THE HOBI~第一章 選ばれし者たちと祈りの力~

この作品は宗教批判や人権損害、歴史批判を目的としたものではありません。
あくまでもモチーフ作品であり実際存在するものとは一切関係ありません。
どうぞ宜しくお願いします。

第一話 『all』

―ここは「平和の村エリコ」―

この地は綺麗な水もあり、森もあり、動物も数多く居る
小鳥が鳴くある川の畔。まだ若い少年と少女が話している。

女の子シー 「ねぇえ、メシア?」

男の子メシア 「うん?」


シー 「まだデオ様に祈りを捧げないの?」

シーは小バカにした様子でメシアに言った。


メシア 「デオなんか居ないよ。居たら母さんの病気は治ってるだろ!」

少し声をあらげてメシアは言った。


シー 「デオ様に祈らないからよ…」

いじけた様にシーは下を向く。

シー 「祈りを捧げればマナサさんも喜ぶわよ!親孝行しなさいよ。」


メシア 「前はしたさ…」

するとメシアは両手を握り胸に当て目を閉じた。辺りが静まりかえり、木の葉が僅かに揺れる。


メシアは小さな拳を頭の上まで持っていき動きを止めた。
そして勢いよく振り抜いた。

「ガンッッ!!!」


すると子供の頭一つ程の石が真っ二つに割れたのだ。
人種あるいは人によりこの祈りの力の強弱は様々である。
この世には祈りを捧げなくてもこの力を操る者もいるがごく僅かである。



メシア 「これがデオの力?こんな物何の役にたつ!?暴力でしかな い!そもそも元から人が持っている力だろ?それをデオだの賜物だのって、くだ      らないよ!」

メシア 「シーはいつも祈ってるのにシーの父さんも母さんも死んだじゃないか!!!」

シー   「… …」


シー  「そう…だね。」

メシア 「あッ、その…何て言うか…」


メシアは気まずくなり足早にその場を去った。


シー 「フフッ、メシアは不器用ね。居なくならなくてもいいのに。」

シーは優しい顔をして微笑んだ。



メシアとシーは幼い頃から友人である。
シーの母は病で亡くなり父もまた若くしてこの世を去った。
その後シーは祖父母に預けられ育った。
髪の色は茶色で色は白く、体は小さな可愛い女の子である。



―場所変わり、ここはメシアの家―


アサ  「コラッ!メシア!魚が取れて無いじゃないか!」

メシア 「ごめんよ、父さん。」

アサ  「(今日はやけに素直だな) どうせシーと遊んでたんだろ?まぁいい、早く家へ入りなさい。」

メシアは家へと入る。自宅は小さく土と木でできている。
この村は天災が少なく嵐に巻き込まれるなんてことは滅多にないと言う。


マナサ 「お帰り、メシア」

ベッドの上で優しく微笑むマナサ

メシア  「ごめん、母さん、魚獲れなかったよ…」

マナサ 「良いのよメシア」

マナサは目を細めまた優しく微笑んだ。


マナサ 「母さんはこんな体だし、ご飯も作ってあげられない。あなたが元気な事が母さんの幸せなの。」

メシア 「そんなこと気にしないでよ、僕も母さんが居れば幸せだよ!」

マナサ 「あら、まぁ、優しい子ね。さぁ、父さんを呼んでご飯にしましょう。」


メシアの母は体が弱くいつもベッドの上で顔色を悪くしていたが
三人はそれでも笑顔で、笑いは絶えなかった。
そして今日も日が沈み小さな家に明かりが灯った。



【この世は優しさ、怒り、憎しみ、喜び、悲しみ、様々なもので満ち溢れている。人がデオに祈りを捧げれば人は超人と化す。足で木を薙ぎ倒し、拳で山を割り、人を殺す。しかし…この世でデオを見たものなど存在しない…。   伝道師 マタイ】




メシア「父さん!!父さん!!」

アサ 「メシア…。待ってろと言ったはずだぞ。」

村の中心地に出掛けたアサを追ってメシアは来た。

メシア「この人…どうしたの…!?」

アサ 「病気だ。メシア、帰るんだ」

メシア 「でも…」

アサ 「早く行け!!」

メシアは下を向きゆっくり家の方へと歩きだした。


アサ 「村長、これで三人目です」

村長 「わかっとる。だが…どうも出来ん…皆でデオ様に祈りを捧げよう」

アサ「しかし、動物や貴重な作物を捧げても、三人目の犠牲者が…悪行でしょうか?」


村長 「悪魔が寄ってくる、口にするでないアサよ。皆、家へ戻るのじゃ!!」

村民は心配そうな顔をしながら持ち場へと帰って行った。

アサ 「このままでは、この村は恐怖に包まれてしまう。何とかしなければ…」


―翌朝―



村民が再び村の中心地に集まりだした。

アサ  「…」

メシア 「と、父さん…?」


アサはメシアに帰れとは言わず呆然と立ち尽くす。 目線の先にはアザが全身に浮き出て死んだ村民が三人横たわっている。

村民1 「もう、ダメだ。デオ様の怒りをかったんだ」

村民2  「悪魔だ…悪魔だ…助けて、誰か…」

アサ  「黙れ!!違う!!これはただの病だ!!」


村長 「皆聞け。この村を去るぞ。準備をするのだ」


村民 「そ、そんな。この村は川もあり花も咲き動物も居る!!去るなんて死ぬも同然だ!!」

村民 「そうだ!「死の森」か「終わり無き峠」を歩くなんて無理だ!!」

村長 「そんなこと分かっておる!!残りたいものは残れ、ワシはここへ残りこの地を見届けよう」



するとある村民の一人が小さな声で何かブツブツと囁いている。



村民のモロク  「や、やだ。死にたくない。生け贄だ。人間の、生け贄だ。赤子か女だ…デオ様よ…助けたまえ…」


モロクは横にシーが立っているのを見つけ凄い形相でシーを見つめた。
その顔はまるで悪魔に憑りつかれたものであった。



    「ガッッ!!!」


シー 「痛いッ!!!」



静まりかえる村にシーの声が響きわたり、
正気を失ったモロクはシーの髪を掴み、抱き上げ祭壇へと走り出した。


アサ 「しまった!!!奴を追えッ!!」

村民達 「… …」


村民達は誰も動こうとしない。



アサ 「クソッ!!」

モイル「アサ!追うぞ!」

アサの親友のモイルと共に二人は走り出した。



アサ 「ハァ、ハァ(頼む間に合ってくれ!!)」



モロクとシーは村の外れにある祭壇へと着く。

モロク 「ハァ…ハァ…来るな!!アサ!動けばこいつを殺す!」

モロクはシーの首にナイフをあてる。




アサとモイルに続きメシアが祭壇に着く。


メシア「ハァハァ、シーッ!!!」


アサ「メシア!!お前は来るな!」

メシア「無理に決まってるだろ!!シーは親友だ!!」



モロク 「こいつに親は居ない。ハァ、知ってるだろ?ハァ、ハァ。祖父母だけだ。死んでも誰も悲しまんだろ!?」

アサ 「ふざけるな!そんな事お前には出来ん!」

モロク 「いぃや、できる。あの病の一人目を知ってるだろ!?この女の母だ。この病はコイツの母の呪いだ!悪魔になったんだ!!」



泣きながら震えるシー

モロクの手の震えは次第に大きくなる。


アサ「止めるんだ…モロク、デオ様はそんなこと望んではいない」

しかし説得には耳を傾けないモロク。



モロク 「デオよ…我はあなたを崇拝し、全てを捧げましょう…この女の命をもって…」





モロク 「我を…」




モロク 「救いたまえ…」



モロクはナイフを天に掲げシーを見つめている。



シー 「ごめんねぇ…メシア…」



シーは震えた声でメシアの方を向き、呟き、…微笑んだ。


アサ   「やめろぉぉー!!!」
メシア  「やめろぉぉー!!!」





「シュッッッッ!!!!!!!!!!」




鈍くも鋭い音が響いた。


    …。




    …。


    …。




「ポタッ…」





「ポタッ…」



「ポタッ…」





祭壇にシーから流れ出た血が溜まる。


アサ「…」
メシア「…」
モイル「…」


アサ 「貴様ぁぁぁぁあ!!!!!!」

モロク目掛けて走り出すアサ


「グサッ!!!!!!」

モロクは自分の首をナイフで刺し倒れこんだ。

アサ 「な、何て事を…!!。」




モイルは震え泣くメシアを強く抱き締めてあげている。アサはたたずみ魂を抜かれたかの様に膝まづいた…。



アサ 「シー……。」

アサの目から涙が流れ落ちた。




辺りに小鳥の囀りが響き渡り、木々はいつもと変わりなく聳え立ち、葉はゆっくりと揺れた。




【人…デオを信じ、祈る…。また…デオを憎み恨む。それでも胸に手を当て、祈ればデオは人に力を与える。デオは人間の想像か、それとも…。







この世、all(オール)と呼ぶ。   伝道師 マタイ】

第二話 『平和の村エリコ』

マナサ 「アサ?顔色が悪いわ…」

アサ 「いや、何でもない、大丈夫だ」

マナサ 「あなたは優しい人ね。メシアはあなたに似たのね。モイルから村の事は聞いたわ」

アサ 「何だと?あの馬鹿め!」

マナサ 「モイルはあなたが私に言えないと思って気を使ってくれたのよ。」

アサ 「あぁわかってるよ。あいつは親友だからな。シーを殺した男の首に例のアザがあった。モロクは…彼は正気じゃ無かったんだ。シーを助けられなかった。二人共…」


アサは悲しげな表情を浮かべ、マナサに言った。

マナサ「あなたは良くやったわ、シーはしっかりした子よ、あなた達を憎んでなんかいないわ。そうでしょアサ?」

アサ「あぁ、そうかもしれんな…ありがとうマナサ」

マナサ「直ぐに遠くに行くのでしょ?私の事は心配要らないわ。もう十分よ…」

アサ「そ、そんな事言うな!行かん!!お前を置いて行くわけないだろう!共に死ぬと誓った!何とかするさ…何とか…俺は…」

アサは声を上げて言った。
追い詰められているのは誰が見てもわかる様であった。

マナサ 「いいえ、駄目よ。メシアを守れるのはあなただけ。私はもう長くない。十分幸せを貰ったわ。足手まといになりたくないの、分かるわよね?」

マナサはいつもの優しい顔をしている。

アサ 「無理だ…そんな事…」

そう言うとアサは勢いよく家の外へ出た。

アサ 「メシア!聞いてたのか…」

扉の直ぐ外には顔を埋めて座るメシアが居た


アサ「少し歩こうメシア?来なさい。」

メシアは黙ってアサに付いていく。


しばらく歩くと例の川の畔に着いた。


アサ 「メシア、お前はもう母さんの言う事が理解出来るな?」

メシア 「出来ない…」

アサ 「…。母さんはお前が生き延びることが一番の願いなんだ。わかるな?ここで動かずお前が病にかかって死んだら母さんはどう思う?」

メシア 「…」

アサ 「ハァ。お前には過酷過ぎる現実だが、私はお前を守れなければならない。出発は明日の朝だ。準備しなさい。」



父アサはその後黙ってその場を去った。




―場所変わって村長の家―



アサは別れを告げる為村長の家へ来た。


アサ 「村長…」

村長 「ワシに触れるでないぞ、アサよ」

村長の腕にはアザが浮き出ている。

村長「ワシはもう十分生きた…命が尽きるまでマナサを看病しよう」

アサ 「お願いします…。明日の朝、皆で町を出ます。」

村長 「うむ、任せたぞ」

村長 「最後に一つ伝えるべき事が」

アサ 「何ですか村長?」

村長 「うむ、この村に来た客人は今までに数人だけだ。今からちょうど50年前…この町にある旅人が来たのじゃ。」

アサ 「そんなまさか。死の森か終わらずの峠を越えたと言うことですか!?そうしなければこの村にはつけないはず!」

村長 「彼はこの村の事を『守護の村』と呼んでいた。彼はある人物を探していると…」

アサ 「誰をですか?」

村長 「分からんのだ。彼は村を拝見したいと手土産にワシにこれを渡した。」

アサ 「水?」

村長 「不思議じゃろ?50年経っても決して乾かない。彼はセイスイと呼んでいた。外の世では高価な物だとな。病に効く物ではない。そう言い残し去っていった。これをお前にやろう。」

アサ「そうですか。ありがとうございます。幸運を祈ります、どうか御無事で…」


―場所変わりアサの家―


マナサ「ねぇえメシア?これを持っていきなさい。」

メシアに渡したものはとても小さな虹色のナイフのようなものだ。


メシア「すごい綺麗だ、どうやって作ったの!?」

マナサ「フフッ、魔法よ。」

メシア「秘密なんてズルいよ!けどありがとう、大切にするよ!」


メシアの目には涙が溜まり充血していた。だがメシアは笑顔を絶やすことなくいつも以上に母マナサとの時間を楽しんだ。マナサはそんな息子が心では泣いているのだと、当然分かっていた。この日だけは母マナサの笑顔を見るのがとても辛かったのだ。




【昔、私はある書物を見つけた。平和の村または別名『守護の町』と呼ばれる場所があると記してあり、地図を頼りに探した。実際はそんな場所は無く、平野が広がり川が流れているだけであった。 冒険家 レイフ・エリクソン】


―次の日、夜が明け別れの日が来た―


第二話 完

第三話 『母は盾となる』

今日も何事も無かったかの様にエリコの町では小鳥の囀りが響いている。

しかし、今朝もまたアザをつくり死んで行く者が出ている。

村は小鳥の声と泣く声と苦しむ声が響く。

アザの出始めたものが数多く、旅立つ事が出来なくなった。
その者達は恐怖と挫折と不安からただ呆然とするしかなかった。
幸いにもメシアとアサは大丈夫であったが、後ろめたさを隠せないでいた。


―メシアの家―


アサ「メシア、村の中心にはもう行くな…見ても辛くなるだけだ」

メシア「行かないよ…」

メシアは母の隣から一歩も動く様子がない。
マナサの目はいつもと違いアサの目をしっかりと見つめていた。
メシアを頼むと言う目の訴えであった。アサはコクンと一つ頷き荷物を背負い始めた。
マナサは重い腰を上げ立ち上がった。右手には杖を持っている。
そして三人は家の外へと出た。
外には村人が数十人とモイルが待っていた。


マナサ 「メシア…母さんは大丈夫よ。強い人になりなさい、自分に負けない強い人に…」

メシア 「うッ、うんッ…」



メシアの目からは涙がこぼれ落ちる。息が出来ない位に泣き、手は震え、声は出すのがやっとだった…。


メシア 「ごッ、めッ、ごめ…ん、なさい。母さん…ごめんなさいッ。僕は…僕はッ」


マナサ 「誰も悪くないわ。お父さんの言うことを聞くのよ…」


メシア  「母さん!僕、絶対戻ってくるから!!ちょっとの間待ってて!!必ずだよ!」

メシアは涙を拭い決意を固めた顔をしている。そこにはもう子供のメシアは居なかった。

メシアとマナサは強く抱き締め会い最後の別れを形にした。


アサはメシアの手を取り村人達と歩き出した。何度も振り向くメシアを見てマナサは涙を流しながら微笑んでいた。

次第に母マナサの姿は見えなくなった。メシアは振り向くのをようやく止めた。


―旅路―


アサ 「メシア、我々は悪魔の森を抜ける。木がありから身を隠せるしな。峠は危険過ぎる。周りがどうなってもメシア…お前はひたすら走れ、わかったな?」

メシア 「そ、そんなッ…」

アサ 「…お前を守る、母さんにそう誓った」

メシアは下を向きひたすら歩いた。



―平和の村エリコ―



村にある林から何か大きな音と共に近付いて来る者にマナサは気づいていた。
マナサは息を切らしやっとの思いで林の前へと辿り着いた。


「ドスンッ! ドスンッ!」

地響きと共に林の中から大きな犬の顔だけがひょこんと出てきた。

マナサ 「ハァ、ハァ、何て、大きな…」

次の瞬間

「バサーッッッ!!!!!!!!!」

一つしかなかった犬の顔の両隣りから同じような犬の顔が飛び出した。

マナサ 「こ、これはッ…」


「グルルルルゥゥ」

三つ頭の巨大犬は三頭ともマナサを見て涎を垂らしながら睨む。

謎の男 「お久しぶりです。マナサさん。」

巨大犬の背中に黒い服を纏った男が居た。


マナサ 「だ、誰なの!?顔くらい見せたらどう?」

謎の男 「おそらく、あなたは私の事など覚えて無いでしょう。あなたは子供でしたので。」
 
謎の男 「このケルベロスを起こすのに時間がかかりましたよ。大きな金色の鎖に繋がれてましてね。マナサさん、あなたの仕業ですかね?」

マナサ 「身に覚えがないわ!!」

マナサは謎の男を睨みつける。

謎の男 「そうですね。冗談ですよ。フフフフフッ。ケルベロスの鎖は大昔の事ですので。」

マナサ 「無駄話をする気はないわ、それに…あなた…生命を感じないわね?顔を隠しているのはそのせいかしら?」


謎の男 「フフッ、フハハハハハッ!!!まだ《力》を使えましたか ! 昔の記憶が無いのは確かな様ですね、マナサ」


謎の男 「本題に入りましょうか…で?貴様の子はどこだ?」

謎の男は急に態度が変わり、ケルベロスは興奮し始めた。


マナサ 「知らないわ。あの子には指一本触れさせない!」

マナサの鋭い形相は誰も目にしたことのないものであった。


謎の男 「無理しない方が?体はボロボロだぞ?言えば生かしてやろう」


マナサ 「お断りよ。私は皆の…盾になります」

するとマナサは胸に手を当て祈り始めた。


謎の男 「フンッ、無力。さぁ餌の時間だケルベロスよ!!!」

ケルベロス「ワオォォォォン!!!!!!」

狼の何倍もある鳴き声で吠えたケルベロスの声は村全体に響き渡った。



第三話 完

第四話 『死は光る魂となる』

―アサと旅人達―


メシア 「父さん!村の方から変な声が…!!まるで狼みたいな!」

アサ「あぁ、ただの野犬だろう…死体でも掘り起こしてるんだろう」

メシア 「でも母さん達がまだ村に…」

アサ「…少し休憩したらまた歩くぞ」

アサはメシアの問いかけには耳を傾けず少し休憩する事にした。

メシア「父さん、次の休憩までモイルおじさんと歩いて良い!?」

アサ 「なぜだ!?」

メシア 「僕が赤ちゃんの時の村の話や母さんの話が聞きたくて…」

アサ「はぁ、しょうがないな。少しだけだぞ。ここはもう死の森に入っている。危険だからなすぐ父さんの所に戻って来い。」

メシア「うん!約束するよ!」


メシアは勢いよくモイルの方へ走り出した。



―エリコの村の林―

マナサvs謎の男

ケルベロスの姿は無く大量の血だけが地面に染み付いている。



謎の男 「ここまでとは…母は偉大なりだな…」

「ポタッ、ポタッ」

謎の男の左腕からは血が垂れている。

マナサ 「ハァ、ハァ、ハァ」

マナサは目を鈍くして謎の男を睨みつける。


謎の男「俺が死んでも、また次が来るぞ…!」

マナサ「なら…またあなたと同じ運命になるでしょう!!」

マナサは謎の男を更に睨みつけ、男に向かって手の平を向けた。


―死の森―


メシア 「ハァ、ハァ、ハァ、」

「ダッダッダッダッ!!」


メシアは一人死の森を駆け下りている。


メシア「クソッ!母さん!待ってて!僕だってもう戦えるさ…!」


―アサと旅人達―

アサ「死の森がこんなに長いとは、噂以上だな。今日はここまでにして火を焚くぞ。なるべく大きな火にしよう」

モイル 「ハァー。歩いた。子供、女には酷だな、なぁアサ!そっちは大丈夫か!?」

少し離れた場所に居るアサへ叫んだ 。アサがモイルの場所へ歩いて来た。


アサ「メシアは?」

モイル「メシア?お前と一緒に居たろ?」

アサ「何?お前と歩くからって居なくなったぞ!?」

モイル「いや!全く見てないぞ!」


アサ「!!くそ!マナサの所に違いない!!あのバカ!直ぐに追う!あとはモイル、頼むぞ!」

モイル「駄目だ!もう日が暮れる!止めるんだ!夜の森は…!」


アサ「わかってる!」


アサは一人薄暗い来た道を戻って行った。

モイル 「アサー!!! …デオよ…彼を守ってくれ…」


―エリコのメシアの家―


メシア「母さん!!!!!!」

「…」

家には誰も居ない

外は野犬が村人の遺体を蝕んでいる。
メシア「母さん!?どこだッ!?ハァ、ハァ」

メシアは林の近くに着くと薄暗い中に倒れている人影を見つける。

メシア 「母…さん?」

恐る恐る顔を覗くメシア

メシア「母さん!!!ま、まだ息がある」

メシアは祈りを捧げ始めた。


翌朝


アサは村へと着いていなく誰も行方を知らないままである。
メシアは母を家まで運び目を覚ますのをひたすら待っている。


―メシアの家―



メシアは何か呟きながらマナサの手を握りうなされている。


メシア 「うッ…うッ」

マナサ「メ…シア?メシア…?」

メシアは飛び起きた

メシア「母さん!大丈夫!?ごめんなさい!僕ッ」

マナサ「良いのよ…もう立派な男の子ね…お父さんは?」

メシア「ごめんなさい…黙って。…言ったら許して貰えないと思って…」


マナサ「悪い子ね…。」

マナサは微笑んで言った。


マナサ「メシア……。これが見える?」

マナサが手を広げると手のひらから小さな白い光の球の様な物が出てきた。

メシア「うん、前にも見た事ある…」
マナサ「これはね…デオ様からの賜物よ…私は魂と呼ぶわ。他の人にわ見えない…」



マナサ「私の…最後の…贈り物よ。その魂はシーよ」

メシア「シー!?これが…」

マナサ「お母さんはね…本当はね…もっともっと…生きたかった…アサとあなたとね、綺麗な川の畔を…歩きたかった…」

マナサの目からはメシアが見たこともないくらいの涙が流れる。


マナサ「ハァ、ハァ、メシア…私の宝…笑って…ちょうだい?」


メシアはボロボロの顔で精一杯の笑顔をマナサに見せる。

メシア「母さん…逝かないでッ。うッ、グスンッ…やだ、やだよ母さん…」


マナサ「ありがとう…あなたは…強い子…私の…」



そう言うと、マナサは静かに目を閉じた。



その顔は生きているかのように微笑んでいた。



メシア「うわぁァァァァ!!!!!!」


家にメシアの叫びが響いた。


第四話 完

第五話 『逃れの地』

―時変わり五年後…―


メシアの母が亡くなってから早五年が経つ。その後メシアの行方を知る者は居ない。平和の村エリコは神話となり、跡地は木片一つ残っていない。
ある者はエリコは存在すると、ある者はそんな場所は存在しないと…。
この五年でallは戦乱の世となり、何万と言う人が死んでいた。

「我こそは王」…そう言う者が絶えず死んで行き、国が治まる事は無く、裏切りと殺しが横行していた。
中でも聖地エル・シャーロムでは支配権を巡り国同士、種族同士がぶつかっている。


―逃れの地シケム―

ここはエリコの北の荒野を越えた〈逃れの町シケム〉。
ここが逃れの町と言われる所以は、罪を犯した者達が親族や法から一時的に逃れ、審判を待つことが出来る数少ない安息の日を送る場所だからである。
治安は悪く事実逃れても殺しは日常茶飯事であり、この町に神なしとも言われる。

そんな地で一人足を踏み入れた青年が一人。
「ザクッ!」っと強く地面を踏み、木でできた門に立ち入る。
「ここが…逃れの町か」
すると離れた場所から男の怒鳴り声がする。「帰った帰ったッ!お前らの泊まる場所はねー!!」
近くの女や男は何やらひそひそ話をしている。
「おい、何かあったのか?」青年が女に訪ねる。
「え、えぇ。あの有名な一家が寝床を探しています…みな呪いを嫌いますので無視をしてます」

「有名な一家?」
「ご存知無いのですか?」
「知らないな」
「有名なレビ族のアロン家です」

女はそう答えた。


「元々は祭司なのですが分家したあのお方達はエクソシストと名乗っています」

「すみません、私はこれで…」

女は足早に去っていった。

目を細めると十人程の集まりで全身黒い服をはおりフードを被っている。
一人は背中に大きな十字架、一人は巨漢である。
「エクソシスト?か。話してみる価値ありだな」
青年は呟き彼らの方へ歩き出した。
町民はアロン家を避けるように皆家々へ戻っている。

近くへ夜と青年は十字架の男へ話しかける。「おい!あんたらはエクソシストって言うのか?」

「なんだ貴様!?人に者を訪ねる時は自分からだろ?」
巨漢の男は青年の胸ぐらを掴んだ。

「そ、そうだな。すまない。俺の名はライス」

「止めろ、ベヒモス、こいつを離してやれ」
十字架を背負った男は青年ライスを掴んでいた巨漢の男ベヒモスに言った。
「悪かったな、ベヒモスは気性があらくてな、お前は俺達に用が?」

「あ、いや、俺は旅してるんだがエクソシストって聞いて興味が…」

「ライスと言ったな?お前みたいな奴にこの仕事は語れんな。去れ。」

十字架の男はライスの隣をするりと去った。他の仲間も男に付いて行った。

ライス「なんだってんだッ、エクソシストは王様気取りか…」


歩き始めたアロン家の一人、ガン・アロンが十字架の男ルーカス・アロンに話しかける。
「なぁルーカス?」
「なんだ、ガン?」

ガン「さっきのライスと言う男…」
ルーカス「何か感じたのか?」
ガン「あぁ確かに見えたが、いつもの悪魔とは違うな」
ルーカス「確かにな、エクソシストにわざわざ自分から来るとはな、奴を見つけろ。地獄に送ってやる!」

一方ライスは町の外れにある丘の方へ登っていた。日も落ち丘を寝床にしようと決めたのだ。
「ここなら風が凌げそうだ」
ライスはちょうど良い岩が窪んだ場所を見つけた。

ルーカス「気持ちよくおねんねか?ライス!」

ライスは驚き後ろを振り向く

「驚かせるな!何だ!?」

ガン「人の鎧を纏って尚且つ言葉を喋るとは、異質だな」

ライス「何ッ!?何言ってる!?」

ルーカス「確かなんだろうなガン?」ガン「あぁ、異質だがあいつの中には生と死の両方がある」

ベヒモス「念のため俺が試そう」

ベヒモスは一人前へ出て祈りを捧げ始めた。

ルーカス「こいつを侮るなよ悪魔。ベヒモスの祈りの継続力は類をみない」
ライス「!?な、何だかわかんないが10対1はきついなッ」

ルーカス【やはり祈りを捧げないか…間違いなく悪魔だな】

ルーカスは心の中で呟く。

ベヒモス「さぁ化けの皮を剥げ!!!獣がッッ!!!」

現場は騒然となる。


第五話 完

THE HOBI~第一章 選ばれし者たちと祈りの力~

THE HOBI~第一章 選ばれし者たちと祈りの力~

聖書や神話をモチーフにした長編小説三部作の第一部「THE HOBE(ザ・ホービー)」。 都市エル・シャーロムを舞台に、主人公メシアの苦悩を描く。 愛や苦をテーマに入れ人の生きる道を描いています。 絶対神デオ(DEO)の力の解明、ソロモンの謎、デオ(DEO)や天使や悪魔は存在するのか。ある戦争を境に話が急展開するアドベンチャーアクションストーリー。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-01-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一話 『all』
  2. 第二話 『平和の村エリコ』
  3. 第三話 『母は盾となる』
  4. 第四話 『死は光る魂となる』
  5. 第五話 『逃れの地』