真実を纏(まと)う蝶

これは漫画原作のためシナリオ形式で書かれています

場所 パトリック高校 校門
皆「おはよー」
朝の校門を通りぬける生徒たち。明るく元気な声で満ちている。
教室に向う女生徒の後ろ姿。周りから声をかけられる。後ろ姿清楚に両側縛った髪型でブレザーだ。
教室に入ると始業前で生徒が談笑している。女生徒は自分のカバンを下した。隣にはなにやらざっくばらんで、足を伸ばした男子が居る。女生徒の名は紋代あげはだ。活発で聡明そうな顔をしている。
あげは「隼、おはよー。」
萱場「……」
あげは「おはよーっ」
大きな声であいさつするも目をつぶって微動だにしない。あげはは呆れた顔をする。萱場の耳のイヤフォンを抜く。
「おはよーってば!」
驚く萱場。
萱場「な、なんだよ!」
あげは「おはよーって言ってるでしょ?それにこういうウォークマン持ち込み禁止でしょ?生活指導に見つかったら没収よ!」
萱場「なに、そんなドジじゃねえよ!他になんか用か?」
あげは「今日の新聞見た!?怪盗ミスター・シーフの予告状について載ってたけど。」
ぐっと乗り出すあげは。たじろぐ萱場。
あげは「大胆にも、美術館の展示物を盗むって話よ。しかも予告状はその絵に貼り付いてたんだって!」
萱場「・・・言うのは勝手だけどさ、何でお前が口はさむんだよ!」
あげは「あたしのお父さん警視庁の盗犯対策班の捜査第三課だったんだから!怪盗『ミスター・チーフ』を追ってたの。幼なじみのあんたは知ってるでしょ?」
萱場「いつも聞かされていたからな。」
あげは「犯罪って許せないよね。人の物盗むなんて!ねえ、あんたはどう思う?」
そう言ったときに、萱場が急にあげはの顔に指を刺した。
あげは「・・・なによ?」
萱場「お前は学生だろ?勉強するもんだろ?志半ばで親父さんは亡くなって気持ちは分からないでもねぇが・・・」
萱場「警察に任せろよ!相手は盗みの代名詞の様な名前がつくぐらい、警察を出し抜く手口だ。」
そう冷めたように言う。あげはは膨れている。
あげは「変に肩持つわね。でも『円山等伯』の美術品しか狙わない、フェチ怪盗でしょでしょ?そんな変な奴、チャンスがあったらとっちめてやるんだから!あんたもそうおもうでしょ?」
萱場「俺は知らねえこった。本人にもそれなりの思いがある・・・事件のことばっかりしつこいなぁ。」
黙ってその場を立ち去る萱場。
あげは「ホント、話を会わせない奴!」
と言いつつ、声をかけてしまうあげはだった。
萱場隼はアゲハのクラスメートでボーイフレンド。切れ長の目で流す髪はどことなく今時のイケメンの二枚目キャラだ。
アゲハ「テストではいっつも上位の成績優秀、部活はバスケ部の主将で、本当はすごい奴なのになぁ。でも校則は破りまくり!」
心情が複雑なアゲハ、萱場の姿が目に浮かぶ。

場所 あげは家の玄関
玄関口にパトカーが止まっている。
あげは「ちょっとー、何?」
訝しげに首を傾ける。ちょうど助手席から中年の男性が下りてきた。あげはは顔を見て
あげは「あら!珍しい人!おじ様!」
男性も気づく
蟻塚「久しぶりだね。あげはちゃん。」
男性は警視庁第三課の蟻塚警部だ。
あげは「警部さん!今日は何のご用?」
蟻塚「君のお父さんの追っていた怪盗『ミスター・シーフ』が予告状出しやがって!」
あげは「それ知ってる!5年ぶりなんでしょ?」
蟻塚「そうなんだよ。君のお父さんが亡くなって、奴もしばらく現れなかったが、この間予告状をターゲットに貼りつけやがったんだ。」
蟻塚は顔は怖くて、言葉は綺麗ではないが、人の良さを感じられる雰囲気だった。そんな蟻塚を慕う
蟻塚「今度、対策本部の部長になったんだ。」
あげは「あ~あ、ごあいさつ?」
蟻塚はにっこりして指をあげはに刺した。
蟻塚「ご明察・・・さすが感がいい。。そういや、あげはちゃんは昔から何か鋭いよな・・・」
蟻塚「親父殿、いや君のお父さんに就任のご報告させてもらいたいんだ。引き継ぎみたいな物だから」
あげは「まずは、上がってください。」
家に上がった。仏壇に手を合わせる蟻塚警部。
あげは「ところで蟻塚さん、本部長でしょ?」
怪訝な蟻塚。
蟻塚「それが?」
あげは「私を加えてください!どうしても父の追っていた怪盗『ミスター・シーフ』を見たいの!」
驚く蟻塚だが、しばらく考え
蟻塚「知っての通り、警察の警備では部外者は捜査で問題になる。しかし・・・」
蟻塚「いいだろう。警備と無関係なオブザーバーとして来てもらうか。断っては君のお父さんに申し訳ない。」
二人をのせたパトカーは現場に向った。

大きな白い邸宅
なぜか大きな鏡に向かう萱場。後ろには衣装が吊られている。
「ふふふ・・・」
鏡をのぞきこみ頬に顔に似合わない華奢な手を添える。
「じっちゃん、あんたの魂、俺が取り戻してくるぜ・・・」
と言って向こうのポスターを見る。「夏の箱根近代美術展」のポスターには「円山等伯特別展示会」の文字が。

箱根風景。芦ノ湖沿いの道路をパトカーがいく。
こじんまりとコテージが点在する静かな山間
蟻塚「もうすぐ、現代アートセンターに着くよ。駐車場から少し歩くけど道に迷う事はないから大丈夫。」
あげは「モダンな雰囲気が感じられる、中に入るの楽しみね。」
駐車場に入って車を降りた二人は豪邸の様な広い庭の玄関にたどり着いた。

場所 現代アートセンター前の庭園
規模は全国屈指の美術館だ。レンガ造り風の壁に大きなガラス屋根が特徴の
現代的な建造物がそびえたっている。
あげは「あっはー、立派な建物ね・・・これなら警備上、安全だと思うけど。」
蟻塚「この美術館から絵を盗めたらミスター・シーフは化け物って言われるなぁ、多分。」
あげは「さっそく中に入って、円山等伯が描いた絵を見てみよう!」
蟻塚「とにかく広い。今日までに描かれた最新の芸術は全てここに集まったと言われているから、将来が期待されていますよ。」
シンメトリーが取りいれられて建築された本館の玄関に向ってゆっくり歩き出す。

場所 現代アートセンター玄関
二人は吹き抜けのエントランスホールに入る、壁は一つのアート作品に仕上がっている。
玄関中央に一人たたずむ男性が居た。年は四十くらいで、眼鏡をかけ落ち着きのある男性だ。スーツをパリッと着る固そうな男性。上を向いて考え事をしているように見える。
こちらに気付いたのか振り向いてきた。
長沢「……、これは刑事さん!」
驚きをつくろいうように話しかけてきた。
蟻塚「警部の蟻塚です。この若い女性はオブザーバーの紋代さんだ。」
場違いなブレザーにじろじろ見る長沢。
長沢「警察にオブザーバーねぇ・・・」
あげは「お手伝いです!」
元気に答えるが、長沢はまだ納得しない顔。
長沢「長沢です。当美術館にようこそ!」
長沢はファイルを幾つも重ねて腕に挟んでいる。目が鋭く堅そうな人。
あげは「なにを考えてたんですか?」
長沢「いや、私は芸術を見るのが好きなんだ。一人で眺めると落ち着ける気がして。」
会話に蟻塚が割り込んで、尋ねる。
蟻塚「そこの君、予告状にあった円山等伯の絵はどこにあるか教えてくれ。」
長沢「ここのニ階にある特別展示室だ。」
二人は礼。
あげは(美術館の人ってこんな感じかしら・・・)

場所 現代アートセンター ニ階特別展示室

広い展示スペースの壁に大小の油絵。そこに二人の警官が立つ絵があった。数本のポールと金色のモールに仕切られたスペースで、絵には「円山等伯」作「湖畔の少女」と説明。湖畔に浮かぶ船から足をおろして涼む少女の絵
じろじろ絵に食い入るあげは
あげは(きれいは分かるけど、私ってセンスないから・・)
いまいち分からず頭をかくあげは。そこへ大柄な人影。驚くあげは。
真田「いい絵でしょ?」
どきどきするあげは
あげは(だれ?この人)
真田「この周辺には美術館が多いのですよ。学生さん?」
あげは「失礼します。高校生探偵の紋代あげはです。」
蟻塚は驚いた顔をする。
蟻塚(高校生探偵?いつの間に?)
真田「ははは、高校生探偵さんですか。それは頼もしい!真田賢治です。現代アートセンターの館長を務めています。」
館長はおおらかそうにふくよかな男性。何か作業していたか、前掛けをしている。
真田「今のところ何も起きませんが、本当にそんな事件を起こすのでしょうか。ドラマじゃあるまいし・・・」
蟻塚「怪盗ミスター・シーフは必ず来ます。いままで予告通りでなかったことはありません。」
真田「という事は、いまだに逮捕できてないと言う事ですか?」
真田はさりげなく聞いただけだが、蟻塚警部は動揺した。
蟻塚「・・・ええ、今のところ・・・」
真田「いや、それでは最初の逮捕になるんでしょう。」
取り繕ったが、二人がきまづくなった。
真田「『夏の箱根近代美術展』の目玉になってます。あしたの展示終了までに盗むと言ってます。」
蟻塚「警察の威信にかけて、奴の犯行を阻止します。」
真田「しかし、変装も得意という事ですね。どうやって盗むのでしょうか。」
蟻塚「分かりませんね。犯行は単純な手口ではない、というとこでしょうか。白昼堂々、われわれの想定外の手口で。」
あげは「おじ様、それじゃ、怪盗を褒めているような・・・。」
あげはの指摘に気付き、せき払いした。
蟻塚「勿論、今回“も”警備は万全でしょう。今回は警官の配置は勿論、上下に赤外線センサーを取り付け、犯行の瞬間を見逃しません。」
と手で示す先に上下にレールが取り付けられていた。これでは手でさえぎった瞬間警報が鳴る。絵とセンサーとの幅は手もはいらない十センチというところだ。
真田「円山等伯は近代美術の巨匠です。文化的な価値ははかり知れません。それを堂々と盗まれるのは耐えられません。刑事さん。どうかあの絵を守ってください。」
蟻塚「もちろんです。」

場所 アトリエ

学芸員の三沢おさむ、同じく学芸員の小浜愛が作業している。
蟻塚「変わったことはありますか。怪盗ミスター・シーフについての情報を探しています。やつは変装が得意です。人物確認をします。あなたは・・・?」
三沢「ああ、今回の事件っスか?ご苦労様っス。」
三沢「学芸員の三沢おさむっス。絵が好きなもので、展示物の取り扱いをしてるっス。」
愛「同じく学芸員の小浜愛ですわ。何かあったら協力しましょう。」
妙に食い付きが良い。三沢は爽やかで裏がなさそうなキャラだ。
二人は絵の修復をしているようだ。
蟻塚「今何をしてるんです?」
三沢「ああ、絵の修復をしているんです。文化財の保存作業も俺たちの仕事っす。地味ッスけど。やけ、ほこり、やぶれ、毎日メンテナンスっす。」
三沢は飽きている感じだが、愛の方は
愛「愚痴が多いのよ。三沢君は。私は絵が生き返るようで楽しい・・・」
蟻塚は愛に感心していたが、隅に並んだキャンバスの数を見て驚いた。
蟻塚「でも、すごい数ですな。目が回りそうだ。これは一月位の仕事ですか」
愛「御冗談でしょ。一週間分ですよ。この美術館の収蔵は七千点です。少ない方ですよ。」
蟻塚はただぽかんとするだけだった。
あげは「ところで、予告状のこと知ってるんですか?」
あげはと事務長の長沢が、いつの間にか作業場に入ってきていた。長沢は紳士という感じの上品な雰囲気がある。ひげを蓄え優しそうなおじさんだ。
長沢「円山等伯の絵に直接貼られていたのだよ。だから、今日だけは館内の雰囲気がピリピリしている。」
長沢「今日は仕事にならんね。」
画を愛でながらぼやく。
三沢「円山等伯の絵は文化的に重要だから、盗まれでもしたら大変っす。」
長沢「その通りだ。その怪盗何とかって、大胆というか。では失礼。我々は特別展示室に向うので宜しく。」
あげは「わたしたちも一緒に行きます。」
蟻塚「まあ、関係者からは情報を聞き出したいからな。話してくれるなら、それでいいんじゃないか?」
愛「実はあたし、円山等伯にはあんまり興味ないんだけど。私の感性にはピピッとこないな。」
愛がだるそうにいうと、いままでニコニコとしていた三沢の表情が変わった。
三沢「それは、おまえの感性が錆びついてるからだよ!」
豹変ぶりに一同注目!三沢もそれに気づく。
三沢「いやだな!それだけ魅力があるってことだよ。」
蟻塚は意外な人間像に気をまわしたのか、退室を催促。
蟻塚「事情はこのへんでおしまいにしよう。皆さん、ご協力ありがとうございました。」
あげはは陰湿な目で三沢を見つめる長沢の目が気になった。
あげは(すごい目だ・・・なんで?)
長沢もあげはの視線に気づく。気まずそうに、
長沢「三沢君!そう言わんと、刑事さんに警備を任せようか。」

場所 現代アートセンター 特別展示室
コノ字の部屋にずらっと絵が並ぶ。入口に「円山等伯特別展」の文字
蟻塚「おぉ、これが円山等伯の絵か。」
あげは「すっごく綺麗です。なんというか少女が涼む姿がすがすがしくて。」
三沢「こいつこそがこの世で最高の芸術っス。」
円山等伯の絵にはポールで囲いがしてあって、警官が二人立っている。八十センチスペースがあり、上下に防犯カーテンのセンサーがある。
あげは「ところで、この美術館の警備はどうなってます?」
急に警察官の一人が自信満々に答えた。
警察官「まさに完璧。まず建物にもセキュリティーが張り巡らされ、代表的な美術館に引けを取りません。赤外線が張ってあるから盗んだ瞬間警報が鳴ります。それに二十四時間警官が交代で警備します。」
あげは(自信満々ね。湖畔の美術館で夜間でも侵入しづらいわね)
説明不足を蟻塚がつけたす。
蟻塚「ということだ。夜間でも隙はない。明日いっぱいこの絵を守らなきゃいけない。」
あげは「でも、夜間とは限らないんでしょ?」
その問いに蟻塚がギクリ。
蟻塚「ははは・・・脅かさないでくれよ。白昼堂々、みんなの前で・・・」
あげは「でも、そんな中盗んでいったわよ、彼。お父さんもそれで悔しがってた。」
たしかに、いろんな仕掛けで警察を煙に巻いていたのは蟻塚も知っている。
蟻塚(まさかな・・・)
一方であげはは、ふと、三沢が居なくなっていることに気付いた。
あげは「ねえ長沢さん、三沢さんが居ませんが大丈夫ですか?」
長沢「壁紙を張り替えたいって言い残して出て行ったよ。昨日だれかに傷付けられてたから修復するんだ。大丈夫すぐ戻る。むこうだ」
指差す場所はかなり奥だ。全く関係ないようだ。
あげは「おじ様、あれって非常口じゃない?」
蟻塚「ああ、そうだ。もちろん、外に警官を一人配置している。」
窓から確認すると中庭の所に確かに立っている。
あげは(壁紙なんて事件終わってからやればいいだろうに。あんな奥じゃあ、ミスター・シーフの仕業ではないだろうけど・・・。)

割って入るかのようにトラブル発生。愛が焦って円山等伯の絵を別の部屋へ隠そうとする。
愛「まったく、大丈夫なわけ?盗られるの分かってこんな場所に置いておけないわ!私が隠すから、渡してちょうだい。」
警官ともみ合いにある。カーテンを遮ってしまった。警報が鳴る。愛を引きとめたのは、普段無口な長沢だった。
長沢「気持ちは分かるが、下手に動かせば余計なことになる。」
長沢は展示物を不用意に動かされることに黙っていられなかったらしい。
愛「それとも何、大人しく怪盗とやらに渡すつもりなの?この絵を隠すほうが安心よ!」
蟻塚「こいつらまともじゃねぇな・・・」
独り言のように言う。
蟻塚「はい、そこ落ち着いて。逮捕することになるぞっ!」
愛「分かったよ刑事さん。止めればいいんでしょ、その代わり盗まれたらあんたの責任だからねッ!」
ふて腐る愛、蟻塚は愛をなだめている。
あげは(気が短いにしては、大げさね・・・)

突然、どこへ行っていたのか壁紙の束を持った三沢が後ろから割り込んできた。
三沢「なんだ?盗られちゃったッすか?・・・ああよかった、無事だったっス。」
愛「のんきに!あんたどこへ行ってたの?」
三沢「俺の仕事っす。準備してたっス。怪盗相手だけが仕事じゃないっす。」
この二人は相性なのか、喧嘩は珍しくないようだ。騒々しい中あげははうろうろ画のまえをうろつく。三沢がポールに触りながら絵の横1メータのところに来た。
三沢「だいたい、こんな広い場所で盗めるわけ・・・」
大きな窓のカーテンの上部より煙が発生。部屋中に充満し始めた。
蟻塚「やつか!警戒しろっ!」
煙で誰が誰か分からなくなる。
蟻塚「絵は・・・画は無事か?」
警官「警報なし!まだ・・・」
混乱はしているが、警官はまだ絵の前を離れない。
「爆弾だ!」
誰かが煙のなか叫ぶ。
愛「爆弾!冗談じゃないわ!」
あげはたちはすぐ絵から離れた。
蟻塚「しかたない!一時退避!」
煙で何も見えない。。
しかし、大きな音が鳴った。「バサッ!」
蟻塚「何だ、今の音は!?」
警報は最後まで鳴らなかった。

やっと煙幕が晴れた。しかし、額縁の絵は無くなっていた。額縁からは裏の壁が見える。
蟻塚「くそっ!やられた!」
警官隊が騒然となった。
蟻塚「奴はキャンバスを抱えている。美術館の出入り口を封鎖!全員の手荷物チェックをしろ!」
代わりに怪盗ミスター・シーフの犯行声明が額縁の上に貼られている!
(我が魂を取り戻した。お疲れ様!)
蟻塚と三沢が驚いた。
蟻塚「やつの犯行声明のカードだ。本物だ!ひとをコケにしやがって!絶対にがすんじゃねぇぞ!」
警官「はっ!」
さすが日本の警察は優秀だ。すでに館内外で捜索を始めている。あげはは冷静に周りを観察する。
あげは(画の周りに変化はないわ。まず愛さんは館長にすがって泣いている。さっきの絵の撤去のための台を持っているわ。館長・真田さんに所持物なし。事務長長沢さんはちょっと離れているわね。ガラス越しに外の警官を見ている。同じく所持物なし。三沢さんは壁紙持ったまま呆然としているわ。・・・)
蟻塚「皆さんそのまま!チェックします!」
長沢「必要ないでしょ。」
蟻塚「しかし、絵を所持しているかもしれない。」
長沢「刑事さんは絵が学生さんの水彩と混同しているようだ。ここの絵はカンバスに描かれた油絵。一瞬で隠せるものじゃない。」
蟻塚「……」
長沢「大きさはF三十号の横です。大きさは七ニ七×九○九です。布が木枠に包み張りされています。そんな大きな物を持っていると思いますか?」
長沢の迫力にたじろぐ蟻塚
蟻塚「絵のことは分かりませんが・・・確かにそんな大きな物を持っているわけはない。しかし、短時間に逃げた人物もいない。あの赤外線カーテンに触らずどうやって?」
あげは「赤外線は無効になっていたんじゃないかしら?赤外線は煙に弱いイメージじゃないの?」
長沢「それは違うよ。赤外線をガリバーの巨人に例えると、煙の粒子は小人だ。あの時、赤外線は有効だった。」
あげは「でも人はくぐれる隙間はないわ。十センチよ。手も入らないわ。それをくぐりぬけたってこと?」
蟻塚「そうなるな。それにこの先は行きどまりで、逃走するなら我々の方に来ないと無理だ。」
あげは「ねぇねぇ、おじ様!それは違うわ。煙は絵の周辺だけだけど、目隠しになるわ。」
蟻塚「目隠し?」
あげは「だって、部屋はコノ字だけど向こう側に非常口があるし・・」
蟻塚「そうだった!非常口を確認しろ!」
行ってみると非常口はあけっぱなしだった。
蟻塚「誰かが逃走したってことか!結局、円山等伯の絵は盗まれたか・・・」
そこへ警官
警官「報告します。この非常口付近、部屋からの逃走経路とおもわれる場所に不審人物は目撃されていません。」
愛「まんまとやられた。一体誰よ、だから隠せって私は言ったのに!」
部屋には困惑が広がっていく。
あげは「でも現実に絵は盗まれている。あの大きな絵が煙のように消えているわ。」
三沢「ミスター・シーフに盗まれて逃げられたことは間違いないっス。」
真田「この件は我が美術館の失態だ。弱ったなぁ・・・」
長沢「人間のすることだ。なにか裏があるはずだ。」
あげは「その通りですね。」
蟻塚「まだ分からないことが多いですが、今からは警察の仕事です。」
勿論捜査権のないあげはは憮然とした。
蟻塚「額縁は壁からはがされた形跡はなし・・・か。」
額縁と赤外線カーテンのスペースにまず警部はぶち当たっている。あんな短時間で重く大きい額縁を取り外し、裏からカンバスを抜きとるしかないのだ。
蟻塚「それに警官が退避するとしても、その後から来た人物はいなかったぞ。」
当時を思い出している。
あげは「指紋をとったら?」
蟻塚「そんなもの、この美術館の人間の指紋でべたべただ。何の参考にもならん・・・それよりこれだ。」
台を持って来させ、カーテン状部の発煙筒を取りだす。
蟻塚「市販のありふれた物だ。あきらかに視界を奪う目的だ。時限の発火装置だ。こりゃ、明らかに計画的だ。誰にでも仕掛けられる物だ。」
あげは「それはあまり参考になりそうにないわね。それより、あのバサッって音なにかしら?」
蟻塚「それが解くカギだな。今のところは分からねぇ。」
三沢「刑事さん、もういいっすか?仕事なんだけど・・・」
忘れてた。現時点、ミスター・シーフ以外の容疑者はいない。
蟻塚「もし何かありましたらお呼びします。」
長沢以外去る。長沢はあげはの隣にいる。あげははぶつぶつ言っている
あげは「何か絶対ある筈よ・・・」
長沢「意外と単純じゃないんですな。絵も秘められたメッセージを込めることがあります。」
あげは「……」
長沢「私はね、この事件で違和感があるのですよ。ずっと前から。」
あげは「?どういうことかしら?」
長沢「・・・そもそもね、この事件は予告状から始まってます。」
あげは「ええ、絵に貼ってあったということでしょ?」
長沢「確かに怪盗・ミスター・シーフの手口で予告するっていうのが変と思うのですよ。予告状も偽物だったらしい。それに盗む獲物に予告状を貼れるぐらいなら、その場で盗んだ方が早いでしょ?何もわざわざ・・・」
あげは「!」
長沢の言いたいことが分かった。
あげは(これでは何かのデモだわ・・・)
あげはに疑問が生まれた。

あげは「まずは現場からね・・・」
といって絵に近づいた。それに気付いた蟻塚が遮る。
蟻塚「悪いがここまでだ。後は我々が・・・」
あげは「職務上分かるけど、手口見えてます?」
蟻塚は部外者を入れるべきではないと思うが、でもまともな事件とも思えない。
蟻塚「鑑識が来ると近寄れんぞ。それまで少しだけだぞ・・・」
あげは「さすが話が分かるーッ!大好き!」
照れる蟻塚。鬼の目に照れ笑い。
あげはと蟻塚は現場の絵の額縁を注意深く観察する。
特にアゲハは正面や横、色々な角度から見て調べていく。
白い手袋でなぞる。白い手袋が何かにひっかかる。
あげは「なにかしら、これ?」
蟻塚「なんだ?」
あげは「ここ・・・」
蟻塚「何かの接着剤かなんかだ・・・」
あげは「ここにもあるわ・・・」
どうやら額縁のガラスの四隅にあるようだ。
あげは「絵はガラスの中よ。こんなところに接着剤なんておかしいわ・・・もしかして・・・」
そして、額縁を調べ終え、周囲のポールに触れようとすると・・・
三沢「そこには触れるなっ!」
怒鳴る三沢。爽やかな性格の三沢にしては違和感のある反応だ。
あげは「・・・えっ!?」
驚いて振り返るアゲハ。
蟻塚「俺が許可している。だいたいここが何だと言うんだ?」
三沢「てっきり、現場を荒らしてるかと・・・失礼しました。」
蟻塚「変な奴だな。まあ、警察でもない人間が触っているのは不審だが・・・」
あげは(でも、あれだけの剣幕になるのはへんねぇ・・・)
あげははポールをよく見た。塗料が一部こすったように禿げている。しかも新しいようだ。あげはは見ていてハッと気付いた。そして少し微笑んだ。
あげは(はーん。そういう事か。見えてきたわ・・・という事は・・・)
振り返り蟻塚を見た
あげは(おじ様には悪いけど私が解決させてもらうわ。)

ぶつぶついいながら三沢が盗まれた絵の額縁の向こうの絵を壁から取り外し始めた。
蟻塚「今から現場検証です。規制線張ります。何を始めるんですか。」
三沢「やだなー。ここは離れているんじゃないんですか?それにこの絵の撤去は事前に決められてます。」
蟻塚「本当ですか?」
事務長の長沢に聞く。
長沢「ええ、別の絵と取り換えるんです。誰かに傷を付けられまして。」
三沢「でしょ?刑事さん。」
長沢に言われると納得するしかない。
蟻塚「現場から離れているのでいいでしょう。でも、ここは封鎖します。回って行ってください。」
三沢「分かったっス。」
壁から外し持っていこうとした瞬間
あげは「ちょっと待って。その中身、見せてよ。」
三沢の手をあげはが押さえる。
三沢「なんですか、あなた・・・何の権限で・・・」
その場の空気が凍る。
蟻塚「この子はただの学生だ。あげはちゃん、引いてくれないか?」
蟻塚はあせった。
あげは「べつに何でもありませんわ。ただこの絵に興味もっただけ。何もないなら見せてくれてもいいんじゃないの?」
三沢「ば、バカ言わんでくれ!何で部外者に見せる必要がある?」
あげはの問いに異常なあわてぶりに今度は蟻塚が変に思った。
蟻塚「今度は俺からの依頼にしよう。拝見させてくれ・・・」
長沢が加勢
長沢「美術品は私が扱おう。どれ、三沢君。渡してくれるね?」
三沢は長沢に絵を渡した。見るとこの絵も大きな絵だった。
額縁を下ろし裏からカンバスを外し、表を見た。
真田「いったい、これは・・・」
愛「表は贋作よ。しかも・・・」
長沢「下のカンバスは盗まれた円山等伯画伯の『湖畔の少女』!」
蟻塚が驚いた。三沢は露骨に震える。
蟻塚「君は知っていたのか!」
長沢「そうか、絵の大きさか。」
真田「縦と横の違いだが、額縁は同じF三十形だ。大きさが同じだから利用したわけか。」
愛「三沢君が怪盗・ミスター・シーフなわけ?」
いきなりの展開に騒然とした。
あげは「おそらく違うと思う・・・」
真田「君はこの事件分かっているようだな。説明してくれ。」
あげは「真実が殻をわり現れます。」
蝶がさなぎから出てくるようになぞ解きが始まる。

あげは「三沢さんは本物です。怪盗・ミスター・シーフの変装ではありません。」
真田「では、なぜ、学術員である彼がこんなことを・・・」
あげは「この絵に対するかれの異様な執着心ですわ。愛さんとのケンカを思い出して下さい。」
愛「そういえばあんた異様に入れ込んでたわね!」
三沢「俺はただ言われた絵を運んだにすぎねぇ。たまたまだ。命令した人物かも知れないじゃないか!それによ、だからって俺が犯人とは飛躍しすぎじゃねぇか?」
三沢に今までの爽やかさはなかった。
三沢「では、俺がことを大きくして、警察まで巻き込んで何で盗みやったのか説明しろよ。」
あげは「それは証人を作るため・・・」
三沢「何いってんだ?証人とは誰のことだ。」
あげは「警察よ。」
愛「ああ、そうか。この犯行を怪盗・ミスターシーフに仕立てるのよね。」
長沢「だから、警察を呼んだんだ。怪盗・ミスター・シーフの犯行なら、その後、追跡されるわけないからな。」
三沢「俺という事にならねぇよ。」
あげは「現場に残された犯行の形跡が犯人を示しています。今からここでそれを証明します。あそこがよいでしょう。」
ちょうど絵の掛かってないスペースを指差した。
長沢「なにか必要な物はあるかね。」
あげは「そうですね。大きさの同じ額縁と、アクリル板、それと額に入る二個のカンバスと大きさの同じ絵が欲しいです。それから、両面テープとナイロン線、丸めたポスター数本が欲しいですわ。」
長沢「最後のポスターは何かね?」
あげは「壁紙のかわりです。」
この「壁紙」に三沢は大きく動揺する。
長沢「用意しよう。」
開いている二か所に材料が集められた。
あげは「事件再現をやりやすくするため、小さな額縁にしましたが、同じ大きさの物です。盗まれた円山等伯の「湖畔の少女」をAの額縁、替わりの額縁をBとします。まずは額縁を再現します。」
といってあげはBに「湖畔の少女」としたカンバスAをいれる。
愛「ちょっとー。いきなり間違えてんじゃない。それはAにはいるんでしょ?」
真田「いや、この通りだ。実際Bから出てきている。」
あげは「Bに『湖畔の少女』に贋作を挟みライナー、面材と挟み、額縁を載せます。これでBは良かったですね。」
蟻塚「ああ、この通りだった。」
あげは「それではAに移ります。」
と言ったがいきなり裏のふたをして、トンボで抑えてしまった。
真田「おかしいじゃないか。それでは何も入ってなかったことになる。」
あげは「そうですよ・・・」
他の指摘に知らん顔だ。そしてひっくり返す。
あげは「私が額縁Aで見つけた粘着剤の正体がこれです。」
と言って両面テープを取りだした。それを4つに切ってAの隅に貼った。
もう一方の保護紙をはがし、
あげは「これを『湖畔の少女』の贋作とします。」
と言ってタイトルの書いた白紙を取りだした。
あげは「絵を載せる前にこれも貼らないといけません。」
貼る前に輪にした二枚のナイロン線を用意していた。まず贋作にアクリル板を取り付け、絵を通すようにナイロン線の輪に入れた。そしてテープで止めた。
あげは「ここで初めて絵を載せます。」
愛「いや、そんな・・・」
あげははガラスの外側に張り付けた。
真田「なんてことだ。外側に貼ってあったのか。」
長沢「俺たち気付かなかったのか・・・」
あげは「直接は確認できないし、展示は離れて見ることになりました。それにそれだけ贋作が見抜けないレベルだったってことよ・・・」
と言ってナイロン線を垂らして額縁Aを縦に掛けた。
あげは「Bももちろん掛けます。」
こんどはBの額縁を隣に横向きに掛ける。
真田「確かにこんな感じだ。驚いたな。大きさが一緒でも向きで印象が違う物だ。」
あげは「垂らしたナイロンをこう目立たないようにポールに結びます。」
蟻塚「しかしなぁ、そんなの分かるだろ?」
あげは「そうかしら?この部屋は現代美術と言うだけあって、けっこうシックなへやでしょ?」
部屋全体の壁紙は黒っぽく、照明は少し暗くスポットが当たっている。
あげは「では、お待たせしました。再現します。」
と言って丸めたポスターを抱え、登場した。
愛「ああ、三沢君のかっこうだ。」
あげは「偽物の絵が入ってた額縁の周りにはポールがあって、何かを巻いた跡があったの。それと犯行当時、煙幕の中で何かが抜き出されたような音がした。」
あげは「バサッという音が絵を抜きだしたときの音だとすれば、三沢さんは煙幕の中で横から抜き取ったんでしょうね。このように!」
蟻塚「確かにそんな音だった・・・」
蟻塚「ああ、真横に。これなら赤外線に触れないわけだ!」
引っ張り盗ったアクリル板と「湖畔の少女」を丸めて
あげは「あとはこのように丸めて他の壁紙に紛れ込ませたの。」
一同あっけにとられた
三沢「そんな子供だまし、警官がガードしたら終わりじゃないかよ。」
あげは「だからあなたは更に爆弾があると叫んだ。全くの嘘でも私たちを現場から離れることになったわね。」
暫く押し黙る三沢、やがて逆切れして答える。
三沢「俺がやったと自信があるなら見せてみろ!」
一同黙りこくった。状況的に誰もが行えるトリックだ。
三沢「それみろ!たしかに壁紙はおれしか持ってなかった。でも状況的に、だ。証拠は何だ?だいたい抜き取った絵はどこだ?おれは作業後、何も持ってなかったぞ!」
あげは「三沢さん、まだいいはるの?いいわ、証拠見せてあげる。」
と言って壁紙を交換した場所に向った。三沢は押し黙った。と言うより核心に迫られおびえたようだ。
あげは「あなたが壁紙を張っているところを見ましたよ。犯行当時もっていた、あの壁紙をね。」
近くの壁に手を置いたアゲハ。出っ張ったところを指でなぞって言う。
あげは「ここ出っ張ってますね。ここに隠したんじゃありませんか?」
真田「いいよ、はがして・・・」
もう皆が分かっていた。壁紙をひきはがす。確かにある、円山等伯の贋作が。ポスターのように一枚絵になった物だ。
あげは「あなたは、丸めた壁紙の束に円山等伯の絵を紛れ込ませてこっそり隠した。そしてここに壁紙の奥に貼りこんだ。なによりの証拠じゃないかしら?」
三沢「俺は怪盗なんかじゃない。何もやってないんだ!」
あげは「本物の怪盗の仕業なら展示物に予告状なんて貼らないでしょうね。そもそも絵に触れるのは学芸員とか限られたスタッフしかいないの。」
あげは「これら一連の動きは、犯行当時に絵の傍らにいたあなたにしかできないトリックだわ。違いますか、三沢さん?」
みるみる顔色が変わっていく三沢
あげは「それに一連の贋作はあなたが描いたのでしょ?これだけの腕がありながら・・・」
三沢「ここまでばれたらしょうがない・・・俺がやったんだ・・・全て事実だよ。」
あげは「動機は今までの発言から円山等伯の絵に深く執着していたから、でしょうね。」
あげは「三沢さんはあの絵を最高の芸術といってたそうだけど、あなた自身が絵に一目惚れしてしまって、恋しくなったんじゃないかしら。でも、その思いが歪んだんじゃないのかしら?」
立ち上がる三沢、誇らしげに大きく手を広げて叫び出した。
三沢「俺は円山等伯の画風が好きだったし、この美術館で最初に好きになったのもあの絵だった。」
三沢「心を奪われたように俺は、怪盗の名を語って盗みだそうと考えた・・・」
三沢「抱きしめたいな!この思い、まさしく愛だ!!」
蟻塚「なにも盗まなくてもよかっただろう?おかげで事件にまで発展した。」
三沢「俺の恋は誰にも分かるまい、俺はずっとそばにいたかったんだよ、あいつのそばに!そこで怪盗・ミスター・シーフってのがこの円山等伯の絵ばかり盗んでいることを聞いた。ちょうどいいと思った。」
あげは「おなじ絵に魂を奪われた恋敵に罪をなすりようとしたのね」
三沢「へへへ、何でも分かるんだ。計算外だったな。」
あげは「絵の中の人物に恋することもあるわ。それで犯罪に手を染めてもおかしくないかも。」
あげは「でも人に罪をなすりつけるのは、人間として最低じゃないのかしら。絵の少女もそうおもっているんじゃない?」
がっくりくる三沢
真田「おかげでこっちは損害が出そうだ。本来なら無事、展示会が開催できたのに。」
三沢「残念だよ、俺の愛は叶わなかったぜ。」
手錠を三沢の手に掛ける蟻塚。
蟻塚「お前を威力業務妨害および窃盗未遂の現行犯で逮捕する!」
あげは「結局、あなたの片思いに終わったようね。」
三人の後ろから近づき話しかけてくる愛。
愛「ねぇさっき、呼ばれたような気がしたんだけど。」
あげは「三沢さんのセリフよ。そんなに愛が私は安っぽい物とは思わない。今のは気のせいですよ。」
愛「あなたすごいね。学生さんなのに。なかなかの手際だったわ。それにしても私を疑ったことある?」
あげは「小浜さんの行動に事件性はなかったから大丈夫。」
蟻塚「これで一件落着ですな。犯人逮捕はお手柄でしたよ、探偵さん。」

事件は一見落着した。蟻塚が被疑者を所轄の警察署に送ると言うので、しばらくあげはは美術館で過ごすことになった。そのあげはに近づく者が。
長沢「玄人の手並みでしたな。さすが血を引き継いでいるようだ。」
あげは「ふふふ・・・なんか変と思った。いないわけがなかったのよ」
長沢「ほう、何のことですかな。」
長沢とあげはは今日あったばかりの筈だ。
あげは「あなた言ったわね、『予告状は偽物だった』と。そして犯行が行われおじさまは犯行声明のカードは本物と言ったわ。三沢さんも驚いたんじゃないかしら。」
長沢の表情はかわらない
あげは「だって本物が現れたんでしょ?あなたは偽物が犯行予告しているのを新聞で知り犯行を邪魔した。だって自分が盗むんでしょ」
長沢「ご名答。さすがですね。」
あげは「もちろん私はあなたの正体知ってましたよ。だって、あんなこと言うのは、真犯人が怪盗・ミスター・シーフではないと知っている者、つまり本人ですわ。」
長沢のそばに何人もの警官が居ることを知った。
長沢「ははは、抜け目ないとこは親父殿そっくりだ。でも私もこの展開読んでました。さあ、私も仕事が終わったので帰りましょうか。」
あげは「ええっ!何ですって!」
長沢「じつはね。三沢君はもう一本発煙筒用意してましてね。」
発煙筒を炊く。
あげは「すぐ取り押さえて!」
叫んだが煙が晴れると本物の怪盗・ミスター・シーフは消えていた。
蟻塚「なるほど・・・奴は本物ですな。」
といって現場検証中の現場から「湖畔の少女」が消えていた。
あげはは悔しくい思ってもなぜか変な思いが残っていた。
あげは「今日初めての筈なのに、何か知っていた気がするのは何故?」


場所 パトリック高校 教室
事件解決の翌日、パトリック高校で萱場と再会することになったアゲハ。
昨日の疲れがあって少しだるい。
あげは「怪盗ミスター・シーフはなんで人にまず盗ませたのかしら?だってあの人なら人に出し抜かれることもないんじゃない?」
萱場「あっそう、じっちゃんのファンの手並みを拝見したんじゃないの?」
あげは「あんた何いってんの?」
萱場「きょ、今日の新聞に書いてあった・・・それ以外の何でもない。」
誇らしくほほ笑むアゲハ。
あげは「えっへん、事件はわたしが解決したの。すごいでしょー?」
腕を頭に組んで聞き流す萱場が言った。
萱場「バーロー、怪盗の正体も分からんくせによく言うなぁ。」
あげは「今回は解けなかっただけ、次からは絶対暴いて見せるから!」
目を光らせて叫ぶあげは。
萱場「暇人だな、俺はこれ以上付き合わんから。じゃあな。」
あげは「ちょっと、たまには話全部聞いてよ!結構頑張ったんだから。」
萱場はいろいろ意味不明な言葉を言い残して去ったが、アゲハはそれを素直に受け取った。
あげは(変な奴・・・ボケちゃったかしら。)

真実を纏(まと)う蝶

真実を纏(まと)う蝶

中学生漫画家・藤居義将の推理物処女作です。荒筋です。日本画家・円山等伯の作品ばかり盗む怪盗「ミスター・シーフ」から警視庁第三課に予告状が届いた。捜査員・蟻塚警部は、元同僚で「ミスターシーフ」担当で亡くなった紋代警部の墓前に報告に紋代家を訪れる。そこのむすめ、紋代アゲハと再会する。彼女は正義感が強く女子高生探偵だった。盗まれた「湖畔の少女」の行方を追う。

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-10-15

Copyrighted
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