配する人気のない夜の街中をひとり寂しく歩いていた。案外、ボランティアの人が頑張ってくれてるのか、清潔な道で歩いていて清清しい気分になった。
 カギは預かった。しかし、姉はまだあそこで仕事に没頭するつもりだろうか? あの命まで奪おうとした上司が居るところで……命の恩人も居るから大丈夫かな?
歩いていると、ふとチャラついた格好の男とすれ違った。夜遊び中のヤンキーかと思ったが、「よう兄ちゃん」とか呼んでるようだったが、面倒ごとは勘弁なので、無視。
「おい、ちょっと無視しないでよー。君、天人君でしょ?」
「あ?」
 咄嗟に彼口から出てきた自分の名前に、ついつい反応してしまった。ん、なんで知られんの?
「……誰だ? アンタ」
 俺は眠い目を擦りながら、しぶしぶ尋ねる。
「お、やっと反応してくれた。えっとな、俺の名前は海風謙(うみかぜゆずる)つーんだー。これでも『人間サイド』のトップやってる」
 『人間サイド』? と俺は首を傾げながら、彼の言葉に耳を貸すと。
 海風と名乗る少年は満点の星空をみあげながらしばし考える。そして。
「あぁー、もしかして天人君さ、『七大機関』について説明されなかったのー?」
「『七大機関』? なんだそりゃ、聞いたこともないけど?」
 すると、「あっちゃー!」と残念そうに額に手を当て、面倒な目でこちらを見つめ、説明を始めた。
「そっかー、えっとね『七大機関』ってのはー、天使と悪魔と直接関わりがあったり、なかったりする集団でー」
 天使と悪魔!? 唐突に出て来た単語に驚きつつ、俺は改めて海風名乗る少年を見る。印象的には大人っぽく、耳にリングピアスをつけ、灰色のアロハシャツを羽織っていたりと、なんかそのやっぱりチャラかった。
一見、非日常などに関わりなくそれなりに人生を謳歌してそうな見た目だったが、予想に反し非日常に浸っているっぽい。
「その集団は『奇想天外予想不可!!』みたいな事を平気でするような連中でー、そいつらは七つのグループに分かれて入るんだー」
「つまりは、トンデモSF・ホラー・バイオレンス、なんでもありな七つの集団、それが『七大機関』つーことか」
「バイオレンスはともかく。まぁそゆこと」
 ダルそうな藍色の瞳で海風は説明を続ける。
「で、その『七大機関』で詳細がわかってるのは、俺が仕切る『第一機関“人間”』を初めに『第三機関“エクソシスト”』や『第四機関“アンデット”』まあいわゆる妖怪、とか。それと『第五機関“―魔術組織―”』の計四機関が、『七大機関』で俺たちが知りゆる機関なんだー」
 つーことは『悪魔サイド』と『天使サイド』は『七大機関』に属しているわけではないんだな。ややこしーなぁ……。
「んーじゃあ、なんで残りの三つはわかんねんだ?」
「ああ、残りの三つは詳細不明。まだ俺たちが知りえてない組織なんだー。まぁ『天使サイド』か『悪魔サイド』ならある程度知ってるかもしれんけどー」
「そうか。で、それがなんだって言うんだ?」
「うーんと、この事実を知らせといてなー。単刀直入に言うとー、『人間サイド』のトップである俺が君――天人君を助けたげるって話さー」
 ?? 話の起動がずれたぞ、どういうことだ? 助ける、俺を、なにから?
「あー、その様子だと天人君、自分の置かれてる状況を理解してないねー」
「どうゆうことだ?」

「天人君、キミはさっきの『悪魔サイド』との取引で、取り返しのつかない状況に陥ってしまった」

「は?」
 やけに街が寒く思えた。背中に冷たい何かが走った気すらする。
 取り返しのつかない状況……いやデメリットなどなかった筈だ。それに、俺は魔神への恩返しだと思って引き受けたんだ。いまさら取り消すこともできない……。
「あ、ちょっと俺の説明の前に、今日あったことを事細かーく教えてくんねーかー」
 少し迷った。けれど自分の置かれている状況が気になってしょうがなかった。
 そして、今日あったことを全て海風に伝えた。
「ホーホーホー、最終的にキミは『悪魔サイド』から『天使サイド』へスパイ頼まれたんだよねー」
 もはや表情で「やっぱりねー」と告げている。なんだこの男? この雰囲気はなんなんだ?
「まあそうだ」
 海風の見透かした目。
 ……それよりもお前等『人間サイド』に助けられる理由とやらを早く教えてくれないかな……。
「で、キミそれを受けたら、これからも危険な目に遭う事になるって分かっていたんだよねー」
「一体なんのことを?」
 話の関連性が見えてこない……。何言ってんだコイツ?
「あー、言っとくけどね、君は『天使サイド』でもあり『悪魔サイド』でもあるって事。で、そーんな状況でキミが少しでも変な事を起こして『天使サイド』と『悪魔サイド』間の状況がさらに悪くなっちゃったら、二度目となる天使と悪魔の大戦争が始まってしまうかもしれないんだぞー」
 え? マジ? 俺、下手したら戦争の火種になりかなないってか?
「例えばさ、キミが“『天使サイド』を裏切って『悪魔サイド』に味方してる”つまりスパイだって事がばれちゃった場合。キミの命も危うくなるし、両サイドだってかなり均衡した状況になる」
 …………??? まて、可笑しい、何か可笑しい。そうだ! 考えても見れば『悪魔サイド』、特に魔神がそんな危なっかしい事が起きること位、百も承知の筈に決まっている。
そうなるとわざと、か? わざと俺をスパイだとバレさせる為にぃ? 一体なんの利益があると言うのか。
 考えても俺じゃあ分からない。そこで、気付いた事を海風にぶつけてみる。
「……まあ、確かにわざとって線もあるかなー」
 うーん、少し生徒から自分も分らない質問をぶつけられた時の教師みたいに、眉間にしわを寄せて深く考え込み。
「この件に関しては少し本部で探ってみるよ」
 そう結論出した。モヤモヤがまだ残るが、分からないんならしょうがないよな。
「まーあれだ。キミの独断だけで動くのはあんまりにも危なっかしいから、俺達がサポートしてやるって事だから、それ以外はなにもない」
「お、おう、そうかなんか助けてもらってすまないな」
 謝罪すると、気軽に「いいってことよー」と頭を掻きながら適当に答えた。
「で、君は今日から『人間サイド側』の人間でもあるって事だ。裏ではだけどー」
 俺は、『天使サイド』所属『悪魔サイド』スパイ所属『人間サイド』所属、という無茶苦茶な状態と言うことか……。そっか、もう普通には生きられねーんだなぁ俺。……トホホ。


         4
 一個、言い忘れていた事があったのを思い出したので、背中を向け、後姿で右手を振り、立ち去ろうとしていた海風に俺はひとつ補足する。
「おい海風ー! あのさー、一個言い忘れてたんだけどぉ……えっと『悪魔サイド』から『天使計画』について聞いたんだけど、一応聞くかぁ?」
 言った直後、海風は歩を止めて、振り返り瞳を限界まで開いた。先ほどまでとは比べ物にならない覇気。
「………………はぁ??」
 馬鹿を見る教師の様に海風は疑問を表す。血が止まるかと思った。
「『天使計画』と言ったか、今? 何を言ってるんだお前???」
 俺は溜息をひとつ。
「だからそうだって、聞くのか?」
「知ってるのならぜひ聞かせてほしいものだなー」
 生徒の変な行動に呆れた教師の様に、嘲笑を交えて告げる海風。
「あー教えたるよ、アレだろ『天使計画』ってのは“『天使サイド』が人間を材料に天使を作り出す”って言う実験の事だろ?」
「フッ、やっぱりか」 
 鼻で笑ったと思うと、藍色の瞳で俺を睨み――
「? なんだよ」

「それ、『天使計画』じゃねーんだよ」

 ――確かにそう言ったんだ。先ほど知ったばかりの事実を覆すかのように。
「………………へ?」
 動揺する俺を他所に、海風はマシンガンのごとしのスピードで続ける。
「可笑しいと思ったんだ。お前なんかに天使計画を軽く口外するわけねーってな。それにお前はすんなり喋りやがった。大抵、『天使計画』ともなると口止めのためになんかしてる筈なんだよなー。ちなみに、さっき君が言った人から“天使を創る実験”と言うのは過去にあったが、それはまた別の事件だ」
「マジか……。ん? じゃあ『天使計画』って――」
「教えられるわけがない」
 俺の問いかけを即座に打ち消したのが誰なのかは言うまでもない。そう、それほど海風によって“天使計画”は重大な事だったんだろう。
「それに『天使計画』を実行したのが、どこの誰かどころか天使か悪魔かはたまた人間かそれ以外か、それすらわかってない」
 えーとつまり、とまとめる海風。
「魔神はキミを味方にする建前に嘘の『天使計画』を教えてった。ってわけ、しっかしにっくいねー魔神さん。相変わらず巧みな話術だよ」
 魔神と面識があるのか、感心するようにしたのち、続ける。
「あ、でもだからって『悪魔サイド』を抜けるって事はしないでねー。なにせ君みたいな例はレアなんだからー、それにキミならこの“腐った世界を変えられる”かもしれないし」
「そ、そうか、分かった。宜しくな海風」
 ……だが。

『天使計画』……一体なんなんだ?

 エピローグ 崩れた日常と始まった非日常

後日談を言わせて貰おう。
結局俺は『天使サイド』『悪魔サイド』『人間サイド』の三組織に所属する事となった。
そして大きく俺の心にひびを入れたのも、言うまでもなくその三組織だ。
後に、俺が日々やらなきゃいけない事。それは、いつもどーりに学校に通い、いつもどーりに授業を受け、いつもどーりに友達とじゃれて……。
アフタースクール――放課後。それが俺の非日常の幕開けの合図。『天使サイド』のバイトが始まるというわけですよ。
実際はまだ一回もやってないんだが、来週からは『週四で時間は終わるまで! 出勤』(土日もあるときはあり、しかも出勤日は月によって全部違う)というある意味俺の青春だ。
まぁ、休みがあると言う事が唯一の救いなのだが、あんな非常識なことが連続で体験されるかもしれないって思うとホント夜も眠れないわ。 いやマジで。そこぉ! 乙女みたいとか言わない!
いやさ、ホントは今でも夢であって欲しいと星に願うわけですよ鬼林天人はね。だって、天使だの悪魔だの言われてもいまいちピンとこないだろ、普通?
……っとそーいえば、姉ちゃんの事も言ってなかったな。
姉ちゃんは相も変わらずに『悪魔サイド』でバイトに勤しむらしいー。あ、前言ったっけ?
……姉ちゃんってどんな経緯を経て悪魔なんかになったんだろうか?  ま、そこは置いといてー。
まあ姉ちゃんは俺に『悪魔サイド』に状況や指令を伝えてくれるわけなのだーがー、彼女はご存知の通りツンデレさんなのでー、デレのときはまあいいんだ。しかし、ツンのときが問題なのだ。これがまた結構面倒くさい。
いいんだけどね慣れてっから。この通り姉ちゃんはツンデレ絶賛稼働中というわけだ。マニアの嫉妬を買うかもしれない。でも俺にツンデレ属性はない。クーデレ好きなのだ!(これは重要)
『人間サイド』の方は、俺の行動を指定したり相談に乗ってくれる、らしい。あくまで「らしい」だ。お察しの通り一度もないけど……。
この通りすっかりと俺の平凡な生活への夢はボロクソに蹴られたあげく、最後に思いっきり踏み潰された……っつーわけだ。
……これは十分不幸だと思う。そんな事を学校の屋上で昼休み、ひとり考えている俺。
 はぁ……。けど、そんな俺の支えとなっているのは――
「おい天人! なーに一人で屋上で物思いにふけってんだー? エロい事なら相談にのるぜー」
 幽玄。
「そんな事より天人! 俺の家がぶっ壊れてたんだけど、知らない? もしやてめーかぁ!?」
 軒下。
「いいから、昼ごはん早く食べましょ。いっつも購買のパンばかりの君たちに、今日は特別にお弁当を作ってきてあげたんだから!」
 開花院。
 そう――こいつら“友達”の存在だった。友達、いや俺の周りの支えとなっている全ての人。そいつら全員のために俺は街を守る、彼らを守る。これが俺の決意だ。
だからこそ今日も俺は戦える。
だからこそ俺は日常を捨てられた。日常を諦めたわけじゃないけれど、今捨てるのが必要だったのだ。
 ずっと皆で気軽に笑い合えるその日がく続く信じて、俺は進む。それに日常を捨てたからって、また作り出す事は可能なはずだ。
ああ、それだけだった。
それが――
「よし、誰が開花院の弁当を一番食えるか勝負じゃ!」
 鬼林天人、俺だった。
 その後皆でがっついた開花院の弁当が、なんとも言えぬ……いや正直に言うとマヨネーズとガソリンを混ぜたような、くそまずい味であったというのは、また別の話である。
             

                                                                    (終わり=続く)

俺と姉の非日常!

 皆さんはじめまして(?)赤上出雲です!
 ここまで読んでくれた人も、途中まで読んであとがきに飛んだ人も、
 本編読まずにあとがきだけの人も、みんなみんな有り難うございます。
 中には完結まで気長に、UPする度に読んでくれた人もいまして、ほんと感謝しきれないくらいです。
 ここらで、本作品についての話。
 この作品は、以前友人に見せてその勢いでネットに載せちゃおうー。という事で投稿させて頂きました。
 そのため、修正に修正を重ね、内容とつくりについてはかなり変更しました(特にラスト)。
 一人称になったり三人称になったりと複雑になってしまいました。ここは反省ですねw
 あと、これはシリーズ物なのでまだ完結ではありません。そのため二巻も現在執筆中です。

 最後となってしまいましたが、ここまで読んでくれた皆さんに改めて感謝を申し上げます。
 ……次は鬼林(姉)が活躍します。でわまた!


(……一度間違えて消してしまって、あとがきを書き直す。ほどほど不幸な執筆者、赤上でした。)

俺と姉の非日常!

  • 小説
  • 中編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-10-08

Copyrighted
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Copyrighted
  1.  序章も及び第一章 予感
  2.  第二章アルバイトスタート!
  3.  第三章数年前と現在の差異
  4.  第四章 真実の先にある戦慄
  5.  エピローグ 崩れた日常と始まった非日常